複列軸受用保持器および複列転がり軸受
【課題】 環状部と複数の柱部とを有する単列の保持器の一対が背面を突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、背面での摩耗を低減できる複列軸受用保持器および転がり軸受を提供する。
【解決手段】 この複列軸受用保持器は、それぞれ環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、隣合う柱部3,3と環状部2の間で転動体6を保持するポケット4を形成してなる一対の単列の保持器1,1からなる。両保持器1は互いに柱部3の延びる方向が逆方向であって、前記環状部2を互いに背面で突合わせて配置される。両保持器1,1の互いに突き合わされる環状部背面1aの断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状とする。
【解決手段】 この複列軸受用保持器は、それぞれ環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、隣合う柱部3,3と環状部2の間で転動体6を保持するポケット4を形成してなる一対の単列の保持器1,1からなる。両保持器1は互いに柱部3の延びる方向が逆方向であって、前記環状部2を互いに背面で突合わせて配置される。両保持器1,1の互いに突き合わされる環状部背面1aの断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械用の円筒ころ軸受等に用いられる複列軸受用保持器および転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸装置において、高速で回転駆動される主軸をハウジングに対して回転自在に支持するのに、例えば図21に示すような複列円筒ころ軸受30が用いられる。複列円筒ころ軸受30は、内外輪31,32と、内輪31の軌道面31aと外輪32の軌道面32aの間に転動自在に設けられた複数の円筒ころ26と、円筒ころ26を保持する一対の保持器21,21とで構成される。この場合の保持器21は、図22および図23に展開図および側面図で示すように、環状部22と、この環状部22に円周方向に並んで設けられて軸方向の一方に延びる複数の柱部23とを有し、隣合う柱部23,23と環状部22の間で円筒ころ26を保持するポケット24が形成された所謂くし形保持器である。
【0003】
従来、このような円筒ころ軸受用の保持器として銅合金製のものが多く用いられていたが、軸受の高速・長寿命への取組のなかで、近年は樹脂製保持器へと代わりつつある(例えば特許文献1)。
【0004】
図22の複列円筒ころ軸受30の保持器21として軽量・高剛性の樹脂製保持器を用いると、遠心力の影響が軽減されるため、円筒ころ26と保持器21の干渉が軽減され低温度上昇となり、結果的に高速運転が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−127493号公報
【特許文献2】特開2008−008370号公報
【特許文献3】特開2005−163997号公報
【特許文献4】特開2006−077814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図21における複列円筒ころ軸受30において保持器21として樹脂製保持器を用いた場合でも、軸受の取付け誤差等により転動体である円筒ころ26に遅れ進みが生じると、図22のように遅れ進みによる力が円周方向に作用し、くし形である一対の保持器21,21は互いに軸受幅中心に向かって移動し、両保持器21の背面同士が押し合う状態となる。このように押し合った状態で運転による振動が加わると、保持器21の背面に摩耗が生じ、その摩耗粉が潤滑剤の劣化を促進し、異常昇温を招くこともある。
【0007】
このような保持器の背面摩耗の対策として、保持器背面に形成する潤滑剤保持溝を、成形時における溶融樹脂の合流部跡であるウェルド部を除く領域に形成する提案例もあるが(例えば特許文献2)、背面摩耗の対策として十分ではない。
【0008】
また、このような樹脂製保持器の場合、上記した円筒ころ26の遅れ進みが生じて柱部23に大きな力が加わると、極稀にではあるが図22のように環状部22と柱部23の繋ぎ部分において破断40が生じることがある。このような破断は、時には銅合金製保持器の場合でも生じる場合がある。このような保持器の破断対策として、保持器の材料として樹脂の中でも強度のあるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いたり(例えば特許文献1)、保持器の断面積を増やすなど(例えば特許文献3)の提案例があるが、破断対策として十分ではない。
【0009】
この発明の目的は、環状部と複数の柱部とを有する保持器の一対が互いの背面を突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、保持器背面での摩耗を低減できる複列軸受用保持器および複列転がり軸受を提供することである。
この発明の他の目的は、環状部と複数の柱部とを有する軸受用保持器において、環状部と柱部の繋ぎ部分での破断を防止できる軸受用保持器および複列転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明にかかる複列軸受用保持器は、それぞれ環状部と、この環状部に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部とを有し、隣合う柱部と環状部の間で転動体を保持するポケットを形成してなる一対の単列の保持器からなり、両保持器は互いに柱部の延びる方向が逆方向であって、前記環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、前記両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状としたことを特徴とする。前記保持器中心軸に垂直な平面は、例えば軸受幅の中心位置にける平面である。この複列軸受用保持器は、保持する転動体が円筒ころであっても、また玉であっても良い。
【0011】
一対の保持器がそれらの環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受では、転動体の遅れ進みで円周方向の力が保持器に作用し、これにより両保持器は互いに軸受幅中心に向かって押し出され、環状部の背面同士が接触して押し合う状態となる。この発明の複列軸受用保持器では、両保持器の環状部背面の断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状とされているので、両保持器の環状部背面の面積がそれだけ広くなり、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器の環状部背面に生じる摩耗を小さく抑えることができ、その摩耗粉が潤滑剤の劣化を促進するのを低減し、異常昇温を招くのを回避することができる。
【0012】
この発明において、前記環状部背面の断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面に対して背面の全体が傾斜する形状であっても良い。また、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状のV字状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状のV字状であっても良い。さらに、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状の円弧状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状の円弧状であっても良い。
【0013】
この発明において、前記両保持器のうち一方の保持器の環状部の外径面に、他方の保持器の環状部まで張り出してその外径面を覆う鍔部を設けても良い。
両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状とすることで、押合いにより両保持器の環状部背面に生じる摩耗を小さく抑えることができるものの、背面が接触している限りは摩耗をゼロに抑えることはできない。このため、摩耗粉は遠心力で軸受外輪の内径面に飛ばされ潤滑剤に混ざる。摩耗粉を含んだ潤滑剤は潤滑性能が落ちるため、軸受内外輪の軌道面の損傷を招く。一方の保持器の環状部の外径面に、他方の保持器の環状部まで張り出してその外径面を覆う鍔部を設けた場合、この鍔部が摩耗粉を溜めておくポケットとなって、摩耗粉が遠心力で軸受外輪の内径面に飛ばされるのを阻止することができる。
【0014】
この発明において、前記各保持器における前記環状部と前記柱部とを別部材とし、これら環状部と柱部とを、これら環状部と柱部とにそれぞれ設けられて互いに前記環状部の円周方向に挿脱可能に嵌まり合う被嵌合部と嵌合部とで嵌合させて結合しても良い。この構成の場合、環状部に対して柱部が円周方向に移動可能であるため、転動体に遅れ進みが生じた時に、柱部が環状部に対して円周方向に移動することで、両保持器を軸受幅中心に向かって押し出す力を緩和することができ、これにより環状部背面に生じる摩耗をさらに小さく抑えることができる。
【0015】
この場合に、前記環状部の内径面に、環状部と前記柱部の嵌合部分に連通する開口を設けても良い。このような開口を設けた場合、開口から嵌合部の接触面に潤滑剤が取り入れられて接触面の潤滑性向上に寄与するので、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0016】
また、前記のように環状部と前記柱部とを別部材とした場合に、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、前記環状部および柱部の材質よりも摩擦係数の小さい材質の低摩擦材を介在させても良い。このような低摩擦材を介装した場合、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0017】
また、前記のように環状部と前記柱部とを別部材とした場合に、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面に、低摩擦表面処理を施しても良い。このように低摩擦表面処理を施した場合も、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0018】
また、前記のように環状部と前記柱部とを別部材とした場合に、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、固体潤滑材を焼成しても良い。このような固体潤滑材を焼成した場合も、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0019】
この発明の複列転がり軸受は、この発明の複列軸受用保持器を用いた複列転がり軸受であり、円筒ころ軸受であっても、また深溝玉軸受であってもよい。用途による分類では、工作機械主軸用軸受であっても良い。
工作機械主軸用軸受は高速で連続運転することが多いので、上記構成の複列軸受用保持器、つまり転動体に遅れ進みが生じた時に、保持器の環状部背面で生じる摩耗を低減できる構成の複列軸受用保持器を工作機械主軸用軸受に用いた場合、保持器の環状部背面で生じる摩耗を低減するのにより大きな効果を上げることができる。
【0020】
この発明の複列転がり軸受は、上記いずれかの構成の軸受であって、グリース潤滑の軸受であっても良い。前記いずれかの構成の複列軸受用保持器をグリース潤滑で用いた場合、転動体に遅れ進みが生じた時に、保持器の環状部背面で生じる摩耗を低減するのにより大きな効果を上げることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の複列軸受用保持器は、それぞれ環状部と、この環状部に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部とを有し、隣合う柱部と環状部の間で転動体を保持するポケットを形成してなる一対の単列の保持器からなり、両保持器は互いに柱部の延びる方向が逆方向であって、前記環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、前記両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状としたため、保持器背面での摩耗を低減することができる。
この発明の複列転がり軸受は、この発明の複列軸受用保持器を用いたため、保持器背面での摩耗を低減することができ、また摩耗粉による軸受機能の低下や寿命低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図2】同保持器の展開図である。
【図3】同保持器の一変形例の断面図である。
【図4】(A)は同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図、(B),(C)はその部分拡大断面図である。
【図5】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での他の変形例を示す断面図である。
【図6】同保持器における環状部・柱部の嵌合部でのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図7】同保持器の他の変形例の断面図である。
【図8】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図である。
【図9】この発明の他の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図12】参考提案例にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図13】同保持器の展開図である。
【図14】同保持器の一変形例の断面図である。
【図15】(A)は同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図、(B),(C)はその部分拡大断面図である。
【図16】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での他の変形例を示す断面図である。
【図17】同保持器における環状部・柱部の嵌合部でのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図18】同保持器の他の変形例の断面図である。
【図19】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図である。
【図20】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受用保持器の一部を断面して示す展開図である。
【図21】従来例の保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図22】同保持器の展開図である。
【図23】同保持器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、この発明の第1の実施形態にかかる複列軸受用保持器を組み込んだ複列転がり軸受である複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この複列円筒ころ軸受10は、工作機械の主軸装置において、高速で回転駆動される主軸をハウジングに対して回転自在に支持する軸受であって、内輪11および外輪12と、転動体である複数の円筒ころ6と、円筒ころ6を保持する一対の単列の保持器1,1とで構成される。これら一対の単列の保持器1,1により、この複列軸受用保持器Wが構成される。内輪11は外周に複列の軌道面11a,11aを有し、主軸(図示せず)の外周に嵌合される。外輪12は内周に複列の軌道面12a,12aを有し、ハウジングの内周に嵌合される。円筒ころ6は、内輪11の軌道面11aと外輪12の軌道面12aの間に回転自在に介装される。内輪11の軸方向中央部には中鍔11bが設けられ、両端部には外鍔11cが設けられている。この複列円筒ころ軸受10の内部空間には、潤滑剤としてグリースが充填される。保持器1の材質は、ポリアミド(PA)等の合成樹脂であるが、金属材であっても良い。
【0024】
図2は、前記一対の保持器1,1の展開図を示す。これらの保持器1は所謂くし形保持器であって、それぞれ円環状の環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、隣合う柱部3,3と環状部2の間に円筒ころ6を摺動自在に保持するポケット4が形成されている。ここでは、環状部2と柱部3は一体に形成されている。両保持器1は互いに柱部3の延びる方向が逆方向であって、それぞれの環状部2を背面で突き合わせて配置される。
両保持器1の互いに突き合わされる環状部2の背面の断面形状は、図1のように、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する形状とされている。上記平面Oは、軸受幅中心における平面であって、複列軸受用保持器Wの軸受幅中心に位置する。この実施形態では、その環状部2の背面1aの断面形状が、軸心に対して所定角度で傾斜する形状とされている。
【0025】
上述したように、環状部2を互いに背面1aで突き合わせて配置される一対の保持器1,1では、円筒ころ6の遅れ進みで図2に矢印で示すような円周方向の力が作用し、これにより両保持器1は互いに軸受幅中心に向かって押し出され、環状部2の背面1a,1a同士が接触して押し合う状態となる。この実施形態では、両保持器1の環状部2の背面1aの断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する形状であり、保持器中心軸に対して所定角度で傾斜する形状とされているので、両保持器1の環状部2の背面1aの面積がそれだけ広くなり、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器1の環状部2の背面1aに生じる摩耗を小さく抑えることができ、その摩耗粉が潤滑剤であるグリースの劣化を促進するのを低減し、異常昇温を招くのを回避することができる。
【0026】
図3ないし図6は、この実施形態における保持器1の変形例を示す。図1および図2に示す構成例では、環状部2と柱部3が一体に形成された場合を示したが、図3の構成例では、各保持器1における環状部2と柱部3とを別部材とし、環状部2に対して柱部3を嵌合により結合させた例を示している。なお、図3は、図2の展開図におけるA−A矢視断面図に相当する断面図である。この変形例では、各保持器1において、柱部3の基端部に外径側に向く断面L字状の嵌合部3aが形成され、環状部2には内径側に向く嵌合溝からなる被嵌合部2aが形成されている。これら嵌合部3aと被嵌合部2aとは、環状部2の円周方向に挿脱可能に嵌まり合う形状である。環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合部3aが前記被嵌合部2aに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。この場合、環状部2と柱部3の部材の材質は、例えば環状部2の部材がポリアミド(PA)66で柱部3の部材が銅合金であるように異種材質であっても良いし、同一材質であっても良い。その他の構成は図1および図2に示す構成例の場合と同様である。
【0027】
図3の変形例の場合、環状部2に対して柱部3が円周方向に移動可能であるため、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することで、両保持器1を軸受幅中心に向かって押し出す力を緩和することができ、これにより環状部2の背面に生じる摩耗をさらに小さく抑えることができる。
【0028】
図4(A)は、図3に示す変形例において、環状部2と柱部3の被嵌合部a,嵌合部3aにおける互いに接触する接触面の一部に凹凸部7を設けた例を示す。凹凸部7は、図4(B)に拡大図で示すように柱部3側の接触面に設けても良いし、図4(C)に拡大図で示すように環状部2側の接触面に設けても良い。
【0029】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における互いに接触する接触面の一部に凹凸部7を設けた場合、凹凸部7に潤滑剤(ここではグリース)を保持することができ、接触面積も少なくすることができる。接触面での潤滑性が向上することにより、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。このように接触面での潤滑性向上を図ることは、高速で連続運転することが多い工作機械用軸受で、かつグリース潤滑の場合、より大きな効果を上げることができる。凹凸部7の凹凸は、バランスを考慮して3箇所以上に等配するのが望ましい。
【0030】
図5は、図3に示す変形例において、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8を介装した例を示す。低摩擦材8としては、例えばルーロンシート(登録商標)のような摺動特性に優れた樹脂製シートが好適である。
【0031】
このように、環状部2と柱部3の被嵌合部2aと嵌合部3aにおける環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8を介装した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0032】
図6は、図3に示す変形例において、環状部2と柱部3の被嵌合部2aと嵌合部3aにおける環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9を施した例を示す。低摩擦表面処理9としては、例えば銀メッキや、テフロン(登録商標)加工、その他のフッ素樹脂加工等の表面処理が好適である。
【0033】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9を施した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0034】
このほか、図5における環状部2と柱部3の接触面間の低摩擦材8介装箇所に、低摩擦材8に代えてポリルーブ(登録商標)等の固体潤滑材を封入焼成しても良い。ポリルーブは、グリースを含ませた樹脂材からなる。この場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0035】
図7は、この実施形態における保持器1のさらに他の構成例を示す。この構成例も環状部2と柱部3を別部材で構成したものであって、各保持器1において、柱部3の基端側に軸受幅中心に向く断面T字状の突形状の嵌合部3bが形成され、環状部2の柱部3側に向く側面には断面T字状の溝からなる被嵌合部2bが形成されている。この場合も、環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合部3bが前記被嵌合部2bに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。その他の構成は図1および図2に示す構成例の場合と同様である。
【0036】
この構成例の場合も、環状部2に対して柱部3が円周方向に移動可能であるため、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することで、両保持器1を軸受幅中心に向かって押し出す力を緩和することができ、これにより環状部2の背面に生じる摩耗をさらに小さく抑えることができる。
【0037】
図8は、図7に示す構成例において、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部分に連通する開口5を設けた例を示す。
【0038】
このように、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部分に連通する開口5を設けた場合、この開口5から嵌合部分の接触面にグリースが取り入れられて接触面の潤滑性向上に寄与するので、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0039】
このほか、図8における開口5に、前記ポリルーブ等の固体潤滑材を封入焼成しても良い。この場合にも、固体潤滑材が嵌合部における接触面の潤滑性向上に寄与するので、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0040】
図9は、この発明の他の実施形態の複列軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この実施形態では、図1に示す複列円筒ころ軸受10において、一方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が凹形状のV字状であり、他方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が、前記一方の保持器1の前記V字状の背面1aに嵌まり合う凸形状のV字状とされている。なお、この実施形態においても、図3〜図8に示した各変形例を適用することができる。
【0041】
この実施形態の場合にも、両保持器1の環状部2の背面1aの面積が広くなるので、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器1の環状部2の背面に生じる摩耗を小さく抑えることができる。
【0042】
図10は、この発明のさらに他の実施形態にかかる複列軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この実施形態では、図1に示す複列円筒ころ軸受10において、一方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が凹形状の円弧状であり、他方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が、前記一方の保持器1の前記円弧状の背面1aに嵌まり合う凸形状のV字状とされている。なお、この実施形態においても、図3〜図8に示した各変形例を適用することができる。
【0043】
この実施形態の場合にも、両保持器1の環状部2の背面1aの面積が広くなるので、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器1の環状部2の背面に生じる摩耗を小さく抑えることができる。
【0044】
図11は、この発明のさらに他の実施形態の複列軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この実施形態では、図1に示す複列円筒ころ軸受10において、一対の保持器1,1のうち、一方の保持器1の環状部2の外径面に、他方の保持器1の環状部2まで張り出してその外径面の一部を覆う鍔部2cが設けられている。両保持器1の互いに突き合わされる環状部2の背面1aの断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する傾斜形状とされていることは、図1の実施形態の場合と同様である。なおこの実施形態においても、図3〜図8に示した各変形例を適用することができる。
【0045】
両保持器1の互いに突き合わされる環状部2の背面aの断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する形状とすることで、押合いにより両保持器1の環状部2の背面に生じる摩耗を小さく抑えることができるものの、背面1aが接触しているかぎり摩耗をゼロに抑えることはできない。このため、摩耗粉は遠心力で外輪12の内径面に飛ばされ潤滑剤であるグリースに混ざる。摩耗粉を含んだグリースは潤滑性能が落ちるため、内外輪11,12の軌道面11a,12aの損傷を招く。この実施形態では、一方の保持器1の環状部2の外径面に、他方の保持器1の環状部2まで張り出してその外径面を覆う鍔部2cが設けられているので、この鍔部2cが摩耗粉を溜めておくポケットとなって、摩耗粉が遠心力で外輪12の内径面に飛ばされるのを阻止することができる。
【0046】
なお、上記各実施形態において、前記ポケット4に保持される転動体である円筒ころ6の径寸法Dに対する前記柱部3の円周方向幅Wの比率W/D×100%を19%以下としても良い。
従来の保持器では、ポケットに保持される転動体の径寸法Dに対する柱部の周方向幅Wの比率W/D×100%は20〜33%であったが、この実施形態の複列軸受用保持器では9〜19%程度まで小さくすることができる。
また、この場合に、前記ポケット4に保持される転動体の径寸法Dに対する前記柱部3の円周方向幅Wの比率W/D×100%を35%以上としても良い。
【0047】
図12〜図19は、参考提案例を示す。図12は、この提案例の軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。保持器1Aは所謂くし形保持器であって、図13に展開図で示すように、円環状の環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、隣合う柱部3,3と環状部2の間に円筒ころ6を摺動自在に保持するポケット4が形成されていることは、図1および図2に示した実施形態の保持器1の場合と同様である。また、図12に示す複列円筒ころ軸受10において、保持器1Aを除く他の構成は図1に示す複列円筒ころ軸受10の場合と同様である。この実施形態では、一対の保持器1A,1Aの互いに突き合わされる環状部2の背面の断面形状は、図1の場合のように軸受幅中心に対して交差する形状ではなく、軸受幅中心に重なる垂直な形状である。ただし、この場合の保持器1Aは、環状部2と柱部3が別部材とされ、環状部2に対して柱部3を嵌合して一体化されている。この場合、環状部2と柱部3の部材の材質は、例えば環状部2の部材がポリアミド(PA)66,ポリフェニレンサルファイド(PPS),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂で柱部3の部材が銅合金であるように異種材質であっても良く、同一材質であっても良い。その他の構成は図1および図2に示す実施形態の場合と同様である。
【0048】
図14は、図13の展開図におけるB−B矢視断面図を示す。保持器1Aでは、柱部3の基端側に外径側に向く断面L字状の嵌合部3aが形成され、環状部2には内径側に向く被嵌合部2aが形成されている。環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合部3aが前記被嵌合部2aに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。
【0049】
転動体である円筒ころ6に遅れ進みが生じた時、保持器1Aには図13に矢印で示すように円筒ころ6の遅れ進みによる力が円周方向に作用する。しかし、この実施形態の保持器1Aの場合、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することから柱部3の基端にモーメント力がかからず、つまり柱部3の基端にすみRが無い状態となるので、従来例の場合のように環状部と柱部の繋ぎ部分に破断が生じるのを防止することができる。
【0050】
また、柱部3の基端にかかるモーメント力に耐えるために、環状部2の幅寸法や柱部3の周方向幅を大きくする必要もなくなる。そこで、柱部3の周方向幅を変更することでポケット4の数を増減することも可能となる。従来のくし形保持器では、ポケットに保持される転動体の径寸法Dに対する柱部の周方向幅Wの比率W/D×100%は20〜33%であったが、この提案例では9〜19%程度まで小さくすることができ、転動体である円筒ころ6の個数も多くすることができる。つまり、保持器1Aの高剛性化、高負荷容量化が可能となる。因みに、柱部3の周方向幅比率が9%のものでは、円筒ころ6の個数を1列当たり3個(複列の両側では6個)増加でき、基本定格荷重に換算すると8%程度増加することになる。また、柱部3の周方向比率が9%のものでは、柱部3の周方向幅Wが2.8mmから1.2mmとなる。なお、柱部3の周方向幅比率を35%以上としても良い。
ただし、
周方向幅={保持器ピッチ円径−(転動体径×転動体個数)}/転動体個数
周方向比率=周方向幅÷転動体径×100%
である。
【0051】
くし形保持器を用いた軸受において、転動体個数を保持器のポケットの一個飛びに抜き取る低発熱使用の軸受が提案されているが(例えば特許文献4)、保持器の環状部と柱部が一体形成されたものでは転動体個数を偶数個とする場合しか適用できない。しかし、この実施形態の保持器1Aでは、柱部3の周方向幅を変更することにより、転動体である円筒ころ6の個数に奇数・偶数の制約を受けることなくその個数を減らすことができ、容易に低発熱仕様とすることができる。仮に、転動体である円筒ころ6の個数を半分にすると、柱部3の周方向比率は140〜165%まで増える。さらに、柱部3の周方向比率を165%以上に設定することも可能である。
【0052】
図15(A)は、図14に示す構成例において、環状部2と柱部3の嵌合部における互いに接触する接触面の一部に凹凸部7Aを設けた例を示す。凹凸部7Aは、図15(B)に拡大図で示すように柱部3側の接触面に設けても良いし、図15(C)に拡大図で示すように環状部2側の接触面に設けても良い。
【0053】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部分における互いに接触する接触面の一部に凹凸部7Aを設けた場合、凹凸部7Aに潤滑剤(ここではグリース)を保持することができ、接触面積も少なくすることができる。接触面での潤滑性が向上することにより、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。このように接触面での潤滑性向上を図ることは、高速で連続運転することが多い工作機械用軸受で、かつグリース潤滑の場合、より大きな効果を上げることができる。凹凸部7Aの凹凸は、バランスを考慮して3箇所以上に等配するのが望ましい。
【0054】
図16は、図14に示す構成例において、環状部2と柱部3の嵌合部分における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8Aを介装した例を示す。低摩擦材8Aとしては、例えばルーロンシート(登録商標)のような摺動特性に優れた樹脂製シートが好適である。
【0055】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8Aを介装した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0056】
図17は、図14に示す構成例において、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9Aを施した例を示す。低摩擦表面処理9Aとしては、例えば銀メッキや、テフロン(登録商標)加工、その他のフッ素樹脂加工等の表面処理が好適である。
【0057】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9Aを施した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0058】
このほか、図16における環状部2と柱部3の接触面間の低摩擦材8A介装箇所に、低摩擦材8Aに代えてポリルーブ等の固体潤滑材を封入焼成しても良い。この場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0059】
図18は、この実施形態における保持器1Aのさらに他の構成例を示す。この構成例も環状部2と柱部3を別部材で構成したものであって、柱部3の基端側に軸受幅中心に向く断面T字状の嵌合突部3bが形成され、環状部2の柱部3側に向く側面には断面T字状の嵌合溝2bが形成されている。この場合も、環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合突部3bが前記嵌合溝2bに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。その他の構成は図12および図13に示す構成例の場合と同様である。
【0060】
この構成例の場合も、環状部2に対して柱部3が円周方向に移動可能であるため、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することで柱部3の基端にモーメント力がかからず、従来例の場合のように環状部と柱部の繋ぎ部分に破断が生じるのを防止することができる。
【0061】
図19は、図18に示す構成例において、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部に連通する開口5Aを設けた例を示す。
【0062】
このように、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部に連通する開口5Aを設けた場合、この開口5Aから嵌合部の接触面にグリースが取り入れられて接触面の潤滑性向上に寄与するので、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0063】
図20は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の軸受用保持器1Bは、図1〜〜図11に示す実施形態の保持器の構造を深溝玉軸受用の冠型樹脂保持器に適用したものである。すなわち、この場合の保持器1Bは、図20に展開図で示すように、そのポケット4に転動体としてボール6Aを保持するものであり、環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、環状部2と柱部3とを別部材とし、環状部2に対して柱部3を嵌合して一体化することは図12〜図19に示す実施形態の保持器1Aの場合と同様である。ボール6Aを保持する各ポケット4は、隣合う柱部3,3と環状部2との間に形成される。なお、図20では、保持器1Bにおける各柱部3だけを破断して示している。環状部2と柱部3の嵌合部の断面形状はここでは図示しないが、図14に示す構成例や、図18に示す構成例を適用することができる。嵌合部における接触面の潤滑構造についても、図15〜図17、図19に示す構成例を適用することができる。
【0064】
深溝玉軸受では、複列円筒ころ軸受の場合のように保持器の環状部背面同士が押し合い状態となることは少ないが、転動体であるボール6Aの遅れ進みは生じる。その遅れ進みによる力が大きいと、ボール6Aがポケット4に異常接触し、異常昇温を招く恐れがある。この実施形態の保持器1Bでは、環状部2と柱部3とを別部材とし、環状部2に対して柱部3を嵌合して一体化しており、ボール6Aに遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動可能としているので、ボール6Aがポケット4に異常接触するのを防止でき、異常接触に伴う異常昇温も発生しない。
【符号の説明】
【0065】
1,1A,1B… 保持器
1a…背面
2…環状部
2a…嵌合部
2c…鍔部
3…柱部
3a…被嵌合部
4…ポケット
5,5A…開口
6…円筒ころ(転動体)
6A…ボール(転動体)
7,7A…凹凸部
8,8A…低摩擦材
9,9A…低摩擦表面処理
10…複列円筒ころ軸受
O…平面
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械用の円筒ころ軸受等に用いられる複列軸受用保持器および転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸装置において、高速で回転駆動される主軸をハウジングに対して回転自在に支持するのに、例えば図21に示すような複列円筒ころ軸受30が用いられる。複列円筒ころ軸受30は、内外輪31,32と、内輪31の軌道面31aと外輪32の軌道面32aの間に転動自在に設けられた複数の円筒ころ26と、円筒ころ26を保持する一対の保持器21,21とで構成される。この場合の保持器21は、図22および図23に展開図および側面図で示すように、環状部22と、この環状部22に円周方向に並んで設けられて軸方向の一方に延びる複数の柱部23とを有し、隣合う柱部23,23と環状部22の間で円筒ころ26を保持するポケット24が形成された所謂くし形保持器である。
【0003】
従来、このような円筒ころ軸受用の保持器として銅合金製のものが多く用いられていたが、軸受の高速・長寿命への取組のなかで、近年は樹脂製保持器へと代わりつつある(例えば特許文献1)。
【0004】
図22の複列円筒ころ軸受30の保持器21として軽量・高剛性の樹脂製保持器を用いると、遠心力の影響が軽減されるため、円筒ころ26と保持器21の干渉が軽減され低温度上昇となり、結果的に高速運転が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−127493号公報
【特許文献2】特開2008−008370号公報
【特許文献3】特開2005−163997号公報
【特許文献4】特開2006−077814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図21における複列円筒ころ軸受30において保持器21として樹脂製保持器を用いた場合でも、軸受の取付け誤差等により転動体である円筒ころ26に遅れ進みが生じると、図22のように遅れ進みによる力が円周方向に作用し、くし形である一対の保持器21,21は互いに軸受幅中心に向かって移動し、両保持器21の背面同士が押し合う状態となる。このように押し合った状態で運転による振動が加わると、保持器21の背面に摩耗が生じ、その摩耗粉が潤滑剤の劣化を促進し、異常昇温を招くこともある。
【0007】
このような保持器の背面摩耗の対策として、保持器背面に形成する潤滑剤保持溝を、成形時における溶融樹脂の合流部跡であるウェルド部を除く領域に形成する提案例もあるが(例えば特許文献2)、背面摩耗の対策として十分ではない。
【0008】
また、このような樹脂製保持器の場合、上記した円筒ころ26の遅れ進みが生じて柱部23に大きな力が加わると、極稀にではあるが図22のように環状部22と柱部23の繋ぎ部分において破断40が生じることがある。このような破断は、時には銅合金製保持器の場合でも生じる場合がある。このような保持器の破断対策として、保持器の材料として樹脂の中でも強度のあるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いたり(例えば特許文献1)、保持器の断面積を増やすなど(例えば特許文献3)の提案例があるが、破断対策として十分ではない。
【0009】
この発明の目的は、環状部と複数の柱部とを有する保持器の一対が互いの背面を突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、保持器背面での摩耗を低減できる複列軸受用保持器および複列転がり軸受を提供することである。
この発明の他の目的は、環状部と複数の柱部とを有する軸受用保持器において、環状部と柱部の繋ぎ部分での破断を防止できる軸受用保持器および複列転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明にかかる複列軸受用保持器は、それぞれ環状部と、この環状部に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部とを有し、隣合う柱部と環状部の間で転動体を保持するポケットを形成してなる一対の単列の保持器からなり、両保持器は互いに柱部の延びる方向が逆方向であって、前記環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、前記両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状としたことを特徴とする。前記保持器中心軸に垂直な平面は、例えば軸受幅の中心位置にける平面である。この複列軸受用保持器は、保持する転動体が円筒ころであっても、また玉であっても良い。
【0011】
一対の保持器がそれらの環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受では、転動体の遅れ進みで円周方向の力が保持器に作用し、これにより両保持器は互いに軸受幅中心に向かって押し出され、環状部の背面同士が接触して押し合う状態となる。この発明の複列軸受用保持器では、両保持器の環状部背面の断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状とされているので、両保持器の環状部背面の面積がそれだけ広くなり、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器の環状部背面に生じる摩耗を小さく抑えることができ、その摩耗粉が潤滑剤の劣化を促進するのを低減し、異常昇温を招くのを回避することができる。
【0012】
この発明において、前記環状部背面の断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面に対して背面の全体が傾斜する形状であっても良い。また、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状のV字状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状のV字状であっても良い。さらに、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状の円弧状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状の円弧状であっても良い。
【0013】
この発明において、前記両保持器のうち一方の保持器の環状部の外径面に、他方の保持器の環状部まで張り出してその外径面を覆う鍔部を設けても良い。
両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状とすることで、押合いにより両保持器の環状部背面に生じる摩耗を小さく抑えることができるものの、背面が接触している限りは摩耗をゼロに抑えることはできない。このため、摩耗粉は遠心力で軸受外輪の内径面に飛ばされ潤滑剤に混ざる。摩耗粉を含んだ潤滑剤は潤滑性能が落ちるため、軸受内外輪の軌道面の損傷を招く。一方の保持器の環状部の外径面に、他方の保持器の環状部まで張り出してその外径面を覆う鍔部を設けた場合、この鍔部が摩耗粉を溜めておくポケットとなって、摩耗粉が遠心力で軸受外輪の内径面に飛ばされるのを阻止することができる。
【0014】
この発明において、前記各保持器における前記環状部と前記柱部とを別部材とし、これら環状部と柱部とを、これら環状部と柱部とにそれぞれ設けられて互いに前記環状部の円周方向に挿脱可能に嵌まり合う被嵌合部と嵌合部とで嵌合させて結合しても良い。この構成の場合、環状部に対して柱部が円周方向に移動可能であるため、転動体に遅れ進みが生じた時に、柱部が環状部に対して円周方向に移動することで、両保持器を軸受幅中心に向かって押し出す力を緩和することができ、これにより環状部背面に生じる摩耗をさらに小さく抑えることができる。
【0015】
この場合に、前記環状部の内径面に、環状部と前記柱部の嵌合部分に連通する開口を設けても良い。このような開口を設けた場合、開口から嵌合部の接触面に潤滑剤が取り入れられて接触面の潤滑性向上に寄与するので、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0016】
また、前記のように環状部と前記柱部とを別部材とした場合に、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、前記環状部および柱部の材質よりも摩擦係数の小さい材質の低摩擦材を介在させても良い。このような低摩擦材を介装した場合、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0017】
また、前記のように環状部と前記柱部とを別部材とした場合に、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面に、低摩擦表面処理を施しても良い。このように低摩擦表面処理を施した場合も、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0018】
また、前記のように環状部と前記柱部とを別部材とした場合に、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、固体潤滑材を焼成しても良い。このような固体潤滑材を焼成した場合も、転動体に遅れ進みが生じた時に、環状部に対する柱部の円周方向への移動が容易になる。
【0019】
この発明の複列転がり軸受は、この発明の複列軸受用保持器を用いた複列転がり軸受であり、円筒ころ軸受であっても、また深溝玉軸受であってもよい。用途による分類では、工作機械主軸用軸受であっても良い。
工作機械主軸用軸受は高速で連続運転することが多いので、上記構成の複列軸受用保持器、つまり転動体に遅れ進みが生じた時に、保持器の環状部背面で生じる摩耗を低減できる構成の複列軸受用保持器を工作機械主軸用軸受に用いた場合、保持器の環状部背面で生じる摩耗を低減するのにより大きな効果を上げることができる。
【0020】
この発明の複列転がり軸受は、上記いずれかの構成の軸受であって、グリース潤滑の軸受であっても良い。前記いずれかの構成の複列軸受用保持器をグリース潤滑で用いた場合、転動体に遅れ進みが生じた時に、保持器の環状部背面で生じる摩耗を低減するのにより大きな効果を上げることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の複列軸受用保持器は、それぞれ環状部と、この環状部に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部とを有し、隣合う柱部と環状部の間で転動体を保持するポケットを形成してなる一対の単列の保持器からなり、両保持器は互いに柱部の延びる方向が逆方向であって、前記環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、前記両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状としたため、保持器背面での摩耗を低減することができる。
この発明の複列転がり軸受は、この発明の複列軸受用保持器を用いたため、保持器背面での摩耗を低減することができ、また摩耗粉による軸受機能の低下や寿命低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図2】同保持器の展開図である。
【図3】同保持器の一変形例の断面図である。
【図4】(A)は同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図、(B),(C)はその部分拡大断面図である。
【図5】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での他の変形例を示す断面図である。
【図6】同保持器における環状部・柱部の嵌合部でのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図7】同保持器の他の変形例の断面図である。
【図8】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図である。
【図9】この発明の他の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図12】参考提案例にかかる軸受用保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図13】同保持器の展開図である。
【図14】同保持器の一変形例の断面図である。
【図15】(A)は同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図、(B),(C)はその部分拡大断面図である。
【図16】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での他の変形例を示す断面図である。
【図17】同保持器における環状部・柱部の嵌合部でのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図18】同保持器の他の変形例の断面図である。
【図19】同保持器における環状部・柱部の嵌合部での一変形例を示す断面図である。
【図20】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受用保持器の一部を断面して示す展開図である。
【図21】従来例の保持器を用いた複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図22】同保持器の展開図である。
【図23】同保持器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、この発明の第1の実施形態にかかる複列軸受用保持器を組み込んだ複列転がり軸受である複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この複列円筒ころ軸受10は、工作機械の主軸装置において、高速で回転駆動される主軸をハウジングに対して回転自在に支持する軸受であって、内輪11および外輪12と、転動体である複数の円筒ころ6と、円筒ころ6を保持する一対の単列の保持器1,1とで構成される。これら一対の単列の保持器1,1により、この複列軸受用保持器Wが構成される。内輪11は外周に複列の軌道面11a,11aを有し、主軸(図示せず)の外周に嵌合される。外輪12は内周に複列の軌道面12a,12aを有し、ハウジングの内周に嵌合される。円筒ころ6は、内輪11の軌道面11aと外輪12の軌道面12aの間に回転自在に介装される。内輪11の軸方向中央部には中鍔11bが設けられ、両端部には外鍔11cが設けられている。この複列円筒ころ軸受10の内部空間には、潤滑剤としてグリースが充填される。保持器1の材質は、ポリアミド(PA)等の合成樹脂であるが、金属材であっても良い。
【0024】
図2は、前記一対の保持器1,1の展開図を示す。これらの保持器1は所謂くし形保持器であって、それぞれ円環状の環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、隣合う柱部3,3と環状部2の間に円筒ころ6を摺動自在に保持するポケット4が形成されている。ここでは、環状部2と柱部3は一体に形成されている。両保持器1は互いに柱部3の延びる方向が逆方向であって、それぞれの環状部2を背面で突き合わせて配置される。
両保持器1の互いに突き合わされる環状部2の背面の断面形状は、図1のように、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する形状とされている。上記平面Oは、軸受幅中心における平面であって、複列軸受用保持器Wの軸受幅中心に位置する。この実施形態では、その環状部2の背面1aの断面形状が、軸心に対して所定角度で傾斜する形状とされている。
【0025】
上述したように、環状部2を互いに背面1aで突き合わせて配置される一対の保持器1,1では、円筒ころ6の遅れ進みで図2に矢印で示すような円周方向の力が作用し、これにより両保持器1は互いに軸受幅中心に向かって押し出され、環状部2の背面1a,1a同士が接触して押し合う状態となる。この実施形態では、両保持器1の環状部2の背面1aの断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する形状であり、保持器中心軸に対して所定角度で傾斜する形状とされているので、両保持器1の環状部2の背面1aの面積がそれだけ広くなり、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器1の環状部2の背面1aに生じる摩耗を小さく抑えることができ、その摩耗粉が潤滑剤であるグリースの劣化を促進するのを低減し、異常昇温を招くのを回避することができる。
【0026】
図3ないし図6は、この実施形態における保持器1の変形例を示す。図1および図2に示す構成例では、環状部2と柱部3が一体に形成された場合を示したが、図3の構成例では、各保持器1における環状部2と柱部3とを別部材とし、環状部2に対して柱部3を嵌合により結合させた例を示している。なお、図3は、図2の展開図におけるA−A矢視断面図に相当する断面図である。この変形例では、各保持器1において、柱部3の基端部に外径側に向く断面L字状の嵌合部3aが形成され、環状部2には内径側に向く嵌合溝からなる被嵌合部2aが形成されている。これら嵌合部3aと被嵌合部2aとは、環状部2の円周方向に挿脱可能に嵌まり合う形状である。環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合部3aが前記被嵌合部2aに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。この場合、環状部2と柱部3の部材の材質は、例えば環状部2の部材がポリアミド(PA)66で柱部3の部材が銅合金であるように異種材質であっても良いし、同一材質であっても良い。その他の構成は図1および図2に示す構成例の場合と同様である。
【0027】
図3の変形例の場合、環状部2に対して柱部3が円周方向に移動可能であるため、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することで、両保持器1を軸受幅中心に向かって押し出す力を緩和することができ、これにより環状部2の背面に生じる摩耗をさらに小さく抑えることができる。
【0028】
図4(A)は、図3に示す変形例において、環状部2と柱部3の被嵌合部a,嵌合部3aにおける互いに接触する接触面の一部に凹凸部7を設けた例を示す。凹凸部7は、図4(B)に拡大図で示すように柱部3側の接触面に設けても良いし、図4(C)に拡大図で示すように環状部2側の接触面に設けても良い。
【0029】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における互いに接触する接触面の一部に凹凸部7を設けた場合、凹凸部7に潤滑剤(ここではグリース)を保持することができ、接触面積も少なくすることができる。接触面での潤滑性が向上することにより、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。このように接触面での潤滑性向上を図ることは、高速で連続運転することが多い工作機械用軸受で、かつグリース潤滑の場合、より大きな効果を上げることができる。凹凸部7の凹凸は、バランスを考慮して3箇所以上に等配するのが望ましい。
【0030】
図5は、図3に示す変形例において、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8を介装した例を示す。低摩擦材8としては、例えばルーロンシート(登録商標)のような摺動特性に優れた樹脂製シートが好適である。
【0031】
このように、環状部2と柱部3の被嵌合部2aと嵌合部3aにおける環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8を介装した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0032】
図6は、図3に示す変形例において、環状部2と柱部3の被嵌合部2aと嵌合部3aにおける環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9を施した例を示す。低摩擦表面処理9としては、例えば銀メッキや、テフロン(登録商標)加工、その他のフッ素樹脂加工等の表面処理が好適である。
【0033】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9を施した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0034】
このほか、図5における環状部2と柱部3の接触面間の低摩擦材8介装箇所に、低摩擦材8に代えてポリルーブ(登録商標)等の固体潤滑材を封入焼成しても良い。ポリルーブは、グリースを含ませた樹脂材からなる。この場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0035】
図7は、この実施形態における保持器1のさらに他の構成例を示す。この構成例も環状部2と柱部3を別部材で構成したものであって、各保持器1において、柱部3の基端側に軸受幅中心に向く断面T字状の突形状の嵌合部3bが形成され、環状部2の柱部3側に向く側面には断面T字状の溝からなる被嵌合部2bが形成されている。この場合も、環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合部3bが前記被嵌合部2bに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。その他の構成は図1および図2に示す構成例の場合と同様である。
【0036】
この構成例の場合も、環状部2に対して柱部3が円周方向に移動可能であるため、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することで、両保持器1を軸受幅中心に向かって押し出す力を緩和することができ、これにより環状部2の背面に生じる摩耗をさらに小さく抑えることができる。
【0037】
図8は、図7に示す構成例において、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部分に連通する開口5を設けた例を示す。
【0038】
このように、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部分に連通する開口5を設けた場合、この開口5から嵌合部分の接触面にグリースが取り入れられて接触面の潤滑性向上に寄与するので、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0039】
このほか、図8における開口5に、前記ポリルーブ等の固体潤滑材を封入焼成しても良い。この場合にも、固体潤滑材が嵌合部における接触面の潤滑性向上に寄与するので、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0040】
図9は、この発明の他の実施形態の複列軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この実施形態では、図1に示す複列円筒ころ軸受10において、一方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が凹形状のV字状であり、他方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が、前記一方の保持器1の前記V字状の背面1aに嵌まり合う凸形状のV字状とされている。なお、この実施形態においても、図3〜図8に示した各変形例を適用することができる。
【0041】
この実施形態の場合にも、両保持器1の環状部2の背面1aの面積が広くなるので、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器1の環状部2の背面に生じる摩耗を小さく抑えることができる。
【0042】
図10は、この発明のさらに他の実施形態にかかる複列軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この実施形態では、図1に示す複列円筒ころ軸受10において、一方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が凹形状の円弧状であり、他方の保持器1の環状部背面1aの断面形状が、前記一方の保持器1の前記円弧状の背面1aに嵌まり合う凸形状のV字状とされている。なお、この実施形態においても、図3〜図8に示した各変形例を適用することができる。
【0043】
この実施形態の場合にも、両保持器1の環状部2の背面1aの面積が広くなるので、接触時の接触面圧を小さくすることができる。その結果、押合いにより両保持器1の環状部2の背面に生じる摩耗を小さく抑えることができる。
【0044】
図11は、この発明のさらに他の実施形態の複列軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。この実施形態では、図1に示す複列円筒ころ軸受10において、一対の保持器1,1のうち、一方の保持器1の環状部2の外径面に、他方の保持器1の環状部2まで張り出してその外径面の一部を覆う鍔部2cが設けられている。両保持器1の互いに突き合わされる環状部2の背面1aの断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する傾斜形状とされていることは、図1の実施形態の場合と同様である。なおこの実施形態においても、図3〜図8に示した各変形例を適用することができる。
【0045】
両保持器1の互いに突き合わされる環状部2の背面aの断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面Oに対して交差する形状とすることで、押合いにより両保持器1の環状部2の背面に生じる摩耗を小さく抑えることができるものの、背面1aが接触しているかぎり摩耗をゼロに抑えることはできない。このため、摩耗粉は遠心力で外輪12の内径面に飛ばされ潤滑剤であるグリースに混ざる。摩耗粉を含んだグリースは潤滑性能が落ちるため、内外輪11,12の軌道面11a,12aの損傷を招く。この実施形態では、一方の保持器1の環状部2の外径面に、他方の保持器1の環状部2まで張り出してその外径面を覆う鍔部2cが設けられているので、この鍔部2cが摩耗粉を溜めておくポケットとなって、摩耗粉が遠心力で外輪12の内径面に飛ばされるのを阻止することができる。
【0046】
なお、上記各実施形態において、前記ポケット4に保持される転動体である円筒ころ6の径寸法Dに対する前記柱部3の円周方向幅Wの比率W/D×100%を19%以下としても良い。
従来の保持器では、ポケットに保持される転動体の径寸法Dに対する柱部の周方向幅Wの比率W/D×100%は20〜33%であったが、この実施形態の複列軸受用保持器では9〜19%程度まで小さくすることができる。
また、この場合に、前記ポケット4に保持される転動体の径寸法Dに対する前記柱部3の円周方向幅Wの比率W/D×100%を35%以上としても良い。
【0047】
図12〜図19は、参考提案例を示す。図12は、この提案例の軸受用保持器を組み込んだ複列円筒ころ軸受の断面図を示す。保持器1Aは所謂くし形保持器であって、図13に展開図で示すように、円環状の環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、隣合う柱部3,3と環状部2の間に円筒ころ6を摺動自在に保持するポケット4が形成されていることは、図1および図2に示した実施形態の保持器1の場合と同様である。また、図12に示す複列円筒ころ軸受10において、保持器1Aを除く他の構成は図1に示す複列円筒ころ軸受10の場合と同様である。この実施形態では、一対の保持器1A,1Aの互いに突き合わされる環状部2の背面の断面形状は、図1の場合のように軸受幅中心に対して交差する形状ではなく、軸受幅中心に重なる垂直な形状である。ただし、この場合の保持器1Aは、環状部2と柱部3が別部材とされ、環状部2に対して柱部3を嵌合して一体化されている。この場合、環状部2と柱部3の部材の材質は、例えば環状部2の部材がポリアミド(PA)66,ポリフェニレンサルファイド(PPS),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂で柱部3の部材が銅合金であるように異種材質であっても良く、同一材質であっても良い。その他の構成は図1および図2に示す実施形態の場合と同様である。
【0048】
図14は、図13の展開図におけるB−B矢視断面図を示す。保持器1Aでは、柱部3の基端側に外径側に向く断面L字状の嵌合部3aが形成され、環状部2には内径側に向く被嵌合部2aが形成されている。環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合部3aが前記被嵌合部2aに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。
【0049】
転動体である円筒ころ6に遅れ進みが生じた時、保持器1Aには図13に矢印で示すように円筒ころ6の遅れ進みによる力が円周方向に作用する。しかし、この実施形態の保持器1Aの場合、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することから柱部3の基端にモーメント力がかからず、つまり柱部3の基端にすみRが無い状態となるので、従来例の場合のように環状部と柱部の繋ぎ部分に破断が生じるのを防止することができる。
【0050】
また、柱部3の基端にかかるモーメント力に耐えるために、環状部2の幅寸法や柱部3の周方向幅を大きくする必要もなくなる。そこで、柱部3の周方向幅を変更することでポケット4の数を増減することも可能となる。従来のくし形保持器では、ポケットに保持される転動体の径寸法Dに対する柱部の周方向幅Wの比率W/D×100%は20〜33%であったが、この提案例では9〜19%程度まで小さくすることができ、転動体である円筒ころ6の個数も多くすることができる。つまり、保持器1Aの高剛性化、高負荷容量化が可能となる。因みに、柱部3の周方向幅比率が9%のものでは、円筒ころ6の個数を1列当たり3個(複列の両側では6個)増加でき、基本定格荷重に換算すると8%程度増加することになる。また、柱部3の周方向比率が9%のものでは、柱部3の周方向幅Wが2.8mmから1.2mmとなる。なお、柱部3の周方向幅比率を35%以上としても良い。
ただし、
周方向幅={保持器ピッチ円径−(転動体径×転動体個数)}/転動体個数
周方向比率=周方向幅÷転動体径×100%
である。
【0051】
くし形保持器を用いた軸受において、転動体個数を保持器のポケットの一個飛びに抜き取る低発熱使用の軸受が提案されているが(例えば特許文献4)、保持器の環状部と柱部が一体形成されたものでは転動体個数を偶数個とする場合しか適用できない。しかし、この実施形態の保持器1Aでは、柱部3の周方向幅を変更することにより、転動体である円筒ころ6の個数に奇数・偶数の制約を受けることなくその個数を減らすことができ、容易に低発熱仕様とすることができる。仮に、転動体である円筒ころ6の個数を半分にすると、柱部3の周方向比率は140〜165%まで増える。さらに、柱部3の周方向比率を165%以上に設定することも可能である。
【0052】
図15(A)は、図14に示す構成例において、環状部2と柱部3の嵌合部における互いに接触する接触面の一部に凹凸部7Aを設けた例を示す。凹凸部7Aは、図15(B)に拡大図で示すように柱部3側の接触面に設けても良いし、図15(C)に拡大図で示すように環状部2側の接触面に設けても良い。
【0053】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部分における互いに接触する接触面の一部に凹凸部7Aを設けた場合、凹凸部7Aに潤滑剤(ここではグリース)を保持することができ、接触面積も少なくすることができる。接触面での潤滑性が向上することにより、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。このように接触面での潤滑性向上を図ることは、高速で連続運転することが多い工作機械用軸受で、かつグリース潤滑の場合、より大きな効果を上げることができる。凹凸部7Aの凹凸は、バランスを考慮して3箇所以上に等配するのが望ましい。
【0054】
図16は、図14に示す構成例において、環状部2と柱部3の嵌合部分における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8Aを介装した例を示す。低摩擦材8Aとしては、例えばルーロンシート(登録商標)のような摺動特性に優れた樹脂製シートが好適である。
【0055】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面間に低摩擦材8Aを介装した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0056】
図17は、図14に示す構成例において、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9Aを施した例を示す。低摩擦表面処理9Aとしては、例えば銀メッキや、テフロン(登録商標)加工、その他のフッ素樹脂加工等の表面処理が好適である。
【0057】
このように、環状部2と柱部3の嵌合部における環状部2および柱部3の互いに対向する接触面に低摩擦表面処理9Aを施した場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0058】
このほか、図16における環状部2と柱部3の接触面間の低摩擦材8A介装箇所に、低摩擦材8Aに代えてポリルーブ等の固体潤滑材を封入焼成しても良い。この場合にも、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0059】
図18は、この実施形態における保持器1Aのさらに他の構成例を示す。この構成例も環状部2と柱部3を別部材で構成したものであって、柱部3の基端側に軸受幅中心に向く断面T字状の嵌合突部3bが形成され、環状部2の柱部3側に向く側面には断面T字状の嵌合溝2bが形成されている。この場合も、環状部2に対して柱部3を相対的に円周方向に押し込むことで、前記嵌合突部3bが前記嵌合溝2bに嵌合して、環状部2と柱部3が一体化される。その他の構成は図12および図13に示す構成例の場合と同様である。
【0060】
この構成例の場合も、環状部2に対して柱部3が円周方向に移動可能であるため、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動することで柱部3の基端にモーメント力がかからず、従来例の場合のように環状部と柱部の繋ぎ部分に破断が生じるのを防止することができる。
【0061】
図19は、図18に示す構成例において、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部に連通する開口5Aを設けた例を示す。
【0062】
このように、環状部2の内径面に、環状部2と柱部3の嵌合部に連通する開口5Aを設けた場合、この開口5Aから嵌合部の接触面にグリースが取り入れられて接触面の潤滑性向上に寄与するので、円筒ころ6に遅れ進みが生じた時に、環状部2に対する柱部3の円周方向への移動が容易になる。
【0063】
図20は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の軸受用保持器1Bは、図1〜〜図11に示す実施形態の保持器の構造を深溝玉軸受用の冠型樹脂保持器に適用したものである。すなわち、この場合の保持器1Bは、図20に展開図で示すように、そのポケット4に転動体としてボール6Aを保持するものであり、環状部2と、この環状部2に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部3とを有し、環状部2と柱部3とを別部材とし、環状部2に対して柱部3を嵌合して一体化することは図12〜図19に示す実施形態の保持器1Aの場合と同様である。ボール6Aを保持する各ポケット4は、隣合う柱部3,3と環状部2との間に形成される。なお、図20では、保持器1Bにおける各柱部3だけを破断して示している。環状部2と柱部3の嵌合部の断面形状はここでは図示しないが、図14に示す構成例や、図18に示す構成例を適用することができる。嵌合部における接触面の潤滑構造についても、図15〜図17、図19に示す構成例を適用することができる。
【0064】
深溝玉軸受では、複列円筒ころ軸受の場合のように保持器の環状部背面同士が押し合い状態となることは少ないが、転動体であるボール6Aの遅れ進みは生じる。その遅れ進みによる力が大きいと、ボール6Aがポケット4に異常接触し、異常昇温を招く恐れがある。この実施形態の保持器1Bでは、環状部2と柱部3とを別部材とし、環状部2に対して柱部3を嵌合して一体化しており、ボール6Aに遅れ進みが生じた時に、柱部3が環状部2に対して円周方向に移動可能としているので、ボール6Aがポケット4に異常接触するのを防止でき、異常接触に伴う異常昇温も発生しない。
【符号の説明】
【0065】
1,1A,1B… 保持器
1a…背面
2…環状部
2a…嵌合部
2c…鍔部
3…柱部
3a…被嵌合部
4…ポケット
5,5A…開口
6…円筒ころ(転動体)
6A…ボール(転動体)
7,7A…凹凸部
8,8A…低摩擦材
9,9A…低摩擦表面処理
10…複列円筒ころ軸受
O…平面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ環状部と、この環状部に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部とを有し、隣合う柱部と環状部の間で転動体を保持するポケットを形成してなる一対の単列の保持器からなり、両保持器は互いに柱部の延びる方向が逆方向であって、前記環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、
前記両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状としたことを特徴とする複列軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1において、前記環状部背面の断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面に対して背面の全体が傾斜する形状である複列軸受用保持器。
【請求項3】
請求項1において、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状のV字状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状のV字状である複列軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1において、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状の円弧状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状の円弧状である複列軸受用保持器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記両保持器のうち一方の保持器の環状部の外径面に、他方の保持器の環状部まで張り出してその外径面を覆う鍔部を設けた複列軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記各保持器における前記環状部と前記柱部とを別部材とし、これら環状部と柱部とを、これら環状部と柱部とにそれぞれ設けられて互いに前記環状部の円周方向に挿脱可能に嵌まり合う被嵌合部と嵌合部とで嵌合させて結合した複列軸受用保持器。
【請求項7】
請求項6において、前記環状部の内径面に、環状部と前記柱部の嵌合部分に連通する開口を設けた複列軸受用保持器。
【請求項8】
請求項6において、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、前記環状部および柱部の材質よりも摩擦係数の小さい材質の低摩擦材を介在させた複列軸受用保持器。
【請求項9】
請求項6において、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面に、低摩擦表面処理を施した複列軸受用保持器。
【請求項10】
請求項6において、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、固体潤滑材を焼成した複列軸受用保持器。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記転動体が円筒ころであり、複列円筒ころ軸受に用いられる複列軸受用保持器。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記転動体が玉であり、複列深溝玉軸受に用いられる複列軸受用保持器。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の複列軸受用保持器を用いた複列転がり軸受。
【請求項14】
請求項13において、前記転がり軸受が円筒ころ軸受である複列転がり軸受。
【請求項15】
請求項13において、前記転がり軸受が深溝玉軸受である複列転がり軸受。
【請求項16】
請求項11ないし請求項15のいずれか1項において、工作機械の主軸支持用軸受として用いられる複列転がり軸受。
【請求項17】
請求項11ないし請求項16のいずれか1項において、グリース潤滑の軸受である複列転がり軸受。
【請求項1】
それぞれ環状部と、この環状部に円周方向に並んで設けられ軸方向の一方に延びる複数の柱部とを有し、隣合う柱部と環状部の間で転動体を保持するポケットを形成してなる一対の単列の保持器からなり、両保持器は互いに柱部の延びる方向が逆方向であって、前記環状部を互いに背面で突き合わせて配置される複列軸受用保持器において、
前記両保持器の互いに突き合わされる環状部背面の断面形状を、保持器中心軸に垂直な平面に対して交差する形状としたことを特徴とする複列軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1において、前記環状部背面の断面形状が、保持器中心軸に垂直な平面に対して背面の全体が傾斜する形状である複列軸受用保持器。
【請求項3】
請求項1において、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状のV字状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状のV字状である複列軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1において、一方の保持器の前記環状部背面の断面形状が凹形状の円弧状であり、他方の保持器の前記環状部背面の断面形状が、前記一方の保持器の前記V字状の背面に嵌まり合う凸形状の円弧状である複列軸受用保持器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記両保持器のうち一方の保持器の環状部の外径面に、他方の保持器の環状部まで張り出してその外径面を覆う鍔部を設けた複列軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記各保持器における前記環状部と前記柱部とを別部材とし、これら環状部と柱部とを、これら環状部と柱部とにそれぞれ設けられて互いに前記環状部の円周方向に挿脱可能に嵌まり合う被嵌合部と嵌合部とで嵌合させて結合した複列軸受用保持器。
【請求項7】
請求項6において、前記環状部の内径面に、環状部と前記柱部の嵌合部分に連通する開口を設けた複列軸受用保持器。
【請求項8】
請求項6において、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、前記環状部および柱部の材質よりも摩擦係数の小さい材質の低摩擦材を介在させた複列軸受用保持器。
【請求項9】
請求項6において、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面に、低摩擦表面処理を施した複列軸受用保持器。
【請求項10】
請求項6において、前記環状部と前記柱部の前記被嵌合部と嵌合部の嵌合面間に、固体潤滑材を焼成した複列軸受用保持器。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記転動体が円筒ころであり、複列円筒ころ軸受に用いられる複列軸受用保持器。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記転動体が玉であり、複列深溝玉軸受に用いられる複列軸受用保持器。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の複列軸受用保持器を用いた複列転がり軸受。
【請求項14】
請求項13において、前記転がり軸受が円筒ころ軸受である複列転がり軸受。
【請求項15】
請求項13において、前記転がり軸受が深溝玉軸受である複列転がり軸受。
【請求項16】
請求項11ないし請求項15のいずれか1項において、工作機械の主軸支持用軸受として用いられる複列転がり軸受。
【請求項17】
請求項11ないし請求項16のいずれか1項において、グリース潤滑の軸受である複列転がり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−231863(P2011−231863A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103056(P2010−103056)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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