説明

走行車両

【課題】走行機体に搭載されたエンジンの動力を変速する油圧式無段変速機構の制御手段に異常が生じた場合に、圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を実行出来るようにする。
【解決手段】走行車両は、左右の走行部に伝達する油圧式無段変速機構と、走行機体1の直進速度を変更操作する直進操作具と、走行機体の進行方向を変更操作する旋回操作具と、油圧式無段変速機構の変速出力を調節する電気的アクチュエータ272,270と、各操作具の操作量に応じて電気的アクチュエータ272,270を駆動させる制御手段とを備える。油圧式無段変速機構には、その変速出力を電気的アクチュエータ272,270とは別個に手動操作するための緊急手動操作具355,356を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行車両としてのコンバインにおいて、走行機体に搭載されたエンジンの動力を変速する油圧式無段変速機構を電気的に制御する技術は知られている(特許文献1参照)。特許文献1のコンバインでは、主変速レバー等の操作量に応じて電気的アクチュエータを駆動させることによって、油圧式無段変速機構の変速出力を調節し、走行機体の直進及び旋回を実行するように構成されている。そして、主変速レバー等の操作量を検出する操作量検出センサに誤差や故障が生じた場合は、主変速レバー等以外の別のスイッチを用いて油圧式無段変速機構を操作し、走行機体を確実に停止させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−308531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のコンバインでは、例えば電気的アクチュエータを駆動させる制御手段(コントローラ)に異常が生じた場合を全く考慮していないだけでなく、操作量検出センサに不具合が生じた場合は走行機体を停止させるしかないから、例えば圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を行えないという問題があった。
【0005】
そこで、本願発明は、前述の問題を解消した走行車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、走行機体に搭載されたエンジンの動力を変速して左右の走行部に伝達する油圧式無段変速機構と、前記走行機体の直進速度を変更操作する直進操作具と、前記走行機体の進行方向を変更操作する旋回操作具と、前記油圧式無段変速機構の変速出力を調節する電気的アクチュエータと、前記各操作具の操作量に応じて前記電気的アクチュエータを駆動させる制御手段とを備えている走行車両であって、前記油圧式無段変速機構には、その変速出力を前記電気的アクチュエータとは別個に手動操作するための緊急手動操作具が設けられているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した走行車両において、前記電気的アクチュエータによって前記変速出力を調節する場合は、前記緊急手動操作具が前記電気的アクチュエータの駆動に連動して動作するように構成されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した走行車両において、前記緊急手動操作具を手動操作した場合は、前記制御手段による前記電気的アクチュエータの駆動制御を禁止するように構成されているというものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、例えば前記制御手段に異常が生ずるというような電気系トラブルが生じた場合であっても、前記緊急手動操作具を手動操作すれば、前記直進操作具や前記旋回操作具が効かない状態で、例えば圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を実行できる。従って、コンバインにおいて緊急事態への対処の選択肢が増え、コンバインの取り扱い性向上に寄与するという効果を奏する。
【0010】
請求項2の発明によると、前記緊急手動操作具の動作から、前記油圧式無段変速機構の作動状態を簡単に視認できる。前記直進操作具及び前記旋回操作具と、前記油圧式無段変速機構との間に機械的な連結構造を備えず、これらの間を電気的に制御する場合において、前記直進操作具及び前記旋回操作具と、前記油圧式無段変速機構とに関する動作トラブルを早期に発見し易くなるという効果を奏する。
【0011】
請求項3の発明によると、前記緊急手動操作具を手動操作した場合に、前記電気的アクチュエータによる前記油圧式無段変速機構の変速出力調節が併存することはなくなる。このため、前記油圧式無段変速機構、ひいては、前記走行機体がオペレータの意図に反して不安定な挙動をするおそれを確実に回避できる。前記緊急手動操作具を手動操作する際の走行安全性を確保できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】6条刈り用コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】コンバインの右側面図である。
【図4】刈取装置の側面説明図である。
【図5】刈取装置の平面説明図である。
【図6】コンバインの駆動系統図である。
【図7】ミッションケース等の駆動系統図である。
【図8】コンバインの油圧回路図である。
【図9】エンジン及びミッションケースの左側面図である。
【図10】エンジン及びミッションケースの平面図である。
【図11】エンジン及びミッションケースを後方左斜め上方から見た斜視図である。
【図12】エンジン及びミッションケースの伝動系説明図である。
【図13】走行機体の正面説明図である。
【図14】ミッションケースの平面図である。
【図15】ミッションケースの左側面図である。
【図16】変速操向コントローラの機能ブロック図である。
【図17】コンバインにおける変速操向制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の前進方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく前進方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0014】
(1).コンバインの全体構造
図1〜図3を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。図1〜図3に示す如く、コンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備える。走行機体1の前部には、穀稈を刈取りながら取込む6条刈り用の刈取装置3が、昇降アクチュエータとしての単動式の昇降用油圧シリンダ4によって、横軸である刈取入力ケース16(詳細は後述する)回りに昇降調節可能に装着される。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀物タンク7とが横並び状に搭載される。なお、脱穀装置5が走行機体1の前進方向左側に、穀物タンク7が走行機体1の前進方向右側に配置される。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀物タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀物タンク7の前側方には、運転キャビン10が設けられている。
【0015】
運転キャビン10内には、旋回操作具としての操縦ハンドル11と、運転座席12と、直進操作具としての主変速レバー43と、副変速スイッチ44と、脱穀クラッチ及び刈取クラッチを入り切りする作業クラッチレバー45とが配置されている。なお、運転キャビン10には、オペレータが搭乗するステップ357(図10、図12及び図13参照)と、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラム46と、前記各レバー43,45及びスイッチ44等を設けたレバーコラム47とが配置されている。走行機体1における運転座席12の下方には、動力源としてのエンジン14が配置されている。
【0016】
図1及び図3に示す如く、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置する。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン14の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持する。
【0017】
図1に示す如く、刈取装置3の骨組みを構成する刈取フレーム221の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置される。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン14にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取る。
【0018】
(2).刈取装置の構造
次に、図4及び図5を参照して刈取装置3の構造を説明する。図4及び図5に示す如く、刈取フレーム221は、走行機体1の前部左側にある軸受台15に回動可能に支持された刈取入力ケース16と、刈取入力ケース16から前方に向けて延長する縦伝動ケース18と、縦伝動ケース18の前端側で左右方向に向けて延長する横伝動ケース19と、横伝動ケース19に連結する6条分の分草フレーム20とによって構成されている。分草フレーム20の前端側に6条分の分草体225が配置されている。機体左右方向に水平に横架した刈取入力ケース16内には、エンジン14からの動力が伝達される刈取り入力軸17が組込まれている。
【0019】
穀稈引起装置223は、分草板225によって分草された未刈穀稈を起立させる複数の引起タイン128を有する6条分の引起ケース129を有する。穀稈搬送装置224は、右側2条分の引起ケース129から導入される右側2条分の穀稈の株元側を掻込む右スターホイル130R及び右掻込ベルト131Rと、左側2つの引起ケース129から導入される左側2条分の穀稈の株元側を掻込む左スターホイル130L及び左掻込ベルト131Lと、中央2つの引起ケース129から導入される中央2条分の穀稈の株元側を掻込む中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cとを有する。刈刃装置222は、右スターホイル130R及び右掻込ベルト131R、左スターホイル130L及び左掻込ベルト131L、中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cによって掻込まれた6条分の穀稈の株元を切断するバリカン形の左右の刈刃132を有する。
【0020】
また、穀稈搬送装置224は、右スターホイル130R及び右掻込ベルト131Rによって掻込まれた右側2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送する右株元搬送チェン133Rと、左スターホイル130L及び左掻込ベルト131Lによって掻込まれた左側2条分の刈取穀稈の株元側を右株元搬送チェン133Rの搬送終端部に合流させる左株元搬送チェン133Lと、中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cによって掻込まれた中央2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送して右株元搬送チェン133Rの搬送途中に合流させる中央株元搬送チェン133Cを有する。左右及び中央の株元搬送チェン133R,133L,133Cによって、右株元搬送チェン133Rの搬送終端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を合流させる。
【0021】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン133Rから6条分の刈取穀稈の株元側を受継ぐ穀稈搬送手段としての縦搬送チェン134と、縦搬送チェン134の搬送終端部からフィードチェン6の搬送始端部に6条分の刈取穀稈の株元側を搬送する補助搬送手段としての補助株元搬送チェン135とを有する。縦搬送チェン134から、補助株元搬送チェン135を介して、フィードチェン6の搬送始端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を搬送する。更に、穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン133Rにて搬送される右側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する右穂先搬送タイン137Rと、左株元搬送チェン133Lにて搬送される左側2条分の刈取穀稈の穂先側を後方に搬送して右穂先搬送タイン137Rの搬送途中に合流させる左穂先搬送タイン137Lと、中央株元搬送チェン133Cにて搬送される中央2条分の刈取穀稈の穂先側を後方に搬送して右穂先搬送タイン137Rの搬送途中に合流させる中央穂先搬送タイン137Cとを有する。脱穀装置5の扱胴226設置室内に、刈取装置3で刈取った6条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する。
【0022】
(3).脱穀装置の構造
次に、図1及び図2を参照して脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示す如く、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230を備えている。なお、扱胴226の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀される。
【0023】
図1に示す如く、揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。前述した揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、排塵ファン230並びに選別ファン241等によって、穀物選別機構245を構成している。
【0024】
図1に示す如く、揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網237から漏下した脱穀物が、フィードパン238及びチャフシーブ239によって揺動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀物タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ233を介して穀物タンク7に搬入され、穀物タンク7に収集される。
【0025】
また、図1に示す如く、揺動選別盤227は、揺動選別(比重選別)によってチャフシーブ239から枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ232に落下させるように構成している。チャフシーブ239の下方に落下する二番物を風選する選別ファン241を備える。チャフシーブ239から落下した二番物は、その穀粒中の粉塵及び藁屑が選別ファン241からの選別風によって除去され、二番コンベヤ232に落下する。二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀物タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、還元コンベヤ236を介して、フィードパン238の後部(チャフシーブ239の前部)の上面側に連通接続され、二番物を揺動選別盤227の上面側に戻して再選別するように構成している。
【0026】
一方、図1及び図2に示す如く、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234と排藁カッタ235が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後部に設けられた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出される。
【0027】
(4).コンバインの駆動構造
次に、図6を参照しながら、コンバインの駆動構造(刈取装置3、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン234、排藁カッタ235等の駆動構造)について説明する。図6に示す如く、エンジン14の左側にその出力軸150を突出する。エンジン14の出力軸150に走行駆動ベルト151を介してミッションケース88の走行入力軸152を連結し、エンジン14の回転駆動力が、前側の出力軸150からミッションケース88に伝達されて変速された後、左右の車軸153を介して左右の走行クローラ2に伝達され、左右の走行クローラ2がエンジン14の回転力によって駆動されるように構成している。
【0028】
図6に示す如く、エンジン14を冷却するラジエータ等のための冷却ファン154が、エンジン14の右側に突出した出力軸150に設けられている。また、エンジン14の右側の出力軸150に排出オーガ駆動軸157を連結し、エンジン14の回転駆動力によって排出オーガ駆動軸157を介して排出オーガ8が駆動され、穀物タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。また、図6に示す如く、脱穀装置5の各部にエンジン14の回転駆動力を伝える脱穀選別作業入力軸165と、扱胴226及び処理胴230に脱穀選別作業入力軸165の回転駆動力を伝える脱穀駆動軸160を備える。エンジン14の左側の出力軸150には、テンションローラ形脱穀クラッチ161及び脱穀駆動ベルト162を介して、脱穀選別作業入力軸165を連結する。脱穀駆動軸160上に、扱胴低速ギヤ及び扱胴高速ギヤを配置する。脱穀選別作業入力軸165の回転力が、扱胴低速ギヤ又は扱胴高速ギヤを介して脱穀駆動軸160に伝達される。
【0029】
脱穀駆動軸160には、扱胴駆動ベルト117を介して、扱胴226を軸支した扱胴軸163と処理胴230を軸支した処理胴軸164とを連結する。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、扱胴226及び処理胴230が所定回転数(低速回転数又は高速回転数)で回転するように構成している。また、エンジン14の略一定回転数の回転力によって、脱穀選別作業入力軸165を介して、揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、選別ファン241、排塵ファン230が略一定回転数で回転するように構成している。
【0030】
図6〜図8に示す如く、ミッションケース88には、1対の直進用第1油圧ポンプ55及び直進用第1油圧モータ56を有する直進(走行主変速)用の油圧式無段変速機構53と、1対の旋回用第2油圧ポンプ57及び旋回用第2油圧モータ58を有する旋回用の油圧式無段変速機構54とを設けている。第1油圧ポンプ55と第2油圧ポンプ57とに、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。ミッションケース88にPTO軸99を配置する。PTO軸99は第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。
【0031】
走行機体1上のうちエンジン14の左側方で且つ脱穀装置5の前側方に、カウンタギヤケース89(図5、図9、図11及び図15参照)を設けている。カウンタギヤケース89には、上述した脱穀駆動軸160と、脱穀駆動軸160に連結する脱穀選別作業入力軸165と、PTO軸99に連結する車速同調軸100と、脱穀選別作業入力軸165又は車速同調軸100に連結する刈取伝動軸101と、刈取り入力軸17に連結する刈取駆動軸102と、フィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136を駆動するフィードチェン駆動軸103とを配置している。
【0032】
カウンタギヤケース89内の車速同調軸100上に、車速同調軸100の車速同調回転力を伝える一方向クラッチを設ける。車速同調軸100に、刈取変速機構と一方向クラッチとを介して刈取伝動軸101を連結する。刈取変速機構は低速側変速ギヤと高速側変速ギヤとを有する。低速及び中立(零回転)及び高速の各刈取変速を行う刈取変速操作手段によって低速側変速ギヤ又は高速側変速ギヤを刈取伝動軸101に択一的に係合させ、車速同調軸100から刈取変速機構を介して刈取伝動軸101に刈取変速出力を伝えるように構成している。
【0033】
脱穀選別作業入力軸165に一定回転機構を介して刈取伝動軸101を連結する。一定回転機構は低速側一定回転ギヤと高速側一定回転ギヤとを有する。刈取伝動軸101にトルクリミッタを介して刈取駆動軸102を連結する。刈取駆動軸102に、刈取駆動プーリ124及び刈取駆動ベルト125を介して刈取り入力軸17を連結させ、刈取装置3に刈取駆動軸102から刈取駆動力を伝達させる。刈取作業の維持に必要な一定回転数の回転出力が低速側一定回転ギヤを介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。従って、走行機体1の移動速度に関係なく、低速側一定回転ギヤからの一定回転数で刈取り入力軸17を作動させて刈取作業を維持でき、圃場の枕地での方向転換作業性等を向上できる。
【0034】
また、車速同調軸100及び高速側変速ギヤからの車速同調出力の最高速よりも速い一定回転数の回転出力が高速側一定回転ギヤを介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。従って、車速同調出力の最高速よりも速い高速側一定回転ギヤからの一定回転数で刈取り入力軸17を駆動でき、倒伏穀稈の刈取り作業性等を向上できる。なお、トルクリミッタにて設定したトルク以下の回転力で刈取り入力軸17を駆動させることによって、刈刃132等が損傷するのを防止している。
【0035】
カウンタギヤケース89には、脱穀選別作業入力軸165にフィードチェン駆動軸103を連結する遊星ギヤ形変速構造のフィードチェン同調機構が設けられている。脱穀選別作業入力軸165の回転出力が、フィードチェン同調機構によって刈取伝動軸101の回転数に比例して変速されて、フィードチェン駆動軸103に伝達される。即ち、フィードチェン同調機構を介してフィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136を作動することによって、穀稈の搬送に必要な最低回転数(低速側一定回転ギヤからの一定回転数)を確保しながら、フィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136の穀稈搬送速度を車速と同調させて変更可能に構成している。
【0036】
図6に示す如く、刈取り入力軸17に、縦伝動軸140及び横伝動軸141及び左搬送駆動軸142を介して引起横伝動軸143を連結する。引起横伝動軸143は、6条分の各引起ケース129の引起タイン駆動軸144にそれぞれ連結している。分草体225の後方で且つ分草フレーム20の上方に引起ケース129が立設され、引起ケース129の背面上部側から引起タイン駆動軸144を突出させている。引起タイン駆動軸144及び引起横伝動軸143を介して、複数の引起タイン128を設けた引起タインチェン128aが駆動するように構成されている。
【0037】
図6に示す如く、横伝動軸141に左右のクランク軸145を介して左右の刈刃132を連結する。横伝動軸141を介して左右の刈刃132を連動させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置222は、6条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃132を形成し、左右の刈刃132を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃132の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
【0038】
図6に示す如く、刈取り入力軸17に縦伝動ケース18内の縦伝動軸140の一端側を連結する。縦伝動軸140の他端側に横伝動ケース19内の横伝動軸141を連結する。縦伝動軸140及び横伝動軸141から、穀稈搬送装置224の各駆動部に刈取り入力軸17の回転力を伝える。すなわち、縦伝動軸140には右搬送駆動軸146を連結している。縦伝動軸140及び右搬送駆動軸146を介して、右株元搬送チェン133Rと、右スターホイル130R及び右掻込ベルト131Rと、縦搬送チェン134とを駆動するように構成している。また、縦伝動軸140のうち右搬送駆動軸146より後方には後搬送駆動軸147を連結している。縦伝動軸140及び後搬送駆動軸147を介して、補助株元搬送チェン135及び右穂先搬送タイン137Rを駆動するように構成している。
【0039】
また、横伝動軸141の左端側に左搬送駆動軸142を連結している。左搬送駆動軸142を介して、左株元搬送チェン133L及び左穂先搬送タイン137Lと、左スターホイル130L及び左掻込ベルト131Lとを駆動するように構成している。また、横伝動軸141に中央搬送駆動軸148を連結し、中央搬送駆動軸148を介して、中央株元搬送チェン133C及び中央穂先搬送タイン137Cと、中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cとを駆動するように構成している。
【0040】
(5).ミッションケースの動力伝達構造
次に、図6及び図7を参照して、ミッションケース88の動力伝達構造を説明する。図6及び図7に示す如く、ミッションケース88に、1対の直進用第1油圧ポンプ55及び直進用第1油圧モータ56を有する直進(走行主変速)用の油圧式無段変速機構53と、1対の旋回用第2油圧ポンプ57及び旋回用第2油圧モータ58を有する旋回用の油圧式無段変速機構54とを設ける。第1油圧ポンプ55と、第2油圧ポンプ57に、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。走行入力軸152上に走行入力プーリ155を設け、走行入力プーリ155に走行駆動ベルト151を掛け回している。ミッションケース88にPTO軸99を配置している。PTO軸99は、直進用モータ軸60及び主変速出力用カウンタ軸70を介して、第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。PTO軸99上にPTOプーリ119を設け、PTOプーリ119にPTOベルト120を掛け回している。
【0041】
図7に示す如く、エンジン14の出力軸150から出力される駆動力は、走行駆動ベルト151及び走行入力軸152を介して、第1油圧ポンプ55のポンプ軸59及び第2油圧ポンプ57のポンプ軸59にそれぞれ伝達される。直進用油圧式無段変速機構53では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用油圧式無段変速機構54では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。なお、ポンプ軸59には、油圧ポンプ55,57及び油圧モータ56,58に作動油を供給するためのチャージポンプ251が取付けられている。
【0042】
直進用油圧式無段変速機構53は、運転キャビン10に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における斜板55aの傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。図7に示す如く、直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構50から副変速機構51に伝達される。副変速機構51は、副変速シフタ64によって切換える副変速低速ギヤ62及び副変速高速ギヤ63を有する。レバーコラム47に配置された副変速スイッチ44の操作にて、直進用モータ軸60の出力回転数を低速又は高速という2段階の変速段に切換えるように構成している。なお、副変速の低速と高速との間には、中立位置(副変速の出力が零になる位置)を有している。副変速スイッチ44には、低速切換釦と中立切換釦と高速切換釦とにより構成されている。低速切換釦、中立切換釦又は高速切換釦の押し操作によって、副変速出力が低速出力、中立又は高速出力に択一的に切り換わる。
【0043】
図7に示すように、副変速機構51の出力側に設けられた駐車ブレーキ軸65(副変速出力軸)には、湿式多板ディスク式の駐車ブレーキ66が設けられている。副変速機構51からの回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から左右の差動機構52に伝達される。左右の差動機構52は、遊星ギヤ機構68をそれぞれ備えている。また、駐車ブレーキ軸65上に直進用パルス発生回転輪体92を設け、直進用パルス発生回転輪体92に直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)を対向させて配置し、直進用ピックアップ回転センサ93によって、直進出力の回転数(直進車速、副変速出力ギヤ67出力)を検出するように構成している。
【0044】
図7に示す如く、左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71に噛合う複数の遊星ギヤ72と、遊星ギヤ72に噛合うリングギヤ73と、複数の遊星ギヤ72を同一円周上に回転可能に配置するキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を設けて相対向させて配置されている。左右のサンギヤ71が設けられたサンギヤ軸75にセンタギヤ76を固着している。
【0045】
左右の各リングギヤ73は、その内周面の内歯を複数の遊星ギヤ72に噛合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。また、左右の各リングギヤ73は、その外周面の外歯を左右旋回出力ギヤ86に噛合わせて、中継軸85に連結させている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した左右の強制デフ出力軸77に回転可能に軸支されている。左右の強制デフ出力軸77に、ファイナルギヤ78a,78bを介して左右の車軸153が連結されている。左右の車軸153には左右の駆動スプロケット22が取付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、左右の車軸153から各駆動スプロケット22に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を同方向の同一回転数にて駆動して、走行機体1を直進(前進、後退)移動させる。
【0046】
旋回用油圧式無段変速機構54は、運転キャビン10に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における斜板57aの傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。また、後述する操向カウンタ軸80上に旋回用パルス発生回転輪体94を設け、旋回用パルス発生回転輪体94に旋回用ピックアップ回転センサ95を対向させて配置し、旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)によって、第2油圧モータ58の操向出力の回転数(旋回車速)を検出するように構成している。
【0047】
また、ミッションケース88内には、旋回用モータ軸61(操向入力軸)上に設ける操向ブレーキ79(旋回ブレーキ)と、旋回用モータ軸61に減速ギヤ81を介して連結する操向カウンタ軸80と、操向カウンタ軸80に減速ギヤ86を介して連結する操向出力軸85と、左リングギヤ73に逆転ギヤ84を介して操向出力軸85を連結する左入力ギヤ機構82と、右リングギヤ73に操向出力軸85を連結する右入力ギヤ機構83とを設けている。旋回用モータ軸61の回転動力は、操向カウンタ軸80に伝達される。操向カウンタ軸80に伝達された回転動力は、左入力ギヤ機構82の左中間ギヤ87及び逆転ギヤ84を介して逆転回転動力として、左リングギヤ73に伝達され、右入力ギヤ機構83の右中間ギヤ87を介して正転回転動力として、右リングギヤ73に伝達される。
【0048】
副変速機構51を中立にした場合は、第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。副変速機構51から中立以外の副変速出力時に、副変速低速ギヤ62又は副変速高速ギヤ63を介して第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68へ動力伝達される。一方、第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル状態とし、且つ操向ブレーキ79を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル以外の状態とし、且つ操向ブレーキ79を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、左入力ギヤ機構82及び逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に伝達される一方、右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される。
【0049】
その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)する。即ち、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51又は差動機構52をそれぞれ経由して、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22にそれぞれ伝達され、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決定される。すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力は左右サンギヤ71に左右同一回転数で伝達され、遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行する。
【0050】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58を駆動させると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左のリングギヤ73が正回転(逆回転)し、右のリングギヤ73は逆回転(正回転)する。その結果、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22のうち、一方が前進回転し、他方が後退回転し、走行機体1はその場で方向転換(信地旋回スピンターン)される。
【0051】
また、第1油圧モータ56によって左右サンギヤ71を駆動しながら、第2油圧モータ58によって左右リングギヤ73を駆動することによって、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながら信地旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回(Uターン)する。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0052】
(6).コンバインの油圧回路構造
次に、図8を参照して、コンバインの油圧回路構造について説明する。図8に示す如く、コンバインの油圧回路250には、直進用の第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56と、旋回用の第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58と、チャージポンプ251とを備える。第1油圧ポンプ55と第1油圧モータ56とが閉ループ状直進油路252によって接続される。第2油圧ポンプ57と第2油圧モータ58とが閉ループ状旋回油路253によって接続される。エンジン14によって第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57が駆動され、第1油圧ポンプ55の斜板角制御又は第2油圧ポンプ57の斜板角制御によって、第1油圧モータ56又は第2油圧モータ58を正転又は逆転作動するように構成している。
【0053】
一方、前記操縦ハンドル11の手動操作に対応して電気的に切換える電磁油圧形操向バルブ270と、前記チャージポンプ251に電磁油圧形操向バルブ270を介して接続させる操向シリンダ271を備える。操舵角センサ402にて検出された操縦ハンドル11の操舵角に対応して電磁油圧形操向バルブ270を切換えると、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度を変更させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を無段階に変化させたり、逆転させる左右操向動作を行わせ、走行方向を左右に変更して圃場枕地で方向転換したり進路を修正する。また、操向用の油圧サーボ機構275を備えており、斜板57aの角度調節動作によって電磁油圧形操向バルブ270が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構275にて行わせ、操縦ハンドル11の操作量に比例させて斜板57a角度を変化させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を変更させるように構成している。
【0054】
また、図8に示す如く、前記主変速レバー43の手動操作に対応して電気的に切換える電磁油圧形変速バルブ272と、前記チャージポンプ251に電磁油圧形変速バルブ272を介して接続させる変速シリンダ273を設ける。主変速センサ401にて検出された主変速レバー43の操作量に対応して電磁油圧形変速バルブ272を切換えると、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度を変更させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする走行変速動作が行われる。また、走行変速用の油圧サーボ機構277を備えており、斜板55aの角度調節動作によって電磁油圧形変速バルブ272が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構277に行わせ、主変速レバー43の操作量に比例させて斜板55a角度を変化させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を変更させ、主変速レバー43の操作によって直進用モータ軸60を前後進回転させるように構成している。
【0055】
更に、図8に示す如く、刈取装置3の作動速度を切換える油圧刈取変速シリンダ280と、刈取装置3を一定回転速度にて作動させる油圧刈取定速シリンダ281を備える。油圧刈取変速シリンダ280及び油圧刈取定速シリンダ281は、カウンタギヤケース89の上面蓋(油路ベース)に配置する。刈取変速シリンダ280を作動させる刈取変速バルブ282と、刈取定速シリンダ281を作動させる刈取定速バルブ283を、前記チャージポンプ251に並列にそれぞれ油圧接続させる。
【0056】
(7).エンジン、ミッションケース及びカウンタギヤケースの動力伝達構造
次に、図1、図2、図6及び図9〜図12を参照しながら、エンジン14、ミッションケース88及びカウンタギヤケース89の動力伝達構造について説明する。図1、図2及び図9〜図12に示すように、走行機体1の上面右側にエンジン14が搭載され、走行機体1における左右幅中央の前方にミッションケース88が設置され、走行機体1の上面左側にカウンタギヤケース89が配置されている。エンジン14において左右方向に延長された出力軸150の左側端部に出力プーリ149を軸支し、ミッションケース88の左側上部の走行入力プーリ155と出力プーリ149との間に走行駆動ベルト151を掛け回している。その構成により、ミッションケース88の各油圧式無段変速機構53,54にエンジン14の出力がそれぞれ伝達される。
【0057】
一方、排出オーガ8を収納(非作業)位置に支持する柱状フレーム290が走行機体1の上面に立設され、その柱状フレーム290の基端部の前面に軸受体291を介してPTOカウンタ軸121が回転自在に軸支されている。PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122aと、ミッションケース88の左側上部のうち走行入力プーリ155より下側のPTOプーリ119との間に、PTOベルト120を掛け回している。また、PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122bと、カウンタギヤケース89の車速同調軸100に固定された車速同調プーリ104との間に、車速同調ベルト123を掛け回している。かかる構成により、PTO軸99から車速同調軸100にミッションケース88の車速同調駆動力が伝達される。
【0058】
更に、エンジン14における出力軸150上の出力プーリ149と、カウンタギアケース89の脱穀選別作業入力軸165に固定された脱穀駆動プーリ118との間に、脱穀駆動ベルト162を掛け回している。また、脱穀クラッチ161を切り換える脱穀入力アクチュエータとしての脱穀クラッチ用電動モータ175を備える。脱穀クラッチ用電動モータ175を作動させて、脱穀クラッチ161を入り作動させることによって脱穀駆動ベルト162が緊張状態に維持され、カウンタギヤケース89にエンジン14の出力が伝達される一方、脱穀クラッチ161の切り作動によって脱穀駆動ベルト162が弛緩状態に維持され、エンジン14からカウンタギヤケース89への出力伝達が遮断される。
【0059】
走行機体1上のうちエンジン14の後方にクラッチユニットシャーシ176を配置し、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ入り切り機構177を組付けると共に、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ用電動モータ175を設ける。脱穀クラッチ161を支持したテンションアーム(図示省略)に、脱穀クラッチ入り切り機構177を介して、脱穀クラッチ用電動モータ175が連結されている。カウンタギヤケース89に軸支された脱穀選別作業入力軸165上の脱穀駆動プーリ118を挟んで、カウンタギヤケース89と反対側に脱穀クラッチ用電動モータ175が配置される。
【0060】
即ち、脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177が設置されるスペースをカウンタギヤケース89側に確保する必要がないから、カウンタギヤケース89の右側に近接させて脱穀駆動プーリ118を支持できる。脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177等に規制されることなく、脱穀選別作業入力軸165の延長に伴う軸受構造の高剛性化などを不要にして、大きな変速比(減速比)が設定可能な大径の脱穀駆動プーリ118を簡単に設置できる。
【0061】
(8).コンバインの変速操向制御
次に、図16及び図17を参照しながら、コンバイン(走行機体1)の変速操向制御について説明する。走行機体1に搭載された制御手段としての変速操向コントローラ400は、主変速レバー43の操作量を検出する主変速センサ401及び操縦ハンドル11の操舵角を検出する操舵角センサ402の検出情報に基づき、電磁油圧形変速バルブ272及び電磁油圧形操向バルブ270を切換操作して、走行機体1の車速及び進行方向を調節する変速操向制御を実行するものである。すなわち、実施形態では、主変速レバー43及び操縦ハンドル11と、両油圧式無段変速機構53,54との間に機械的な連結構造を備えず、これらの間を電気的に制御するステアバイワイヤ方式の変速操向制御を実行するものである。詳細は図示しないが、変速操向コントローラ400は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるEEPROM、フラッシュメモリ、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるRAM、及び入出力インターフェイス等を備えている。
【0062】
変速操向コントローラ400の入力側には、少なくとも主変速レバー43の操作量を検出する主変速センサ401、操縦ハンドル11の操舵角を検出する操舵角センサ402、副変速出力を低速出力、中立又は高速出力に択一的に切り換えるための副変速スイッチ44、脱穀クラッチ161の入り切り状態を検出する脱穀スイッチ403、刈取変速操作手段(刈取変速クラッチ)の操作状態を検出する刈取スイッチ404、エンジン14の回転速度(出力軸150のカムシャフト位置)を検出するエンジン回転速度センサ405、第1油圧モータ56の直進出力の回転数(直進車速、副変速出力ギヤ67出力)、すなわち直進用油圧式無段変速機構53の変速出力量を検出する直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)、第2油圧モータ58の操向出力の回転数(旋回車速)、すなわち旋回用油圧式無段変速機構54の変速出力量を検出する旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)等が接続されている。
【0063】
変速操向コントローラ400の出力側には、少なくとも第1油圧ポンプ55の斜板55aに対する変速シリンダ273を作動させる電気的アクチュエータとしての電磁油圧形変速バルブ272、第2油圧ポンプ57の斜板57aに対する操向シリンダ271を作動させる電気的アクチュエータとしての電磁油圧形操向バルブ270、刈取変速シリンダ280を作動させる刈取変速バルブ282、刈取定速シリンダ281を作動させる刈取定速バルブ283、脱穀クラッチ161を入り切り作動させる脱穀クラッチ用電動モータ175等が接続されている。
【0064】
主変速レバー43の手動操作に対応して電磁油圧形変速バルブ272を電気的に切換作動させることにより、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度を変更させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする走行変速動作(前後進切換動作)が行われる。また、操縦ハンドル11の手動操作に対応して電磁油圧形操向バルブ270を電気的に切換作動させることによって、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度を変更させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする左右操向動作を行わせ、走行方向を左右に変更して圃場枕地で方向転換したり進路を修正する。更に、操縦ハンドル11の中立操作(直進維持操作)並びに副変速機構51の中立動作によって、操向ブレーキ79が旋回用モータ軸61を停止状態(回転不能状態)に維持して第2油圧モータ58の出力を停止し、旋回出力を停止させる。
【0065】
図17のフローチャートに示す変速操向制御において、変速操向コントローラ400は、主変速センサ401、操舵角センサ402及び副変速スイッチ44の検出値を読み込み(S1)、また、副変速スイッチ44を中立操作していれば(S2:YES)、旋回出力停止制御を行って操向ブレーキ79を制動させて第2油圧モータ58を停止させる(S3)。副変速スイッチ44を中立以外に操作していれば(S2:NO)、次いで、主変速レバー43が中立位置か否かを判別する(S4)。主変速レバー43が中立位置にあれば(S4:YES)、前述の旋回出力停止制御(S3)を実行する。主変速レバー43を中立位置以外に操作していれば(S4:NO)、次いで、操縦ハンドル11の操舵角を判別し(S5)、操縦ハンドル11が中立位置(直進維持位置)にあれば(S5:YES)、主変速レバー43の操作量に応じて電磁油圧形変速バルブ272を電気的に切換作動させ、走行機体1を前進又は後進方向に直進走行させる変速走行制御を実行する(S6)。操縦ハンドル11を中立以外の位置に操作していれば(S5:NO)、主変速レバー43及び操縦ハンドル11の操作量に応じて電磁油圧形操向バルブ270を電気的に切換作動させ、走行機体1の走行方向を左右に変更する左右操向制御を実行する(S7)。ステップS8以降の流れについては後述する。
【0066】
(9).ミッションケースの概略構造
次に、主として図13〜図15を参照しながら、ミッションケース88の概略構造について説明する。走行機体1における左右幅中央の前方に設置されたミッションケース88は、上下に長く左右に分割自在な二つ割り構造になっている。当該二つ割り構造のミッションケースは複数のボルトでの締結にて中空略箱形に構成されている。ミッションケース88における左右一側面の上部側(実施形態では右側上部)に、直進用及び旋回用油圧式無段変速機構53,54を内蔵する油圧変速ケース350が取り付けられている。この場合、油圧変速ケース350内の前側に直進用油圧式無段変速機構53(第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56)が位置し、油圧変速ケース350内の後側に旋回用油圧式無段変速機構54(第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58)が位置している。ミッションケース88の内部には、図7を用いて説明したような副変速機構51や差動機構52といったギヤトレーンが収容されている。
【0067】
ミッションケース88の下部は左右外向きに張り出して二股状に下向き突出していて、大まかにいって正面視略門形に形成されている。当該下部には、左右外向きに突出する車軸ケース351がボルト締結されている。左右の車軸ケース351内にそれぞれ車軸153が回転可能に軸支されており、各車軸153の突出端部に駆動スプロケット22が取り付けられている。ミッションケース88の左側上部からは、第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57に動力伝達可能に連結する走行入力軸152が横方向外向きに突出している。走行入力軸152の突端部に固定された走行入力プーリ155に、エンジン14の出力プーリ149に巻き掛けた走行駆動ベルト151が掛け回されている。
【0068】
ミッションケース88のうち油圧変速ケース350と反対側の側面(実施形態では左側上部)から横方向外向きに突出したPTO軸99の突端側に、PTOプーリ119が設けられている。PTOプーリ119は走行入力プーリ155より下側に位置していて、PTOプーリ119と、その後方に位置するPTOカウンタプーリ112aとに、PTOベルト120が巻き掛けられている。PTOプーリ119とPTOカウンタプーリ122aとの間には、PTOベルト120に下方から当接してPTOベルト120を緊張状態に保持するためのテンションプーリ352が設けられている。テンションプーリ352は、柱状フレーム290の軸受体291に上下回動可能に支持されていて、バネ付勢にてPTOベルト120を常時緊張させるように構成されている。
【0069】
ミッションケース88の左側面部のうちPTO軸99より下方には、ミッションケース88内の直進用パルス発生回転輪体92に関連させた直進出力検出手段としての直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)と、同じく旋回用パルス発生回転輪体94に関連させた旋回出力検出手段としての旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)とが一部を外向きに露出させた状態で設けられている。図15に示すように、両ピックアップ回転センサ93,95は前後に並べて配置されている。この場合、両ピックアップ回転センサ93,95は、PTO軸99とミッションケース88の左張り出し下部との間にあり、直進用ピックアップ回転センサ93が前側に、旋回用ピックアップ回転センサ95が後側に位置している。
【0070】
ミッションケース88の左側面部のうち両ピックアップ回転センサ93,95の箇所には、右側面側及び下面側を開放した略蓋状のガード板353がボルト締結にて取り付けられている。従って、両ピックアップ回転センサ93,95の外周側はガード板353にて覆われている。このように構成すると、単一のガード板353によって、両方のピックアップ回転センサ93,95を走行クローラ2が巻き上げた泥土等から簡単に保護できる。また、部品点数抑制及び組付け作業工数低減にも寄与できる。更に、各ピックアップ回転センサ93,95のハーネス(図示省略)も広範囲に保護することが可能になる。
【0071】
図15に示すように、実施形態のガード板353の上面部は前低後高状に傾斜した形状になっている。このため、ガード板353上に載った泥土等は傾斜状の上面部を滑り落ち易くなり、ガード板353上への泥土等の堆積を効果的に防止できる。ガード板353の右側面側は、ミッションケース88の左側面部で塞がれており、ガード板353の下面側は、ミッションケース88の左張り出し下部の上面側で塞がれている。また、ガード板353の左右幅寸法は、正面視でミッションケース88の左側面部とPTOプーリ119との間にガード板353が収まる程度の大きさに設定されている(図13参照)。更に、図14及び図15に示すように、側面視においてガード板353のうちテンションプーリ352と重なる部位は、ミッションケース88におけるPTO軸99側の左右一側面(実施形態では左側面部)に向けて内向きに傾斜した形状(内向きに折り曲げた形状)になっている。このように構成すると、ガード板353とテンションプーリ352との干渉を回避しつつ、ミッションケース88からの動力伝達系統(PTO)に関して左右幅方向のコンパクト化を図れる。なお、テンションプーリの近傍に位置することになる昇降用油圧シリンダ4との干渉回避の点でも効果的である。
【0072】
さて、前述したように、ミッションケース88の右側上部にボルト締結された油圧変速ケース350内の前側に、直進用油圧式無段変速機構53(第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56)が設けられている。油圧変速ケース350内の後側には、旋回用油圧式無段変速機構54(第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58)が設けられている。
【0073】
油圧変速ケース350の前面側には、第1油圧ポンプ55の斜板55aに対する変速シリンダ273を作動させる電気的アクチュエータとしての電磁油圧形変速バルブ272が、油圧変速ケース350内の油圧回路(図示省略)に連通するように組付けられてユニット化されている。また、油圧変速ケース350の前面側には、第1油圧ポンプ55の斜板55aを手動操作して第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を手動で変更する直進用の緊急手動操作具としての直進操作軸355が前向きに突設されている。直進操作軸355をその軸心回りに回動操作すれば、第1油圧ポンプ55の斜板55aの傾斜角度が電磁油圧形変速バルブ272とは別個独立して変更され、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量が変更される。実施形態では、直進操作軸355と電磁油圧形変速バルブ272とが油圧変速ケース350の前面側に左右に並べて配置されている。
【0074】
油圧変速ケース350の後面側には、第2油圧ポンプ57の斜板57aに対する操向シリンダ271を作動させる電気的アクチュエータとしての電磁油圧形操向バルブ270が、油圧変速ケース350内の油圧回路(図示省略)に連通するように組み付けられてユニット化されている。また、油圧変速ケース350の後面側には、第2油圧ポンプ57の斜板57aを手動操作して第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を手動で変更する旋回用の緊急手動操作具としての旋回操作軸356が後向きに突設されている。旋回操作軸356をその軸心回りに回動操作すれば、第2油圧ポンプ57の斜板57aの傾斜角度が電磁油圧形操向バルブ270と別個独立して変更され、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量が変更されることになる。実施形態では、旋回操作軸356と電磁油圧形操向バルブ270とが油圧変速ケース350の後面側に左右に並べて配置されている。
【0075】
図10、図12及び図13に示すように、ミッションケース88の一側方(実施形態では左側方)に、走行機体1のステップ357が位置している。ステップ357とミッションケース88との間に油圧変速ケース350が位置している。ステップ357においてフレームで囲われた内部には、バッテリ358が搭載されている。ステップ357のバッテリ収容空間359は左右外向きに開放されていて、ステップ357の左側から見て油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355をステップ357のバッテリ収容空間359に臨ませている。ステップ357の左側からバッテリ収容空間359に手を差し入れて、油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355を走行機体1の外側から手動操作することが可能になっている(図12参照)。
【0076】
変速操向コントローラ400の指令に基づく電磁油圧形変速バルブ272の切換動作にて、直進用油圧式無段変速機構53の変速出力量を調節する際は、直進操作軸355が電磁油圧形変速バルブ272の切換動作に連動して動作するように構成されている。実施形態では、変速操向コントローラ400の指令に基づく電磁油圧形変速バルブ272の切換動作によって、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度が変更される。そうすると、斜板55a角度の変更に伴い、直進操作軸355が自動的に(斜板55aに連動して)その軸心回りに回動する。つまり、電磁油圧形変速バルブ272と直進操作軸355との動作が第1油圧ポンプ55の斜板55aを介して連動することになる。
【0077】
また、変速操向コントローラ400の指令に基づく電磁油圧形操向バルブ270の切換動作にて、旋回用油圧式無段変速機構54の変速出力量を調節する際は、旋回操作軸356が電磁油圧形操向バルブ270の切換動作に連動して動作するように構成されている。実施形態では、変速操向コントローラ400の指令に基づく電磁油圧形操向バルブ270の切換動作によって、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度が変更される。そうすると、斜板57a角度の変更に伴い、旋回操作軸355が自動的に(斜板57aに連動して)その軸心回りに回動する。つまり、電磁油圧形操向バルブ270と旋回操作軸356との動作が第2油圧ポンプ57の斜板57aを介して連動することになる。
【0078】
各操作軸355,356は通常において操作するものではなく、例えば変速操向コントローラ400に異常が生ずる等、変速操向制御に携わる電気系統に不具合が生じた場合に操作する緊急回避用のものである。かかる電気系トラブルが生じた場合であっても、各操作軸355,356を手動回動操作すれば、主変速レバー43や操縦ハンドル11が効かない状態で、例えば圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を実行できる。従って、コンバインにおいて緊急事態への対処の選択肢が増え、コンバインの取り扱い性向上に寄与するという効果を奏する。なお、リンプホーム運転では、取り敢えずコンバインを前後進できれば済むと解される。このため、ステップ357の左側から見て油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355をステップ357のバッテリ収容空間359に臨ませ、少なくとも直進操作軸355を走行機体1の外側から手動操作できるようにしているのである。
【0079】
図15に示すように、直進操作軸355の突端側には、直進操作軸355の手動回動操作をし易くする直進レバーインジケータ361が着脱可能に装着される。また同様に、旋回操作軸356の突端側には、旋回操作軸356の手動回動操作をし易くする旋回レバーインジケータ362が着脱可能に装着される。直進レバーインジケータ361は直進操作軸355と共に、直進用の緊急手動操作具を構成でき、旋回レバーインジケータ362も旋回操作軸356と共に、旋回用の緊急手動操作具を構成できる。かかる構成を採用すると、電磁油圧形変速バルブ272や電磁油圧形操向バルブ270の切換動作にて、直進用油圧式無段変速機構53又は旋回用油圧式無段変速機構54の変速出力量を調節するに際して、前述の各レバーインジケータ361,362を装着しておけば、各レバーインジケータ361,362の動作から、各油圧ポンプ55,57の斜板55a,57a角度、ひいては、各油圧式無段変速機構53,54の作動状態を簡単に視認できる。主変速レバー43及び操縦ハンドル11と、両油圧式無段変速機構53,54との間に機械的な連結構造を備えず、これらの間を電気的に制御する場合において、主変速レバー43及び操縦ハンドル11と両油圧式無段変速機構53,54とに関する動作トラブルを早期に発見し易くなる。
【0080】
実施形態の変速操向コントローラ400は、各操作軸355,356を手動回動操作した場合に、その電気的制御(変速操向制御)を禁止することによって、電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270の切換動作に基づく各油圧式無段変速機構53,54の変速出力調節を禁止するように構成されている。この場合、図17のフローチャートに示す変速操向制御の実行中に、いずれか一方の操作軸355,356が手動にて回動操作されると(S8:YES)、変速操向コントローラ400は上述の変速操向制御を強制的に終了し(S9)、主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じた電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270の切換動作を不能にする。そして、コンバインの電源を一旦オフにして再度オンにしなければ、変速操向制御に復帰しない設定になっている。このため、各操作軸355,356を手動回動操作した場合に、電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270による各油圧式無段変速機構53,54の変速出力調節が併存することはなくなるから、各油圧式無段変速機構53,54、ひいては、走行機体1がオペレータの意図に反して不安定な挙動をするおそれを確実に回避できる。各操作軸355,356を手動回動操作する際の走行安全性を確保できる。
【0081】
上記の記載並びに図15から明らかなように、走行機体1に搭載されたエンジン14の動力を変速して左右の走行部2に伝達する油圧式無段変速機構53,54と、前記走行機体1の直進速度を変更操作する直進操作具43と、前記走行機体1の進行方向を変更操作する旋回操作具11と、前記油圧式無段変速機構53,54の変速出力を調節する電気的アクチュエータ272,270と、前記各操作具43,11の操作量に応じて前記電気的アクチュエータ272,270を駆動させる制御手段400とを備えている走行車両であって、前記油圧式無段変速機構53,54には、その変速出力を前記電気的アクチュエータ272,270とは別個に手動操作するための緊急手動操作具355,356が設けられているから、例えば前記制御手段400に異常が生ずるというような電気系トラブルが生じた場合であっても、前記緊急手動操作具355,356を手動操作すれば、前記直進操作具43や前記旋回操作具11が効かない状態で、例えば圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を実行できる。従って、コンバインにおいて緊急事態への対処の選択肢が増え、コンバインの取り扱い性向上に寄与するという効果を奏する。
【0082】
上記の記載並びに図15から明らかなように、前記電気的アクチュエータ272,270によって前記油圧式無段変速機構53,54の前記変速出力を調節する場合は、前記緊急手動操作具355,356(361,362)が前記電気的アクチュエータ272,270の駆動に連動して動作するように構成されているから、前記緊急手動操作具355,356(361,362)の動作から、前記油圧式無段変速機構53,54の作動状態を簡単に視認できる。前記直進操作具43及び前記旋回操作具11と、前記油圧式無段変速機構53,54との間に機械的な連結構造を備えず、これらの間を電気的に制御する場合において、前記直進操作具43及び前記旋回操作具11と、前記油圧式無段変速機構53,54とに関する動作トラブルを早期に発見し易くなるという効果を奏する。
【0083】
上記の記載並びに図15〜図17から明らかなように、前記緊急手動操作具355,356を手動操作した場合は、前記制御手段400による前記電気的アクチュエータ272,270の駆動制御を禁止するように構成されているから、前記緊急手動操作具355,356を手動操作した場合に、前記電気的アクチュエータ272,270による前記油圧式無段変速機構53,54の変速出力調節が併存することはなくなる。このため、前記油圧式無段変速機構53,54、ひいては、前記走行機体1がオペレータの意図に反して不安定な挙動をするおそれを確実に回避できる。前記緊急手動操作具355,356を手動操作する際の走行安全性を確保できるという効果を奏する。
【0084】
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機やクレーン車等の特殊作業用車両のような各種走行車両に対して広く適用できる。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 走行機体
2 走行クローラ(走行部)
11 操縦ハンドル(旋回操作具)
43 主変速レバー(直進操作具)
53 直進用油圧式無段変速機構
54 旋回用油圧式無段変速機構
88 ミッションケース
270 電磁油圧形操向バルブ(電気的アクチュエータ)
272 電磁油圧形変速バルブ(電気的アクチュエータ)
350 油圧変速ケース
355 直進操作軸(緊急手動操作具)
356 旋回操作軸(緊急手動操作具)
361 直進レバーインジケータ(緊急手動操作具)
362 旋回レバーインジケータ(緊急手動操作具)
400 変速操向コントローラ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に搭載されたエンジンの動力を変速して左右の走行部に伝達する油圧式無段変速機構と、前記走行機体の直進速度を変更操作する直進操作具と、前記走行機体の進行方向を変更操作する旋回操作具と、前記油圧式無段変速機構の変速出力を調節する電気的アクチュエータと、前記各操作具の操作量に応じて前記電気的アクチュエータを駆動させる制御手段とを備えている走行車両であって、
前記油圧式無段変速機構には、その変速出力を前記電気的アクチュエータとは別個に手動操作するための緊急手動操作具が設けられている、
走行車両。
【請求項2】
前記電気的アクチュエータによって前記変速出力を調節する場合は、前記緊急手動操作具が前記電気的アクチュエータの駆動に連動して動作するように構成されている、
請求項1に記載した走行車両。
【請求項3】
前記緊急手動操作具を手動操作した場合は、前記制御手段による前記電気的アクチュエータの駆動制御を禁止するように構成されている、
請求項1又は2に記載した走行車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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