説明

記録装置

【課題】 加熱プロセスで生じる中間転写体の場所によって異なる温度差を減らすことで、以降の記録サイクルにおいて転写不良が発生することを抑制する。
【解決手段】 転写式インクジェット記録において冷却手段(19)は加熱手段(15)で加熱された後の中間転写体(1)の温度もしくは画像データに基づいて、中間転写体の中間画像が形成された領域内の複数箇所を個別に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写式インクジェット記録方式の記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、中間転写体にインクジェット方式で中間画像(インク画像)をいったん形成して、形成した中間画像を記録媒体に転写する転写式インクジェット記録方式の記録装置が開示されている。良好な転写のためには中間画像のインク粘度が重要であるため、中間転写体に形成された中間画像をヒータなどで加熱することでインク溶媒を蒸発させて高粘度化する。特許文献1の装置ではさらに、転写後に冷却液を塗布することで中間転写体表面を冷却するようになっている。中間画像形成、加熱、転写、冷却の一連のプロセスを1記録サイクルとして記録媒体への画像形成を繰り返すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−045885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人は、中間転写体に形成された中間画像を加熱すると、中間転写体の表面が場所によって異なる温度となる現象を見出した。そのメカニズムについて説明する。
【0005】
図1(a)は、或る中間画像内の高duty領域(中間転写体表面が密にインクに被覆されている領域)を加熱した際の様子を示す断面図である。上方よりヒータから与えられる熱W(図の太矢印)の多くは、色材を残してインク溶媒が揮発するための気化熱として奪われる。そのため、中間転写体自体がさほど加熱されずに温度上昇が緩やかである。一方、図1(b)に示すように、同じ中間画像内の低duty領域(中間転写体表面が疎にインクに被覆される領域)に熱Wを与えた際には、インク溶媒が揮発する際の気化熱が少ないので、中間転写体に図1(a)よりも多くの熱が伝わり温度上昇が著しい。このようなメカニズムによって、一つの中間画像形成領域内であっても、加熱後には、高duty領域にある中間転写体表面と低duty領域にある中間転写体表面との間に温度差が生じる。続く記録サイクルでも温度差は維持されたままとなる。
【0006】
この温度差は、特許文献1のように転写プロセス後に中間転写体を冷却したとしても、短時間には解消されない。温度差が解消されないまま次の記録サイクルに移行すると、以下に述べるようなメカニズムで「転写不良」が生じる可能性が高まる。
【0007】
場所によって温度差を持った転写プロセス後の中間転写体に対して、高duty領域にある中間転写体表面(比較的低温)が十分に冷却されるような冷却量でもって中間画像形成領域の全体を一様に冷却したとする。すると、低duty領域はより高温であるために完全に冷却されずに、部分的に冷却後も所定よりも高い温度となる。次の記録サイクルにおいて、通常よりも高い温度のとなった中間転写体の領域に着弾したインクは、ヒータで加熱される前から中間転写体の熱による溶媒成分の揮発がなされる。その後の加熱プロセスと合わせて過剰に揮発して、インクは許容範囲を超えて高粘度化する可能性がある。転写プロセスにおいて、過剰な粘性を有するインクは中間転写体の側に強く固着するために、通常の転写圧力では記録媒体にすべてが転写しきれずに、転写された画像に「画像かすれ」が生じてしまう。「転写不良」のひとつの形態が「画像かすれ」である。
【0008】
逆に、低duty領域にある中間転写体表面(比較的高温)が十分に冷却されるような冷却量でもって中間画像形成領域の全体を一様に冷却したとする。すると、高duty領域が過剰に冷却されて、部分的に冷却後も所定よりも低い温度となる。次の記録サイクルにおいて、通常よりも低い温度となった中間転写体の領域に着弾したインクは、加熱プロセスの際に低温の中間転写体に熱を奪われる。そのため、所定の加熱量ではインク溶媒の揮発が不十分となり、インクは許容範囲のインク粘度に達しない可能性がある。転写プロセスにおいて、必要な粘度を有しないインクは転写圧力によって記録媒体の上でインクが大きく広がって、転写された画像に「画像ながれ」が生じてしまう。「転写不良」のもうひとつの形態が「画像ながれ」である。
【0009】
本発明は上述の課題の認識にもとづいてなされたものである。本発明の目的は、加熱プロセスで生じる中間転写体の場所によって異なる温度差を減らすことで、以降の記録サイクルにおいて転写不良が発生することを抑制することができる、転写式インクジェット記録方式の記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中間転写体と、画像データに基づいて前記中間転写体にインクを付与して中間画像を形成する記録ヘッドと、前記中間転写体に形成された前記中間画像を加熱する加熱手段と、前記加熱手段で加熱された前記中間画像を記録媒体に転写する転写手段と、前記加熱手段で加熱された前記中間転写体を冷却する冷却手段とを有する記録装置であって、前記冷却手段は、前記加熱手段で加熱された後の前記中間転写体の温度もしくは前記画像データに基づいて、前記中間転写体の前記中間画像が形成された領域内の複数箇所を個別に冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱プロセスで生じる中間転写体の場所によって異なる温度差を個別の冷却によって減らすことで、以降の記録サイクルにおいて転写不良が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】中間転写体の表面が場所によって異なる温度となる現象を説明するための図
【図2】実施形態1及び実施形態2における記録装置の全体構造を示す断面図
【図3】制御系のブロック図
【図4】中間転写体上で中間画像が分割された様子を示す図
【図5】冷却部の冷却素子もしくは加熱部の加熱素子の配列を示す図
【図6】冷却部の別の形態を示す図
【図7】実施形態1における各プロセス直後の中間転写体の表面温度の推移を記録dutyごとに示したグラフ図
【図8】加熱量に対するインク溶媒残存割合をプロットしたグラフ図
【図9】実施形態2における各プロセス直後の中間転写体の表面温度の推移を記録dutyごとに示したグラフ図
【図10】実施形態3における記録装置の全体構造を示す断面図
【図11】実施形態3における各プロセス直後の中間転写体の表面温度の推移を記録dutyごとに示したグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
図2は、第1の実施形態の転写式インクジェット記録方式の記録装置の全体構成図である。中間転写体1は、軸13を中心として矢印方向に回転する2つのドラム状の回転体12と、2つの回転体12の周囲を取り巻いて回転する無端状の転写ベルト10とからなる。転写ベルト10は金属材料からなり、転写ベルト10の外側の表面にはインクを受容する表面層11が形成されている。
【0014】
中間転写体1の周囲には、中間画像形成、加熱、転写、冷却の一連のプロセスを1記録サイクルとして繰り返し実行するためのユニット群が配置されている。これらユニットは、記録ヘッド14(中間画像形成プロセス)、加熱部15(加熱プロセス)、転写ローラ17(転写プロセス)、冷却部19(冷却プロセス)である。記録ヘッド14は、複数の色に対応した複数のライン型インクジェットヘッドを有する。インクジェットヘッドの多数のノズルからインクを吐出させ、中間転写体1(転写ベルト10の表面層11)の上にインクを付与して中間画像(インク画像)を形成する。加熱部15は赤外線や遠赤外線などの熱線を含む電磁波を発生するヒータを有し、表面層11に対して熱線を直接照射するもしくは温風として吹き付けて加熱するものである。中間転写体1に形成された中間画像のインク溶媒を加熱によって蒸発させて高粘度化させる。転写ローラ17は、中間転写体1の上の高粘度化したインクを記録媒体16に押し付けて圧力をかけることで記録媒体16に画像を転写する。冷却部19は、1記録サイクルの時間を短縮化するために転写プロセス後の中間転写体を短時間に冷却して初期温度に戻すために設けられている。後述するように、冷却部19は独立して冷却能力を制御することができる複数の冷却素子を有し、冷却する領域を複数に分割して個別に冷却することが可能となっている。
【0015】
図3は本実施形態の記録装置の制御システムのブロック図である。コントローラである制御部100は、CPU、ROM、RAM、カウンタより構成される。ROMは、CPUが実行する制御プログラムを格納する。RAMは、画像データ等を一時的に置くためのワーキングエリアと外部機器120から入力された各種データを格納するバッファエリアからなる。カウンタは、回転体12を動かすモータの駆動パルス数をカウントする。制御部100にはインターフェース101を介して、モータドライバ102、加熱部ドライバ104、ヘッドドライバ105、冷却部ドライバ106が接続されている。モータドライバ102によって回転体12を回転させるためのモータ103が駆動される。加熱部ドライバ104を介して加熱部15の加熱状態が制御される。ヘッドドライバ105によって記録ヘッド14のインク吐出ノズルが駆動される。冷却部ドライバ106によって冷却部18、19が制御される。
【0016】
以上の装置構成における画像転写動作をプロセスの順に説明する。
【0017】
中間転写体1を図1の矢印の方向に回転させながら、画像データに応じて記録ヘッド14からインクを吐出させて転写ベルト10の表面層11の上に中間画像を形成していく(中間画像形成プロセス)。画像データは外部機器120から供給され、記録すべき画像に対応したデジタルデータである。
【0018】
図4(a)において、ドット領域110aは中間転写体1上に形成された中間画像の一例を示す。点の密度は画像の記録dutyの大小を表現している。ここで、「記録duty」とは、1回の走査で可能な最大の吐出回数に対する実際の吐出回数の割合をいう。たとえば、1ドットが1回の吐出によって形成される場合には、1回の走査領域で記録可能な画素数に対する実際に形成されるドット数の割合が記録dutyに相当する。制御部100では画像データから演算によって画像内の領域に対応した記録dutyに関する情報を取得することができる。この例では、ドット領域110aには密度の異なる3種類の領域が含まれている。記録dutyが90%の画像領域(A)、記録dutyが70%の画像領域(B)、記録dutyが20%の画像領域(C)の3種類である。ここでは理解を容易にするために3種類としているが、実際の画像はさらに多くの記録dutyから成り立っている場合が多い。
最初の中間画像形成プロセスの前後では、中間転写体の表面温度はおよそ環境温度(初期温度)に等しい。図7は各プロセス直後に中間転写体の表面温度の推移を、記録dutyごとにプロットして示したグラフ図である。本例では中間画像形成プロセス前後の温度は、記録dutyが90%の画像領域は25°C、記録dutyが70%の画像領域は25°C、記録dutyが20%の画像領域は25°Cとなっている。
【0019】
中間画像形成プロセスによって中間転写体1上に形成された中間画像は、加熱部15によって加熱し、インク溶媒を蒸発させて高粘度化する(加熱プロセス)。加熱部15は、たとえば、120°C、風速5m/sの温風を表面層11に一様に吹き付ける。
【0020】
次いで、転写部において、転写ローラ17と回転体12との間に転写ベルト10と記録媒体16とが挟持され、転写ローラ17が適度な挟持圧力をかけながら回転する。これにより、加熱プロセスによって適度に高粘度化した中間画像が記録媒体16に転写される(転写プロセス)。
【0021】
本明細書では転写前に中間画像が形成されていた中間転写体上の領域を「中間画像転写後の領域」という。先に説明したメカニズムにより、加熱後には、中間画像転写後の領域は、画像の記録dutyに応じて非一様の温度分布を持ち、場所によって温度差を生じている。本例では加熱プロセス後の温度は、図7に示すように、記録dutyが90%の分割領域は47°C、記録dutyが70%の分割領域は52°C、記録dutyが20%の分割領域は65°Cとなっている。制御部100の制御により、図4(b)に示すように中間画像転写後の領域を所定の大きさで複数箇所に分割して各分割領域の平均温度を取得する。たとえば、一画像の領域をn×m個のブロック単位に分割して、ブロック単位ごとで温度情報を取得する。温度情報の取得のため、温度センサ21を転写ローラ17の下流側に設け、それによって直接各分割領域の平均温度を取得する。温度センサ21は二次元の温度分布を検出するサーモグラフィ、狭い範囲のスポット温度を検出する温度センサを複数まとめたものなどが使用可能である。本例では転写プロセス後の温度は、図7に示すように、記録dutyが90%の分割領域は42°C、記録dutyが70%の分割領域は48°C、記録dutyが20%の分割領域は60°Cとなっている。
【0022】
次いで、冷却部19にて中間画像転写後の領域を所望の温度となるように冷却する(冷却プロセス)。この冷却プロセスは本実施形態におけるポイントの一つであるため、以下詳細に説明する。
冷却部19は、図5に示すように、搬送方向に垂直な方向(Y方向)に沿って複数の冷却素子が一列に設けられ、Y方向に関して対向する中間画像転写後の領域の各分割領域に対して1つまたは複数の冷却素子が対応する。冷却素子の配列は一列に限らず、二次元状のマトリクス配列としてもよい。各々の冷却素子は冷却用の流体(ガスもしくは液体)を噴き出して中間転写体の表面に吹き付けるノズルを有し、ノズルから噴き出す流体の流量および/または流体温度を変化させることで冷却能力を可変制御することができる。あるいは、冷却部19は、図6に示すように大きな熱容量を有する冷却ブロック部材として、図6(a)のように冷却ブロック部材を中間転写体1の表面に物理的に接触させるようなものであってもよい。冷却ブロック部材の下面には図6(b)のように接触面を備えた複数の接触体である冷却素子20が二次元のマトリクス配列で設けられている。各冷却素子20に対応してペルチェ素子や冷却媒体が流れる流路などの冷却機構が内蔵され、個別に冷却量(冷却素子の接触面の表面温度)を制御することができるようになっている。
【0023】
制御部100は、温度センサ21で検出した温度情報に基づいて、Y方向に分割された中間画像転写後の領域の各々が冷却部19の冷却素子の直下を通過するタイミングに同期して適切な冷却量となるように各々の冷却素子の能力を制御する。制御部100は、中間転写体表面の温度が高い箇所ほど冷却量が大きくなるように、各々の冷却素子の冷却量(ノズルから吹き出す風量および/または冷却ガスの温度)を制御する。たとえば、図5のように1列目であるX1の列が冷却部19を通過する瞬間は、3つの領域の温度の大小関係は、領域(C)>領域(B)>領域(A)であるので、対応する冷却素子による冷却量の大小関係も、領域(C)>領域(B)>領域(A)となる。X方向において、中間転写体の移動に伴って冷却素子に対向する分割領域は列X1から順にX2・・・Xmへと移行していく。制御部100は、中間転写体の移動に同期して各々の冷却素子の冷却量を変化させるよう制御することで、X方向においても各分割領域は個別に冷却される。
【0024】
こうして、加熱部で加熱された後の中間転写体の温度に基づいて、中間画像転写後の領域内の複数箇所が個別に冷却される。冷却プロセスの結果として、中間転写体表面は少なくとも中間画像転写後の領域内は概ね均一に近い温度分布となる。そのときの平均温度は、次の記録サイクルにおいて中間転写体自体の温度がインク溶媒の蒸発を促進しない程度の温度、たとえば環境温度(初期温度)となるように冷却する。本例では冷却プロセス後の温度は、図7に示すように、記録dutyが90%の領域は25°C、記録dutyが70%の領域は25°C、記録dutyが20%の領域は25°Cとなっている。
【0025】
なお、温度センサ21によって温度情報を取得する代わりに、中間画像の画像データに基づいて中間転写体の中間画像転写後の領域内の複数箇所を個別に冷却するようにしてもよい。制御部100では、画像データから演算によって画像内の分割された領域ごとの平均の記録dutyに関する情報を取得することができる。記録dutyと必要な冷却量とを対応付けたデータテーブルを予め経験的に求めて、制御部100のメモリにデータテーブルの形態で記憶しておく。制御部100は、画像データを解析して、分割された領域ごとの平均の記録dutyに関する情報を求める。そして、求めた記録dutyに適した冷却量を、データテーブルを参照して取得する。すなわち、複数箇所の各々に対応する記録dutyに関する情報を画像データから取得し、記録dutyが相対的に低い箇所の冷却量が記録dutyが相対的に高い箇所の冷却量よりも大きくなるよう、各々の冷却素子を制御する。これにより、中間転写体表面は中間画像転写後の領域内は概ね均一に近い温度分布となる。
【0026】
以上の実施形態1によれば、加熱プロセスで生じる中間転写体の場所によって異なる温度差を個別の冷却によって減らすことで、以降の記録サイクルにおいて転写不良が発生することを抑制することができる。
【0027】
<実施形態2>
本発明の第2の実施形態について説明する。実施形態1との相違は加熱部15であり、それ以外の記録装置の全体構成は図2と同様である。実施形態2では、加熱プロセスにおいて先の実施形態1のように中間画像を一様に加熱するのではなく、画像内を複数の領域に分割して分割された領域ごとに個別に加熱量を制御するものである。
【0028】
画像内を分割した各領域の平均の記録dutyに応じて、加熱プロセス後に「適度なインク粘度」にするための必要な加熱量は異なる。「適度なインク粘度」とは、先に説明した、記録媒体に転写された画像に「画像かすれ」や「画像ながれ」などの「転写不良」が生じないための、転写プロセス前のインク粘度を意味する。
【0029】
図8に示すグラフは、中間画像の加熱量に対するインク溶媒の残存割合(%)を、インク調整時に含有される溶媒量を基準(100%)としてプロットしたものである。90%記録duty領域(A)と20%記録duty領域(C)についてそれぞれグラフにしている。加熱プロセスの最中にインク溶媒は徐々に蒸発していく。最終的に残存割合(%)が所定の範囲内となったら「適度なインク粘度」となる。本例では、「適度なインク粘度」はインク溶媒の残存量16%〜8%の範囲である。グラフから判るように、「適度なインク粘度」を得るのに要する加熱量は、(A)と(C)で異なる。つまり、中間画像を均一に加熱した場合、(C)では加熱量E〜Eの範囲内で「適度なインク粘度」となるのに対して、(A)ではE〜Eの範囲内で「適度なインク粘度」となる。このように、記録dutyに応じて「適度なインク粘度」となるための加熱量が異なる。
【0030】
先の実施形態1のように、加熱部が画像内を一様に均一加熱する際には、最小記録duty領域と最大記録duty領域がともに「適度なインク粘度」となる加熱量を設定する。図8(a)の例では、加熱量E〜Eの間の加熱量Eを与えることで、画像内がすべて「適度なインク粘度」となる。ただし、最大記録duty領域と最小記録duty領域とは「適度なインク粘度」の許容範囲以内ではあるものの、インク粘度が異なる。つまり、最大記録duty領域は上側の転写不良領域(十分な粘性を有さないインク粘度)に近いインク粘度(点i)となり、逆に最小記録duty領域は下側の転写不良領域(粘性過剰)に近いインク粘度(点ii)となる。そのため、写真画像などの高い諧調性を有する画像を記録する場合には、記録品質の向上の妨げになる可能性がある。
【0031】
これに対して実施形態2では、図8(b)のように、「適度なインク粘度」許容範囲の中でも最も品質の高い転写が可能となるインク粘度(加熱後のインク溶媒の残存割合(%)(Z%))を定める。そして、中間画像を一様に加熱するのではなく、画像内のすべての領域において加熱後の残存インク溶媒がZ%近傍になるように、各々の領域への加熱量を個別に制御する。図8(b)の例では、インク溶媒の残存割合がZ%となる(A)と(C)はそれぞれ加熱量EとEiiである。
【0032】
加熱部15は、このようにして求まる記録dutyに応じて異なる加熱量を各加熱素子で与える。具体的には、記録dutyと必要な加熱量とを対応付けたデータテーブルを予め経験的に求めて、制御部100のメモリにデータテーブルの形態で記憶しておく。制御部100は、画像データを解析して、分割された領域ごとの平均の記録dutyを求める。そして、求めた記録dutyに適した加熱量を、データテーブルを参照して取得する。取得した加熱量となるように各々の加熱素子を駆動するよう制御すれば、中間画像は「適度なインク粘度」の中でも最も好ましいインク粘度でほぼ均一に近い分布となる。加熱後の中間転写体の表面温度分布については、実施形態1とは異なるものの、やはり場所に応じて異なる温度を持った非均一な分布となる。
【0033】
加熱部15は、図5の冷却素子の列と同様の配列で、加熱素子が1列または二次元状のマトリクス配列で設けられたものである。各々の加熱素子はヒータを内蔵し個別に発熱量を制御することができる。制御部100は、中間画像が加熱部15の直下を通過する際に、図5もしくは図6と同様にして、中間転写体のX方向への移動に同期して各加熱素子による加熱量を変化させるよう各加熱素子を駆動することで、分割された領域ごとに適切な加熱量を与えるようにする。
【0034】
図9は各プロセス直後に中間転写体の表面温度の推移を、記録dutyごとにプロットして示したグラフ図である。中間画像形成プロセス前後の温度は、実施形態1と同様、記録dutyによらず一律に25°Cである。これに対して加熱プロセス後は、記録dutyが90%の画像領域は69°C、記録dutyが70%の画像領域は58°C、記録dutyが20%の画像領域は42°Cとなっている。このように本例では、中間画像を一様に加熱する場合(実施形態1)に比較して、高duty領域と低duty領域の温度の大小関係が逆転するが、温度差を生じることに変わりはない。したがって、この温度差を冷却プロセスにおいて解消する必要がある。
【0035】
この後、転写プロセス、冷却プロセスの順に処理する。冷却プロセスにおいては、上述した実施形態1と同様に分割された領域ごとに適切な冷却量を与えることで、中間転写体表面は中間画像転写後の領域内は概ね均一に近い温度分布となる。冷却部19は加熱部15で加熱された後の中間転写体の温度もしくは画像データに基づいて、中間転写体の中間画像が形成された領域内の複数箇所を個別に冷却する。本例では冷却プロセス後の温度は、図7に示すように、記録dutyが90%の領域は25°C、記録dutyが70%の領域は25°C、記録dutyが20%の領域は25°Cとなっている。
【0036】
以上のように実施形態2は、画像データに基づいて中間画像が形成されている領域内の複数箇所を個別に加熱するものである。そして、その後の冷却プロセスでは、加熱プロセスで生じる中間転写体の場所によって異なる温度差を減らするように個別に冷却するものである。これにより実施形態1の作用効果に加えてさらに以下の作用効果を得ることができる。すなわち、分割された複数箇所を個別に加熱することで、図8(b)のように、記録dutyによらず加熱後のインク溶媒残存量がZ%付近に一様化される。つまり、「適度なインク粘度」の中でも最も好ましいインク粘度で一律化されるので、写真画像などの高い諧調性を有する画像の記録品質が実施形態1に比べてより向上する。加えて、エネルギ消費の観点からも、低duty領域に対する加熱量が減る分だけ全体のエネルギも減少するため、実施形態1に比べてよりエネルギ消費が少ないという利点がある。
【0037】
<実施形態3>
図10は本実施形態3の転写式インクジェット記録方式の記録装置の全体構成図である。
実施形態1との相違は転写後の冷却プロセスであり、それ以外は同様である。転写ローラ17の下流で且つ冷却部19の上流には予備冷却部18が設けられている。予備冷却部18は2つの回転体18aと冷却ベルト18bとを有している。冷却ベルト18bは転写ベルト10に面接触して、中間転写体1の転写ベルト10の回転に従動して冷却ベルト18bも回転することで、転写ベルト10を一様に冷却する。このように、冷却手段は中間転写体を一様に冷却する冷却部18と分割して個別に冷却する冷却部19の2つを備えている。
中間画像形成プロセス、加熱プロセス、転写プロセスまでは実施形態1と同様である。
【0038】
その後、予備冷却部18によって中間転写体表面を一様に冷却する。予備冷却部18は、加熱プロセスでの温度上昇が最小の箇所(記録duty90%)が環境温度(初期温度)の近傍までに低下するような冷却量とする。冷却ベルト18bの表面温度は、冷却ベルト18b、転写ベルト10および表面層11の熱伝導率、接触面の熱抵抗などを考慮して設定する。
【0039】
図11は各プロセス直後に中間転写体の表面温度の推移を、記録dutyにごとにプロットして示したグラフ図である。中間画像形成プロセス前後の温度、加熱プロセス後の温度、転写プロセス後の温度は、実施形態1と同様である。この後、予備冷却手段18で一一様に冷却された直後の温度は、記録dutyが90%の領域は25°C、記録dutyが70%の領域は30°C、記録dutyが20%の領域は42.5°Cである。この段階では、記録dutyに応じて中間転写体の温度には温度差が残っている。
【0040】
続く、冷却部19での冷却プロセスは、実施形態1と同様、分割された領域ごとに個別に冷却する。この結果、中間画像転写後の領域はほぼ均一の温度(25°C)に戻る。
【0041】
以上の実施形態3によれば、実施形態1の作用効果に加えてさらに以下の作用効果を得ることができる。すなわち、予備冷却部18(第1冷却部)によって中間転写体を一様に冷却するプロセスを付加することで、冷却部19(第2冷却部)ではわずかな温度差を解消すれば済むため、冷却部19が備える個別の冷却素子の負荷を軽減することができる。
【0042】
なお、先の実施形態2の構成に実施形態3のような予備冷却部18を付加するようにしてもよい。この場合は、分割加熱、転写、予備冷却、分割冷却の順に処理されることになる。
【符号の説明】
【0043】
1 中間転写体
12 回転体
14 記録ヘッド
15 加熱部(加熱手段に対応)
16 記録媒体
17 転写ローラ(転写手段に対応)
18 予備冷却部
19 冷却部(冷却手段に対応)
100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間転写体と、
画像データに基づいて前記中間転写体にインクを付与して中間画像を形成する記録ヘッドと、
前記中間転写体に形成された前記中間画像を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段で加熱された前記中間画像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記加熱手段で加熱された前記中間転写体を冷却する冷却手段と、
を有する記録装置であって、
前記冷却手段は、前記加熱手段で加熱された後の前記中間転写体の温度もしくは前記画像データに基づいて、前記中間転写体の前記中間画像が形成された領域内の複数箇所を個別に冷却することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記加熱手段で加熱された後の前記複数箇所の間の温度差が小さくなるように、前記画像データの中の前記複数箇所の各々に対応するデータに基づいて前記複数箇所を個別に冷却することを特徴とする、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記複数箇所の各々に対応する記録dutyに関する情報を前記画像データから取得し、前記記録dutyが相対的に低い箇所の冷却量が前記記録dutyが相対的に高い箇所の冷却量よりも大きくなるように冷却することを特徴とする、請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記加熱手段で加熱された後の前記中間転写体の温度に関する情報を取得する取得手段を有し、前記冷却手段は、前記加熱手段で加熱された後の前記複数箇所の間の温度差が小さくなるように、前記取得手段で取得された温度に関する情報に基づいて前記複数箇所を個別に冷却することを特徴とする、請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記冷却手段は、前記複数箇所の各々に対応する前記温度に関する情報に基づいて、前記温度が高い箇所の冷却量が前記温度が低い箇所の冷却量よりも大きくなるように冷却することを特徴とする、請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記取得手段は前記中間転写体の表面の温度を検出する温度センサを有することを特徴とする、請求項4または5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記冷却手段は個別に制御することが可能な複数の冷却素子を有し、各々の冷却素子はノズルから前記中間転写体の表面に流体を吹き付ける、もしくは前記中間転写体の表面に接触面を接触させることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記加熱手段は、前記画像データに基づいて、前記中間画像が形成された領域内の複数箇所を個別に加熱することを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、前記複数箇所の各々に対応する記録dutyに関する情報を前記画像データから取得し、前記記録dutyが相対的に高い箇所の加熱量が前記記録dutyが相対的に低い箇所の加熱量よりも大きくなるように加熱することを特徴とする、請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
前記加熱手段は個別に制御することが可能な複数の加熱素子を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の記録装置。
【請求項11】
前記冷却手段は、前記転写手段による転写の後に、前記中間転写体の前記中間画像が形成された領域を一様に冷却する第1冷却部と、前記第1冷却部での冷却の後に前記温度もしくは前記画像データに基づいて前記複数箇所を個別に冷却する第2冷却部を有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−91342(P2012−91342A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238685(P2010−238685)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】