説明

被加工材保持装置及び被加工材保持方法

【課題】熟練を要することなく安定した切削加工が可能になるように被加工材を吸引治具に吸引面に確実に位置決めして固定保持することができるようにする。
【解決手段】所定の吸引力で被加工材Wを吸引して被加工材Wを吸引治具3の吸引面に吸着した後、各チャック1を径の中心方向へ移動させることにより、被加工材Wの外周を予め定めた力で挟み付けて被加工材Wを各チャック1により位置決めし、更に先の所定の吸引力より強い吸引力で被加工材Wを吸引治具3に吸着して吸引面に固定保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板状による被加工材(ワーク)の板面に切削加工を施す際、その板状の被加工材を位置決め保持するための被加工材保持装置及び被加工材保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の被加工材保持装置として、例えば、特許文献1に示されるものがある。この被加工材保持装置は、断面形状がL字形の段差面を持つ円弧形の把持部を有する略扇状の3つのチャックが円形を成すように配置され、この3つのチャックは径方向に移動可能となっていて、各チャックの把持部で区画される空間に被加工材の一部を挿入し、3つのチャックを径の中心方向へ移動させることで、把持部により3方向から被加工材を挟みつけて保持するものとなっている。自動切削装置による切削加工の際、チャックは回転するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−326747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術においては、以下の問題がある。
すなわち、各チャックの把持部により被加工材(例えば、厚さ4mmの金属板)を挟みつけて保持する場合、挟みつける力が弱いと、旋盤装置などの自動切削装置による切削加工の際に、チャックの回転力や切削工具により被加工材に加わる負荷により、被加工材がチャックから外れる危険があり、逆に挟みつける力が強すぎると、被加工材にたわみが生じて正確な切削ができなくなるため、被加工材を適正な力で挟みつけて保持する必要があるが、従来の被加工材保持装置では、操作者が手で被加工材を持って各チャックの把持部で区画される空間に挿入しながら、各チャックを径の中心方向へ移動させるスイッチを操作者が足踏み操作するものとなっているため被加工材を適正な力で挟みつけて保持することが難しく、操作に熟練を要するという問題がある。
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本発明の被加工材保持装置は、径方向に移動可能な複数のチャックと、この平坦な吸引面及び吸引面で開口した吸引孔を有しかつ前記複数のチャックが成す形の中心部に位置するように設けられた、吸引治具と、前記各チャックを移動させるチャック移動手段と、前記吸引孔に接続された吸引手段を備え、前記吸引手段により前記吸引孔を介して所定の吸引力で被加工材を吸引して、該被加工材を前記吸引治具の吸引面に吸着した後、前記チャック移動手段により前記各チャックを径の中心方向へ移動させることにより、前記被加工材の外周を予め定めた力で挟み付けて被加工材を前記各チャックにより位置決めし、更に先の所定の吸引力より強い吸引力で被加工材Wを吸引治具に吸着して吸引面に固定保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
このようにした本発明は、所定の吸引力で被加工材を吸引して被加工材を吸引治具の吸引面に吸着した後、各チャックを径の中心方向へ移動させることにより、被加工材Wの外周を予め定めた力で挟み付けて被加工材を各チャックにより位置決めし、更に先の所定の吸引力より強い吸引力で被加工材を吸引治具に吸着して吸引面に固定するようにしているため、熟練を要することなく、自動切削装置の切削工具による安定した切削加工が可能になるように被加工材Wを吸引治具の吸引面に確実に位置決め固定することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施例による被加工材保持装置を示す要部斜視図
【図2】チャックを断面とした要部側面図
【図3】第1の実施例の制御系を示すブロック図
【図4】第1の実施例の作用を示すチャックを断面とした要部側面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明による被加工材保持装置及び被加工材保持方法の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は第1の実施例による被加工材保持装置を示す要部斜視図、図2はチャックを断面とした要部側面図である。図において1は円弧形の複数のチャック(把持爪)で、図1では3個示しているが、2個あるいは4個以上でも差し支えない。この複数のチャック1は同一円を成すようにかつ矢印で示したように径方向に移動可能に基台2に設けられており、基台2と共にチャック1は回転するものとなっている。
【0010】
3は吸引治具で、平坦に加工された吸引面を有し、この吸引面に開口した複数(1つでも可)の吸引孔4が設けられていて、この吸引治具3は、複数のチャック1が成す円(形)の中心部に位置するように基台2に取り付けられている。各チャック1と吸引治具3の高さつまり基台2からの突出長は、吸引治具3よりも各チャック1の方が高く(長く)なっており、その差は後述する被加工材(ワーク)の板厚以下で、被加工材に対する切削加工を妨げない寸法に設定される。
尚、基台2には、吸引治具3の吸引孔4に連通する孔が設けられている。
【0011】
図3は第1の実施例の制御系を示すブロック図で、制御部5と、この制御部5に接続された記憶部6、チャック駆動部(チャック移動手段)7、及び吸引部(吸引手段)8を備えている。ここで制御部5は、記憶部6に記憶された制御プログラムに基づいてチャック駆動部7、及び吸引部8の動作を制御する。チャック駆動部7は制御部5の指示によりチャック1の移動を実行させるもので、チャック1の移動は油圧または空圧を用いることができる。また、吸引部8は制御部5の指示により吸引治具3の吸引孔4を介して被加工材を吸引するもので、基台2に設けられた孔を介して吸引治具3の吸引孔4に接続されており、この吸引部8としては吸引ポンプを用いることができる。
【0012】
上述した構成の作用について説明する。
尚、以下に説明する各部の動作は、記憶部6に格納された制御プログラムに基づいて制御部5により制御されるものとする。
図4は第1の実施例の作用を示すチャックを断面とした要部側面図で、図においてWは被加工材で、ここでは例えば厚さ4mm程度の金属製円板とする。この被加工材Wを保持する場合、各チャック1の内径が被加工材Wの外形より大きくなるように、予め外方向つまり径の中心方向と逆の方向へ移動させておく。
【0013】
この状態で作業者は、まず被加工材Wを手に持ち、その板面を吸引治具3の吸引面に押し付けて図示しないスイッチをオンにする。これにより吸引部8は吸引治具3の吸引孔4を介して所定の吸引力、例えば、50〜60Kgの吸引力で被加工材Wを吸引し、図4(a)に示したように被加工材Wを吸引治具3の吸引面に吸着する。
【0014】
このようにして被加工材Wを吸引治具3に吸着すると、チャック駆動部7が各チャック1を径の中心方向へ移動させ、図4(b)に示したように被加工材Wの外周を予め定めた力、例えば2〜4kgの力で挟み付ける。これにより被加工材Wは各チャック1により把持されると同時に位置決め(芯出し)されるので、この状態で吸引部8は吸引治具3の吸引孔4を介して先の所定の吸引力より強い吸引力、例えば、80〜100Kgの吸引力で被加工材Wを吸引し、被加工材Wを吸引治具3に吸着して吸引面に固定保持する。
【0015】
この状態では、被加工材Wは吸引治具3の吸引面に強く固定保持されるので、基台2と共に回転するチャック1の回転力や自動切削装置の切削工具により被加工材に加わる負荷により被加工材Wが吸引治具3から外れることはなく、また被加工材Wが各チャック1の挟む力により撓むこともないので、自動切削装置の切削工具による安定した切削加工が可能になる。
【0016】
以上説明したように、第1の実施例では、所定の吸引力で被加工材Wを吸引して被加工材Wを吸引治具3の吸引面に吸着した後、各チャック1を径の中心方向へ移動させることにより、被加工材Wの外周を予め定めた力で挟み付けて被加工材Wを各チャック1により位置決めし、更に先の所定の吸引力より強い吸引力で被加工材Wを吸引治具3に吸着して吸引面に固定するようにしているため、熟練を要することなく、自動切削装置の切削工具による安定した切削加工が可能になるように被加工材Wを吸引治具3に吸引面に確実に位置決め固定することができるという効果が得られる。
【0017】
尚、上述した実施例では、被加工材Wの保持に当り、操作者が被加工材Wの板面を吸引治具3の吸引面に押し付けてスイッチをオンにすることにより吸引部8が吸引治具3の吸引孔4を介して所定の吸引力で被加工材Wを吸引するものとしたが、被加工材Wの板面を吸引治具3の吸引面に押し付けたことを自動検知するセンサを設けて、このセンサのオンにより吸引部8が吸引治具3の吸引孔4を介して所定の吸引力で被加工材Wを吸引するように構成することも可能である。
また、チャック1の形状を変えることにより、被加工材Wは円板状に限らず、他の形状のものでも固定保持可能であり、また被加工材Wは、磁性、非磁性に限らず高精度の寸法だしが可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 チャック
2 基台
3 吸引治具
4 吸引孔
5 制御部
6 記憶部
7 チャック駆動部
8 吸引部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に移動可能な複数のチャックと、この平坦な吸引面及び吸引面で開口した吸引孔を有しかつ前記複数のチャックが成す形の中心部に位置するように設けられた吸引治具と、前記各チャックを移動させるチャック移動手段と、前記吸引孔に接続された吸引手段を備え、
前記吸引手段により前記吸引孔を介して所定の吸引力で被加工材を吸引して、該被加工材を前記吸引治具の吸引面に吸着した後、
前記チャック移動手段により前記各チャックを径の中心方向へ移動させることにより、前記被加工材の外周を予め定めた力で挟み付けて被加工材を前記各チャックにより位置決めし、
更に先の所定の吸引力より強い吸引力で被加工材Wを吸引治具に吸着して吸引面に固定保持することを特徴とする被加工材保持装置。
【請求項2】
径方向に移動可能な複数のチャックと、この平坦な吸引面及び吸引面で開口した吸引孔を有しかつ前記複数のチャックが成す形の中心部に位置するように設けられた、吸引治具と、前記各チャックを移動させるチャック移動手段と、前記吸引孔に接続された吸引手段を備えた被加工材保持装置による被加工材保持方法であって、
前記吸引手段により前記吸引孔を介して所定の吸引力で被加工材を吸引して、該被加工材を前記吸引治具の吸引面に吸着する工程と
前記チャック移動手段により前記各チャックを径の中心方向へ移動させることにより、前記被加工材の外周を予め定めた力で挟み付けて被加工材を前記各チャックにより位置決めする工程と、
先の所定の吸引力より強い吸引力で被加工材Wを吸引治具に吸着して吸引面に固定保持する高低を順に実行することを特徴とする被加工材保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−179699(P2012−179699A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45756(P2011−45756)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(511056150)株式会社山岸製作所 (1)
【Fターム(参考)】