説明

血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物

【課題】血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物として有用な医薬組成物を提供する。
【解決手段】N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、及び、アスピリン、クロピドグレル等の抗血小板剤、若しくは、パミテプラーゼ等の血栓溶解剤を有効成分とする医薬組成物。特に血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬、殊に、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物として有用な医薬組成物、特にN-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド(以下、「化合物A」と言う。)又はその塩、及び、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤を有効成分とする医薬組成物に関する。また、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療のための、化合物A又はその塩、及び、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤の併用、及び併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性冠症候群は、冠動脈に生成した動脈硬化性プラークの破綻により血栓が形成され、冠動脈が狭窄あるいは閉塞することにより発症する虚血性症状の総称であり、臨床的には不安定狭心症、急性心筋梗塞、心臓突然死を含む概念である。現在、急性冠症候群の治療および予防には、主にアスピリン、クロピドグレル、糖タンパクIIb/IIIa阻害薬等の抗血小板薬が繁用され、その他、抗凝固薬、硝酸薬、β遮断薬、血栓溶解薬なども用いられている。また、外科的治療として、経皮的インターベンションや冠動脈バイパス手術などが行われる。しかしながら、虚血性事象の抑制率は十分ではなく、抗血小板療法に加えて抗凝固薬を併用する治療法が検討されている。近年、急性冠症候群を発症した患者において、通常の抗血小板療法に加えてFXa(活性化血液凝固第X因子)阻害薬を併用すると、出血事象の発現率が増加するものの虚血性事象がさらに低下することが報告された(非特許文献1、非特許文献2)。また、動物実験においては、FXa阻害薬とアスピリン、血栓溶解薬、糖タンパクIIb/IIIa阻害薬、ヘパリン、低分子ヘパリンなどとの併用が有用であることが報告されている(特許文献1)。しかしながら、これらの報告において化合物Aに関する開示はない。
【0003】
化合物Aは、FXaを特異的に阻害し、強力な抗凝固作用を有すること、その結果、血液凝固抑制剤、又は血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療剤として有用であることが知られている(特許文献2)。さらにこの特許文献には、上記の疾病として、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、くも膜下出血(血管れん縮)等の脳血管障害における疾病、急性及び慢性心筋梗塞、不安定狭心症等の虚血性心疾患における疾病、肺梗塞、肺塞栓等の肺血管障害における疾病、さらに末梢動脈閉塞症、深部静脈血栓症、汎発性血管内凝固症候群、人工血管術後及び人工弁置換後の血栓形成症、冠動脈バイパス術後における再閉塞及び再狭窄、PTCA又はPTCR術後における再閉塞及び再狭窄、体外循環時の血栓形成症等の各種血管障害における疾病が挙げられることが記載されている。
【0004】
また、化合物Aの化学構造は以下の通りである。
【化1】

【0005】
【特許文献1】国際公開第WO 00/53264号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO 01/74791号パンフレット
【非特許文献1】The Lancet、2009年、374巻、9683号、29-38ページ
【非特許文献2】Circulation、2009年、119巻、22号、2877-2885ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化合物A又はその塩、及び、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤を含有する医薬組成物、具体的には血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
また、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療のための、化合物A又はその塩、及び、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤の併用、及び併用療法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、FXa阻害剤及び抗血小板剤若しくは血栓溶解剤を含有する血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物について検討した結果、特に化合物A又はその塩と抗血小板剤若しくは血栓溶解剤の組み合わせにより、優れた血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療効果が発現することを知見して本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、
[1]N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、並びに、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤を有効成分とする医薬組成物。
[2]N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、及び、抗血小板剤を有効成分とする、[1]の医薬組成物。
[3]N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、及び、血栓溶解剤を有効成分とする、[1]の医薬組成物。
【0009】
[4]抗血小板剤が、アスピリン、クロピドグレル、チクロピジン、プラスグレル、シロスタゾール、又はジピリダモールである、[2]の医薬組成物。
[5]抗血小板剤が、アスピリン、又はクロピドグレルである、[4]の医薬組成物。
[6]抗血小板剤が、アスピリンである、[5]の医薬組成物。
[7]抗血小板剤が、クロピドグレルである、[5]に記載の医薬組成物。
【0010】
[8]血栓溶解剤が、パミテプラーゼ、アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、又はウロキナーゼである、[3]の医薬組成物。
[9]血栓溶解剤が、パミテプラーゼである、[8]の医薬組成物。
【0011】
[10]さらに製薬学的に許容される賦形剤を含有する、[1]乃至[9]の医薬組成物。
【0012】
[11]血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物である、[1]の医薬組成物。
[12]血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病が、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、及び脳血管れん縮からなる群より選択される疾病である、[1]の医薬組成物。
【0013】
[13]N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、並びに、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤のそれぞれの有効用量を投与することからなる、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法。
[14]N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、並びに、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤のそれぞれの有効用量を同時に、若しくは時間をあけて投与することを特徴とする、[13]の予防若しくは治療方法。
【0014】
[15]抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と併用することを特徴とする、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物を製造するための、N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩の使用。
[16]抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と併用することを特徴とする、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療のための、N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩の使用。
【0015】
[17]抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と併用することを特徴とする、N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩を有効成分とする、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物。
に関する。
【発明の効果】
【0016】
化合物A又はその塩、及び、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤を有効成分とする医薬組成物は、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防又は治療用医薬組成物として使用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
「血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病」には、虚血性脳疾患、急性及び慢性冠症候群、肺梗塞、肺塞栓、末梢動脈血栓症、末梢静脈塞栓症が含まれる。具体的には、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血管れん縮等の脳血管障害における疾病;心筋梗塞、不安定狭心症等の虚血性心疾患における疾病;肺梗塞、肺塞栓等の肺血管障害における疾病;末梢動脈閉塞症;深部静脈塞栓症;汎発性血管内凝固症候群;人工血管術後及び人工弁置換後の血栓形成症;冠動脈バイパス術後における再閉塞及び再狭窄、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)後の再閉塞及び再狭窄、血栓溶解剤投与後の再閉塞及び再狭窄等の再閉塞及び再狭窄;体外循環時の血栓形成症等の各種血管傷害における疾病;を挙げることができる。
【0018】
「抗血小板剤」としては、アスピリン;クロピドグレル、チクロピジン、プラスグレル等のチエノピリジン誘導体;シロスタゾール;ジピリダモール;リマプロストアルファデクス、ベラプロスト等のプロスタグランジン製剤;オザグレルナトリウム等のトロンボキサン合成酵素阻害剤;塩酸サルポグレラート等のセロトニン受容体拮抗剤;アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン等のGP IIb/IIIa阻害剤を挙げることができ、ある態様としてはアスピリン;クロピドグレル、チクロピジン、プラスグレル等のチエノピリジン誘導体;シロスタゾール;ジピリダモールである。別の態様としてはアスピリンであり、さらに別の態様としてはクロピドグレルである。
【0019】
「血栓溶解剤」としては、パミテプラーゼ、アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、ウロキナーゼを挙げることができ、ある態様としてはパミテプラーゼやアルテプラーゼであり、別の態様としてはパミテプラーゼであり、さらに別の態様としてはアルテプラーゼである。
【0020】
本発明の医薬組成物の有効成分である、化合物A又はその塩は、例えば前述の特許文献1に記載の方法、若しくは当業者にとって自明である方法又はそれらの変法によって入手可能である。
また、本発明の医薬組成物の有効成分である、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤は、市販品として入手可能である。
【0021】
「化合物A又はその塩」における塩は、その塩が製薬学的に許容されればいずれの形態でもよく、例えば特許文献1に記載の酸との付加塩を挙げることができ、具体的には例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等との酸付加塩を挙げることができる。また、本発明の医薬組成物の有効成分である、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤の形態としては、ある態様として以下を挙げることができる。アスピリン(フリー体)、硫酸クロピドグレル、塩酸チクロピジン、塩酸プラスグレル、シロスタゾール(フリー体)、ジピリダモール(フリー体)、リマプロストアルファデクス(フリー体)、ベラプロストナトリウム、オザグレルナトリウム、塩酸サルポグレラート、エプチフィバチド(フリー体)、塩酸チロフィバン、アブシキシマブ(フリー体)、パミテプラーゼ(フリー体)、アルテプラーゼ(フリー体)、モンテプラーゼ(フリー体)、ウロキナーゼ(フリー体)。
【0022】
さらに、「化合物A又はその塩」は、各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質であってもよく、それぞれ本発明の医薬組成物の有効成分に包含される。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物を含有する医薬組成物をも包含する。
【0023】
本発明のある態様を以下に示す。
【0024】
(1)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用される化合物A又はその塩が化合物Aマレイン酸塩である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0025】
(2)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるクロピドグレルが硫酸クロピドグレルである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0026】
(3)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用される化合物A又はその塩が、成人一人一日あたり、化合物Aマレイン酸塩に換算して10〜200 mgである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用される化合物A又はその塩が、成人一人一日あたり、化合物Aマレイン酸塩に換算して30〜120 mgである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0027】
(4)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるアスピリンが、成人一人一日あたり、10〜500 mgである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるアスピリンが、成人一人一日あたり、10〜100 mgである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0028】
(5)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるクロピドグレルが、成人一人一日あたり、硫酸クロピドグレルに換算して30〜500 mgである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるクロピドグレルが、成人一人一日あたり、硫酸クロピドグレルに換算して50〜300 mgである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0029】
(6)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるパミテプラーゼが、成人一人一日あたり、1,000,000〜10,000,000国際単位である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、使用されるパミテプラーゼが、成人一人一日あたり、2,600,000〜7,800,000国際単位である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0030】
(7)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病が、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血管れん縮である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病が、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血管れん縮等の脳血管障害における疾病である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。さらに別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病が、心筋梗塞や不安定狭心症等の虚血性心疾患における疾病、又は、冠動脈バイパス術後における再閉塞及び再狭窄、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)後の再閉塞及び再狭窄、血栓溶解剤投与後の再閉塞及び再狭窄等の再閉塞及び再狭窄である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。さらに別の態様としては、本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病が、末梢動脈閉塞症、人工血管術後及び人工弁置換後の血栓形成症である、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0031】
(8)本発明の医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用のうち、上記の(1)〜(7)のいずれか二以上の組み合わせである、医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法、あるいは、化合物A又はその塩の使用。
【0032】
なお、投与形態に関して、化合物A又はその塩とアスピリンの組み合わせの場合、ある態様としては、化合物A又はその塩とアスピリンとを含有する経口投与製剤である。別の態様としては、化合物A又はその塩を含有する経口投与製剤と、アスピリンを含有する経口投与製剤との併用である。
化合物A又はその塩とクロピドグレルの組み合わせの場合、ある態様としては、化合物A又はその塩とクロピドグレルとを含有する経口投与製剤である。別の態様としては、化合物A又はその塩を含有する経口投与製剤と、クロピドグレルを含有する経口投与製剤との併用である。
化合物A又はその塩とパミテプラーゼの組み合わせの場合、ある態様としては、化合物A又はその塩とパミテプラーゼとを含有する注射用液剤である。別の態様としては、化合物A又はその塩を含有する注射用液剤と、パミテプラーゼを含有する注射用液剤との併用である。さらに別の態様としては、化合物A又はその塩を含有する経口投与製剤と、パミテプラーゼを含有する注射用液剤との併用である。
【0033】
本発明の医薬組成物は、化合物A又はその塩、及び、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と、通常製剤化に用いられる、薬剤用担体、賦形剤、その他添加剤を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、又は坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。ある態様としては、経口投与を挙げることができ、別の態様としては、注射剤を挙げることができる。併用される場合の投与としては、経口投与と経口投与との併用、経口投与と注射剤との併用、若しくは注射剤と注射剤との併用を挙げることができる。
【0034】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、有効成分が少なくとも1種の不活性な賦形剤等と混合される。組成物は常法に従って、不活性な添加剤、例えば滑沢剤や崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0035】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0036】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0037】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0038】
本発明における併用は、同時投与、あるいは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与される場合には、配合剤、即ち、単一の製剤中に双方の有効成分を含む製剤であってもいいし、それぞれの有効成分について別個の製剤を用意し、それらを同時に服用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、化合物Aマレイン酸塩(compd AM)、硫酸クロピドグレル(CLO)若しくはアスピリン(ASA)を単独投与した場合、又は溶媒(MC)のみを投与した場合の血栓量(Protein content of thrombus)を示したグラフである。 表中、*はDunnett検定において、溶媒群に対し危険率5%未満で有意差のある群であることを示し、**はDunnett検定において、溶媒群に対し危険率1%未満で有意差のある群であることを示す。 結果は平均値及び標準誤差で示した(n=5)。
【図2】図2は、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の3〜30 mg/kgを併用投与した場合、又は硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgを単独投与した場合の血栓量(Protein content of thrombus)を示したグラフである。 表中、*はDunnett検定において、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kg群に対し危険率5%未満で有意差のある群であることを示す。 結果は平均値及び標準誤差で示した(n=5)。
【図3】図3は、アスピリン(ASA)100 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の3〜30 mg/kgを併用投与した場合、又はアスピリン(ASA)100 mg/kgを単独投与した場合の血栓量(Protein content of thrombus)を示したグラフである。 表中、*はDunnett検定において、アスピリン(ASA)100 mg/kg群に対し危険率5%未満で有意差のある群であることを示す。 結果は平均値及び標準誤差で示した(n=5)。
【図4】図4は、化合物Aマレイン酸塩(compd AM)、硫酸クロピドグレル(CLO)若しくはアスピリン(ASA)を単独投与した場合、又は溶媒(MC)のみを投与した場合の出血時間(Bleeding time)を、個体毎にプロットした図である。 図中の横線は各群の中央値を示す。
【図5】図5は、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の3〜30 mg/kgを併用投与した場合、又は硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgを単独投与した場合の出血時間(Bleeding time)を、個体毎にプロットした図である。 図中の横線は各群の中央値を示す。
【図6】図6は、アスピリン(ASA)100 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の3〜30 mg/kgを併用投与した場合、又はアスピリン(ASA)100 mg/kgを単独投与した場合の出血時間(Bleeding time)を、個体毎にプロットした図である。 図中の横線は各群の中央値を示す。
【図7】図7は、化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の30 mg/kg若しくはその溶媒を単独投与した場合、パミテプラーゼ(PAM)0.5 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の3〜30 mg/kg若しくはその溶媒を併用投与した場合の再灌流時間(Time to reperfusion)を、個体毎にプロットした図である。 図中の横線は各群の中央値を示す。 表中、**はSteel検定において、パミテプラーゼ0.5 mg/kgの単独投与群に対し危険率1%未満で有意差のある群であることを示す。
【図8】図8は、化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の30 mg/kg若しくはその溶媒を単独投与した場合、パミテプラーゼ(PAM)0.5 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩(compd AM)の3〜30 mg/kg若しくはその溶媒を併用投与した場合の頸部術創からの出血量(Blood loss)を示したグラフである。 表中、*はStudent t-検定において、溶媒群に対し危険率5%未満で有意差のある群であることを示す。 結果は平均値及び標準誤差で表示した(n=8)。
【実施例】
【0040】
本発明に係る医薬組成物の有効成分を併用した場合の薬理活性は、以下の試験により確認した。
【0041】
実施例1 抗血栓作用評価試験
ラット動静脈シャント血栓モデルを用いて抗血栓作用を検証した。
溶媒として0.5%メチルセルロース溶液を用い、硫酸クロピドグレル溶液、アスピリン懸濁液、及び化合物Aマレイン酸塩懸濁液を調製した。絶食させた雄性Wistar系ラットに、硫酸クロピドグレル溶液は血栓惹起2時間前に、アスピリン懸濁液は血栓惹起1時間前に、化合物Aマレイン酸塩懸濁液は血栓惹起30分前に経口投与した。血栓は以下の手順で惹起させた。ラットをウレタン麻酔下にて頸部を切開し、左頸動脈及び右頸静脈を約1 cm周囲組織より注意深く剥離した。剥離した動脈及び静脈間を以下の方法で短絡した。あらかじめ内部に9 cmの絹糸を挿入した10 cmのポリエチレンチューブ(SP67(内径0.97 mm、外径1.27 mm、夏目製作所、東京))の両端に12 cmのポリエチレンチューブ(PE50(内径0.58 mm、外径0.965 mm、Becton Dickinson、NJ、米国))を結合させたチューブを作製し、血栓惹起開始時間にその両端をそれぞれ剥離した動脈及び静脈に挿入することにより血液をチューブ内に灌流した。その後15分にチューブ内の絹糸を回収し、絹糸に接着した血栓を0.5 mol/L NaOHに溶解した。DC protein assay kit(BIO-RAD Laboratories)を用いて、手順書に従い蛋白定量した。形成された血栓の総蛋白量を抗血栓作用の指標とし、Dunnet検定を用いて各群間の有意差検定を行った。
【0042】
上記試験における血栓の総蛋白量の測定結果を図1〜3に示す。
図1に示すように、化合物Aマレイン酸塩 10及び30 mg/kg投与群、硫酸クロピドグレル1及び3 mg/kg投与群、アスピリン100及び300 mg/kg投与群においては、コントロール(溶媒群)(MC)に比べて統計学的に有意な抗血栓作用を示した。
また、図2に示すように、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩の30 mg/kgを併用した群は、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgの単独投与群に比べて統計学的に有意な抗血栓作用を示した。
さらに、図3に示すように、アスピリン(ASA)100 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩の30 mg/kgを併用した群は、アスピリン(ASA)100 mg/kgの単独投与群に比べて有意に血栓量が減少した。
以上から、化合物Aマレイン酸塩は、抗血小板剤である硫酸クロピドグレル及びアスピリンの抗血栓作用を有意に増強することが示された。即ち、化合物Aマレイン酸塩は、急性冠症候群などの動脈血栓症予防に広く用いられる抗血小板剤の併用薬として有用である。
【0043】
実施例2 出血時間測定試験
抗血小板剤単独及び化合物Aマレイン酸塩を併用した際の出血に対する影響を、template法を用いて、上記の抗血栓作用評価試験に付随して検討した。
実施例1に示す方法でチューブ内への血液の灌流を開始すると同時に、左足底部に出血時間測定用専用カッター(Surgicutt(登録商標)、International Technidyne、NJ、米国)にて切創を作成した。切創から漏出する血液を濾紙にて30秒毎に穏やかに拭き取った。濾紙に血液が付着する場合は出血が継続しているものと判定し、出血が止まるまでの時間を出血時間と定義した。出血時間の測定は最大15分間とし、最終測定時においても出血が認められた場合は、出血時間を15分とした。
【0044】
上記試験における出血時間の測定結果を図4〜6に示す。
図4に示すように、化合物Aマレイン酸塩及びアスピリンはそれぞれ30 mg/kg及び300 mg/kgまで有意な作用を示さなかったが、その一方、クロピドグレル硫酸塩は3 mg/kg投与群において、出血時間を延長させる傾向が認められた(P=0.09)。
また、図5に示すように、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩の3〜30 mg/kgを併用した群では、硫酸クロピドグレル(CLO)1 mg/kgの単独投与群と比較して有意な変化を示さなかった。
同様に、図6に示すように、アスピリン(ASA)100 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩の3〜30 mg/kgを併用した群では、アスピリン(ASA)の100 mg/kg単独投与群と比較して有意な変化を示さなかった。
以上から、化合物Aマレイン酸塩は、抗血小板剤である硫酸クロピドグレル又はアスピリンと併用しても、出血時間に対して影響を与えないことが示された。即ち、化合物Aマレイン酸塩は、抗血小板剤と併用しても出血に関わる副作用を生じにくく、抗血小板剤の併用薬として有用である。
【0045】
実施例3 血栓溶解作用評価試験
ラット塩化鉄惹起血栓モデルを用いて血栓溶解作用を検証した。
0.5%メチルセルロース溶液を用いて化合物Aマレイン酸塩懸濁液を調製し、0.35%ウシ血清アルブミン含有生理食塩水を用いてパミテプラーゼ溶液を調整した。絶食させた雄性Sprague-Dawley系ラットをウレタン麻酔下にて開腹し、十二指腸起始部に化合物Aマレイン酸塩懸濁液投与用のカニューレを挿入した。さらに、頸部を切開し、左頸動脈を約1.5 cm周囲組織より注意深く剥離した。剥離した血管の遠位部に血流測定用のプローブ(内径1 mm、DBF-10R、プライムテック株式会社、東京)を留置し,パルスドップラー血流測定装置(PDV-20、Crystal Biotech America、MA、米国)にて頸動脈血流量を記録した。血流の安定を確認後、35% FeCl3溶液を染み込ませた1 mm×1 mmの正方形の濾紙を血管表面に5分間留置することにより血栓を惹起した。頸動脈血流量が0になった時点を閉塞時間と判定し、その後5分に化合物Aマレイン酸塩懸濁液をカニューレより十二指腸内に投与するとともに、パミテプラーゼ溶液を大腿静脈より注入した。化合物Aマレイン酸塩又はその溶媒を投与した時点を0分とし、その後、血流の再開が認められた時点までの時間を再灌流時間と判定し、血栓溶解作用の指標とした。観察時間は最大60分間とし、最終測定時においても血流の再開が認められない場合は,再灌流時間を60分とした。
【0046】
上記試験における血栓溶解作用の測定結果を図7に示す。
図7に示すように、化合物Aマレイン酸塩の30 mg/kg及びパミテプラーゼ0.5 mg/kgの単独投与群は、コントロール(溶媒群)と比較して、有意な血栓溶解作用を示さなかったが、その一方、パミテプラーゼ0.5 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩の10又は30 mg/kgを併用した群は、パミテプラーゼ0.5 mg/kgの単独投与群に比べて有意に血栓溶解作用を促進した。
以上から、化合物Aマレイン酸塩は、血栓溶解剤であるパミテプラーゼの血栓溶解作用を有意に増強することが示された。即ち、化合物Aマレイン酸塩は,急性冠症候群などの動脈血栓症を発症した際に用いられる血栓溶解剤の併用薬として有用である。
【0047】
実施例4 出血量測定試験
(実験)
血栓溶解剤単独及び化合物Aマレイン酸塩を併用した際の出血に対する影響を、上記の血栓溶解作用評価試験に付随して検討した。
実施例3に示す方法で化合物Aマレイン酸塩懸濁液及びパミテプラーゼ溶液を投与後、頸部術創に生理食塩水で湿らせたガーゼを静置した。その後60分に術創に残っている血液を静かに拭き取り、Triton X-100(25%水溶液1 mL)にて回収した血液を溶解し、比色定量装置にて546 nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度は別途算出した検量線を用いて血液量に変換し、術創からの出血量の指標とした。
【0048】
上記試験における出血時間の測定結果を図8に示す。
図8に示すように、化合物Aマレイン酸塩の30 mg/kg単独投与群は、コントロール(溶媒群)と比較して有意な変化を示さなかったが、その一方、パミテプラーゼは0.5 mg/kgの単独投与群において有意な出血量の増加作用を示した。
また、図8に示すように、パミテプラーゼの0.5 mg/kgと化合物Aマレイン酸塩の3〜30 mg/kgを併用した群では、パミテプラーゼの0.5 mg/kg単独投与群と比較して有意な変化を示さなかった。
以上から、化合物Aマレイン酸塩は、血栓溶解剤であるパミテプラーゼと併用しても、出血時間に対して影響を与えないことが示された。即ち、化合物Aマレイン酸塩は、血栓溶解剤と併用しても出血に関わる副作用を生じにくく、血栓溶解剤の併用薬として有用である。
【0049】
実施例5 本発明に係るフィルムコート錠の製造(1)
ヒプロメロース(200部)を水(1800部)にエアーモーター撹拌機(AM-GC-1、中央理科社製)を用いて撹拌溶解して結合液を調製する。化合物Aマレイン酸塩(600部)、アスピリン(2000部)、及び乳糖(767部)を流動層造粒機(WSG-5、パウレック社製)に仕込み、混合後、前記結合液(1110部)を噴霧することにより造粒、乾燥し、造粒物を得る。乾燥した造粒物(3478部)にクロスカルメロースナトリウム(185部)、及びステアリン酸マグネシウム(37部)を添加し混合機にて混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HTP-22、畑鉄工所製)にて、直径10mmの杵、及び臼により打錠し、370 mgの錠剤を得る。この錠剤(3000部)をヒプロメロース(100.5部)、マクロゴール6000(18.8部)、タルク(30.2部)、酸化チタン(12.5部)、赤色三二酸化鉄(0.04部)を水(1457.6部)に溶解/分散させた液で通気式コーティング機(ハイコーターHCT-48、フロイント産業社製)を用いて、コーティング成分が錠剤重量の3.0%になるまでスプレーコーティングし、フィルムコート錠を得る。
【0050】
実施例6 本発明に係るフィルムコート錠の製造(2)
ヒプロメロース(200部)を水(1800部)にエアーモーター撹拌機(AM-GC-1、中央理科社製)を用いて撹拌溶解して結合液を調製する。化合物Aマレイン酸塩(1800部)、硫酸クロピドグレル(1125部)、及び乳糖(1443部)を高速攪拌造粒機(VG-25、パウレック社製)に仕込み、混合後、前記結合液(1440部)を添加することにより造粒し、流動層造粒機(WSG-5、パウレック社製)にて乾燥し造粒物を得る。乾燥した造粒物(3008部)にクロスカルメロースナトリウム(160部)、及びステアリン酸マグネシウム(32部)を添加し混合機にて混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HTP-22、畑鉄工所製)にて、直径9.5mmの杵、及び臼を用いて打錠し、320 mgの錠剤を得る。この錠剤(3000部)をヒプロメロース(100.5部)、マクロゴール6000(18.8部)、タルク(30.2部)、酸化チタン(12.5部)、赤色三二酸化鉄(0.04部)を水(1457.6部)に溶解/分散させた液で通気式コーティング機(ハイコーターHCT-48、フロイント産業社製)を用いて、コーティング成分が錠剤重量の3.0%になるまでスプレーコーティングし、フィルムコート錠を得る。
【0051】
実施例7 本発明に係るカプセル剤の製造(1)
化合物Aマレイン酸塩(2部)、アスピリン(5部)、及び乳糖(3部)を混合機(コンテナミキサー、ボーレ製)で混合する。この混合物600 mgを簡易カプセル充填機(プロフィル、カプスゲル社製)でカプセル(ゼラチンハードカプセル0号、カプスゲル社製)に充填し、カプセル剤を得る。
【0052】
実施例8 本発明に係るカプセル剤の製造(2)
化合物Aマレイン酸塩(12部)、硫酸クロピドグレル(15部)、及び乳糖(21部)を混合機(コンテナミキサー、ボーレ製)で混合する。この混合物240 mgを簡易カプセル充填機(プロフィル、カプスゲル社製)でカプセル(ゼラチンハードカプセル3号、カプスゲル社製)に充填し、カプセル剤を得る。
【0053】
実施例9 本発明に係る注射剤の製造(1)
パミテプラーゼを1.0 mg/mLの濃度で含む、5%ショ糖及び0.05%ポリソルベート80含有0.2 mol/Lのクエン酸ナトリウム水溶液(塩酸でpH 7.2に調整)を調整し、化合物Aマレイン酸塩を0.5 mg/mLの濃度に溶解する。この液をガラス製バイアルに4 mLずつ分注した後、凍結乾燥機(共和真空技術社製)を用いて用時溶解型の凍結乾燥品を得る。
【0054】
実施例10 本発明に係る注射剤の製造(2)
化合物Aマレイン酸塩を0.5 mg/mLの濃度で含む、5%ショ糖及び0.05%ポリソルベート80含有0.2 mol/Lのクエン酸ナトリウム水溶液(塩酸でpH 7.2に調整)を調整し、この液をガラス製バイアルに4 mLずつ分注した後、凍結乾燥機(共和真空技術社製)を用いて用時溶解型の凍結乾燥品を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、並びに、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤を有効成分とする医薬組成物。
【請求項2】
N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、及び、抗血小板剤を有効成分とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、及び、血栓溶解剤を有効成分とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗血小板剤が、アスピリン、クロピドグレル、チクロピジン、プラスグレル、シロスタゾール、又はジピリダモールである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
抗血小板剤が、アスピリン、又はクロピドグレルである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗血小板剤が、アスピリンである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
抗血小板剤が、クロピドグレルである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
血栓溶解剤が、パミテプラーゼ、アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、又はウロキナーゼである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
血栓溶解剤が、パミテプラーゼである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
さらに製薬学的に許容される賦形剤を含有する、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病が、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、及び脳血管れん縮からなる群より選択される疾病である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、並びに、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤のそれぞれの有効用量を投与することからなる、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療方法。
【請求項14】
N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩、並びに、抗血小板剤若しくは血栓溶解剤のそれぞれの有効用量を同時に、若しくは時間をあけて投与することを特徴とする、請求項13に記載の予防若しくは治療方法。
【請求項15】
抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と併用することを特徴とする、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物を製造するための、N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩の使用。
【請求項16】
抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と併用することを特徴とする、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療のための、N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩の使用。
【請求項17】
抗血小板剤若しくは血栓溶解剤と併用することを特徴とする、N-(3-ヒドロキシ-2-{[4-(4-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル)ベンゾイル]アミノ}フェニル)-4-メトキシベンズアミド又はその塩を有効成分とする、血栓若しくは塞栓によって引き起こされる疾病の予防若しくは治療用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−87082(P2012−87082A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234127(P2010−234127)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】