説明

起立部を有する発泡成形品の製造方法

【目的】起立部を有する発泡成形品において、同一材料、同一密度であっても圧縮強度のより高い発泡成形品、特には底壁部の圧縮強度のより高い発泡成形品をを得ることができる起立部を有する発泡成形品の製造方法を提供する。
【構成】起立部を有する発泡成形品の底壁部を形成する部分に進退自在な成形型3を設けた金型とする。先ず、進退自在な成形型3を前進させ、予備発泡粒子aをキャビティ8内に充填し、加熱膨張させて粒子群を互いに融着させて起立部を有する中間発泡体bを形成する。次いで、進退自在な成形型3を所定位置まで後退させてその型の投影部分のキャビティ容積を1.1〜2倍に増大させ、中間発泡体bをさらに膨張させて起立部を有する最終発泡成形体cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、魚箱、家電用包装材等の起立部を有する発泡成形品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等を原料とする型内ビーズ発泡成形品は、軽量であり、断熱性、緩衝特性等にも優れているため、各種包装材、容器、建築用断熱材、自動車用バンパーの芯材等に広く適用され、又、市販されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記用途に適用する型内ビ−ズ発泡成形品にあっては、軽量かつ圧縮強度が高いことが要求されるが、特に、魚箱、家電用包装材等にあっては、運搬時の作業者の労力を軽減するため、又、落下、衝撃、振動等により容易に破損しないようにするため、このような要求は強いものである。
【0004】従来、このような型内ビーズ発泡成形品の圧縮強度を向上させる方法としては、発泡倍率を低くする、すなわち、金型内に充填する発泡粒子の密度を高くするという方法がよく知られているが、この方法によると、発泡成形品の重量が増大する、製造コストが高価となる、又、緩衝特性が低下するという種々の問題点があり、上記要求の一方を満足しない。
【0005】又、同一材料、同一密度の型内ビーズ発泡成形品においては、気泡径が小さい程圧縮強度が高いと言われており、かかる気泡径を調整するために通常セル調整剤が使用されているが、気泡径の調整による圧縮強度の向上にもあまり大きな効果は期待できないというのが現状である。
【0006】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、魚箱、家電用包装材等の起立部を有する発泡成形品において、同一材料、同一密度であっても圧縮強度のより高い発泡成形品、特には底壁部の圧縮強度のより高い発泡成形品を得ることのできる製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、起立部を有する発泡成形品の底壁部を形成する部分に進退自在な成形型を設けた金型を用い、先ず、進退自在な成形型を前進させ、予備発泡粒子をキャビティ内に充填し、加熱膨張させて粒子群を互いに融着させて起立部を有する中間発泡体を形成し、次いで、進退自在な成形型を所定の位置まで後退させて、その型の投影部分のキャビティ容積を1.1〜2倍に増大させ、中間発泡体をさらに膨張させて起立部を有する最終発泡成形体を形成することを特徴とする起立部を有する発泡成形品の製造方法である。
【0008】又、請求項2記載の発明は、起立部を有する発泡成形品の底壁部を形成する部分に進退自在な成形型を設けた金型を用い、先ず、進退自在な成形型を前進させ、予備発泡粒子をキャビティ内に充填し、加熱膨張させて粒子群を互いに融着させ、所定の粒子間空隙を保有し起立部を有する中間発泡体を形成し、次いで、進退自在な成形型を所定の位置まで後退させて、その型の投影部分のキャビティ容積を1.1〜2倍に増大させ、中間発泡体をさらに膨張させて起立部を有する最終発泡成形体を形成することを特徴とする起立部を有する発泡成形品の製造方法である。
【0009】本発明の製造方法において、起立部を有する発泡成形品の底壁部は、中間発泡体の段階を経た後、さらに進退自在な成形型の移動方向に発泡されるから、底壁部を構成する粒子はその方向に長径となって整列させられる傾向となり、そのため、底壁部のその方向の圧縮強度は高くなる。
【0010】本発明の製造方法に使用できる予備発泡粒子としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体、又はこの種の単量体相互間の共重合体、或いはこの種の単量体と他の重合性単量体、例えばブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、メチルメタアクリレート等との共重合体等のスチレン系樹脂を使用することができ、その他、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及び線状ポリエチレン等の熱可塑性樹脂も使用することができる。
【0011】例えば、スチレン系樹脂の予備発泡粒子は、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪酸炭化水素、又は塩化メチル、テトラクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素、或いは石油エーテル等の易揮発性物質を膨張剤として使用し、これら膨張剤を2〜15重量部含ませたスチレン系樹脂粒子を攪拌しながら蒸気により加熱し、密度15〜150g/l、粒子径2〜8mmまで予備発泡させて製造される。
【0012】本発明の製造方法において、金型内での予備発泡粒子の加熱膨張は原料樹脂が可塑性を呈する温度、すなわち熱変形温度(ポリスチレンでは75〜80℃)以上の温度で行われる。なお、予備発泡粒子を蒸気により加熱し、粒子が膨張して中間発泡体を形成した時には通常上記熱変形温度以上の温度状態にあるので、該中間発泡体から最終発泡成形体を形成するにおいては、特に外部からさらに加熱する必要はないが、より成形の促進を図るため、外部からさらに加熱してもよい。
【0013】このような本発明によって製造される起立部を有する発泡成形品は、進退自在な成形型の移動方向の圧縮強度に優れるため、魚箱、家電用包装材等の各種用途にも有用なものとなる。
【0014】
【実施例】先ず、本発明の製造方法の実施に使用される成形金型の一例を図面を参照しながら説明する。図1において、1は雄型、2は雌型であり、雄型1は進退自在な成形型3及び固定成形型4よりなる。又、5は蒸気は通過できるが予備発泡粒子は通過できない孔径に穿設した多数の蒸気孔である。6は充填ガンであり、7は進退自在な成形型3を移動させるシリンダ−である。
【0015】次に、上記成形金型を使用する場合の本発明の製造方法について説明する。
【0016】先ず、図1に示すように、進退自在な成形型3を前進させた状態で予備発泡粒子aを充填ガン6によりキャビティ8内に充填し、圧力0.5〜5kg/cm2 Gの加熱蒸気をチャンバー9,10内に5〜10秒導入して粒子間に存在する空気をできるかぎり除去した後、さらに同圧の加熱蒸気を約20〜100秒間チャンバー9,10内に導入して予備発泡樹脂粒子aを加熱膨張させ、粒子相互を融着させて起立部を有する中間発泡体bを形成する。
【0017】ここで、中間発泡体bにおいて粒子を相互に空隙なく完全に密着する状態となるまで融着させてもよいし、粒子間に30%程度までの空隙を残存させて融着させるようにしてもよい。
【0018】次いで、進退自在な成形型3を所定の位置まで後退させ、その型の投影部分のキャビティ容積を1.1〜2倍に増大させ、中間発泡体bをさらに膨張させた後、冷却水を約30秒間チャンバー9,10内に導入して冷却した後、雄型1又は雌型2を移動させて金型を開いて起立部を有する最終発泡成形体cを得る。
【0019】なお、粒子間の融着をより確実にするためには、特に中間発泡体bにおいて15〜30%の空隙を残存させておいた場合には、チャンバー9,10内に加熱蒸気を導入して中間発泡体bをさらに加熱膨張させるのが好ましい。
【0020】最終発泡成形体cにおいて、進退自在な成形型3の側壁部3aと雌型2の側壁部2aとで包囲される領域が起立部となり、進退自在な成形型3の上壁部3bと雌型2の底壁部2bとで包囲される領域が底壁部となる。最終発泡成形体cの底壁部においては、図3に示すように、進退自在な成形型3を移動する方向(矢印方向)の粒子径がこれと直角方向の粒子径よりも大となり、この方向に対する圧縮強度がこれの直角方向の圧縮強度より大となる。
【0021】なお、ここで、進退自在な成形型3の移動によるその型の投影部分のキャビティ容積の増大が1.1倍より低いと、得られる最終発泡成形体cの底壁部の圧縮強度の向上は顕著ではなく、一方、2倍を越すと、底壁部の表面が平滑な最終発泡成形体c(キャビティ形状に忠実な発泡成形品)を得ることはできない。
【0022】さらに、本発明の製造方法により底壁部の圧縮強度が向上し、しかもキャビティ形状に忠実な底壁部形状を有する発泡成形品を製造できることを、具体的実施例に基づいて説明する。
【0023】(実施例1)図1に示す成形金型を使用し、先ず、進退自在な成形型3を前進させ、この時形成されたキャビティ8内にポリスチレン予備発泡粒子a(嵩密度0.026g/cm3 )を充填し、次いで、圧力0.6kg/cm2 Gの蒸気を5秒間チャンバ−9,10内を通してキャビティ8内に導入して脱気した後、同圧の蒸気を20秒間導入して空隙率が約10%の起立部を有する中間発泡体bを得た(第1工程)。
【0024】次いで、この中間発泡体bを冷却することなく、80℃以上の温度に保持した状態で進退自在な成形型3を所定の位置まで後退させ(後退速度68m/秒)、その型の投影部分のキャビティ容積を1.3倍に増大させ、圧力0.6kg/cm2Gの蒸気を15秒間チャンバ−9,10内を通してキャビティ8内に導入し、さらに膨張させてキャビティ8形状に忠実な起立部を有する最終発泡成形体cとし(第2工程)、その後チャンバー9,10内に20℃の水を15秒間導入し、さらに5分間放冷した後型開きし、底壁部の密度約0.02g/cm3 の表面平滑なキャビティ8形状に忠実な起立部を有する発泡成形品を得た。
【0025】表1に示すように、得られた発泡成形品の底壁部の高さ方向の5%ひずみ時の圧縮強度は1.71kg/cm2 であり、これと直角方向の5%ひずみ時の圧縮強度は1.22kg/cm2 であった。
【0026】
【表1】


【0027】(比較例1)図1に示す成形金型を使用し、進退自在な成形型3を所定位置まで後退させ、この時形成されたキャビティ内にポリスチレン予備発泡粒子a(嵩密度0.026g/cm3 )を充填し、次いで、圧力0.6kg/cm2 Gの蒸気を5秒間チャンバ−9,10内を通してキャビティ8内に導入して脱気した後、さらに、同圧の蒸気を35秒間チャンバ−9,10内を通してキャビティ8内に導入した。
【0028】次いで、チャンバー9,10内に20℃の水を15秒間導入し、さらに5分間放冷した後型開きし、底壁部の密度約0.026g/cm3 の起立部を有する発泡成形品を得た。
【0029】表1に示すように、得られた発泡成形品の底壁部の高さ方向の5%ひずみ時の圧縮強度は1.89kg/cm2 であり、これと直角方向の5%ひずみ時の圧縮強度は1.86kg/cm2 であった。
【0030】(実施例2〜3)嵩密度の異なる予備発泡粒子を用いる他は実施例1と同様の条件、工程により起立部を有する発泡成形品を製造した。得られた発泡成形品の圧縮強度は表1に示すものであった。
【0031】(比較例2〜3)嵩密度の異なる予備発泡粒子を用いる他は比較例1と同様の条件、工程により起立部を有する発泡成形品を製造した。得られた発泡成形品の圧縮強度は表1に示すものであった。
【0032】(実施例4)ポリスチレン予備発泡粒子aとして嵩密度0.042g/cm3 のものを用い、キャビティ8容積を1.6倍に増大させる他は実施例1と同様の条件、工程により起立部を有する発泡成形品を製造した。得られた発泡成形品の圧縮強度は表1に示すものであった。
【0033】(実施例5)図1に示す成形金型を使用し、先ず、進退自在な成形型3を前進させ、この時形成されたキャビティ8内にポリスチレン予備発泡粒子a(嵩密度0.026g/cm3 )を充填し、次いで、圧力0.6kg/cm2 Gの蒸気を5秒間チャンバ−9,10内を通してキャビティ8内に導入して脱気した後、同圧の蒸気を30秒間導入して空隙がない中間発泡体bを得た(第1工程)。
【0034】次いで、進退自在な成形型3を所定の位置まで後退させ(後退速度68m/秒)、その型の投影部分のキャビティ容積を1.3倍に増大させ、さらに発泡させてキャビティ8形状に忠実な最終発泡成形体cとし(第2工程)、その後チャンバー9,10内に20℃の水を15秒間導入し、さらに5分間放冷した後型開きし、底壁部の密度約0.02g/cm3 の表面平滑なキャビティ8形状に忠実な起立部を有する発泡成形品を得た。得られた発泡成形品の圧縮強度は表1に示すものであった。
【0035】表1より、本発明の製造方法により得られる起立部を有する発泡成形品(実施例)の底壁部は、通常の製造方法により得られる起立部を有する発泡成形品(比較例)の底壁部に比べて、高さ方向の圧縮強度において約30〜40%向上していることが確認された。
【0036】又、本発明の製造方法により得られた起立部を有する発泡成形品(実施例)の底壁部は、いずれもキャビティ形状に忠実なものであった。
【0037】
【発明の効果】本発明の製造方法によれば、起立部を有する発泡成形品において、同一材料、同一密度であっても底壁部の圧縮強度のより高い発泡成形品を製造することができ、材料の節約が可能で大幅な製造コストの削減が見込め、その経済的効果は多大であるとともに、キャビティ形状に忠実な起立部を有する発泡成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に使用する成形金型の断面図であって、(A)は中間発泡体成形時における状態、(B)は最終発泡成形体成形時における状態を示す図である。
【図2】本発明により得られた発泡成形品の一部拡大断面図である。
【符号の説明】
1…雄型
2…雌型
3…進退自在な成形型
8…キャビティ
a…予備発泡粒子
b…中間発泡体
c…最終発泡成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 起立部を有する発泡成形品の底壁部を形成する部分に進退自在な成形型を設けた金型を用い、先ず、進退自在な成形型を前進させ、予備発泡粒子をキャビティ内に充填し、加熱膨張させて粒子群を互いに融着させて起立部を有する中間発泡体を形成し、次いで、進退自在な成形型を所定の位置まで後退させて、その型の投影部分のキャビティ容積を1.1〜2倍に増大させ、中間発泡体をさらに膨張させて起立部を有する最終発泡成形体を形成することを特徴とする起立部を有する発泡成形品の製造方法。
【請求項2】 起立部を有する発泡成形品の底壁部を形成する部分に進退自在な成形型を設けた金型を用い、先ず、進退自在な成形型を前進させ、予備発泡粒子をキャビティ内に充填し、加熱膨張させて粒子群を互いに融着させ、所定の粒子間空隙を保有し起立部を有する中間発泡体を形成し、次いで、進退自在な成形型を所定の位置まで後退させて、その型の投影部分のキャビティ容積を1.1〜2倍に増大させ、中間発泡体をさらに膨張させて起立部を有する最終発泡成形体を形成することを特徴とする起立部を有する発泡成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−170962
【公開日】平成6年(1994)6月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−211442
【出願日】平成5年(1993)8月26日
【出願人】(591039148)三菱油化バーディッシェ株式会社 (7)