説明

観察装置およびレーザー加工装置

【課題】透明なステージに吸引固定された透明性基板の形状を観察像において明確に特定することが出来る観察装置を提供する。
【解決手段】透明性基板10を観察するための観察装置は、透明部材からなるとともに、透明性基板10を吸引固定するための吸気通路が設けられたステージ7と、ステージ7の表面に載置された透明性基板10の観察面に対して照明光を照射する照明光源と、観察面の側から透明性基板を観察する観察手段と、を備える。吸気通路はステージ7の内部に設けられた吸引用配管12やステージ7の表面に設けられた溝部であり、これらに対しては、その壁面に塗料を塗布する処理や、該壁面を平滑化する処理などの乱反射抑制処理が施されてなる。これにより、照明光源から照射された照明光の乱反射に起因した、観察像に対する吸気通路の像の重畳が抑制される。加えて、ステージ7の裏面に反射防止膜13を設けた場合、係る重畳がほとんど生じなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なステージに吸引固定された透明または半透明の基板の形状を観察像において明確に特定することが出来る観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイアなどの透明または半透明の基板(以下これらを「透明性基板」と称する)にデバイスパターンを形成したものに対し、パルスレーザーを照射することによって分割のための起点を形成する方法が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1に開示されている装置により透明性基板を所定位置で分割しようとする場合など、透明性基板上の任意の位置を正確に特定することが必要となる場合がある。そうした場合に、透明性基板の輪郭形状や輪郭位置、あるいは透明性基板上に形成されてなる不透明部分の配置位置や配置形状を手がかりとして当該位置の特定を行うことは一般的である。
【0004】
このような位置特定は、透明基板を観察用のステージに載せて行うが、かかるステージは、2つの機能を備えることが必要である。
【0005】
一つには、位置特定を行う際に、透明基板が途中でずれないように、前記観察用のステージには透明基板を吸引固定する機能を備えることが必要である。
【0006】
もう一つには、様々な透明基板に対して汎用的に観察できるように、いろいろな光学系での観察に備えて、観察ステージを透明にすることが必要である。透明にすることにより、観察ステージに吸着固定された基板の下側からの照明が可能となり、観察ステージ及び透明基板を透過して来た光を観察する透過照明式の観察が可能となる。また、観察ステージを透明にすることで、観察ステージに吸着固定された基板の下面側からの観察が可能となる。
【0007】
このように観察ステージを透明にすることで、例えば透過照明が可能となり、基板内の不透明部分をコントラスト良く明瞭に観察できる。また、例えば、基板に金属層などの不透明な層が部分的に形成されていることが原因で、基板を上から覗くように観察したのでは、この不透明層が光を遮ったり反射したりする等の邪魔をして、不透明な層の下に位置するパターンを観察することが難しい場合でも、観察ステージの下方から観察ステージ越しでの観察が可能となり、不透明層の下方に位置するパターンであっても明瞭に観察することが可能となる。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/062017号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のような観察ステージに吸引固定された基板を観察する行為としては、透明基板に形成された微細パターンを観察するような顕微鏡的観察(以下、「ミクロ観察」と称する)や、透明基板の輪郭形状を特定するような外形観察(以下、「マクロ観察」と称する)がある。
【0010】
例えば、上記したようにパルスレーザーを照射する場合に、パルスレーザーを基板の外側へ不必要にはみ出して照射することがないように、マクロ観察で、予め透明基板の輪郭形状を精度よく特定することが行われる。また、基板内の所定部分に対して正確な位置でパルスレーザーを照射するように、ミクロ観察で基板を微細に位置決めする手がかりとなる回路パターンを探し出すことが行われる。
【0011】
本発明において観察対象とする透明基板をマクロ観察にて輪郭形状を特定する際には、透明基板の反射率とステージの表面(透明基板の載置面)の反射率との差に応じて、観察像に生じるコントラストが、透明基板の像を与えることになる。従って、透明性基板の輪郭を精度良く特定するためには、係るコントラストが明瞭に得られることが必要となる。
【0012】
その一方で、透明部材で構成されたステージを用いる場合、透明性基板を吸引固定できるようにステージ内部を機械加工により削孔して設けられた吸引用配管の壁面部分(ざらついた凹凸面となっている)において乱反射が生じ、これによる反射像が透明性基板の像に重畳することによって、透明性基板の輪郭形状や、デバイスパターンが不明確になることがある。
【0013】
仮に、こうした吸引用配管とステージ上に載置される透明性基板との位置関係が常に一定であれば、観察像を画像処理することにより比較的容易に吸引用配管の反射像を除去することができるが、観察対象とされる透明性基板ごとにその形状や水平面内における姿勢が異なるような場合には、こうした画像処理による対応は現実的ではない。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、透明なステージに吸引固定された透明性基板の形状を観察像において明確に特定することが出来る観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、透明性基板を観察するための観察装置であって、透明部材からなるとともに、前記透明性基板を吸引固定するための吸気通路が設けられたステージと、前記ステージの表面に載置された前記透明性基板の観察面に対して照明光を照射する照明光源と、前記観察面の側から前記透明性基板を観察する観察手段と、を備え、前記吸気通路に対し、前記照明光源から照射された前記照明光の乱反射を抑制する乱反射抑制処理が施されてなる、ことを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載の観察装置であって、前記乱反射抑制処理が、前記吸気通路の壁面に前記照明光を吸収する低明度色の塗料を塗布する処理である、ことを特徴とする。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の観察装置であって、前記ステージの裏面に、反射防止膜が形成されてなる、ことを特徴とする。
【0018】
請求項4の発明は、請求項1に記載の観察装置であって、前記乱反射抑制処理が、前記吸気通路の壁面を平滑化する処理である、ことを特徴とする。
【0019】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の観察装置であって、前記ステージの内部に、前記吸気通路としての吸引用配管が設けられてなる、ことを特徴とする。
【0020】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の観察装置であって、前記ステージの表面に、前記吸気通路としての溝部が設けられてなる、ことを特徴とする。
【0021】
請求項7の発明は、請求項1に記載の観察装置であって、前記ステージの表面に、前記吸気通路として、前記ステージの表面と並行な底面と、前記ステージの表面に垂直な側面とからなり、前記底面と前記側面とは直角に接している3面からなる溝部を設けてなり、前記溝部の底面に反射防止膜が形成されてなる、ことを特徴とする。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の観察装置であって、前記照明光源として、同軸照明光を照射する同軸照明光源と、斜光照明光を照射する斜光照明光源と、を備え、前記同軸照明光および前記斜光照明光を前記ステージの表面に載置された前記透明性基板に対して選択的あるいは重畳的に照射可能である、ことを特徴とする。
【0023】
請求項9の発明は、レーザー加工装置が、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の観察装置を被加工物の観察手段として備える。
【発明の効果】
【0024】
請求項1ないし請求項8の発明によれば、透明部材からなるステージを備え、観察対象を吸引固定する観察装置が、透明性基板を観察対象とする場合であっても、吸気通路からの乱反射が好適に抑制されるので、観察手段において得られる観察像について吸気通路の像を除去するための特段の画像処理を行うことなく、該透明性基板の輪郭形状を精度良く特定することができる。
【0025】
特に、請求項2の発明によれば、吸気通路において照明光が吸収されるので、透明性基板を観察対象とする場合であっても、観察手段において得られる観察像について吸気通路の像を除去するための特段の画像処理を行うことなく、該透明性基板の輪郭形状を精度良く特定することができる。
【0026】
特に、請求項3の発明によれば、ステージ裏面に反射防止膜が形成されているので、ステージ裏面にて吸気通路が形成されていない部分の画像は、乱反射抑制処理が施された吸気通路の観察画像との間で、画能の濃淡差が少なくなる。このため、観察対象が拡散層や反射層を有していない透明性基板であっても、基板を透過して見える画像において、ステージにおける吸気通路が形成された部分の画像が暗い線のように際だって見えることはなく、透明基板の輪郭形状を精度よく特定することができる。
【0027】
また、請求項9の発明によれば、透明性基板の輪郭形状が精度良く特定されるので、透明性基板を加工する際の加工位置を精度良く決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<レーザー加工装置>
図1は、本発明の実施の形態に係る観察装置としての機能を有する観察手段を備えるレーザー加工装置50の構成を概略的に示す模式図である。なお、図1においては、加工対象(観察対象)である被処理体10が透明基板保護シート4に貼り付けられている場合を例示しているが、透明基板保護シート4の貼付は必須ではない。また、レーザー加工装置50の以下に示す各部の動作(レーザー光の照射、ステージの移動、照明光の照射、加工位置決定のための演算処理など)は、いずれも図示しないコンピュータなどからなる所定の制御手段によって制御されるものとする。
【0029】
レーザー加工装置50は、表面観察部50Aと、裏面観察部50Bと、例えば石英などの透明な部材からなり、被処理体10をその上に載置するステージ7とを主として備える。表面観察部50Aは、ステージ7に載置された被処理体10をレーザー光が照射される側(これを表面と称する)から観察する観察部であり、裏面観察部50Bは、該被処理体10をステージ7に載置された側(これを裏面と称する)から該ステージ7を介して観察する観察部である。ステージ7は、移動機構7mによって表面観察部50Aと裏面観察部50Bとの間で水平方向に移動可能とされてなる。ステージ7の詳細については後述する。
【0030】
移動機構7mは、図示しない駆動手段の作用により水平面内で所定のXY2軸方向にステージ7を移動させる。これにより、係る表面観察部50Aと裏面観察部50Bとの間のステージ7の移動、および、それぞれの観察部内における観察位置の移動やレーザー光照射位置の移動が実現されてなる。すなわち、レーザー加工装置50においては、移動機構7mによってステージ7を移動させることによって、表面観察部50Aによる表面側の観察と、裏面観察部50Bによる裏面側の観察とを切替可能に行えるようになっている。これにより、被処理体10の材質や状態に応じた最適な観察を柔軟かつ速やかに行うことが出来る。なお、移動機構7mについては、所定の回転軸を中心とした、水平面内における回転(θ回転)動作も、水平駆動と独立に行えることが、アライメントなどを行う上ではより好ましい。
【0031】
表面観察部50Aにおいては、落射照明光源S5から発せられた落射照明光L5が、図示しない鏡筒内に設けられたハーフミラー52で反射され、(表面観察部50Aにステージ7が位置する状態で)被処理体10に照射されるようになっている。また、表面観察部50Aは、ハーフミラー52の上方(鏡筒の上方)に設けられたCCDカメラ16aと該CCDカメラ16aに接続されたモニタ16bとを含む表面観察手段16を備えており、落射照明光L5を照射させた状態でリアルタイムに被処理体10の明視野像の観察を行うことが出来るようになっている。本実施の形態においては、係る表面観察部50Aとステージ7とが、本発明に係る観察装置の主たる構成要素に相当する。
【0032】
また、表面観察部50Aは、ステージ7に載置された被処理体10に対してレーザー光の照射を行えるようにも構成されている。すなわち、表面観察部50Aは、レーザー加工装置50におけるレーザー光の照射部でもある。これは、例えば、レーザーの照射系と観察光学系とが同軸に構成されることで実現されてなる。より具体的には、表面観察部50Aが特許文献1に開示されているレーザー加工装置の基本的構成と同様の構成を有することによって実現可能である。
【0033】
より詳細にいえば、表面観察部50Aにおいては、レーザー光源SLからレーザー光LBを発し、図示を省略する鏡筒内に備わるハーフミラー51にて反射させた後、該レーザー光LBを、表面観察部50Aにステージ7が位置する状態でステージ7に載置された被処理体の被加工部位にて合焦するよう集光レンズ18にて集光し、被処理体10に照射することによって、被処理体10の加工、例えば分割の起点となる融解改質領域の形成やアブレーションなどを実現することが出来るようになっている。
【0034】
表面観察部50Aにおいて得られた観察像に基づき加工位置が決定された場合は、引き続き、係る決定内容に基づいてレーザー光LBの照射による加工を行うことができる。
【0035】
なお、加工位置の決定は、図示しない制御手段によって実現されるGUIを利用して、レーザー加工装置50のオペレータがモニタ16bに表示されたCCDカメラ16aによる撮像画像を視認しつつ行うことが出来るようにされてなるのが好ましい。すなわち、オペレータによって加工位置を決定するための所定の指示入力がGUIによって与えられ、その入力内容に基づく所定の演算処理を制御手段が行うことよって、加工位置が決定されるのが好ましい。
【0036】
裏面観察部50Bは、裏面観察部50Bにステージ7が位置する状態で、ステージ7に載置された被処理体10に対してステージ7の上方から同軸照明光源S1からの同軸透過照明光L1の照射と斜光照明光源S2からの斜光透過照明光L2の照射とを重畳的に行いつつ、ステージ7の下方側から裏面観察手段6によって該被処理体10を観察できるように構成されている。
【0037】
また、裏面観察部50Bにおいては、ステージ7の下方に、より好ましくは、後述するハーフミラー9の下方(鏡筒の下方)に設けられたCCDカメラ6aと該CCDカメラ6aに接続されたモニタ6bとを含む裏面観察手段6を備えている。なお、モニタ6bと表面観察手段16に備わるモニタ16bとは共通のものであってもよい。
【0038】
好ましくは、表面観察部50Aが斜光照明光源S6を備えており、斜光照明光L6をステージ7上の被処理体10に対して照射できるようになっていてもよい。斜光照明光L6が照射される場合、表面観察手段16においては観察対象の暗視野像を得ることが出来る。被処理体10の材質や表面状態に応じて落射照明光L5と斜光照明光L6とを適宜に切り替えることによって、または、落斜照明光L5と斜光照明光L6とを同時に照射することによって、材質等によらず好適な観察像を得ることが出来る。
【0039】
また、ステージ7の下方には、同軸照明光源S3から発せられた同軸照明光L3が、図示しない鏡筒内に設けられたハーフミラー9で反射され、集光レンズ8にて集光されたうえで、ステージ7を介して被処理体10に照射されるようになっていてもよい。さらに好ましくは、ステージ7の下方に斜光照明光源S4を備えており、斜光照明光L4をステージ7を介して被処理体10に対して照射できるようになっていてもよい。これらの同軸照明光源S3や斜光照明光源S4は、例えば被処理体の表面側に不透明な金属層などがあって表面観察部50Aによる表面側からの観察が該金属層からの反射が生じて困難な場合などに、裏面観察部50Bによって被処理体10の裏面側を観察する際に好適に用いることできる。
【0040】
<ステージの詳細>
図2は、ステージ7を上面(被処理体10の載置面)側からみた状態を模式的に示す図である。なお、図2においては、後で説明する図4および図5の観察像の視野と略同一な範囲のみを示している。また、図3は、透明基板保護シート4を貼り付けた被処理体10を、透明基板保護シート4の側をステージ7の側に向けて該ステージ7上に載置した状態を示す断面模式図である。なお、図3においては、被処理体の一部に拡散層10aが形成されている場合を例示している。なお、本実施の形態において拡散層とは、被処理体10に設けられた、観察用の照明光を拡散する機能を有する物質層のことを指し示すものとする。また、図3においては、拡散層10aが被処理体10の下面に形成されているが、上面に形成されていてもよい。
【0041】
ステージ7は、上述したように、石英など透明な部材で形成されているが、その内部には、被処理体10を吸引固定するための吸気通路となる吸引用配管12が設けられてなる。吸引用配管12は、例えば、ステージ7の所定位置を機械加工により削孔することにより設けられる。
【0042】
被処理体10をステージ7の上に載置した状態で、例えば吸引ポンプなどの吸引手段11(図1)により吸引用配管12に対し吸引を行い、吸引用配管12のステージ7載置面側先端に設けられた吸引孔12aに対し負圧Fを与えることで、被処理体10(および透明基板保護シート4)がステージ7に固定されるようになっている。
【0043】
加えて、本実施の形態においては、吸引用配管12の壁面12bに、落射照明光L5や斜光照明光L6を吸収する低明度色の塗料が塗布されている。これは、上述のような態様にて設けられることで、ざらついた凹凸面となっている当該壁面12bから、表面観察部50Aの側への、落射照明光L5や斜光照明光L6の乱反射を抑制することを目的として行われているものである。すなわち、係る塗料の塗布は、照明光の乱反射を抑制する乱反射抑制処理に相当する。塗料としては、実質的に黒色のものを用いるのが最も好適であるが、係る乱反射抑制の効果が得られるのであれば、濃紺色、濃緑色、濃茶色などの塗料を用いることもできる。なお、吸引用配管12への当該塗料の塗布は、例えば吸引用配管12へ当該塗料を流し込み、その後、余分の塗料を除去することによって行える。または、ネジリブラシを吸引用配管12へ挿入して、塗料を塗布してもよい。
【0044】
また、好ましくは、ステージ7の裏面7aに、反射防止膜13が設けられていてもよい。係る反射防止膜13が設けられている場合、ステージ7の裏面7aからの表面観察部50Aの側への落射照明光L5や斜光照明光L6の乱反射が抑制される。反射防止膜13は、光学レンズなどに用いられる数層の反射防止膜のように、例えばMgF2、ZrO2、CeF2等からなる数層の反射防止膜を真空蒸着などの手法により形成することができる。
【0045】
図4および図5は、吸引用配管12への塗料の塗布およびステージ7の裏面7aへの反射防止膜13の形成の効果を説明するべく示す、種々の条件での表面観察部50Aにおける被処理体10の観察像を示す図である。図4は、被処理体10として透明性基板(ここではサファイア)を用いた場合の結果を示している。一方、図5は、係る透明性基板のステージ7への載置面側全面に、図3に例示するような拡散層10a(ここではサファイアの片面を粗研磨することによって形成した)を設けたものについての結果を場合を示している。なお、いずれの観察像も、照明光として落射照明光L5と斜光照明光L6の双方が与えられた上で得られている。
【0046】
図4(a)および図5(a)は、比較のために示す、吸引用配管12の壁面12bへの塗料の塗布と、反射防止膜13の形成のいずれもが行われていない場合の観察像である。いずれの観察像においても、ステージ7の内部に設けられている吸引用配管12が、ステージ7の他の箇所よりも高い明度で明瞭に観察される。これは、当該吸引用配管12からの照明光の乱反射によるものである。特に、図4(a)においては、透明性基板とその周囲とのコントラストが弱く、その輪郭形状が若干わかりにくいことに加えて、透明性基板の像に吸引用配管12の像が重畳しており、後者の像が明瞭に観察される。一方、図5(a)の場合、透明性基板の形状は図4(a)よりも明瞭になっているものの、やはり透明性基板の像に吸引用配管12の像が重畳していることが観察される。係る場合、観察像におけるコントラストに基づいて透明性基板の輪郭形状を正確に特定することが難しくなる。
【0047】
一方、図4(b)および図5(b)は、吸引用配管12の壁面12bへの黒色の塗料の塗布のみを施した場合の観察像である。これらの観察像においては、壁面12bからの乱反射が塗料の塗布によって抑制される一方、ステージ7の裏面7aからの反射光が存在することにより、吸引用配管12はステージ7の他の箇所よりも低い明度の(黒色の)像となっている。結果として、図4(a)および図5(a)の場合とは異なり、吸引用配管12の像は目立たなくなっている。図4(b)の場合、透明性基板の像に吸引用配管12の像が重畳していることは認められるものの、図4(a)に比べると、透明性基板の輪郭形状は明瞭なものとなっている。一方、図5(b)の場合は、透明性基板の輪郭形状が明確で、かつ、透明性基板を透過するような吸引用配管の像は認められなくなっている。すなわち、壁面12bに低明度の塗料を塗布することで、透明性基板の輪郭形状の認識が容易になることがわかる。
【0048】
さらに、図4(c)および図5(c)は、吸引用配管12への黒色の塗料の塗布に加えて、ステージ7の裏面7aへの反射防止膜13の形成をも行った場合の観察像である。これらの観察像においては、ステージ7の裏面7aからの乱反射が抑制されることで吸引用配管12の像は全く確認されなくなっており、透明性基板のみが観察されるようになっている。
【0049】
すなわち、図4および図5に示した結果からは、吸引用配管12の壁面12bに低明度色の塗料を塗布することで、当該壁面12bにおける照明光の反射が抑制されるので、観察対象が透明性基板である場合であっても、吸引用配管の像の影響を受けることなく該透明性基板の輪郭形状を精度良く特定できることがわかる。加えて、ステージ7の裏面7aに反射防止膜13を設けた場合には、透明性基板10の輪郭形状がより明確になることもわかる。そして、後者の態様は、拡散層や反射層を有していない透明性基板における輪郭形状を特定する場合に、より効果があるといえる。
【0050】
なお、図5においては拡散層10aが備わる透明性基板を対象とした結果を示しているが、これに代わり、照明光を高い反射率で反射する層が形成されている場合でも、同様の結果が得られる。また、図3に示すように、透明性基板に拡散層10aが存在する箇所と存在しない箇所とが混在する場合においては、それぞれの箇所において図4あるいは図5に示す結果が得られることになる。
【0051】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、透明であり、かつ、被処理体を吸引固定するよう構成されたステージを備える観察装置において、該ステージの吸引用配管に低明度の塗料を塗布しておくことで、被処理体が透明性基板である場合であっても、吸引用配管の像を除去するための特段の画像処理を行うことなく、透明性基板の輪郭形状を精度良く特定することができる。ステージの裏面に反射防止膜を設けた場合には、より明瞭にその輪郭形状を特定することができる。結果として、レーザー加工装置における加工精度の向上が実現される。
【0052】
<変形例>
上述の実施の形態においては、レーザー加工装置の一部が本発明の観察装置として機能する態様を前提に説明しているが、これは、必須の態様ではなく、上述の実施の形態で示したステージと、被処理体の観察に係る構成要素とを有する装置であれば、本発明の作用効果を得ることができる。
【0053】
また、上述の実施の形態においては、乱反射抑制処理としてざらついた凹凸面である吸引用配管の壁面に塗料を塗布する処理を行うことで、該壁面からの乱反射を抑え、透明性基板の輪郭形状の特定が容易になるようにしているが、係る効果を得るための態様は、これに限られるものではない。
【0054】
例えば、乱反射抑制処理として、吸引用配管の壁面を、上述のような乱反射が実質的に生じない程度の平滑性を有するようにする平滑化処理を行うようにしてもよい。係る場合、当該壁面においても透明性が確保されるので、上述のような低明度の塗料を塗布せずとも、観察像に壁面からの乱反射による像が重畳することが抑制される。
【0055】
図6は、上述の実施の形態に係るステージ7とは異なる構造のステージ14を示す図である。上述の実施の形態においては、吸引用配管12がステージ7の内部に設けられているが、これに代わり、ステージ14においては、その表面14aに複数の溝部15が設けられてなる。溝部15の底部には、複数の吸引孔15aが離散的に設けられてなる。ステージ14においては、これらの溝部15および吸引孔15aが吸気通路として機能する。係るステージ14の表面に溝部15を塞ぐ態様にて被処理体を載置した状態で、吸引手段11により吸引することで吸引孔15aを通じて溝部15に負圧が与えられ、これにより被処理体が固定される。係るステージ14の溝部15の壁面に対し、乱反射抑制処理として、上述のような低明度の塗料を塗布する処理や平滑化処理を行えば、溝部15からの乱反射が抑制され、透明性基板の輪郭形状の特定が容易になるという効果が得られる。なお、図6においては断面視角形の溝部15を例示しているが、これに代わり、断面視V字型あるいは丸形の溝部を有する場合であっても、同様の効果を得ることができる。あるいはさらに、溝部を図6のように、ステージ7の表面と並行な底面と、ステージ7の表面に垂直な側面とからなり、前記底面と前記側面とは直角に接している3面からなる形状の溝に構成するとともに、乱反射抑制処理として、反射防止膜を前記底面に形成する処理を施した場合も、同様の効果を得ることができる。
【0056】
上述した実施形態においては、この発明に係る観察装置による観察対象である被処理体10としては、透明なサファイア基板が好適であるが、その他に、例えば、石英、ガラス、または、透明プラスチックなど透明な材質からなる基板でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る観察装置としての機能を有するレーザー加工装置50の構成を概略的に示す模式図である。
【図2】ステージ7を上面側からみた状態を模式的に示す図である。
【図3】透明基板保護シート4を貼り付けた被処理体10を、透明基板保護シート4の側をステージ7の側に向けて該ステージ7上に載置した状態を示す断面模式図である。
【図4】種々の条件での表面観察部50Aにおける被処理体10の観察像を示す図である。
【図5】種々の条件での表面観察部50Aにおける被処理体10の観察像を示す図である。
【図6】変形例に係るステージ14を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
4 透明基板保護シート
6 裏面観察手段
7、14 ステージ
7a (ステージ7の)裏面
7m 移動機構
10 被処理体
10a 拡散層
11 吸引手段
12 吸引用配管
12a 吸引孔
12b 壁面
13 反射防止膜
15 溝部
15a 吸引孔
16 表面観察手段
50 レーザー加工装置
50A 表面観察部
50B 裏面観察部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性基板を観察するための観察装置であって、
透明部材からなるとともに、前記透明性基板を吸引固定するための吸気通路が設けられたステージと、
前記ステージの表面に載置された前記透明性基板の観察面に対して照明光を照射する照明光源と、
前記観察面の側から前記透明性基板を観察する観察手段と、
を備え、
前記吸気通路に対し、前記照明光源から照射された前記照明光の乱反射を抑制する乱反射抑制処理が施されてなる、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項2】
請求項1に記載の観察装置であって、
前記乱反射抑制処理が、前記吸気通路の壁面に前記照明光を吸収する低明度色の塗料を塗布する処理である、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の観察装置であって、
前記ステージの裏面に、反射防止膜が形成されてなる、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項4】
請求項1に記載の観察装置であって、
前記乱反射抑制処理が、前記吸気通路の壁面を平滑化する処理である、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の観察装置であって、
前記ステージの内部に、前記吸気通路としての吸引用配管が設けられてなる、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の観察装置であって、
前記ステージの表面に、前記吸気通路としての溝部が設けられてなる、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項7】
請求項1に記載の観察装置であって、
前記ステージの表面に、前記吸気通路として、前記ステージの表面と並行な底面と、前記ステージの表面に垂直な側面とからなり、前記底面と前記側面とは直角に接している3面からなる溝部を設けてなり、前記溝部の底面に反射防止膜が形成されてなる、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の観察装置であって、
前記照明光源として、
同軸照明光を照射する同軸照明光源と、
斜光照明光を照射する斜光照明光源と、
を備え、
前記同軸照明光および前記斜光照明光を前記ステージの表面に載置された前記透明性基板に対して選択的あるいは重畳的に照射可能である、
ことを特徴とする観察装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の観察装置を被加工物の観察手段として備えるレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−244549(P2009−244549A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90305(P2008−90305)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(501169763)株式会社レーザーソリューションズ (18)
【Fターム(参考)】