説明

超硬合金製ツイストドリル

【課題】高いドリル本体剛性と良好な切り屑排出性をバランスさせることでドリル先端部の溝部心厚W1付近での切り屑詰まりによる折損を防止し、安定した深穴明け加工を可能とした超硬合金製ツイストドリルを提供。
【解決手段】ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径Dの25%〜40%とし、溝切れ上がり部 4の溝部心厚W3をドリル直径Dの23%以上とし、ドリル先端部から溝切れ上がり部 4までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状WCに急激に減少させ、
ドリル先端部から溝切れ上がり部 4までの 1/3の位置の溝部心厚W2を、
W2≒W1−〔(W1−溝切れ上がり部の溝部心厚W3)×1/2 〕
とし、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部 4の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状SLにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル本体の先端部に2枚の切れ刃と、各切れ刃間に配置された1対のドリルねじれ刃溝と、ドリルねじれ刃溝に沿ってドリル先端面に開口する1対の油穴とを有し、油穴から微量のミスト又は水溶性切削油剤を吐出しながらドリル直径の7倍以上の穴明けが可能な超硬合金製ツイストドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル直径の7倍以上の深穴明け加工に使用されるドリルは、溝長が長くなるためドリル本体の剛性が低下し、また切り屑はドリルねじれ刃溝に沿って排出されるので、穴深さが増すにつれ切り屑排出は困難になり折損に至る。従来、かかるドリル直径の7倍以上の深穴明け加工に使用されるドリルとして、特許文献1では深穴明け加工における切り屑排出性を向上させるため、ドリル先端部の溝部心厚W1を溝切れ上がり部の溝部心厚W3に向けてほぼ直線状に心厚テーパの勾配を減少させたものを提案し、特許文献2では図2に示すような溝部心厚Wがそれぞれほぼ一定のドリル先端部側の第1心厚部Waと溝切れ上がり部側の第2心厚部Wbとを備え、第1心厚部Waの溝部心厚W1を第2心厚部Wbの溝部心厚W3より大としたものを提案する。
【特許文献1】実開昭52−86884号公報
【特許文献2】特開2002−301611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、ドリル先端部の溝部心厚W1を溝切れ上がり部の溝部心厚W3に向けてほぼ直線状に心厚テーパの勾配を減少させているが、ドリル先端部の溝部心厚W1付近で穴深さが増すにつれ切り屑排出は困難になった。また特許文献2においても、ドリル先端部側の第1心厚部の溝部心厚Wがほぼ一定であるので、ドリル先端部の第1心厚部付近で穴深さが増すにつれ切り屑排出は困難になった。
【0004】
本発明の課題は、ドリル本体の先端部に2枚の切れ刃と、各切れ刃間に配置された1対のドリルねじれ刃溝と、ドリルねじれ刃溝に沿ってドリル先端面に開口する1対の油穴とを有し、油穴から微量のミスト又は水溶性切削油剤を吐出しながらドリル直径の7倍以上の穴明けが可能な超硬合金製ツイストドリルにおいて、従来技術のかかる課題を解決した、高いドリル本体剛性と良好な切り屑排出性をバランスさせることでドリル先端部の溝部心厚W1付近での切り屑詰まりによる折損を防止し、安定した深穴明け加工を可能とした超硬合金製ツイストドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明によると、ドリル本体の先端部に2枚の切れ刃と、各切れ刃間に配置された1対のドリルねじれ刃溝と、ドリルねじれ刃溝に沿ってドリル先端面に開口する1対の油穴とを有し、油穴から微量のミスト又は水溶性切削油剤を吐出しながらドリル直径の7倍以上の穴明けが可能な超硬合金製ツイストドリルにおいて、ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%〜40%とし、溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%以上とし、ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状に急激に減少させ、
ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置の溝部心厚W2を、
W2≒W1−〔(W1−溝切れ上がり部の溝部心厚W3)×1/2 〕
とし、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状にしたことを特徴とする超硬合金製ツイストドリルを提供することにより上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0006】
かかる構成により、本発明では、ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%〜40%とし、溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%以上とし、ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状に急激に減少させ、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状にしたので、ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状に急激に減少させることによりドリル先端部の溝部心厚W1付近での切り屑の流れをよくし切り屑詰まりによる折損を防止し、前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状にしかつドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%〜40%とし溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%以上とすることで、高いドリル本体剛性と良好な切り屑排出性をバランスさせ安定した深穴明け加工を可能とした超硬合金製ツイストドリル提供するものとなった。ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%未満ではドリル本体剛性の低下による折損の原因となり、40%を越えると切り屑詰まりの原因となる。又、溝切れ上がり部の溝部心厚W3がドリル直径の23%未満ではドリル本体剛性の低下による折損や穴曲がりの原因となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は本発明を実施するための最良の形態の一例の超硬合金製ツイストドリルを示し、(a)は概略横断面図、(b)は(a)のA方向からみたドリル先端部の平面図、(c)は(a)のドリルの溝部心厚Wの構成を示す要部切断面図である。図2は特許文献2に開示する従来品の超硬合金製ツイストドリルを示し、(a)は概略横断面図、(b)は(a)のA方向からみたドリル先端部の平面図、(c)は(a)のドリルの溝部心厚Wの構成を示す要部切断面図である。
【0008】
図1に示すように、本発明の実施形態の超硬合金製ツイストドリルは、ドリル本体の先端部に2枚の切れ刃 2、2と、切れ刃 2、2間に配置された刃溝ねじれ角θを有する1対のドリルねじれ刃溝 3、3と、ドリルねじれ刃溝 3、3に沿ってドリル先端面に開口する1対の油穴 5、5とを有し、油穴 5、5から図示しない微量のミスト又は水溶性切削油剤を吐出しながらドリル直径の7倍以上の穴明けが可能な超硬合金製ツイストドリルにおいて、ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径Dの25%〜40%とし、溝切れ上がり部 4の溝部心厚W3をドリル直径Dの23%以上とし、ドリル先端部から溝切れ上がり部 4までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状WCに急激に減少させ、
ドリル先端部から溝切れ上がり部 4までの 1/3の位置の溝部心厚W2を、
W2≒W1−〔(W1−溝切れ上がり部の溝部心厚W3)×1/2 〕
とし、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部 4の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状SLにしたものである。 6はガイドランドである。
【実施例1】
【0009】
本発明の実施例1として、図1に示す発明品である、ドリル直径D 5mm、溝長 150mm、全長 200mm、シャンク径Ds 5mmの超硬合金製ツイストドリルで、ドリル先端部の溝部心厚W1をドリル直径Dの33%の1.65mm、溝切れ上がり部 4の溝部心厚W3をドリル直径Dの23%の1.15mm、ドリル先端部から溝切れ上がり部 4までの 1/3の位置の溝部心厚W2を、 W2≒W1−〔(W1−W3)×1/2 〕≒(1.65mm −1.15mm)×1/2 ≒ 1.4mm
(ドリル直径Dの28%)とし、ドリル先端部から溝切れ上がり部 4までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状WCに急激に減少させ、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部 4の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状SLにした発明品と、図2に示す(説明の便宜上溝部心厚Wを強調して示す)特許文献2に開示する従来品である、ドリル直径D 5mm、溝長 150mm、全長 200mm、シャンク径Ds 5mmの超硬合金製ツイストドリルで、溝部心厚Wがそれぞれほぼ一定のドリル先端部側の第1心厚部Waの溝部心厚W1をドリル直径Dの33%の1.65mm、溝切れ上がり部側の第2心厚部Wbの溝部心厚W3をドリル直径Dの30%の 1.5mmとした従来品と、について、被削材を炭素鋼S50Cとし、穴あけ深さ: 130mmの穴あけを、切削速度70m/min 、送り速度 600mm/min(10mm/sec)で、油穴から微量のミストを吐出しながら比較切削試験を行った。
【0010】
発明品の比較切削試験結果を図3に示す。本発明品(発明品)は、1穴目から5穴目まで、それぞれ、送り速度 600mm/min(10mm/sec)で13秒間の深さ 130mmの穴あけ切削において、安定した通常の主軸負荷電圧波形を示した。これに対し、図4に示す図2に示す特許文献2に開示する従来品(従来品)では、送り速度 600mm/min(10mm/sec)で10秒間以上の、穴あけ深さ 100mm以上の穴あけ切削において、通常の主軸負荷電圧に対して50%以上の主軸負荷電圧波形、即ち経験的にドリル折損の前兆となる主軸負荷電圧波形、をそれぞれ示し、切り屑詰まりによる主軸負荷電圧値の上昇が見られた。
【実施例2】
【0011】
本発明の実施例2として、実施例1と同じ図1に示す本発明品(発明品)と、図2に示す従来品(従来品)の超硬合金製ツイストドリルで、それぞれ実施例1と同じ被削材:炭素鋼S50C、穴あけ深さを 130mmの穴あけを、切削速度70m/min 、送り速度 600mm/min(10mm/sec)で、油穴から微量のミストを吐出しながら、それぞれドリル折損に至るまでの穴あけ個数を調査した。穴あけ個数調査の結果を図5に示す。
図5に示すように、従来品(従来品)はわずか6穴でドリル折損となったのに対し、本発明品(発明品)は 400穴以上の穴あけができ( 400穴で中止)、極めて良好な結果を示した。
【0012】
本発明の実施形態の超硬ツイストドリルは、ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%〜40%とし、溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%以上とし、ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状に急激に減少させ、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状にしたので、ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置まで溝部心厚Wを凹曲線状に急激に減少させることによりドリル先端部の溝部心厚W1付近での切り屑の流れをよくし切り屑詰まりによる折損を防止し、前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状にしかつドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%〜40%とし溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%以上とすることで、高いドリル本体剛性と良好な切り屑排出性をバランスさせ安定した深穴明け加工を可能とした超硬合金製ツイストドリル提供するものとなった。ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%未満ではドリル本体剛性の低下による折損の原因となり、40%を越えると切り屑詰まりの原因となる。又、溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%未満ではドリル本体剛性の低下による折損や穴曲がりの原因となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の一例の超硬合金製ツイストドリルを示し、(a)は概略横断面図、(b)は(a)のA方向からみたドリル先端部の平面図、(c)は(a)のドリルの溝部心厚Wの構成を示す要部切断面図である。
【図2】特許文献2に開示する従来品の超硬合金製ツイストドリルを示し、(a)は概略横断面図、(b)は(a)のA方向からみたドリル先端部の平面図、(c)は(a)のドリルの溝部心厚Wの構成を示す要部切断面図である。
【図3】実施例1の発明品の比較切削試験結果を示す、穴あけ切削と主軸負荷電圧との関係を示すグラフ。
【図4】実施例1の特許文献2に開示する従来品の比較切削試験結果を示す、穴あけ切削と主軸負荷電圧との関係を示すグラフ。
【図5】実施例2の本発明品と従来品穴あけ個数調査の結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0014】
2:切れ刃、3:ドリルねじれ刃溝、4:溝切れ上がり、5:油穴
D:ドリル直径、W1:ドリル先端部の溝部心厚
W2:ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置の溝部心厚
W3:溝切れ上がり部の溝部心厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体の先端部に2枚の切れ刃と、各切れ刃間に配置された1対のドリルねじれ刃溝と、ドリルねじれ刃溝に沿ってドリル先端面に開口する1対の油穴とを有し、油穴から微量のミスト又は水溶性切削油剤を吐出しながらドリル直径の7倍以上の穴明けが可能な超硬合金製ツイストドリルにおいて、ドリル先端部の溝部心厚W1はドリル直径の25%〜40%とし、溝切れ上がり部の溝部心厚W3をドリル直径の23%以上とし、ドリル先端部から溝部心厚Wを凹曲線状に急激に減少させ、ドリル先端部から溝切れ上がり部までの 1/3の位置での溝部心厚W2を、
W2=W1−〔(W1−溝切れ上がり部の溝部心厚W3)×1/2 〕
とし、かつ前記 1/3の位置での溝部心厚W2から溝切れ上がり部の溝部心厚W3まで心厚テーパの勾配が減少したほぼ直線状にしたことを特徴とする超硬合金製ツイストドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−66701(P2009−66701A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237418(P2007−237418)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】