説明

複合針

【課題】簡易な加工でガイド溝内部でのガタつきを抑えつつファインゲージ化に伴う針本体の強度の低下を抑制することができる複合針を提供する。
【解決手段】フック部材22の前端部を前後方向へ延びるスライダー溝にスライダー3を摺動自在に収容し、このスライダー3に、スライダー基体31と、フック部材22の針幅方向中央位置において重ね合わせたブレード32,33とを備えた複合針を前提とする。フック部材22の支持面部25の前後方向中央部付近に、フック部材22の針幅方向中央位置を前後方向へ延びるガイド溝41を凹設する。ガイド溝41に、一方のブレード32を他方のブレード33の先端よりも突出させてフック部材22の針幅方向中央位置へオフセット曲げした突起42を挿入するとともに、ガイド溝41を突起42の針幅方向の寸法に相当する溝幅に設定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機に用いられる複合針に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機の編針として、横編機の針床に形成した針溝に収容されて互いに前後方向へ相対移動する針本体及びスライダーを備えた複合針が用いられることがある。スライダーは、スライダー基体と、このスライダー基体に支持され、針本体の針幅方向中央位置で重ね合わせた略同一形状の2枚のブレードとを有し、このブレードが針本体の歯口側(前側)を前後方向へ延びるスライダー溝に摺動自在に収容されている。
【0003】
しかし、スライダーが針本体の前側においてのみブレードを介してスライダー溝に収容されているため、スライダーが針本体に対し一箇所で支持された状態となる。そのため、針本体に対するスライダーの針幅方向へのブレが懸念される。
【0004】
そこで、従来より、スライダー溝の後方側に針本体の針幅方向中央位置を前後方向へ延びるガイド溝を凹設し、このガイド溝に、スライダー基体や一方のブレードから突出させた突起を摺動自在に収容したものが知られている(特許文献1参照)。これによれば、スライダーが針本体に対し前後2箇所で収容され、針本体に対するスライダーの針幅方向へのブレが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2946323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、スライダー基体から突起を突出させるものでは、突起に切削などの加工を要するため、加工に困難性を伴う。
【0007】
また、一方のブレードに突起を突出させるものでは、突起の位置が針本体の針幅方向中央位置より一方側にずれている。この一方側に位置がずれた突起では、ガイド溝が針本体の針幅方向中央位置に設けられていると、ガイド溝の内部でのガタつきが大きくなる。その場合、突起の針幅方向の寸法に相当する溝幅のガイド溝を突起との対応位置に合わせて針本体の針幅方向中央位置よりも一方側にずらせて設けることが考えられるが、スライダー基体を摺接させる上で必要なガイド溝の針幅方向左右両側縁部の幅(針幅方向の幅)が左右不均等となってしまう。これでは、ファインゲージ化に伴って針幅が狭くなると、ガイド溝の針幅方向左右両側縁部での左右均等な強度が確保し難く、針本体の強度の低下が危惧される。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な加工でガイド溝内部でのガタつきを抑えつつファインゲージ化に伴う針本体の強度の低下を抑制することができる複合針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、横編機の針床に形成した針溝に収容されて互いに前後方向へ相対移動する針本体及びスライダーを備え、前記スライダーが、スライダー基体と、このスライダー基体に基端が支持されかつ先端が前記針本体の歯口側を前後方向へ延びるスライダー溝に摺動自在に収容され、前記針本体の針幅方向中央位置で重ね合わせた略同一形状の2枚のブレードとを有してなる複合針を前提とする。更に、前記スライダー溝の後方側に、前記針本体の針幅方向中央位置を前後方向へ延びるガイド溝を凹設するとともに、前記ブレードに、その先端より突出する突起を設ける。そして、前記ガイド溝に、前記突起を前後方向へ摺動自在に収容しているとともに、前記突起の針幅方向の寸法に相当する溝幅に前記ガイド溝を設定することを特徴としている。
【0010】
また、前記突起を、前記ブレードのうちの一方のブレードを他方のブレードの先端よりも突出させて前記針本体の針幅方向中央位置へオフセット曲げして形成していてもよい。
【0011】
これに対し、前記突起を、前記ブレード間に介在された薄板材を前記ブレードの先端よりも突出させて形成していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、針本体の針幅方向中央位置を前後方向へ延びるガイド溝に、ブレードの先端から突出する突起を摺動自在に収容することで、スライダー基体から突出する突起を設ける場合に必要な切削などの加工を不要にし、ブレードから突出する突起を簡易な加工で構成することができる。その上、ガイド溝の針幅方向左右両側縁部の幅が左右均等となり、ファインゲージ化に伴う針本体の強度の低下を抑制することができる。
また、ガイド溝を突起の針幅方向の寸法に相当する溝幅に設定することで、ガイド溝の内部での突起のガタつきを抑えることができる。
【0013】
また、一方のブレードを針本体の針幅方向中央位置へオフセット曲げして突起を形成することで、一方ブレードに簡易な加工によって突起を簡単に設けることができる。
【0014】
これに対し、ブレード間に介在させた薄板材を突出させて突起を形成することで、薄板材を突出させるだけで突起をより簡単に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る複合針をスライダーの後退位置で針溝の並設方向から見た側面図である。
【図2】図1のスライダーを進出させて編針のフックを閉じた位置での複合針の側面図である。
【図3】図2のスライダーをさらに進出させた進出位置での複合針の側面図である。
【図4】図1の複合針を構成する各パーツの側面図である。
【図5】図1の複合針のブレードの突起付近での拡大側面図である。
【図6】図5のA−A線における断面図である。
【図7】図5のB−B線における断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る複合針の薄板材の突起付近での拡大側面図である。
【図9】図8のC−C線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の複合針の好適な実施の形態を図面と共に以下詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る複合針をスライダーの後退位置で針溝の並設方向から見た側面図、図2はスライダーを進出させて編針のフックを閉じた位置での複合針の側面図、図3はスライダーをさらに進出させた進出位置での複合針の側面図、図4は複合針を構成する各パーツの側面図をそれぞれ示している。
【0018】
本発明の複合針1は、図示しない針床の長手方向(紙面手前奥方向)に複数並設され、図示しないヤーンフィーダから編糸が供給される歯口gに対して前後方向(図1〜図3では左右方向)へ進退移動可能な状態で針溝(図示せず)内に収容されている。また、複合針1は、針本体2とスライダー3とで構成されている。そして、針本体2とスライダー3とを前後方向へ相対移動させることで、スライダー3の前端のタング35(後述する)が針本体2の前端のフック部21(後述する)を開閉し、更にタング35がフック部21を超えて前方へ進出移動する。
【0019】
針本体2は、前端にフック部21を有するフック部材22と、ニードルジャック23とを備えている。また、スライダー3は、スライダー基体31と、このスライダー基体31に基端が支持され、互いに重ね合わされた略同一形状の2枚のブレード32,33とを備えている。なお、針本体2は、フック部材22とニードルジャック23とが一体に成形されたものであってもよい。
【0020】
フック部材22は、フック部21の後側に連設され、かつブレード32,33の前端部を前後方向へ摺動自在に挿入して支持するスライダー溝24と、前後方向略中央部に設けられ、ブレード32,33の後端部の下面を摺動自在に支持する支持面部25と、後端部に設けられ、ニードルジャック23の前端を嵌合して連結する嵌合凹部26とを備えている。また、ニードルジャック23は、フック部材22の嵌合凹部26から針床後方へ延び、後端を針溝底に当接させるように下方へ湾曲するアーム27を有している。ニードルジャック23の前後方向中央部付近には、上方へ分岐して前方に延びる分岐アーム28が設けられている。
【0021】
ブレード32,33は、フック部材22の針幅方向中央位置において重ね合わされ、それぞれの前端にタング35が形成されている。スライダー基体31の前端部には前側収容部36が設けられ、この前側収容部36には、針幅方向の左右両側面部を残して下面より上方へ凹設された凹部361が設けられている。そして、凹部361には、ブレード32,33の前後方向略中間位置が挿入され、前側収容部36の左右両側面間でブレード32,33の前後方向略中間位置を支持している。
【0022】
図5はブレード32,33の突起付近での拡大側面図、図6は図5のA−A線における断面図をそれぞれ示している。
図5及び図6に示すように、スライダー基体31の前後方向略中間位置には、ブレード32,33の上端位置から下端位置(フック部材22の支持面部25)まで下方に突出する後側収容部37が設けられている。この後側収容部37には、針幅方向の左右両側面部を残して下面より上方へ凹設された凹部371が設けられている。また、後側収容部37に対応するブレード32,33の後端部には、その上端位置より後側収容部37と略一致する前後方向の寸法で切り欠いた略矩形状の切欠部321,331が設けられている。そして、凹部371には、ブレード32,33の切欠部321,331よりも下側部分が挿入され、後側収容部37の針幅方向左右両側面間でブレード32,33の後端部を支持している。
【0023】
スライダー溝24の後端部は、後方へ凹設された凹溝241を有している。また、支持面部25の後端より上方へ突出する凸部29の前面は、後方へ凹設された凹部291を有している。そして、スライダー3をスライダー溝24の後退位置(図1に示す位置)に位置付けた際に、ブレード32,33の前端部が凹溝241に嵌合し、かつブレード32,33の後端が凹部291に嵌合することで、針本体2に対して上方へ外れないように支持される。これらにより、スライダー3が針本体2に対しブレード32,33の前後2箇所で拘束され、複合針1の交換などを行う際にも好適である。
【0024】
図7は図5のB−B線における断面図であり、この図7にも示すように、スライダー溝24の後方側となる支持面部25の前後方向中央部付近には、支持面部25(針本体2)の針幅方向中央位置を前後方向へ延びるガイド溝41が凹設されている。これにより、スライダー基体31を摺接させる上で必要なガイド溝41の針幅方向左右両側縁部25a,25aの幅が左右均等となり、ファインゲージ化に伴う針本体2の強度の低下を抑制することができる。
なお、ブレード及びフック部材の形状によっては、ガイド溝がスライダー溝の後方側に繋がる1つの溝として設けてもよい。
【0025】
ブレード32,33のうちの一方のブレード32には、支持面部25の針幅方向中央位置にオフセット曲げしてガイド溝41の内部まで突出させた突起42が一体的に設けられている。他方のブレード33の突起42との対応位置は、支持面部25に対し離間するように上方へ凹設され、その凹設部43によって、突起42の針幅方向中央位置へのオフセット曲げを干渉させることなく可能にしている。ガイド溝41の内部には、突起42が収容されている。これにより、スライダー基体から突出する突起を設ける場合に必要な切削などの加工を不要にし、一方のブレード32から突出する突起42を簡易な加工で構成することができる。
なお、ブレード32,33のうちの他方のブレード33を支持面部25の針幅方向中央位置にオフセット曲げしてガイド溝41の内部まで延ばした突起42としてもよい。
【0026】
ガイド溝41は、突起42の針幅方向の寸法に相当する溝幅に設定されている。具体的には、ガイド溝41は、このガイド溝41内での突起42の前後方向への円滑な摺動が許容される程度の溝幅に設定されている。これにより、ガイド溝41の内部での突起42のガタつきを抑えることができる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施の形態を図8及び図9に基づいて説明する。
図8は複合針1の薄板材の突起付近での拡大側面図、図9は図8のC−C線における断面図をそれぞれ示している。なお、ブレードを除くその他の構成は、第1の実施の形態と同じであるので、ブレードの構成についてのみ説明する。
【0028】
すなわち、図8及び図9に示すように、ブレード52,53は、略同一形状の2枚をフック部材22の針幅方向中央位置で重ね合わせて構成されている。このブレード52,53は、その前端部がスライダー溝24に前後方向へ摺動自在に収容されている一方、後端部が後側収容部37に収容されている。ブレード52,53の後端部同士の間には、当該ブレード52,53とほぼ同じ厚みの薄板材54が介在している。
【0029】
後側収容部37に対応するブレード52,53の後端部には、その上端位置より後側収容部37と略一致する前後方向の寸法で切り欠いた略矩形状の切欠部521,531が設けられている。また、薄板材54の後端部にも、図示しない同様の切欠部が設けられている。そして、凹部371には、ブレード52,53及び薄板材54の切欠部521,531よりも下側部分が挿入され、後側収容部37の針幅方向左右両側面間でブレード52,53の後端部及び薄板材54を支持している。
【0030】
薄板材54は、ブレード52,53の先端よりも真直ぐ下方に突出してガイド溝41の内部に挿入される突起55を備えている。これにより、薄板材54を下方に突出させるだけで突起55をより簡単に設けることができる。
【0031】
ガイド溝41は、薄板材54の突起55の針幅方向の寸法に相当する溝幅に設定、つまりガイド溝41内での突起55の前後方向への円滑な摺動が許容される程度の溝幅に設定されている。これにより、ガイド溝41の内部での薄板材54の突起55のガタつきを同様に抑えることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 複合針
2 針本体
24 スライダー溝
3 スライダー
32,33 ブレード
41 ガイド溝
42 突起
52,53 ブレード
54 薄板材
55 突起
g 歯口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床に形成した針溝に収容されて互いに前後方向へ相対移動する針本体及びスライダーを備え、前記スライダーが、スライダー基体と、このスライダー基体に基端が支持されかつ先端が前記針本体の歯口側を前後方向へ延びるスライダー溝に摺動自在に収容され、前記針本体の針幅方向中央位置で重ね合わせた略同一形状の2枚のブレードとを有してなる複合針において、
前記スライダー溝の後方側には、前記針本体の針幅方向中央位置を前後方向へ延びるガイド溝が凹設されているとともに、前記ブレードには、その先端より突出する突起が設けられており、
前記ガイド溝は、前記突起を前後方向へ摺動自在に収容しているとともに、前記突起の針幅方向の寸法に相当する溝幅に設定されていることを特徴とする複合針。
【請求項2】
前記突起は、前記ブレードのうちの一方のブレードを他方のブレードの先端よりも突出させて前記針本体の針幅方向中央位置へオフセット曲げして形成されている請求項1に記載の複合針。
【請求項3】
前記突起は、前記ブレード間に介在された薄板材を前記ブレードの先端よりも突出させて形成されている請求項1に記載の複合針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−67878(P2013−67878A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205725(P2011−205725)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】