説明

親水性多孔膜の製造方法、親水化剤、親水性多孔膜、及び多孔膜の親水化処理方法

【課題】通水性に優れた親水性多孔膜を、特殊な設備を要することなく、安全で簡易に製造することのできる親水性多孔膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる工程を有する、親水性多孔膜の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性多孔膜の製造方法、親水化剤、親水性多孔膜、及び多孔膜の親水化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離技術は、その優れた経済性、信頼性などが認められ、各種用水や飲料水などの様々な分野において広く採用されている。この膜分離技術に用いられる分離膜としては、精密濾過や限外濾過等の多孔膜が挙げられる。
【0003】
多孔膜の素材としては、ポリスルホン系、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系、フッ化ビニリデン系などのフッ素系、ポリアミド系などの多種多様な有機高分子化合物が使用されている。これらの多孔膜は、有機高分子化合物の種類により、水との親和性が高い親水性のものと、水との親和性が低い疎水性のものとに分類できる。疎水性の多孔膜(以下、「疎水性膜」という。)は、親水性の多孔膜に比べて、乾燥前後での膜構造変化が少ない。その中でも、フッ化ビニリデン系の疎水性膜は、耐薬品性、耐熱性及び機械的強度などの点で非常に優れており、多くの分野で広く利用されている。
【0004】
しかしながら、疎水性膜は、製膜後に乾燥すると、乾燥前に比べて著しく透水性能が低下する。このような疎水性膜は、濾過に使用する時に、膜の細孔内に水を浸入させるための処理(以下、「親水化処理」という。)が必要となる。
【0005】
少なくとも一部分が乾燥した疎水性膜を親水化処理する方法としては、以下のような方法が一般的に知られている。
(1)物理的に水を細孔内に浸入させる方法
このような方法としては、例えば、(1−1)表面張力の小さいアルコール等の溶液に浸漬する方法、及び(1−2)水中での高圧印加により細孔に通水(水を浸入)させる方法が挙げられる。
(2)膜表面を改質する方法
このような方法としては、例えば、(2−1)アルカリ水溶液と接触させることにより膜表面へ親水基を導入する方法、(2−2)親水性モノマーを膜表面にグラフト重合させる方法、及び(2−3)プラズマ照射により親水性官能基を膜表面に導入する方法が挙げられる。
(3)親水性物質を膜表面にコーティングする方法
このような方法としては、例えば、(3−1)フッ素系の界面活性剤又はグリセリン等の親水化剤を膜表面にコーティングする方法、及び(3−2)水溶性ポリマー水溶液に接触させた膜を熱又は放射線等で不溶化する方法が挙げられる。
【0006】
さらに、上記以外の親水化処理の方法として、ポリフェノールの1種である五倍子タンニンや日本茶の抽出物をポリスルホン膜に付着させ、親水性を付与させる方法(例えば、特許文献1)が提案されている。ここで、五倍子タンニンは、加水分解型タンニンの1種である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−301036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)の方法により親水化した膜は、一旦乾燥するとその親水性が失われてしまうため、親水化処理後は膜を常に水と接触した状態に維持しなければならず、万が一、膜の一部が乾燥した場合は、再度、親水化処理が必要となる。また、(1−2)の方法では、細孔の孔径が小さくなると通水に要する圧力が極めて高くなるために、膜の孔径が変化したり、膜強度が低下したりするという問題点があり、本来の濾過に必要のない特殊な高圧設備が付帯設備として必要となるという問題点もある。
【0009】
上記(2)及び(3)の方法は、親水化処理の工程が煩雑な上、高価で特殊な設備を必要とすることから生産性及び経済性の観点から大きく不利である。また、これらの方法は、アルカリ、熱又は放射線により膜強度が劣化したり、細孔の孔径が変化したりするという問題点があり、その他に設備の安全性確保という問題点もある。
【0010】
さらに、上記(3)の方法ではコーティングした物質が溶出するという問題点もある。また、(3−1)の方法において、親水化剤の中には、多孔膜を充填した濾過用ケースである膜モジュールに、ソルベントクラック(化学薬品との接触で樹脂成形品に生じる亀裂)を誘発し、使用中に膜モジュールが破損する恐れがあるものもある。そのため、採用する親水化剤の選定には十分な精査が必要となる。
【0011】
そして、特許文献1に記載の五倍子タンニンや日本茶の抽出物を利用する方法は、多孔膜の材質がポリスルホンに限定されているところ、ポリフッ化ビニリデンを材質とする多孔膜では、それと同等の効果を得られないことが、これまでの検討から判明した。
【0012】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、通水性に優れた親水性多孔膜を、特殊な設備を要することなく、安全で簡易に製造することのできる親水性多孔膜の製造方法、親水化剤、親水性多孔膜、及び多孔膜の親水化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内にライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物を含浸させることで、親水性を付与することができ、かつ、該多孔膜が乾燥しても、その親水性を維持することができる親水化処理方法を見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる工程を有する、親水性多孔膜の製造方法。
[2]前記含浸させる工程において、水溶液に含まれる前記組成物を前記細孔内に含浸させ、前記水溶液における前記組成物の濃度が0.2〜2.0重量%である、[1]の製造方法。
[3]ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物を主剤とする、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の親水化剤。
[4]ポリフッ化ビニリデン多孔膜と、前記ポリフッ化ビニリデン多孔膜の少なくとも細孔内に備えられるライチ果皮由来のポリフェノールと、を含む、親水性多孔膜。
[5]ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる工程を有する、多孔膜の親水化処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、通水性に優れた親水性多孔膜を、特殊な設備を要することなく、安全で簡易に製造することのできる親水性多孔膜の製造方法、親水化剤、親水性多孔膜、及び多孔膜の親水化処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の親水性多孔膜の製造方法は、ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物を、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる工程(以下、「含浸工程」ともいう。)を有するものである。
【0018】
この製造方法では、含浸工程に先立って、ポリフッ化ビニリデン多孔膜を準備する。ここで、「ポリフッ化ビニリデン多孔膜」とは、ポリフッ化ビニリデンを50質量%以上含む多孔質の膜を意味する。ポリフッ化ビニリデン多孔膜としては、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔膜が、耐水性が高く、通常の水系液体の濾過において耐久性が期待できるのが好ましい。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマー、モノマーとしてのフッ化ビニリデンの比率が50モル%以上のフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン及びエチレンからなる群より選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが最も好ましい。ポリフッ化ビニリデンは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0019】
ポリフッ化ビニリデン多孔膜は常法により作製されてもよく、市販品を入手してもよい。ポリフッ化ビニリデン多孔膜の市販品としては、例えば、商品名「UNA−620A」(旭化成ケミカルズ社製)などが挙げられる。
【0020】
ポリフッ化ビニリデン多孔膜は、例えば、熱誘起相分離法によって作製される。より具体的には、国際公開第2007/043553号に記載の下記のような方法によって、多孔性多層中空糸膜の形態を有するポリフッ化ビニリデン多孔膜が作製されてもよい。ただし、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の作製方法はこれに限定されず、その多孔膜は、別の熱誘起相分離法によって作製されてもよく、延伸開孔法などによって作製されてもよい。また、下記の例ではポリフッ化ビニリデン多孔膜は中空糸膜の形態を有するが、それに限定されず、例えば、平膜等の形態であってもよい。
【0021】
まず、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の原料となるポリフッ化ビニリデン、並びに、必要に応じて、有機溶媒及び無機粉体を準備し、それらを溶融混練する。ポリフッ化ビニリデンとしては、例えば上述のものが挙げられる。
【0022】
有機溶媒としては、ポリフッ化ビニリデンに対し、潜在的溶剤となるものを用いると好ましい。ここで、「潜在的溶剤」とは、ポリフッ化ビニリデンを室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では溶解できる溶剤をいう。有機溶媒は、後述のポリフッ化ビニリデンとの溶融混練における温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要はない。有機溶媒としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;及び、これらのうち2種以上の混合物が挙げられる。これらの中では、成形加工性の観点から、フタル酸エステル類が好ましい。
【0023】
無機粉体としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニア及び炭酸カルシウムの粉体が挙げられる。無機粉体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、所望の粒子径及び粒径分布を得やすい観点、並びに経済性の観点から、シリカが好ましい。シリカの中でも、凝集し難く分散性の良好な疎水性シリカがより好ましく、更に好ましくはMW(メタノールウェッタビリティ)値が30容量%以上である疎水性シリカである。ここでいうMW値とは、粉体が完全に濡れるのに必要な最低限のメタノールの容量%の値である。具体的には、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを徐々に添加した時に、シリカの50質量%が沈降した際の水溶液中におけるメタノールの容量%を求め、それをMW値として決定する。
【0024】
無機粉体の平均一次粒子径は特に限定されないが、3nm以上500nm以下であると好ましく、5nm以上100nm以下であるとより好ましい。
【0025】
無機粉体の配合量については、溶融混練物中に占める無機粉体の質量比率が、5質量%以上40質量%以下であると好ましい。無機粉体の質量比率が5質量%以上であれば、無機粉体を混練することによる下記効果がより有効かつ確実に発現できる傾向にあり、40質量%以下であれば、安定に紡糸できる傾向にある。
【0026】
ポリフッ化ビニリデン、有機溶媒及び無機粉体の溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば、2軸押出機を用いて行うことができる。例えば、同心円状に配置された2つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成型ノズルを押出機の先端に装着し、それぞれの円環状吐出口にはそれぞれ異なる押出機より溶融混練物を供給押出しできるようにする。異なる押出機より供給される複数の溶融混練物を吐出口で合流させ重ね合わせることで、多層構造を有する中空糸状押出物を得ることができる。このとき、互いに隣り合う円環状吐出口から組成の異なる溶融混練物を押し出すことで、互いに隣り合う層の孔径が異なる多層膜を得ることができる。互いに異なる組成とは、溶融混練物の構成物質が異なる場合、または、構成物質が同じでも構成比率が異なる場合を指す。同種のポリフッ化ビニリデンであっても、分子量や分子量分布が明確に異なる場合は、構成物質が異なるとみなす。
【0027】
ポリフッ化ビニリデン多孔膜として、多層構造を有する中空糸膜を作製する場合、無機粉体を添加することで、以下の3つの具体的な効果により、優れた性能を持つポリフッ化ビニリデン多孔膜を安定に得ることができる。
(1)多層構造を有する中空糸状押出物の押出しの安定性(紡糸安定性)が格段に向上する。これは、無機粉体を加えることで溶融混練物の粘度が大きく増大するためである。多層押出しは1層押出しに比べると不安定になりやすいが、本実施形態では貼り合わせる層の少なくとも1つの層が粘度が高く、「硬い」層となるために安定性が付与される。具体的には、真円性が保持されると同時に、層界面の乱れが抑止された多層中空糸状押出物を容易に得ることが可能になる。層界面の波打ちなど、層界面の乱れを抑止することは、多層押出しを行う上で重要である。
(2)孔径分布がシャープになり、阻止性能、透水性能及び強度の3つが高いレベルでバランスした膜が得られる。これは、溶融混練物の粘度が高いことにより、あるいは無機粉体の凝集体が有機溶媒をその内部に吸油することにより、隣り合う層への有機溶媒の染み出しを抑制し、また隣り合う層から有機溶媒が染み込んできた場合にも無機粉体が吸油する、すなわちバッファーの役割を果たすためと考えられる。粘度が高いために有機溶媒の移動が抑えられる、あるいは層間での有機溶媒の混ざり合いによる膜構造の変化を緩和されるからである。
(3)理由は不明であるが、少なくとも一層に無機粉体を添加した場合、有機溶媒および無機粉体の抽出除去前においても、抽出除去後においても、膜の機械的強度および化学的強度(耐薬品性)が高くなる傾向がある。
【0028】
上述の3つの効果は、吐出される複数の溶融混練物のうち、最も吐出量が多い溶融混練物に無機粉体が含まれている場合に、より効果が高まるために好ましい。吐出される全ての溶融混練物に無機粉体が含まれている場合が、より好ましい。
【0029】
さらに、無機粉体を含む溶融混練物の組成が、有機溶媒の質量比Dを無機粉体の質量比Sで除し、更に単位質量当たりの無機粉体が有機溶媒を吸油する最大質量Mで除した値が、0.2以上2以下の範囲になる組成であれば、溶融混練物間における有機溶媒の移動を抑止する効果をより高めることができるため、より好ましい。ここでいう有機溶媒は、溶融混練物に含まれる組成と同一のもの、すなわち、単一のものあるいは混合した有機溶媒であれば同じ混合比のものである。上記値が0.2以上であれば、層界面付近で隣り合う層から有機溶媒の移動を抑え、緻密な層が形成されず、高い純水透水率が維持される。上記値が2以下であれば、無機粉体に吸油されていない有機溶媒が十分に少なく、界面付近での有機溶媒の移動が起こりにくくなる。これは膜構造の変化の緩和につながり、結果として阻止性能が維持される。上記値は、より好ましくは0.3以上1.5以下、更に好ましくは0.4以上1.0以下である。この効果も、吐出される複数の溶融混練物のうち、最も吐出量が多い溶融混練物に無機粉体が含まれている場合に、より効果が高まるために好ましい。吐出される全ての溶融混練物に無機粉体が含まれている場合が、更に好ましい。なお、ここでいう無機粉体が単位質量あたりに有機溶媒を吸油する最大質量Mは、無機粉体を混練しながら有機溶媒を滴下していき、混練時のトルクが最初に最大トルクの70%になったときの有機溶媒の添加質量を無機粉体の添加質量で除することで求めることができる。
【0030】
また、隣り合う2つの溶融混練物に混練されている有機溶媒が少なくとも1種類は共通であることも、溶融混練物間における有機溶媒の移動が起こった際の構造変化の影響が小さくなるため、好ましい。さらに、隣り合う溶融混練物に用いられる有機溶媒の種類が全て共通で混合比が異なることがより好ましい。有機溶媒が全て共通である場合には、抽出した有機溶媒の回収も容易になるので更に好ましい。
【0031】
互いに隣り合う溶融混練物を合流させる際の樹脂温度の差は、20℃以下が好ましい。20℃以下であれば、溶融混練物の界面において緻密化やボイド形成が起こりにくい。その結果、高い透水性能や強度の膜を得ることができる。合流時の樹脂温度の差は、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃である。
【0032】
多層を形成する層の数及び各層の孔径や各層の厚みの比率は、目的により適宜設定することができる。例えば2層の膜を目的とする場合であれば、(i)小孔径かつ薄い外層と外層よりも大孔径かつ厚い内層との組み合わせ、あるいは(ii)大孔径かつ厚い外層と外層よりも小孔径かつ薄い内層との組み合わせが、緻密な細孔と高い透水性能を併せ持つために有効である。また、例えば3層の膜の場合であれば、(iii)小孔径かつ薄い外層及び内層と、外層及び内層よりも大孔径かつ厚い中間層との組み合わせ、あるいは(iv)大孔径かつ厚い外層及び内層と、外層及び内層よりも小孔径かつ薄い中間層との組み合わせが、緻密な細孔と高い透水性能を併せ持つために有効である。
【0033】
吐出口から多層構造で押し出された中空糸状溶融混練物は、空気中あるいは水等の冷媒を通過して冷却固化され、必要に応じてかせ等に巻き取られる。冷却中に熱誘起相分離が誘発される。冷却固化後の中空糸状物中には、ポリマー濃厚部分相と有機溶媒濃厚部分相とが微細に分かれて存在する。なお、無機粉体が微粉シリカである場合、微粉シリカは有機溶媒濃厚部分相に偏在する。この冷却固化中空糸状物から有機溶媒と無機粉体とを抽出除去することで、有機溶媒濃厚相部分が空孔となる。これにより、多孔性多層中空糸膜を得ることができる。
【0034】
有機溶媒の抽出除去及び無機粉体の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができる。通常は別々に抽出除去する。
【0035】
有機溶媒の抽出除去には、用いたポリフッ化ビニリデンを溶解あるいは変性させずに有機溶媒と混和する、抽出に適した液体を用いる。具体的には、浸漬等の手法により冷却固化中空糸状物と上記液体とを接触させることで、有機溶媒の抽出除去を行うことができる。該液体は、抽出後に中空糸膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類及び塩化メチレンが挙げられる。有機溶媒が水溶性であれば水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0036】
無機粉体の抽出除去は、通常、水系の液体を用いて行う。例えば、無機粉体がシリカである場合、まず、冷却固化中空糸状物をアルカリ性溶液と接触させて、シリカをケイ酸塩に転化させ、次いで、水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0037】
有機溶媒の抽出除去と無機粉体の抽出除去とは、どちらが先でも差し支えはない。有機溶媒が水と非混和性の場合は、先に有機溶媒の抽出除去を行い、その後に無機粉体の抽出除去を行う方が好ましい。通常、有機溶媒及び無機粉体は有機溶媒濃厚部分相に混和共存しているため、無機粉体の抽出除去を円滑に進めることができ、有利である。
【0038】
このように、冷却固化した多層中空糸から有機溶媒及び無機粉体を抽出除去することにより、多孔性多層中空糸膜を得ることができる。
【0039】
なお、冷却固化後の多層中空糸に対し、(i)有機溶媒及び無機粉体の抽出除去前、(ii)有機溶媒の抽出除去後で無機粉体の抽出除去前、(iii)無機粉体の抽出除去後で有機溶媒の抽出除去前、(iv)有機溶媒及び無機粉体の抽出除去後、のいずれかの段階で、多層中空糸の長手方向への延伸を、延伸倍率3倍以内の範囲で行うことができる。一般に多層中空糸膜を長手方向に延伸すると透水性能は向上するが、耐圧性能(破裂強度および圧縮強度)が低下するため、延伸後は実用的な強度の膜にならない場合が多い。しかしながら、上記製造方法で得られる多孔性多層中空糸膜は機械的強度が高い。よって延伸倍率1.1倍以上3倍以内の延伸は実施可能である。延伸により、多孔性多層中空糸膜の透水性能が向上する。ここでいう延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を指す。例えば、中空糸長10cmの多層中空糸を、延伸して中空糸長を20cmまで伸ばした場合、下記式より、延伸倍率は2倍である。
20cm÷10cm=2
【0040】
また、必要に応じて延伸後の膜に熱処理を施し、圧縮強度を高めてもよい。熱処理温度は通常はポリフッ化ビニリデンの融点以下が好適である。
【0041】
上述のようにして得られた多孔性多層中空糸膜をポリフッ化ビニリデン多孔膜として用いると、阻止性能、透水性能、及び強度が高いレベルでバランスの取れたものとなる。
【0042】
得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜において、ポリフッ化ビニリデン以外に含まれてもよい成分としては、例えば、上述の有機溶媒及び無機粉体が挙げられる。ただし、有機溶媒及び無機粉体は、上述から明らかなとおり、ポリフッ化ビニリデン多孔膜を作製する工程において用いられるものであり、濾過時に溶出するのを予め防ぐ観点から、最終的なポリフッ化ビニリデン多孔膜には残存しない方が好ましい。
【0043】
得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜の空孔率は、特に限定されないが、30〜90%であると好ましく、40〜80%であるとより好ましい。空孔率が上記下限値以上であることにより、透水性が向上するという効果が得られ、上記上限値以下であることにより、耐薬品性及び機械的強度が向上するという効果が得られる。本明細書における空孔率は、例えば、国際公開2001/53213号に記載されているように、多孔膜の電子顕微鏡画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて孔部分を黒く塗り潰し、その後透明シートを白紙にコピーすることにより、孔部分は黒、非孔部分は白と明確に区別し、その後に市販の画像解析ソフトを利用して求めることができる。
【0044】
また、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の平均孔径は、特に限定されないが、0.01〜5.0μmであると好ましく、0.01〜1.0μmであるとより好ましい。本明細書における平均孔径は、以下のようにして測定される。まず、走査型電子顕微鏡を用い、多孔膜の表面を、極力多数の孔の形状が明確に確認できる程度の倍率で撮影する。次に、その写真上で、縦横方向に直交するように各5本の線をほぼ均等な間隔で引き、それらの線が写真中の孔を横切る長さを測定する。そして、それらの測定値の算術平均値を求め、これを平均孔径とする。孔径測定の精度を上げるために、縦横計10本の線が横切る孔径の数は20個以上とするのが好ましい。孔径が0.1μmから1μm程度であれば、5000倍程度の倍率の電子顕微鏡画像を用いるのが適当である。
【0045】
次いで、含浸工程に先立って、ポリフッ化ビニリデン多孔膜を水溶性有機溶媒に浸漬して、少なくともその細孔内を水溶性有機溶媒で濡れた状態にした後、その有機溶媒を水で置換して、細孔内を湿潤した状態に保持してもよい。これにより、含浸工程において、ライチ果皮由来のポリフェノールを容易に細孔内に含浸することができる。水溶性有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールが挙げられる。これらの中では、安全性及び汎用性の観点から、エタノールが好ましい。
【0046】
次に、含浸工程において、ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物を、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる。このライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物は、親水化剤として機能するものである。ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物(以下、単に「ライチポリフェノール組成物」ともいう。)としては、ライチ果皮から抽出された抽出物をそのまま用いてもよい。この抽出物には、上述のポリフェノールが含まれる。
【0047】
また、ライチポリフェノール組成物は、ライチ果皮由来のプロアントシアニジンを低分子化して得られるタンニン(低分子プロアントシアニジン)を含むものであると、本発明による効果をより確実に奏する観点から好ましい。かかる組成物は、原料であるライチ果皮と比べて低分子化プロアントシアニジンの含有量が格段に多くなる。本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、この組成物における低分子化プロアントシアニジンの含有量は、組成物の全量に対して、30〜90質量%であると好ましい。そのような低分子化プロアントシアニジンを含む組成物は、ライチ果皮から抽出された抽出物を、例えば、溶媒(アルコールなど)中に2〜20倍に希釈した状態で40〜100℃に加熱したり、超音波処理、マイクロ波処理したりすることにより得られる。
【0048】
ライチポリフェノール組成物は、従来知られている方法により製造されてもよく、市販品を入手してもよい。従来知られている方法としては、例えば、特開2007−215492号公報、国際公開第2006/090830号に記載の方法が挙げられる。また、市販品としては、例えば、株式会社アミノアップ化学製の商品名「オリゴノール」が挙げられる。
【0049】
ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物は、米国FDA(Food and Drug Administration)においてNDI(New Dietary Ingredient:新規食品成分)として登録されており、その食品としての安全性が認められている極めて安全な物質である。
【0050】
ここで、タンニンとは、植物の種子、果殻、葉、根、材、樹皮など(例えば、カシワ、ナラなどブナ科の樹皮、ハゼ、ウルシなどウルシ科の葉、茶葉、柿、没食子、五倍子など)から温湯で抽出され、動物の生皮を革とすることのできる物質の総称であり、ポリフェノール性の天然化合物である。タンニンは、食品添加物として、ワイン及びビールなどの清澄剤、動物脂肪の精製剤として使用され、その食品としての安全性が認められている安全な物質である。
【0051】
タンニンは、縮合型タンニンと加水分解型タンニンとの2群に分けられる。縮合型タンニンは、フラバノール骨格を有する化合物の重合体であり、炭素―炭素結合を有し、加水分解されないタンニンである。一方、加水分解型タンニンは、芳香族カルボン酸のエステルであり、エステル結合を有し、酸、アルカリ、又は酵素によって加水分解されるエステルである。本実施形態に係る低分子化プロアントシアニジンは、上述のうち縮合型タンニンに属する。
【0052】
上記含浸工程において、ライチポリフェノール組成物と共にそれ以外の親水化剤を含浸してもよく、あるいは、上記含浸工程の前後において、ライチポリフェノール組成物以外の親水化剤をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させてもよい。そのような親水化剤としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられる。
【0053】
ライチポリフェノール組成物及びそれ以外の親水化剤は、膜への均一な浸透性の観点から、水溶液の状態で用いると好ましい。親水化剤の水溶液濃度は、溶解性を向上させる観点から、0.2〜2.0質量%であることが好ましく、0.5〜1.0質量%であることがより好ましい。0.2質量%以上であることにより、更に十分な親水化効果を得やすくなり、2.0質量%以下であることにより、蛋白質や重金属イオンが共存する場合にポリフェノールがそれらとの化合や自己酸化を起こして複雑な多量体になることを防ぎ、沈殿物の生成を一層抑制することができる。親水化剤の水溶液濃度は、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔径や膜構造に応じて適宜決定されることが好ましい。
【0054】
上述からも明らかなとおり、ライチポリフェノール組成物は、それ以外の親水化剤と併用することもできる。
【0055】
また、上記含浸工程の際に、ライチポリフェノール組成物及びそれ以外の親水化剤のうち少なくとも1つと共に滅菌剤をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させてもよく、あるいは、含浸工程の前後に、滅菌剤をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸してもよい。これにより、微生物や菌の繁殖を抑制することができる。この滅菌剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム及びホルムアルデヒドが挙げられる。なお、滅菌剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
ポリフッ化ビニリデン多孔膜に、ライチポリフェノール組成物、それ以外の親水化剤又は滅菌剤を含浸させる方法としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン多孔膜が湿潤状態にある場合は、それらの液又はそれらを含む水溶液中に多孔膜を浸漬する方法、及び、該水溶液を多孔膜に噴霧又は流下させる方法が挙げられる。また、ポリフッ化ビニリデン多孔膜が乾燥状態にある場合は、それらの液又はそれらを含む水溶液を、加圧条件下で多孔膜の細孔内に圧入するようにして細孔内に含浸させることも可能である。
【0057】
ポリフッ化ビニリデン多孔膜に、ライチポリフェノール組成物を含浸させるのに要する時間及びライチポリフェノール組成物の使用量などの条件は、最終的に得られる親水性多孔膜の通水性が所望の程度になるのに必要な条件であれば、特に限定されない。
【0058】
上述の含浸工程を経た多孔膜をそのまま親水性多孔膜として用いてもよく、必要に応じて適宜乾燥させて、親水性多孔膜として用いてもよい。
【0059】
こうして得られる親水性多孔膜は、ポリフッ化ビニリデン多孔膜と、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の少なくとも細孔内に備えられるライチ果皮由来のポリフェノールとを含む。この親水性多孔膜は、少なくとも細孔内に、ライチポリフェノール組成物以外の親水化剤を含んでもよく、滅菌剤を含んでもよい。また、ライチポリフェノール組成物に含まれるライチ果皮由来のポリフェノール以外の成分が細孔内に残存していてもよい。さらには、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内以外の領域に、上記各成分が備えられていてもよい。また、従来の親水性多孔膜に含まれる公知の成分が含まれていてもよい。
【0060】
親水性多孔膜における、ライチ果皮由来のポリフェノールの含有量は特に限定されない。
【0061】
ライチ果皮由来のポリフェノールは、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内において、膜に吸着して存在していると考えられる。理由は定かではないが、極性の強いC−F結合を有するポリフッ化ビニリデンと低分子化したポリフェノールの極性が電気的に強い結合を保持しているため、親水性多孔膜は、通水性に優れると考えられる。ただし、親水性多孔膜が通水性に優れる要因はこれに限定されない。
【0062】
親水性多孔膜の空孔率は、特に限定されないが、30〜90%であると好ましく、40〜80%であるとより好ましい。空孔率が上記下限値以上であることにより、透水性が向上するという効果が得られ、上記上限値以下であることにより、耐薬品性及び機械的強度が向上するという効果が得られる。
【0063】
親水性多孔膜の平均孔径は、特に限定されないが、0.01〜5.0μmであると好ましく、0.01〜1.0μmであるとより好ましい。
【0064】
上述から明らかなとおり、本実施形態の親水性多孔膜の製造方法は、多孔膜の親水化処理方法ともいえる。
【0065】
本実施形態の親水性多孔膜は、精密濾過膜(MF)、限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)及び透析膜に代表される濾過膜として好適に用いられる。
【0066】
本実施形態によると、上述から明らかなとおり、特殊な設備を要することなく、安全で簡易に親水性多孔膜を製造することができる。また、本実施形態の製造方法により得られる親水性多孔膜は、膜が乾燥しても容易にその親水性を回復することが可能となるものである。また、親水化剤として用いられるライチポリフェノール組成物は、植物由来の安全なものであり、多孔膜の洗浄及び廃水処理が容易であることから、実用上極めて有用なものである。
【0067】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(純水透水率)
「純水透水率」とは、単位時間、単位膜面積あたりの多孔膜の純水透過量であり、以下の手順で測定を行った。
まず、約10cm長のサンプルである多孔膜(中空糸膜)の一端を封止し、他端の中空部内に注射針を挿入した。該注射針から、圧力0.1MPaで25℃の純水を中空部内に注入し、中空糸膜の内側から外側へ透過する純水の透水量を測定して、以下の式から純水透水率を求めた。なお、膜有効長とは、中空糸膜の長さから、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。
純水透水率[L/(m2・hr)]=透過水量[L]/(π×膜内径[m]×膜有効長[m]×測定時間[hr])
【0070】
(実施例1)
国際公開第2007/043553号の実施例2に準じて中空糸膜を作製した。すなわち、フッ化ビニリデンホモポリマー〔株式会社クレハ製、商品名:KF#1000〕、有機溶媒としてフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)〔シージーエスター株式会社製〕とフタル酸ジブチル〔シージーエスター株式会社製〕との混合物、無機粉体として微粉シリカ〔日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL−R972、1次粒子径が約16nmのもの〕を用い、国際公開第2007/043553号の図2に示す中空糸成型用ノズルを用いて押出機2台による2層中空糸膜の溶融押し出しを行った。外層用の溶融混練物(a)として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2−エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=34:33.8:6.8:25.4(質量比)の溶融混練物を、内層用の溶融混練物(b)として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2−エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=36:35.3:5.0:23.7(質量比)の溶融混練物を、中空部形成用流体として空気を、それぞれ用い、共に250℃の樹脂温度にて、外径2.00mm、内径0.92mmの中空糸成形用ノズルから、吐出線速14.2m/min、外層:内層の膜厚比=10:90になるような量比にて押し出した。ここでいうノズルの外径とは、国際公開第2007/043553号の図2においては吐出口の最外径を指す。また、ノズルの内径とは内層用溶融混練物吐出口と中空部形成用流体吐出口との間の隔壁下端の最大径を指す。
【0071】
押し出した中空糸状押出物は、45cmの空中走行を経た後40℃の水浴中に導き入れることで冷却固化させ、30m/minの速度でかせに巻き取った。得られた2層中空糸を塩化メチレン中に浸漬させてフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)及びフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、次いで、20質量%水酸化ナトリウム水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。
【0072】
得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜である中空糸膜の空孔率は70%、平均孔径は0.2μm、内径は0.7mm、外径は1.2mmであった。この中空糸膜を100%エタノールに浸漬させ細孔内を濡れた状態にした後、水で置換し湿潤した状態の膜を「標準膜」とした。
【0073】
次に、ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物であるオリゴノール(商標、(株)アミノアップ化学製)の1.0質量%水溶液(オリゴノール水溶液)を準備し、試験管内にその20gを封入した。次いで、120mm長の標準膜4本をこの試験管内の水溶液に24時間浸漬させた後、試験管から膜を取り出し、3日間風乾して乾燥状態に戻した。このような一連の操作を経て得られた親水性多孔膜を「処理膜」とした。
【0074】
次いで、標準膜と処理膜とを純水に24時間浸漬させた後の純水透水率を測定した結果、それぞれ7900、7500[L/(m2・hr)]であった。
【0075】
(実施例2)
オリゴノール水溶液の濃度を1.0質量%から0.5重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、処理膜を得た。次いで、試験管内にオリゴノール水溶液20gを封入し、120mm長の標準膜4本をこの試験管内の水溶液に24時間浸漬した後、試験管から膜を取り出し、3日間風乾して乾燥状態に戻して親水性多孔膜である処理膜を得た。
【0076】
この処理膜を純水に24時間浸漬させた後に、純水透水率を測定したところ、6800[L/(m2・hr)]であった。
【0077】
(比較例1)
上記オリゴノール水溶液を特開平5−301036号公報に記載された実施例1で使用している五倍子タンニン(和光純薬工業(株)製)の1.0質量%水溶液(五倍子タンニン水溶液)に変更した以外は、実施例1と同様にして、処理膜を得た。次いで、試験管内に上記水溶液20gを封入し、120mm長の標準膜4本をこの試験管内の水溶液に24時間浸漬した後、試験管から膜を取り出し、3日間風乾して多孔膜である処理膜を得た。
【0078】
この処理膜を純水に24時間浸漬させた後に、純水透水率を測定したところ、全く透過が認められなかった。
【0079】
実施例1及び2の結果より、親水化剤であるライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物の水溶液にポリフッ化ビニリデン多孔膜を浸漬して得た親水性多孔膜は、乾燥しても再度水に浸漬させるだけで透水性能が回復することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の製造方法により得られた親水性多孔膜は、たとえ乾燥しても、再度水に浸漬させた際の透水性能の低下を阻止することができる。したがって、本発明に係る親水性多孔膜は、精密濾過膜(MF)、限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)及び透析膜に代表される濾過膜として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる工程を有する、親水性多孔膜の製造方法。
【請求項2】
前記含浸させる工程において、水溶液に含まれる前記組成物を前記細孔内に含浸させ、前記水溶液における前記組成物の濃度が0.2〜2.0重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物を主剤とする、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の親水化剤。
【請求項4】
ポリフッ化ビニリデン多孔膜と、前記ポリフッ化ビニリデン多孔膜の少なくとも細孔内に備えられるライチ果皮由来のポリフェノールと、を含む、親水性多孔膜。
【請求項5】
ライチ果皮由来のポリフェノールを含有する組成物をポリフッ化ビニリデン多孔膜の細孔内に含浸させる工程を有する、多孔膜の親水化処理方法。

【公開番号】特開2012−254404(P2012−254404A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128395(P2011−128395)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】