説明

超伝導コイル

【課題】新規で斬新な形態の高信頼性を有する超伝導コイルを提供する。
【解決手段】超伝導コイル2は、支持基板3と巻線部4を備えている。支持基板3には、溝が形成されている。巻線部4は、溝内に充填されている超伝導線材を有する。さらに、複数の前記支持基板3が積層しており、積層方向に隣り合う前記支持基板3では、前記巻線部4の前記超伝導線材が電気的に接続されている。前記巻線部4内で隣り合う前記超伝導線材において、長手方向で観測したときに、接近する部位が繰り返し現れるの構成とするが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導エネルギー貯蔵装置、高磁場発生装置、又は各種センサに用いられる超伝導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導材料を用いて構成される超伝導コイルの開発が進められており、その一例が特許文献1及び2に開示されている。例えば、特許文献1に示されるように、超伝導コイルは、超伝導線材を含む巻線部を予め用意し、その巻線部を円筒状の支持体の内面に当接させながら螺旋状に巻回させることで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−25818号公報
【特許文献2】特開2009−284634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通電時、超伝導線材には半径方向に電磁力が作用する。円筒状の支持体は、電磁力が作用する超伝導線材を固定して保持するために設けられている。超伝導コイルの信頼性を確保するためには、超伝導線材と支持体を強固に固定する必要がある。しかしながら、予め用意された超伝導線材を巻回する製造方法は、精度を確保することが難しいことから、超伝導線材と支持体の固定方法に不具合が生じ易く、超伝導コイルの信頼性が低いという問題がある。
【0005】
本明細書で開示される技術では、新規で斬新な形態を採用し、高磁場発生型の超伝導コイルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示される超伝導コイルは、支持基板と巻線部を備えている。支持基板には、溝が形成されている。巻線部は、溝内に充填されている超伝導線材を有する。本明細書で開示される超伝導コイルでは、超伝導線材が支持基板に形成された溝内に充填されることで保持されている。これにより、超伝導線材に作用する電磁力を支持基板に負担させることができるので、超伝導コイルの信頼性が向上する。
【0007】
本明細書で開示される超伝導コイルは、溝が軸回りに沿って伸びていてもよい。この態様の超伝導コイルでは、少なくとも1ターンの巻線部が支持基板に構成されている。
【0008】
本明細書で開示される超伝導コイルでは、複数の支持基板が積層していてもよい。この場合、積層方向に隣り合う支持基板では、巻線部の超伝導線材が電気的に接続されているのが望ましい。この態様の超伝導コイルでは、複数の支持基板に亘って電気的に接続された巻線部の超伝導線材によってコイルが構築されている。この態様の超伝導コイルは、支持基板を積層させるという簡易な方法で作製可能である。
【0009】
本明細書で開示される超伝導コイルでは、巻線部が、断面視したときに、複数の超伝導線材の集合として構成されていてもよい。この態様の超伝導コイルでは、巻線部が大電流を流すことができる。
【0010】
本明細書で開示される超伝導コイルでは、巻線部内で隣り合う超伝導線材において、長手方向で観測したときに、接近する部位が繰り返し現れてもよい。この態様の超伝導コイルでは、誘導電流による交流損失が低減される。
【0011】
本明細書で開示される超伝導コイルでは、支持基板の引っ張り強度が100MPa以上であるのが望ましい。この態様によると、支持基板が巻線部の超伝導線材に作用する電磁力を良好に負担することができるので、超伝導コイルの信頼性が大幅に向上する。
【0012】
本明細書で開示される超伝導コイルは、超伝導エネルギー貯蔵装置に用いられてもよい。小型で大容量な超伝導エネルギー貯蔵装置が得られる。
【0013】
本明細書で開示される超伝導コイルの製造方法は、支持基板に溝を形成する溝形成工程と、その溝内に超伝導線材を充填して巻線部を形成する巻線部形成工程とを備えていてもよい。
【0014】
本明細書で開示される超伝導コイルの製造方法は、複数の支持基板を積層させる積層工程をさらに備えていてもよい。積層工程では、積層方向に隣り合う支持基板において、巻線部の超伝導線材の電気的な接続を確保しながら支持基板を積層するのが望ましい。この製造方法によると、支持基板を積層させるという簡易な工程を実施するだけで、巻線部の超伝導線材をコイルとして構成することができる。
【0015】
溝形成工程では、エッチング技術を利用して、支持基板の表面に溝を形成してもよい。半導体製造技術において汎用されているエッチング技術を利用して、支持基板に溝を形成することができる。この態様の製造方法は、高精度な溝を形成することができるとともに、大量生産に適している。
【0016】
巻線部形成工程では、蒸着技術を利用して、溝内に超伝導線材を充填してもよい。半導体製造技術において汎用されている蒸着技術を利用して、支持基板の溝に超伝導線材を充填させることができる。この態様の製造方法は、高精度な溝を形成することができるとともに、大量生産に適している。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示される超伝導コイルは、支持基板の溝内に超伝導線材を充填させることで、超伝導線材に作用する電磁力を支持基板で負担するという斬新な形態を備えており、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、超伝導エネルギー貯蔵装置の概略図を示す。
【図2】図2は、超伝導コイルの概略図を示す。
【図3】図3は、超伝導コイルの分解概略図を示す。
【図4】図4は、超伝導コイルの一部断面図を示す。
【図5】図5は、第1支持基板の平面図を示す。
【図6】図6は、第2支持基板の平面図を示す。
【図7】図7は、巻線部の拡大断面図を示す。
【図8】図8(A)は、巻線部の超伝導線材のレイアウトの一例を示す。図8(B)は、巻線部の超伝導線材のレイアウトの他の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で開示される超伝導コイルは、超伝導エネルギー貯蔵装置、高磁場発生装置、又は各種センサに用いられ、特に、超伝導エネルギー貯蔵装置に用いられるのが望ましい。本明細書で開示される超伝導エネルギー貯蔵装置は、小型であり、高信頼性であり、且つ高密度のエネルギーを貯蔵可能となる。このため、本明細書で開示される超伝導エネルギー貯蔵装置は、戸別単位での一時的な電力貯蔵装置としての利用が可能となる。
【0020】
本明細書で開示される超伝導コイルは、複数枚の支持基板を備えている。支持基板の表面には溝が形成されており、その溝内に超伝導線材が充填されている。複数の超伝導線材が集合して巻線部を構成してもよい。巻線部は、軸回りに沿って伸びていてもよい。ここで、軸とは、巻線部によって構築されるコイルの軸のことである。巻線部は、支持基板を平面視したときに、渦巻き状に形成されていてもよい。このように、各支持基板に複数ターンの巻線部が形成されており、それら支持基板が積層するとソレノイド型コイルが構築される。
【0021】
支持基板には、超伝導線材に作用する電磁力を負担することが可能な引っ張り強度を有する材料が選択される。例えば、支持基板の引っ張り強度が100MPa以上であれば、超伝導線材に作用する電磁力を支持基板で負担し、超伝導線材が破損することが防止される。より好ましくは、支持基板の引っ張り強度が500MPa以上であるのが望ましい。支持基板の引っ張り強度が500MPa以上であれば、磁束密度が5Tであっても、超伝導線材が破損することが防止される。具体的には、支持基板の一例には、単結晶のシリコン、多結晶のシリコン、単結晶の炭化ケイ素、単結晶の酸化アルミニウム、単結晶の窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1つを含むのが望ましい。なかでも、支持基板に半導体材料が用いられていると、汎用な半導体製造技術を用いて支持基板に溝を形成することができるという利点がある。
【0022】
超伝導線材には、超伝導特性を示す様々な材料を選択することができる。金属系の超伝導材料の一例としては、NbTi、NbSn、MgB、NbNを挙げることができる。酸化物系の超伝導材料の一例としては、YBaCu(YBCO)、BiSrCaCuOx(Bi2212)を挙げることができる。有機系の超伝導線材の一例としては、β−(BEDT−TTF)2/3、K3C60、Rb60、CCa(グラファイト)を挙げることができる。
【0023】
巻線部によって構築されるコイルには、実用的な様々な形態を採用することができる。典型的には、ソレノイド型コイル、トロイド型コイルを採用するのが望ましい。
【0024】
支持基板に形成される溝は、様々な方法を利用して形成することができる。例えば、工作機械を利用して支持基板の表面に溝を形成してもよく、エッチング技術を利用して支持基板の表面に溝を形成してもよい。特に、エッチング技術の利用は、高精度な溝を形成することができるとともに、スループットが高く大量生産に適している。
【0025】
超伝導線材は、様々な方法を利用して形成することができる。例えば、めっき技術を利用して超伝導線材を溝内に充填してもよく、蒸着技術を利用して超伝導線材を溝内に充填してもよい。特に、蒸着技術の利用は、高精度な超伝導線材を形成することができるとともに、スループットが高く大量生産に適している。
【実施例1】
【0026】
図1に示されるように、超伝導エネルギー貯蔵装置1は、4つの超伝導コイル2を備えている。隣り合う超伝導コイル2は、漏れ磁場を低減するために、極性の向きが逆向きとなるように配置されている。なお、4つの超伝導コイル2は、図示しないクライオスタットに収納されており、液体ヘリウムによる冷却が可能となるように構成されている。
【0027】
図2及び図3に示されるように、超伝導コイル2は、複数枚の支持基板3が積層して構成されている。積層方向に隣り合う支持基板3は、陽極接合技術を利用して強固に結合されている。詳細は後述するが、支持基板3には巻線部4が形成されている。超伝導コイル2では、積層方向(紙面上下方向)に隣り合う支持基板3において、巻線部4が電気的に接続されている。これにより、複数の支持基板3に亘って電気的に接続された巻線部4がソレノイド型コイルを構築している。この例では、支持基板3に4インチのシリコンウェハが用いられている。超伝導コイル2は、約500枚の支持基板3が積層されており、その高さが約300mmである。
【0028】
図4に示されるように、支持基板3には、第1支持基板3aと第2支持基板3bの2種類が存在しており、積層方向に交互に積層されている。図5に示されるように、第1支持基板3aには、軸5の周囲を渦巻状に伸びている巻線部4が形成されている。第1支持基板3aの巻線部4は、外側端部4Aから内側端部4Bまで時計回りに形成されている。図6に示されるように、第2支持基板3bにも、軸5の周囲を渦巻状に伸びている巻線部4が形成されている。第2支持基板3bの巻線部4は、外側端部4Dから内側端部4Cまで反時計回りに形成されている。巻線部4の幅4Wは、約1mmである。
【0029】
図4に示されるように、支持基板3a,3bが積層されると、第1支持基板3aの巻線部4の外側端部4Aは、下側に積層される第2支持基板3bの巻線部4の外側端部4Dに貫通部材6を介して電気的に接続される。さらに、第1支持基板3aの巻線部4の内側端部4Bは、上側に積層される第2支持基板3bの巻線部4の内側端部4Cに貫通部材6を介して電気的に接続される。なお、貫通部材6には、導電性のプラグが用いられている。貫通部材6には、巻線部4で用いられるものと同一の超伝導材料が用いられるのが望ましい。このように、外側端部4A,4Dにおける接続と内側端部4B,4Cにおける接続が、積層方向に沿って交互に行われている。第1支持基板3aの巻線部4が時計回りに形成されており、第2支持基板3bの巻線部4が反時計回りに形成されているので、例えば、紙面下側から紙面上側に向けて複数の支持基板3a,3bを亘って巻線部4を流れる電流は、平面視したときに、常に時計回りに流れることができる。
【0030】
図7に示されるように、巻線部4は、複数の巻線要素8の集合として構成されている。例えば、断面視したときに、巻線部4には10本の巻線要素8が含まれている。巻線要素8は、支持基板3の表面に形成された溝7内に充填されており、超伝導線材8aとそれを被覆する被膜材8bを有する。超伝導線材8aには、ニオブ・チタン(NbTi)が材料として選択されており、蒸着技術を利用して形成される。被膜材8bには、銅(Cu)が材料として選択されており、蒸着技術を利用して形成される。被膜材8bは、クエンチ現象を抑制するために設けられている。巻線要素8の幅8Wは、約50μmである。
【0031】
図8(A)に示されるように、巻線部4では、隣り合う巻線要素8が長手方向に沿って平行に構成されていてもよく、図8(B)の破線に示されるように、近接する部位が繰り返し現れてもよい。特に、近接する部位が、一定の周期で繰り返し現れるのが望ましい。例えば、近接する部位が約10μmの周期で繰り返し現れるのが望ましい。このように、近接する部位が繰り返し現れると、ループ面積が分断され、誘導電流による交流損失が低減される。
【0032】
このように、超伝導線材8aを含む巻線要素8は、支持基板3の表面に形成された溝7内に充填されている。通電時に、超伝導線材8aには半径方向に電磁力が作用する。支持基板3は、超伝導線材8aに作用する電磁力を負担することができる。このように、超伝導線材8aが支持基板3に強固に保持されることから、超伝導コイル2の信頼性が高い。
【0033】
また、超伝導コイル2は、予め2種類の支持基板3a,3bを用意し、それらを積層させるだけで製造することができる。また、各支持基板3a,3bは、汎用されている半導体装置の製造技術を利用して製造することができる。このため、超伝導コイル2は、大量生産に適しているとともに、特性の面でも、小型で高密度なエネルギーを貯蔵可能となる。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
1:超伝導エネルギー貯蔵装置
2:超伝導コイル
3:支持基板
4:巻線部
5:軸
6:貫通部材
7:溝
8:巻線要素
8a:超伝導線材
8b:被膜材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と巻線部と、を備えており、
前記支持基板には、溝が形成されており、
前記巻線部は、前記溝内に充填されている超伝導線材を有する超伝導コイル。
【請求項2】
前記溝は、軸回りに沿って伸びている請求項1に記載の超伝導コイル。
【請求項3】
複数の前記支持基板が積層しており、
積層方向に隣り合う前記支持基板では、前記巻線部の前記超伝導線材が電気的に接続されている請求項1又は2に記載の超伝導コイル。
【請求項4】
前記巻線部は、断面視したときに、複数の前記超伝導線材の集合として構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の超伝導コイル。
【請求項5】
前記巻線部内で隣り合う前記超伝導線材において、長手方向で観測したときに、接近する部位が繰り返し現れる請求項4に記載の超伝導コイル。
【請求項6】
前記支持基板の引っ張り強度が、100MPa以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の超伝導コイル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の超伝導コイルを備える超伝導エネルギー貯蔵装置。
【請求項8】
支持基板に溝を形成する溝形成工程と、
その溝内に超伝導線材を充填して巻線部を形成する巻線部形成工程と、を備える超伝導コイルの製造方法。
【請求項9】
複数の前記支持基板を積層させる積層工程を、をさらに備えており、
前記積層工程では、積層方向に隣り合う前記支持基板において、前記巻線部の前記超伝導線材の電気的な接続を確保しながら前記支持基板を積層する請求項8に記載の超伝導コイルの製造方法。
【請求項10】
前記溝形成工程では、エッチング技術を利用して、前記支持基板の表面に前記溝を形成する請求項8又は9に記載の超伝導コイルの製造方法。
【請求項11】
前記巻線部形成工程では、蒸着技術を利用して、前記溝内に前記超伝導線材を充填する請求項8〜10のいずれか一項に記載の超伝導コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−80849(P2013−80849A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220638(P2011−220638)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)