説明

表面形状測定用触針式段差計の摩擦力補正方法

【課題】支点部分の摩耗状況、接触状態の変化などにより生じ得る摩擦力を補償して針圧を発生できる表面形状測定用触針式段差計の摩擦力補正方法を提供する。
【解決手段】支点に揺動可能に取り付けられた支持体の一端に探針を取付け、一端に隣接して探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、支持体の他端には探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計の摩擦力補正方法において、 針圧発生装置を作動させて探針を下げる際の加速度を測定して下降時の力を求め、下降の後に探針が下部ストッパー等で跳ね返り上昇する際の加速度を測定して上昇時の力を求め、表面形状を実際に測定する際に、針圧発生装置に流す電流を、下降時の力と上昇時の力と和の半分の力が探針にかかるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面形状を測定する触針式段差計の摩擦力補正方法に関するものである。
【0002】
本明細書において、用語“試料の表面形状”は試料の段差、膜厚、表面粗さの概念を包含して意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
この種の段差計としては従来、先端が試料表面に接触する探針と、探針を試料表面に一定の負荷で接触させる針圧発生装置と、その負荷方向と直交する方向に振動して探針を試料表面に対して平行運動で往復動させる装置と、振動付加時の探針の試料に対する摩擦力に対応する振動の大きさを検出する検出装置とを備えた構造のものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−87637号
【0004】
本発明者は、先に、特願2005−199337において、表面形状測定用触針式段差計を提案した。この触針式段差計は、添付図面の図1〜図6に示すように、棒状の第1の支持部材1を有し、であり、この第1の支持部材1はその中間部位に左右両横方向にのびる支点用針取付け部材2を備え、支点用針取付け部材2の両端には二つの支点用針3が取付けられている。これら二つの支点用針3は二つの支点受け部材4(図6)で支持され、それにより第1の支持部材1は支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持される。第1の支持部材1の一端には、変位センサ5の測定子すなわちコア6が取付けられている。この変位センサ5は探針の垂直方向変位に応じて電気信号を発生する差動トランスから成り、コイル7を備えている。
【0005】
また、第1の支持部材1の他端には、探針に針圧を加える針圧発生装置8のコア9が設けられ、針圧発生装置8はコイル10を備えている。コア9は、コイル10の中心から軸方向にずれた位置に配置した高透磁率部材から成っている。
【0006】
また、第1の支持部材1における支点用針取付け部材2の両端の二つの支点用針3を結ぶ線上を中心として、第1の支持部材1の下面には、二つの磁石11を埋め込んだホルダー12が取付けられている。ホルダー12は図3に示すように断面台形の長手方向溝13を備え、この長手方向溝13の両側壁は下方へ向ってテーパー状に開いており、水平平面に対して傾斜面を構成している。ホルダー12に埋め込まれた二つの磁石11は、図1に示すように極性が互いに逆向きになるように配置されている。二つの磁石11を内蔵したホルダー12は軽くするためにカーボンで構成されている。
【0007】
また図1、図2、図4及び図6において、14は棒状の第2の支持部材でありその先端には探針15が下向きに取付けられ、他端は高透磁率部材16で構成されている。高透磁率部材16の長手方向の両端には上向きにのびるガイド突起17が形成され、これらガイド突起17の対向側面は上方に向って開いた傾斜面として形成される。この高透磁率部材16の傾斜面はホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と共に、第1の支持部材に第2の支持部材を取付ける際の互いの位置決めを確保すると共にガイドの役割を果たしている。第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16は第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に嵌るようにされ、その際に第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16はホルダー12の溝の底面に接触し、二つの磁石11には接触しないように構成されている。また溝と高透磁率材部品には図2に示したような傾斜面を設け、互いの位置決めの確保と取付け時のガイドの役割を果たしている。
【0008】
また、第1の支持部材1及び第2支持部材14は慣性モーメントを小さくするために軽いカーボンで構成されている。一方、密度が高く質量が大きい第2支持部材14における高透磁率部材16及び第1の支持部材1におけるホルダー12内の磁石11は、支点まわりの慣性モーメントを小さくするために、支点の近くに配置している。
【0009】
さらに図3に示すように、第2支持部材14における高透磁率部材16の下側には板状部材18が設けられ、この板状部材18は磁場遮蔽効果を高めるため、高透磁率の材料で構成され、この板状部材18により交換部品を第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に傾けて近づけても正しい位置に収まるようにしている。
【0010】
上述のように第1の支持部材1におけるホルダー12に埋め込まれた磁石11は極性が逆になるように配置したことにより、磁気双極子が離れた場所に作る磁場が小さくなるので、差動トランス5、針圧発生装置8及び試料での磁場を小さくできる。また、この配置により磁石11の下部では磁力線が第2の支持部材14における高透磁率部材16の中を通るので、その下方及び探針位置の試料での磁場が小さくなる。
【0011】
図5には、支点用針3を受ける支点受け部材4の構造を拡大して示している。支点受け部材4は図示したように支点用針3を受ける凹面4aを備え、この凹面は逆円錐形状に構成され、支点用針3を精度よく位置決めして受けるようにされている。
【0012】
図6には図1に示す触針式表面形状測定器を枠体19に組込んだ状態を示し、二つの支点受け部材4は枠体19の下部枠部材19aに固定されている。支点上の可動部は枠体19の中に収められ、枠体19k外側にはパネル(図示していない)が取付けられ、風による揺れや温度変化を防ぐようにしている。変位センサ5のコイル、支点受け部材4、針圧発生装置8のコイル10は、この枠体19内で枠体19に対して固定されている。図6では見やすくするために変位センサ5のコイル及び針圧発生装置8のコイル10は省略されている。これら2種のコイルは上方からそれぞれのコイルに被さり、枠体10にねじ等で固定される。図6の枠体19を含めた変位センサ5、針圧発生装置、及び支点上のその他の可動部から成る部分をセンサヘッドと呼ぶ。斜め上方からカメラで探針15をモニターするために、探針15は枠体19から突き出す構造にし、探針15を支える棒状体すなわち第2の支持部材14に沿った形の細い風除けカバー(図示していない)が枠体19の前部に取付けられる。第2の支持部材14の先端付近の上下にはストッパー(図示していない)が設けられ、探針15の動く範囲が制限される。
【0013】
このように構成した図示触針式表面形状測定器においては、両端にそれぞれ変位センサ5及び針圧発生装置8を備え、二つの支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持された第1の支持部材1のホルダー12に、両端にそれぞれ探針15及び高透磁率部材16を備えた第2の支持部材14を磁石の吸着力によって固定する。この場合、ホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と第2の支持部材14の高透磁率部材16におけるガイド突起17の対向傾斜面とにより、第2の支持部材14は第1の支持部材1のホルダー12に対して予定の位置に正確に位置決めして簡単に固定できる。
【0014】
そして、針圧発生装置8のコイル10に所定の電流を流すことにより、その電流の大きさに応じて力が発生され、この力により針圧発生装置8のコア9はコイル10の中心へ引き込まれる。それにより第1及び第2の支持部材1、14は支点用針3を介して揺動し、探針15を試料に押し当てる。試料又は検出系を走査することにより、探針15は試料表面をなぞり、その表面形状に応じて、固定された支点のまわりに第1及び第2の支持部材1、14が微小に回転運動し、差動トランス5のコア6の変位が検出され、このコア6の変位を探針15の針先の変位に換算することにより試料の表面形状や段差が測定される。
【0015】
ところで、この種の段差計においては、探針での力すなわち針圧の測定は次のようにして行なわれる。針圧発生装置8のコイル10に流す電流が0のときは、支点上の可動部の重量バランスにより、探針15は上に上がった状態になり、ストッパーに当たり静止している。針圧発生装置8のコイル10に適当な電流を流すと、発生した力により探針15は下がる。そのときの針先変位の時間変化を測定し、時間で2階微分して加速度を求めることにより、針圧を求めることができる。力と加速度の関係は、例えば数10 mgfの領域では、電子天秤等で針先での力を測り、そのときのコイル電流と力の関係を得て、このコイル電流での加速度を測れば、力と加速度の関係が得られる。力と加速度は比例関係なので、比例定数が得られたことになり、任意の加速度の値からそれに対応する力の値を算出できる。すなわち、探針の針圧をF、探針の針先のz方向位置をz、支点のまわりの慣性モーメントをI、支点から針先までの距離をrとし、支点回りの運動方程式を回転角が小さいとして変形すると次式が得られる。

F = I/rz/dt

即ち、力Fが働く場での、質量I/r2の質点の運動とみなすことができる。つまり、前述の比例定数はI/r2 を意味する。
【0016】
探針の針圧yを縦軸に、針圧発生装置のコイルに流す電流xを横軸とし、a、b、cを定数とするとき、コイルに流す電流xと探針の針圧yとの関係は、関数y=ax+bx+cで表され、表面形状の測定時に、探針の針圧yを設定した後、測定を開始させ、自動でcの値を読み込み、yになるx=xを上記関数から求め、xを出力して針圧発生装置のコイルに流す電流を制御するようにされ得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
針圧発生装置のコイルに流す電流と力の関係の較正において、探針先の測定した加速度から探針での力を算出するが、支点部分の摩耗状況、接触状態によっては、支点での摩擦力が無視できない場合がある。その場合、上記方法により算出した力は、支点での動摩擦に起因する力を含んでいるために、本来のコイル電流による力が正しく算出されない。そのために力yとコイル電流xの正しい関係が得られず、正しい力を発生できない。
【0018】
そこで、本発明は、支点部分の摩耗状況、接触状態の変化などにより生じ得る摩擦力を補償して0.01mgf台の精度で探針の力すなわち針圧を発生できる表面形状測定用触針式段差計の摩擦力補正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の発明によれば、支点に揺動可能に取り付けられた支持体の一端に探針を取付け、この一端に隣接して探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、支持体の他端には探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計の摩擦力補正方法において、
針圧発生装置を作動させて探針を下げる際の加速度を測定して下降時の力を求め、探針が下降の後に下部ストッパー等で跳ね返り上昇する際の加速度を測定して上昇時の力を求め、表面形状を実際に測定する際に、針圧発生装置に流す電流を、下降時の力と上昇時の力と和の半分の力が探針にかかるように制御して摩擦力の影響を除去することを特徴としている。
【0020】
本発明の第1の発明による方法においては、測定して得た下降時の力と上昇時の力と和の半分の力を用いて、針圧発生装置のコイルに流す電流xと力yの関係式y=ax+bx+cを用いて設定した力に対応する針圧発生装置のコイルに流す電流xを算出する。
【0021】
本発明の第2の発明によれば、支点に揺動可能に取り付けられた支持体の一端に探針を取付け、この一端に隣接して探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、支持体の他端には探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計の摩擦力補正方法において、
探針の下降時の速度を比較的速くして、探針を下げる際の加速度を測定して下降時の力を求め、下降後に探針が下部ストッパー等で跳ね返り上昇する際の加速度を測定して上昇時の力を求め、表面形状を実際に測定する際に、針圧発生装置に流す電流を、下降時の力と上昇時の力との差の半分の力を差し引いて、針圧発生装置に流す電流と探針にかかる力との正しい関係を求め、その関係から設定したい力に対応するコイル電流を算出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1及び第2の発明においては、支点部分での摩擦に起因する力を除いて、本来のコイル電流による力のみを検出できるので、針圧発生装置のコイルに流す電流と力との間の正しい関係が得られ、それにより探針に対して正しい大きさの力を発生できるようになる。その結果、支点部に発生する動摩擦力や静止摩擦力の影響が取り除かれ0.01mgf程度までの小さい力での表面形状測定が可能となる。
【0023】
また、支点部分が摩耗して、そこでの摩擦力が大きくなっても、摩擦力を除いた本来の力を測定でき、表面形状測定時にその本来の力を出力できるので、支点部分の寿命が増すことができるようになる。
【0024】
本発明の第2の発明においては、支点での摩擦に起因する力を測定できるので、支点部分が寿命に達したか判断できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面の図7、図8及び図9を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、触針式段差計としては先に提案した図1〜図6に示す構成のものを使用する。
【0026】
図7には、針圧発生装置のコイルに流す電流を0から24.8mAに変えた後の、探針先の位置zが時間と共にどのように変化するかを示している。上部ストッパーで止まっていた探針が、針圧発生装置のコイルに流す電流により発生した力によって下部ストッパーの位置まで降り、そこで眺ね返り、その後、振動する。通常は図4のAの箇所でzを時間で2階微分し加速度を求め、力を算出するが、その値は支点での摩擦に起因する力を含んでいる可能性がある。なお、このセンサヘッドでのzの測定対象範囲が−0.15mmから+0.15mmなので、その範囲で加速度及び力を求める。
【0027】
図7のAとCでは摩擦力は上向き(zが正の方向)に働き、Bでは下向き(zが負の方向)に働く。よって、Bで測定された力をFB、Cでの力をFCとすると、(FB+FC)/2がコイル電流による本来の力であり、(FC−FB)/2が支点での摩擦に起因する力の大きさとなる。摩擦力は速さに依存するとは限らないが、BとCでの探針の速さが同程度なので、BとCでの測定値を扱うのが良い。空気抵抗による抗力も除去できる。
【0028】
図7に示した例では、Bで求めた力は−0.1048mgf、Cでは−0.0762mgfだった。これらから本来のコイル電流による力は上記の式を用いると、[(−0.1048)+(−0.0762)]/2=−0.0905mgfであり、また摩擦力の大きさは、[(−0.0762)−(−0.1048)]/2=0.0143mgfとなる。なお、Aから求めた力はCでの値と同様である。
【0029】
よって、Aでの力の測定結果から、図8に示すようなコイル電流yと力xの関係y=ax+bx+c(aは負、b、cは正の定数である)を求めようとすると、関係式のcの値が本来より0.0143mgf程度大きくなる。下向きの力の符号は負で、Aで測定された力の絶対値は本来のものより小さく出るので、上記関係式ではyが正の方向にずれ、cの値が大きい方にずれる。図8において本来の正しい関係を実線で、支点での摩擦の影響を受けて誤った関係を点線で示す。
【0030】
この誤った関係式を用いると、例えば力y1で試料の表面形状を測定したいとき、図8のように本来なら電流x1を出力すべきところを、x2が出力される。そのためコイル電流による力の絶対値はy1のそれよりも大きくなる。上記の例では、コイル電流による力の絶対値は0.0143mgfだけ大きくなる。図7のAにおいては図8の点線の関係が成り立つが、任意の表面形状測定時にはその関係は当然成り立たない。よって、正しい力での表面形状測定ができなくなる。軟らかい試料の測定では0.05mgfや0.03mgfでの測定が必要とされ、上記関係式におけるcの誤りは無視できなくなる。
【0031】
(FB+FC)/2がコイル電流による本来の力であり、それらの測定結果を用いて、コイル電流yと力xの関係式y=ax+bx+cを求め、その関係式を用いれば出力したい力を0.01mgfの精度で正しく出せるようになる。それにより0.01mgf程度の、この種の段差計としては非常に小さい力での表面形状測定も可能になり、より軟らかい試料でのダメージのより小さい計測が可能になる。以下その根拠について説明する。
【0032】
支点での摩擦力に起因する力を測定した例を図9に示す。探針の上下を繰り返し、支点部の摩耗、接触状態の変化による摩擦力の変化を見た例である。探針先の速さ|dz/dt|が3〜6×10−4m/sと約6×10−3m/sでの動摩擦力である。約6×10−3m/sでの摩擦力(図9に●で示す)は、図7に示すように上部ストッパーから下部ストッパーに探針を下ろし、跳ね返った後のB、Cでの力から算出した値である。
【0033】
支点上の可動部の重心が支点より下にあるとき、針圧発生装置のコイル電流により探針を下げる力を発生させ、支点上で可動部をバランスさせると、可動部は実体振り子となり振動する。つまり、図7でzが正のときには負の方向に、zが負のときには正の方向に力が働き、z=0付近を中心に探針先位置zが振動する。その振幅は支点での摩擦や空気抵抗により減衰し、徐々に小さくなる。振幅が小さくなり、z=0を横切る際の|dz/dt|が3〜6×10−4m/sでの結果を図9に■で示す。前述と同様に探針の上昇時と下降時の力の差の半分の値である。このとき測定誤差があり、摩擦力測定値の上限を■で示した。図7の状態から、そのような|dz/dt|の値になるまで1分以上かかっている。そのときの振幅は約200μmである。支点上の可動部に付けるバランス用重りの位置、質量の調整によって、その振動周期を変えることができる。
【0034】
実際の表面形状測定時の探針と試料間の相対的速度が1×10−4m/s程度では、探針先の角度が60度程度であるので、試料表面の凹凸により探針が上下する速さは速くても1×10−4m/s程度である。それに対応するのは図9に■で示すものであり、よって、図9からそのような表面形状測定時の支点部の摩擦に起因する力は0.005mgf以下と小さいことが分かる。従って、0.01mgf程度での表面形状測定が可能であると言える。
【0035】
コイル電流と力の関係を測定する場合は、短時間で測定可能な図7のB、Cでの測定が望ましい。しかし、そのような測定では図9に●で示すように摩擦力が0.015mgfと大きい場合がある。なお、|dz/dt|の違いによる摩擦力の違いの物理的意味については不明である。図9に示す実験では、静止摩擦力は0.01mgf以下と十分に小さかった。
【0036】
針圧発生装置のコイル電流と力の関係を短時間で得るために、摩擦力を速さ|dz/dt|が約6×10−3m/sのような大きい値で測定し、その摩擦力を差し引いてコイル電流と力の正しい関係を得て、その関係から設定したい力に対応するコイル電流を算出し出力すれば、正しい力を発生でき、探針と試料間の相対的速度が1×10−4m/s程度の表面形状測定では|dz/dt|が大きくても1×10−4m/s程度であり、そのときには支点部に発生する動摩擦力の影響は探針位置での力に換算して0.005mgf以下と小さく、静止摩擦力も0.01mgf以下と小さいので、0.01mgf程度までの小さい力での表面形状測定が可能となる。
【0037】
ところで、図示実施形態では、第1の支持部材を二箇所で支点支持している構造の装置に基いて説明してきたが、当然一つの支点で揺動自在に支持する構造の装置でも同様に実施することができる。また、本発明は、第1の支持部材の両端に設けられる変位センサの測定子と針圧発生装置のコアとの位置関係を逆にした触針式表面形状測定器にも同等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を実施している触針式表面形状測定器の構成を概略図。
【図2】図1における触針式表面形状測定器の要部を下から見た概略線図。
【図3】図1における触針式表面形状測定器のホルダー部分の構成を示す拡大部分断面図。
【図4】図1における触針式表面形状測定器のホルダー部分の構成を示すA−B線に沿った拡大部分断面図。
【図5】図1における触針式表面形状測定器の支点部の構造を示す拡大断面図。
【図6】触針式表面形状測定器を枠体に組み込んだ構造を示す概略斜視図。
【図7】針圧発生装置のコイルに流す電流を0から24.8mAに変えたときの、探針先の位置zが時間と共にどのように変化するかを示すグラフ。
【図8】針圧発生装置のコイルに流す電流と力の関係を示すグラフ。
【図9】探針の上下回数と摩擦力との関係を示す測定例。
【符号の説明】
【0039】
1:第1の支持部材
2:支点用針取付け部材
3:支点用針
4:支点受け部材
5:変位センサ
6:測定子すなわちコア
7:コイル
8:針圧発生装置
9:針圧発生装置8のコア
10:針圧発生装置8のコイル
11:磁石
12:ホルダー
13:長手方向溝
14:第2の支持部材
15:探針
16:高透磁率部材
17:ガイド突起
18:板状部材
19:枠体
19a:下部枠部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、この一端に隣接して探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、支持体の他端には探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計の摩擦力補正方法において、
針圧発生装置を作動させて探針を下げる際の加速度を測定して下降時の力を求め、探針が下部ストッパー等で跳ね返り上昇する際の加速度を測定して上昇時の力を求め、表面形状を実際に測定する際に、針圧発生装置に流す電流を、下降時の力と上昇時の力との和の半分の力が探針にかかるように制御することを特徴とする触針式段差計の摩擦力補正方法。
【請求項2】
測定して得た下降時の力と上昇時の力と和の半分の力を用いて、針圧発生装置のコイルに流す電流xと力yの関係式y=ax+bx+c(a、b、cは定数)を用いて設定した力に対応する針圧発生装置のコイルに流す電流xを算出することを特徴とする請求項1に記載の触針式段差計の摩擦力補正方法。
【請求項3】
支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、この一端に隣接して探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、支持体の他端には探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計の摩擦力補正方法において、
探針の下降時の速度を比較的速くして、探針を下げる際の加速度を測定して下降時の力を求め、探針が下部ストッパー等で跳ね返り上昇する際の加速度を測定して上昇時の力を求め、表面形状を実際に測定する際に、針圧発生装置に流す電流を、下降時の力と上昇時の力との差の半分の力を差し引いて、針圧発生装置に流す電流と探針にかかる力との正しい関係を求め、その関係から設定したい力に対応するコイル電流を算出することを特徴とする触針式段差計の摩擦力補正方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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