説明

衣服

【課題】 保温性の調節を可能とすることで使い勝手の良好な衣服の提供。
【解決手段】 筒状部の生地の丈方向途中に、生地を絞ることができるように紐状体が取付けられ、該紐状体の端部側に、生地を絞った状態で紐状体の端部側を生地に固定するための固定手段が設けられている衣服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服、特に上衣の改良に関し、防寒に適した防寒用上衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の衣服を着用すると、例えば上衣における袖部について、図5に示すように上衣50と腕R(内側に他の衣服を着用している場合にはその衣服)との間には空気層Vが形成される。空気層Vは断熱効果を有しているため、
この空気層Vが形成されることによって保温効果が得られ、特に、衣服を重ね着する場合には空気層Vが幾層にも形成されるため保温効果が大きい。
【0003】
しかるに従来の衣服の場合、腕Rの外側に単に衣服50が重なり合っているだけであるため、その間に形成された空気層において空気の移動が大きく、この空気の移動に伴って放熱ロスも大きくなるという問題があり、保温性の更なる改良が求められていた。
【0004】
この点を解決するために、例えば下記特許文献1に示すような衣服が提案されている。この特許文献1に示す衣服では、その筒状部分に、該筒状部分が部分的に周方向に縮むように、伸縮自在な紐状体が周方向に沿って伸張状態で取付けられている。
この構成において、紐状体によって衣服が周方向に縮むことにより、衣服の内側に形成される空気層において空気の移動が抑制され、空気の移動に伴う放熱ロスが低減される結果、保温性が向上する。
【特許文献1】特開2003−27302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の衣服では保温性は向上するが、紐状体が周方向に沿って伸張状態で取付けられているから、紐状体はその弾性復元力により常に衣服の生地を縮ませる状態にある。
ところで、外気温は温度変化するものであるから、衣服の着用者は外気温に応じて衣服の保温状態を調節できることが望ましい。しかしながら上記従来の衣服では紐状体は、その弾性復元力により常に衣服の生地を縮ませる状態にあるため、着用者が任意に保温性を調節することができないという不都合があった。
【0006】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、保温性の調節を可能とすることで使い勝手の良好な衣服の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、衣服の筒状部の生地の丈方向途中に、生地を同方向に絞り調節可能にするように、前記筒状部の周方向に廻された紐状体が設けられていることを特徴とする衣服である。
【0008】
上記構成において、紐状体の筒状部周りの長さを調節することで生地の絞り量を調節して装着者の人体側に接触する生地の量あるいはその接触圧を調節することで、外気温に応じて衣服の保温性を調節するようにする。
【0009】
本発明は、衣服の筒状部の生地の丈方向途中に、前記筒状部の周方向に廻され且つ前記生地を周方向で絞って縮径可能とする紐状体が丈方向に対で設けられ、各紐状体どうしはその長さ方向途中が互いに丈方向で離間するとともに端部側が丈方向で接近されており、紐状体を縮径した状態を保持すべく紐状体の端部側を生地側に固定するための固定手段が該紐状体の端部側に設けられていることを特徴とする衣服である。
【0010】
上記構成において、紐状体はその長さ方向途中では互いに丈方向に離間しているが、その端部側では丈方向に接近しているから、衣服の着用者は端部側を手指で把持して各紐状体の全部を一度に縮径するよう操作することが可能であり、着用者が生地を絞るように紐状体を縮径して人体を紐状体で締めると、着用者の人体側と生地との間に、紐状体間において丈方向および周方向に広がる空気層が区画されるように形成され、この区画された空気層での空気の移動は抑制されるから、空気の移動に伴う放熱ロスが軽減されて保温性が向上する。
【0011】
特に、着用者は外気温に応じて紐状体の縮径量を調節することで人体側と生地の接触量(絞り量)を任意に調節することで紐状体間において形成される空気層における空気の移動量を調節することが可能であり、しかも、固定手段によって紐状体をその両端部側の所定位置で生地と固定することにより、外気温に応じて適度な調節が可能である。
【0012】
本発明の衣服では、各紐状体を挿通してこれを生地に取付けるための紐通し部が該生地に設けられ、各紐状体の端部側は各紐通し部の端部から導出されており、該導出された部分に固定手段が設けられていることを特徴としている。
【0013】
上記構成において、着用者が紐通し部から導出(露出)されている紐状体の端部側を手指で把持して紐状体を縮径することで紐通し部を絞ると、生地は紐状体によって案内されるようにして円滑に絞られ、紐通し部から導出されている紐状体の端部側を固定手段によって生地に固定することで、生地の所望の絞り量が保持される。
【0014】
本発明の衣服では、各紐通し部は筒状部としての胴部の生地に設けられ、前記各紐通し部は胴部の背側で丈方向に離間し胴部の前側で接近して、紐状体の端部側が各紐通し部の端部から導出されていることを特徴としている。
【0015】
上記構成において、着用者が衣服を着用して紐通し部の端部から導出されている紐状体の端部側を手指で把持して紐状体を縮径すると、着用者の体(胴体)側と生地との間の紐状体間に空気層が形成されてその空気層の空気は上方に移動するのが抑制され、しかもその空気層よりも下にある空気が、該空気層により上方へ移動するのが邪魔されて保温性が向上する。
【0016】
また、この構成によれば、紐状体を縮径することで形成される空気層は、人体の背側でその丈方向が長く、人体の横腹側、人体の前腹側に至るにしたがって丈方向に小さくなる平面視して略円筒状の空気層となる。衣服を着用した着用者の姿勢として、一般に背側を後ろにして反る姿勢は頻繁には行わず、むしろ前傾の姿勢や横倒しの姿勢の方が頻繁にとられる姿勢である。
【0017】
本発明の衣服では、紐状体を縮径することで形成される空気層は、人体の背側でその丈方向が長く、人体の横腹側、人体の前腹側に至るにしたがって丈方向に小さくなる形状となる。すなわち、着用者が前傾の姿勢や横倒しの姿勢をとる際には人体側と生地とで形成される空気層は邪魔になりにくく、しかも人体において占める面積が大きく保温特性の優劣が体感的に把握され易い部分である背側では、空気層は丈方向に長いから、保温性が良好である。
【0018】
本発明の衣服では、各紐通し部は生地の裏側で紐状体を挿通するよう設けられ、各紐通し部の端部から導出された各紐状体の端部側の部分を挿通する共通の挿通孔が生地に設けられていることを特徴としている。
【0019】
上記構成において、紐通し部の端部から導出した各紐状体の端部側の部分をまとめるようにして共通の挿通孔から導出していることで、複数本の紐状体をまとめて操作することが可能となるから、操作性が向上する。
【0020】
本発明の衣服では、紐状体はゴム紐からなることを特徴としている。
上記構成においては、紐状体の端部側を引くようにすれば、紐状体と生地とが相対的に且つ容易に移動して絞り部分が作られる。
【0021】
本発明は、衣服の生地の互いに離間した二箇所間を絞り調節可能なように前記二箇所間を通る紐状体が設けられていることを特徴とする衣服である。
この構成において、着用者は生地を紐状体の二箇所間で絞ることで、生地を装着者の人体側に紐状体部分でその接触する量あるいはその接触圧を調節して、外気温に応じて衣服の保温性を調節するようにする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の衣服では、筒状部の生地の丈方向途中に、生地を同方向に絞り調節可能にするように、筒状部の周方向に廻された紐状体が設けられているから、紐状体の筒状部周りの長さを調節することで生地の絞り量を調節して装着者の人体側に接触する生地の量あるいはその接触圧を調節することができ、外気温に応じて衣服の保温性を調節することができ、使い勝手が良好となる。
【0023】
本発明の衣服によれば、紐状体はその長さ方向途中では互いに丈方向に離間しているがその端部側では丈方向に接近しているから、衣服の着用者は端部側を手指で把持して各紐状体の全部を一度に縮径するよう操作することができて操作性に優れ、着用者が生地を絞るように紐状体を縮径して人体を紐状体で締めると、着用者の人体側と生地との間に、紐状体間において丈方向および周方向に広がる空気層が区画されるように形成され、この区画された空気層での空気の移動は抑制されるから、空気の移動に伴う放熱ロスを軽減して保温性を向上させることができる。
【0024】
また、着用者は外気温に応じて紐状体の縮径量を調節することで人体側と生地の接触量を任意に調節することで紐状体間において形成される空気層における空気の移動量を調節することができ、しかも、固定手段によって紐状体をその両端部側の所定位置で生地と固定することにより、外気温に応じて適度な調節ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る衣服の実施形態を、図1ないし図6に基づいて説明する。これらの図に示す衣服は主として防寒用の上衣であり、特に重ね着をした場合、最も外側に着用されるものである。
【0026】
図1に示すように、この防寒用の上衣は長袖タイプであり、左右一対の前身ごろ1,1と、後身ごろ2と、長袖状の両袖部3,3とを備えている。前身ごろ1,1どうしを前側で連結する前合わせ部4は、スライドファスナ20を備えており、このスライドファスナ20によって両前身ごろ1,1どうしを連結、離反させることができる。そして、前身ごろ1,1どうしが前合わせ部4で連結されると、上衣の胴部5は筒状となる。なお、上衣は筒状部として両袖部3,3と胴部5の合計3箇所を有しており、これら筒状部の開口部は両袖口6,6、首部7、および袖部3である。
【0027】
かかる上衣は、表地10と裏地9とから多層構造となっている。裏地9は胴部5のみならず袖部3にも設けられており、表地10の裏側略全体を覆っている。表地10は防水性を有することが好ましい。
【0028】
裏地9は所定の通気性を有することが好ましく、例えば、ポリエステルの生地が使用され、特に、50デニール×75デニールのものが好ましい。裏地9の外面、すなわち着用者の人体21側の面はステンレスやチタン等の物理蒸着処理が施されることが好ましく、特にチタンのスパッタリング加工が蓄熱、輻射の点で好ましい。また、生地を熱加工することにより生地を目詰まり状にし、生地の透気度を低下させることによって、いっそう効果を向上させることができる。したがって、その生地を裏地9として使用すれば、通気性の低下と蓄熱、輻射で保温性を向上させることができる。
【0029】
裏地9は、大別すると五つに区画されており、合計五つのパーツが互いに縫着されることにより一つの裏地9を構成している。具体的には、図2に示すように、筒状の両袖裏部11と、後身ごろ2に対応するシート状の後方裏部12と、前身ごろ1に対応するシート状の両前方裏部13とから構成されている。
袖裏部11は前方裏部13および後方裏部12に肩口14において縫着され、前方裏部13と後方裏部12は脇部15および肩部16において互いに前後に縫着されている。
【0030】
このように縫着により一枚に連結された裏地9は、開口部である両袖口6,6と首部7と裾部8、並びに前合わせ部4において、それぞれ表地10と縫着により連結されており、それ以外の箇所においては表地10とは連結されずに離反可能な状態にある。
【0031】
本発明の実施形態にかかる上衣(衣服)では、その胴部5の裏地9の丈方向途中に、丈方向一対の紐通し部22,23が胴部5の周方向に沿って廻すよう形成されている。
【0032】
後方裏部12および両前方裏部13からなる胴部5の裏地(生地)9の丈方向途中に、裏地9を絞ることができるように紐状体24が取付けられ、紐状体24の端部25側に、裏地9を絞った状態で紐状体24の端部25側を裏地9に固定するための固定手段が設けられている。
紐通し部22,23どうしは、背側が丈方向に離間し、前側が丈方向に接近されており、各紐通し部22,23にゴム紐からなる紐状体24が、生地を絞ることができるように挿通されている。各紐状体24の端部25側が紐通し部22,23の端部26から導出され、固定手段は、各紐状体24の端部25側に設けられている。
【0033】
下側の紐通し部23の背側の部分は下方へ凸となるよう湾曲しており、上側の紐通し部22の背側の部分は上方へ凸となるよう下側の紐通し部23に比べて大きく湾曲している。特に、上側の紐通し部22の頂点高さは、袖口6の高さを超えるよう位置付けられている。
【0034】
このような紐通し部22,23は、裏地9の裏側(表地10側)に帯状の生地を周方向に縫着することで、区画された紐通し路として設けられている。各紐通し部22,23の各両端部26は開放されて開口27,28が形成されており、これら開口27,28から紐状体24の端部25が導出され、裏地9の前合わせ部4側に形成した共通の挿通孔30,31から裏側、すなわち装着者の人体21側にさらに引出されている。
【0035】
また、挿通孔30,31とは別に、引出された紐状体24の端部25を裏地9の表側に挿入するように戻すための戻し孔32,33が、裏地9に形成されている。戻し孔32,33は、挿通孔30,31の下方に形成されている。なお挿通孔30,31および戻し孔32,33の外周部の生地を保護するために挿通孔30,31および戻し孔32,33の外周部には、合成樹脂製の保護輪35,36が固着されている。
【0036】
紐状体24は見かけ上は二本であるが、実際には、これは一本のゴム紐をリング状にして用いている。すなわち、環状にした一本のゴム紐をその長さ方向途中部分は紐通し部22,23を挿通するようにさせ、紐通し部22,23の端部から導出させ、また挿通孔31からループ状にした状態で導出させ、その端部25側に固定手段を設けている。この挿通孔31から導出させている端部25の長さを調節することで、上衣の保温性を調節できるようにしている。
図3に示すように、リング状の紐状体24の先端部は結紐あるいは溶着等により結合されており、その結合部34は、一方の戻し孔32を通過させた状態で表地10と裏地9との間の空間に介在している。結合部34の最大幅は保護輪36の内径に比べて大きくしており、これによって結合部34が保護輪36から抜止めされる構成としている。
【0037】
なお、挿通孔30,31および戻し孔32,33を形成する部分には、裏地9に比べて強度の高い紐通し用生地29を用いており、紐通し用生地29は裏地9とは別個でこれに縫着している。この紐通し用生地29は、丈方向に長い前合わせ部4側の下底辺部29aと、下底辺部29aに比べて丈方向に短い上底辺部29bと、下底辺部29aと上底辺部29bとの間の傾斜辺部29c,29dとから台形形状に形成されている。
【0038】
左前身ごろ1側にある結合部34を中心として紐状体24の上衣への取付け状態を説明すれば、結合部34からの二本の紐状体24はひとまとまりになって戻し孔32から導出されており、さらに戻し孔32と挿通孔30の間で裏地9の裏側に露出して、挿通孔30を共有して二本の紐状体24が挿入されて、各紐状体24がそれぞれ一本ずつ上側の紐通し部22、下側の上側の紐通し部23に分離されるようにして紐通し部22,23の開口27,28からこれを挿通し、右前身ごろ1側の紐通し部22,23の開口27,28から導出されて、二本の紐状体24が右前身ごろ1側の共通の挿通孔31から導出されて、戻し孔33に導入されて表地10と裏地9との間にループ状態で介在する、という取付け構成である。
このループ状部分および結合部34を戻し孔32,33から抜止めするために、ループ状部分および結合部34にはそれぞれ抜止めリング34bを挿通してある。
【0039】
各紐通し部22,23は紐状体24に比べて充分に大きな断面であり、紐通し部22,23内には紐状体24を固定するようなものはないようにしてあるか、もしくは紐状体24は紐通し部22,23の中央部でのみ固定してその左右方向に均等な長さになるようにしてあるから、裏地9、特に紐通し部22,23は紐状体24に対して、襞を形成するように絞ることが自在となっている。
なお、図3では紐状体24の端部25側を大きく引出した状態を二点鎖線で示しており、紐状体24の端部25側を大きく引出すことで各紐通し部22,23は生地が矢印で示す方向に絞られた状態を二点鎖線の波線Pで表している。
【0040】
前記固定手段としてスライド式ストッパ(コードストッパ)40が用いられている。スライド式ストッパ40は、ストッパ本体41に両紐状体24を挿通して、ストッパ本体41に内蔵するスプリングによって押圧操作部43を、両紐状体24がスライド式ストッパ40に固定されるよう付勢しているものである。
したがって、両紐状体24をスライド式ストッパ40に対してスライド可能とするには、前記スプリングの弾性に抗して押圧操作部43を押圧することで可能となる。
【0041】
上衣の裾部8のほぼ全周に沿うように、前記紐状体24とは別の紐状体44の端部および途中の一部を挿通する挿通路45が設けられている。この挿通路45は、後身ごろ2と前身ごろ1との裏地9の継ぎ目に対応する部分で分断されており、分断された部分の開口46から紐状体44の途中の部分44aがループ状に、裏側に導出されている。その導出された部分44aにスライド式ストッパ47が取付けられている。スライド式ストッパ47の構成は、上記スライド式ストッパ40と同様であるからその説明は省略する。
なお、紐状体44の両端部は、それぞれ挿通路45内の前合わせ部4側端部に固定されている。
【0042】
この構成において、スライド式ストッパ47の押圧操作部を押圧して紐状体44をさらに引出すことで、裾部8の裏地9が絞られる。逆に、押圧操作部を押圧して紐状体44を挿通路45内に戻すことにより、絞りが戻される。
【0043】
本発明の実施形態における上衣は、防寒のために着用者が着用する。着用者はその各腕を袖部3,3に通すと、着用者の背部を後身ごろ2が覆い、スライドファスナ20を閉じると左右一対の前身ごろ1,1が着用者の胸部および腹部を覆う。
【0044】
紐状体24はその端部25側をわずかに残してその途中の部分を紐通し部22,23に挿通させておくことで、紐通し部22,23の裏地9に襞は生じにくく絞られていない状態にある。この状態では、図4に示すように、単に後身ごろ2が着用者の背部を覆い、前身ごろ1,1が着用者の胸部および腹部を覆うだけであるから、着用者の人体21と裏地9との間の空気層は空気の移動が大きく、この空気の移動に伴って放熱ロスも大きくなっている。
【0045】
このことは紐状体44において、その導出された部分44aをわずかな量とすることでも同様であり、紐状体44において、その導出された部分44aをわずかな量としておくことで、裾部8に絞りが生じていないから裾部8の径は大きい。これは、裾部8と人体21との密着度が低いことであるから、人体21と裏地9との間の空気層の空気が、裾部8から逃げ易く、保温性を確保しにくい。
【0046】
そこで、保温性を確保するために着用者はスライドファスナ20を開き、手指で紐状体24の両端部25を引いて紐状体24の挿通孔30,31からの導出量を多くし、各スライド式ストッパ40の押圧操作部43をスプリングの弾性に抗して押圧操作して各スライド式ストッパ40を各挿通孔30,31側に移動させて、押圧操作部43から手指を離す。
【0047】
そうすると、押圧操作部43はスプリングの弾性によって元の位置に復帰して、紐状体24がストッパ本体41と押圧操作部43との間に噛み込まれてスライド式ストッパ40はその位置が固定されるから、スライド式ストッパ40を介して裏地9に紐状体24が固定された状態となる。
【0048】
紐状体24は、背側では互いに丈方向に離間しているものの、その端部25側では互いに極めて接近しているから、上側の紐状体24、下側の紐状体24をそれぞれ別々に引出すことなく、手指で摘んで双方を一度に引出すことができるから、操作性を向上させることができる。
【0049】
上記のようにしてスライド式ストッパ40の位置が固定されると、両スライド式ストッパ40の各挿通孔30,31側への移動によって紐状体24に沿うようにして各挿通孔30,31の間に向けて裏地9は寄せられて襞を形成するよう絞られているから、スライド式ストッパ40が紐状体24に固定されることで、絞り量が固定される。
【0050】
このようにして裏地9を絞ることは、紐状体24に張力が付与されている領域が生じることであり、図5および図6に示すように、したがって紐状体24が紐通し部22,23の裏地9を介して人体21の胴回りを縛るような形態となる。このように紐状体24が紐通し部22,23の裏地9を介して人体21の胴部を縛るようになると、紐状体24で囲まれた領域の裏地9と人体21の胴回りとの間に空気層V2が、区画された形態で存在することになる。
【0051】
この空気層V2は、紐状体24によって人体21の胴回りに区画されていることから、その空気の上方への移動がしにくくなり、したがって保温性を向上させることができる。しかも、紐状体24(紐通し部22,23)は、特に胴回りは人体21において占める面積が大きく保温特性の優劣が体感的に把握され易い部分であり、このような部分において保温性を高めることは、防寒衣服として極めて優れる。
また、紐状体24はゴム紐を用いているからその伸縮力により、紐状体24の部分に対応する裏地9を確実に人体21側へフィットさせることができ、いっそう確実に空気層V2の空気の移動を抑制することができ、放熱ロスを抑えて保温性を確保することができる。
【0052】
さらに、裾部8においては、紐状体44の途中の部分44aを多く引き出すことにより、裾部8の裏地9が絞られるから、裾部8においても人体21と裏地9との間から空気が放出されるのを抑制することができる。
【0053】
つまり、衣服の筒状部である胴部5には、紐状体44と下側の紐状体24とに依り、人体21の胴回りの下部に大きな筒状の空気層V1を形成し、下側の紐状体24と上側の紐状体24とに依り、保温特性の優劣が体感的に把握され易い部分の胴回りに空気層V2を同時に形成する(胴部5の軸線方向で複数の空気層を形成する)ことが可能であるため、保温性を向上させることができる。特に、紐通し部22,23の裏地9を絞ることで襞が形成されることで、この裏地9が複雑な形態で人体21側に接触しているから、空気の移動が阻止され易くなっている。
【0054】
外気温が上昇して、着用者が暑さを感じるときは、裏地9の絞り量を調節することで行う。すなわち、紐状体24あるいは紐状体44による人体21の緊縛力を弱めるようにする。このようにするためには、各スライド式ストッパ40においては、その押圧操作部43をスプリングの弾性に抗して押圧操作して各スライド式ストッパ40を各挿通孔30,31から離れる側に移動させて、押圧操作部43から手指を離す。
そうすると、絞り量が設定される紐状体24に沿った領域長さが長くなり、裏地9の絞りのピッチを大きくする(裏地9を紐状体24に沿って広がらせる)ことができ、挿通孔30,31から導出される端部25の長さが短くなり、紐状体24の緊縛力が緩む。
【0055】
したがって、紐通し部22,23の裏地9が人体21側へ接触する強さおよび量が減るから、空気層V2の空気の移動をそれまで以上に許容することになり、適度な保温性に調節することができる。
紐状体44を緩めることでも同様に、裾部8での人体21側への裏地9の接触量および接触力が低減し、空気層V2の空気の移動をそれまで以上に許容することになり、適度な保温性に調節することができる。
【0056】
上記実施形態では一本の紐状体24を二本使いする構成として、紐状体24で保温特性の優劣が体感的に把握され易い胴回りに空気層V2を形成するようにした。
しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、一本の紐状体を環状にすることなく紐通し部に通すようにして胴部5の軸線方向途中の位置で廻し、その端部を挿通孔から導出して、端部にスライド式ストッパを連結するよう構成することも可能である。
【0057】
このように構成して挿通孔から導出される紐状体の端部を長くし、スライド式ストッパを介して紐状体を裏地に固定することで、胴部5の軸線方向途中の裏地9を人体21側に接触させることができるから、少なくとも、それより下に形成される空気層の空気の移動を抑制することができ、保温性を向上させることが可能となる。
さらに、スライド式ストッパを操作して、挿通孔から導出される端部の長さを短く調節することで、胴部に区画された空気層を作りにくくなるから、空気が移動して放熱ロスを生じさせ易くなるから、外気温に応じて衣服を快適に装着することができる。
【0058】
上記各実施形態では、紐状体はゴム紐を例に挙げたがこれに限定されるものではなく、伸縮性に乏しい紐状体であってもよい。この場合でも、裏地9に絞りを形成するようにして挿通孔からの紐状体の導出量を調節し、固定手段を介して紐状体が裏地9に固定されるようにすれば、上記実施形態のように人体21側と裏地9との間に空気層を形成することができ、その空気層の空気の移動を抑制して保温性を高めることができる。
【0059】
上記各実施形態では、固定手段としてスライド式ストッパを例に挙げたがこれに限定されるものではない。また、上記実施形態では筒状部として胴部5に本発明を適用させた例を示したがこれに限定されるものではなく、例えば両袖部3,3に適用させることも可能である。
【0060】
さらに、上記実施形態では紐状体は筒状部の周方向に廻すように設けたがこれに限定されるものではなく、筒状部の丈方向あるいは周方向に対して丈方向に傾斜するよう紐状体を筒状部に廻して、紐状体の端部側の長さを調節することで紐状体を廻している方向に沿うように生地を絞って、紐状体および生地の人体側への接触圧、あるいは接触量を調節することで保温性を調節するように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の上衣を示す正面図
【図2】同じく左右の前身ごろを大きく開いた状態の正面図
【図3】同じく紐状体の端部の処理状態を示す拡大図
【図4】同じく紐状体に張力を付与せずに上衣を人体に装着した状態の側面図
【図5】同じく紐状体に張力を付与して上衣を人体に装着した状態の側面図
【図6】同じく紐状体に張力を付与して上衣を人体に装着した状態の一部拡大側面図
【符号の説明】
【0062】
1…前身ごろ、2…後身ごろ、3…袖部、4…前合わせ部、5…胴部、6…袖口、7…首部、8…裾部、9…裏地、10…表地、20…スライドファスナ、21…人体、22,23…紐通し部、24…紐状体、25…端部、26…端部、27,28…開口、29…紐通し用生地、29a…下底辺部、29b…上底辺部、29c,29d…傾斜辺部、30,31…挿通孔、32,33…戻し孔、34…結合部、40…スライド式ストッパ、41…ストッパ本体、43…押圧操作部、44…紐状体、45…挿通路、47…スライド式ストッパ、V1…空気層、V2…空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服の筒状部の生地の丈方向途中に、生地を同方向に絞り調節可能にするように、前記筒状部の周方向に廻された紐状体が設けられていることを特徴とする衣服。
【請求項2】
衣服の筒状部の生地の丈方向途中に、前記筒状部の周方向に廻され且つ前記生地を周方向で絞って縮径可能とする紐状体が丈方向に対で設けられ、各紐状体どうしはその長さ方向途中が互いに丈方向で離間するとともに端部側が丈方向で接近されており、紐状体を縮径した状態を保持すべく紐状体の端部側を生地側に固定するための固定手段が該紐状体の端部側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の衣服。
【請求項3】
各紐状体を挿通してこれを生地に取付けるための紐通し部が該生地に設けられ、各紐状体の端部側は各紐通し部の端部から導出されており、該導出された部分に固定手段が設けられていることを特徴とする請求項2記載の衣服。
【請求項4】
各紐通し部は筒状部としての胴部の生地に設けられ、前記各紐通し部は胴部の背側で丈方向に離間し胴部の前側で接近して、紐状体の端部側が各紐通し部の端部から導出されていることを特徴とする請求項3記載の衣服。
【請求項5】
各紐通し部は生地の裏側で紐状体を挿通するよう設けられ、各紐通し部の端部から導出された各紐状体の端部側の部分を挿通する共通の挿通孔が生地に設けられていることを特徴とする請求項4記載の衣服。
【請求項6】
紐状体はゴム紐からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の衣服。
【請求項7】
衣服の生地の互いに離間した二箇所間を絞り調節可能なように前記二箇所間を通る紐状体が設けられていることを特徴とする衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−24273(P2009−24273A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187415(P2007−187415)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】