説明

調節弁の製造方法および製造装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、バルブ本体内の流体流路中のシートリング取付け部に取付けたシートリングに対して、プラグを近接離間させることによって、前記流体流路の開度が調節可能な調節弁の製造方法および製造装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】種々の流体の流量や圧力の調節弁としては、シールリングを保守部品として、それをバルブ本体と分離可能な別部品として取り付けたものがある。図6は、このような調節弁の断面図、図7は図6のA部の拡大図である。
【0003】これらの図において、1はバルブ本体であり、そのシートリング取付け部1Aには、薄肉円筒状のシートリング2が分離可能にねじ付けられている。シートリング取付け部1Aは、左右の流路開口部1B,1C間の流体流路中に形成されており、また流路開口部1B,1Cの外周には左右の外フランジ部1D,1Eが設けられている。シートリング2の上方には弁体としてのプラグ3が位置し、このプラグ3は、上部開口部1Fを通して図示しない調節弁制御器に連結されている。そして、このプラグ3の上下方向の移動位置に応じて、プラグ3とシートリング2のシート部2Aとの間の間隔、つまり流体流路の開度が調整できるようになっている。上部開口部1Fは、プラグ3と調節弁制御器との間の連結部材としての弁軸の上下動のみを許容するようにシールされる。
【0004】図8は、従来の調節弁の製造工程を説明するためのフローチャートであり、バルブ本体は、まず、加工ラインにおける第1,第2のフランジ加工工程(ステップS1,S2)によって外フランジ部1D,1Eが加工成形されてから、中心旋削工程(ステップS3)によってシートリング取付け部1Aが旋削され、後述するスタッドボルト用の穴のタッピング工程(ステップS4)を経てから、組立ラインに入る。一方、シートリング2は、まず、バルブ本体1とは別の加工ラインの旋削1、旋削2の段階的な旋削工程(ステップS11,S12)を経てから、ラップ仕上げなどを含む仕上旋削がなされ(ステップS13)、その後に組立ラインに入る。組立ラインでは、バルブ本体1に対するスタッドボルトの組付工程(ステップS21)を経てから、シートリング2の組付工程(ステップS22)に入る。
【0005】図9は、シートリング2の組付け作業を説明するための断面図であり、図において4はスタッドボルト、1Gはスタッドボルト用の穴である。シートリング2の組付けに際しては、専用工具のシートスパナ5が用いられ、そのシートスパナ5をトルクレンチ6によって回すことにより、シートリング2がシートリング取付け部1Aに規定トルクでねじ付けられる。そのシートスパナ5は、シートリング2の締め付けトルクの反力をスタッドボルト4を介してバルブ本体1で受けるような構造となっている。
【0006】ところで、プラグ3によって流体流路を完全に閉め切ったときの漏れを測定するリークテストでは、その漏れ量が少ないほど遮断性がよいとされ、JIS規格によってクラス分けされている。その遮断性を確保する上においては、シートリング2の真円度と共に、そのバルブ本体1の軸芯O1とシートリング2の軸芯O2との同芯度、およびバルブ本体1の基準面F1とシートリング2の基準面F2との平行度の高精度化が要求される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来の調節弁の製造方法は以上のように構成されているので、薄肉円筒形状のシートリング2をバルブ本体1とは別に加工するため、例えば、旋盤によってシートリング2を旋削加工する場合には、シートリングをチャッキングして旋削するが、チャッキングを外すとシートリングが歪んでしまうため、それを高真円度に加工することが難しかった。また、シートリング2をバルブ本体1に取付けた後のリークテストにおいて、要求仕様に入らなかったときには、ラッピング(すり合わせ)作業によって、性能の向上を図る。しかし、このラッピング作業は、分解、ラップ材塗布、ラップ、再組立、およびリークテストを繰り返すため、その実施に当たっては、作業者の経験や勘、および多大な時間を要するという問題があった。
【0008】また、加工済みのシートリング2をバルブ本体1に取付けるため、その取付け精度が直ちに軸芯O1,O2の同芯度や基準面F1,F2の平行度に影響する。しかし、シートリング2のねじ付け部分のねじの公差によるシートリング2の取付け位置の偏りや傾き、およびトルクレンチ6の締め付け時に生じるおそれのあるシートリング2に歪みなどのために、シートリング2の取付け精度が悪化して、要求される同芯度や平行度を満たすことが難しかった。
【0009】さらに、バルブ本体1を旋盤によって加工する場合には、そのバルブ本体1の口径側や中心部分を挟み込むようにして、それを旋盤にクランプしていた。そのため、大きな面板が必要となり、高速加工が望めない上、回転速度を上げるほどクランプ力が弱まる傾向にあった。加えて、バルブ本体1の口径側をクランプした場合には、切粉の排出性が極端に悪化するという問題があった。
【0010】
【0011】発明は、バルブ本体を切粉の排出性よく旋削加工し、シートリングの取付けおよび仕上げ旋削の作業性のよい調節弁の製造方法を得ることを目的とする。
【0012】発明は、バルブ本体の旋削加工時における切粉の排出性に優れ、しかもシートリングの取付けおよび仕上げ旋削の作業性もよい調節弁の製造装置を得ることを目的とする。
【0013】
【0014】
【0015】

【課題を解決するための手段】
発明に係る調節弁の製造方法は、バルブ本体のシートリング取付け部にシートリングを取付ける前に、前記バルブ本体に設けられた左右の外フランジ部の対向面間にて両開き治具の左右の爪部を開くことにより該両開き治具に前記バルブ本体を保持し、その後、前記両開き治具を前記バルブ本体と共に回転させつつ前記シートリング取付け部を旋削加工してから、前記両開き治具を前記バルブ本体と共に回転させつつ前記シートリングを前記シートリング取付け部にねじ付け、その後、前記両開き治具を前記バルブ本体と共に回転させつつ前記シートリングを仕上げ旋削するものである。
【0016】本発明に係る調節弁の製造装置は、左右に開き可能な左右の爪部を有し、該左右の爪部をバルブ本体に設けられた左右の外フランジ部の対向面間にて開くことによって前記バルブ本体を保持可能な両開き治具と、この両開き治具を回転させる回転駆動手段と、前記両開き治具と共に回転される前記バルブ本体のシート取付け部を旋削可能な旋削手段と、前記両開き治具と共に回転される前記バルブ本体のシート取付け部にシートリングを押し付けることによって、該シートリングを前記シート取付け部にねじ付け可能なねじ付け手段と、前記両開き治具と共に回転される前記バルブ本体のシートリング取付け部に取付けられた前記シートリングを仕上げ旋削可能な仕上げ旋削手段とを備え構成したものである。
【0017】
【0018】
【0019】

【作用】
発明における調節弁の製造方法は、バルブ本体の左右の外フランジ部の対向面間にて両開き治具の左右の爪部を開くことによって、バルブ本体を保持するので、切粉の排出性よくバルブ本体を旋削加工でき、さらにシートリングの取付けおよび仕上げ旋削の作業性向上する
【0020】発明における調節弁の製造装置は、バルブ本体の左右の外フランジ部の対向面間にて両開き治具の左右の爪部を開くことによって、バルブ本体を保持し、そのバルブ本体に対して、シート取付け部の旋削加工と、シートリングのねじ付けと、シートリングの仕上げ旋削を行う構成としたので、バルブ本体の旋削加工時における切粉の排出性に優れ、しかもシートリングの取付けおよび仕上げ旋削の作業性が向上する。
【0021】
【0022】
【実施例】
実施例1.以下、この発明の一実施例を図1から図3により説明する。図1は、本実施例の調節弁の製造方法による作業工程を説明するためのフローチャート、図2は、図1の作業工程中に用いられるねじ込みツールの断面図、図3は、そのねじ込みツールの使用状況を説明するための側面図であり、従来技術として図6から図9に示した部分の相当部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0023】図1の製造工程のフローチャートにおいて、バルブ本体1は、加工ラインにおける第1,第2のフランジ加工工程(ステップS1,S2)によって外フランジ部1D,1Eが加工成形されてから、中心旋削工程(ステップS3)において、図示しない旋削手段によってシートリング取付け部1Aが旋削され、その後、シートリング2の組付工程(ステップS22)に入る。一方、シートリング2は、加工ラインの旋削1、旋削2の段階的な旋削工程(ステップS11,S12)を経てから、ステップS22にて加工ライン中のバルブ本体1に組付けられる。その後、バルブ本体1に組付けられたシートリング2に、ラップ仕上げなどを含む仕上旋削がなされ(ステップS13)、またバルブ本体1にスタッドボルト用の穴1Gのタッピング(ステップS4)されてから、組立ラインに入って、穴1Gにスタッドボルト4が組付けられる(ステップS21)。
【0024】バルブ本体1に対するシートリング2の組付工程(ステップS22)では、図2のようなねじ付け手段としてのねじ込みツール10を用いる。このねじ込みツール10は、NC旋盤のドリルホルダと共通仕様の軸部11に、ホルダ12が図2中の左右方向に伸縮自在に連結され、さらに軸部11とホルダ12が回り止めされている。軸部11には、ホルダ12を図2中の左方に付勢するスプリング13が備えられ、またホルダ12の先端には、シートリング2を保持可能な爪14が交換可能に取り付けられている。さらに、ホルダ12にはクラッチ15が備えられており、軸部11側と爪14側との間の回転力の伝達を遮断できるようになっている。
【0025】バルブ本体1の加工ライン中のステップS22,S13,S4において、そのバルブ本体1は、図3R>3のように両開き治具20によって、回転駆動手段としてのNC旋盤の主軸7にクランプされている。図3では、前述した図1のように断面にしたバルブ本体1が両開き治具20によって保持されている状態を現している。図3において、両開き治具20は、NC旋盤の主軸7側の面板21に左右の爪部22,23を備えた構成となっている。爪部22,23は、バルブ本体1の左右の外フランジ部1D,1Eの間に位置して、互いに離間する方向に拡開することによって、そのバルブ本体1をNC旋盤の主軸7にクランプするようになっている。本例の場合、爪部22、23は、主軸7と面板21との相対回転の方向に応じて、その主軸7の軸線を中心として互いに近接または離間する方向に同距離ずつ移動し、かつ主軸7が回転駆動されるときは、互いに離間する方向に移動してバルブ本体1のクランプ力を増すようになっている。そして、バルブ本体1がクランプされたときに、その軸芯O1(図6参照)と、主軸7の軸芯が一致するようになっている。また、NC旋盤の主軸7側にはトルクセンサ8が備えられている。
【0026】シートリング2の組付け(ステップS22)に際しては、主軸7にクランプされたバルブ本体1を主軸7と共に回転させつつ、ねじ込みツール10を主軸7の軸線上において図3の左方に移動させて、その爪14に保持したシートリング2をバルブ本体1のシートリング取付け部1Aにねじ付ける。そのねじ付けトルクをトルクセンサ8によって検出し、それが規定トルクに達したときに、主軸7の回転を停止させかつクラッチ15を切るべく、回転停止信号とクラッチ切り放し信号を出力して、シートリング2の取付けを終了する。
【0027】その後の仕上げ旋削(ステップS13)に際しては、図3のように主軸7にバルブ本体1をクランプしたまま、主軸7を回転させつつ、バルブ本体1に取付けられたシートリング2を図示しない旋削手段によって仕上げ加工する。その際、シートリング2はバルブ本体1に取付けられて、その形態が規制されているため、そのシートリング2に歪みが生じることがなく、高い真円度が得られることになる。しかも、バルブ本体1を基準としてシートリング2が仕上げ加工されるため、バルブ本体1に対するシートリング2の取付け精度の如何に拘わらず、軸芯O1,O2の同芯度、および基準面F1,F2の平行度を高めることができて、調節弁の遮断性等の性能が向上することにもなる。
【0028】また、バルブ本体1の加工ライン中においては、そのバルブ本体1が両開き治具20によってNC旋盤の主軸7にクランプされて、バルブ本体1の左右の流路開口部1B,1Cが開放されているため、切粉がシートリング取付け部1Aのねじ部や栓座部などに残留しにくく、その排出性がよい。そのため、加工作業の自動化を図る上における切粉処理の問題を解決できることになる。例えば、中心旋削(ステップS3)、シートリング組付(ステップS22)、および仕上旋削(ステップS13)を機械の停止なしに連続的に実施することが可能となる。
【0029】実施例2.図4は、この発明の他の実施例におけるねじ込みツール10の使用状況を説明するための側面図である。本例のねじ込みツール10は、そのホルダ12に図示しないトルクセンサが内蔵されており、そのトルクセンサによってシートリング2のねじ付けトルクを検出し、それが規定トルクに達したときに、主軸7の回転停止信号とクラッチ15のクラッチ切り放し信号を出力する。
【0030】実施例3.図5は、この発明のさらに他の実施例におけるねじ込みツール10の使用状況を説明するための側面図である。本例のねじ込みツール10は、そのホルダ12が断面六角形とされており、主軸7とねじ込みツール10とを同軸上に位置決めしてから、主軸7を停止させたまま、ホルダ12を手によって1,2回転させてシートリング2を軽くねじ付けてから、トルクレンチ9によってホルダ12に規定トルクを加えてシートリング2をねじ付ける。
【0031】
【0032】

【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、バルブ本体の左右の外フランジ部の対向面間にて両開き治具の左右の爪部を開くことによって、バルブ本体を保持するので、切粉の排出性よくバルブ本体を旋削加工でき、さらにシートリングの取付けおよび仕上げ旋削の作業性のよい調節弁の製造方法を得ることができる効果がある。
【0033】発明によれば、バルブ本体の左右の外フランジ部の対向面間にて両開き治具の左右の爪部を開くことによって、バルブ本体を保持し、そのバルブ本体に対して、シート取付け部の旋削加工と、シートリングのねじ付けと、シートリングの仕上げ旋削を行う構成としたので、バルブ本体の旋削加工時における切粉の排出性に優れ、しかもシートリングの取付けおよび仕上げ旋削の作業性もよい調節弁の製造装置を得ることができる効果がある。
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例による調節弁の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1のシートリングの組付工程にて用いられるねじ込みツールの断面図である。
【図3】図2のねじ込みツールの使用状況を説明するための側面図である。
【図4】この発明の他の実施例によるねじ込みツールの使用状況を説明するための側面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施例によるねじ込みツールの使用状況を説明するための側面図である。
【図6】従来の調節弁の断面図である。
【図7】図6のA部の拡大図である。
【図8】従来の調節弁の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8のシートリングの組付工程にて用いられるシートスパナの使用状況を説明するための断面図である。
【符号の説明】
1 バルブ本体
1A シートリング取付け部
1D,1E 外フランジ部
2 シートリング
3 プラグ
10 ねじ込みツール(ねじ付け手段)
20 両開き治具
22,23 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 バルブ本体内の流体流路中のシートリング取付け部に取付けたシートリングに対して、プラグを近接離間させることによって、前記流体流路の開度が調節可能な調節弁の製造方法において、前記バルブ本体のシートリング取付け部に前記シートリングを取付ける前に、前記バルブ本体に設けられた左右の外フランジ部の対向面間にて両開き治具の左右の爪部を開くことにより該両開き治具に前記バルブ本体を保持し、その後、前記両開き治具を前記バルブ本体と共に回転させつつ前記シートリング取付け部を旋削加工してから、前記両開き治具を前記バルブ本体と共に回転させつつ前記シートリングを前記シートリング取付け部にねじ付け、その後、前記両開き治具を前記バルブ本体と共に回転させつつ前記シートリングを仕上げ旋削することを特徴とする調節弁の製造方法。
【請求項2】 バルブ本体内の流体流路中のシートリング取付け部に取付けたシートリングに対して、プラグを近接離間させることによって、前記流体流路の開度が調節可能な調節弁の製造装置において、左右に開き可能な左右の爪部を有し、該左右の爪部を前記バルブ本体に設けられた左右の外フランジ部の対向面間にて開くことによって前記バルブ本体を保持可能な両開き治具と、この両開き治具を回転させる回転駆動手段と、前記両開き治具と共に回転される前記バルブ本体のシート取付け部を旋削可能な旋削手段と、前記両開き治具と共に回転される前記バルブ本体のシート取付け部に前記シートリングを押し付けることによって、該シートリングを前記シート取付け部にねじ付け可能なねじ付け手段と、前記両開き治具と共に回転される前記バルブ本体のシートリング取付け部に取付けられた前記シートリングを仕上げ旋削可能な仕上げ旋削手段とを備えてなることを特徴とする調節弁の製造装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】特許第3483668号(P3483668)
【登録日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【発行日】平成16年1月6日(2004.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−196513
【出願日】平成7年8月1日(1995.8.1)
【公開番号】特開平9−42468
【公開日】平成9年2月14日(1997.2.14)
【審査請求日】平成12年11月14日(2000.11.14)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【参考文献】
【文献】実開 昭52−16628(JP,U)
【文献】実開 平5−92579(JP,U)