説明

複合針を備える横編機、および横編機のスライダー制御方法

【課題】 ニット編成の際に、旧編目がタングからフック内に落ち難くなり、新編目を形成するためにフック内に捕捉する編糸がタングに掛かり難くすることが可能な、複合針を備える横編機、および横編機のスライダー制御方法を提供する。
【解決手段】 ニードル駆動バット22が軌跡22tに従い、フック12aが歯口2に進出すると、タング13aはフック12aの鈎口を開き、フック12aで形成された旧編目は、タング13aに移行してクリアされる。フック12aが針床3,4側に引込まれる際に、給糸口7aから編糸がフック12aの鈎口が通過する範囲を通るように供給されて、編糸が捕捉される。スライダーカム36に設ける可動カム機構40は、中心線7c付近で、カム部材41の制御部41aがスライダー駆動バット23への作用と不作用とを切り替え、タング13aの位置に差dを生じさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針本体とスライダーとが組合わされ、針本体のフックをスライダーのタングで開閉して編地を編成する複合針を備える横編機、および横編機のスライダー制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前後に針床を備える横編機には、編針として複合針を使用することができる(たとえば、特許文献1参照)。図7は、横編機1で編地を編成している状態を、簡略化して示す。歯口2を挟んで対向する一対の針床3,4には、針溝5が形成される。針溝5は、歯口2側が高く、歯口2から離れると低くなるように傾斜して形成され、紙面に垂直な方向に並ぶ。針溝5間には、ニードルプレートやシンカー5aが設けられ、シンカー5aの歯口側先端付近には、天歯となるワイヤー6が紙面に垂直な方向に貫通している。歯口2の上方では、ヤーンフィーダー7が紙面に垂直な方向に移動し、給糸口7aから編糸8を供給する。横編機1では、針床3,4の使い分けで異なる組織の編地を編成可能であり、(a)は平編地9などを一方の針床3のみを用いて編成する場合を、(b)はリブ編地10などを両方の針床3,4を用いて編成する場合を、それぞれ示す。
【0003】
各針溝5には、編針として、複合針11が収容される。複合針11では、針本体12とスライダー13とが組合わされている。先頭にフック12aを有する針本体12には、スライダー溝12bも形成されている。スライダー13は、スライダー溝12bに部分的に収容され、針本体12に対して摺動移動し、先端に有するタング13aでフック12aの鈎口を開閉する。
【0004】
(a)に示す平編地9を編成する場合は、一方の針床3からのみ、フック12aを歯口2に進出させた後、針床3に引込む際に、給糸口7aから供給されてフック12aの鈎口が通過する範囲内を通る編糸8をフック12a内に捕捉する。旧編目9aは、フック12aを歯口2に進出させる際に、フック12a内からクリアされて、針床3側で待機するスライダー13のタング13aに移動し、係止されている。(b)に示すリブ編地10を編成する場合は、両方の針床3,4から、たとえば交互にフック12aを歯口2に進出させて、編糸8を捕捉し、クリアした旧編目10aはタング13aに移動させる。
【0005】
旧編目9a,10aをタング13aで係止している状態で、フック12aを針床3,4にさらに引込み、フック12aの鈎口をタング13aで閉じた後、針本体12とスライダー13とを針床3,4にさらに引込めば、旧編目9a,10aはノックオーバーされ、平編地9やリブ編地10となって歯口2に垂下し、閉じたフック12aには新編目が形成される。なお、針本体12やスライダー13の歯口2への進退は、紙面に垂直な方向に往復走行するキャリッジに搭載され、各針床3,4に臨んで配置されるカム機構で駆動される。ヤーンフィーダー7は、キャリッジと同期して移動する。このようなキャリッジとヤーンフィーダー7の動作の繰返しで、平編地9やリブ編地10が編成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3085657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
歯口2に進出させてから針床3,4に引込むフック12aに編糸8を捕捉し、旧編目9a,10aをノックオーバーさせて、新編目を確実に形成するためには、編糸8がタング13aに掛らないように給糸する必要がある。また給糸の際、旧編目9a,10aはタング13aに係止しておく必要がある。図7(a)に示すように、片側の針床3を使用して編成する平編地9は、歯口2の中央付近よりも針床3に寄った位置で垂下する。図7(b)に示すように、両側の針床3,4を使用して編成するリブ編地10は、歯口2の中央付近で垂下する。平編地9またはリブ編地10の一つのコースについて編成が終了すると、編幅の終端側の端目からは、編幅外に抜けたヤーンフィーダー7に編糸8が繋がって渡り糸になる。この渡り糸は、キャリッジが反転して前コースの終端側が始端側となって最初の編目が形成される際に供給される編糸8となる。ヤーンフィーダー7に繋がる渡り糸は、タング13aに係止されている旧編目9a,10aを起点として折返された状態となり、平編地9では針床3寄りの位置、リブ編地10では歯口2の中央寄りの位置を通る。このような編糸8が通る位置の違いは、編幅の端目ばかりではなく、編幅の内部でインターシャ編成を行う区間の端部や、ヤーンフィーダー7の蹴り返しを行って新たな編目を編成する場合にも生じる。
【0008】
図7に示すようなスライダー13の待機位置では、(a)の平編地9では、タング13aで旧編目9aを確実に係止しながら、フック12aで編糸8を確実に捕捉することができる。(b)のリブ編地10では、給糸される編糸8の位置が平編地9の場合よりもタング13aから離れるので、フック12aへの編糸8のより確実な捕捉が可能となる。しかしながら、歯口2の中央付近で垂下するリブ編地10の旧編目10aの係止は、平編地9の旧編目9aよりも歯口2側となる高い位置で行われる。旧編目10aの係止は、タング13aの先端位置付近で行われる。タング13aの先端位置付近に余裕がないので、編成速度が速いなどの条件によっては、旧編目10aが再びフック12a内に落ちてしまうおそれがある。クリアした旧編目がフック12a内に落ちるおそれがないようにするためには、タング13aの位置を歯口2側に進めるように調整することが考えられる。しかしながら、平編地9などを編成する場合、歯口2側に進出しているタング13aに、編糸8が掛ってしまい、フック12aでの捕捉が困難になるおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、ニット編成の際に、旧編目がタングからフック内に落ち難くなり、新編目を形成するためにフック内に捕捉する編糸がタングに掛かり難くすることが可能な、複合針を備える横編機、および横編機のスライダー制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、先端にフックを有する針本体と、針本体に対して摺動移動し、先端に有するタングでフックを開閉するスライダーとが組合わされ、針本体のニードル駆動バットとスライダーのスライダー駆動バットとをカムシステムで駆動して、フックを歯口に進出させてから針床に引込む際に編糸をフックに捕捉する複合針を備える横編機において、
ニット編成で、スライダー駆動バットが通過するニットルートの軌跡で、フックに編糸を捕捉する際に対応する区間に臨み、スライダー駆動バットへの作用で、スライダーの位置を、タングに係止する旧編目がフック内に落ち難くなる歯口に進出する方向の高い位置、またはヤーンフィーダーから給糸される編糸がタングに引っ掛かり難くなる歯口から後退する方向の低い位置への制御が可能な可動カム機構を含むことを特徴とする複合針を備える横編機である。
【0011】
また本発明で、前記可動カム機構は、前記スライダー駆動バットへの作用と不作用との制御で、前記フックに編糸を捕捉する際に対応する区間でのスライダーの位置を、二段階に切り替え可能であるカム部材を含むことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記カム部材は、レバー状で、一端に前記スライダー駆動バットへの制御を行う制御部、他端に制御のための駆動を受ける駆動部が設けられ、制御部と駆動部との中間で揺動変位が可能なように支持され、
前記可動カム機構は、
カム部材を揺動変位させる駆動力を発生するアクチュエータと、
アクチュエータの出力でカム部材の駆動部を、揺動変位させる方向に押圧する押圧部材と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また本発明で、前記カムシステムは、搭載されるキャリッジが往復走行しても同等の作用を行うように、中心線の両側が対称となるように構成され、
前記可動カム機構は、
中心線付近に配置される一組の前記アクチュエータおよび前記押圧部材と、
中心線の両側で、中心線から近い位置が前記駆動部、遠い位置が前記制御部となるように、それぞれ配置される一対のカム部材とを含み、
一対のカム部材の駆動部を、一組のアクチュエータおよび押圧部材で共通に制御する、
ことを特徴とする。
【0014】
さらに本発明は、歯口を挟んで対向する少なくとも一対の針床を有し、各針床に並設される針溝に、
先端にフックを有する針本体と、針本体に対して摺動移動し、先端に有するタングでフックを開閉するスライダーとが組合わされ、針本体のニードル駆動バットとスライダーのスライダー駆動バットとをカムシステムで駆動して、フックを歯口に進出させてから針床に引込む際に編糸をフックに捕捉する複合針を備える横編機のスライダー制御方法において、
ニット編成で、スライダー駆動バットが通過するニットルートの軌跡のうち、フックで編糸を捕捉する際に対応する区間にカムを設けておき、カムによるスライダー駆動バットへの作用で、スライダーの位置を、タングに係止する旧編目がフック内に落ち難くなる歯口に進出する方向の高い位置、またはヤーンフィーダーから給糸される編糸がタングに引っ掛かり難くなる歯口から後退する方向の低い位置に変更するように、制御することを特徴とする横編機のスライダー制御方法である。
【0015】
また本発明で、スライダーの位置の制御による前記変更は、選針状態に応じて行い、
ヤーンフィーダーから、編成されて歯口に垂下する編地に延びる編糸が編地に繋がる位置が、歯口の中間よりも、編糸を捕捉する前記複合針が備えられる針床に近いか否かで、前記カムを介する前記スライダー駆動バットへの作用を異ならせ、前記低い位置または前記高い位置にそれぞれ変更する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可動カム機構は、フックで編糸を捕捉する際にタングに旧編目を係止するスライダーの位置を、歯口に進出する方向の高い位置で旧編目がフック内に落ち難くするか、または歯口から後退する方向の低い位置で編糸がタングに引っ掛かり難くするかに変更する制御が可能である。したがって、編目形成の際に、編成する編地の組織に応じて、旧編目がタングからフック内に落ち難くなり、新編目を形成するためにフック内に捕捉する編糸がタングに掛かり難くすることが可能となる。
【0017】
また本発明によれば、可動カム機構は、スライダーの位置を二段階に切り替えればよいので、構成を簡略化することができる。
【0018】
また本発明によれば、カムシステムのうち、スライダー駆動バットに作用する部分に、レバー状のカム部材と、アクチュエータと、押圧部材とを加えて、フックで編糸を捕捉する際のスライダーの位置を制御することができる。
【0019】
また本発明によれば、カムシステムを搭載するキャリッジが往復走行しても同等の作用を行うように、可動カム機構を含むカムシステムが中心線の両側で対称となるように形成される。アクチュエータと押圧部材は、中心線付近に配置されるので、一組で両側のカム部材を同時に駆動して、キャリッジの走行方向がいずれであっても、同様にスライダーの位置を制御することができる。
【0020】
さらに本発明によれば、編地を編成する際に、編地の組織に応じて、歯口の片側の針床を使用する場合と、両側の針床を使用する場合とで、カムによるスライダー駆動バットへの作用でスライダーの位置を変更するように制御し、確実に編地の編成を続けることができる。
【0021】
また本発明によれば、選針状態に応じてカムを介するスライダー駆動バットへの作用を異ならせ、スライダーの位置を変更する制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、複合針11の主要部の構成を示す側面図、および本発明の一実施例としての横編機21に使用されるカムシステム30の主要部の構成を示すカム配置図である。
【図2】図2は、図1の可動カム機構40の動作を示す部分的なカム配置図である。
【図3】図3は、図1の横編機21の動作を示す簡略化した側面図である。
【図4】図4は、図1の可動カム機構40の概略的な構成を示す側面図である。
【図5】図5は、図1の可動カム機構40に含まれる押圧部材42およびカム部材41の構成を示す平面図、正面図および右側面図である。
【図6】図6は、図1の可動カム機構40が設けられるスライダーカム36の構成を示す平面図、正面図、切断面線C−Cから見た断面図および右側面図である。
【図7】図7は、従来からの横編機1で複合針11の動作を示す簡略化した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図6で本発明の一実施例としての横編機21の構成および動作を、図7に対応する部分には同一の参照符を付し、重複する説明を省略して説明する。各図の説明では、当該図面には存在せずに先に説明する図には存在する符号を用いて説明する場合がある。
【実施例】
【0024】
図1(a)は、複合針11の主要部の構成を示す。複合針11の針本体12およびスライダー13には、ニードル駆動バット22およびスライダー駆動バット23がそれぞれ設けられる。ただし、ニードル駆動バット22は、針本体12の尾部に結合されるニードルジャック24に設けられる。ニードル駆動バット22およびスライダー駆動バット23は、複合針11の尾部側に設けられ、図示を省略している選針部材の作用で、針溝表面から突出するか否かが制御される。
【0025】
図1(b)は、本発明の一実施例としての横編機21で使用するキャリッジに搭載されるカムシステム30の主要部の構成を示す。カムシステム30は、針床3,4に臨むキャリッジの基板31に配置され、ニードルレイジングカム32、センターカム33、度山カム34,35、およびスライダーカム36などを含む。カムシステム30は中心線30cに関して線対称に配置され、左右へのキャリッジの走行に関して、ニードル駆動バット22およびスライダー駆動バット23への作用を同等に行わせることができる。ただし、度山カム34,35は、キャリッジの走行方向に応じて、傾斜した案内路に沿うスライドで位置が変更するように制御される。度山カム34,35の先行側は、スライダーカム36側に退避する。度山カム34,35の後行側は、新編目として形成するループの大きさを表す度目値に応じて、ニードルレイジングカム32側に移動する。
【0026】
たとえば、カムシステム30が図の左方に移動するキャリッジの走行方向の場合、ニードル駆動バット22は、ニードルレイジングカム32と、センターカム33および度山カム34,35との間に形成されるニードル案内経路37で、軌跡22tに沿って案内される。スライダー駆動バット23は、スライダーカム36に設けられるスライダー案内経路38で、軌跡23tに沿って案内される。
【0027】
ヤーンフィーダー7は、給糸口7aの中心線7cがカムシステム30の中心線30cから後行側に離れた位相を保つように、キャリッジと同期して走行する。スライダー13は、カムシステム30の中心線30c付近までは、針本体12に従って歯口2側に接近することを、スライダー案内経路38による規制で抑止され、針床3,4内に待機する。ニードル駆動バット22が軌跡22tに従い、フック12aを歯口2に進出させると、タング13aはフック12aの鈎口を開き、前編成コースでフック12aに形成されて係止されていた旧編目は、タング13aに移行してクリアされる。中心線30cで、フック12aは歯口2に最も進出し、以降は針床3,4側に引込まれる。中心線30cから後行側では、ヤーンフィーダー7の中心線7cの位相で、給糸口7aから編糸がフック12aの鈎口が通過する範囲を通るように供給される。
【0028】
本実施例では、スライダーカム36に可動カム機構40を設ける。可動カム機構40は、スライダーカム36のスライダー案内経路38のうち、ヤーンフィーダー7の中心線7cの位相付近に相当する区間で、軌跡23tの一部を切り替える作用を行うカム部材41を含む。カム部材41は、一端に制御部41aを有し、揺動変位によって制御部41aのスライダー駆動バット23への作用と不作用とを切り替え、スライダー駆動バット23の位置を変更し、スライダー13の位置に差dを生じさせるように制御する。カム部材41の揺動変位は、他端の駆動部41bに対して押圧部材42が押圧することによって生じる。
【0029】
図2は、図1の可動カム機構40の動作を示す。カム部材41は、制御部41aが軌跡23tを通るスライダー駆動バット23に対し、(a)では不作用で、(b)では作用するように、切り替えられる。カム部材41はレバー状で、他端には駆動部41bが設けられる。スライダーカム36には、針床3,4に臨む表面に対する裏面側に、カム部材41を収容する収容凹部36aが設けられる。スライダーカム36の収容凹部36a内には、カム部材41を制御部41aと駆動部41bとの中間で、支持軸線41cまわりに揺動変位可能に支持するボス36bが立設されている。カム部材41には、押圧部材42およびトルクばね43が作用する。なお、図2では、カム部材41で収容凹部36aに収容される部分と、収容凹部36a内のトルクばね43とを、便宜上、実線で表示する。これらは、スライダーカム36の内部に存在し、他の図では対応する部分が点線で示されている。
【0030】
トルクばね43は、(a)に示すように、制御部41aがスライダー駆動バット23に不作用となる方向に付勢する。押圧部材42は、出没する押圧傾斜面42aを備えている。押圧傾斜面42aは、図の手前側となる先端が下方に傾斜しており、(a)に示す没入状態では、カム部材41の駆動部41bと先端付近で当接している。押圧傾斜面42aを紙面の表面側に突出させると、(b)に示すように、押圧部材42への駆動部41bの当接部分が、押圧傾斜面42aを越えて、押圧部材42の上面となる押圧平坦面42bに移行する。この当接部分の移行は、カム部材41をトルクばね43による付勢に抗して、時計回り方向に揺動変位させ、制御部41aは、スライダー駆動バット23に作用するようになる。
【0031】
このような制御部41aの揺動変位ではなく、度山カム34,35のようなスライドや、押圧部材42のような出没による作用と不作用との切り替えで、スライダー駆動バット23の位置を制御することもできる。また、揺動変位やスライドによる場合、いずれも作用させ、その位置の違いで、スライダー駆動バット23の位置を制御することもできる。さらに、スライダー駆動バット23に作用するカムは固定しておいても、スライダー駆動バット23が針溝5からカム側に突出する高さを切り替えるように制御すれば、カムによ作用と不作用とを切り替えて、スライダー駆動バット23の位置を制御することもできる。また、カムに高さの異なる作用部分を設けておけば、スライダー駆動バット23の突出高さの違いで異なる経路に案内させることもできる。
【0032】
図3は、図2のように切り替える効果を示す。(a)に示すように、スライダー13の待機位置は、歯口2までの距離に関し、差dを設けて切り替えることができる。このため、図7(a)に示す平編地9などを編成する際には、タング13aの先端位置を、歯口2から後退する方向の低い位置に切り替えておく。図3(b)に示すように、リブ編地10などを編成する際には、タング13aの先端位置を、歯口2に進出する方向の高い位置に切り替えておく。高い位置では、タング13aの先端位置が歯口2に近づくので、一旦クリアした旧編目10aの係止位置からタング13aの先端位置まで余裕があり、旧編目10aがフック12a側には落ち難くなる。
【0033】
このような切り替えを適切に行えば、平編地9やリブ編地10などを編成する際に、編地の組織に応じて、編地の端部や、編地の編幅内でもインターシャ区間の端部や、蹴り返しで編目を形成する部分などでも、確実な編目形成を行わせることができる。横編機21は、コンピュータを搭載してプログラムで制御されるので、自動的に切り替えを行わせることもできる。たとえば、歯口2の片側の針床3を使用する場合と、両側の針床3,4を使用する場合とは、選針状態に基づいて判断することができる。予め横編機21やデザイン装置に、このような選針状態を、選針データから自動的に判断し、タング13aの位置を変更するように、可動カム機構40を介してスライダー駆動バット23を制御するプログラムを設定しておくことも可能である。タング13aが高い位置であれば、旧編目9a,10aは、タング13aで確実に係止される。タング13aが低い位置であれば、編糸8は、フック12aの鈎口内に捕捉する位置に通す際に、タング13aに掛からないようにすることができる。
【0034】
図4は、可動カム機構40の概略的な側面構成を示す。図1(b)に示すように、中心線30cの両側のカム部材41は、接近して配置される駆動部41bに押圧部材42の押圧傾斜面42aまたは押圧平坦面42bが同時に作用する。図4に示すように、押圧部材42は、軸線42cを中心とする軸部42dが支持ブロック44に挿通される。基端側のソレノイドなどのアクチュエータ43が軸線42cに沿うように駆動すると、先端側の押圧傾斜面42aおよび押圧平坦面42bが基板31の表面に出没するように駆動される。図示のように押圧平坦面42bまでが基板31から突出すると、図2(b)に示すように、カム部材41の駆動部41bが図の上方に押上げられ、カム部材41が揺動変位して、作用部41aが下方に変位する。なお、押圧部材42は、支持ブロック44とアクチュエータ43との間に挿入される圧縮ばね45で、押圧平坦面42bが基板31に沈む方向に付勢されている。
【0035】
本実施例の可動カム機構40では、タング13aの位置を二段階に切り替えているけれども、アクチュエータ43は、エアーシリンダーやモーターを用いて、多段階や無段階にタング13aの位置を変更するようにしてもよい。タング13aの位置は、編地を下方に下げる力や、編成する編目の詰み具合等により変更すればよい。
【0036】
図5は、(a)で可動カム機構40に含まれる押圧部材42、(b)でカム部材41の平面構成、正面構成および右側面構成をそれぞれ示す。押圧部材42の押圧傾斜面42aまたは押圧平坦面42bの作用で揺動変位するカム部材41は、制御部41aと駆動部41bとの間に、支持軸線41cを中心線とするボス挿通孔41dを有する。ボス挿通孔41dにスライダーカム36のボス36bが挿入されて、カム部材41は、揺動変位可能に支持される。
【0037】
図6は、可動カム機構40が設けられるスライダーカム36の平面構成を(a)、正面構成を(b)、(a)の切断面線C−Cから見た断面構成を(c)、および右側構成を(d)で、それぞれ示す。(a)に示すように、スライダーカム36には、左右の作用部材41を収容する収容凹部36aが設けられる。収容凹部36aの中央付近には、押圧部材42の押圧傾斜面42aおよび押圧平坦面42bを含む出没部分を挿通させる押圧挿通孔36dが設けられ、両端下部には、スライダー案内経路38に連通する開口部36eが設けられる。開口部36eを介して、カム部材41の制御部41aがスライダー案内経路38に突出し、スライダー駆動バット23に作用することが可能になる。
【符号の説明】
【0038】
2 歯口
3,4 針床
7 ヤーンフィーダー
7a 給糸口
8 編糸
9 平編地
9a,10a 旧編目
10 リブ編地
11 複合針
12 針本体
12a フック
13 スライダー
13a タング
21 横編機
22 ニードル駆動バット
23 スライダー駆動バット
30 カムシステム
36 スライダーカム
38 スライダー案内経路
40 可動カム機構
41 カム部材
41a 制御部
41b 駆動部
42 押圧部材
42a 押圧傾斜面
42b 押圧平坦面
43 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にフックを有する針本体と、針本体に対して摺動移動し、先端に有するタングでフックを開閉するスライダーとが組合わされ、針本体のニードル駆動バットとスライダーのスライダー駆動バットとをカムシステムで駆動して、フックを歯口に進出させてから針床に引込む際に編糸をフックに捕捉する複合針を備える横編機において、
ニット編成で、スライダー駆動バットが通過するニットルートの軌跡で、フックに編糸を捕捉する際に対応する区間に臨み、スライダー駆動バットへの作用で、スライダーの位置を、タングに係止する旧編目がフック内に落ち難くなる歯口進出する方向の高い位置、またはヤーンフィーダーから給糸される編糸がタングに引っ掛かり難くなる歯口から後退する方向の低い位置への制御が可能な可動カム機構を含むことを特徴とする複合針を備える横編機。
【請求項2】
前記可動カム機構は、前記スライダー駆動バットへの作用と不作用との制御で、前記フックに編糸を捕捉する際に対応する区間でのスライダーの位置を、二段階に切り替え可能であるカム部材を含むことを特徴とする請求項1記載の複合針を備える横編機。
【請求項3】
前記カム部材は、レバー状で、一端に前記スライダー駆動バットへの制御を行う制御部、他端に制御のための駆動を受ける駆動部が設けられ、制御部と駆動部との中間で揺動変位が可能なように支持され、
前記可動カム機構は、
カム部材を揺動変位させる駆動力を発生するアクチュエータと、
アクチュエータの出力でカム部材の駆動部を、揺動変位させる方向に押圧する押圧部材と、
を含むことを特徴とする請求項2記載の複合針を備える横編機。
【請求項4】
前記カムシステムは、搭載されるキャリッジが往復走行しても同等の作用を行うように、中心線の両側が対称となるように構成され、
前記可動カム機構は、
中心線付近に配置される一組の前記アクチュエータおよび前記押圧部材と、
中心線の両側で、中心線から近い位置が前記駆動部、遠い位置が前記制御部となるように、それぞれ配置される一対のカム部材とを含み、
一対のカム部材の駆動部を、一組のアクチュエータおよび押圧部材で共通に制御する、
ことを特徴とする請求項3記載の複合針を備える横編機。
【請求項5】
歯口を挟んで対向する少なくとも一対の針床を有し、各針床に並設される針溝に、
先端にフックを有する針本体と、針本体に対して摺動移動し、先端に有するタングでフックを開閉するスライダーとが組合わされ、針本体のニードル駆動バットとスライダーのスライダー駆動バットとをカムシステムで駆動して、フックを歯口に進出させてから針床に引込む際に編糸をフックに捕捉する複合針を備える横編機のスライダー制御方法において、
ニット編成で、スライダー駆動バットが通過するニットルートの軌跡のうち、フックで編糸を捕捉する際に対応する区間にカムを設けておき、カムによるスライダー駆動バットへの作用で、スライダーの位置を、タングに係止する旧編目がフック内に落ち難くなる歯口に進出する方向の高い位置、またはヤーンフィーダーから給糸される編糸がタングに引っ掛かり難くなる歯口から後退する方向の低い位置に変更するように、制御することを特徴とする横編機のスライダー制御方法。
【請求項6】
スライダーの位置の制御による前記変更は、選針状態に応じて行い、
ヤーンフィーダーから、編成されて歯口に垂下する編地に延びる編糸が編地に繋がる位置が、歯口の中間よりも、編糸を捕捉する前記複合針が備えられる針床に近いか否かで、前記カムを介する前記スライダー駆動バットへの作用を異ならせ、前記低い位置または前記高い位置にそれぞれ変更する、
ことを特徴とする請求項5記載の横編機のスライダー制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60679(P2013−60679A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199173(P2011−199173)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】