説明

誘導加熱装置

【課題】チャンバ外部に配置した磁極の加熱防止を実現しつつ、被誘導加熱部材を効率良く加熱することのできる誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】プロセス室を構成するチャンバ12と、チャンバ12の外周であってチャンバ12を構成するハウジング26に設けられた開口部42を遮蔽する磁気透過性遮蔽板46に近接配置された磁極32,34と、磁極32,34に巻回された誘導加熱コイル36,38とを有する誘導加熱装置10において、磁気透過性遮蔽板46と磁極32,34との間に、磁気透過性遮蔽板46よりも熱伝導率の高い冷却板48と、冷却板48を冷却するための冷媒を挿通可能な冷却管50とを設け、冷却板48を磁気透過性遮蔽板46に密接させると共に冷却板48の少なくとも一部に冷却管50を密接させ、冷却板48と磁極32,34との間には空隙を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に係り、特に大径の半導体基板を熱処理する場合に、被加熱物の温度制御を行う際に好適な誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大径な半導体基板をバッチ処理する際、基板表面に金属膜等が形成されていた場合であっても、当該金属膜が直接加熱されることにより、基板面内の温度分布にバラツキが生ずることを抑制することのできる誘導加熱装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている技術は、プロセス室を構成するチャンバと、磁極を構成するコアに巻回された誘導加熱コイルを備えている。このような構成の誘導加熱装置によれば、磁極を介して生ずる磁束が、チャンバ内に配置された被加熱物である半導体基板の載置方向と平行に生ずることとなる。このため、半導体基板の表面に金属膜等が形成されていた場合であっても、この金属膜と交差する方向に磁束が投入されることが無く、誘導加熱によって基板が直接加熱される虞が無い。このため、基板面内の温度分布にバラツキを生じさせることが無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−59490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているような構成の誘導加熱装置によれば、確かに、基板表面に金属膜が被覆された半導体基板等であっても、誘導加熱により金属膜が直接加熱されてしまう虞が無くなる。
【0006】
しかし、上記のような構成の誘導加熱装置では、チャンバを構成する隔壁をアルミ等の耐熱性金属で構成するため、磁極から生ずる磁束を被誘導加熱部材であるサセプタに到達させるためには、チャンバの一部に開口部を形成する必要がある。しかし、チャンバに開口部を設けた場合にはチャンバ内部を真空引きすることが出来なくなってしまう。また、チャンバを密閉するために、開口部を磁極で封止した場合には、チャンバ内にコンタミが生ずる虞がある。
【0007】
このため、チャンバに設けた開口部には通常、真空耐力、磁束透過性、耐熱性、熱膨張率が低い、熱伝導率が低い、及び熱衝撃に強いといった特性を持ち、汚染の虞が無い石英が配置されることとなった。
【0008】
特許文献1に開示されているような構成の誘導加熱装置では、磁束の到達範囲を向上させ、加熱効率を上げるためには、サセプタと磁極との間の距離を小さくする必要がある。しかし、サセプタの加熱効率を向上させるために、磁極とサセプタの距離を近接させた場合には、サセプタからの輻射熱により石英が加熱され、石英からの輻射熱で磁極が加熱されるといった割合が大きくなる。透明石英では、低波長の熱線が透過するため、直接磁極が放射加熱される虞がある。磁極には、一般的にフェライトが用いられている。一般的なフェライトコアのキューリー点温度は、約100℃から460℃程度であるため、サセプタの加熱温度が1000℃程度にまで上昇すると、段階的な輻射加熱を得て、磁極がキューリー点を超えてしまう虞がある。そして、キューリー点を超えた場合には、磁石としての残留磁束密度が0となるため、磁極として使用することができなくなってしまう。このため、コールドウォール炉を構成するために、遮蔽板である石英も冷却する必要がある。これにより、磁極以外にも、誘導加熱コイル、及び誘導加熱コイル回りの構造体も防熱することができるようになる。
【0009】
そこで本発明では、チャンバ外部に配置した磁極の加熱防止を実現しつつ、被誘導加熱部材を効率良く加熱することのできる誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る誘導加熱装置は、プロセス室を構成するチャンバと、前記チャンバの外周であって前記チャンバを構成する隔壁部材に設けられた開口部を遮蔽する磁気透過性遮蔽板に近接配置された誘導加熱コイル又は誘導加熱コイル用磁極を有する誘導加熱装置に、前記磁気透過性遮蔽板を冷却するために前記磁気透過性遮蔽板に密接または近接させた冷却板を備えたことを特徴とする。この冷却板は、磁気透過性、熱線遮断性(高放射率)を備え、高熱伝導率である必要がある。
【0011】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、前記冷却板は、セラミックにより構成すると良い。このような構成とすることで、冷却板がサセプタからの輻射熱を遮断することが可能となるからである。
【0012】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、前記冷却板と前記磁極との間に空隙を設けるようにすると良い。このような構成とすることで、冷却板を介して伝達される磁気透過性遮蔽板の熱が、熱伝達により直接磁極に伝達されることが無くなり、磁極の加熱防止(温度上昇抑制)効果を高めることができる。
【0013】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、前記冷却板を冷却する冷媒を挿通させる冷却管を備えるようにすると良い。このような構成とすることで、冷却板を冷媒により恒常的に冷却することが可能となり、安定した冷却効果を発揮することが可能となるからである。
【0014】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、極性の異なる一対の誘導加熱コイル又は誘導加熱コイル用磁極を備え、前記冷却管は、前記一対の誘導加熱コイル又は誘導加熱コイル用磁極の双方を囲むように配置されるようにすると良い。このような構成とすることで、冷却管(金属製)に投入される磁束によって生ずる誘起電流(渦電流)が相殺、または一部相殺され、冷却管自体の加熱による冷却効果の低減を防ぐことができる。なお、前記一対の誘導加熱コイル又は前記誘導加熱コイル用磁極が複数集まり、集合体を構成している場合には、前記冷却管は、前記集合体全体に亙る誘導加熱コイル又は前記誘導加熱コイル用磁極を囲むように配置されると良い。
【0015】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、前記磁気透過性遮蔽板を石英により構成すると良い。石英は、真空耐力、磁束透過性、耐熱性、低熱膨張性、低熱伝導性、および耐熱衝撃性を有するからである。
【0016】
さらに、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、前記誘導加熱コイルは、冷媒を挿通可能な管状部材と複数の線条材から成る縒り線とから成り、前記磁極の先端側に前記管状部材を配置し、前記管状部材の後ろ側に前記縒り線を配置する構成とすると良い。このような構成とすることにより、磁極先端の加熱防止効果を高めることができるからである。
【発明の効果】
【0017】
上記のような特徴を有する誘導加熱装置によれば、チャンバ外部に配置した磁極の加熱防止を実現しつつ、被誘導加熱部材を効率良く加熱することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る誘導加熱装置の構成を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A断面の構成を示す図である。
【図3】2つの磁極の角度と開口部の関係を示す平面図である。
【図4】ハウジングに設けた開口部の正面形態を示す図である。
【図5】開口部に設けられた磁気透過性遮蔽部材と冷却板の組付け形態の詳細を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る誘導加熱装置におけるハウジングに設けられた開口部の形態を説明するための平面図である。
【図7】第2の実施形態に係る誘導加熱装置におけるハウジングに設けられた開口部の正面形態を示す図である。
【図8】第1の実施形態に係る誘導加熱装置における冷却管の配置形態の例を示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る誘導加熱装置における冷却管の配置形態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の誘導加熱装置に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、図1、図2を参照して、第1の実施形態に係る誘導加熱装置の概要構成について説明する。なお、図1は誘導加熱装置の平面構成を示す部分断面ブロック図であり、図2は図1におけるA−A断面を示すブロック図である。
【0020】
本実施形態に係る誘導加熱装置10は、被加熱物としてのウエハ60と被誘導加熱部材(発熱体)としてのサセプタ16を多段に重ねて熱処理を行うバッチ式のものとする。
誘導加熱装置10は、チャンバ12と、チャンバ12の外部に配置された励磁部28、および電源部40を基本として構成される。
【0021】
チャンバ12は、ボート14と回転テーブル18、およびハウジング26を基本として構成されるプロセス室である。ボート14は、被加熱物であるウエハ60を載置するサセプタ16を複数、垂直方向に積層配置することで構成される。
各サセプタ16間には、図示しない支持部材が配置され、ウエハ60を配置するための所定の間隔を保つように構成される。図示しない支持部材は、磁束の影響を受けることが無く、耐熱性が高く、かつ熱膨張率の小さい部材により構成すると良く、具体的には石英などを用いて構成すると良い。
サセプタ16は、導電性部材で構成されれば良く、例えばグラファイト、SiC、SiCコートグラファイト、および耐熱金属等により構成すれば良い。
【0022】
回転テーブル18は、テーブル20と回転軸22、およびベース24を基本として構成される。テーブル20は、積層配置された複数のサセプタ16から成るボート14を支持するための台であり、図示しない支持部が設けられる。回転軸22は、テーブル20の回転中心に固定された軸であり、図示しない駆動源からの駆動力を受けて回転することで、テーブル20を回転させ、テーブル20に載置された複数のサセプタ16を回転させる。ベース24は、回転軸22を回転させるためのモータ等の駆動源を有する土台であり、テーブル20の安定状態を確保する。回転テーブル18によりボート14を回転させることにより、加熱源である励磁部28を誘導加熱装置10に対して偏らせて配置した場合であっても、サセプタ16の均一加熱が可能となる。また、励磁部28を偏らせて配置することによれば、誘導加熱装置10をボート14(チャンバ12)の外周に均等配置する場合に比べ、装置の小型化を図ることが可能となる。
【0023】
ハウジング26は、チャンバ12内部を真空に保つための隔壁である。実施形態におけるハウジング26は、平面形態を多角形(図1に示す例では六角形)とすることで、形状形成の容易化を図ることができる。ハウジング26の構成部材は、プロセス的な側面から、アルミニウムまたはステンレスが用いられる。ここで、アルミニウムは形状形成や、形状形成のための溶接面に不利があり、ステンレスに比べて耐熱性も低い。このため、ハウジング26の構成部材としては、ステンレスが用いられることが多い。ハウジング26の少なくとも一部には、図3から図5に示すように、開口部42が設けられ、開口部42には、磁気透過性遮蔽板46と、磁気透過性の冷却板48が密接または近接するように積層配置されている。磁気透過性遮蔽板46は、チャンバ12の内部領域と外部領域とを隔離するための部材であり、真空耐力、磁束透過性、耐熱性、低熱膨張性、低熱伝導性、および耐熱衝撃性を有する部材とすると良く、例えば石英などを挙げることができる。一方、冷却板48は、詳細を後述する冷却管50から伝達される冷媒の温度を伝導させることで磁気透過性遮蔽板46を冷却し、磁気透過性遮蔽板46の加熱に伴う磁極32(32a〜32c),34(34a〜34c)の過加熱を防止する役割を担う。冷却板48の構成部材としては、例えば窒化アルミやSiC、アルミナなどのセラミック部材を挙げることができる。
【0024】
実施形態に係るハウジング26では、平面形状六角形の体を成す2辺に開口部42が設けられている。
実施形態に係る磁気透過性遮蔽板46は、アルミニウム等により構成されたハウジング26の開口部42の外縁に設けられた段差部26bに押圧保持される。磁気透過性遮蔽板46の外側(磁気透過性遮蔽板46と磁極32,34との間)には、冷却板48が密接配置され、冷却板48の外縁部には、冷媒を挿通可能な冷却管50が密接配置される。このような配置構成とすることで、冷却管50に挿通された冷媒と冷却板48との間で熱交換が行われて冷却板48が冷却される。冷却板48は磁気透過性遮蔽板46に比べて熱伝導率が高いため、磁気透過性遮蔽板46と冷却板48との間での熱交換(熱伝達)が成される前あるいは熱交換が成されている最中に冷却板48全体が冷却されることとなる。その後、冷却された冷却板48と磁気透過性遮蔽板46との間での熱交換が成され、磁気透過性遮蔽板46が冷却される。これにより輻射熱の影響により磁極が過加熱されることを避けることができる。
【0025】
このような開口部42に対して磁気透過性遮蔽板46は、図5に示すように、Oリング52を介して段差部26bに押し付けられる。そして、冷却板48と冷却管50が配置される。このような構成とすることで、チャンバ12の内部領域と外部領域とを隔離することができ、チャンバ12内を真空引きすることが可能となる。
【0026】
励磁部28は、コア30(30a〜30c)と、誘導加熱コイル36(36a〜36c),38(38a〜38c)とより成る。コア30は、鍬型に形成された鉄芯である。コア30は、その両端に、詳細を後述する誘導加熱コイル36,38を巻回させることで構成される磁極32(32a〜32c),34(34a〜34c)を有すると共に、両磁極間を接続するヨーク35(35a〜35c)を有する。磁極32,34の端面は、円形サセプタ16の接線と平行、すなわちサセプタ16の半径方向延長線に対して直交する面を備えるように構成する。このような構成とすることで、磁極32,34の端面近くに誘導加熱コイル36,38を巻回させることができ、磁極先端以外からの磁束の漏洩を抑制することができる。よって、サセプタ16へ投入される磁束に無駄が無く、加熱効率を向上させることができる。コア30は、フェライトなどにより構成すると良い。このような構成によれば、粘土状の原料を形状形成した上で焼成することで所望形状の磁極32,34、およびヨーク35を得ることができる。このため、形状形成を自由に行うことが可能となる。
【0027】
誘導加熱コイル36,38は、磁極32,34を構成するコア30の両端部に巻回される導電線である。誘導加熱コイル36,38に電流を投入することで、コイルの巻回方向と交差する方向に位置する磁極先端から磁束が生ずることとなる。本実施形態では、磁極端面(磁極先端)がサセプタ16におけるウエハ載置面と直交する方向を向いているため、磁極端面からは、サセプタ16のウエハ載置面に平行な方向に交流磁束が発生することとなる。実施形態に係る誘導加熱コイル36,38は、冷媒を挿通可能な管状部材(例えば、冷媒として水を使用する場合には銅管など)により誘導加熱コイル36,38が過加熱されることを防止する構造としているが、管状部材と、複数の線条材を縒り合わせて構成されるリッツ線とを組み合わせることにより構成するようにしても良い。管状部材とリッツ線とを組み合わせて誘導加熱コイル36,38を構成する場合の具体的な構成は、磁極先端部や、磁極先端に近い部分には管状部材を用い、それよりも後端側にはリッツ線を用いるという構成である。
【0028】
サセプタ16のウエハ載置面に対して水平な方向に磁束を生じさせる加熱方法では、誘導加熱コイル36,38へ投入される電流の周波数は数十kHzである。管状部材に銅を使用した場合、肉厚を1mm程度とする銅管は誘導加熱されることとなり、サセプタ16の加熱効率が低下すると共に、電力損失が大きくなってしまう。一方、0.18φ程度の素線(線条材)を使用しているリッツ線であれば、磁束は透過することが考えられるが、磁極32,34の先端部分には鎖交磁束が多いため、誘導加熱されてしまう。冷却作用を持たないリッツ線は、誘導加熱によって発熱した場合には温度上昇し、使用温度限界を超えてしまうことがある。このため、磁極先端側に冷却作用を有する管状部材、後端側にリッツ線を配置することで、電力損失を抑制し、かつコイルの過加熱も防止することが可能となる。また、このような構成とすることにより、管状部材の冷却効果により、磁極先端の加熱防止効果を高めることができるからである。
【0029】
励磁部28は、上記のような構成のコア30と誘導加熱コイル36,38を、サセプタ16の積層方向に沿って複数(図2に示す例では3つ)配置することで構成されている。
また、上記のような励磁部28において、実施形態のコア30は、図3に示すように、サセプタ16の中心点Oから各磁極端面の中心に向けて伸ばした線の成す角θが所定の角度(ハウジング26の成す角に依存)となるように構成されている。磁極32,34間に角度付けをした上で、一方の磁極32と他方の磁極34の極性を逆にすることで、発生磁束が磁極32,34間を行き来することとなる。これにより、単一の磁極32(34)によって生ずる磁束よりもサセプタ16の中心側を通る磁束を生じさせることが可能となる。
【0030】
電源部40には、コア30単位で、各コア30の磁極32,34に巻回された誘導加熱コイル36,38に対応したインバータ(不図示)と、図示しない交流電源、および図示しない電力制御部等が設けられており、各コア30に設けられた誘導加熱コイル36,38単位で、供給する電流や電圧、および周波数等を調整することができるように構成されている。実施形態に係る誘導加熱装置10では、単一のコア30に巻回された誘導加熱コイル36,38(例えば磁極32aに巻回される誘導加熱コイル36aと磁極34aに巻回される誘導加熱コイル38a)は回路上並列あるいは直列な関係として巻回方向を同一とした上で、電流の投入方向を逆にする。これにより、各コア30における2つの磁極(例えば磁極32aと磁極34a)の極性を逆向きとすることができる。ここでインバータとして共振型のものを採用する場合には、周波数の切り替えを簡易に行うことができるように、各制御周波数に合わせた共振コンデンサを並列接続し、これを電力制御部からの信号に応じて切り替えることができるように構成することが望ましい。
【0031】
実施形態に係る電力制御部は、図示しないゾーンコントロール手段を有する。ゾーンコントロール手段は、隣接配置されたコア30に巻回された誘導加熱コイル36,38間に生ずる相互誘導の影響を回避しつつ、各誘導加熱コイル36,38に対する投入電力の制御を行う役割を担う。
【0032】
上記のように近接して積層配置されるコア30に巻回された誘導加熱コイル36,38は、各々が個別の誘導加熱コイルとして稼動されるため、上下に隣接する誘導加熱コイル間(例えば誘導加熱コイル38aと誘導加熱コイル38b)において相互誘導が生じ、個別の電力制御に悪影響を与える事がある。このためゾーンコントロール手段は、検出された電流の周波数や波形(電流波形)に基づいて、隣接配置された誘導加熱コイルに投入する電流の周波数を一致させ、かつ電流波形の位相を同期(位相差を0または位相差を0に近似させる事)、あるいは所定の位相差を保つように制御することで、隣接配置した誘導加熱コイル間における相互誘導の影響を回避した電力制御(ゾーンコントロール制御)を可能としている。
【0033】
このような制御は、各誘導加熱コイル36,38に投入されている電流値や電流の周波数、および電圧値等を検出し、これをゾーンコントロール手段に入力する。ゾーンコントロール手段では、例えばコア30aに巻回された誘導加熱コイル36a,38aとコア30bに巻回された誘導加熱コイル36b,38b間の電流波形の位相をそれぞれ検出し、これを同期、あるいは所定の位相差を保つように制御する。このような制御は、電力制御部に対して各誘導加熱コイルに投入する電流の周波数を瞬時的に変化させる信号を出力することで成される。
【0034】
本実施形態に係る誘導加熱装置10のような構成の場合、電力制御に関しては、電力制御部に設けられた図示しない記憶手段(メモリ)に記憶された制御マップ(垂直温度分布制御マップ)に基づいて、熱処理開始からの経過時間単位に変化させる投入電力を出力するための信号を出力すれば良い。なお、制御マップは、熱処理開始から熱処理終了に至るまでの積層配置されたサセプタ間の温度変化を補正し、任意の温度分布(例えば均一な温度分布)を得るために各誘導加熱コイルに与える電力値を、熱処理開始からの経過時間と共に記録したものであれば良い。また、サセプタ16の温度を計測する計測手段(不図示)を備えている場合には、各ゾーンにおけるサセプタ温度をフィードバックして温度制御(電力制御)を行うようにすると良い。
【0035】
このような構成の電源部40では、電力制御部からの信号に基づいて、各誘導加熱コイル36,38に投入する電流の周波数を瞬時的に調整し、電流波形の位相制御を実施すると共に、各誘導加熱コイル36,38単位の電力制御を実施することで、ボート14内における垂直方向の温度分布を制御することができる。
【0036】
また、このような構成の誘導加熱装置10によれば、磁束がウエハ60に対して水平に働くため、ウエハ60の表面に金属膜等の導電性部材が形成されていた場合であっても、ウエハ60の温度分布が乱れる虞が無い。
【0037】
このような構成の誘導加熱装置によれば、チャンバ12の外部に配置した磁極32,34の加熱防止を実現しつつ、被誘導加熱部材であるサセプタ16を効率良く加熱することが可能となる。
【0038】
次に、本発明の誘導加熱装置に係る第2の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施形態に係る誘導加熱装置の殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係る誘導加熱装置10と同様である。よって、本実施形態においては、上記第1の実施形態に係る誘導加熱装置10と構成を異ならせる要部のみを図示して説明するものとし、その構成を同一とする箇所には、図面に同一符号を付して詳細な説明は省略する。なお、第1の実施形態に係る誘導加熱装置10との相違点としては、ハウジング26に設けた開口部142の形態である。具体的には、第1の実施形態における開口部42は、平面形態を多角形(図1に示す例では六角形)とするハウジング26の2辺それぞれに開口部42を設け、開口部42のそれぞれに磁気透過性遮蔽板46と、冷却板48を個別に配置する構成としていた。これに対し本実施形態に係る誘導加熱装置では図6、図7に示すように、開口部142にハウジング26を介在させず、単一の磁気透過性遮蔽板46と、単一の冷却板48で開口部42を遮蔽する構成としている。
【0039】
このような構成とした場合であっても、磁気透過性遮蔽板46と冷却板48、および冷却管50を備えることにより、磁極32,34の加熱を防止することができる。なお、その他の構成、作用、効果については、上述した第1の実施形態に係る誘導加熱装置10と同様である。
【0040】
また、上記のような構成の誘導加熱装置において、冷却管50は、金属により構成すると良い。金属は、樹脂等に比べて熱伝導率が高いため、内部を挿通させる冷媒による冷却効果を高めることができるからである。ところで、冷却管50を金属とした場合、冷却管50は磁極32,34の近傍に配置されるため、磁束の影響を受け、内部に誘起電流(渦電流)が生じ、誘導加熱されてしまうといった虞がある。このため、開口部42を囲繞するように配置される冷却管は、極性の異なる磁極32,34双方の磁束の到達範囲を通るように配置する構成とすると良い。
【0041】
具体的には、例えば第1の実施形態のように、磁極32,34のそれぞれに対して独立した開口部42を設けているような場合には、図8に示すように、2つの開口部を一筆書きで囲繞するように冷却管を配置すれば良い。このような構成とすることで、冷媒である冷却水は開口部42の周囲(冷却板48の縁辺)を万遍無く回ることになる。また、誘起電流は、磁極32側と磁極34側とでは逆向きに発生するため、相互の打ち消しが生ずることとなり、誘導加熱による冷却管50の加熱を抑制することができる。
【0042】
また、実施形態に係る誘導加熱装置10のように、極性の異なる磁極32,34を複数(対としては3対)集合させて(実施形態に係る例は積層配置)集合体を構成している場合には、当該集合体全体を囲むようにして冷却管を配置すると良い。
【0043】
また、第2の実施形態のように、1つの開口部42に対して磁極32と磁極34の双方を配置したような場合には、図9に示すように単純に、開口部42の周囲(冷却板48の縁辺)を囲繞するように配置すれば良い。このような構成とすることで、冷却作用と誘導加熱抑制の双方の作用を奏することができるからである。
【符号の説明】
【0044】
10………誘導加熱装置、12………チャンバ、14………ボート、16………サセプタ、18………回転テーブル、20………テーブル、22………回転軸、24………ベース、26………ハウジング、28………励磁部、30(30a〜30c)………コア、32(32a〜32c)………磁極、34(34a〜34c)………磁極、35(35a〜35c)………ヨーク、36(36a〜36c)………誘導加熱コイル、38(38a〜38c)………誘導加熱コイル、40………電源部、42………開口部、46………磁気透過性遮蔽板、48………冷却板、50………冷却管、60………ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセス室を構成するチャンバと、前記チャンバの外周であって前記チャンバを構成する隔壁部材に設けられた開口部を遮蔽する磁気透過性遮蔽板に近接配置された誘導加熱コイル又は誘導加熱コイル用磁極を有する誘導加熱装置に、
前記磁気透過性遮蔽板を冷却するために前記磁気透過性遮蔽板に密接または近接させた冷却板を備えたことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記冷却板は、セラミックにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記冷却板と前記磁極との間に空隙を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記冷却板を冷却する冷媒を挿通させる冷却管を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
極性の異なる一対の誘導加熱コイル又は誘導加熱コイル用磁極を備え、
前記冷却管は、前記一対の誘導加熱コイル又は誘導加熱コイル用磁極の双方を囲むように配置されることを特徴とする請求項4に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記一対の誘導加熱コイル又は前記誘導加熱コイル用磁極が複数集まり、集合体を構成している場合には、前記冷却管は、前記集合体全体に亙る誘導加熱コイル又は前記誘導加熱コイル用磁極を囲むように配置されることを特徴とする請求項5に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記磁気透過性遮蔽板は、石英により構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項8】
前記誘導加熱コイルは、冷媒を挿通可能な管状部材と複数の線条材から成る縒り線とから成り、
前記磁極の先端側に前記管状部材を配置し、前記管状部材の後ろ側に前記縒り線を配置したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−216659(P2012−216659A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80553(P2011−80553)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第4980475号(P4980475)
【特許公報発行日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】