説明

走査レーザSQUID顕微鏡を用いた検査方法および装置

【課題】
故障箇所の絞込みを可能とする非破壊型の検査方法と装置の提供。
【解決手段】
第1、第2の試料にそれぞれ照射するレーザ光を走査して得られた磁場分布の像を取得し(第1ステップ)、磁場分布の像に差がある場合に、第1、第2の試料の所定の箇所にレーザ光を照射した状態で磁場センサにて第1、第2の試料を走査することで取得された磁場分布からそれぞれ電流像を取得し(第2ステップ)、電流像間の差をとり、差像より、第1の試料と前記第2の試料の前記所定の箇所に関連する電流経路の差異を識別可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査装置と検査方法に関し、特に、走査レーザSQUID(Superconducting QUantam Interference Device;超伝導量子干渉素子)顕微鏡を用い、半導体装置の故障箇所の絞込みに好適な装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ等の試料の非破壊検査として、走査レーザSQUID顕微鏡法が知られている。走査レーザSQUID顕微鏡は、ある種の欠陥ではレーザを欠陥部あるいはその関連箇所に照射した際に電流が流れ、電流により誘起される磁場をSQUID磁束計で検出し、レーザあるいは試料を走査することにより像を得るものである(非特許文献1)。試料として半導体基板にレーザビームを照射すると、レーザビームの照射で発生した電子・正孔対がp−n接合部等の電界により電流となり、これをOBIC(Optical Beam Induced Current)電流という。あるいは、レーザビームを照射加熱の際に、欠陥等により生じる温度勾配の不均衡が生じ、熱電効果により流れる電流もある(非特許文献1、特許文献1等参照)。
【0003】
なお、特許文献2には、試料におけるレーザ光の照射位置を移動させて試料を走査し、試料の走査によってSQUID磁束計にて磁場を検出し、磁場分布データを取得し、磁場分布データと標準分布データの一方から他方を減算して差分データを生成し、差分データを正の第1閾値、負の第2閾値と比較し、差分データが第1閾値以上のとき、レーザ光照射位置に第1の種類の欠陥が存在すると判定し、差分データが第2閾値以下のとき、該照射位置に第2の種類の欠陥が存在すると判定する非破壊検査装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−313859号公報
【特許文献2】特開2004−93211号公報
【非特許文献1】二川 清、井上 彰二 ”走査レーザSQUID顕微鏡の試作・評価と故障・不良解析および工程モニタへの応用提案 −完全非接触・非破壊の新解析手法ー” LSIテスティングシンポジウム/2000 会議録(H12.11.9-10)、第203-208頁
【非特許文献2】Bradley J. Roth, Nestor G. Sepulveda, and John P. Wikswo, Jr., “Using a magnetometer to image a two-dimensional current distribution,”J. Appl. Phys. , 65 (1), 1 January 1989.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の走査レーザSQUID顕微鏡による検査手法で得られる像は、レーザ照射によるp−n接合等の光電流発生箇所を示すものであり、ショートや断線といった故障発生箇所ではない場合がある。このため、従来の検査手法では、特別な場合を除いて故障発生箇所を絞り込むことは困難である。
【0006】
すなわち、例えば非特許文献1等に示されているように、PolySi(ゲート電極)とn型拡散層の間のゲート酸化膜にショートが起こり、その下のp−n接合部で発生したOBIC電流がショート箇所を閉回路電流経路の一部として流れるような場合には、従来の走査レーザSQUID顕微鏡による検査手法で故障発生箇所を特定することも可能となる。しかしながら、従来の走査レーザSQUID顕微鏡による検査では、レーザ照射位置に対応した磁場情報が表示されるため、得られた磁場分布像は、もっぱら光電流発生源に対応したものとなり、光電流発生源に対応した位置と離れた箇所で生じた配線等のショートや断線といった類の欠陥(故障)に対応したものとはならない。その結果、従来の走査レーザSQUID顕微鏡により得られた像から、故障箇所の絞込みを、精度よく行うことは、著しく困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであって、試料とレーザビームの照射位置を相対的に移動させて試料を走査し磁気検出器にて磁場を検出し、試料と良品との磁場分布の像の差を検出する。試料の像に差がみられた箇所にレーザビームを照射し磁気検出器を走査して取得された磁場分布を電流像に変換し、試料と良品の電流像の差をとる。この差像から、故障箇所を、絞込み可能としている。
【0008】
本発明の1つのアスペクト(側面)に係る方法は、試料の予め定められた所定の箇所にレーザ光を照射しながら磁場検出器にて前記試料を走査することで磁場分布を取得し前記磁場分布から電流像を得る処理を、第1及び第2の試料についてそれぞれ行い、前記第1及び第2の試料のそれぞれについて得られた前記電流像の差をとり、前記電流像の差像より、前記第1及び第2の試料について前記所定の箇所に関連する電流経路の差異を識別可能としてなるものである。本発明において、前記所定の箇所は、前記第1及び第2の試料のそれぞれに照射するレーザ光の照射位置を、前記第1及び第2の試料に関して相対的に走査して得られた磁場分布の像に差がある場合に、前記磁場分布の像に差が認められた箇所に対応している。
【0009】
本発明の他のアスペクトに係る装置は、試料にレーザ光を照射する照射部と、磁場検出器と、前記試料における前記磁場検出器の位置を相対的に移動させて前記試料を走査する走査手段と、前記試料について所定の箇所に前記照射手段よりレーザ光を照射した状態で前記磁場検出器を走査することで取得された磁場分布の像から電流像を得る手段と、を備え、第1及び第2の試料のそれぞれについて所定の箇所に前記照射部よりレーザ光を照射し前記磁場検出器を走査することで取得された磁場分布の像から得た第1及び第2の電流像の差である差像を出力し、前記差像より、前記第1及び第2の試料の前記所定の箇所に関連する電流経路の差異の有無、及び、差異がある場合には前記差異のある箇所を識別可能としてなるものである。本発明においては、前記試料におけるレーザ光の照射位置を相対的に移動させて前記試料を走査する走査手段を備え、前記所定の箇所は、前記第1及び第2の試料に照射するレーザ光を、前記第1及び第2の試料上で走査して得られた磁場分布の像に差がある場合に、前記像に差がみられた箇所とされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ショートや断線といった欠陥の位置に対応した像を得ることを可能としており、非破壊での故障箇所の絞り込みを可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記した本発明についてさらに詳細に説述すべく添付図面を参照して以下に説明する。本発明においては、検査対象のサンプル(試料)とレーザビームの照射位置を相対的に移動させて試料を走査し磁気センサにて磁場を検出し、試料と良品との磁場分布の像の差を得る。試料と良品について磁場分布の像に差がみられた箇所にレーザビームを照射し磁場検出器を走査して取得された磁場分布を電流像に変換し、試料と良品の電流像の差をとることで、故障箇所の絞込みを可能としている。図1は、本発明の検査方法を説明するための図である。図2は、本発明の方法の処理フローを説明するための図である。
【0012】
本発明によれば、まず図1(A)に示すように、ICチップの裏面から、レーザビームを照射し、レーザビーム照射によりOBIC等の電流が流れると、磁場が誘起され、チップ主面側に配置され磁場検出器をなすSQUID磁束計にて磁束が検出される。ICチップ裏面にてレーザビームを走査し(あるいはレーザ光を固定し試料を移動させる)、SQUID磁束計で検出された磁束の強度を、チップの走査位置情報に対応させて、表示装置上に例えば階調表示(輝度表示)することで、磁場分布に対応した2次元像を得ることができる。なお、SQUID磁束計は磁場の強さに応じた出力電圧を出力し、信号処理装置(あるいはデータ処理装置)において、SQUID磁束計からの出力電圧を、レーザの照射位置に対応した画素の階調データに変換して表示装置に表示する。これにより、磁場分布の画像データが得られる。チップ裏面からレーザビームを照射するのは、ICチップのシリコン基板表面近傍のp−n接合部にレーザビームを到達させるためである(ICチップの主面側は、レーザビームが、ICチップのシリコン基板上層のメタル配線層等で反射し、シリコン基板表面近傍のp−n接合部に到達できない)。また、ウェハで検査する場合、好ましくは、ウェハ裏面を鏡面研磨(仕上げ)しておく。
【0013】
図1(A)の第1ステップの手法にしたがって、検査対象のICチップと、良品のICチップ(Known Good Device;「リファレンス・チップ」ともいう)のそれぞれの磁場分布の像を取得し(図2のステップS11、S12)、2つの磁場分布の像の差を取得する(図2のステップS13)。得られた差像から、光電流発生源に対応した磁束強度の差が存在する箇所が得られる。リファレンス・チップの磁場分布の像は予め取得しておき、記憶装置に蓄積しておき、検査対象のICチップの磁場分布と比較するとき、記憶装置から読み出して演算装置で差をとるか、あるいは表示装置に像の差を出力するようにしてもよい。
【0014】
次に、図2のステップS13で得られた差像から、検査対象のICチップとリファレンス・チップの像の間に、差がみられた場合、該差がみられた箇所に、図1(B)に示すように、レーザビームを固定させて照射し、SQUID磁束計を、試料表面上で走査する(図2のステップS2参照)。すなわち、検査対象のICチップとリファレンス・チップのそれぞれについて、図1(B)に示すように、レーザビームの照射箇所を固定して照射した状態で、SQUID磁束計をX−Y走査し、検査対象のICチップとリファレンス・チップの磁場分布の像(磁場像)を取得する(図2のステップS21、S22)。なお、SQUID磁束計を走査するかわりに、SQUID磁束計は固定しておき、レーザビームと試料を同時に走査するようにしてもよいことは勿論である。
【0015】
次に、検査対象のICチップとリファレンス・チップの磁場像をそれぞれ、2次元電流の分布を示す像に変換し、電流分布像を得(図2のステップS23、S24)、2つの電流分布の差像を得る(図2のステップS25)。この差像には、ショートや断線等の故障があった場合、該故障が、該故障箇所に対応した位置で表示される。
【0016】
なお、図1(A)、図1(B)の第1ステップと第2ステップでは、同一の装置を用いてもよいし、あるいは、第1ステップと第2ステップで、それぞれ別の装置を用いてもよい。例えば第1のステップのSQUID磁束計は大型として磁場検出精度を高精化し、一方、第2のステップで用いる装置では、SQUID磁束計として小型のものを用いてもよい。小型のSQUID磁束計は、高空間分解能を得るのに有効であるだけでなく、走査機構の小型化、軽量化等に有効である。以下、具体的な実施例に即して説明する。
【実施例】
【0017】
図3乃至図5は、本発明によるICチップの故障箇所の絞込みの過程の一実施例を説明するための模式図である。図3(A)に示すように、チップ(良品)には、p−n接合部eに一端が接続する配線aと配線bの他端の間にショートはない。一方、図3(B)に示すように、チップ(不良品)には、p−n接合部eに一端が接続する配線aと配線bの他端でショート欠陥が存在しているものとする。
【0018】
図4(A)は、図3(A)のチップに関して、図1(A)の第1のステップ(レーザビーム走査)で得られた磁場分布の像(画像データ)を示している。図4(B)は、図3(B)のチップの前記第1のステップ(レーザビーム走査)で得られた磁場分布の像(画像データ)を示している。なお、特に制限されないが、図4(A)、図4(B)の像では、磁束強度を階調に対応させており、磁束強度が強いほど階調は濃くなるようにしてある。
【0019】
図3(A)のチップ(良品)の場合、p−n接合部eへのレーザ照射により生成される電流は、p−n接合部eに接続し閉路を構成する配線cを流れる。またp−n接合部fへのレーザ照射により生成される電流は、p−n接合部fに接続し閉路を構成する配線dに流れる。p−n接合部eに一端が接続する配線aと配線bの他端同士はショートしてないため(オープン状態であるため)、配線a、bは電流ループを形成しない。
【0020】
一方、図3(B)のチップ(不良品)の場合、p−n接合部eに接続する配線a、bにはショート欠陥があるため、p−n接合部eへのレーザ照射により生成される電流は、p−n接合部e、配線a、bからなる閉路と、p−n接合部eと接続し閉路を構成する配線cに流れる。p−n接合部fへのレーザ照射により生成される電流は、p−n接合部fに接続し閉路を構成する配線dを流れる。
【0021】
図3(A)のチップの場合、p−n接合部eに関して1つの電流閉路cからの磁場が、SQUID磁束計で検出される(図4(A)参照)。図3(B)のチップの場合、p−n接合部eに関して2つの電流閉路からの合成磁場が、SQUID磁束計で検出される(図4(B)参照)。
【0022】
図4(A)と図4(B)の磁場分布像の差像を求めると、図4(C)が得られる。レーザ照射位置に対応した磁場の値ごとに差をとるようにしてもよいし、画素データごとに画像演算して差像を得るようにしてもよい。図4(C)の差像から、図3(A)のチップと図3(B)のチップにおいて、p−n接合部eに対応する磁場に差異があることがわかる。一方、図3(A)のチップと図3(B)のチップにおいて、p−n接合部fに対応する磁場分布は同一であるため、図4(C)の差像には、階調信号(輝度信号)として表示されない。なお、図4(C)の差像を得るための演算処理の過程において、差の値(あるいは差の絶対値)が所定の閾値を越えたら、差があることを示すようにしてもよいことは勿論である。
【0023】
前述したように、図4(C)の差像において、図3(A)と図3(B)のチップ間で差がある箇所は、p−n接合などの光電流発生箇所であり、必ずしもショートや断線といった故障発生箇所ではない。すなわち、前述したように、図4(C)の像だけからは、故障発生箇所は、特別な場合を除いて、特定できない。
【0024】
そこで、本実施例では、図3(A)のチップと図3(B)のチップについて、チップの基板表面のp−n接合部eに、チップ裏面からレーザビームを固定照射し、SQUID磁束計をチップ主面側で走査し、該走査で得られたチップの磁場分布の像(2次元データ)に対して、フーリエ変換を用いた変換を施して、2次元の電流値の像を得る。磁場分布に、フーリエ変換を利用した変換を施して電流分布を得る手法については、例えば非特許文献2が参照される。図5(A)は、このようにして得られた図3(A)のICチップの電流像であり、図5(B)は、図3(B)のチップの電流像である。
【0025】
図5(A)と図5(B)の電流像の差を画像演算により求めると、図5(C)の差像が得られる。図5(C)に示すように、電流差像として、図3(B)の配線a、bのショート欠陥による電流ループが、像として、表示装置に表示出力される。すなわち、図5(C)の電流差像は、図3(A)のチップと図3(B)のチップの電流経路の差異を表示したものであり、ショート欠陥の場合、図5(C)の電流経路の差像の一部がショート不良箇所である。図3(A)のチップ(良品)では、配線a、bの端部同士はオープンであることから、図3(B)のチップでは、図5(C)の差像より、配線a、bの端部同士がショートしていることがわかる。なお、図5(C)の電流差像を得る過程において、差の値(絶対値)が所定の閾値を越えた場合に、差があることを示すようにしてもよいことは勿論である。
【0026】
なお、ショート不良の例に即して説明したが、断線不良の場合も同様にして、電流像の差像から故障箇所を特定することができる。例えば、図3(B)のように、配線aと配線bの端部が接続されているものが良品であり、図3(A)のチップには断線不良(配線aと配線bが断線している)があるものとする。この場合、図5(B)が良品の電流像、図5(A)が不良品の電流像となり、これらの差をとると、図5(C)の電流差像が得られ、不良品には、図5(C)に示される電流ループが形成されていない、すなわち、断線している、ことがわかる。
【0027】
このように、本発明によれば、従来の検査手法では著しく困難とされていたチップのショートや断線等の物理故障の箇所を絞り込むことができる。すなわち、ショートや断線等の故障の特定等、半導体デバイスの不良解析に適用できることが確認された。
【0028】
図6(A)は、本発明を実施するための装置構成の一実施例を示す図である。図6(B)は、図6(A)の基準信号1、変調信号2、磁場信号4のタイミング波形の一例を説明する図である。図6(A)を参照すると、この検査装置は、所定の基準信号1に同期した変調信号2により強度変調された変調光を生成し、収束して変調ビーム61を生成する変調ビーム生成部10と、サンプル70が搭載され、サンプルの所定の照射位置に変調ビーム61が照射されるように移動させる試料台71と、サンプル70に変調ビーム61が照射されたときに生成される電流によって誘起される磁場(磁束)を検出し磁場信号4を出力する磁場検出部20と、磁場の強度と、基準信号1と磁場信号4の位相差6(図6(B)参照)を抽出し、それぞれ強度信号5と位相差信号7として出力する信号抽出部30と、変調ビーム61のサンプル70への照射の制御と照射位置情報に応じて試料台71の位置決め制御を行い、強度信号5と位相差信号7を入力し照射位置情報と対応させて出力するとともに、磁場分布の像に、フーリエ変換を用いた変換を施して電流像を取得する演算処理を行う制御部40と、強度信号5と位相差信号7の少なくとも1方と照射位置情報とを入力し画像表示する表示部50を備えている。
【0029】
変調ビーム生成部10は、基準信号1及び基準信号1に同期した変調信号2(図6(B)参照)を生成して出力するパルス発生器11と、変調機構を付属したファイバレーザ等で構成され、パルス発生器11から出力された変調信号2により強度変調された変調光(レーザ光)を発生するレーザ光発生器12と、レーザ光を導波する光ファイバ14と、光ファイバ14で導波された光を収束して変調ビーム61を生成する光学系ユニット13を備えている。
【0030】
磁場検出部20は、SQUID磁束計21と、SQUID磁束計21を制御しSQUID磁束計21の出力信号3(電圧出力)から磁場信号4を生成して出力する電子回路(「SQUID電子回路」ともいう)22を備えている。例えばSQUID磁束計21は、高温超伝導型SDQUID磁束計が用いられる。電子回路22は、FLL(Flux-Locked Loop)回路を用いることができる。
【0031】
特に制限されないが、信号抽出部30は、例えば2位相ロックインアンプ(不図示)から構成されており、電子回路22から磁場信号4を入力し、パルス発生器11から基準信号1を入力し、磁場信号4から基準信号1と同じ周波数成分を抽出し、強度信号5と、磁場信号4と基準信号1の位相差6(図6(B)参照)に応じた位相差信号7を出力する。
【0032】
制御部40は、例えばステージ走査信号により試料台71(サンプル70)の位置を制御し、図1(A)の第1ステップ等において、必要に応じて、レーザ走査信号により変調ビーム生成部10の光学系ユニット13を制御し、変調ビーム61をサンプル70上で走査させながら、サンプル70に照射する。一方、図1(B)の第2ステップでは、試料台71と光学系ユニット13を固定し、変調ビーム61の照射位置をサンプル70の所定の箇所に位置決めして該位置に固定照射し、制御部40からのSQUID磁束計の走査信号(不図示)により、SQUID磁束計21をX−Y走査させるようにしてもよい。あるいは、SQUID磁束計21は固定し、変調ビーム61の照射位置をサンプル70の所定の箇所に位置決めし試料台71と光学系ユニット13を一体でX−Y走査することで、SQUID磁束計21による磁場の走査を行うようにしてもよい。
【0033】
また、制御部40は、信号抽出部30から強度信号5と位相差信号7を取り込み、ステージ走査、レーザ光照射位置、あるいはSQUID磁束計の走査と同期させて、走査レーザSQUID顕微鏡像として表示するための制御を行う。図1(A)の第1ステップでのレーザ走査の場合、制御部40は、変調ビーム61の照射位置情報と当該照射位置情報に対応する強度信号5や位相差信号7の組合わせで、画像表示信号8を出力する。図1(B)の第2ステップでのSQUID磁束計の走査の場合、制御部40は、SQUID磁束計の位置情報と該位置情報に対応する強度信号5や位相差信号7の組合わせに対応して得られた電流分布を表示するための、画像表示信号8を出力する。
【0034】
表示部50は、PC(パソコン)51とディスプレイ52を備え、制御部40からの画像表示信号8を受けて、レーザビーム走査位置(第1ステップ)での磁場に対応する磁場信号4の強度像81あるいは基準信号1との位相差に対応した位相差像82を出力する。あるいは、SQUID磁束計の走査位置(第2ステップ)での磁場に対応する電流の強度像81あるいは位相差像82を出力する。なお、図3乃至図5の上記説明では、説明を簡単にするために、磁場分布の画像は一種類として示したが、図6(A)に示すように、好ましくは、強度像81と位相差像82が用いられる。
【0035】
次に、図6に示した本実施例の装置の動作の一例を説明する。本実施例において、サンプル70として、ICチップ、Siウェハ等が用いられる。化合物半導体ウェハ、TFT基板等であってもよいことは勿論である。サンプル70を試料台71に搭載し、パルス発生器11で基準信号1とこれに同期した変調信号2を生成し、基準信号を信号抽出部30に出力し、変調信号2を変調機能を内蔵したファイバレーザ(例えば波長は1065nm)で構成したレーザ光発生器12に出力し、強度変調を施したレーザ光を発生させ、光ファイバ14で光学系ユニット13に導きサンプル70上に変調ビーム(レーザビーム)を絞り込む。
【0036】
変調ビーム61を最初の照射点に照射し、サンプル70からの磁気をSQUID磁束計21で検出し、電子回路22から磁場信号4として出力する。この磁場信号4を信号抽出部30に入力し、信号抽出部30は強度信号5と位相差信号7を制御部40に出力する。
【0037】
制御部40は、強度信号5と位相差信号7を変調ビーム61の照射位置と対応させて画像表示信号8としてPC51に出力し、PC51は、PC51の記憶部に、強度信号5と位相差信号7を記憶する。
【0038】
ステージ走査信号による試料台71のX−Y走査、必要に応じてレーザ走査信号による変調ビーム61の走査を組合わせて、サンプル70の所望の被検査領域の各照射点を順次選択し、変調ビーム61を照射し、強度信号5と位相差信号7を当該照射点の位置情報と対応させて画像表示信号8としてPC51の記憶部に記憶する処理を行う。
【0039】
PC51は、ディスプレイ52に強度信号5又は位相差信号7に応じた階調(輝度)で表示し(カラー表示であってもよい)、図1(A)の第1ステップでは、図4(A)、図4(B)に示したように、サンプル70のレーザ照射点に対応させて表示する。この場合、強度信号5に対応した強度像81と位相差信号7に対応した位相差像82の一方を表示するようにしてもよい。走査点に対応させて磁場の像をリアルタイムで表示していくようにしてもよいし、1つのサンプルの各走査位置における強度信号5と位相差信号7に応じた階調(輝度)を、記憶部に該走査位置に対応して記憶しておき、1つのサンプルの全ての走査が終了した時点で、あるいは、その後、任意の時点で、オフラインで、記憶部に走査位置に対応して記憶されている強度信号5と位相差信号7に応じた階調(輝度)の像をディスプレイ52に表示するようにしてもよい。出力装置として、ディスプレイ以外にも、プリンタあるいはファイル装置等に出力してもよいことは勿論である。
【0040】
本実施例では、レーザ光発生器12として変調機構を付属したファイバレーザを用いることにより、変調信号2の周波数を、例えば最大1MHzまで任意の値に設定することができる。変調周波数の選択において、磁場信号が微弱でS/N(信号対雑音)比が悪い場合、ノイズの少ない周波数を選択する必要がある。また変調ビームの照射による光電流が誘起した磁場の信号(「レーザ励起磁場信号」という)の周波数依存性が大である場合には、レーザ励起磁場信号が大となる周波数を選択することでS/N比を改善するようにしてもよい。サンプル70の場所により、レーザ誘起磁場信号の周波数依存性が大きく異なる場合、いくつかの変調周波数を選択する必要がある。本実施例では、波長1065nmのレーザ光を用いているので、サンプル70がSiウェハの場合、その裏面からレーザ光を照射し、Si基板を透過し、Siウェハ表面近傍のp−n接合部へ変調ビームを到達させることができる。Siウェハ裏面を鏡面研磨しておくことが好ましい。Siウェハ裏面から照射された変調ビーム61を効率よくp−n接合部に到達させることができる。
【0041】
SQUID磁束計21として、HTS(高温超伝導)のSQUID磁束計を用い、1pT以下の微小な磁束密度Bを検出することが可能である。なお、磁気シールド65を備えている。SQUID磁束計は、通常サンプル70と垂直方向に磁束を検出する。
【0042】
電子回路22から出力される磁場信号4には、通常、ノイズが混入しているため、変調周波数と同じ周波数成分のみを、2位相ロックインアンプ(信号抽出部30)で取り出すことでS/N比を改善している。信号抽出部30として、2位相ロックインアンプを用いることで、パルス発生器11から出ている基準信号1と同じ周波数成分のみを取り出せるだけでなく、その成分の基準信号1との位相差信号7と強度信号5を分離して出力することができる。チップの大きさを例えば6mmx10mmとし、変調ビーム61のビーム径を10μmに絞り、セラミックステージで構成した試料台71をX−Y走査することで、磁場分布像が得られる。変調周波数は例えば100KHzとしている。チップの強度像81と位相差像82が得られる。
【0043】
図1(B)の第2ステップでは、サンプル70における変調ビーム61の照射位置を固定とし(例えば図3(A)、(B)のp−n接合部eに対応する箇所を固定照射)、SQUID磁束計21をサンプル70に対して走査させて磁場分布を取得する。この場合、SQUID磁束計21を制御部40からの制御信号にしたがってX−Y方向に移動させてもよいし、あるいは、SQUID磁束計を固定し、変調ビーム61の照射位置をサンプル70上に固定させた状態でサンプル70と変調ビーム61の照射位置を一体でX−Y方向に移動させるようにしてもよい。この第2ステップにおいても、電子回路22から出力される磁場信号4を入力する信号抽出部30にて、強度信号5と位相差信号7を出力し、制御部40は、走査位置に対応させて、記憶部に強度信号5と位相差信号7を走査位置に対応して記憶しておく。1つのサンプル70の走査終了後、記憶部に走査位置に対応して記憶されている磁場分布の2次元データにフーリエ変換を用いた変換を施して2次元の電流分布データを得る。そして、表示部50では、SQUID磁束計21の走査位置に対応させて、電流分布の像を、ディスプレイ52に階調表示する。
【0044】
なお、図6(A)に示した構成は、磁場検出部からの磁場信号より強度信号と、磁場信号と基準信号の位相差を示す位相差信号を別々に出力する例に即して説明したが、強度信号のみを出力する構成にも適用できることは勿論である。
【0045】
以上本発明を上記実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例の構成にのみ限定されるものでなく、本発明の範囲内で当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施形態を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施例の装置構成を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 基準信号
2 変調信号
3 SQUID出力信号
4 磁場信号
5 強度信号
6 位相差
7 位相差信号
8 画像表示信号
10 変調ビーム生成部
11 パルス発生器
12 レーザ光発生器
13 光学系ユニット
14 光ファイバ
20 磁気検出部
21 SQUID磁束計
22 電子回路(SQUID電子回路)
30 信号抽出部
40 制御部
50 表示部
51 PC(パーソナルコンピュータ)
52 ディスプレイ
61 変調ビーム
63 磁場(磁束)
65 磁気シールド
70 サンプル
71 試料台
81 強度像
82 位相差像
100 検査装置(非破壊解析装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)試料の予め定められた所定の箇所にレーザ光を照射しながら磁場検出器にて前記試料を走査することで磁場分布を取得し前記磁場分布から電流像を得る処理を、第1及び第2の試料についてそれぞれ行い、
(B)前記第1及び第2の試料のそれぞれについて得られた前記電流像の差をとり、
前記電流像の差像より、前記第1及び第2の試料について前記所定の箇所に関連する電流経路の差異を識別可能としてなる、ことを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記所定の箇所は、前記第1及び第2の試料のそれぞれに照射するレーザ光の照射位置を、前記第1及び第2の試料に関して相対的に走査して得られた磁場分布の像に差がある場合に、前記磁場分布の像に差が認められた箇所に対応している、ことを特徴とする請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記(A)の処理の前に、
前記第1の試料とレーザ光の照射位置とを相対的に移動させて前記第1の試料を走査し磁場検出器にて、第1の磁場分布を取得し、
前記第2の試料とレーザ光の照射位置とを相対的に移動させて前記第2の試料を走査し磁場検出器にて第2の磁場分布を取得し、
前記第1の試料について得られた第1の磁場分布と、前記第2の試料について得られた第2の磁場分布に差がある場合、前記第1の試料と前記第2の試料のそれぞれについて、差がみられた箇所を、前記所定の箇所として、前記(A)の処理を行い、その際、レーザ光を前記所定の箇所に固定照射し、前記磁場検出器を走査することで、第3の磁場分布の像と第4の磁場分布の像をそれぞれ取得し、
前記(B)の処理として、
前記第1及び第2の試料のそれぞれについて得られた前記第3及び第4の磁場分布の像をそれぞれ第1及び第2の電流像に変換し、
前記第1及び第2の試料について得られた第1及び第2の電流像との差をとり、
前記第1及び第2の電流像の差像より、前記第1の試料と前記第2の試料における前記レーザ光の固定照射箇所に関連する電流経路の差異の有無、及び、差異がある場合には前記差異のある箇所を識別可能としてなる、ことを特徴とする請求項1記載の検査方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の試料の一方が検査対象の試料であり、前記第1及び第2の試料の他方が基準となる良品試料であり、
前記検査対象の試料の故障箇所の絞込みを可能としてなる、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の検査方法。
【請求項5】
前記レーザ光として、基準信号に同期した変調信号に基づいて強度変調された変調光を生成し、前記試料上に収束させてなる変調ビームを用い、
前記磁場検出器で検出された磁場信号と前記基準信号に基づいて、磁場の強度と、磁場信号と基準信号の位相差を導出し、強度信号と位相差信号として出力し、
前記強度信号及び/又は前記位相差信号を、走査位置情報に対応させて表示する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の検査方法。
【請求項6】
前記磁場検出器が、SQUID(超伝導量子干渉器)磁束計を含む、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の検査方法。
【請求項7】
試料にレーザ光を照射する照射部と、
磁場検出器と、
前記試料における前記磁場検出器の位置を相対的に移動させて前記試料を走査する走査手段と、
前記試料について所定の箇所に前記照射手段よりレーザ光を照射した状態で前記磁場検出器を走査することで取得された磁場分布の像から電流像を得る手段と、
を備え、
第1及び第2の試料のそれぞれについて所定の箇所に前記照射部よりレーザ光を照射し前記磁場検出器を走査することで取得された磁場分布の像から得た第1及び第2の電流像の差である差像を出力し、前記差像より、前記第1及び第2の試料の前記所定の箇所に関連する電流経路の差異の有無、及び、差異がある場合には前記差異のある箇所を識別可能としてなる、ことを特徴とする検査装置。
【請求項8】
前記第1及び第2の試料の前記所定の箇所に関連する電流経路の差異を像として出力する出力装置を備えている、ことを特徴とする請求項7記載の検査装置。
【請求項9】
前記試料におけるレーザ光の照射位置を相対的に移動させて前記試料を走査する走査手段をさらに備え、
前記所定の箇所は、前記第1及び第2の試料に照射するレーザ光を、前記第1及び第2の試料上で走査して得られた磁場分布の像に差がある場合に、前記像に差がみられた箇所である、ことを特徴とする請求項7記載の検査装置。
【請求項10】
前記走査手段は、前記試料におけるレーザ光の照射位置を相対的に移動させて前記試料を走査し、その際、前記試料に対して前記磁場検出器の位置は相対的に固定され、
前記磁場検出器は、前記試料に対して相対的に固定された状態で、前記レーザ光の照射により前記試料に流れる電流により誘起される磁場を検出し、
前記第1の試料と前記第2の試料のそれぞれについて、レーザ光で走査し、各試料に対して相対的に固定された前記磁場検出器により得られた磁場分布の像に差がある場合には、前記第1及び第2の試料のそれぞれについて、前記磁場分布の像に差がみられた箇所を、前記所定の箇所として、前記照射部よりレーザ光を固定照射し、前記走査手段により前記試料における前記磁場検出器の位置を相対的に移動させて前記試料を走査して取得された磁場分布の像を電流像に変換して第1及び第2の電流像を得、前記第1及び第2の電流像との差をとる手段と、
前記第1及び第2の電流像の差を出力する出力装置と、
を備え、前記第1及び第2の試料の前記レーザ光の照射箇所に関連する電流経路の差異の有無、差異がある場合には前記差異のある箇所を識別可能としてなる、ことを特徴とする請求項7記載の検査装置。
【請求項11】
前記レーザ光として、基準信号に同期した変調信号に基づいて強度変調された変調光を生成し、収束させてなる変調ビームを照射する手段を備え、
前記磁場検出器で検出された磁場信号と前記基準信号に基づいて、前記磁場の強度と、磁場信号と基準信号の位相差とを導出し、強度信号と位相差信号として生成する手段と、
前記強度信号及び/又は前記位相差信号を、走査位置情報に対応させて表示する手段と、
を備えている、ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一に記載の検査装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の試料の一方が検査対象の試料であり、他方が基準となる良品試料であり、
前記検査対象の試料の故障の絞込みを可能としてなる、ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一に記載の検査装置。
【請求項13】
前記磁場検出器が、SQUID(超伝導量子干渉器)磁束計を含む、ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−258479(P2006−258479A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73309(P2005−73309)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】