説明

走間剪断機及び走間剪断方法

【課題】安定して高精度の制御ができ、減速停止のためのブレーキが不要で、クラッチの発熱、磨耗が極めて小さく、適用速度範囲が広く、大型のモータを必要としない走間剪断機及び走間剪断方法を提供する。
【解決手段】駆動系により噛合関係にある一対のギヤ11,21を回転させて一対の剪断刃を回転させ、走行中の被剪断材を剪断する走間剪断機において、起動及び制動用のモータ32をピニオン34に常時接続した第1駆動系31と、モータ42の駆動によるフライホイール44の回転をクラッチ45を介してピニオン46に隨時接続するようにした第2駆動系41とを備え、第1駆動系のピニオンと第2駆動系のピニオンとを一対のギヤに噛合させて、一対の剪断刃の速度とフライホイールの速度とが同調したときに第2駆動系のクラッチを接続して被剪断材を剪断し、剪断後にクラッチを切離すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走間剪断機及びこれを用いる走間剪断方法に関する。例えば金属材料の圧延工程では相当の速度で走行する被圧延材の先端部や後端部を剪断して除去することが行なわれるが、本発明はかかる被圧延材のような被剪断材を走行中に剪断する機械及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被剪断材を走行中に剪断する剪断機の剪断刃は、被剪断材に接触しない範囲にある待機角度から起動し、加速、剪断、減速、停止の動作を行ない、初めの待機角度又は被剪断材に接触しない範囲の停止角度で停止しなければならない。当然、加速から剪断及び剪断から停止までは1回転以内である必要がある。すなわち、1回転以内のある角度以内で加速を完了し、同様に1回転以内のある角度以内で減速を完了する必要があるのである。
【0003】
従来、前記のように剪断刃が加速、剪断、減速、停止を行なう走間剪断機を駆動する方式として、大きく二つの方式が知られている。その一つは、予めモータで剪断速度付近まで加速してあるフライホイールと、剪断刃を取付けたギヤとをクラッチで接続することにより剪断刃の加速、剪断を行ない、その後にクラッチを切離してブレーキで減速、停止する方式の所謂クラッチブレーキ方式である(例えば特許文献1参照)。他の一つは、フライホイールを含め全体をモータで加速、剪断、減速、停止させる方式の所謂スタートストップ方式である(例えば特許文献2及び3参照)。クラッチブレーキ方式には、フライホイールに予め蓄えた回転エネルギを剪断に使え、且つモータの急速な加速減速動作が不要のため、比較的小型のモータが使用できるという利点がある。しかし、この方式には、加速、減速をクラッチ又はブレーキで行なうため、精密な剪断の制御が難しく、またクラッチ及びブレーキの磨耗が避けられないため、これらの設備保守が厄介という問題がある。一方、スタートストップ方式には、加速、減速をモータで行なうので、クラッチブレーキ方式に比べて精密な制御が可能であり、クラッチ及びブレーキの磨耗の問題もないという利点がある。しかし、この方式には、フライホイールを含め全体を加速、減速する必要があるので、比較的大型のモータが必要になり、また剪断時の速度低下と加速及び減速の角度の制約から、適用できる速度範囲が比較的狭いという問題がある。慣性モーメントを可変にすればかかる問題は解決できるが、そのようにしようとすると、機構が著しく複雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−16016号公報
【特許文献2】特開昭51−34491号公報
【特許文献3】実開昭59−12526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、クラッチブレーキ方式に比べ、安定して、高精度の制御ができ、且つ減速停止のためのブレーキが不要で、クラッチの発熱、磨耗が極めて小さく、またスタートストップ方式に比べ、適用速度範囲が広く、且つ大型のモータを必要としない走間剪断機及びこれを用いる走間剪断方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決する本発明は、噛合関係にある一対のギヤと、かかる一対のギヤの回転軸に支持体を介して取付けられた一対の剪断刃と、かかる一対のギヤの駆動系とを備え、駆動系により噛合関係にある一対のギヤを回転させ、これにより一対の剪断刃を回転させて、走行中の被剪断材を剪断するようにした走間剪断機において、起動及び制動用のモータがピニオンに常時接続された第1駆動系と、モータの駆動によるフライホイールの回転がクラッチを介してピニオンに隨時接続されるようにした第2駆動系とを備え、第1駆動系のピニオンと第2駆動系のピニオンとが一対のギヤに噛合されていて、一対の剪断刃の速度とフライホイールの速度とが同調したときに第2駆動系のクラッチを接続して被剪断材を剪断し、剪断後にクラッチを切離すようにして成ることを特徴とする走間剪断機に係る。
【0007】
また本発明は、前記の本発明に係る走間剪断機を用いて、走行中の被剪断材を剪断するに際し、予め第2駆動系のフライホイールを被剪断材の走行速度に同調させた速度で回転させておき、そして先ず第1駆動系のモータを作動させることにより一対の剪断刃を起動させ、次に一対の剪断刃の速度とフライホイールの速度とが同調としたときに第2駆動系のクラッチを接続して被剪断材を剪断し、かくして剪断後にクラッチを切離して、第1駆動系のモータを停止させることを特徴とする走間剪断方法に係る。
【0008】
本発明に係る走間剪断機も、従来の走間剪断機と同様、噛合関係にある一対のギヤと、かかる一対のギヤの回転軸にドラムやクランク等の支持体を介して取付けられた一対の剪断刃と、かかる一対のギヤの駆動系とを備え、この駆動系により噛合関係にある一対のギヤを回転させ、これにより一対の剪断刃を回転させて、走行中の被剪断材を剪断するようになっている。
【0009】
本発明に係る走間剪断機は、噛合関係にある一対のギヤの駆動系として、第1駆動系と第2駆動系とを備えている。第1駆動系は、モータと、このモータに常時接続されたピニオンとを備え、このピニオンは前記一対のギヤの片方に噛合されている。また第2駆動系は、モータと、このモータに接続されたフライホイールと、このフライホイールにクラッチを介して隨時接続されるようにしたピニオンとを備え、このピニオンは前記一対のギヤの片方に噛合されている。第1駆動系のモータとピニオンとは、また第2駆動系のモータとフライホイールとは、必要に応じ、減速機を介して接続することもできる。
【0010】
第1駆動系は、主として、噛合関係にある一対のギヤと共に一対の剪断刃を起動し、また制動するために機能する。前記したように、噛合関係にある一対のギヤの回転軸にドラムやクランク等の支持体を介して取付けられた一対の剪断刃は、自身が1回転するうちに、待機、加速、剪断、減速、停止(待機)の動作を行なわなければならないが、第1駆動系はかかる動作のうちで主に剪断を除く他の動作を担うのである。これに対して第2駆動系は、主として、一対のギヤを介して一対の剪断刃に剪断に必要なエネルギを与えるために機能し、したがって前記の動作のうちで主に剪断を担う。モータによりフライホイールを回転させると、そこに回転エネルギが発生するので、この回転エネルギをクラッチを介してピニオンに伝え、更に一対のギヤを介して一対の剪断刃に伝えて、走行中の被剪断材を無理なく剪断するのである。
【0011】
本発明に係る走間剪断機を用いて走行中の被剪断材を剪断するに際しては、予め第2駆動系のモータを作動させ、フライホイールを被剪断材の走行速度に同調させた速度で回転させておく。そして先ず、剪断を必要とするタイミングに合わせて第1駆動系のモータを作動させ、ピニオンを起動させて、同時に一対のギヤと共に一対の剪断刃を起動させて、その速度をフライホイールの速度に同調させる。次に、一対の剪断刃の速度とフライホイールの速度とが同調したとき、第2駆動系のクラッチを接続し、一対の剪断刃を走行中の被剪断材に対しその走行速度に同調させた速度で通常は上下から切り込ませて、被剪断材を剪断する。かくして剪断後、第2駆動系のクラッチを切離し、第1駆動系のモータを停止させる。これにより、ピニオンを制動し、同時に一対のギヤと共に一対の剪断刃を制動して、元の待機位置又は剪断開始角度から1回転以内の範囲に停止させる。
【0012】
本発明に係る走間剪断機において、第2駆動系は二つ以上備えることができる。前記のようなモータ、また通常は減速機、更にはフライホイール、クラッチ及びピニオンで構成された第2駆動系を二つ以上並設し、かかる第2駆動系の各ピニオンを一対のギヤに接続すると、第2駆動系間でフライホイールの大きさや重さ等を変えることにより、二つ以上の回転エネルギを発生させることができるため、被剪断材によって要求させる剪断条件に適応させ易くなる。
【0013】
また本発明に係る走間剪断機において、第1駆動系のピニオンと第2駆動系のピニオンは一対のギヤのうちで任意の片方のギヤに噛合させておくことができるが、全体構造を簡素化し、使い易くするためには、一対のギヤのうちで一方のギヤに第1駆動系のピニオンを噛合させ、また他方のギヤに第2駆動系のピニオンを噛合させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明した本発明によると、クラッチブレーキ方式のものを用いる場合に比べ次のような効果がある。すなわち剪断刃の起動及び停止をモータで行なうので、クラッチ及びブレーキの磨耗や動作ばらつきの影響を受けない。したがってクラッチブレーキ方式に比べ安定した精度の高い制御ができ、減速及び停止のためのブレーキが不要である。しかも剪断刃とフライホイールが同速の状態でクラッチを接続するのでその磨耗が極めて少ない。またスタートストップ方式のものを用いる場合に比べ次のような効果がある。すなわち剪断刃の加速及び減速をフライホイールから切離した状態で行なうので、モータを大型にすることなく剪断速度範囲を高速側に広げることができる。しかも剪断時の加速及び減速に制約されることなく大きいフライホイールを選定できるので、剪断時の速度低下を小さくすることができ、これにより剪断速度範囲を低速側に広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る走間剪断機を略示する側面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】本発明に係る他の走間剪断機を略示する側面図。
【実施例】
【0016】
図1は本発明に係る走間剪断機を略示する側面図であり、図2は図1のA−A線断面図であって、図2は併せて作用状態も示している。上下で一対のギヤ11,21の回転軸12,22の基端部が図示しない機枠に片持ちで軸受されており、上方のギヤ11と下方のギヤ21とは噛合している。上方のギヤ11の回転軸12の先端部には支持体13を介して剪断刃14が取付けられており、同様に下方のギヤ21の回転軸22の先端部にも支持体23を介して剪断刃24が取付けられている。剪断刃14と剪断刃24とは、噛合関係にある一対のギヤ11,21の回転により、双方の刃先が図2で示すようにあたかも当接するような状態となる位置関係になっている。
【0017】
上方のギヤ11には第1駆動系31が接続されており、下方のギヤ21には第2駆動系41が接続されている。第1駆動系31は、モータ32と、モータ32の回転軸に取付けられたピニオン34とを備え、ピニオン34は上方のギヤ11と噛合している。また第2駆動系41は、モータ42と、モータ42の回転軸に取付けられたフライホイール44と、下方のギヤ21と噛合するピニオン46と、フライホイール44が取付けられた回転軸とピニオン46が取付けられた回転軸とを着脱するクラッチ45とを備えている。
【0018】
図1及び2に略示した本発明に係る走間剪断機を用いて走行中の被剪断材Sを剪断するに際しては、予め第2駆動系41のモータ42を作動させ、フライホイール44を被剪断材Sの走行速度に同調させた速度で回転させておく。そして先ず、剪断を必要とするタイミングに合わせて第1駆動系31のモータ32を作動させ、ピニオン34を起動させて、同時に上下で一対のギヤ11,21と共に一対の剪断刃14,24を起動させ、その速度をフライホイール44の速度に同調させる。次に、一対の剪断刃14,24の速度とフライホイール44の速度とが同調したとき、第2駆動系41のクラッチ45を接続し、一対の剪断刃14,24を走行中の被剪断材Sに対しその走行速度に同調させた速度で上下から切り込ませて、被剪断材Sを剪断する(図2の状態)。かくして剪断後、第2駆動系41のクラッチ45を切離し、第1駆動系31のモータ32を停止させる。これにより、ピニオン34を制動し、同時に上下で一対のギヤ11,21と共に一対の剪断刃14,24を制動して、元の待機位置又は剪断開始角度から1回転以内に停止させる。以下は、剪断の都度、この繰り返しである。停止位置と待機位置が異なる場合は、次回の剪断までの間に、第1駆動系31により待機位置へ移動させる。
【0019】
図3は本発明に係る他の走間剪断機を略示する側面図である。図3中、図1及び図2と同じであるものについては図1及び2と同じ符号にaを付記して示しており、したがって図3中の例えば11aは図1中の11に相当する上方のギヤを示し、また例えば21aは図1中の21に相当する下方のギヤを示している。図3の走間剪断機が図1及び2に示した走間剪断機と異なる点は、下方のギヤ21aに接続された第2駆動系を二つ備えている処にある。
【0020】
図3に略示した本発明に係る走間剪断機では、上方のギヤ11aには第1駆動系31aが接続されているが、下方のギヤ21aには第2駆動系41aの他に別の第2駆動系41bが接続されている。説明の便宜上、符号bを付記するが、第2駆動系41bは、モータ42bと、モータ42bの回転軸に取付けられたフライホイール44bと、下方のギヤ21aと噛合するピニオン46bと、フライホイール44bが取付けられた回転軸とピニオン46bが取付けられた回転軸とを着脱するクラッチ45bとを備えている。図3の本発明に係る走間剪断機では、一方の第2駆動系41aにおけるフライホイール44aと他方の第2駆動系41bにおけるフライホイール44bとは大きさ及び重さが異なり、したがって異なる二つの回転エネルギを発生させることができるため、被剪断材によって要求される剪断条件に適応させ易い。
【符号の説明】
【0021】
11,11a,21,21a ギヤ
12,12a,22,22a 回転軸
13,13a,23,23a 支持体
14,14a,24,24a 剪断刃
31,31a 第1駆動系
32,32a,42,42a,42b モータ
34,34a,46,46a,46b ピニオン
41,41a,41b 第2駆動系
44,44a,44b フライホイール
45,45a,45b クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合関係にある一対のギヤと、かかる一対のギヤの回転軸に支持体を介して取付けられた一対の剪断刃と、かかる一対のギヤの駆動系とを備え、駆動系により噛合関係にある一対のギヤを回転させ、これにより一対の剪断刃を回転させて、走行中の被剪断材を剪断するようにした走間剪断機において、起動及び制動用のモータがピニオンに常時接続された第1駆動系と、モータの駆動によるフライホイールの回転がクラッチを介してピニオンに隨時接続されるようにした第2駆動系とを備え、第1駆動系のピニオンと第2駆動系のピニオンとが一対のギヤに噛合されていて、一対の剪断刃の速度とフライホイールの速度とが同調したときに第2駆動系のクラッチを接続して被剪断材を剪断し、剪断後にクラッチを切離すようにして成ることを特徴とする走間剪断機。
【請求項2】
一対のギヤのうちで一方のギヤに第1駆動系のピニオンが噛合されており、また他方のギヤに第2駆動系のピニオンが噛合された請求項1記載の走間剪断機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の走間剪断機を用いて、走行中の被剪断材を剪断するに際し、予め第2駆動系のフライホイールを被剪断材の走行速度に同調させた速度で回転させておき、そして先ず第1駆動系のモータを作動させることにより一対の剪断刃を起動させ、次に一対の剪断刃の速度とフライホイールの速度とが同調としたときに第2駆動系のクラッチを接続して被剪断材を剪断し、かくして剪断後にクラッチを切離して、第1駆動系のモータを停止させることを特徴とする走間剪断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−96351(P2012−96351A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3473(P2012−3473)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【分割の表示】特願2006−68464(P2006−68464)の分割
【原出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】