蓄電池
【課題】体積効率を大きく減少させることなく、正極格子の伸びに起因する内部短絡を防ぐ蓄電池を提供する。
【解決手段】第1の端部と第2の端部とを有する板状正極板であって、第1の端部側に極板耳を持つものと、クラを有さない電槽とを備えた蓄電池において、前記電槽の前記第2の端部側底部に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池。
【解決手段】第1の端部と第2の端部とを有する板状正極板であって、第1の端部側に極板耳を持つものと、クラを有さない電槽とを備えた蓄電池において、前記電槽の前記第2の端部側底部に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蓄電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、自動車用の鉛蓄電池は鉛蓄電池市場において最も多くの個数が市場に出回っている。そのため、自動車用の鉛蓄電池にはその性能の他に価格が安いということも市場占有率を上げるための大きな要素になっている。このような理由から自動車用の鉛蓄電池においては、価格の高いメンテナンスフリーの制御弁式が採用されることが少なく、一般大衆車に使用される蓄電池のほとんどはメンテナンスを必要とする開放型(液式)が採用されている。
【0003】
このような開放型の鉛蓄電池においては、図6に示すようなクラ11を備えた電槽10を使用する場合があった。このクラ11の役割は、電槽10の底部と極板(正極板)12の下部との間に空間13を設けることにある。この空間13を設けることによって、集電体に保持された活物質が脱落しても、その脱落した活物質は空間13に蓄積され、対向する正負の極板12の両方に接触して短絡しないようにしていた。図6において15は正極板極板耳であり、16は第1の端部、17は第2の端部を示す。なお、クラ11は図6に示したように、極板12の幅方向(図面左右方向)に対して直角方向(図面の前後方向)に設けられるのが通常である。
【0004】
開放型の鉛蓄電池はその内部に遊離の電解液を有しており、当然前述の空間13にも電解液が満たされている。しかし、周知の通り空間13に満たされた電解液は極板間に存在する電解液に比べて充放電の電極反応に対する寄与率が小さく、開放型の鉛蓄電池にとって余剰のスペースであると同時に鉛蓄電池における重量増加の要因の1つであった。
【0005】
このような問題を解決するために、図6に示したクラ11によってつくられる空間13をできるだけ少なくしようとした実開昭56−127672号公報に記載の方法が提案されている。図7〜図9に前記公報に記載された構成を示す。なお、符号についてはすべて図6R>6に示したものと同じものには同じ符号を附した。この図7〜図9に記載された方法によって、図6のクラ11によってつくられる空間13の体積を50%減少させることができた(図10に体積減少量を模式的に示す)。
【0006】
前述のようにクラ11がつくる空間13を必要とする場合は、実開昭56−127672号公報に記載のように、活物質の脱落によって極板12の下部で短絡が生じる可能性がある場合、すなわちリーフセパレータと称する板状のセパレータを使用する場合であった。
【0007】
実開昭56−127672号公報にも記載のようにリーフセパレータにかえてエンベロープセパレータと称する袋状に加工したセパレータ(通常はリーフセパレータを2つ折りにしてから、封止されていない対向する2辺を封止してつくる)に極板を挿入する構成にすると、活物質が脱落しても、その活物質はエンベロープセパレータの内部に蓄積されて異なる極性の極板と接触することがなくなって下部短絡を防止することができる。このような場合電槽10にクラ11を設ける必要がなくなり、クラ11のつくる空間13も不要となるので鉛蓄電池の体積を減少させることができる。
【0008】
またエンベロープセパレータのかわりにU字セパレータと称するリーフセパレータを2つ折りにして極板12を挟む方式のセパレータでも、エンベロープセパレータに比べて若干劣るものの下部短絡の防止には充分な効果が認められる。
【0009】
但し実開昭56−127672号公報にも記載のように、エンベロープセパレータやU字セパレータを使用するとリーフセパレータを使用する場合よりも板状の極板12を積層する工程が煩雑になり、製造コストが高くなるが、現在の技術では実開昭56−127672号公報出願当時に比べて製造装置が発達し、この製造コストの増加は現在ではあまり大きな問題とはならない。
【0010】
上述のような理由から、現在の自動車用の鉛蓄電池はクラ11を設けない電槽を使用して極板12の電槽10への収納効率を高め、鉛蓄電池自体の体積効率をよくする一方、下部短絡の防止のためにエンベロープセパレータやU字セパレータを使用することが主流である。
【0011】
一方、鉛蓄電池のさらなるコストダウンに対する要求に応えるため、現在ではバッチ式以外では製造が困難である鋳造による集電体(格子)に換えて、エキスパンド格子と称される、鉛または鉛合金製シートを機械加工して製造する集電体(格子)が主流になっている。これらエキスパンド格子は連続生産が可能であり、製造コストを大幅に下げることができる。図11(A)に鋳造格子の例を、図11(B)にエキスパンド格子の例を示す。図1111から明らかにわかるように、(A)の鋳造格子には極板耳24を備えた上額21(斜線部)と下額22(斜線部)とを連結する縦桟23(斜線部)が存在するのに対し、(B)のエキスパンド格子では極板耳24を備えた上額21(斜線部)と下額22(斜線部)とを連結する縦桟23(斜線部)が存在しない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
このようなエキスパンド格子を使用し、クラを設けない電槽を使用した場合には下部短絡以外の別の問題が発生することが明らかになった。それは鉛蓄電池の過充電による腐食に起因するエキスパンド格子の伸びである。通常鉛蓄電池は、放電状態のまま放置されると負極活物質の放電生成物である硫酸鉛が極板の表面に偏在するようになり、充電してもその偏在した硫酸鉛が金属鉛に戻りにくくなるサルフェーションという現象が生じるので、鉛蓄電池の充電は放電電気量に対して数%〜数10%程度余分に充電されることが通常である。余分に充電された電気量は電解液に含まれる水の電気分解や正極格子の腐食に消費される。正極格子は通常鉛合金からなり、鉛合金中の鉛が腐食(Pb→PbO2)すると体積が膨張する。この体積の膨張によって正極格子が伸びるのである。
【0013】
鉛蓄電池内での正極格子の伸びの状態を図12に模式的に示す。図12(A)は鉛蓄電池内の極板12の状態を示したもので、鉛蓄電池内の極板12はその底部が電槽10の底部と接触し、極板12の極板耳24はストラップ25で同極性の極板耳24同士が一体化される。ストラップ25にはポール26が設けられポール26は蓋14と接触している。このように正極格子はその底部と極板耳部とが鉛蓄電池内部で固定されている。この状態で正極格子が伸びると、鋳造格子では縦桟23が存在するために図12(B)に示すように全体に丸くなるように正極格子が変形するのに対し、エキスパンド格子は縦桟23が存在しないために図12(C)に示すように正極板の極板耳24のない側だけが伸びることになる。
【0014】
図12(C)に示すように正極格子が伸びた場合、伸びた方向には異極性である負極ストラップが存在するため、正極格子と負極ストラップとが接触して内部短絡を引き起こす場合がある。内部短絡は鉛蓄電池を寿命に至らしめるばかりでなく、短絡時のスパークが発火源となり、鉛蓄電池内部に存在する水の電気分解に起因する水素ガスを着火させる場合がある。この現象は非常に危険な減少であるためなんとしても防がねばならないことの1つである。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、体積効率に優れたクラを備えない電槽を使用した板状極板を備えた蓄電池において、体積効率を大きく減少させることなく、正極格子の伸びに起因する内部短絡を防ぐ蓄電池を提供するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためになした発明は、第1の端部と第2の端部とを有する板状正極板であって、第1の端部側に極板耳を持つものと、クラを有さない電槽とを備えた蓄電池において、前記電槽の前記第2の端部側底部に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例を図1に示す。本発明の特徴はクラ11を備えない電槽10を使用し、板状の極板(正極板)12を備えた蓄電池において、電槽10はその内側の板状正極板12の第2の端部17側に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池である。このようにすると正極板が腐食によって伸びた場合、図12(C)に示したように上側一方向に伸びず、図2に示すように正極格子が下側にも伸びることができるようになるため内部短絡が生じにくくなる。
【0018】
図1においては電槽の一方(正極板12の第2の端部17側)にのみに空間13をつくるための凹部が設けられているが、両側に凹部を設けることによって設置時に斜めにならず、蓄電池の安定性がます一方、正負極板とセパレータとからなる極板群を電槽10に挿入するときの指向性をなくすことができるので、製造上のミスを防止できる利点がある。この他、両側に凹部を設けてからその一方の凹部に電解液よりも比重の小さな樹脂等を固着させると重量効率を向上させることもできるし、凹部を設けるのは電槽の一方のみとし、他方には凹部を設けずに蓄電池が斜めにならないよう底部に突起を設けることもできる。しかし、上記利点以上に体積効率を重視する場合には図1に示すように凹部は電槽の一方の側(正極板12の第2の端部17側)にのみ設けておけばよい。
【0019】
この電槽の材質等は従来の蓄電池に使用されるものをそのまま使用すればよく、鉛蓄電池においてはポリプロピリンやABSが一般に使用される。さらに電槽底部に凹部を設ける以外は従来の構成と同様でよい。
【0020】
次にこの凹部を設ける領域ついて検討した結果を述べる。図3(A)は図1と同じ図であり、図3(B)は図3(A)の円で囲った部分を拡大した図である。正極板12の上方への伸びを防止するためには、正極板12の極板耳15のない側の第2の端部17を電槽10の底部に接するようにすると上方への伸びを防止することができないので、正極板12の第2の端部17は凹部がつくる空間13上に存在する必要がある。その一方、実開昭56−127672号公報ですでにクラによって形成される空間の50%を削減する方法が開示されているため、少なくとも空間の削減率は50%を上回らないと優れた効果があるとはいえない。従って、電槽の両側に凹部を設ける場合があることを考慮に入れると、凹部の幅は、図4に示すように極板の幅方向に対して50〜100(電槽の両側に凹部を設ける場合は0〜25と75〜100)の部分とすることで空間の削減率が50%となる。但し、凹部の幅を90〜100というように空間の削減率を90%以上にすると格子の上方への伸びを抑制する効果が認められなかった。
【0021】
図5(A)〜(D)に、本発明の別の実施例を示す。図5では電槽の両側に凹部を設けているが、前述の通り、少なくとも正極板12の第2の端部17側に凹部を設ければ本願発明の要件を満たす。図5(A)〜(D)における電槽の下に描いた11本の縦線は、極板幅を10等分したときの目盛り線である。この他にも同様の構成が多数考えられ、本発明の実施例は図1、図5に記載の例に限定されるものではない。
【0022】
次にこの凹部の深さについて検討した結果を述べる。後述の実施例に示す通り、凹部の深さを、極板耳を除く極板高さの2/115未満とすると格子の上方への伸びを抑制する効果が認められなかった。また、凹部の深さを、極板耳を除く極板高さの8/115以上とすると通常クラを設けた電槽と同様となるために体積削減の効果が少なくなる一方、8/115以上としても8/115のときと同様の効果しか認められなかった。
【0023】
【実施例】
(1)実施例1
本発明に使用した格子は厚さ1.0mmの鉛―0.06wt%カルシウム―1.3wt%錫合金製シートを、ロータリ式エキスパンド加工装置(シートに切れ目を入れると同時に、その切れ目によって生じた部分をシートの表裏方向に変形させる第1の工程と、第1の工程を終了したシートを切れ目に対してほぼ垂直方向に展開する第2の工程とによってエキスパンド加工を実施する装置)に通してエキスパンド加工を実施し、シート上下方向の非切れ目部を所定の形状に切断してエキスパンド格子とした。極板耳を除くエキスパンド格子の高さは115mm、幅は101mmである。エキスパンド格子のマス目は高さ方向に13.5マス、マス目の幅は10mmである。極板耳は幅9mm、高さ24mmであり、極板耳の中心は極板の中心から19mm離れた位置に配した。
【0024】
このエキスパンド格子に、所定量の鉛粉と所定量の鉛丹とを混合し、所定量の水で混練後、混練しながら徐々に所定比重の硫酸を所定量滴下して得た正極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥工程を経て正極板とした。同様にこのエキスパンド格子に、所定量の鉛粉と所定量のカーボンブラック、リグニンスルホン酸ナトリウム、硫酸バリウムを混合し、所定量の水で混練後、混練しながら徐々に所定比重の硫酸を所定量滴下して得た負極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥工程を経て負極板とした。
【0025】
厚さ1.1mmの微多孔性ポリエチレン製セパレータを2つ折りしたものに上述の正極板を挟んだもの6枚と負極板7枚とを積層し、同極性の極板耳をストラップで一体化して極板群を構成した。この極板群をJISで規定する46B24型電池の電槽に挿入後、蓋の溶着、端子部の封口、電解液の注液、電槽化成、液口栓の取り付けをおこなって完備電池(36Ah/5hR−12V)とした。
【0026】
このとき電槽は特別に成型したものを数種類用意し、電槽内部の極板幅方向末端から25mmの幅で凹部を有するものを使用した。これらの電池を40℃水槽中で4.5Aで110時間充電した後に、40℃水槽中で150Aで放電して30秒目の放電電圧を調査した。この放電電圧が7.2V未満になった時点を寿命と判定した。表1に電槽内部の凹部の深さと上記試験で寿命と判定されるまでの試験回数を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように凹部の深さが2mm未満の場合には寿命が長くなるという効果は認められなかったが、凹部の深さが2mm以上8mmまでは深くなるほど寿命が長くなる傾向があり、8mmを上回ると寿命延長の効果に顕著性は認められなくなった。
【0029】
なお、本実施例では1種類の極板についてしか論じていないが、極板の伸び率は極板の高さを変えても変化しないので、極板耳を除く極板高さに対する凹部の深さの最適値は2/115〜8/115になる。
【0030】
(2)実施例2
実施例1に示した完備電池と同様のものを使用し、実施例1と同様の試験に供した。このとき電槽下部の凹部の深さは6mmに固定し、凹部の幅を各種変更した電槽を使用した。表2に電槽内部の凹部の幅と上記試験で寿命と判定されるまでの試験回数を示す。但しここでの凹部の幅は図4のように極板幅を仮想100等分したときのどの部分に凹部を設けたかで示している。
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように表2の3〜5で示される凹部の幅で寿命性能の向上が認められ、6〜8は5と同様の結果であった。
【0033】
【発明の効果】
本発明により、体積効率に優れたクラを備えない電槽を使用した板状極板を備えた蓄電池において、体積効率を大きく減少させることなく、正極格子の伸びに起因する内部短絡を防ぐ蓄電池を提供することができる。
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例
【図2】本発明を使用したときの格子の伸びの様子
【図3】本発明の実施例
【図4】凹部の幅を規定するための図
【図5】本発明の実施例
【図6】従来例
【図7】従来例
【図8】従来例
【図9】従来例
【図10】従来例のクラ部の体積減少率
【図11】鋳造格子とエキスパンド格子
【図12】格子の伸びを示す図
【符号の説明】
10 電槽
11 クラ
12 極板
13 クラのつくる空間
14 蓋
15 極板耳
16 第1の端部
17 第2の端部
21 上額
22 下額
23 縦桟
24 極板耳
25 ストラップ
26 極柱
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蓄電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、自動車用の鉛蓄電池は鉛蓄電池市場において最も多くの個数が市場に出回っている。そのため、自動車用の鉛蓄電池にはその性能の他に価格が安いということも市場占有率を上げるための大きな要素になっている。このような理由から自動車用の鉛蓄電池においては、価格の高いメンテナンスフリーの制御弁式が採用されることが少なく、一般大衆車に使用される蓄電池のほとんどはメンテナンスを必要とする開放型(液式)が採用されている。
【0003】
このような開放型の鉛蓄電池においては、図6に示すようなクラ11を備えた電槽10を使用する場合があった。このクラ11の役割は、電槽10の底部と極板(正極板)12の下部との間に空間13を設けることにある。この空間13を設けることによって、集電体に保持された活物質が脱落しても、その脱落した活物質は空間13に蓄積され、対向する正負の極板12の両方に接触して短絡しないようにしていた。図6において15は正極板極板耳であり、16は第1の端部、17は第2の端部を示す。なお、クラ11は図6に示したように、極板12の幅方向(図面左右方向)に対して直角方向(図面の前後方向)に設けられるのが通常である。
【0004】
開放型の鉛蓄電池はその内部に遊離の電解液を有しており、当然前述の空間13にも電解液が満たされている。しかし、周知の通り空間13に満たされた電解液は極板間に存在する電解液に比べて充放電の電極反応に対する寄与率が小さく、開放型の鉛蓄電池にとって余剰のスペースであると同時に鉛蓄電池における重量増加の要因の1つであった。
【0005】
このような問題を解決するために、図6に示したクラ11によってつくられる空間13をできるだけ少なくしようとした実開昭56−127672号公報に記載の方法が提案されている。図7〜図9に前記公報に記載された構成を示す。なお、符号についてはすべて図6R>6に示したものと同じものには同じ符号を附した。この図7〜図9に記載された方法によって、図6のクラ11によってつくられる空間13の体積を50%減少させることができた(図10に体積減少量を模式的に示す)。
【0006】
前述のようにクラ11がつくる空間13を必要とする場合は、実開昭56−127672号公報に記載のように、活物質の脱落によって極板12の下部で短絡が生じる可能性がある場合、すなわちリーフセパレータと称する板状のセパレータを使用する場合であった。
【0007】
実開昭56−127672号公報にも記載のようにリーフセパレータにかえてエンベロープセパレータと称する袋状に加工したセパレータ(通常はリーフセパレータを2つ折りにしてから、封止されていない対向する2辺を封止してつくる)に極板を挿入する構成にすると、活物質が脱落しても、その活物質はエンベロープセパレータの内部に蓄積されて異なる極性の極板と接触することがなくなって下部短絡を防止することができる。このような場合電槽10にクラ11を設ける必要がなくなり、クラ11のつくる空間13も不要となるので鉛蓄電池の体積を減少させることができる。
【0008】
またエンベロープセパレータのかわりにU字セパレータと称するリーフセパレータを2つ折りにして極板12を挟む方式のセパレータでも、エンベロープセパレータに比べて若干劣るものの下部短絡の防止には充分な効果が認められる。
【0009】
但し実開昭56−127672号公報にも記載のように、エンベロープセパレータやU字セパレータを使用するとリーフセパレータを使用する場合よりも板状の極板12を積層する工程が煩雑になり、製造コストが高くなるが、現在の技術では実開昭56−127672号公報出願当時に比べて製造装置が発達し、この製造コストの増加は現在ではあまり大きな問題とはならない。
【0010】
上述のような理由から、現在の自動車用の鉛蓄電池はクラ11を設けない電槽を使用して極板12の電槽10への収納効率を高め、鉛蓄電池自体の体積効率をよくする一方、下部短絡の防止のためにエンベロープセパレータやU字セパレータを使用することが主流である。
【0011】
一方、鉛蓄電池のさらなるコストダウンに対する要求に応えるため、現在ではバッチ式以外では製造が困難である鋳造による集電体(格子)に換えて、エキスパンド格子と称される、鉛または鉛合金製シートを機械加工して製造する集電体(格子)が主流になっている。これらエキスパンド格子は連続生産が可能であり、製造コストを大幅に下げることができる。図11(A)に鋳造格子の例を、図11(B)にエキスパンド格子の例を示す。図1111から明らかにわかるように、(A)の鋳造格子には極板耳24を備えた上額21(斜線部)と下額22(斜線部)とを連結する縦桟23(斜線部)が存在するのに対し、(B)のエキスパンド格子では極板耳24を備えた上額21(斜線部)と下額22(斜線部)とを連結する縦桟23(斜線部)が存在しない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
このようなエキスパンド格子を使用し、クラを設けない電槽を使用した場合には下部短絡以外の別の問題が発生することが明らかになった。それは鉛蓄電池の過充電による腐食に起因するエキスパンド格子の伸びである。通常鉛蓄電池は、放電状態のまま放置されると負極活物質の放電生成物である硫酸鉛が極板の表面に偏在するようになり、充電してもその偏在した硫酸鉛が金属鉛に戻りにくくなるサルフェーションという現象が生じるので、鉛蓄電池の充電は放電電気量に対して数%〜数10%程度余分に充電されることが通常である。余分に充電された電気量は電解液に含まれる水の電気分解や正極格子の腐食に消費される。正極格子は通常鉛合金からなり、鉛合金中の鉛が腐食(Pb→PbO2)すると体積が膨張する。この体積の膨張によって正極格子が伸びるのである。
【0013】
鉛蓄電池内での正極格子の伸びの状態を図12に模式的に示す。図12(A)は鉛蓄電池内の極板12の状態を示したもので、鉛蓄電池内の極板12はその底部が電槽10の底部と接触し、極板12の極板耳24はストラップ25で同極性の極板耳24同士が一体化される。ストラップ25にはポール26が設けられポール26は蓋14と接触している。このように正極格子はその底部と極板耳部とが鉛蓄電池内部で固定されている。この状態で正極格子が伸びると、鋳造格子では縦桟23が存在するために図12(B)に示すように全体に丸くなるように正極格子が変形するのに対し、エキスパンド格子は縦桟23が存在しないために図12(C)に示すように正極板の極板耳24のない側だけが伸びることになる。
【0014】
図12(C)に示すように正極格子が伸びた場合、伸びた方向には異極性である負極ストラップが存在するため、正極格子と負極ストラップとが接触して内部短絡を引き起こす場合がある。内部短絡は鉛蓄電池を寿命に至らしめるばかりでなく、短絡時のスパークが発火源となり、鉛蓄電池内部に存在する水の電気分解に起因する水素ガスを着火させる場合がある。この現象は非常に危険な減少であるためなんとしても防がねばならないことの1つである。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、体積効率に優れたクラを備えない電槽を使用した板状極板を備えた蓄電池において、体積効率を大きく減少させることなく、正極格子の伸びに起因する内部短絡を防ぐ蓄電池を提供するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためになした発明は、第1の端部と第2の端部とを有する板状正極板であって、第1の端部側に極板耳を持つものと、クラを有さない電槽とを備えた蓄電池において、前記電槽の前記第2の端部側底部に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例を図1に示す。本発明の特徴はクラ11を備えない電槽10を使用し、板状の極板(正極板)12を備えた蓄電池において、電槽10はその内側の板状正極板12の第2の端部17側に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池である。このようにすると正極板が腐食によって伸びた場合、図12(C)に示したように上側一方向に伸びず、図2に示すように正極格子が下側にも伸びることができるようになるため内部短絡が生じにくくなる。
【0018】
図1においては電槽の一方(正極板12の第2の端部17側)にのみに空間13をつくるための凹部が設けられているが、両側に凹部を設けることによって設置時に斜めにならず、蓄電池の安定性がます一方、正負極板とセパレータとからなる極板群を電槽10に挿入するときの指向性をなくすことができるので、製造上のミスを防止できる利点がある。この他、両側に凹部を設けてからその一方の凹部に電解液よりも比重の小さな樹脂等を固着させると重量効率を向上させることもできるし、凹部を設けるのは電槽の一方のみとし、他方には凹部を設けずに蓄電池が斜めにならないよう底部に突起を設けることもできる。しかし、上記利点以上に体積効率を重視する場合には図1に示すように凹部は電槽の一方の側(正極板12の第2の端部17側)にのみ設けておけばよい。
【0019】
この電槽の材質等は従来の蓄電池に使用されるものをそのまま使用すればよく、鉛蓄電池においてはポリプロピリンやABSが一般に使用される。さらに電槽底部に凹部を設ける以外は従来の構成と同様でよい。
【0020】
次にこの凹部を設ける領域ついて検討した結果を述べる。図3(A)は図1と同じ図であり、図3(B)は図3(A)の円で囲った部分を拡大した図である。正極板12の上方への伸びを防止するためには、正極板12の極板耳15のない側の第2の端部17を電槽10の底部に接するようにすると上方への伸びを防止することができないので、正極板12の第2の端部17は凹部がつくる空間13上に存在する必要がある。その一方、実開昭56−127672号公報ですでにクラによって形成される空間の50%を削減する方法が開示されているため、少なくとも空間の削減率は50%を上回らないと優れた効果があるとはいえない。従って、電槽の両側に凹部を設ける場合があることを考慮に入れると、凹部の幅は、図4に示すように極板の幅方向に対して50〜100(電槽の両側に凹部を設ける場合は0〜25と75〜100)の部分とすることで空間の削減率が50%となる。但し、凹部の幅を90〜100というように空間の削減率を90%以上にすると格子の上方への伸びを抑制する効果が認められなかった。
【0021】
図5(A)〜(D)に、本発明の別の実施例を示す。図5では電槽の両側に凹部を設けているが、前述の通り、少なくとも正極板12の第2の端部17側に凹部を設ければ本願発明の要件を満たす。図5(A)〜(D)における電槽の下に描いた11本の縦線は、極板幅を10等分したときの目盛り線である。この他にも同様の構成が多数考えられ、本発明の実施例は図1、図5に記載の例に限定されるものではない。
【0022】
次にこの凹部の深さについて検討した結果を述べる。後述の実施例に示す通り、凹部の深さを、極板耳を除く極板高さの2/115未満とすると格子の上方への伸びを抑制する効果が認められなかった。また、凹部の深さを、極板耳を除く極板高さの8/115以上とすると通常クラを設けた電槽と同様となるために体積削減の効果が少なくなる一方、8/115以上としても8/115のときと同様の効果しか認められなかった。
【0023】
【実施例】
(1)実施例1
本発明に使用した格子は厚さ1.0mmの鉛―0.06wt%カルシウム―1.3wt%錫合金製シートを、ロータリ式エキスパンド加工装置(シートに切れ目を入れると同時に、その切れ目によって生じた部分をシートの表裏方向に変形させる第1の工程と、第1の工程を終了したシートを切れ目に対してほぼ垂直方向に展開する第2の工程とによってエキスパンド加工を実施する装置)に通してエキスパンド加工を実施し、シート上下方向の非切れ目部を所定の形状に切断してエキスパンド格子とした。極板耳を除くエキスパンド格子の高さは115mm、幅は101mmである。エキスパンド格子のマス目は高さ方向に13.5マス、マス目の幅は10mmである。極板耳は幅9mm、高さ24mmであり、極板耳の中心は極板の中心から19mm離れた位置に配した。
【0024】
このエキスパンド格子に、所定量の鉛粉と所定量の鉛丹とを混合し、所定量の水で混練後、混練しながら徐々に所定比重の硫酸を所定量滴下して得た正極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥工程を経て正極板とした。同様にこのエキスパンド格子に、所定量の鉛粉と所定量のカーボンブラック、リグニンスルホン酸ナトリウム、硫酸バリウムを混合し、所定量の水で混練後、混練しながら徐々に所定比重の硫酸を所定量滴下して得た負極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥工程を経て負極板とした。
【0025】
厚さ1.1mmの微多孔性ポリエチレン製セパレータを2つ折りしたものに上述の正極板を挟んだもの6枚と負極板7枚とを積層し、同極性の極板耳をストラップで一体化して極板群を構成した。この極板群をJISで規定する46B24型電池の電槽に挿入後、蓋の溶着、端子部の封口、電解液の注液、電槽化成、液口栓の取り付けをおこなって完備電池(36Ah/5hR−12V)とした。
【0026】
このとき電槽は特別に成型したものを数種類用意し、電槽内部の極板幅方向末端から25mmの幅で凹部を有するものを使用した。これらの電池を40℃水槽中で4.5Aで110時間充電した後に、40℃水槽中で150Aで放電して30秒目の放電電圧を調査した。この放電電圧が7.2V未満になった時点を寿命と判定した。表1に電槽内部の凹部の深さと上記試験で寿命と判定されるまでの試験回数を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように凹部の深さが2mm未満の場合には寿命が長くなるという効果は認められなかったが、凹部の深さが2mm以上8mmまでは深くなるほど寿命が長くなる傾向があり、8mmを上回ると寿命延長の効果に顕著性は認められなくなった。
【0029】
なお、本実施例では1種類の極板についてしか論じていないが、極板の伸び率は極板の高さを変えても変化しないので、極板耳を除く極板高さに対する凹部の深さの最適値は2/115〜8/115になる。
【0030】
(2)実施例2
実施例1に示した完備電池と同様のものを使用し、実施例1と同様の試験に供した。このとき電槽下部の凹部の深さは6mmに固定し、凹部の幅を各種変更した電槽を使用した。表2に電槽内部の凹部の幅と上記試験で寿命と判定されるまでの試験回数を示す。但しここでの凹部の幅は図4のように極板幅を仮想100等分したときのどの部分に凹部を設けたかで示している。
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように表2の3〜5で示される凹部の幅で寿命性能の向上が認められ、6〜8は5と同様の結果であった。
【0033】
【発明の効果】
本発明により、体積効率に優れたクラを備えない電槽を使用した板状極板を備えた蓄電池において、体積効率を大きく減少させることなく、正極格子の伸びに起因する内部短絡を防ぐ蓄電池を提供することができる。
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例
【図2】本発明を使用したときの格子の伸びの様子
【図3】本発明の実施例
【図4】凹部の幅を規定するための図
【図5】本発明の実施例
【図6】従来例
【図7】従来例
【図8】従来例
【図9】従来例
【図10】従来例のクラ部の体積減少率
【図11】鋳造格子とエキスパンド格子
【図12】格子の伸びを示す図
【符号の説明】
10 電槽
11 クラ
12 極板
13 クラのつくる空間
14 蓋
15 極板耳
16 第1の端部
17 第2の端部
21 上額
22 下額
23 縦桟
24 極板耳
25 ストラップ
26 極柱
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部と第2の端部とを有する板状正極板であって、第1の端部側に極板耳を持つものと、クラを有さない電槽とを備えた蓄電池において、
前記電槽の前記第2の端部側底部に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池。
【請求項1】
第1の端部と第2の端部とを有する板状正極板であって、第1の端部側に極板耳を持つものと、クラを有さない電槽とを備えた蓄電池において、
前記電槽の前記第2の端部側底部に凹部が設けられたことを特徴とする蓄電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2004−71224(P2004−71224A)
【公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−226088(P2002−226088)
【出願日】平成14年8月2日(2002.8.2)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成14年8月2日(2002.8.2)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】
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