説明

貯湯式給湯機

【課題】熱源機から貯湯タンクに流入する温水によって貯湯タンク内の水が攪拌されて中温水が増加することを抑制できる貯湯式給湯機を提供する。
【解決手段】貯湯タンク4と、一端が水源に接続され、他端が貯湯タンク4の下部に接続された給水管6と、貯湯タンク4の下部から取水した湯水を、熱源機で加熱した後、貯湯タンク4の上部に設けられた流入口から貯湯タンク4内に戻す沸き上げ回路と、貯湯タンク4内の流入口12aに対向する位置に、流入口12aと間隔をおいて略水平方向に設けられたバッフル板13と、貯湯タンク4の内面に設けられ、バッフル板13の上方を通過した湯水を偏向する突起部14とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貯湯式給湯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貯湯式給湯機は、水道等の水源の水を熱源機で加熱して得た温水を貯湯タンクに溜めておき、ユーザの要求に応じて貯湯タンクの頂部付近に接続した給湯管から温水を取り出して水源の水と混合し、給湯栓または浴槽等の給湯端末に供給する機能を有する。システム全体には水源の水圧を減圧して得た所定の圧力が印加されているため、ユーザが使用した温水の量と同量の水が水源から貯湯タンクに供給され、貯湯タンク内は常に水で満たされた状態に維持されている。
【0003】
このとき熱源機から流入する高温の温水と水源から供給される低温の水が貯湯タンク内で混合されて多量の中温水が形成されると、給湯湯温が不安定になるとともに熱効率が低下する。従って貯湯タンク内の水の温度分布としては、温水による高温層と水による低温層がほぼ分離した状態にあり、両層が混合して形成される中温水による中温層が可能な限り少ない状態にあることが望ましい。
【0004】
中温水の層が拡大する要因は主に二つある。一つは、貯湯タンク内に形成された中温層と高温層および中温層と低温層の間で生じる自然対流に伴う熱交換を要因とするもので、時間の経過とともに中温層が拡大される。もう一つは、熱源機で加熱されて貯湯タンクの頂部付近から流入する温水によって貯湯タンク内の水が攪拌されることを要因とするもので、この場合は多量の温水と水が混合されて短時間に多くの中温水が生成される。
自然対流によって時間の経過とともに拡大する中温層を抑制することは難しいが、貯湯タンク内の水が攪拌されることによって生成される中温水は、貯湯タンク内の流れ場を制御することで抑制することが可能である。
【0005】
従来の貯湯式給湯機として、貯湯タンクの下部、ポンプ、熱源機、貯湯タンクの上部を順次接続した給湯回路と、貯湯タンクの上部に熱源機で加熱して得た温水を貯湯タンクに注水するための流入口を備え、貯湯タンク内の流入口の近傍に整流板を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。この貯湯式給湯機では、貯湯タンク上部の流入口から貯湯タンクに流入した温水は、整流板によって流速ベクトルが鉛直下向きから水平方向に偏向されるとともに、減速されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−265213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された貯湯式給湯機では、上記のバッフル板で水平方向に拡散された高温の温水は貯湯タンクの内面に沿う流れ場を形成するため、最終的には貯湯タンクの胴板に沿った鉛直下向きの流れになる。その結果、貯湯タンク内の水が攪拌されることで高温水と中温水または低温水が混合されて中温水が増加し、給湯湯温が不安定になるとともに熱効率が低下する可能性があった。
【0008】
また、貯湯式給湯機の水源となる水道水や地下水にはカルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分が含まれており、これらのミネラル成分を多く含む水を熱源機で加熱すると炭酸カルシウム等を主成分とするスケールが析出する。このスケールは、貯湯式給湯機に設けられたポンプが作る水流によって熱源機と貯湯タンクを含む沸き上げ回路16内を循環するが、沸き上げが完了してポンプの動作が停止するとスケールは自重によって貯湯タンクの底部に堆積する。その結果、貯湯タンクの底部付近に設けられて熱源機に水を送り出すための流出口が部分的に閉塞されて流路の圧力損失が増大する可能性があった。さらにスケールの堆積が進行すると、流出口が完全に閉塞されて沸き上げ運転が不可能になる可能性があった。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、熱源機から貯湯タンクに流入する温水によって貯湯タンク内の水が攪拌されて中温水が増加することを抑制できる貯湯式給湯機を提供するとともに、沸き上げ運転中に発生したスケールが貯湯タンクの底部に堆積することを抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る貯湯式給湯機は、水を加熱して温水を生成する熱源機と、筒状の胴部を有し、前記胴部の軸心が鉛直方向になるように設置された貯湯タンクと、一端が水源に接続され、他端が前記貯湯タンクの下部に接続された給水管と、前記貯湯タンクの下部から取水した湯水を、前記熱源機で加熱した後、前記貯湯タンクの上部に設けられた流入口から前記貯湯タンク内に戻す沸き上げ回路と、一端が前記貯湯タンクの上部に接続された給湯管と、前記貯湯タンク内の前記流入口に対向する位置に、前記流入口と間隔をおいて略水平方向に設けられたバッフル板と、前記貯湯タンクの内面に設けられ、前記バッフル板の上方を通過した湯水を偏向する突起部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、熱源機で加熱されて流入口から貯湯タンクに流入した後にバッフル板で拡散されて貯湯タンクの内面に沿って下方に向けて流れ出した温水は、貯湯タンクの内面に設けられた突起によって上方または水平方向に偏向されて貯湯タンクの上部に滞留する。その結果、貯湯タンクの中央付近に形成された中温層や底部に形成された低温層を攪拌することがなくなるため、温度境界層が維持されて中温水が増加することを抑制できる。
【0012】
さらに沸き上げ中に発生したスケールもバッフル板で拡散されて貯湯タンクの内面に沿う温水の流れに伴って貯湯タンク内を漂流するが、このスケールの大部分は突起部に蓄積されて貯湯タンクの底部に堆積するスケールの量が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における貯湯式給湯機の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における貯湯タンクの断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における貯湯タンクの底部にスケールが堆積するのを抑制する原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の実施の形態における貯湯式給湯機の構成図である。図1に示す貯湯式給湯機1は、熱源機であるヒートポンプユニット2と、ヒートポンプユニット2で加熱した温水を貯留する貯湯タンク4が収容された貯湯タンクユニット3を備えている。ヒートポンプユニット2内には、圧縮機2a、水冷媒熱交換器2b、膨張弁2c及び蒸発器2dが順次環状に接続されて冷媒が循環する冷凍サイクルと、蒸発器2dに外気を送風するファン2eが搭載されている。一方、貯湯タンクユニット3内には、冷凍サイクルの負荷媒体である水を水冷媒熱交換器2bに送水するポンプ5と、貯湯タンク4に水源の水を供給する給水管6と、水源の水を所定の圧力以下に減圧する減圧弁7と、貯湯タンク4の温水と水源の水を混合してユーザの要求する温度の温水を作る混合弁8と、混合弁8で作った温水を給湯栓や浴槽等の給湯端末9に温水を供給する給湯管10を備えている。
【0016】
ここで、貯湯タンク4は、筒状の胴部を有し、前記胴部の軸心がほぼ鉛直となるように設置されている。
【0017】
そして、水冷媒熱交換器2bと貯湯タンク4がポンプ5を介して熱源機往き配管11で接続され、水冷媒熱交換器2bと貯湯タンク4が熱源機戻り配管12で接続されることによりヒートポンプユニット2と貯湯タンクユニット3が接続されて沸き上げ回路16が構成されている。
【0018】
図2は貯湯タンク4の断面図である。貯湯タンク4の上部にはヒートポンプユニット2で加熱した温水を熱源機戻り配管12を通して貯湯タンク4に注水するための流入口12aが設けられている。そして貯湯タンク4内の流入口12aに対向する位置に、流入口12aと所定の間隔をおいて、ヒートポンプユニット2から流入する温水の流速ベクトルを偏向すると同時に減速するためのバッフル板13を設けている。このバッフル板13の材質はステンレス鋼、銅または樹脂等であり、貯湯タンク4の内面に溶接、接着、カシメなどの方法で略水平方向に固定されている。なお、本実施の形態ではバッフル板13は貯湯タンク4の内面に固定されているが、例えば熱源機戻り配管12に固定されていても構わない。
【0019】
そして、貯湯タンク4の上方の内面には突起部14が設けられている。この突起部14は、貯湯タンク4の胴部の軸心を含む断面が、下向きに凸の曲面である半円形状に形成されており、突起部14は貯湯タンク4の全周に亘って設けられている。このように、突起部14を貯湯タンク4の全周に亘って設けることにより、貯湯タンク4のないの中温水の増加を効果的に抑制できる。なお、突起部14は、貯湯タンク4の胴部の内径の10%以上突出するように設けることが好ましい。
【0020】
本実施の形態では、貯湯タンク4を構成するステンレス鋼製の胴部および胴部の両端を密閉する一対の蓋部の3部品のうち、貯湯タンク4の壁面上部を構成する蓋部の板金部材の端部を曲げて突起部14を成形しているが、貯湯タンク4の胴部を構成する部品の端部を曲げて突起部14を設けてもかまわない。このように、貯湯タンク4の胴部を構成する板金部材を曲げることにより、容易に突起部14を形成できる。または別部品として突起部14を製作し、貯湯タンク4の内面に溶接、接着、カシメなどの方法で固定しても構わない。
【0021】
次に、この貯湯式給湯機1の沸き上げ運転と沸き上げ運転中の貯湯タンク4内の流れ場について説明する。沸き上げ運転が開始されると、上記の冷凍サイクルと沸き上げ回路16が動作する。冷凍サイクル側では、圧縮機2aから吐出された高温高圧のガス冷媒が水冷媒熱交換器2bに送られ、貯湯タンク4から水冷媒熱交換器2bに送られた低温の水と熱交換して放熱し、高圧低温の冷媒になる。この冷媒は膨張弁2cを通過することで減圧され、気液二相の状態になる。その後、蒸発器2dに流入して外気から熱を吸収し、蒸発して気化される。蒸発器2dを出た低圧の冷媒は圧縮機2aに吸入されて再び高温高圧のガス冷媒になり、沸き上げが終了するまでこのサイクルが繰り返される。
【0022】
一方、沸き上げ回路16側では、ポンプ5によって貯湯タンク4内の低温の水が底部付近に設けられた流出口11aから熱源機往き配管11を通して水冷媒熱交換器2bに送られ、冷媒と熱交換して加熱されることで高温の温水が作られる。この温水は、熱源機戻り配管12を通して貯湯タンク4の上部に設けられた流入口12aから貯湯タンクに戻される。貯湯タンク4内の温水が所定の量に達するまでこのサイクルが繰り返されて沸き上げが完了する。
【0023】
沸き上げ運転中に貯湯タンク4内で高温の温水と低温の水が混合して中温水が形成されると給湯湯温が不安定になるとともに熱効率が低下するため、中温水の量は可能な限り少ない方が良い。したがって沸き上げ運転中の貯湯タンク4内の温度分布としては、上部にヒートポンプユニット2で加熱した温水が滞留して高温層を形成し、底部には水源から給水管6を通して給水口6aから供給される低温の水が滞留して低温層を形成し、両層の間にできる中温層は温水の流入に伴い貯湯タンク4内の水が攪拌されて形成された層ではなく、高温層と低温層の温度差に伴う自然対流のみによって形成された層であることが望ましい。即ち、貯湯タンク4内に流入する温水による攪拌を最小限に抑えることで、貯湯タンク4内に形成される中温水を最小限に抑制することができる。
【0024】
本実施の形態では、まずヒートポンプユニット2で加熱された温水は貯湯タンク4の上部に設けられた流入口12aから貯湯タンク4に流入する。流入した温水の貯湯タンク4の下方に向かう流速ベクトルによって貯湯タンク4内の水が攪拌されて中温水が形成されることを防止するため、流入口12aに対向した位置にバッフル板13を設けている。温水がバッフル板13に衝突することで、温水の流速ベクトルは下向きから水平方向に偏向され拡散されると同時に減速される。
【0025】
バッフル板13で偏向され、バッフル板13の上方を通過した温水は貯湯タンク4の内面に沿って流れ出し、最終的に貯湯タンク4の下方に向けて流れる。このときの温水は流入口12aから流入した時点よりも減速されているが、下向きの流速ベクトルを持つため、そのままでは貯湯タンク4内の広い範囲で攪拌が生じる。そのため貯湯タンク4の上方の内面に設けた突起部14によって温水の流速ベクトルを再び上向きまたは水平方向に偏向し、貯湯タンク4内で水が攪拌される領域を限定するとともに、温水を貯湯タンク4の上部に滞留させることで、中温水が形成されることを抑制している。
【0026】
即ちこのような突起部14を設けたことで、沸き上げ運転中の貯湯タンク4内の流速ベクトル場が、少なくとも突起部14の下側の貯湯タンク4の断面内では、場所によるばらつきが少なくほぼ均一に貯湯タンク4の下方に向かうベクトル場となるため、渦の生成に伴う攪拌が抑制されて中温水の形成が抑制される。
【0027】
次に図3を参照して、この突起部14によってスケール15が貯湯タンク4の底部に堆積することを抑制する原理について説明する。沸き上げ運転中に発生するスケール15は、貯湯式給湯機1に設けられたポンプ5が作る水流によってヒートポンプユニット2と貯湯タンク4を含む沸き上げ回路16内を循環する。そして沸き上げが完了してポンプ5の動作が停止するとスケール15は自重によって貯湯タンク4の底部に堆積するが、貯湯タンク4の底部付近に設けられてヒートポンプユニット2に水を送り出すための流出口11aが、堆積したスケール15によって一部または完全に閉塞されると沸き上げ運転が阻害される。
【0028】
本実施の形態では、沸き上げ運転中に発生して温水とともに貯湯タンク4内に流入したスケール15は上記で説明した流れ場によって貯湯タンク4内を移動するが、貯湯タンク4の内面に設けた突起部14の断面形状を下向きに凸の略半円形状としているため、温水の流れが突起部14に衝突して偏向される際に積極的にスケール15を突起部14に堆積させることができる。その結果、貯湯タンク4の底部に堆積するスケール15の量を抑制できるため、貯湯タンク4の底部付近に設けた流出口11aがスケール15によって閉塞され、沸き上げ運転が阻害される可能性が低減される。
【0029】
なお、上記の効果を最大限に発揮するため、ヒートポンプユニット2から貯湯タンクユニット3に流入する温水の流速によって、例えば、突起部14を、貯湯タンク4の胴部の壁面と鋭角をなすように上向きに突出した形状にしてもよいし、箱形状等にしてもよい。
【0030】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で様々な変形例や発展例を含むことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 貯湯式給湯機、 2 ヒートポンプユニット(熱源機)、 4 貯湯タンク、 6 給水管、 10 給湯管、 12a 流入口、 13 バッフル板、 14 突起部、 16 沸き上げ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を加熱して温水を生成する熱源機と、
筒状の胴部を有し、前記胴部の軸心が鉛直方向になるように設置された貯湯タンクと、
一端が水源に接続され、他端が前記貯湯タンクの下部に接続された給水管と、
前記貯湯タンクの下部から取水した湯水を、前記熱源機で加熱した後、前記貯湯タンクの上部に設けられた流入口から前記貯湯タンク内に戻す沸き上げ回路と、
一端が前記貯湯タンクの上部に接続された給湯管と、
前記貯湯タンク内の前記流入口に対向する位置に、前記流入口と間隔をおいて略水平方向に設けられたバッフル板と、
前記貯湯タンクの内面に設けられ、前記バッフル板の上方を通過した湯水を偏向する突起部とを備えた貯湯式給湯機。
【請求項2】
前記突起部は、前記貯湯タンクの全周に亘って設けられたことを特徴とする請求項1に記載の貯湯式給湯機。
【請求項3】
前記突起部は、前記胴部の軸心を含む断面が、下向きに凸の曲面であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の貯湯式給湯機。
【請求項4】
前記突起部は、前記貯湯タンクの胴部の壁面と鋭角をなすように上向きに突出したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の貯湯式給湯機。
【請求項5】
前記突起部は、前記貯湯タンクの胴部の内径の10%以上突出していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の貯湯式給湯機。
【請求項6】
前記突起部は、前記貯湯タンクの壁面を構成する板金部材を曲げて構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の貯湯式給湯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−117667(P2011−117667A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275510(P2009−275510)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】