説明

製氷装置

【課題】装置自体の消費エネルギー、及び、スペースを極めて削減,縮小しつつ、凍結体を連続して効率よく生成可能な製氷装置を提供する。
【解決手段】凍結対象となる液体を収容した液体収容槽と、液体収容槽の上方において液体の液面に接しながら一方向に移動する搬送ベルトと、搬送ベルトにおける液体収容槽側の内表面と接する冷却板とを備え、搬送ベルトにより当該搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面において凍結した凍結体を一方向に搬送する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製氷装置に関し、特に、少ないエネルギーで凍結体を連続して効率的に得ることが可能な製氷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷を連続して生成し得る製氷装置としては、傾斜して設けられたベルトコンベアにおける内周側のベルト表面に対して冷却板を摺接可能に配置し、さらにベルトコンベアの上方から凍結対象となる水等の液体を外周側のベルト表面に対して吐出,噴射することにより、ベルト表面を流下する液体をベルト上において凍結させ、凍結した氷をベルトの反転部において剥離する構成の装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−123533号公報
【特許文献2】特開2000−266432号公報
【特許文献3】特開2008−309403号公報
【0004】
この種の製氷装置は、従来のいわゆるバッチ式の製氷装置と比較すると、凍結と脱型を繰り返す必要がないために、動作期間中において連続して氷を得ることができる点で優位性が認められるものの、上方から液体を吐出,噴射してベルト表面上を流下させる構成であるため、ベルト表面上において凍結しきれない液体を下流側にて回収するタンクや、回収した液体を上流側に循環させるための付帯設備が必要となり、装置の消費エネルギーの削減や小型化への障害となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は上記課題を解決するため、装置自体の消費エネルギー、及び、スペースを極めて削減,縮小しつつ、凍結体を連続して効率的に生成可能な製氷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための製氷装置の構成として、凍結対象となる液体を収容した液体収容槽と、液体収容槽の上方において液体の液面に接しながら一方向に移動する搬送ベルトと、搬送ベルトにおける液体収容槽側の内表面と接する冷却板とを備え、搬送ベルトにより当該搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面において凍結した凍結体を一方向に搬送する構成とした。
本構成によれば、従来の製氷装置と比較して液体収容槽内に静的に収容された液体が、搬送ベルトにおける内表面と接する冷却板によって徐々に冷却されて凍結するとともに、生成された凍結体が搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面に付着して一方向に搬送されることから、凍結体の生成過程において液体が外部に排出されることがなく、液体回収装置や循環装置等の付帯設備を設置する必要がなくなるため、消費エネルギー及びスペースを極めて抑制しつつ、凍結体を連続して効率的に得ることが可能となる。
また、製氷装置の他の構成として、搬送ベルトにより液体収容槽の上方開口部を閉塞し、液体収容槽及び搬送ベルトを凍結体の搬送方向に向かって上傾して設け、搬送ベルトにより搬送される凍結体を液体収容槽の搬送方向端部において搬送ベルトと水平な液面との間に形成される空隙部から液体収容槽の外部に搬送する構成とした。
本構成によれば、上記構成から生じる効果に加えて、上方の開口部が搬送ベルトによって閉塞された液体収容槽が、凍結体の搬送方向に向かって上傾して設けられたことにより、内部に収容された液体の液面を常に搬送ベルトの外表面に接する状態とすることができ、より一層凍結体を連続して効率よく得ることが可能となる。
また、凍結体を搬送方向端部において搬送ベルトと水平な液面との間に空隙部が形成されたことにより、凍結体を液体収容槽の内部から連続的に外部に排出することが可能となる。
また、製氷装置の他の構成として、液体収容槽と連通する液面維持装置をさらに備え、液体収容槽の液面が搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面に接する高さに維持される構成とした。
本構成によれば、上記構成から生じる効果に加え、液面維持装置により液体収容槽内の液面の高さが搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面に接する高さに維持されるため、凍結体が生成されることによって液体収容槽内の液体の量が減った場合であっても、液体収容槽内の液体の液面の高さが変わることがなく、より一層凍結体を効率よく連続して生成することができる。
また、製氷装置の他の構成として、冷却板を搬送ベルトの幅方向に沿って複数設けた構成とした。
本構成によれば、上記構成から生じる効果に加え、冷却板と搬送ベルトとの接触面積を自在に調整することができ、生成される凍結体の幅方向における厚さを自在に制御することが可能となる。より具体的には、凍結体の幅方向における厚さを局所的に変更することが可能となる。
また、製氷装置の他の構成として、液体収容槽の外部に設置され、搬送ベルトにより搬送される凍結体を所定の長さに分割する分割手段を備える構成とした。
本構成によれば、上記構成から生じる効果に加え、分割手段が凍結体の長さを所定の長さに分割することにより、所定の長さを有する複数の凍結体を連続的に得ることが可能となる。
また、製氷装置の他の構成として、液体収容槽、搬送ベルト及び冷却板をインキュベーター内に格納した構成とした。
本構成によれば、上記構成から生じる効果に加え、液体を収容する液体収容槽、凍結体を搬送する搬送ベルト、及び、液体を冷却する冷却板を一定の温度に保つことができ、より一層凍結体を効率よく生成することが可能となる。
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】製氷装置の概略図である。
【図2】製氷装置の要部拡大図である。
【図3】凍結体の厚さ及び生成量を示す図である。
【図4】他の実施形態に係る冷却板を示す拡大図である。
【図5】他の実施形態に係る冷却板を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本発明に係る製氷装置1の概略図、図2は、製氷装置1の要部拡大図を示す。
以下、同図を用いて製氷装置1の構造及び凍結体30の生成方法について説明する。図1において製氷装置1は、概略、液体収容槽2、液面維持装置3、搬送ベルト5及び一対の回転ローラー6によって構成されるベルトコンベア10、冷却板7、恒温槽8、逆流防止弁12、回収板13、回収容器14、及び、液面維持装置3、恒温槽8以外の機器を格納するインキュベーター15を備える。
上記構成からなる製氷装置1は、液体収容槽2に収容された凍結対象となる液体20を冷却板7によって冷却することにより凍結させ、生成された凍結体30を一定速度で回転する搬送ベルト5によって矢印で示す一方向に連続的に搬送する装置である。以下、各部の詳細について説明する。
なお、本明細書においては、生成された凍結体30が搬送される矢印で示す方向を下流側とし、下流側と反対方向を上流側という場合がある。
【0010】
図1において液体収容槽2は、上方が開口した箱型の収容容器であり、液体収容槽2内には凍結対象となる液体20が収容される。また、液体収容槽2における搬送方向に沿って長尺な矩形状の開口部2Aは、下流側の一部を除いて搬送ベルト5によって閉塞されている。また、液体収容槽2は、搬送ベルト5によって凍結体30(図2参照)が搬送される方向に向かって上方に傾斜した状態で設置される。
液体収容槽2内に収容される液体20としては、水道水や蒸留水の他、冷却によって凝固する液体であればその種類は問わない。また、液体20の量は、液体収容槽2の最大収容量よりも僅かに少ない量となるように設定され、液体収容槽2が傾斜することによって搬送ベルト5と接する液面の領域R1と、搬送ベルト5と接することがない水平な領域R2とが形成される。また、液体20の水平な液面の高さは、液面維持装置3により仮想線L1の位置に保たれる。
【0011】
液面維持装置3は、上方が開口した収容容器3Aと、当該収容容器3A内において下方が開口した筒状タンク3Bとから構成される。収容容器3A及び筒状タンク3B内には液体収容槽2と同一の液体20が収容されており、当該液体20が液体収容槽2内に逐次供給される。収容容器3Aの底部には、中空状の供給チューブ4の一端部が接続される。また、供給チューブ4の他端部は、液体収容槽2の底部に密栓を介して接続される。つまり、液面維持装置3と、液体収容槽2とは供給チューブ4を介して連通する。
また、水面維持装置3は、図外の昇降機構によって上下方向に昇降可能であり、昇降機構を動作させることにより収容容器3Aに収容される液体20の液面と、液体収容槽2に収容される液体20の領域R2の液面とが仮想線L1で示すとおり同一の高さとなるように調整される。
つまり、液面維持装置3は、収容容器3Aと液体収容槽2との間の水頭を調整するものであって、後述の凍結体30が連続的に生成され、液体収容槽2内の液体20が減少した場合であっても、収容容器3Aから液体収容槽2に対して液体20が逐次供給されるため、液体収容槽2の液面の高さが変化することはなく、常に一定に保たれる。
【0012】
チューブ4は、液体収容槽2と液面維持装置3との間において、巻取り機構4Aによって十分に長い長さに巻き取られた状態でインキュベーター15内に格納される。そして、液面維持装置3から液体収容槽2に供給される液体20は、インキュベーター15内の温度まで徐々に冷却される。これにより、液体20がインキュベーター15の外部に設置される液面維持装置3から液体収容槽2に対して大量に供給されたような場合であっても、液体収容槽2に収容される液体20の温度が急激に上昇することを防ぐことができる。
【0013】
図1に示すように、傾斜して設置された液体収容槽2の上方には、ベルトコンベア10が設置される。ベルトコンベア10は、一対のローラー6及び当該ローラー6に架け渡された搬送ベルト5とから構成される。搬送ベルト5は、例えばステンレス等の金属を環状にして形成された無端状のベルトであって、一対のローラー6を形成する駆動ローラー6A,従動ローラー6B間に強く張られた状態で架け渡される。
また、搬送ベルト5の幅寸法は、液体収容槽2の開口部2Aの幅寸法と同一又は広く設定され、開口部2Aを閉塞する。また、その厚みは例えば0.1mm程度の箔状である。なお、搬送ベルト5の材質や厚さはこれに限られない。例えば、ステンレスよりもより熱伝導率の高い銀や銅、アルミニウムなどであってもよい。また、搬送ベルト5の厚さを0.1mmよりも薄くすることにより、冷却熱の伝達速度をさらに向上可能である。
【0014】
図1に示すように、ローラー6は、液体収容槽2の延長方向に沿って互いに離間して設けられる駆動ローラー6Aと従動ローラー6Bとからなる。本実施形態において下流側の駆動ローラー6Aは、従動ローラー6Bよりも上方に設けられる。そして、高さが互いに異なる駆動ローラー6A及び従動ローラー6B間に架け渡された搬送ベルト5は、下方に設置された液体収容槽2の傾斜角度と対応した傾斜角度を以って回転する。つまり、ベルトコンベア10の搬送ベルト5は、液体収容槽2と同様に、凍結体30の搬送方向に向かって上傾して設けられる。より詳細には、搬送ベルト5の傾斜角度と液体収容槽2の傾斜角度とは、互いに平行となるように設置される。なお、ここで上傾とは、垂直方向をも含み、例えば搬送ベルト5及び液体収容槽2を垂直方向に立てて設置してもよい。
【0015】
上記構成からなるベルトコンベア10の駆動ローラー6Aが矢印で示す方向に一定速度で回転すると、搬送ベルト5における液体収容槽2と対向し、搬送方向に沿って上傾する領域(搬送ベルト5の下側半部)は、開口部2Aと摺接しつつ液体収容槽2上において矢印で示す方向に移動し、図2(a)に示す凍結体30を下流側に搬送する。なお、本実施形態において、駆動ローラー6Aは、モーター等の駆動手段により一定の回転速度に維持され、搬送ベルト5を一定の速度で移動させる。
【0016】
また、図2(a)に示すように、ベルトコンベア10の搬送ベルト5における搬送方向に沿って上傾する下側半部は、下方に位置する液体収容槽2の開口部2Aを閉塞し、かつ、液体20の液面と領域R1の範囲で接した状態で移動する。よって、液体収容槽2に収容された液体20は、開口部2Aから漏れ出すことはなく、さらに領域R1の範囲において、搬送ベルト5の外表面5Bと液体20の液面とは常に接した状態に維持される。
【0017】
次に、図1,図2(a)を参照し、環状の搬送ベルト5の内周側に設置される冷却板7について説明する。冷却板7は、内部に供給される冷却媒体を保持可能な銅製の箱体であって、搬送ベルト5の幅方向寸法と略対応する幅を有する矩形状である。冷却板7は、搬送ベルト5における液体20の液面と接する領域R1の範囲に位置し、搬送ベルト5の下側半部の内表面5Aと接するように設けられる。具体的には、冷却板7の下面7Aが内表面5Aと直接接する。よって、駆動ローラー6Aの回転により搬送ベルト5の下側半部が一方向に移動すると、搬送ベルト5の内表面5Aは、上方に位置する冷却板7の下面7Aと摺接することとなる。
【0018】
冷却板7の内部にはチューブ等の供給路9を介して冷却媒体が循環供給される。内部に供給される冷却媒体としては、例えば塩化ナトリウムや塩化カルシウムを水に溶解させたブラインが用いられる。冷却媒体は、任意の温度に設定可能であり、本実施形態における冷却媒体は、例えば−15.0℃に設定されている。
なお、冷却媒体としては、上述したものに限られず、冷却板7を冷却可能な不凍液であればよい。
【0019】
また、冷却板7に供給される冷却媒体の温度は、恒温槽8によって維持される。恒温槽8は、冷却媒体を貯留,循環させる装置であって、貯留した冷却媒体の温度を自在に変化又は維持することが可能である。恒温槽8から供給された冷却媒体は、供給路9を介して冷却板7に開設された図外の注入口から供給され、銅製の冷却板7全体を冷却するとともに、冷却板7内を図外の排出口方向へと流下し、供給路9を介して再び恒温槽8へと戻る。つまり、冷却媒体は、冷却板7及び恒温槽8間を循環する。
【0020】
次に、図2(a)を参照して、上記構成からなる液体収容槽2、搬送ベルト5及び冷却板7によって生成される凍結体30について説明する。上述の冷却板7内に冷却媒体が継続して供給され、搬送ベルト5が一定速度で一方向に移動すると、冷却板7から生じる冷却熱は、冷却板7の下面7Aと接する搬送ベルト5の内表面5A、搬送ベルトの外表面5Bへと徐々に伝わり、最終的に搬送ベルト5の外表面5Bと接する液面を介して液体20を冷却する。そして、液体20が冷却熱によって冷却され、凝固点に達すると外表面5Bと接する液面が凍結し始めるとともに、凍結した凍結体30が外表面5Bに付着し、次第に厚みを増しながら下流側に搬送される。
つまり、図2(a)に示す通り、凍結体30は、搬送ベルト5が冷却板7の下面7Aを通過する過程において徐々に厚みを増しながら生成され、搬送ベルト5が冷却板7の下面7Aを通過すると、搬送ベルト5の外表面5Bには、搬送ベルト5の延長方向に沿って、凍結体30が付着し、下流側に連続的に搬送されることとなる。また、本発明に係る製氷装置1により生成される凍結体30の生成過程においては、液体20が液体収容槽2の外部に排出されることがないため、液体回収装置や循環装置等の付帯設備を設置する必要がなく、装置全体としての消費エネルギー及びスペースを極めて抑制しつつ、凍結体30を連続して効率的に得ることが可能である。
【0021】
また、上記製氷装置1によって生成される凍結体30は、従来の製氷装置によって生成される氷と比して、凍結体30の全域に渡って厚さのムラが生じ難い。即ち、従来の製氷装置は、凍結対象となる液体を上方から吐出,噴射して、液体の流下中に凍結させる構成であるため、吐出,噴射された液体がベルト表面上において不均一に飛散,拡散することに起因して、得られた氷の各部における厚さにムラが生じ易くなる。
一方で、本発明に係る製氷装置1は、搬送ベルト5の外表面5Bが液体20の液面と常に接し、当該液面と接する外表面5Bが冷却板7によって冷却されることにより凍結体30を得る構成である。よって、従来の製氷装置と比して、液体収容槽2内に静的に収容された液体20に対して冷却板7からの冷却熱を一定の割合で付与することができるため、搬送ベルト5の延長方向に沿って厚さのムラが少ない凍結体30を得ることが可能となる。つまり、本発明に係る製氷装置1によれば、従来の製氷装置によって得られる氷よりも厚さのムラが少ない、全域に渡って比較的均一な厚さを有する凍結体30を得ることが可能である。
また、詳細については後述するが、液体20が静的な状態で冷却されることから、搬送ベルト5の移動速度を制御することにより、生成される凍結体30の厚さや、単位時間当たりの生成量を自在に制御することも可能となる。なお、冷却媒体の温度設定によっても凍結体30の厚さや、単位時間当たりの生成量を自在に制御することが可能であることは言うまでもない。
また、本実施形態における搬送ベルト5の移動速度は、例えば約6mm/minから約130mm/minの間で適宜設定可能であり、また、製氷装置1全体の規模によってその移動速度の範囲を適宜設定可能である。
【0022】
図2(b)を参照し、冷却板7によって生成された凍結体30を回収する方法について説明する。
図2(b)は、冷却板7よりも下流側に形成された空隙部11を示す拡大図である。上述のとおり、液体収容槽2は、凍結体30の搬送方向に沿って上傾して設置されており、搬送ベルト5の下流側端部の下方の領域R2の液面は水平な液面となる。空隙部11は、領域R2の水平な液面と、開口部2Aを閉塞する搬送ベルト5との間に形成される液体20が存在しない空間であって、液体収容槽2に設けられた排出口Qを介して外部と連通する空間である。
【0023】
排出口Qは、液体収容槽2における下流側の壁部2Bと搬送ベルト5との間に設けられる間隙である。排出口Qは、壁部2Bの高さが当該壁部2Bと対向する上流側の壁部2Cの高さよりも、生成される凍結体30の厚さ分僅かに低く設定することにより形成される。また、排出口Qを形成する壁部2Bには、内周面に沿って逆流防止弁12が配設される。逆流防止弁12は、例えば軟質樹脂やゴムからなる部材であって、上方に向かうに従って先細となる剣先状の先端部を有し、当該先端部が排出口Qの縁部よりも僅かに上方に突出するように配設される。
【0024】
冷却板7によって生成され、下流側に連続的に搬送される凍結体30は、上述の空隙部11、逆流防止弁12及び排出口Qを経て、液体収容槽2の外部に排出される。凍結体30が逆流防止弁12上に到達すると、凍結体30の下面に逆流防止弁12の先端部が引っ掛かり、上流側への逆流が防止されるとともに、先端部により凍結体30の下面に付着した未凍結の液体20が拭い取られる。即ち、逆流防止弁12は、液体収容槽2内の液体20を外部に漏えいさせないワイパーとしても機能する。
また、凍結体30が排出口Qを通過して液体収容槽2の外部に排出されると、凍結体30は、搬送ベルト5が駆動ローラー6Aにおいて反転することにより外表面5Bから引き剥がされ、液体収容槽2の外部に設置された回収容器14内に回収される。
【0025】
図1に示すように、回収容器14は、上方開口の容器であって、内部空間内に搬送ベルト5によって連続的に搬送されてくる凍結体30を積層した状態で貯留する。
また、回収容器14の下流側の壁部14Aの先端部からは、液体収容槽2方向へと延在する分割手段としての回収板13が配設される。回収板13は、下流側から上流側に向かって上傾するように配設される板状であって、回収板13の下面13Aが上流側から下流側に向かって上傾した状態で搬送される凍結体30を受け止めて下向きの力を与えることにより、凍結体30を一定の長さに分割し、回収容器14内に落下させる。
また、このとき凍結体30は、前述した逆流防止弁12の先端部を支点として折れることとなるため、回収容器14内に積層される各凍結体30の長さは一定な長さとなる。つまり、逆流防止弁12は、回収される凍結体30の長さを均一なものとする機構としても機能する。また、長さの調整は、支点となる逆流防止弁12と回収板13との距離を調整すれば容易に可能である。なお、回収板13を設けずに、凍結体30の自重により落下させる構成としても、支点となる逆流防止弁12を境界として一定な長さを有する凍結体30を得ることが可能である。また、回収板13の形状は図示のものに限られず、一方向に搬送される凍結体30に対して落下方向への力を付与できるものであればよい。
【0026】
インキュベーター15は、液体収容槽2、ベルトコンベア10、冷却板7、回収板13及び回収容器14等が格納されるいわゆる恒温室である。インキュベーター15の内部は、図外の冷却機等によって一定の温度に維持される。本実施形態におけるインキュベーター15内の温度は、例えば0℃に設定される。このように、凍結体30の生成に寄与する機器の外気温が一定に保たれるので、液体収容槽2内の液体20の温度を略一定に保つことができ、凍結体30を効率良く生成することができる。
【0027】
図3は、本実施形態に係る製氷装置1を用いて、凍結体30を生成したときの実験結果である。生成条件は、以下のとおりである。
生成条件
液体20:水道水
搬送ベルト5の移動速度:6.28,18.85,62.83,125.66 (mm/min)
液体20の温度:1.0 (℃)
ブラインの温度:−15.0 (℃)
インキュベーター15内の温度:0.0 (℃)
【0028】
図3(a)は、上記生成条件下における搬送ベルト5の移動速度と生成された凍結体30の厚さとの関係を示す。同図から明らかなように、凍結体30の厚さは、搬送ベルト5の移動速度が上昇するにつれて減少する。これは、搬送ベルト5の移動速度の上昇につれて、冷却板7の下面7Aと搬送ベルト5の内表面5Aとの接触時間が短くなり、搬送ベルト5の外表面5Bに付着した凍結体30に対して冷却板7から与えられる熱量が減少することに起因する。
このことから、凍結体30の厚さは、搬送ベルト5と下面7Aとの接触時間、換言すれば搬送ベルト5の移動速度に依存するものであり、本実施形態に係る製氷装置1によれば、駆動ローラー6Aの回転速度を制御することにより搬送ベルト5の移動速度を調整し、凍結体30の厚さを自在に制御することができる。
【0029】
図3(b)は、上記生成条件下における搬送ベルト5の移動速度と、凍結体30の生成量及び搬送ベルト5と冷却板7との接触熱抵抗の関係を示す。ここで、接触熱抵抗とは、冷却板7から搬送ベルト5に対する熱の伝わりにくさを示す数値であり、接触熱抵抗の値が低いほど冷却板7から搬送ベルト5に対して熱が伝わり易いことを示し、本装置においてはその実用上、接触熱抵抗を十分小さくすることが出来ることがわかる。
また、同図から明らかなように、1時間当たりの凍結体30の生成量は、搬送ベルト5の移動速度が上昇するにつれて増加することがわかる。これは、熱抵抗が、凍結体30の厚さが減少するに伴い低下したことに起因している。つまり、本実施形態に係る製氷装置1によれば、搬送ベルト5の移動速度を増加すればする程、単位時間当たりに生成される凍結体30の生成量が増加することとなり、搬送ベルト5の移動速度を制御することにより、厚さのみならず凍結体30の生成量についても自在に制御することが可能である。
【0030】
以上の結果から、本実施形態に係る製氷装置1によれば、搬送ベルト5の移動速度を相対的に遅く設定することにより、一定程度以上の厚さを有する凍結体30を連続的に得ることができる。一方、搬送ベルト5の移動速度を相対的に速く設定することにより、厚さは薄くなるものの、厚さの薄い凍結体30を早く連続的に得ることにより、単位時間当りに得られる凍結体30の量を増大させることが可能となる。
【0031】
以下、冷却板7の変形例について説明する。
図4(a)は、上述の実施形態に係る搬送ベルト5及び凍結体30の幅方向断面を示す拡大図である。上述のとおり、製氷装置1は、冷却板7の下面7Aに搬送ベルト5の内表面5Aが摺接し、冷却板7から生じる冷却熱を搬送ベルト5を介して液体20に伝達することにより、従来の製氷装置と比べて厚さムラの少ない比較的均一な厚さの凍結体30を連続的に効率よく得る構成である。
しかし、同図に示すとおり、搬送ベルト5と冷却板7との間には、搬送ベルト5が冷却板7の幅方向に沿って僅かに下方に撓んだ状態となることに起因して、微小な空隙Sが形成され、当該空隙Sは、冷却板7の幅方向中心Pに向かうにつれて大きくなり、幅方向中心Pにおいて最大となる。そして、幅方向中心Pにおいて最大となる空隙Sの存在は、幅方向における冷却板7と搬送ベルト5との間の接触熱抵抗の差として表れ、生成される凍結体30の幅方向の厚さにムラを生じさせる要因となる。
具体的には同図に示すように、凍結体30の下面30Aは、接触熱抵抗が増大することに起因して幅方向中心Pに向かうにつれて上方に窪んだ形状となり、幅方向中心P近傍の厚さが幅方向両端部の厚さに対して僅かに薄く形成される。図4(b)及び(c)は、上述した凍結体30の幅方向に生じる厚さのムラをより一層低減するための変形例である。
【0032】
図4(b)に示す他の実施形態は、冷却板7が搬送ベルト5の幅方向に沿って分割して設置された点で、上記実施形態と異なる。本実施形態における冷却板7は、搬送ベルト5の幅方向に沿って、3つに分割して設置されている。また、中央の冷却板7を除く両側の冷却板7は、搬送ベルト5の幅方向外側に僅かに傾斜するように設けられる。本実施形態によれば、上述の実施形態と比較して、個々の冷却板7の下面7Aに対して下方に撓みやすい搬送ベルト5の内表面5Aが密着し易くなり、接触面積が増大する。つまり、接触熱抵抗を増大させる要因となる図4(a)に示す空隙Sの大きさを減少させることができ、凍結体30の下面30Aの幅方向に生じる厚さのムラを効果的に低減することが可能となる。なお、冷却板7の数はこれに限定されるものではなく、搬送ベルト5の幅方向寸法に対応して増加させることにより、接触熱抵抗の差をさらに減少させることが可能である。また、単一の冷却板7の下面7Aにおける幅方向両側を予め幅方向外側に傾斜させた状態となるように形成してもよい。
【0033】
図4(c)に示す他の実施形態は、冷却板7の下面7Aが可撓性部材により形成された点で、上記各実施形態と異なる。本実施形態における冷却板7の下面7Aは、例えば上述の実施形態に係る下面7Aの厚さよりも薄い肉厚を有する金属箔から形成される。そして、冷却板7の内部に冷却媒体が供給されると、仮想線で示す下面7Aは、その圧力により搬送ベルト5側に向かって撓み、搬送ベルト5に生じる撓みに沿って密着することとなる。
つまり、本実施形態は、冷却板7の下面7Aを可撓性を有する部材で形成することにより、下面7Aの外表面を撓んだ状態の搬送ベルト5の内表面5Aに対して密着させ、空隙Sが生じることを防止する形態である。
そして、空隙Sが生じない本実施形態によれば、冷却板7、搬送ベルト5間に生じる接触熱抵抗が幅方向に渡ってほぼ均一なものとなるため、凍結体30の下面の幅方向に生じる厚さのムラをより効果的に低減することが可能となる。なお、可撓性部材を用いることなく、冷却板7の下面7Aを下方に撓んだ形状となるように形成しておいてもよい。
【0034】
図5に示す他の実施形態は、冷却板7を搬送ベルト5上において幅方向に2分割して設置した点で、上述の実施形態と異なる。本実施形態における冷却板7は、搬送ベルト5の幅方向両側に設置されており、各冷却板7は所定の距離離間した状態で設けられる。冷却板7をこのように設置した場合、冷却板7からの距離が遠い搬送ベルト5の幅方向中心Pには、他の部分に比べて厚さが薄い凍結体30が形成される。このように、凍結体30の幅方向中心Pにおける厚さを他の部分よりも意図的に薄く形成することにより、生成された凍結体30は、回収容器14への落下の際に生じる衝撃により、幅方向中心Pを境界として割れ易くなる。つまり、本実施形態によれば、搬送ベルト5の幅寸法の2分の1の幅寸法を有する凍結体30を連続的に容易に得ることが可能となる。なお、複数の冷却板7の数や離間距離を適宜変更することにより、得られる凍結体30の幅方向寸法を自在に設定可能であることは言うまでもない。
【0035】
以上、本発明を複数の実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0036】
例えば、上述の実施形態においては、搬送ベルト5の移動速度を一定として一方向に回転させることにより、凍結体30を連続的に得るものとしたが、搬送ベルト5の移動速度を周期的、或いは、不規則に増減させることや、一定区間だけ逆方向に回転させること等により、凍結体30の延長方向の厚さを周期的、或いは、不規則に変化させることも可能である。また、複数の冷却板7を搬送ベルト5の延長方向に沿って複数分離した状態で設け、凍結体30の幅方向に渡って延長する厚さが薄い箔肉部を形成することにより、凍結体30を箔肉部を境界として容易に分割できる構成としてもよい。
また、液体20を水道水や蒸留水として説明したが、オゾンや窒素などの気体を溶解、或いは、マイクロバブルの状態にして含有させた水を用いてもよい。このように、オゾンを含有させた場合には、オゾンが持つ高い酸化作用や殺菌作用を有する氷を生成することが可能となる。また、窒素を含有させた場合には、耐酸化性の高い氷を生成することが可能となる。
加えて、水より比重の重い水溶性または非水溶性不純物を含有した水を液体20とした場合、不純物の希薄な凍結体30と不純物が濃縮された液体20が得られる。そして、凍結体30を融解することによって、不純物が希薄化された水を得ることができる。
【0037】
1 製氷装置、2 液体収容槽、3 液面維持装置、5 搬送ベルト、7 冷却板、
8 恒温槽、11 空隙部、12 逆流防止弁、13 回収板、
15 インキュベーター、20 液体、30 凍結体、
P 幅方向中心、Q 排出口、R1,R2 領域、S 空隙。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結対象となる液体を収容した液体収容槽と、
前記液体収容槽の上方において液体の液面に接しながら一方向に移動する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトにおける液体収容槽側の内表面と接する冷却板とを備え、
前記搬送ベルトが、当該搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面において凍結した凍結体を一方向に搬送する製氷装置。
【請求項2】
前記搬送ベルトが前記液体収容槽の上方開口部を閉塞し、
前記液体収容槽及び搬送ベルトが凍結体の搬送方向に向かって上傾して設けられ、
前記搬送ベルトにより搬送される凍結体が、
前記液体収容槽の搬送方向端部において前記搬送ベルトと水平な液面との間に形成された空隙部から前記液体収容槽の外部に搬送される請求項1記載の製氷装置。
【請求項3】
前記液体収容槽と連通する液面維持装置をさらに備え、
前記液体収容槽の液面が前記搬送ベルトにおける液体収容槽側の外表面に接する高さに維持される請求項1又は請求項2に記載の製氷装置。
【請求項4】
前記冷却板が前記搬送ベルトの幅方向に沿って複数設けられた請求項1乃至請求項3いずれかに記載の製氷装置。
【請求項5】
前記液体収容槽の外部に設置され、搬送ベルトにより搬送される凍結体を所定の長さに分割する分割手段をさらに備えた請求項1乃至請求項4いずれかに記載の製氷装置。
【請求項6】
前記液体収容槽、搬送ベルト及び冷却板がインキュベーター内に格納された請求項1乃至請求項5いずれかに記載の製氷装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−15265(P2013−15265A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148483(P2011−148483)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)