説明

血管プラーク画像診断装置

【課題】血管プラークの組織を非侵襲的に診断することができ、従来よりも簡便かつ正確に診断できる画像診断装置を提供する。
【解決手段】 加熱源3と、超音波送受機構と、超音波エコー信号を輝度情報に変換して測定領域の断層画像データを作成して表示装置12に表示するBモード信号処理部24と、先に加熱時超音波エコー信号を取得し、続いて加熱停止後超音波エコー信号を取得し、これら2つの超音波エコー信号に基づいて前記測定領域の各点における加熱ビーム停止前後の超音波速度変化を算出する超音波速度変化解析部25と、算出された超音波速度変化を画像化して前記断層画像データに重畳させて表示装置に表示する超音波速度変化画像重畳表示制御部26とを備え、超音波速度変化画像重畳表示制御部26は、前記超音波速度変化の画像における温度変化に対し負の超音波速度変化を示す領域を脂質性領域33として色表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内部における血管プラークの画像診断装置に関し、さらに詳細には、関心領域の血管に超音波等の加熱ビームを照射し、加熱前後の超音波速度変化を画像化したデータを利用して血管プラークの画像診断を行う新しい血管プラーク診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の内面にプラーク(動脈硬化病変)と呼ばれる異常組織が形成されることがあり、このプラークが何かの原因で剥がれることにより血栓が形成され、心筋梗塞や脳梗塞等の動脈硬化性疾患に至るようになることがある。そのため血管プラークの診断技術や治療技術の開発が進められている。
【0003】
血管プラークを診断する方法の1つに、超音波探触子付きカテーテルを血管内に導入して内側から超音波を送受し、血管内の超音波断層画像を撮影するIVUS(血管内超音波検査)が知られている。IVUSによる画像診断では、血管プラークの大きさや形状を観察することができる。しかしながら、IVUSはカテーテルを生体内に導入して行う侵襲的検査方法であるため、安全性の観点からは非侵襲的な検査方法で血管プラークを診断する方法が望まれている。
【0004】
また、血管プラークの診断においては、プラークの大きさや形状の情報が重要であることはもちろんであるが、それ以外に、血栓を形成しやすい(剥がれやすい)プラークであるか、それとも剥がれにくいプラークであるかを診断することも重要である。プラークの剥がれやすさに影響を及ぼす要因として、プラークを構成する組織の状態が重要であることが知られている。すなわち、プラークには脂質性組織(Lipid)のプラークと線維性組織(Fibrous)のプラークとがあり、前者は剥がれやすく、後者は剥がれにくい性質を有している。そこで血管プラークの位置や大きさを特定するだけでなく、それが脂質性組織であるか、線維性組織であるかを診断することが必要である。また、脂質性組織と線維性組織が混在するプラークの場合にはプラーク内における脂質性組織の分布状態から剥がれやすさを診断することが必要である。IVUSによる画像診断では血管プラークの大きさや形状を把握することは容易になしえるが、プラークの組織状態(脂質性か線維性か)やプラーク中の脂質性組織の分布状態まで診断することは困難である。
【0005】
プラークの組織状態を計測するための非侵襲的な検査方法として、超音波エコー信号の位相解析によって血管壁の弾性率を算出することにより、正常な組織の血管壁と粥腫が生じた血管壁との弾性率の差を求め、弾性率が組織状態によって異なることを利用して組織状態を診断する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
一方、血管のような線維性組織で形成されている組織とは組織自体が大きく異なる内臓についての脂肪検査では、筋肉内臓組織と脂肪組織との分布状態を診断している。筋肉内臓組織は、線維性組織と異なり水分を多く含んでいる。そのため、血管プラーク検査とは異なる診断方法で脂肪組織の診断がなされている。
【0007】
例えば、温度が37℃のとき、水分が多く含まれる筋肉や内臓を伝播する超音波の音速は1500m/秒以上である。これに対し、脂肪組織内を伝播する超音波の音速は1500m/秒以下であることから、被検体の測定部位(例えば腹部)を構成する組織の音速を計測して、音速が一定値(1500m/秒)以下であるかを判定することができれば、音速データから腹部脂肪分布を検出することができることになる。
そこで、超音波トモグラフィにより、筋肉内臓組織と脂肪組織との音速の差を利用して内臓脂肪を測定することが開示されている(非特許文献1参照)。
【0008】
また、脂肪検査の際に光照射による加熱機構を設け、測定領域に光を照射していないときと光照射後との超音波エコー信号の速度変化を算出して、光照射による測定領域の超音波速度変化分布の断層画像(光吸収分布の断層画像)を得ることが開示されている(特許文献3参照)。
【0009】
この超音波速度変化の断層画像(光吸収分布の断層画像)は、照射された光の吸収による測定領域の温度変化の断層画像を表している。つまり、生体内に光を照射したときに、それぞれの部位の光吸収特性に応じて生体内に温度分布が生じる。生体内を伝播する超音波の音速は、温度に依存して変化することから、光照射前と光照射後の超音波エコー信号の音速変化を各部位ごとに求めて断層画像化することにより、超音波速度変化分布、あるいは温度変化分布、光吸収分布の断層画像が表示されることになる。
【0010】
そこで、脂肪組織と筋肉・内臓組織とを通過する超音波の音速の温度変化特性を利用して、被検体の脂肪組織を検出することができる脂肪組織検出装置が提案されている(特許文献4参照)。
一般に、温度変化に対する超音波速度変化を比較すると、以下のとおりである。
水: +2 m/秒・℃
脂肪: −4 m/秒・℃
【0011】
すなわち、水分が多く含まれる筋肉や内蔵では、温度が上がると超音波速度が速くなるのに対し、脂肪部分では超音波速度が減少することになり、超音波速度変化の極性が反転する。そこで、近赤外光を照射していないときに被検体の測定領域から受波した非照射時超音波エコー信号、および、近赤外光照射後に測定領域から受波した光照射後超音波エコー信号を超音波探触子で受波する。続いて、非照射時超音波エコー信号と光照射後超音波エコー信号とに基づいて、測定領域における光照射前後の超音波速度変化データを算出する。そして、算出された超音波速度変化データから、光照射後に超音波速度が負の変化を示す領域を脂肪領域として検出するようにしている。
【0012】
一方、血管プラークを安定化させて「剥がれ」を防止する治療方法として、プラークが含まれる血管壁の部分に対し、硬化を引き起こすような高温での超音波加熱を行うことにより治療する方法が開示されている(特許文献5参照)。
超音波加熱によるプラーク治療方法では、例えば、プラークのタンパク質を約60℃から約80℃の間に1〜3分間加熱するようにして硬化させている。当該文献においては、超音波加熱によるプラークの治療についてのいくつかの先行技術文献を照会している。いずれもプラーク部分を、硬化、凝固、収縮させて変質させることにより治療を行うものであるため、変質させるために必要な温度として、少なくとも人の体温よりはるかに高い温度である45℃以上の加熱温度で加熱するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−229078号公報
【特許文献2】特開2007−000220号公報
【特許文献3】特開2001−145628号公報
【特許文献4】特開2008−080101号公報
【特許文献5】特表2010−518942号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Proceedings of Symposium on Ultrasonic Electronics, Vol.28,(2007),pp.339-340 14-16 November. 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
既述のように、非侵襲的な血管プラーク検査手法であって、しかも線維性組織と脂質性組織とを診断することができる方法としては、これまでに、弾性率を算出することで血管壁の組織を診断する方法が開示されているものの、血圧測定とともにわずかな血管壁の厚み変化の測定を行う必要があり、正確な測定を行うためには精密な測定と熟練を要していた。
そこで、本発明は、血管プラークの組織を非侵襲的に診断することができ、しかも、従来よりも簡便かつ正確に診断できる新たな画像診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、血管プラーク検査において、これまで筋肉組織と脂肪組織との組織の識別に用いられていた超音波速度変化を、繊維性組織と脂質性組織との識別に利用する。ただし、血管内は血液が流れているので、加熱ビームの照射によって血管を加熱しても、血流による冷却作用が働いてしまう。また、血管壁は線維性組織であって水分を多くは含まないので、温度変化しても超音波速度はあまり変化しない。そのため脂肪と筋肉との関係のように、組織の違いで超音波速度変化の極性が反転することにはならない。
そこで、本発明では、加熱ビームによる測定部位の血管への局所加熱に加えて、血管内を流れる血液による体温の冷却作用を利用して温度変化が急峻になるようにして、わずかな温度変化であっても、負の超音波速度変化を捉えることができるようにすることで、血管壁の一部に含まれる脂質性組織の領域を検出するようにしている。
【0017】
すなわち、上記課題を解決するためになされた本発明の血管プラーク画像診断装置は、血管内のプラークを含む測定領域を加熱することが可能な加熱ビームを照射する加熱源と、前記測定領域に超音波信号を送波するとともに、前記測定領域からの超音波エコー信号を受波する超音波送受機構と、受波した超音波エコー信号を輝度情報に変換して前記測定領域の断層画像データを作成して表示装置に表示するBモード信号処理部と、先に加熱ビームを照射し続けて温度が安定するまで加熱したときの前記測定領域から受波した加熱時超音波エコー信号を取得し、続いて加熱ビームの照射を停止した後の前記測定領域から受波した加熱停止後超音波エコー信号を取得し、これら2つの超音波エコー信号に基づいて前記測定領域の各点における加熱ビーム停止前後の超音波速度変化を算出する超音波速度変化解析部と、算出された超音波速度変化を画像化して前記断層画像データに重畳させて表示装置に表示する超音波速度変化画像重畳表示制御部とを備え、前記超音波速度変化画像重畳表示制御部は、前記超音波速度変化の画像における温度変化に対し負の超音波速度変化を示す領域を脂質性領域として色表示するようにしている。
【0018】
本発明によれば、測定しようとする部位の血管に加熱ビームを照射して温度変化を与え、加熱前後の超音波エコー信号を取得し、超音波エコー信号のシフト量から各点の超音波速度変化を計測する。この計測の際に、先に加熱ビームを照射し続けて血管壁を加熱する。加熱により血管壁の温度は上昇しようとするが、温度変化に対する防御的な生体反応により、血管を流れる血流量が増えて加熱された血管壁の温度変化を抑制しようとするようになる。そして、しばらく加熱を続けて、加熱ビームによる温度上昇作用と、血流量の増加による冷却作用とのバランスがとれるまで待つことにより、血管壁の温度が少し温度上昇した状態で一定温度に維持されるようになる。温度変化が安定した状態で、まず加熱時超音波エコー信号を取得する。
続いて、加熱ビームの照射を停止する。加熱停止直後の血流量はすぐには減少せず、増加した状態であるので、血管壁は大きな血流量による冷却作用で急峻に(微分的に)温度が低下するようになる。そこで、加熱停止後の短時間のうちに、加熱停止後超音波エコー信号を取得し、先に取得した加熱時超音波エコー信号との受信時間の差を算出することにより、血管壁の微分的な温度変化による超音波速度変化データを取得することができる。
その結果、超音波速度が温度変化によってあまり影響を受けない線維性組織の部分と、温度変化に対し負の変化を示す脂質性組織との部分との差異であっても、微分的な変化として検出することで、たとえ変化量が小さくても高感度に識別することができるようになる。
そして、加熱停止後の超音波エコー信号(あるいは加熱時超音波エコー信号)に基づいて作成した断層画像(Bモード画像上)を表示装置に表示するとともに、これに重畳して超音波速度変化画像を表示する。断層画像により、画像内の血管や血管プラークの大きさや形状を把握することができるようになり、これに超音波速度変化画像から脂質性組織差を色表示により重畳表示することで、血管プラーク内の脂質性組織の分布がはっきりと見られるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、血管プラークの組織を、体表外からの加熱ビーム照射による加熱と、非侵襲的な超音波計測とにより診断することができるので、被験者に負荷なく安全に診断を行うことができる。
また、本発明では、血流量が増加している状態で短時間のうちに計測するので、小さな温度変化でも簡単かつ高感度で計測することができる。
さらに本発明では、血管や血管プラークを通常の断層画像(Bモード画像)で表示し、超音波速度変化画像による脂質性組織の領域を色表示により重畳表示するようにしたので、脂質性組織とそれ以外(線維性組織)とを明確に識別することができる。
【0020】
上記発明において、加熱時超音波エコー信号は、測定領域の到達温度が40℃以下で、かつ、加熱前の測定領域の温度より1℃以上の上昇になる範囲で取得されるように照射エネルギー密度が設定された加熱ビームを照射するようにして行われることが好ましい。
測定領域の加熱による温度変化が1℃以上であれば、先に測定した加熱時超音波エコー信号と、続いて測定した加熱停止後超音波エコー信号との微分的変化を計測することで脂質性組織と線維性組織とを識別することができる。
さらに、加熱時の到達温度を40℃以下に限定することで、加熱により生体を損傷させるおそれはなくなる。具体的には、例えば体温が36℃である人は、到達温度37℃(体温36℃に最低昇温1℃を加算)〜40℃の範囲で加熱されることになる。
このような温度条件を満たす照射エネルギー密度は、測定領域の体表からの深さに依存する。そのため、あらかじめ、体表からの深さと照射エネルギー密度と上昇温度との関係を計測しておき、温度条件を超えない範囲で照射エネルギーを設定するようにすればよい。
【0021】
なお、加熱ビームは、照射エネルギー密度が1W/cm〜2W/cmの超音波ビームであってもよい。
照射エネルギー密度が1W/cm〜2W/cmの超音波ビームであれば、人に対し、少なくとも血管を含む測定領域を1℃以上加熱することができ、加熱時の到達温度を40℃以下に抑えることができる。
【0022】
上記発明において、さらに心電計を備えるとともに、加熱時超音波エコー信号と加熱停止後超音波エコー信号とは心電同期させて取得されるのが好ましい。
心電同期させた加熱時超音波エコー信号と加熱停止後超音波エコー信号との比較が行われれば、心拍によるノイズの影響を除去することができるようになる。
【0023】
上記発明において、表示装置の画面上に断層画像データおよび超音波速度変化画像データを重畳表示させた状態で、血管の内部領域、血管内の血管プラークの領域、血管プラーク内の脂質性組織の領域のうちの少なくとも2つの領域について指定する入力操作を待ち受ける血管プラーク関心領域指定部と、待ち受け中に入力された2つの領域の面積比から血管プラークの危険度に関する指標を算出する危険度算出部とを備えるようにしてもよい。
ここで、血管プラーク関心領域指定部は、血管内の血管プラークの領域が入力されたときに、当該血管プラークの領域内で、負の超音波速度変化を示す領域を脂質性組織の領域として自動識別し、危険度算出部は血管プラークの領域と自動識別された脂質性組織の領域との面積比から危険度に関する指標を算出するようにしてもよい。
これらにより、重畳表示された画像から、血管プラークの領域/血管の内部領域(血管の断面積)、または、脂質性組織の領域/血管の内部領域、または、脂質性組織の領域/血管プラークの領域のような血栓が形成される危険度に関係する情報を数値情報として取得することができるので、危険度を客観的に診断する上で役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である血管プラーク画像診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】画像診断を行う際の操作を説明するタイムチャートである。
【図3】エコー信号に基づいて作成される断層画像と超音波速度変化画像と重畳表示画像の模式図である。
【図4】血管の内部領域、血管プラーク、脂質性組織の領域を指定するときの画面を示す図である。
【図5】加熱時(昇温後安定状態)の超音波エコー信号と、加熱停止後(温度降下後)の超音波エコー信号とを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の血管プラーク画像診断装置の一実施形態について図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、加熱ビームとして、超音波ビームを用いて測定部位を加熱するものとする。
超音波加熱によれば照射深さを調整できるので、体表近くの血管のみならず、体内深部の血管の加熱も容易になしえる。なお、頸動脈等の体表近傍の血管を加熱する場合は、超音波ビームに代えて近赤外光の照射による加熱方法を採用することもできる。
【0026】
一般に超音波画像診断装置は、元々、診断用の超音波断層画像を撮影する超音波送受機構を備えており、また本発明では測定領域の加熱に必要な超音波のエネルギー密度も小さいので、画像撮影用の超音波送受機構を加熱用に兼用することができるが、ここでは説明の便宜上、別途に加熱専用の超音波加熱機構を設けているものとし、必要に応じて兼用する場合の説明を加えるようにしている。
【0027】
(超音波速度変化の測定原理)
最初に血管プラーク画像診断装置で表示する超音波速度変化画像の測定原理について説明する。この超音波速度変化のデータは以下の関係から求められる。
図5は、加熱時(昇温後安定状態)の超音波エコー信号と、加熱停止後(温度降下後)の超音波エコー信号とを示す模式図である。
加熱時(昇温後安定状態)の超音波エコー信号速度をV’とし、 加熱停止後(温度降下後)の超音波エコー信号速度をVとする。また、加熱停止後(温度降下後)に、ある境界間を超音波信号が伝播するときの時間をτとし、同じ境界間(距離一定)を加熱時(昇温後安定状態)に超音波信号が伝播する時間をτ−Δτとする。すなわち、加熱ビームの照射により昇温しておき、その後加熱ビームの照射を停止したときに、温度降下によりΔτだけパルス間隔が長くなるようにシフトしたとする。
このとき、
V・τ=V’・(τ−Δτ) ・・・(1)
の関係が成立し、したがって、2つのエコー信号におけるパルス間隔の時間変化から超音波速度変化は次式で算出することができる。
V’/V=τ/(τ−Δτ) ・・・(2)
【0028】
実際の超音波速度変化データの計算方法についての具体的な説明は省略するが、測定した超音波エコー信号を細かく区分し、各区分に対し、相互相関法により加熱用超音波ビーム照射停止前後の波形シフト量を算出することにより、各区分の超音波速度変化データを取得することで各点の超音波速度変化データを算出するようにしている。
【0029】
既述のように、温度変化に対する超音波速度変化は、脂肪は−4m/秒・℃であるので、血管プラークのうち脂質性組織の領域では温度が降下すると超音波速度が増大することになる。
算出された超音波速度変化データから、加熱時と加熱停止後との間に、(温度降下により)超音波速度が増加を示す領域を脂質性組織の領域として検出する。
すなわち、式(2)で求められた超音波速度比が1より大きいか小さいかを判断することにより、1より小さければ、その領域は温度変化に対する超音波速度変化が負になる脂質性組織の領域として検出する。
【0030】
(血管プラーク画像診断装置の構成)
次に、血管プラーク画像診断装置の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態である血管プラーク画像診断装置の構成を示すブロック図である。
血管プラーク画像診断装置1は、主に、診断用に用いるアレイ型探触子2および加熱源3(超音波加熱源)からなるプローブ4と、アレイ型探触子2を駆動する送受信部5と、加熱源3を駆動する送信部6と、心電計7と、制御系10と、DSC11(デジタルスキャンコンバータ)と、表示装置(液晶パネル)12と、入力装置13(キーボード13aおよびマウス13b)とを備えている。なお、頸動脈のように測定部位110が体表から浅い場合は、加熱源3および送信部6による超音波加熱に代えて、赤外線光源(700nm〜1000nmの近赤外光)を用いた加熱源にしてもよい。
【0031】
制御系10は、CPU、メモリを有するコンピュータ装置からなり、メモリに蓄積されたソフトウェアプログラムをロードすることにより制御動作が作動し、血管プラーク画像診断装置1の各部を制御するとともに、計測された測定データの演算を行うようになる。これらの制御、演算を機能ブロックごとに分けて説明すると、加熱制御部21、走査制御部22、心電同期部23、Bモード信号処理部24、超音波速度変化解析部25、超音波速度変化画像重畳表示制御部26、血管プラーク関心領域指定部27、危険度算出部28からなる。
【0032】
プローブ4は、アレイ型探触子2と加熱源3とが一体に固定してあり、被検体100内部の測定部位110である所定の血管(例えば冠動脈)に向けて、体表の外側から画像診断用超音波と加熱用超音波とを、同時または交互に照射することができる。
アレイ型探触子2は、一列に配列された複数の振動子を有しており、各振動子は、送受信部5からの駆動信号により、順送りで励振されて1つずつ超音波信号を発し、この超音波信号に対する被検体100内からの超音波エコー信号を送受信部5に返す。
【0033】
加熱源3も、アレイ型探触子2と同様、一列に配列された複数の振動子を有している。各振動子は、送信部6からの駆動信号によって一斉に励振されて超音波を発することにより、昇温に必要な超音波エネルギーを測定部位110に与える。具体的には1W/cm〜1.5W/cm程度のエネルギー密度に設定された超音波加熱ビームを連続して照射する。被照射領域の血管では、加熱の影響と、血流量の増加による冷却作用とのバランスにより少し昇温され、測定に必要な1℃〜2℃程度の昇温加熱が実現される。
なお、超音波エネルギー密度を1.5W/cm以上に設定すればさらに昇温させることもできるが、安全のため測定領域が40℃以上に昇温しないように超音波エネルギー密度の上限値(例えば2W/cm)を設定し、これ以下で使用するようにする。
【0034】
本実施形態では診断用のアレイ型探触子2と、超音波加熱用の加熱源3とを別に設けるようにしている。そのため、超音波加熱と超音波診断(計測)とを独立に制御することができるが、1つのアレイ型探触子2を診断用と加熱用とで兼用してもよい。その場合は、超音波加熱(送波のみ)と超音波診断(送波と受波)とを交互に行う。
【0035】
心電計7は、診断用の超音波信号、超音波エコー信号を送受信する際に、心電同期させるための同期信号を発する。これにより、心拍に対して一定のタイミングで受信することができるようになり、心拍に由来する動きの影響やノイズの影響を除去することができる。
【0036】
次に制御系10について説明する。
加熱制御部21は、送信部6から発する駆動信号を制御して、加熱源3から、あらかじめ設定した超音波エネルギー密度(例えば1W/cm)で超音波ビームを照射して被検体を超音波加熱する制御を行う。なお、測定部位110の上昇温度は、超音波エネルギー密度および照射時間に関係するので、入力装置13によりビーム出力(エネルギー密度)、照射面積、照射時間をあらかじめ設定しておく。
【0037】
走査制御部22は、送受信部5からの駆動信号を制御して、アレイ探触子2から、複数(例えば345本)の走査線となる超音波信号を送受する制御を行う。
送受信部5を介して受信した超音波エコー信号は、メモリに蓄積され、後述するBモード信号処理部24、超音波速度変化解析部25に送られて処理される。
【0038】
心電同期部23は、心電計7で計測された心電図のR波を基準に特定のタイミングで超音波信号を発生することにより、画像診断に用いる超音波エコー信号を心拍に同期させて採取する制御を行う。
【0039】
なお、超音波速度変化画像を得るために、加熱制御部21と走査制御部22とは連携した制御が行われる。すなわち、まず、測定部位110が1℃〜2℃安定的に昇温するように時間をかけて(例えば1分)加熱制御部21による加熱を行い、温度が安定した状態になると走査制御部22が昇温状態での測定部位110の超音波エコー信号を取得する制御を行う。続いて加熱制御部21は加熱を停止し、測定部位110の温度が降下した時点(例えば2−3秒経過時点)で走査制御部22が超音波エコー信号を取得する制御を行う。採取した2つの超音波エコー信号は後述する超音波速度変化解析部25に送られる。
【0040】
Bモード信号処理部24は、受波したエコー信号を輝度情報に変換して、周知のBモード断層画像データを作成し、DSC11に書き込む処理を行う。作成されたBモード画像データを表示装置12に表示することにより、測定部位110のBモード断層画像が表示される。
【0041】
超音波速度変化解析部25は、受信した加熱時と加熱停止後との2つの超音波エコー信号に基づいて、式(2)の演算処理を行い、走査範囲の各点の超音波速度変化を算出する。算出された超音波速度変化のデータは、超音波速度変化画像重畳表示制御部26に送られる。
【0042】
超音波速度変化画像重畳表示制御部26は、走査範囲の各点について画像化する処理を行う。超音波速度変化の正負の違いを明確にするため、画像化の際に、速度変化の正負を色分け表示した分布像をDSC11に書き込み、表示装置12に表示させる制御を行う。なお、色分けの際に、速度変化の大小により細かく色分けしてもよい。
このとき、温度変化に対し負の速度変化を示す領域(すなわち脂質性組織の領域)を抽出し、加熱停止後に撮像したBモード断層画像(加熱時のBモード断層画像でもよい)に重畳表示させる制御を行うようにする。
【0043】
すなわち、血管プラークは脂質性組織と線維性組織とからなり、脂質性組織については負の速度変化を示すため、速度変化が負となる範囲として明確に表示されるが、線維性組織は水分を含まず速度変化が小さいので、速度変化画像上では分布像が表示されにくい。また、血管を流れる血液についても、たとえ加熱されても測定領域から流れていくので温度変化が生じず、速度変化画像上では分布像が表示されにくい。つまり、血管周囲の速度変化画像上では、脂質性組織の血管プラーク以外の領域は表示されにくい。
【0044】
そこで、血管壁や繊維性組織の血管プラークの大きさや形状を表示するために、エコー信号から超音波断層画像を表示し、これに負の速度変化を示す脂質性組織を重畳表示することで、血管壁の領域や血管プラークの領域と、血管プラーク内の脂質性組織の領域との位置関係や状態が明確に表示されるようにしている。
【0045】
血管プラーク関心領域指定部27は、表示装置12の画面上に血管の断層画像(Bモード断層画像)および超音波速度変化画像を重畳表示した状態で、血管の内部領域、血管内の血管プラークの領域、血管プラーク内の脂質性組織の領域のうちの2つの領域についての指定の入力操作を待ち受ける制御を行う。
また、危険度算出部28は、血管の内部領域、血管内の血管プラークの領域、血管プラーク内の脂質性組織の領域、のうちの2つの領域についての指定の入力操作を待ち受けている際に、入力操作によりこれらのうち2つの領域を指定する入力が行われると、指定された2つの領域の面積比から血管プラークの危険度に関する指標を算出する処理を行う。
「血管の内部領域」の入力は、血管の断面に表示される内壁面をマウス等により描くことにより指定される。
「血管内の血管プラークの領域」の入力は、同様に血管壁に形成されている血管プラークの外周をマウス等により描くことにより指定される。
「血管プラーク内の脂質性組織の領域」の入力は、血管プラークの位置に色表示で表示されている負の速度変化領域をマウス等により描くことにより指定される。
なお、脂質性組織の領域は血管プラーク内に存在するものであり、負の速度変化領域は速度変化画像で色表示されている領域であるので、血管プラークを指定しさえすれば、(血管以外の脂肪領域は除外されるので)、その領域内で負の速度変化をする領域を算出データに基づいて自動的に指定することができる。
【0046】
そして、入力された領域の種類により以下の面積比の指標値A,B,Cが算出される。
A=血管プラーク内の脂質性組織の領域/血管内の血管プラークの領域
B=血管内の血管プラークの領域/血管の内部領域
C=血管プラーク内の脂質性組織の領域/血管の内部領域
これらの指標値の1つだけを算出して危険度を判断することもできるし、複数算出して総合的に危険度を判断することもできる。
【0047】
(測定動作)
次に、この血管プラーク画像診断装置1による測定動作について説明する。図2は画像診断を行う際の操作を説明するタイムチャートである。
あらかじめ、関心部位(測定領域)の血管の断面像が撮像できるように、プローブ4の体表への当接位置や方向を調整しておく。また心電図から心電同期を行うためのトリガ信号とするR波が得られるように、心電計7も作動させておく。
【0048】
測定を開始すると、最初に加熱源3から1W/cmのエネルギー密度で加熱ビームを照射し、血管プラークを含む血管周辺が1℃から2℃程度昇温した状態で安定するまで待つ。温度が安定したかは照射時間で判断するのが簡便でよいが、体表温度を測定して安定状態かを判断するようにしてもよい。
【0049】
加熱安定状態が確認されると、超音波診断を行うため、1回目の計測指令信号Aを発する。この計測指令信号Aが発せられた直後の最初のR波をトリガR1とし、この時点から特定のタイミングで診断用超音波信号が発振され、そのエコー信号が順次受信される。このときのエコー信号が「加熱時超音波エコー信号」としてメモリに蓄積される。
【0050】
続いて、加熱ビームを停止する。加熱停止直後は、まだ血流が増加したままでいるので血管は急激に冷却されるようになる。したがって、加熱停止後、2−3秒で超音波診断のための2回目の計測信号Bを発する。この計測信号Bが発せられた直後の最初のR波をトリガR2とし、1回目と同じ特定タイミングで診断用超音波信号が発振され、そのエコー信号が順次受信される。このときのエコー信号が「加熱停止後超音波エコー信号」としてメモリに蓄積される。
【0051】
次に、これらのエコー信号に基づいて断層画像と超音波速度変化画像とを作成する。まず、加熱停止後超音波エコー信号(あるいは加熱時超音波エコー信号)を用いて、これを輝度変換し、断層画像(Bモード画像)とする。
図3(a)は、断層画像の一例を示す模式図である。断層画像からは、血管30内の血管壁31の一部に、血管プラーク32が形成されている画像が確認できる。ただし、断層画像からは血管プラークの組織について
十分には確認できない。
【0052】
そこで、加熱時超音波エコー信号と加熱停止後超音波エコー信号とを用いて、各点での式(2)の演算を行い、超音波速度比(V’/V)を算出して超音波速度変化画像の表示を行う。このとき超音波速度比が1以下(すなわち超音波速度変化が負)の値の点は脂質性組織であることを示す色表示を行う。超音波速度比が1以下とならない部分については、断層画像に重畳表示する場合は表示しないようにする。図3(b)は超音波速度比が1以下となる部分を色表示し、その他を表示しないようにした超音波速度変化画像の一例を示す模式図である。超音波速度比が1以下となる脂質性組織33の部分が色表示されている。
なお、超音波速度変化画像だけを表示するときは、超音波速度変化が負となる部分だけでなく、正の部分も含めて全体を表示すればよい。
【0053】
続いて、作成した断層画像と超音波速度変化画像とを重畳表示する。図3(c)は2つの画像を重畳表示したときの一例を示す模式図である。重畳表示により、血管プラーク32のうち脂質性組織33の領域が色分けされて表示されるようになり、線維性組織と識別が容易になる。
【0054】
(画像診断)
次に、重畳表示画像を用いた画像診断の動作について説明する。
図3(c)に示す重畳表示画像が表示された状態で、マウス13bにより、血管内面、血管プラーク、脂質性組織の領域をなぞるようにして境界を描く操作を行って、図4に示すように、血管の内部領域L1、血管プラークの領域L2、脂質性組織の領域L3を指定する。
続いて、危険度を算出する演算を行うことにより、以下の指標A,B,Cが数値情報として算出される。
A=血管プラーク内の脂質性組織の領域/血管内の血管プラークの領域
B=血管内の血管プラークの領域/血管の内部領域
C=血管プラーク内の脂質性組織の領域/血管の内部領域
この数値を参照することにより、例えば過去に測定したデータとの比較を行うことにより、プラークの状態変化を判定したりすることができ、現在の危険度を診断することができる。
【0055】
なお、血管プラークの領域L2を指定すれば、脂質性プラークの領域はその領域内における負の超音波速度比の領域を抽出すればよいので、脂質性組織の領域L3については自動的に検出させてもよい。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に限定されるものでなく、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、血管プラークを画像診断する血管プラーク画像診断装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1: 血管プラーク画像診断装置
2: アレイ型探触子
3: 加熱源(超音波発振装置)
4: プローブ
7: 心電計
10: 制御部
11: DSC(画像表示制御部)
12: 表示装置(液晶パネル)
13: 入力装置(マウス、キーボード)
21: 加熱制御部
22: 走査制御部
23: 心電同期部
24: Bモード信号処理部
25: 超音波速度変化解析部
26: 超音波速度変化画像重畳表示制御部
27: 血管プラーク関心領域指定部
28: 危険度算出部
30: 血管
31: 血管壁
32: 血管プラーク
33: 脂質性組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内のプラークを含む測定領域を加熱することが可能な加熱ビームを照射する加熱源と、
前記測定領域に超音波信号を送波するとともに、前記測定領域からの超音波エコー信号を受波する超音波送受機構と、
受波した超音波エコー信号を輝度情報に変換して前記測定領域の断層画像データを作成して表示装置に表示するBモード信号処理部と、
先に加熱ビームを照射し続けて温度が安定するまで加熱したときの前記測定領域から受波した加熱時超音波エコー信号を取得し、続いて加熱ビームの照射を停止した後の前記測定領域から受波した加熱停止後超音波エコー信号を取得し、これら2つの超音波エコー信号に基づいて前記測定領域の各点における加熱ビーム停止前後の超音波速度変化を算出する超音波速度変化解析部と、
算出された超音波速度変化を画像化して前記断層画像データに重畳させて表示装置に表示する超音波速度変化画像重畳表示制御部とを備え、
前記超音波速度変化画像重畳表示制御部は、前記超音波速度変化の画像における温度変化に対し負の超音波速度変化を示す領域を脂質性領域として色表示することを特徴とする血管プラーク画像診断装置。
【請求項2】
前記加熱時超音波エコー信号は、測定領域の到達温度が40℃以下で、かつ、加熱前の測定領域の温度より1℃以上の上昇になる範囲で取得されるように照射エネルギー密度が設定された加熱ビームを照射するようにして行われることを特徴とする請求項1に記載の血管プラーク画像診断装置。
【請求項3】
前記加熱ビームは、前記照射エネルギー密度が1W/cm〜2W/cmの超音波ビームである請求項2に記載の血管プラーク画像診断装置。
【請求項4】
さらに心電計を備えるとともに、前記加熱時超音波エコー信号と前記加熱停止後超音波エコー信号とを心電同期させて取得する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の血管プラーク画像診断装置。
【請求項5】
前記表示装置の画面上に前記断層画像データおよび前記超音波速度変化画像データを重畳表示させた状態で、血管の内部領域、血管内の血管プラークの領域、血管プラーク内の脂質性組織の領域のうちの少なくとも2つの領域について指定する入力操作を待ち受ける血管プラーク関心領域指定部と、
待ち受け中に入力された2つの領域の面積比から血管プラークの危険度に関する指標を算出する危険度算出部とを備えた請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血管プラーク画像診断装置。
【請求項6】
血管プラーク関心領域指定部は、血管内の血管プラークの領域が入力されたときに、当該血管プラークの領域内で、負の超音波速度変化を示す領域を脂質性組織の領域として自動識別し、前記危険度算出部は血管プラークの領域と自動識別された脂質性組織の領域との面積比から危険度に関する指標を算出する請求項5に記載の血管プラーク画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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