説明

薄型ヒートパイプ及びそれを用いた温度調整パネル

【課題】簡素な構成で、特殊な加工を必要とせず、量産性に優れ、表面全体を短時間で温度分布に斑の無い状態に加熱又は冷却することができる放熱性、吸熱性に優れた薄型ヒートパイプの提供。
【解決手段】(a)一方の面又は両面に1乃至複数の溝部が形成された基板部と、(b)基板部の少なくとも溝部に覆設された蓋部と、(c)溝部に封入される作動流体と、(d)基板部の溝部の開口端部を閉塞する閉塞部と、(e)、基板部の溝部の内周面、基板部の外表面、蓋部の外表面のいずれか1以上に積層された熱伝導層と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面全体を短時間で加熱又は冷却することができ、放熱性、吸熱性に優れ、住宅、工場、オフィス等の各種建造物の屋根材、壁材、床材等として、或いはパーソナルコンピュータ、テレビ、その他の発熱部を有する各種の電気製品、装置、機器等の筐体の一部として、或いは短時間で内容物を加熱して保温することができる鍋や釜などの調理器具や風呂釜等として、或いは温度調整が必要な各種装置等の加熱・冷却手段として使用することができる加熱・冷却の効率性に優れた薄型ヒートパイプ及びそれを用いた温度調整パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒートパイプは、作動流体と、その流体を毛細管現象によって迅速に移動させるための毛細管(ウィック)を中空の管の内部に設け、高温部で蒸発した作動流体の蒸気が低温部に移動して凝縮し、その凝縮した流体が毛細管を伝って高温部に戻るサイクルを繰り返すことによって、極めて高い効率での熱伝導を可能にする装置であり、小さな温度差で大量の熱を運ぶことができるため、電気機器の放熱、家電や灼熱炉等の冷却、融雪など、あらゆる分野での放熱、均熱化に利用されている。
従来のヒートパイプは、ほとんどが円管状であったが、現在の電子製品の軽薄コンパクト化の要求に次第に符合しなくなり、板状ヒートパイプが提供されるようになった。
一般の板状ヒートパイプは内部の負圧により陥没変形が発生し易く、またその熱伝導特性は良くなく、接触熱抵抗が大きく、ウィック構造が不安定で、加工が困難であり、製造コストが高くつき、製造に時間がかかり、ウィック構造の貼り付け作業が困難で、スポット溶接作業が面倒である、など多くの問題点を有していた。
これらの問題点を解決するために、(特許文献1)には、「薄片状の被覆体と支持体で組成され、該支持体が毛細管作用を有し並びに被覆体の間に挟み置かれ、被覆体と支持体が複数のスポット溶接により一体に連接され、適当なエッジシールがなされて構成された、超薄板状ヒートパイプ。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3062459号号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)では、被覆体と支持体が複数のスポット溶接により一体に連接されるが、支持体の両面を被覆体で挟む構造であるため、支持体と被覆体との間を全面にわたって溶接することはできず、隣接する穿孔同士が連通し易く、表面全体を斑なく均一に加熱、冷却することが困難で、加熱、冷却の効率性に欠けるという課題を有していた。
(2)被覆体二層と支持体一層の三層構造であるため、部品点数が増え、特に、支持体に穿孔を形成する場合、プレス加工が必要であり、また、支持体を金属網で形成する場合、作動流体の漏れを防止するために支持体の外周を全面にわたって確実にシールしなければならず、いずれも量産性に欠けるという課題を有していた。
(3)エッジシール金型を利用して被覆体と支持体の辺縁を加圧シールしたものは、シール部分がはんだ付けされてエッジが密閉されるが、辺縁が波浪状に形成され、形状が不均一になるため、複数の超薄板状ヒートパイプを隙間なく敷設することや他の部材と突き合わせたり、接合したりすることが困難であり、各種建造物の屋根材、壁材、床材等として使用することや各種電気製品、装置、機器等の筐体の一部として使用することができず、用途が限定され、形状自在性、汎用性に欠けるという課題を有していた。
(4)特殊なパンチングプレス金型を利用すれば固定孔を形成することができ、固定孔の外周部分に凹部を形成して固定孔外周を緊密に接合し、固定孔からの作動流体の漏洩を防止できるが、加工方法が限定され、量産性に欠けるだけでなく、固定方法がねじ止めに限定され、用途、形状選択、設計の自在性に欠けると共に、固定孔によって熱の伝達が分断され、固定孔周辺に温度斑が発生し易く、建材や温度調整パネルとして使用するには不向きで、用途が限定され、汎用性に欠けるという課題を有していた。
(5)支持体や被覆体が単なる金属であり、その材質によって熱伝導率が決まるため、放熱性や吸熱性を大幅に改善することはできず、加熱・冷却の効率性の改善に欠けるという課題を有していた。
【0005】
本発明は上記課題を解決するもので、簡素な構成で、特殊な加工を必要とせず、量産性に優れ、表面全体を短時間で温度分布に斑の無い状態に加熱又は冷却することができる放熱性、吸熱性、伝熱性に優れた薄型ヒートパイプの提供及びそれを用いて効率的に放熱、吸熱、伝熱を行って、周囲の空気や接触した対象物を短時間で加熱又は冷却することができ、加工が容易で、形状自在性に優れ、より具体的には、住宅、工場、オフィス等の各種建造物の屋根材、壁材、床材等として使用し、周囲への放熱や伝熱、周囲からの吸熱や集熱により、建造物そのものや建造物に設置される各種機械、装置等を間接的に加熱、冷却することや、工場などで使用される各種機械、装置或いはパーソナルコンピュータ、テレビ、その他の発熱部を有する各種の電気製品、機器等の筐体の一部として使用し、これらを直接的に加熱、冷却することにより、これらを適温に温度調整することが可能で、汎用性、加熱、冷却、伝熱の効率性、均一性に優れた温度調整パネルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の薄型ヒートパイプ及びそれを用いた温度調整パネルは以下の構成を有している。
請求項1に記載の薄型ヒートパイプは、(a)一方の面又は両面に1乃至複数の溝部が形成された基板部と、(b)前記基板部の少なくとも前記溝部に覆設された蓋部と、(c)前記溝部に封入される作動流体と、(d)前記基板部の前記溝部の開口端部を閉塞する閉塞部と、(e)前記基板部の前記溝部の内周面、前記基板部の外表面、前記蓋部の外表面のいずれか1以上に積層された熱伝導層と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)基板部の一方の面又は両面に1乃至複数の溝部が形成されているので、少なくとも溝部に蓋部を覆設し、溝部に作動流体を封入して、溝部の開口端部を閉塞部で閉塞するだけで、簡便に薄型ヒートパイプを製造することができ、部品点数が少なく、量産性に優れる。
(2)基板部の一方の面又は両面に予め1乃至複数の溝部が形成されていることにより、平板状の蓋部を覆設する際に、細かな位置決め作業を行わなくても、溝部の上面を蓋部で確実に覆うことができ、組立作業性に優れる。
(3)各々の溝部が両側の壁(突条部)と蓋部によって確実に仕切られることにより、作動流体が隣接する溝との間でショートパスすることなく、溝の長手方向の一端から他端まで確実に移動して熱を伝達することができ、基板部や蓋部の表面全体を短時間で斑なく効率的に加熱又は冷却することができ、放熱性、吸熱性に優れる。
(4)基板部の溝部の内周面、基板部の外表面、蓋部の外表面のいずれか1以上に積層された熱伝導層を有することにより、ヒートパイプ全体の温度斑を著しく低減し、放熱性、吸熱性を向上させることができ、加熱及び冷却の効率性、均一性に優れる。
(5)基板部の外表面又は蓋部の外表面に加え、基板部の溝部の内周面に熱伝導層を積層した場合、基板部の内側(内部)からも略均一に放熱や吸熱を行って、基板部や蓋部の表面全体を有効に利用して熱を効率的に伝達し、周囲の空気や対象物を短時間で加熱又は冷却することができ、熱伝達の効率性、省エネルギー性に優れる。
【0007】
ここで、基板部及び蓋部の材質としては、銅,ステンレス,アルミニウム,マグネシウム,チタン,ニッケル,真鍮等の金属、ポリカーボネート,ABS,ポリサルフォン,ポリエーテルエーテルケトン,高強度ポリエチレン等の強度の高い合成樹脂、若しくはこれらの合成樹脂を、ガラス繊維やカーボンブラック,炭素繊維,カーボンナノチューブ等のカーボン等をフィラーとして充填して強化したもの等が好適に用いられる。
基板部には、一本の溝部を蛇行させて形成してもよいし、複数の溝部が互いに略平行となるように独立させて形成してもよい。また、蛇行させて形成した溝部の両端部を連結してループ状に形成してもよい。
【0008】
薄型ヒートパイプ全体の厚さは20mm以下が好ましい。厚さが20mmより厚くなるにつれ、加工性、形状や設計の自在性が低下し易くなる傾向があり、好ましくない。
溝部は、押し出し、引き抜き、プレス、切削等の加工により、基板部に一体に形成することができる。これにより、溝部を形成するための部材を別途用意する必要がなく、部品点数を大幅に低減できる。特に、溝部を押し出し、引き抜き、プレス等で形成した場合、溶接、溶着、切削等の加工工程が不要で、短時間で溝部を有する基板部を形成することができ、量産性に優れる。溝部の断面形状は、加工方法に応じて、適宜、選択することができるが、半円形、三角形や四角形等の多角形などが好適に用いられる。また、溝部の断面形状を扁平に形成したり、凹凸を設ける等して周長を長くしたりして、毛細管現象を働き易くすることにより、作動流体を短時間で移動させることができ、熱伝達の効率性を向上させることができる。
【0009】
基板部を押し出し又は引き抜き加工で形成する場合、溝部は断面形状が長手方向に一様な直線状に形成される。また、溝部が複数の場合は、互いに略平行となるように独立して形成される。尚、溝部の断面形状は長手方向に一様であればよく、前述と同様の半円形、三角形や四角形等の多角形などのほか、星形等の複雑な形状に形成することもできる。星形のような凹凸を有する形状の場合、凹部が細くなり、毛細管現象を利用して、作動流体を素早く確実に移動させることができ、熱伝導の効率性に優れる。
尚、基板部の材質としては、一般的に押し出し又は引き抜き加工に用いられるアルミニウム、アルミニウム合金、銅、真鍮、ステンレス、プラスチック成形材料等が好適に用いられる。
【0010】
溝部の寸法は、薄型ヒートパイプ全体の厚さや加工方法等に応じて、溝部を形成可能な範囲で適宜、選択することができる。
溝部の内部には、さらにウィックを設けてもよい。ウィックとしては、焼結金属,金網,金属繊維,ガラス繊維等を配設するものや多数の細い溝等を形成するものが好適に用いられる。ウィックを設けることで、毛細管現象を利用して作動流体を確実に移動させることができる。
蓋部は少なくとも溝部(開口部)に覆設されていればよいが、基板部の溝部が形成された一方の面又は両面の溝形成部全面をそれぞれ1枚の蓋部で覆うようにすれば、全ての溝部を簡便かつ確実に閉塞することができ、溝部の内部に封入される作動流体の漏れを防止することができ、量産性、密閉の信頼性に優れる。
基板部と蓋部は、その材質に応じて、圧着、溶着、接着、融着、溶接、拡散接合、超音波接合等の方法の中から適切な方法を選択して固着し、一体化することができる。また、閉塞部は、溝部の開口端部を直接、溶着やはんだ付け等により閉塞するものでもよいし、蓋部と同様の材質で形成された別部材を溶着、接着、融着、溶接、はんだ付け等で固着して閉塞するものでもよい。
【0011】
蓋部と閉塞部で閉塞(密封)される溝部の内部は、概ね1/1000〜1/1000000程度の真空度に減圧され、作動流体が封入される。
作動流体としては、純水,アンモニア,炭酸ガス,液体窒素,水銀,アルコール,アセトン,過酸化水素等を使用することができる。また、HCFC−141bや142bのHCFC系溶剤,HFC134a等の−30℃前後まで凍結しない不凍性のものを用いた場合、寒冷地或いは冬期でも作動流体が凍結することがなく、動作安定性に優れる。
【0012】
熱伝導層は、熱伝導性物質を含有していればよく、材料としては、石油コークス等を原料とした人造黒鉛材料等の炭素材料、炭素繊維、麦飯石,天照石,ゼオライト等の天然鉱物、アルミナ,シリカ,ジルコニア,チタニア,マグネシアやこれらの複合酸化物、窒化ケイ素,炭化ケイ素等のセラミックス、ケイ素、炭化物、シリコン鉱石などの遠赤外線放射体が好適に用いられる。
熱伝導性物質としてケイ素を用いる場合は、純度75%以上、好ましくは95%以上のものが好適に用いられる。ケイ素の純度が高く、熱伝導率が高いためである。ケイ素の純度が95%より低くなるにつれケイ素の熱伝導率が低下し、放熱及び吸熱の効果が低下し易くなる傾向がみられ、75%より低くなると、放熱性、吸熱性が不十分となるため好ましくない。
【0013】
熱伝導性物質の粒径は、1nm〜2mmが好ましい。熱伝導性物質の粒径が1nmより小さくなるにつれ、加工性、取扱い性が低下し易くなる傾向があり、2mmより大きくなるにつれ、付着性、耐摩耗性、耐久性が低下し易くなる傾向があり、いずれも好ましくない。熱伝導層に含まれる熱伝導性物質の粒度分布を広くすることにより、熱伝導性物質を高い密度で積層することができ、放熱及び吸熱の均一性に優れる。
尚、熱伝導層を溝部の内周面に形成した場合、熱伝導性物質により、溝部の表面に凹凸が形成され、作動流体が溝部の表面に斑無く拡がり易く、伝熱性に優れ、薄型ヒートパイプの表面全体から放熱や吸熱を行うことができ、加熱及び冷却の効率性、均一性に優れる。
熱伝導層の厚さは、熱伝導性物質の種類や熱伝導層の形成方法によっても異なるが、0.1μm〜3mmが好ましい。熱伝導層の厚さが0.1μmより薄くなるにつれ、取扱いや形成が困難になり、耐久性が低下し易くなる傾向があり、3mmより厚くなるにつれ、量産性に欠け、基板部や蓋部と熱伝導層との間の熱伝達性が低下し易くなる傾向があり、いずれも好ましくない。
【0014】
尚、ケイ素を含有するものとして、珪石或いは珪石から精製した高純度のシリコンを粉砕したものだけでなく、半導体素子材料の製造過程で発生する廃棄ケイ素、又は、シリコンウエハの破砕屑を使用することができる。
廃棄ケイ素としては、半導体素子材料の製造過程で二酸化ケイ素を還元してケイ素を製造する際に発生する純度90〜99%程度のケイ素粒が用いられる。シリコンウエハの破砕屑としては、シリコンウエハの不良品の破砕屑等が用いられる。これらのケイ素粒は、粉砕せずにそのまま、若しくは適宜所定の粒度になるように粉砕して用いることができる。従来、廃棄物として埋め立て処分されたり、道路の骨材等として使用されたりしてきた廃棄物を有効に再利用することができ、省資源性、環境保護性に優れる。
熱伝導層の形成方法は、熱伝導性物質の種類や粒径などに応じて、塗膜、メッキ、接着、溶射等の様々な方法の中から、適宜、選択することができる。また、熱伝導層は基板部や蓋部の表面に直接形成する以外に、予め合成樹脂の中に熱伝導性物質を練り込む等してシート化したものを積層(貼着)して形成してもよい。尚、基板部の溝部の内周面に熱伝導層を形成する場合は、溝部に面する(対向する)蓋部の内表面にも熱伝導層を形成することができる。
【0015】
この薄型ヒートパイプは、各種建造物の屋根材,壁材,床材、各種製品の筐体、鍋や釜などの調理器具や風呂釜等の一部として使用することにより、その内部を効率的に加熱、冷却、保温することができる。薄型ヒートパイプで建材や筐体、容器などを成型してもよいし、既存の建材や筐体、容器などの表面に薄型ヒートパイプを貼り付けてもよい。鍋や風呂釜などの容器に用いる場合には、周壁部又は底部の少なくともいずれか一方を薄型ヒートパイプで形成するか、その表面に薄型ヒートパイプを貼着すればよい。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の薄型ヒートパイプであって、前記閉塞部に前記基板部の前記溝部同士を連結する連結部が形設されている構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)閉塞部に基板部の溝部同士を連結する連結部が形設されていることにより、基板部の溝部の開口端部を閉塞部で閉塞すると同時に、所望の溝部同士を連結部で連結することができるので、基板部が、押し出し又は引き抜き加工で形成されている場合でも、蛇行した1本の溝部やループ状の溝部を形成することができ、溝部の形状自在性、設計自在性、量産性に優れる。
【0017】
ここで、基板部を押し出し又は引き抜き加工で形成する場合、溝部の断面形状を複雑化することができるが、互いに平行な複数の溝部を独立して形成することしかできない。しかし、閉塞部に、基板部の溝部同士を連結する連結部を形設することにより、溝部の開口端部を閉塞すると同時に溝部同士を連結することができるので、加工工程を増やすことなく、複雑な流路形状(溝部)を簡便に形成することができる。
また、薄型ヒートパイプの基板部の両側にそれぞれ嵌合用凹部と嵌合用凸部を形設した場合、放熱や吸熱の対象物の大きさに応じて、複数の薄型ヒートパイプの嵌合用凹部と嵌合用凸部を嵌合させて、簡便かつ確実に連結、固定することができ、組立作業性に優れる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の薄型ヒートパイプであって、前記熱伝導層が、塗膜、メッキ、接着、溶射、貼着のいずれかで形成されている構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)熱伝導層が、塗膜、メッキ、接着、溶射、貼着のいずれかで形成されることにより、量産性、均一性に優れると共に、基板部や蓋部との密着性に優れ、長期間にわたって均一な放熱性、吸熱性を維持することができ、耐久性、長寿命性、加熱及び冷却効果の安定性に優れる。
ここで、熱伝導層の形成方法は、熱伝導性物質の種類や粒径などに応じて、基板部や蓋部との密着性に優れるものを適宜、選択して用いることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の薄型ヒートパイプであって、前記塗膜が、塗料100重量部に対し、前記熱伝導性物質を0.01重量部〜45重量部含有している構成を有している。
この構成により、請求項3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)塗膜が、塗料100重量部に対し、熱伝導性物質を0.01重量部〜45重量部含有することにより、ヒートパイプ表面における熱伝導の指向性がなくなり、表面全体を短時間で温度分布に斑の無い状態に加熱又は冷却することができ、放熱性、吸熱性に優れる。
【0020】
ここで、塗膜は、塗料100重量部に対し、熱伝導性物質を0.01重量部〜45重量部含有することが好ましい。塗料100重量部に対し、熱伝導性物質の含有量が0.01重量部より少なくなるにつれ、放熱性、吸熱性が低下し易くなる傾向があり、45重量部より多くなるにつれ、放熱性や塗膜としての付着性、耐摩耗性、耐久性が低下し易くなる傾向があり、いずれも好ましくない。
塗膜の形成には、乾性油や半乾性油の油性塗料や樹脂系の塗料等の様々な塗料を用いることができるが、樹脂系の塗料の場合は、合成樹脂として、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリアルキレンテレフタレート(PRT)樹脂、ポリブテン樹脂等が好適に用いられる。
【0021】
請求項5に記載の温度調整パネルは、請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の薄型ヒートパイプと、前記薄型ヒートパイプの一端部に配設された加熱部又は冷却部の少なくともいずれか一方と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)薄型ヒートパイプの一端部に加熱部又は冷却部の少なくともいずれか一方が配設されているので、住宅、工場、オフィス等の各種建造物の屋根材、壁材、床材等として使用することにより、建造物の内部を短時間で斑なく効率的に加熱又は冷却することができ、省エネルギー性に優れる。
(2)冷却部が配設された薄型ヒートパイプを、パーソナルコンピュータ、テレビ、その他の発熱部を有する各種の電気製品、機械、装置、機器等の筐体の一部として使用することにより、発熱部から吸熱して効率的に冷却し、各種装置や機器等を熱から守ることができ、温度調整の信頼性に優れる。
(3)温度調整が必要な各種装置等の加熱・冷却手段として使用することにより、各種装置が過剰に加熱又は冷却されることを防ぐことができ、温度調整の確実性に優れる。
(4)厚みが薄く、可撓性を有する温度調整パネルは加工が容易で、曲げたり、湾曲させたりすることもでき、設計及び形状の自在性、汎用性に優れる。
【0022】
ここで、加熱部としては、ニクロム線等の電熱線により加熱を行うシーズヒータ等の電気ヒータや温熱配管等が好適に用いられる。温熱配管の熱源として地中熱、太陽熱、輻射熱、発酵熱、化学反応熱等を利用した場合、媒体を循環させるポンプを駆動するだけで加熱を行うことができ、省エネルギー性に優れる。
冷却部としては、ペルチェ素子や冷水配管等が好適に用いられる。尚、ペルチェ素子は吸熱面と排熱面を逆にして加熱部として用いることもできる。
温度調整パネルを配設する際に、加熱部や冷却部が下端、上端、側端のいずれかに配置されるようにすれば、加熱部や冷却部が邪魔になることがなく、省スペース性に優れる。温度調整パネルの溝部の長手方向の一端側に加熱部を配設し、他端側に冷却部を配設した場合、1つの温度調整パネルで加熱及び冷却を行うことができるだけでなく、溝部の両端の温度差によって生じる気体〜液体への相変化を短時間で行わせることができ、加熱及び冷却の効率性に優れる。
【0023】
尚、各種建造物の屋根材、壁材、床材等として使用する場合には、裏面側に加熱部や冷却部を配置することにより、表面に突起や出っ張りがなく、使用性に優れる。
また、基板部の両側にそれぞれ嵌合用凹部と嵌合用凸部を形設した薄型ヒートパイプを用いた場合、温度調整パネルを屋根材、壁材、床材等として敷設する際に、嵌合用凹部と嵌合用凸部を嵌合させて簡便かつ強固に固定することができ、隣接する温度調整パネルの間に隙間などが発生せず、施工性に優れ、屋根、壁、床等の表面全体を斑無く均一に加熱又は冷却することができ、加熱、冷却の確実性、均一性に優れる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように構成された本発明の薄型ヒートパイプ及びそれを用いた温度調整パネルによれば、以下のような効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)熱伝導性物質を含有した熱伝導層が、基板部の溝部の内周面、基板部の外表面、蓋部の外表面のいずれか1以上に形成されることにより、全体の温度斑を著しく低減して、放熱性、吸熱性を向上させることができる加熱及び冷却の効率性、均一性に優れた薄型ヒートパイプを提供することができる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)基板部の溝部の開口端部を閉塞部で閉塞すると同時に、所望の溝部同士を連結部で連結して、蛇行した1本の溝部やループ状の溝部を簡便に形成することができる溝部の形状自在性、設計自在性、量産性に優れた薄型ヒートパイプを提供することができる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)量産性、均一性に優れ、基板部や蓋部との密着性に優れる熱伝導層を有することにより、長期間にわたって均一な放熱性、吸熱性を維持することができ、加熱及び冷却効果の安定性に優れた薄型ヒートパイプを提供することができる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)塗料100重量部に対し、熱伝導性物質を0.01重量部〜45重量部含有する塗膜を放熱面や吸熱面に形成することにより、放熱面や吸熱面における熱伝導の指向性がなくなり、一部が加熱又は冷却されるだけで、表面全体を短時間で温度分布に斑の無い状態に加熱又は冷却することができる放熱及び吸熱の効率性、均一性に優れた薄型ヒートパイプを提供することができる。
【0028】
請求項5に記載の発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)加熱部又は冷却部によって薄型ヒートパイプの表面全体を短時間で斑なく加熱又は冷却することができ、その表面を放熱面又は吸熱面として、周囲の空気或いは近接又は接触して配置される各種対象物と熱の授受を行い、適正な温度に保持することができる加熱・冷却の安定性、効率性に優れた温度調整パネルを提供することができる。
(2)薄型で可撓性を有することにより、加工が容易で、対象物の形状に沿わせて湾曲させることもでき、様々な形状に対応することが可能な設計及び形状の自在性、汎用性に優れた温度調整パネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)実施の形態1における薄型ヒートパイプを示す模式斜視図 (b)実施の形態1における薄型ヒートパイプの要部断面拡大模式図
【図2】実施の形態1における薄型ヒートパイプの模式分解斜視図
【図3】(a)実施の形態1における薄型ヒートパイプの溝部の第1の変形例を示す要部断面拡大模式図 (b)実施の形態1における薄型ヒートパイプの溝部の第2の変形例を示す要部断面拡大模式図
【図4】実施の形態1における薄型ヒートパイプを用いた温度調整パネルを示す模式斜視図
【図5】実施の形態2における薄型ヒートパイプの模式分解斜視図
【図6】(a)加熱実験の様子を示す図 (b)バーナ点火(加熱開始)時のサーモグラフィ画像 (c)バーナ点火(加熱開始)から3秒後のサーモグラフィ画像 (d)バーナ消火時(バーナ点火から4秒後)のサーモグラフィ画像 (e)バーナ消火から3秒後(バーナ点火から7秒後)のサーモグラフィ画像
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1における薄型ヒートパイプについて説明する。
図1(a)は実施の形態1における薄型ヒートパイプを示す模式斜視図であり、図1(b)は実施の形態1における薄型ヒートパイプの要部断面拡大模式図であり、図2は実施の形態1における薄型ヒートパイプの模式分解斜視図である。
図1及び図2中、1は実施の形態1における薄型ヒートパイプ、2はアルミニウムや銅等を押し出し又は引き抜き加工或いはプレス加工して表面に複数の溝部3が平行に形成された薄型ヒートパイプ1の基板部、2aは基板部2の裏面、2bは基板部2の幅方向(左右)の側端部、2cは基板部2の長手方向の端部(図2)、3aは溝部3の両端の開口端部(図2)、4は基板部2と同様の材質で平板状に形成され溝部3や基板部2の表面に覆設された薄型ヒートパイプ1の蓋部、5は熱伝導性物質としてケイ素粒を含有し蓋部4の外表面に塗設された塗膜によって形成された薄型ヒートパイプ1の熱伝導層、6は基板部2の溝部3の開口端部3aをはんだ付けなどで閉塞する閉塞部である。
尚、薄型ヒートパイプ1の各々の溝部3の内部は、概ね1/1000〜1/1000000程度の真空度に減圧され、純水,アンモニア,炭酸ガス,液体窒素,水銀,アルコール,アセトン,過酸化水素等の作動流体が封入される。
【0031】
基板部2と蓋部4は、圧着、溶着、接着、拡散接合等の方法で固着し、一体化することができる。
薄型ヒートパイプ全体の厚さは1mm〜20mmに形成した。厚さが1mmより薄くなるにつれ、強度や耐久性が低下し易く、取扱いが困難になって、量産性が低下する傾向があり、20mmより厚くなるにつれ、加工性、形状や設計の自在性が低下し易くなる傾向があることがわかったためである。
溝部3の幅と高さは、それぞれ基板部2の厚さに応じて、押し出し又は引き抜き加工或いはプレス加工が可能な範囲で選択した。図1(b)に示すように、溝部3を縦長の扁平状に形成し、毛細管現象を働き易くすることにより、作動流体を短時間で移動させることができ、熱伝達の効率性を向上させることができる。
【0032】
熱伝導層5は、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等の合成樹脂を用いた樹脂系の塗料100重量部に対し、熱伝導性物質としてケイ素粒を0.01重量部〜45重量部含有した塗料を蓋部4の表面に塗布して形成した。塗料100重量部に対し、ケイ素粒の含有量が0.01重量部より少なくなるにつれ、放熱性、吸熱性が低下し易くなる傾向があり、45重量部より多くなるにつれ、熱伝導層5としての付着性、耐摩耗性、耐久性が低下し易くなる傾向があることがわかったためである。尚、熱伝導層5を塗膜で形成する場合、樹脂塗料以外に、乾性油や半乾性油の油性塗料を用いてもよい。
ケイ素粒は、純度75%以上のものを用いた。ケイ素粒の純度が75%より低くなると、ケイ素粒の熱伝導率が低下し、十分な放熱性、吸熱性が得られ難くなることがわかったためである。
【0033】
尚、ケイ素粒としては、珪石或いは珪石から精製した高純度のシリコン等を粉砕したものだけでなく、半導体素子材料の製造過程で発生する廃棄ケイ素やシリコンウエハの破砕屑を使用することができる。特に、半導体素子材料の製造過程で二酸化ケイ素を還元して製造されるケイ素粒(金属シリコン)は、90〜99%程度の高純度で、高い熱伝導率を有するので好ましい。また、従来、廃棄物として埋め立て処分されたり、道路の骨材等として使用されたりしてきたケイ素粒を有効に再利用することができ、生産性、省資源性に優れる。
本実施の形態では、熱伝導性物質としてケイ素粒を用いたが、これに限定されるものではなく、石油コークス等を原料とした人造黒鉛材料等の炭素材料、炭素繊維、麦飯石,天照石,ゼオライト等の天然鉱物、アルミナ,シリカ,ジルコニア,チタニア,マグネシアやこれらの複合酸化物、窒化ケイ素,炭化珪素等のセラミックス、炭化物、シリコン鉱石などの遠赤外線放射体を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。
【0034】
また、ケイ素粒の粒径は1nm〜2mmとした。熱伝導性物質の粒径が1nmより小さくなるにつれ、加工性、取扱い性が低下し易くなる傾向があり、2mmより大きくなるにつれ、付着性、耐摩耗性、耐久性が低下し易くなる傾向があることがわかったためである。尚、熱伝導層に含まれる熱伝導性物質の粒度分布を広くすることにより、熱伝導性物質を高い密度で積層することができ、放熱及び吸熱の均一性に優れる。
また、本実施の形態では、蓋部4の表面に熱伝導層5を形成したが、熱伝導層5は基板部2の裏面2aに形成してもよい。熱伝導層5を形成した側の面が放熱面又は吸熱面となるからである。尚、溝部3の内周面に熱伝導層5を形成して熱伝導性を向上させることもできる。
【0035】
本実施の形態では、熱伝導層5を塗膜によって形成したが、熱伝導層5の形成方法はこれに限定されるものではなく、熱伝導層5を形成する基板部2や蓋部4の表面と熱伝導層5が密着性を有していればよく、熱伝導性物質の種類や粒径などに応じて、メッキ、接着、溶射等の様々な方法の中から、適宜、選択して用いることができる。また、予めシート化したものを積層して形成してもよい。
尚、熱伝導層5の厚さは、熱伝導性物質の種類や熱伝導層5の形成方法に応じて、0.1μm〜3mmの範囲で選択することができる。熱伝導層5の厚さが0.1μmより薄くなるにつれ、取扱いや形成が困難になり、耐久性が低下し易くなる傾向があり、3mmより厚くなるにつれ、量産性に欠け、基板部2や蓋部4と熱伝導層5との間の熱伝達性が低下し易くなる傾向があることがわかったためである。
【0036】
次に、実施の形態1における薄型ヒートパイプの溝部の形状の変形例について説明する。
図3(a)は実施の形態1における薄型ヒートパイプの溝部の第1の変形例を示す要部断面拡大模式図であり、図3(b)は実施の形態1における薄型ヒートパイプの溝部の第2の変形例を示す要部断面拡大模式図である。
図3(a)において、実施の形態1における第1の変形例の薄型ヒートパイプ1Aの溝部3Aが実施の形態1における薄型ヒートパイプ1の溝部3と異なる点は、溝部3Aの両側面部に複数の凸条部3bが形成されている点である。尚、この溝部3Aの長手方向と直交する断面形状は長手方向の全長にわたって一様であり、押し出し又は引き抜き加工により、簡便に形成することができる。
これにより、複数の凸条部3bの間に働く毛細管現象を利用して、作動流体を素早く確実に移動させることができ、熱伝導の効率性に優れる。尚、凸条部3bの断面形状はこれに限定されるものではなく、三角形状、台形状、半円形状等の様々な形状に形成することができる。また、別加工で溝部3Aの表面に多数の凹凸を形成してもよい。作動流体が溝部3Aの表面全体に拡がり易く、短時間で斑のない均一な放熱や吸熱を行うことができるためである。
【0037】
図3(b)において、実施の形態1における第2の変形例の溝部3Bが実施の形態1における薄型ヒートパイプ1の溝部3と異なる点は、溝部3Bの蓋部4側の左右両側(長手方向と平行)に段差状の凹部3cが形成されている点である。尚、この溝部3Bの長手方向と直交する断面形状は長手方向の全長にわたって一様であり、押し出し又は引き抜き加工或いはプレス加工により、簡便に形成することができる。
蓋部4が覆設されることにより、段差状の凹部3cが幅の狭いスリット状となり、溝部3の左右の両側で長手方向の全長にわたって毛細管力が働き、第1の変形例の溝部3Aと同様に、溝部3Bの一端から他端まで、短時間で効率的に熱を伝達することができると同時に、蓋部4の表面全体に斑無く均一に熱が拡がり易く、放熱や吸熱の効率性に優れる。
尚、凹部3cは溝部3Aの一方の側部のみに形成してもよい。
【0038】
溝部3A,3Bのように、多数の細い溝(凸条部3b)や凹部3c等を形成する代わりに、溝部3の内部に、ウィックとして、焼結金属,金網,金属繊維,ガラス繊維等を配設してもよい。ウィックを設けることで、毛細管現象を利用して作動流体を確実に移動させることができるためである。
尚、本実施の形態では、溝部3(3A,3B)の全体断面形状を縦長の略四角形状に形成したが、これに限定されるものではなく、横長の長方形、半円形、三角形やその他の多角形など、任意の形状に形成することができる。また、溝部を押し出し又は引き抜き加工で形成する場合、星形のような多数の凹凸を有する形状とすることができる。これにより、溝部の周長が長くなって溝部の断面積が増えると共に、複数の凹部に毛細管力が働き、第1の変形例の溝部3Aと同様に、溝部の一端から他端まで、短時間で効率的に熱を伝達することができる。
また、本実施の形態では、溝部3(3A,3B)を基板部2の一方の面のみに形成したが、両面に形成してもよい。尚、溝部3(3A,3B)を基板部2の両面に形成する場合、各々の面に形成する溝部3(3A,3B)同士は独立させてもよいし、連結させてもよい。
【0039】
住宅、工場、オフィス等の各種建造物の屋根材、壁材、床材、或いはパーソナルコンピュータ、テレビ、その他の発熱部を有する各種の電気製品、装置、機器等の筐体、或いは鍋や釜などの調理器具や風呂釜等の少なくとも一部を薄型ヒートパイプ1で形成したり、既存のこれらの部材の表面の少なくとも一部に薄型ヒートパイプ1を貼り付けたりすることにより、その内部の空間やその内部に収容された各種機器、調理素材、液体などを効率的に加熱或いは冷却することや保温することができ、冷暖房や加熱、冷却に要する時間を短縮したり、それに必要なエネルギーを削減したりすることができ、省エネルギー性、環境保護性を向上することができる。
【0040】
次に、実施の形態1における薄型ヒートパイプを用いた温度調整パネルについて説明する。
図4は実施の形態1における薄型ヒートパイプを用いた温度調整パネルを示す模式斜視図である。
図4中、10は実施の形態1における薄型ヒートパイプ1を用いた温度調整パネル、11は薄型ヒートパイプ1の基板部2の裏面2a側の一端部に配設された温熱配管を用いた加熱部、11aは加熱部11の一端側に形設され熱源から加熱部11に熱媒体を供給するための供給管、11bは加熱部11から熱媒体を排出して熱源に循環させるための排出管である。
熱源で加熱された空気、蒸気、水、油などを熱媒体として、供給管11aから供給し、排出管11bから排出して循環させることにより、加熱部11で薄型ヒートパイプ1の一端部を連続的に加熱することができる。尚、熱源としては、火力の他に、地中熱、太陽熱、輻射熱、発酵熱、化学反応熱等の様々な熱を利用することができ、汎用性、省エネルギー性に優れる。また、加熱部11としては、ニクロム線等の電熱線により加熱を行うシーズヒータ等の電気ヒータ等を用いることもできる。
【0041】
以上のように構成された実施の形態1における薄型ヒートパイプを用いた温度調整パネルの動作について説明する。
熱源から熱媒体を介して熱が供給される加熱部11により薄型ヒートパイプ1の一端側を加熱すると、蒸発した作動流体の蒸気が溝部3(図2参照)に沿って長手方向の他端側に移動して凝縮し、その凝縮した作動流体が溝部3を伝って一端側(加熱部11側)に戻るサイクルを繰り返すことによって、極めて短時間で薄型ヒートパイプ1の一端側(加熱部11側)から他端側まで熱が伝導される。このとき、薄型ヒートパイプ1の蓋部4の表面にケイ素粒等の熱伝導性物質を含有した熱伝導層5が形成されていることにより、蓋部4の表面全体を斑なく効率的に加熱することができ、その表面を放熱面として全面から均一に放熱して、周囲の空気或いは近接又は接触して配置される各種対象物を加熱することができる。
【0042】
温度調整パネル10は基板部2bの幅方向(左右)の側端部2bが平坦に形成されているので、側端部2b同士を突き合わせるようにして、天井、壁、床などの裏面側に隙間なく敷き詰めることができ、建造物全体を斑なく効率的に加熱することができ、省エネルギー性に優れる。隣接する温度調整パネル10の加熱部11の供給管11aと排出管11bを接続可能に形設しておけば、複数の温度調整パネル10に対して1つの熱源から熱を供給することができ、施工性に優れる。
尚、温度調整パネル10の熱伝導層5側の表面には表装材が配設されるが、温度調整パネル10と表装材は密着している必要はなく、その間に空気層があってもよい。
本実施の形態では、加熱部11を有する温度調整パネル10について説明したが、加熱部11の代わりに冷却部を配設してもよいし、加熱部11と冷却部の両方を配設してもよい。特に、薄型ヒートパイプ1の溝部3の長手方向の一端側に加熱部11を配設し、他端側に冷却部を配設した場合、1つの温度調整パネル10で加熱及び冷却を行うことができるだけでなく、溝部3の両端の温度差によって生じる気体〜液体への相変化を短時間で行わせることができ、加熱及び冷却の効率性に優れる。冷却部としては、ペルチェ素子や冷水配管等が好適に用いられる。尚、ペルチェ素子は吸熱面と排熱面を逆にして加熱部として用いることもできる。
【0043】
温度調整パネル10が冷却部を有する場合は、熱伝導層5が形成された蓋部4の表面全体を吸熱面として全面から均一に吸熱して、周囲の空気或いは近接又は接触して配置される各種対象物を冷却することができる。よって、パーソナルコンピュータ、テレビ、その他の発熱部を有する各種の電気製品、装置、機器等の筐体の一部として使用することにより、各種装置や機器等を熱から守ることができ、温度調整の信頼性に優れる。
尚、薄型ヒートパイプ1に予め加熱部11や冷却部が配設された複数の温度調整パネル10を設置する代わりに、先に薄型ヒートパイプ1のみを設置してから、全体に共通の加熱部11や冷却部を配設することにより、施工性、搬送性に優れる。
【0044】
以上のように、本発明の実施の形態1における薄型ヒートパイプは構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)基板部の一方の面に複数の溝部が形成されているので、蓋部を覆設し、溝部に作動流体を封入して、溝部の開口端部を閉塞部で閉塞するだけで、簡便に薄型ヒートパイプを製造することができ、部品点数が少なく、量産性に優れる。
(2)基板部の一方の面に予め複数の溝部が形成されていることにより、平板状の蓋部を覆設する際に、細かな位置決め作業を行わなくても、溝部の上面を蓋部で確実に覆うことができ、組立作業性に優れる。
(3)各々の溝部が両側の壁(突条部)と蓋部によって確実に仕切られることにより、作動流体が隣接する溝との間でショートパスすることなく、溝の一端から他端まで確実に移動して熱を伝達することができ、基板部や蓋部の表面全体を短時間で斑なく効率的に加熱又は冷却することができ、放熱性、吸熱性に優れる。
(4)基板部の溝部の内周面、基板部の外表面、蓋部の外表面のいずれか1以上に積層された熱伝導層が、熱伝導性物質を含有することにより、ヒートパイプ全体の温度斑を著しく低減し、放熱性、吸熱性を向上させることができ、加熱及び冷却の効率性、均一性に優れる。
(5)基板部の外表面又は蓋部の外表面に加え、基板部の溝部の内周面に熱伝導層を積層した場合、基板部の内側(内部)からも略均一に放熱や吸熱を行って、基板部や蓋部の表面全体を有効に利用して熱を効率的に伝達し、周囲の空気や対象物を短時間で加熱又は冷却することができ、熱伝達の効率性、省エネルギー性に優れる。
(6)基板部が、押し出し又は引き抜き加工で形成されることにより、溝部を一体に形設することができるので、溝部を形成するための部材を別途用意する必要がなく、部品点数を大幅に低減できると共に、溶接や溶着等の加工工程が不要で、短時間で溝部を有する基板部を形成することができ、量産性に優れる。
(7)熱伝導層に、平均粒径が1nm〜2mmの範囲の中で分級された、異なる複数種の平均粒径を有する熱伝導性物質が混合されて含有されていることにより、熱伝導性物質を高い密度で積層することができ、放熱及び吸熱の均一性に優れる。
(8)熱伝導層が、塗膜で形成されることにより、量産性、均一性に優れると共に、基板部や蓋部との密着性に優れ、長期間にわたって均一な放熱性、吸熱性を維持することができ、加熱及び冷却効果の安定性に優れる。
(9)塗膜が、合成樹脂100重量部に対し、熱伝導性物質を0.01重量部〜45重量部含有することにより、ヒートパイプ表面における熱伝導の指向性がなくなり、表面全体を短時間で温度分布に斑の無い状態に加熱又は冷却することができ、放熱性、吸熱性に優れる。
【0045】
以上のように、本発明の実施の形態1における温度調整パネルは構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)薄型ヒートパイプの一端部に加熱部が配設されているので、住宅、工場、オフィス等の各種建造物の屋根材、壁材、床材等として使用することにより、建造物の内部を短時間で斑なく効率的に加熱又は冷却することができ、省エネルギー性に優れる。
(2)温度調整が必要な各種装置等の加熱手段として使用することにより、各種装置が過剰に加熱されることを防ぐことができ、温度調整の確実性に優れる。
(3)厚みが薄く、可撓性を有する薄型ヒートパイプは加工が容易で、曲げたり、湾曲させたりすることもでき、設計及び形状の自在性、汎用性に優れる。
【0046】
(実施の形態2)
実施の形態2における薄型ヒートパイプについて説明する。尚、実施の形態1と同様のものについては、同じ符号を付して説明を省略する。
図5は実施の形態2における薄型ヒートパイプの模式分解斜視図である。
図5において、実施の形態2における薄型ヒートパイプ1Cが実施の形態1における薄型ヒートパイプ1と異なるのは、基板部2の一方の側部に嵌合用凹部2dが形成され、他方の側部に嵌合用凸部2eが形成されている点と、基板部2の溝部3の一端側の開口端部3aを閉塞する閉塞部6Aの一方の側部に嵌合用凹部6aが形成され、他方の側部に嵌合用凸部6bが形成されると共に、隣接する溝部3同士を開口端部3aで連結する連結部7aが形設されている点と、基板部2の溝部3の他端側の開口端部3aを閉塞する閉塞部6Bの一方の側部に嵌合用凹部6aが形成され、他方の側部に嵌合用凸部6bが形成されると共に、閉塞部6Aの連結部7aと互い違いになるように、隣接する溝部3同士を開口端部3aで連結する連結部7bと、左右両端の溝部3同士を開口端部3aで連結する連結部7cが形設されている点である。
これにより、複数の溝部3が1本のループ状に連結される。また、放熱や吸熱の対象物の大きさに応じて、複数の薄型ヒートパイプ1Cの嵌合用凹部2d,6aと嵌合用凸部2e,6bを嵌合させて、簡便かつ確実に連結、固定することができ、組立作業性に優れる。
【0047】
基板部2を押し出し又は引き抜き加工で形成する場合、実施の形態1で説明した溝部3A,3Bのように断面形状を複雑化できる代わりに、互いに平行な複数の溝部3(3A,3B,3C)を独立して形成することしかできない。
しかし、本実施の形態2のように、閉塞部6A,6Bに、基板部2の溝部3同士を連結する連結部7a,7b,7cを形設することにより、溝部3の開口端部3aを閉塞すると同時に溝部3同士を連結することができるので、加工工程を増やすことなく、複数の溝部3がループ状に連結された複雑な流路形状を簡便に形成することができる。
溝部3が1本のループ状に連結されることにより、薄型ヒートパイプ1Cの表面全体を隅々まで斑なく加熱又は冷却することができ、放熱及び吸熱の均一性に優れる。
尚、溝部3の連結の仕方はこれに限定されるものではなく、連結部7a,7b,7cの形状や配置によって、様々な形状に連結することができる。
【0048】
以上のように、本発明の実施の形態2における薄型ヒートパイプは構成されているので、実施の形態1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)閉塞部に基板部の溝部同士を連結する連結部が形設されていることにより、基板部の溝部の開口端部を閉塞部で閉塞すると同時に、所望の溝部同士を連結部で連結することができるので、基板部が、押し出し又は引き抜き加工で形成されている場合でも、蛇行した1本の溝部やループ状の溝部を形成することができ、溝部の形状自在性、設計自在性、量産性に優れる。
【0049】
実施の形態2における薄型ヒートパイプ1Cは、実施の形態1における薄型ヒートパイプ1(1A,1B)と同様に、加熱部11や冷却部を備えることにより、実施の形態1における薄型ヒートパイプ1を用いた温度調整パネル10と同様の温度調整パネルとして使用することができる。このとき、屋根材、壁材、床材等として敷設する際に、嵌合用凹部2d,6aと嵌合用凸部2e,6bを嵌合させて簡便かつ強固に固定することができ、隣接する温度調整パネルの間に隙間などが発生せず、施工性に優れ、屋根、壁、床等の表面全体を斑無く均一に加熱又は冷却することができ、加熱、冷却の確実性、均一性に優れる。
また、実施の形態2における薄型ヒートパイプを用いた温度調整パネルで得られる作用は、実施の形態1における温度調整パネルで得られる作用と同様である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施の形態1で説明した薄型ヒートパイプ1における熱伝導層5の効果につき、確認を行った。
図6(a)は加熱実験の様子を示す図であり、図6(b)はバーナ点火(加熱開始)時のサーモグラフィ画像であり、図6(c)はバーナ点火(加熱開始)から3秒後のサーモグラフィ画像であり、図6(d)はバーナ消火時(バーナ点火から4秒後)のサーモグラフィ画像であり、図6(e)はバーナ消火から3秒後(バーナ点火から7秒後)のサーモグラフィ画像である。
長さ450mm、幅140mm、厚さ2mmのアルミ板の右半分に、図6(a)に示すように、実施の形態1の薄型ヒートパイプ1と同様の熱伝導層を形成し、熱伝導層を形成していないアルミ板の左側表面をバーナで加熱した。
尚、熱伝導層は、主剤(ハイロックDXクリヤー、ロックペイント株式会社製アクリルウレタン樹脂塗料、品番073ライン2000番級)と硬化剤(ハイロックDX硬化剤、ロックペイント株式会社製、品番073−8110)を重量比4:1で混ぜた塗料90重量部に対し、熱伝導性物質として粒径340μm以下に粉砕した純度85〜99%の金属シリコンを10重量部含有させた後、シンナー(ハイロックシンナー標準、ロックペイント株式会社製、品番016−2731)10重量部で希釈したものをアルミ板の表面に刷毛で二度塗りして形成した。
また、バーナは火炎温度が約1200℃のカセットガストーチバーナを使用し、アルミ板の中央(アルミと熱伝導層の境目)から50mm〜100mm左側の範囲を炎の先端からアルミ板表面までの距離が50mm〜60mmとなるようにして加熱した。
加熱時間は3秒間で、バーナ点火(加熱開始)から4秒後にバーナを消火した。
このとき、非接触温度計で放射温度を測定したところ、アルミ板表面は34℃であったのに対し、熱伝導層表面は140℃であった。また、熱伝導層を形成していないアルミ板裏面も34℃であった。
次に、サーモグラフィ画像により、赤外線放射量を確認した。図6(b)〜(e)において、暗く(黒く)見える部分は熱の放射が少ないところであり、明るく(白く)見える部分は熱の放射が多いところである。図6(b)〜(e)から明らかなように、アルミ板を加熱した熱は極めて短時間の内に熱伝導層に移動、吸収され、熱伝導層全体から遠赤外線として放射されていることがわかった。
以上のことから、本発明の薄型ヒートパイプ1によれば、ヒートパイプ全体の温度斑を著しく低減し、放熱性、吸熱性を向上させて、熱を効率的に伝達することができ、周囲の空気や対象物を短時間で斑なく効率的に加熱又は冷却することが可能な省エネルギー性に優れた温度調整パネルを提供できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、簡素な構成で、特殊な加工を必要とせず、量産性に優れ、表面全体を短時間で温度分布に斑の無い状態に加熱又は冷却することができる放熱性、吸熱性に優れた薄型ヒートパイプの提供及びそれを用いることにより、効率的に放熱又は吸熱を行って、周囲の空気や接触した対象物を加熱又は冷却することができ、加工が容易で、形状自在性に優れ、より具体的には、住宅、工場、オフィス等の各種建造物の屋根材、壁材、床材等として使用し、建造物そのものや建造物に設置される各種機械、装置等を間接的に加熱・冷却することや、工場などで使用される各種機械、装置或いはパーソナルコンピュータ、テレビ、その他の発熱部を有する各種の電気製品、機器等の筐体の一部として使用し、これらを直接的に加熱・冷却することにより、これらを適温に温度調整することが可能で、汎用性、加熱・冷却の効率性、均一性に優れた温度調整パネルの提供を行い、省エネルギー化や環境保護に貢献することができる。
【符号の説明】
【0052】
1,1A,1B,1C 薄型ヒートパイプ
2 基板部
2a 裏面
2b 側端部
2c 端部
2d,6a 嵌合用凹部
2e,6b 嵌合用凸部
3,3A,3B 溝部
3a 開口端部
3b 凸条部
3c 凹部
4 蓋部
5 熱伝導層
6,6A,6B 閉塞部
7a,7b,7c 連結部
10 温度調整パネル
11 加熱部
11a 供給管
11b 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一方の面又は両面に1乃至複数の溝部が形成された基板部と、(b)前記基板部の少なくとも前記溝部に覆設された蓋部と、(c)前記溝部に封入される作動流体と、(d)前記基板部の前記溝部の開口端部を閉塞する閉塞部と、(e)前記基板部の前記溝部の内周面、前記基板部の外表面、前記蓋部の外表面のいずれか1以上に積層された熱伝導層と、を備えたことを特徴とする薄型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記閉塞部に前記基板部の前記溝部同士を連結する連結部が形設されていることを特徴とする請求項1に記載の薄型ヒートパイプ。
【請求項3】
前記熱伝導層が、塗膜、メッキ、接着、溶射、貼着のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄型ヒートパイプ。
【請求項4】
前記塗膜が、塗料100重量部に対し、前記熱伝導性物質を0.01重量部〜45重量部含有していることを特徴とする請求項3に記載の薄型ヒートパイプ。
【請求項5】
請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の薄型ヒートパイプと、前記薄型ヒートパイプの一端部に配設された加熱部又は冷却部の少なくともいずれか一方と、を備えたことを特徴とする温度調整パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122813(P2011−122813A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256333(P2010−256333)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(301057967)株式会社ジャスト東海 (8)