説明

貯湯式給湯システム

【課題】断熱性能が劣化した場合に、湯切れを生じさせずに、エネルギー消費量の増加を抑える貯湯式給湯システムを提供する。
【解決手段】貯湯タンク1と、貯湯タンク1を覆う断熱材5と、貯湯タンク1内の湯水に熱量を加える加熱手段2と、貯湯タンク1内の湯水における蓄熱量を算出する蓄熱量算出手段101と、蓄熱量に基づいて、断熱材5の断熱性能を検出する断熱性能検出手段102と、断熱性能検出手段102が検出した断熱性能に基づいて、断熱性能が劣化しているかどうかを判定し、判定による断熱性能の劣化に応じて、特定の時間帯に湯水に加える熱量を決定し、加熱手段2の加熱制御を行う制御手段103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱手段により沸上げられた給湯用の湯水を貯める貯湯タンクを備える貯湯式給湯システムに関するものである。特に、貯湯タンクを保温する断熱材による断熱性能の劣化に応じて、加熱手段の制御を変化させることを特徴とするシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
貯湯式給湯システムは、加熱手段の加熱能力が瞬間式などに比べて比較的小さい場合や、加熱手段の起動時の能力の立ち上りが瞬間式などに比べて遅い場合に適用されるシステムである。給湯負荷の発生に対して湯切れの生じることのないように、事前に加熱手段により沸上げられた給湯用の湯水(湯または水)を貯湯タンクに貯めておき、当該貯湯タンクから給湯を行うようにしている。
【0003】
このようなシステムでは、需要側で給湯が行われる前に湯を沸上げるため、貯湯タンク内の湯を保温しておく必要がある。そこで、貯湯タンクを断熱材によって覆って保温することが一般的である。しかし、経年劣化などによって断熱材の断熱性能が低下すると、貯湯タンクから外界に無駄に放出される熱量が増加する。
【0004】
これに対しては、例えば断熱性能の劣化を検知して警報を発する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、例えば貯湯タンクから外界への放熱により蓄熱量が不足して需要側で湯切れが生じることを回避するために、断熱性能の劣化を検知して、貯湯タンク内の温度を上昇させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−132599号公報
【特許文献2】特開2007−155154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1によれば、断熱性能の劣化を検知してからメンテナンスが行われるまでの間、加熱手段側の運転に変更を施さないため、需要側で湯切れが発生する危険性があった。
【0008】
また、特許文献2によれば、湯切れの危険性は低下されるものの、貯湯タンクから外界へ放出される熱量は大きく増加し、加熱手段は、その分も余分に湯を沸上げる必要があるため、システムの効率が非常に低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、断熱性能が劣化した場合に、湯切れを生じさせずに、エネルギー消費量の増加を抑える貯湯式給湯システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に関わる貯湯式給湯システムは、貯湯タンクと、貯湯タンクを覆う断熱材と、貯湯タンク内の湯水に熱量を加える加熱手段と、貯湯タンク内の湯水における蓄熱量を算出する蓄熱量算出手段と、蓄熱量に基づいて、断熱材の断熱性能を検出する断熱性能検出手段と、断熱性能検出手段が検出した断熱性能に基づいて、断熱性能が劣化しているかどうかを判定し、判定による断熱性能の劣化に応じて、特定の時間帯に湯水に加える熱量を決定し、加熱手段の加熱制御を行う制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蓄熱量算出手段が算出した蓄熱量に基づいて、断熱性能検出手段が断熱性能を検出し、制御手段が検出結果に基づいて断熱性能が劣化していると判定した場合は、特定の時間帯に前記湯水に加える熱量を決定するようにしたので、例えば深夜時間帯のような給湯負荷の発生より長時間前に沸上げる蓄熱量を減少させ、より給湯負荷の発生に近い時間帯に沸上げる熱量を増加させることができ、貯湯タンクから外界への放熱量を減少することができる。このため、断熱材の断熱性能が劣化しても、湯切れを生じさせず、必要なエネルギー消費量の増加を抑えることができ、省エネルギー性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に関わる貯湯式給湯システムの構成図。
【図2】本発明における、信号の流れを表すブロック図。
【図3】給湯負荷の一例を示したタイムチャート。
【図4】断熱性能が正常な状態での、貯湯タンク熱量のタイムチャート。
【図5】断熱材異常状態での貯湯タンク熱量タイムチャート。
【図6】貯湯タンクから外界への積算放熱量タイムチャート。
【図7】本発明の実施の形態2におけるリモコン400の概要図。
【図8】本発明の実施の形態2における運転モード選択による制御動作の概要図。
【図9】本発明の実施の形態2における運転モード選択による積算放熱量の概要図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における貯湯式給湯システムの給湯に係る構成を表す図である。本発明に関わる貯湯式給湯システムにおいて、貯湯タンク1は湯水を貯めるためのタンクであり、沸き上げた湯を長時間にわたって有効に保温するために断熱材5で覆っている。加熱用配管301は、貯湯タンク1の下部と上部とを接続する配管である。加熱手段2は、加熱用配管301の途中において加熱用配管301を流れる湯水を加熱する(熱量を加える)。循環ポンプ3は、加熱用配管301に流す湯水(以下、湯または水として記載する場合もある)の流れを形成する。
【0014】
一方、給水用配管302は、貯湯タンク1の下部に接続され、外部から水を供給するための配管である。また、導出用配管303は、貯湯タンク1の上部に接続され、貯湯タンク1から湯を導出するための配管である。そして、混合用配管304は、給水用配管302から水を分岐させる配管である。さらに、給湯用配管305は、使用される負荷側に湯を供給するための配管である。そして、混合手段4に、導出用配管303、混合用配管304および給湯用配管305を接続して、導出用配管303を流れる湯と混合用配管304を流れる水とを混合させた湯を給湯用配管305に流すようにする。
【0015】
また、貯湯タンク1には、高さ方向(上下方向。ここでは、特に貯湯タンク1上部から下部に向かっての高さとする)に例えば一定の間隔をおいて、それぞれの位置における温度(湯温)を検出するための複数の貯湯温度センサー501a〜501fが設けられている。ここでは簡易的に、貯湯温度センサーの個数を6としたが、この数に限定するものではない。基本的には、貯湯タンク1の内部の温度分布を測るのに充分な数の温度センサーを設けるようにする。一方、加熱用配管301には加熱手段2の下流側にて加熱後の湯温を検出するための沸上げ温度センサー502が設けられている。さらに、導出用配管303には貯湯タンク1から導出される湯温を検出するための導出温度センサー503が設けられ、給水用配管302(または混合用配管304)には給水温度を検出するための給水温度センサー504が設けられている。そして、給湯用配管305には負荷側に供給する湯温を検出するための給湯温度センサー505が設けられる。また、給湯用配管305には負荷側で使用される湯量を検出する給湯流量センサー601が設けられている。
【0016】
図2は貯湯式給湯システムの制御に係る信号の流れを示すブロック図である。図2において、タイマー701は時刻検出手段である。タイマー701、貯湯温度センサー501a〜501f、および、沸上げ温度センサー502、導出温度センサー503、給水温度センサー504、給湯温度センサー505、並びに、給湯流量センサー601が検出したデータを含む信号は制御装置100に送られる。制御装置100は、これらのデータに基づいて、演算、判定等を行い、加熱手段2、循環ポンプ3および混合手段4を制御する。
【0017】
制御装置100は、蓄熱量算出手段101、断熱性能検出手段102、制御手段103および記憶手段104を有している。蓄熱量算出手段101は、貯湯タンク1内の蓄熱量を算出する。また、断熱性能検出手段102は、貯湯タンク1を覆う断熱材の断熱性能を検出する。制御手段103は、加熱手段2、循環ポンプ3および混合手段4を制御するための処理を行う。各手段が行う処理の詳細については後述する。また、制御装置100は、装置内の各手段が処理を行うために必要なデータを一時的にまたは長期的に記憶する記憶手段104を有している。ここでは、制御装置100を各手段を有する装置として構成しているが、例えば、それぞれ異なる専用機器(ハードウェア)に分けて構成することもできる。
【0018】
次に、本発明に関わる貯湯式給湯システムの基本的な動作を、湯水の流れに基づいて説明する。まず貯湯タンク1の下部から給水用配管302を通じて低温の水が流入して貯められる。貯湯タンク1の下部の低温の水は、循環ポンプ3によって加熱用配管301に引き込まれて加熱手段2に導かれ、加熱手段2が熱量を付加することで高温の湯に沸上げられる。沸上げられた高温の湯は、加熱用配管301を通じて貯湯タンク1の上部から流入して貯められる。
【0019】
貯湯タンク1の上部に貯められた湯は、湯を使用する負荷側の要求に応じて、導出用配管303から流出し、混合手段4に導かれる。給水用配管302から分岐されて混合用配管304を通過した水と貯湯タンク1から導いた湯とが混合手段4において混合され、給湯用配管305を通じて負荷側へ供給される。
【0020】
これにより、低温の水を加熱手段2で沸上げて貯湯タンク1に高温の湯を貯えると共に、貯湯タンク1に貯えた湯を負荷側へ送ることができる。
【0021】
図3は一日の給湯負荷(供給熱量)を積算した場合のタイムチャートの一例を表す図である。ここでは熱量を表す単位として、平均的な給湯温度(例えば42℃)での湯量に換算して[L]で表すものとする。例えば、図3では、00:00から07:00までは給湯の需要がなく、一方で、21:00から22:00までの間に需要が増大することがわかる。次に、本発明に係り、制御装置100が行う、所定期間(例えば1日)に必要となる湯を貯湯タンク1に貯めるための加熱手段2の加熱制御について説明する。
【0022】
まず、蓄熱量算出手段101は、貯湯タンク蓄熱量Qを例えば給水温度Tsを基準にして次式(1)に示すように算出する。ここで、貯湯温度センサー501a〜501fの検出に係る温度値をそれぞれTwa〜Twfとする。また、各貯湯温度センサー501a〜501fのそれぞれのセンサーの設置位置に基づき、例えば貯湯タンク1上端から各貯湯温度センサーの高さ部分までの貯湯タンク1の内容積をそれぞれVa〜Vfとする。内容積Va〜Vfに係るデータは、あらかじめ記憶手段104に記憶されているものとする。
【0023】
Q=Va×(Twa−Ts)×密度×比熱
+(Vb−Va)×{(Twa+Twb)/2−Ts}×密度×比熱
+…+(Vf−Ve)×{(Twe+Twf)/2−Ts}×密度×比熱
+(タンク容量−Vf)×(Twf−Ts}×密度×比熱 …(1)
【0024】
ここで、貯湯タンク1の高さ方向について、湯温(水温)が急激に変化する温度境界層を含めて(1)式の演算を行った場合、算出精度が低下することが知られている。このため、基本的には温度境界層を含まない部分について、貯湯タンク蓄熱量Qを算出することが望ましい。例えば最上部の貯湯温度センサー(例えば501a)と、所定温度以内の検出値を示す最も低い位置の貯湯温度センサー(例えば501e)の高さに至るまでを温度境界層を含まない部分として貯湯タンク蓄熱量Qを次式(2)のように算出してもよい。ここでは温度境界層を含まない最も低い位置の貯湯温度センサーを501eとしているが、温度境界層に対する安全をとって、さらに上の位置にある貯湯温度センサーとして設定してもよい。
【0025】
Q=Va×(Twa−Ts)×密度×比熱
+(Vb−Va)×{(Twa+Twb)/2−Ts}×密度×比熱
+…+(Ve−Vd)×{(Twd+Twe)/2−Ts}×密度×比熱…(2)
【0026】
ここで、給水温度Tsについて、給水温度センサー504の検出に係る時々刻々の温度変化を反映させると、現実にはタンク蓄熱量が変化しなくとも、給水温度Tsが変化することによって、貯湯タンク蓄熱量Qの算出結果が変化することになる。このため、例えば貯湯タンク蓄熱量Qの算出に用いる給水温度Tsは、例えば断熱性能検出手段102が断熱性能を検出している途中等の期間中は変化させないようにしても良い。また、貯湯タンク蓄熱量Qを算出する際の温度基準を、給水温度Tsではなく、単に固定温度値(例えば0℃)としても良い。
【0027】
また、貯湯タンク蓄熱量Qを算出するのに用いる貯湯温度センサーの選択も、例えば断熱性能検出手段102が断熱性能を検出している途中等の期間中は変化させないようにする。
【0028】
断熱性能検出手段102は、例えば需要側への給湯、加熱手段2による沸上げ等がないときに、次式(3)に基づいて断熱性能Rを算出して断熱性能の検出を行う。ここで、タイマー701からの信号に基づいて得られる、検出に係る開始時刻をt1とする。また、開始時刻t1における貯湯温度センサー501a〜501fの検出に係る温度値をそれぞれTwa1〜Twf1とする。Twa1〜Twf1に基づいて蓄熱量算出手段101が算出した貯湯タンク蓄熱量をQ1とする。そして、貯湯タンク蓄熱量Q1を算出するために用いた温度値の平均値をTw1とし、外気温度検出手段(図示せず)が検出した温度値をTa1とする。また、タイマー701からの信号に基づいて得られる、検出に係る終了時刻をt2としたときの貯湯温度センサー501a〜501fの検出に係る温度値をそれぞれTwa2〜Twf2とする。Twa2〜Twf2に基づいて蓄熱量算出手段101が算出した貯湯タンク蓄熱量をQ2とする。そして、貯湯タンク蓄熱量Q2を算出するために用いた温度値の平均値をTw2とし、外気温度検出手段が検出した温度値をTa2とする。さらに、例えば貯湯タンク1上端から各貯湯温度センサー501a〜501fの高さまでの貯湯タンク1の表面積をそれぞれAa〜Afとし、貯湯タンク蓄熱量Q1、Q2を算出するために用いた貯湯温度センサー501までの表面積AをAa〜Afから選択する。例えば、貯湯温度センサー501a〜501eを使用した場合、A=Aeとする。表面積Aa〜Afに係るデータは、あらかじめ記憶手段104に記憶されている。
(1/R) = {(Q1−Q2)/(t2−t1)}/
A・〔{(Tw1−Ta1)+(Tw2−Ta2)}/2〕 …(3)
【0029】
(3)式に基づけば、断熱性能Rは単位時間当たりの給湯タンク1における放熱量を、貯湯タンク1の温度と外気温度との温度差の平均値と貯湯タンク1の表面積との積で割った値の逆数となる。このため、断熱性能Rは概して貯湯タンク1内の湯と外気との間の単位面積あたりの熱抵抗を表すことになる。
【0030】
また、断熱性能検出手段102は、需要側への給湯や加熱手段2による沸上げが含まれる時間帯においても断熱性能Rを算出することもできる。この場合は上記の各値に加えて、加熱手段2の加熱能力の積算値Qhpと給湯負荷の積算値Qldとを用いて行う。
【0031】
加熱能力の積算値Qhpは、次式(4)に基づいて算出する。ここで、Whpは加熱手段循環流量検出手段(図示せず)の検出に係る加熱用配管301を流れる水の流量(例えば体積流量)である。また、流入温度Thpiは加熱手段入口水温検出手段(図示せず)の検出に係る加熱手段2へ流入する水の温度である。また、流出温度Thpoは、沸上温度センサー502の検出に係る温度である。
【0032】
【数1】

【0033】
また、給湯負荷の積算値Qldは、次式(5)に基づいて算出する。ここで、Wldは、給湯流量センサー601の検出に係る流量である。また、給水温度Tldiは給水温度センサー504の検出に係る温度であり、給湯温度Tldoは給湯温度センサー505の検出に係る温度である。
【0034】
【数2】

【0035】
需要側への給湯や加熱手段2による沸上げが含まれる場合、単位時間当たりの給湯タンク1における放熱量は、貯湯タンク蓄熱量Q1と加熱能力の積算値Qhpとの和から、貯湯タンク蓄熱量Q2および給湯負荷の積算値Qldを引いたものとなる。そのため、断熱性能Rは次式(6)で表される。
(1/R) = {(Q1−Q2+Qhp−Qld)/(t2−t1)}/
A・〔{(Tw1−Ta1)+(Tw2−Ta2)}/2〕 …(6)
【0036】
制御手段103は、断熱性能検出手段102の算出により検出した断熱性能Rに基づいて、例えば設計段階で定める基準値との関係によって断熱性能が劣化しているかどうかを判定する。例えば断熱材が真空断熱材の場合、断熱性能が劣化していない正常時は0.002W/mK程度の値を示すが、ピンホールなどで真空状態が損なわれた場合、グラスウールなどと同程度の0.03W/mK程度の値まで劣化する。従って、例えば厚さ8mmの真空断熱材で断熱材を構成した場合、正常時の断熱性能Rの理論値は0.008/0.002=4[m2 K/W]となる。一方、真空状態が損なわれた場合の断熱性能Rの理論値は0.008/0.03=0.267[m2 K/W]となる。この場合、例えば4と0.267の間の値を基準値とし、断熱性能Rとの大小関係によって、断熱性能の劣化を判定することが出来る。基準値のデータについては、例えば貯湯タンク1を覆う断熱材、貯湯タンク1の大きさ等に応じてあらかじめシステム構成により定めておき、記憶手段104に記憶する。
【0037】
制御手段103は、断熱性能の劣化の判定結果に基づいて、加熱手段2を制御する。ここで、最初の判定が行われるまでは劣化していないものと仮定して加熱手段2の制御をしてもよいし、劣化しているものとして加熱手段2の制御をしてもよい。
【0038】
図4は、断熱材による断熱性能が劣化していない正常な場合の沸上げ制御を表すための図である。制御手段103は、深夜時間帯において、加熱手段2に水を加熱させて所定の熱量(一括沸上げ熱量)を加え、一括で沸上げる制御を行う。一括で沸上げる制御を行う場合、料金が低い深夜時間帯に沸き上げて貯湯するというコスト面のメリットおよび加熱手段2の発停回数の増加に伴う機器寿命の低下や低効率運転の増加を回避するメリットがある。
【0039】
ここで、一括沸上げ熱量は、既定の値を採用してもよいし、一日に必要と推測される積算給湯負荷を基準に定めてもよい。ここで、一日に必要と推測される積算給湯負荷は、既定の値を採用してもよいし、過去の給湯負荷実績から予測するようにしてもよい。図4では、当日に必要な積算給湯負荷を400Lと予測し、一日の終わり時点における貯湯タンク1の蓄熱量が100Lとなるように、深夜時間帯に約500L程度まで一括沸上げ熱量を加えて沸上げた場合を示している。
【0040】
また、例えば、上記の一括沸き上げ時以外の時間帯における貯湯タンク1内の蓄熱量の下限値を起動蓄熱量とし、上限値を停止蓄熱量として定め、記憶手段104に記憶させておくようにしてもよい。そして、一括沸き上げ時以外の時間帯において、制御手段103は、貯湯タンク蓄熱量Qが起動蓄熱量(例えば50L)以下となったものと判断すると、加熱手段2、循環ポンプ3を起動させて水を加熱させ、停止蓄熱量(例えば100L)以上となったものと判断すると加熱手段2、循環ポンプ3を停止させるように制御してもよい。これによって、貯湯タンク1内に所定の範囲の蓄熱量の湯を貯め、需要に対して湯切れを生じさせない蓄熱量維持制御を行うことができる。一括沸上げは給湯需要に対して不足する場合に対応する。
【0041】
図5は、断熱性能が劣化したと判定したときの沸上げ制御を表すための図である。図5では、従来技術(断熱材異常時に貯湯タンク温度を増加する特許文献2に関わる技術)による沸上げ制御動作と共に示している。ここで、図5では断熱性能が正常時の値の1/5程度まで劣化した場合を示している。
【0042】
本発明では、断熱性能が劣化したと判定したときに、一括沸上げ熱量を、正常な場合のときよりも減少させる。そして、その熱量分を蓄熱量維持制御によって沸上げるように制御する。図5では、深夜時間帯における蓄熱量を約150Lまで減少させている。そして、湯張りや入浴などの給湯の需要が高いと予想される21:00からの時間帯前の17:00〜21:00の時間帯は、蓄熱量が約300Lとなるまで沸き上げる。それ以外の時間帯は、制御手段103は起動蓄熱量である50L以下となったものと判断すると、加熱手段2、循環ポンプ3を起動させて水を加熱させて熱量を加え、停止蓄熱量である100L以上となったものと判断すると加熱手段2、循環ポンプ3を停止させるように制御する。
【0043】
図6は実施の形態1に関わる貯湯タンク1から外界への積算放熱量のグラフを表す図である。図6では、図4、図5に示す制御について、断熱性能が劣化していない場合の制御、断熱性能が劣化している場合の従来技術における制御、本発明に係る制御の3パターンに対して示している。図6から、本発明に関わる制御装置100が行った演算、制御等によって、貯湯タンク1からの積算放熱量が従来技術における放熱量よりも減少していることがわかる。
【0044】
ここで、一括沸上げ熱量を150Lとして任意の固定値を用いたが、断熱性能の劣化の程度に応じて演算等により定めるようにしても良い。例えば、断熱性能Rが基準値のα倍に劣化していると判定したような場合には、基準値における一括沸上げ熱量のα倍にするなど、αの関数として定めるようにしてもよい。
【0045】
また、制御手段103は、本発明にて断熱性能の劣化を判断した場合には、加熱手段2の加熱能力を増加させて、湯切れに対する安全性を高めるように運転しても良い。
【0046】
さらに、加熱手段2の加熱能力を増加させるとともに、上述した起動蓄熱量、停止蓄熱量の少なくとも一方を減少させるようにしてもよい。これにより、湯切れの安全性を出来るだけ損なうことなく、貯湯タンク1における放熱量を低減することができる。
【0047】
以上のように、実施の形態1の貯湯式給湯システムによれば、蓄熱量算出手段101が算出した貯湯タンク蓄熱量Qと貯湯温度センサー501a〜501fの検出に係る温度値に基づいて、断熱性能検出手段102が断熱性能を検出し、制御手段103は、検出結果に基づいて断熱性能が劣化していると判定した場合は、特定の時間帯に前記湯水に加える熱量を決定し、これにより、例えば深夜時間帯のような給湯負荷の発生より長時間前に沸上げる蓄熱量を減少させ、より給湯負荷の発生に近い時間帯に沸上げる熱量を増加させるようにしたので、貯湯タンク1から外界への放熱量を減少することができ、断熱材の断熱性能が劣化によって、必要なエネルギー消費量の増加を抑えることができ、省エネルギー性を向上させることができる。
【0048】
また、検出した断熱性能に基づいて、前記加熱手段の能力を増加させるようにしたので、湯切れの危険性を低下させると共に、従来発明よりも貯湯タンク1からの放熱量を低減させて省エネルギー性を向上させることが出来る。
【0049】
さらに、特定の時間帯以外における貯湯タンク1の蓄熱量に関する上限値である停止蓄熱量と下限値である起動蓄熱量とを定めておき、貯湯タンク1の蓄熱量がその範囲内となるように、制御手段103が加熱手段2の加熱制御を行うようにしたので、湯切れを起こす可能性を低くして安定した給湯を行うことができる。そして、断熱性能が劣化していると判定した場合は、制御手段103は、停止蓄熱量、起動蓄熱量の少なくとも一方の値を下げて制御を行うようにしたので、湯切れの危険性は同等程度に維持したまま、貯湯タンク1からの放熱量を低減し、省エネルギー性を向上させることができる。
【0050】
実施の形態2.
以下、図7〜図9を用いて本発明の実施の形態2について説明する。ここで実施の形態1と同様の部分は説明を省略する。
【0051】
図7は実施の形態2における、ユーザーが制御動作を規定するためのリモートコントローラー400(以下、リモコン400という)を表す図である。当該リモコン400は、運転モード選択ボタン401を有し、ユーザー側にて2つ以上の運転モードから、所定の運転モードを選択して制御装置100に指示できるようになっている。ここで、運転モードは、本発明に関わる貯湯式給湯システムにて、トレードオフの関係にある省エネルギー性と省コスト性のどちらを優先するかを、択一的もしくは段階的に設定することができる。例えば、図7(b)においては1:省エネモード 、…、 n:省コストモードとして、選択することができる。
【0052】
制御手段103は、実施の形態1で説明したように、断熱性能が劣化したと判定した場合には、一括沸上げ熱量を減少させるが、その減少量を、ユーザーがリモコン400を介して選択した運転モードに基づいて変更するようにする。例えば、制御手段103が断熱性能が劣化しているものと判定した場合、ユーザーが選択した運転モードが最も省エネルギーを優先させるモードであれば、一括沸上げ熱量を大幅に減少させる。一方、ユーザーが選択した運転モードが最も省コストを優先させるモードであれば一括沸上げ熱量を正常時と同じとするように制御する。
【0053】
図8は、各運転モードの沸上げ制御を表すための図である。図8に示すように、ユーザーの選択した運転モードが省エネルギーを優先させるモードであるほど、断熱性能が劣化したと判定した場合の一括沸上げ熱量が減少するように設定され、給湯需要が多くなる時間帯での沸上げにおいて加える熱量を増加させる。
【0054】
図9は実施の形態2に関わる貯湯タンク1から外界への積算放熱量のグラフを表す図である。図9に示すように省エネルギーを優先させるモードであるほど、貯湯タンク1からの積算放熱量が減少していることがわかる。
【0055】
また、図7のリモコン400は、ユーザーが運転モードを選択する際の判断材料となるように、貯湯タンク1からの放熱量の程度が表示される放熱レベル表示部402を有している。ここで、放熱レベルについては、(3)式、(6)式等に示す放熱量に基づいて決定する。放熱レベルは、単位期間中の沸上げ熱量の何%が外界に放熱しているかという形で示しても良いし、断熱性能から推定して現在の放熱量が正常状態での放熱量の何%になっているかという形で示しても良い。また、放熱レベルではなく、断熱性能の高低を、例えば基準値との比の形で示しても良い。
【0056】
また、貯湯式給湯システムは、断熱性能検出手段102の検出値が所定の範囲を越えて低下したときに、断熱性能の劣化を報知する、報知手段(図示せず)を備えるようにしてもよい。例えば、警報音を用いて加熱手段2の付近に放置する方式としても良いし、リモコン400から警報音を発する方式としても良い。また、リモコン400の有する表示部403にその旨を表示させる方式としても良い。また、電気通信回線、無線等を用いてサービスセンター等に通報する方式としても良い。
【0057】
以上のように、実施の形態2に関わる貯湯式給湯システムは、運転モード選択ボタン401を有するリモコン400を介して、例えば、省エネルギー性を優先した運転と省コスト性を優先した運転とを択一的又は段階的にユーザーが選択できるようにしたので、ユーザーの意向に沿った形で省エネルギー性を向上させることができる。
【0058】
また、放熱レベル表示部402、表示部403を設けて、ユーザーに向けて表示を行うようにしたので、ユーザーが現在の放熱レベルに基づいて運転モードを選択することができ、よりユーザーの意向に沿った形で省エネルギー性を向上させることができる。
【0059】
さらに、報知手段を備えるようにしたので、断熱材の性能劣化を検出してから、ユーザーやメンテナンス業者が対策を講じるまでの時間を短期間にすることができる。そのため、貯湯タンク1から外界への放熱によるエネルギーロスを低減することが期待できるので、省エネルギー性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 貯湯タンク、2 加熱手段、3 循環ポンプ、4 混合手段、5 断熱材、100 制御手段、101 蓄熱量算出手段、201 断熱性能検出手段、301 加熱用配管、302 給水用配管、303 導出用配管、304 混合用配管、305 給湯用配管、400 リモコン、401 運転モード選択ボタン、402 放熱レベル表示部、403 表示部、501a〜501f 貯湯温度センサー、502 沸上げ温度センサー、503 導出温度センサー、504 給水温度センサー、505 給湯温度センサー、601 給湯流量センサー、701 タイマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯湯タンクと、
該貯湯タンクを覆う断熱材と、
前記貯湯タンク内の湯水に熱量を加える加熱手段と、
前記貯湯タンク内の湯水における蓄熱量を算出する蓄熱量算出手段と、
前記蓄熱量に基づいて、前記断熱材の断熱性能を検出する断熱性能検出手段と、
該断熱性能検出手段が検出した前記断熱性能に基づいて、断熱性能が劣化しているかどうかを判定し、該判定による前記断熱性能の劣化に応じて、特定の時間帯に前記湯水に加える熱量を決定し、前記加熱手段の加熱制御を行う制御手段と
を備えることを特徴とする貯湯式給湯システム。
【請求項2】
前記断熱性能検出手段が検出した断熱性能に基づいて、前記加熱手段の能力を増加させることを特徴とする請求項1に記載の貯湯式給湯システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記特定の時間帯以外の時間帯には、前記蓄熱量があらかじめ定めた下限値以下であると判断すると、前記加熱手段に加熱させ、前記蓄熱量があらかじめ定めた上限値以上であると判断すると、前記加熱手段を停止させる制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の貯湯式給湯システム。
【請求項4】
前記断熱性能検出手段が検出した断熱性能に基づいて、前記下限値、前記上限値の少なくとも一方の値を小さくすることを特徴とする請求項3に記載の貯湯式給湯システム。
【請求項5】
省エネルギー性を重視した運転を行うか、省コスト性を重視した運転を行うかを、択一的または段階的に選択するための可能な運転モード指定手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記省エネルギー性重視した運転が選択されたものと判断すると、
該判定による前記断熱性能の劣化に応じて、前記特定の時間帯に前記湯水に加える熱量を決定し、前記加熱手段の加熱制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の貯湯式給湯システム。
【請求項6】
前記運転モード指定手段は、少なくとも指定された運転モード、前記貯湯タンクからの放熱量とを表示するための表示部を有することを特徴とする請求項5に記載の貯湯式給湯システム。
【請求項7】
報知を行うための報知手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記断熱性能検出手段が検出した前記断熱性能に基づいて、前記断熱性能の劣化度合いが所定値以下となったものと判断すると、前記報知手段に報知させることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の貯湯式給湯システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249366(P2010−249366A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97689(P2009−97689)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】