説明

超々高層建物の制振方法

【目的】 超々高層建物に実施する制振方法を提供する。
【構成】 超々高層建物の主要架構を超大型組柱1と超大型組梁2によるメガストラクチャーで構成し、前記超大型組梁2の各ブレース材3に沿ってダンパー4を設置した。
【効果】 超々高層建物の制振を、極めて少数の、且つ既往の一般的なダンパーを通常態様に使用して、既往の技術により経済的に行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、風荷重及び地震荷重に対して曲げ振動が卓越する高さ500m乃至1000mの超々高層建物に実施する制振方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高さ500m乃至1000mの超々高層建物を構造的に実現するためには、同建物の振動を低減して居住性と構造上の安全性を確保する新たな制振方法、制振装置の開発が不可欠と考えられている。その理由は、超々高層建物がその社会的重要度からして、二次設計レベルの荷重に対し少なくとも主要架構は弾性域内に納まるように設計されねばならず、そして、曲げ振動が卓越しているため、従来一般の構造の考え方では合理的な設計が出来ないからである。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】従来一般の高層及び超高層建物について、その構造の安全性を向上させる制振方法としては、■建物の各階において壁と梁の間にダンパーを設置する方法、■K型ブレースを組んで梁との間にダンパーを設置する方法、等が提案されている。これらの制振方法は、いずれも建物各階の層間変形に着目したものであり、建物が剪断振動した場合にのみ効果的に働き、制振効果を期待出来る。
【0004】しかしながら、超々高層建物は、従来の高層及び超高層建物とは異なり、曲げ振動が卓越し、剪断振動が占める割合が小さい。このため、前記■及び■に述べたような制振方法を、超々高層建物に適用しても、有効な又は大きな制振効果を期待することは出来ない。一方、ダンパーの取り付け位置は、建物の振動時に相対変形が大きく発生する部位とするのが最も効果的と考えられているが、曲げ振動が卓越する超々高層建物に関しては未だそのような部位が特定されていないのが実情である。
【0005】従って、本発明の目的は、風荷重及び地震荷重に対して曲げ振動が卓越する、高さ500m乃至1000mの超々高層建物に有効な、そして、経済的な制振方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するための手段として、本発明に係る超々高層建物の制振方法は、風荷重及び地震荷重に対して曲げ振動が卓越する高さ500m乃至1000mの超々高層建物の制振方法であって、超々高層建物の主要架構を超大型組柱1と超大型組梁2によるメガストラクチャーで構成し、前記超大型組梁2の各ブレース材3に沿ってダンパー4を設置したことを特徴とする。
【0007】
【作用】図4は地上に高さが600mの超々高層建物を構成する30層の主要架構モデルについて、風荷重を模擬した静的な水平荷重を、上流側には地上30層まで138.2トン、31層には69.1トンを加え、下流側には地上30層まで69.1トン、31層には34.6トンを加えた外力分布を示し、図5A,Bは応答結果(静解析結果)を層変位量と部材変形量で示している。層間変形の解析に当たっては、曲げ変形が全体変形に占める割合を確認するために曲げ変形を拘束した解析も行った。その結果は図5Aに示したとおりで、図中の●印は曲げ変形を拘束しない場合の層変位量であり、○印は曲げ変形を拘束した場合の層変位量である。この結果を見ると、超々高層建物の場合、曲げ変形が全体変形に占める割合は約80%とかなり大きな値であることが理解される。
【0008】次に、図5Bは、超々高層建物の各階層における柱材とブレース材の材軸方向の最大変形量を示している。○印は柱材の変形量、●印はブレース材の変形量を示している。変形最大値の発生部位を、図4の架構図中に示した。その結果によれば、材軸方向の変形量は柱材(○印)よりもブレース材(●印)の方が一般的に大きく、その中でも超大型組梁(メガトラス梁)を構成するブレース材は他層(従架構)のブレース材と比較して3倍乃至4倍の変形量を示す。従って、ダンパーを配置するべき部位は、柱材よりもブレース材が適切であり、ブレース材の中でも超大型組梁を構成するブレース材が格別適切であることが理解される。
【0009】そこで、上述の結果を参考にして、図2A〜Dに示した4種類の時刻歴応答解析用の架構モデルを用意した。図2Aに示すモデル0は、ダンパーが一切使用されていない基本モデルである。図2Bに示すモデル1は、■、■、■、■通りの柱材に沿って全層に垂直な向きにダンパー4を設置した構成であり、ダンパー総数は120個になった。図2Cに示すモデル2は、■−■間、■−■間、■−■間、■−■間の全層のブレース材に沿ってダンパー4を斜めに配置した構成であり、ダンパー総数はやはり120個になった。従って、このモデル2の場合は、当然超大型組梁2のブレース材3にもダンパー4が配置されている。図2Dに示すモデル3は、第9層、第16層、第23層及び第30層の超大型組梁2を構成するブレース材3にのみ限って、各ブレース材に沿ってダンパー4を斜めに設置した構成であり、ダンパー総数は32個であった。各モデルとも、ダンパー4の減衰性能は一律の値に設定した(1000トン・s/cm)。
【0010】上記の4種類のモデル0、1、2、3について実施した風の時刻歴応答解析の結果(風速60m/s時の動解析結果)を図3に示した。図中の○印はモデル0のもの、□印はモデル1のもの、●印はモデル2のもの、■印はモデル3の結果を示す。図3の応答解析の結果を見ると、モデル0はともかくとして、モデル1〜3の中では、モデル3の制振効果が最も高い。要するに、超大型組梁2のブレース材3にのみダンパー4を設置する方法によれば、他のモデルの1/4程度の少数のダンパーで、他のモデルより以上に優れた制振効果が得られる。そして、ダンパーを設置する手間も大いに省けることになる。
【0011】
【実施例】次に、図示した本発明の実施例を説明する。図1は地上の高さが600mの超々高層建物の地上部分の主要架構概要を示している。高さ20mを1単位とする30層の主要架構は超大型組柱1と超大型組梁2とによるメガストラクチャーで構成され、第9層、第16層、第23層、及び第30層がそれぞれ超大型組梁(メガトラス梁)2を構成している。ちなみに主要架構の周期は、1次12.4秒、2次3.9秒、3次2.0秒である。
【0012】上記超々高層建物の第9層、第16層、第23層、及び第30層を構成する超大型組梁(メガトラス梁)2の各ブレース材3に沿って、図2Dに例示したようにダンパー4が設置されている。ダンパー4の種類、形式などは、所定の性能を発揮するかぎり、特に限定する理由がない。粘性体(弾性体)ダンパー、摩擦ダンパー等々の区別無く、一般的なダンパーを使用することが出来る。
【0013】上記構成の超々高層建物の架構モデルについて実施した風の時刻歴応答解析の結果(制振効果)は、既に述べたように、図3中に■印で示した通りである。
【0014】
【本発明が奏する効果】本発明に係る超々高層建物の制振方法によれば、風荷重及び地震荷重に対して曲げ振動が卓越する高さ500m乃至1000mの超々高層建物の制振を、極めて少数の、且つ既往の一般的なダンパーを通常態様に使用して、従って、従来一般の技術により少ない工数で経済的に行うことが出来、超々高層建物を構造的に実現することに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】超々高層建物の主要架構を示した立面図である。
【図2】A〜Dは制振効果を確認する架構モデル図である。
【図3】上記架構モデルの風の時刻歴応答解析の結果を示す。
【図4】超々高層建物の主要架構に風荷重を模擬した静的な水平荷重を加えた外力分布図を示している。
【図5】A,Bは図4の外力の応答結果を示している。
【符号の説明】
1 超大型組柱
2 超大型組梁
3 ブレース材
4 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 風荷重及び地震荷重に対して曲げ振動が卓越する高さ500m乃至1000mの超々高層建物の制振方法であって、超々高層建物の主要架構を超大型組柱と超大型組梁によるメガストラクチャーで構成し、前記超大型組梁の各ブレース材に沿ってダンパーを設置したことを特徴とする、超々高層建物の制振方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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