説明

超磁歪式油圧発生装置及び該装置を備えた超磁歪式油圧ポンプシステム

【課題】 従来より装置の小型・軽量化が可能であると共により効率的に利用できる超磁歪式油圧発生装置及び該装置を備えた超磁歪式油圧ポンプシステムの提供。
【解決手段】 磁力により体積変化する超磁歪素子と、通電により磁力を発生して前記超磁歪素子を体積変化させる駆動コイルとを有する超磁歪駆動部と、超磁歪素子の体積変化に伴ってシリンダ内を往復駆動して加圧リザーバからの作動圧油を吐出するプランジャピストンを有するポンプ部とが配置された同一ハウジング内の超磁歪駆動部の外周領域に加圧リザーバ室が設けられ、該加圧リザーバ室と超磁歪駆動部との間に少なくとも駆動コイルを加圧リザーバ室からの油に浸漬状態とするための連通構造を備えた超磁歪式油圧発生装置および該発生装置に接続された電磁弁と出力機構と、発生装置および電磁弁を駆動制御する制御機構と、を備えた超磁歪式油圧ポンプシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超磁歪材料を用いて油圧ポンプを構成してなる油圧発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の油圧ポンプ装置としては、駆動源として電動モータを用いて圧油を吸引、吐出させる構成のものが一般的であった。しかしながら、装置構成の小型・軽量化を目的として、電動モータに代わる駆動源が求められており、そこで、近年では磁力によって体積変化する超磁歪素子を利用した超磁歪式の油圧ポンプ装置が提案されている。
【0003】
強磁性材料では、総称して磁歪と呼ばれる現象、即ち磁石やコイル等による外部磁界に応じて素子寸法が変化し、直交する磁界が同時に加わると素子が捻れ、捻れ応力によって素子の磁気特性が変化するという現象が生じるが、超磁歪素子は、従来の強磁性材料の寸法変化量に対して格段に大きい変位量を示すものである。
【0004】
このような超磁歪素子を利用した油圧ポンプ装置としては、超磁歪素子を駆動するためのコイルと、超磁歪素子の体積変化に伴ってポンプ運動するプランジャピストンおよび作動油供給・回収用リザーバタンクとを備えたものがある。
【0005】
具体的には、例えば外部からコイルに通電して磁場を発生させ、この磁場により超磁歪素子を伸長方向に体積変化させることによってプランジャピストンをスプリングの付勢力に抗して移動させて、リザーバタンクからポンプ室に吸引した圧油をチェック弁を介してアクチュエータへ吐出させ、またコイルへの通電を立つことで磁場を消滅させ、超磁歪素子の体積を縮小方向に復帰させることによってプランジャピストンがスプリング付勢力で反対方向に移動することで、前記ポンプ室に圧油を吸引すると共に他のポンプ室から圧油をアクチュエータに吐出させるという繰り返し動作による連続油圧ポンプ、あるいは超磁歪素子の伸縮によるプランジャポンプの往復駆動による単動油圧ポンプとしての作動がなされるものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−93830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の如き従来の超磁歪素子を用いた油圧ポンプ装置は、超磁歪素子およびプランジャコイルの駆動部と、これと離れて設けられた加圧リザーバタンク等のそれぞれ単独で存在する部品同士の複雑な組合せ構成からなるものであって、また超磁歪素子が発熱体であることと駆動コイル等の冷却システムが必要となることから、装置設備に大きな占有空間が必要となり、また実際の使用に当たって煩雑な作業となり、効率的な利用が困難であった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、従来より装置の小型・軽量化が可能であると共により効率的に利用できる超磁歪式油圧発生装置及び該装置を備えた超磁歪式油圧ポンプシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る超磁歪式油圧発生装置は、磁力により体積変化する超磁歪素子と、通電により磁力を発生して前記超磁歪素子を体積変化させる駆動コイルとを有する超磁歪駆動部と、前記超磁歪素子の体積変化に伴ってシリンダ内を往復駆動して加圧リザーバからの作動圧油を吐出するプランジャピストンを有するポンプ部と、を備えた超磁歪式油圧発生装置において、前記超磁歪駆動部とポンプ部とが配置された同一ハウジング内の前記超磁歪駆動部の外周領域に加圧リザーバ室が設けられ、該加圧リザーバ室と前記超磁歪駆動部との間に少なくとも前記駆動コイルを前記加圧リザーバ室からの油に浸漬状態とするための連通構造を備えているものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明に係る超磁歪式油圧発生装置は、請求項1に記載の超磁歪式油圧発生装置において、前記超磁歪素子と前記プランジャピストンとの間に、該超磁歪素子の体積変化による駆動を該プランジャピストンに伝達する両者とは別体の伝達部材を設けたものである。
【0011】
請求項3に記載の発明に係る超磁歪式油圧発生装置は、請求項1に記載の超磁歪式油圧発生装置において、前記プランジャピストンは、複数個の吸い込み用チェックバルブを備えているものである。
【0012】
請求項4に記載の発明に係る超磁歪式油圧発生装置は、請求項1に記載の超磁歪式油圧発生装置において、前記プランジャピストンおよびハウジングが非磁性体材料製であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載の発明に係る超磁歪式油圧ポンプシステムは、前記請求項1〜4の何れかに記載の超磁歪式油圧発生装置と、該発生装置に接続された電磁弁と出力機構と、前記発生装置および電磁弁を駆動制御する制御機構と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超磁歪式油圧発生装置では、作動油を供給源である加圧リザーバ室が超磁歪駆動部の外周領域に同一ハウジング内で設けられているため、リザーバタンクが装置本体と別体に設けられている場合に比べて装置構成全体が小型化し、且つ、この超磁歪駆動部の外周領域のリザーバ室からリザーバ油を超磁歪駆動部内に連通構造を介して導入して駆動コイルを油浸状態にするため、このリザーバ室からのリザーバ油導入を冷却システムとして兼用させることができるため、さらなる装置の軽量・小型化と効率化が図れるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の超磁歪式油圧発生装置においては、駆動コイルへの通電により発生する磁力で超磁歪素子を体積変化させる超磁歪駆動部と、該超磁歪素子の体積変化に伴ってシリンダ内を往復駆動して加圧リザーバからの作動圧油を吐出するプランジャピストンを有するポンプ部とが配置された同一ハウジング内で、超磁歪駆動部の外周領域に加圧リザーバ室を設けると共に、この該加圧リザーバ室と超磁歪駆動部との間に連通構造を形成することによって駆動コイルを加圧リザーバ室からの油に浸漬状態とするものである。
【0016】
このように、作動圧油を供給源である加圧リザーバ室が超磁歪駆動部の外周領域に同一ハウジング内に設けられている本発明においては、リザーバタンクが装置本体と別体に設けられている従来タイプに比べて占有空間が小さくて済み、また連結構造により超磁歪駆動部外周領域のリザーバ室からリザーバ油の超磁歪駆動部内へリザーバ油を導入してこれを冷却システムとして兼用させることができ、少なくとも最も発熱の大きい駆動コイルを油浸状態として冷却できるため、別個に冷却システムを設ける必要がなくなり、装置構成全体の軽量・小型化と効率化を図ることができる。
【0017】
このリザーバ油を利用した冷却システムでは、駆動コイルだけでなく、超磁歪素子やその周辺部材などの発熱体が存在する領域を全体的に油浸状態で冷却するものがより好ましい。このリザーバ油導入による冷却システムは、リザーバ室と超磁歪駆動部との連通構造によって構成されるものであるが、効率的な冷却システムを得るためには、この冷却用として超磁歪駆動部側に導入されるリザーバ油に流れが作られる構成が望まれる。
【0018】
このようなリザーバ油をリザーバ室から導入するための連通構造としては、例えば、超磁歪駆動部を構成する駆動コイルおよび超磁歪素子が筒状ヨーク内に配置され、そのヨーク外周領域にリザーバ室が設けられるのであれば、該ヨークにリザーバ室とヨーク内とを連通する貫通孔を形成すれば、駆動コイルをリザーバ油に浸漬状態にでき、さらにヨーク内で駆動コイル部分と超磁歪素子側との間をシールするリング部材等が配置されている場合には、そのリング部材に一部切欠き部を設ければ、超磁歪素子周辺にリザーバ油を導いて油浸状態とすることができる。特に、前記貫通孔を二箇所設ければ、リザーバ室からヨーク内側へさらにヨーク内からリザーバ室側へとリザーバ油の流れが生じる連通構造が得られる。
【0019】
また、超磁歪素子とプランジャピストンは、両者の端部同士を連結して直接超磁歪素子の体積変化でプランジャピストンを駆動させる構成としてもよいが、超磁歪素子とプランジャピストンとに間に両者とは別体の伝達部材を配置し、この伝達部材を介して超磁歪素子の体積変化による駆動をプランジャピストンに伝達する構成とれば、ハウジングから構成されるシリンダ内を摺動するプランジャピストンの偏心量が補正でき、よりスムーズなピストン運動を可能とする。
【0020】
また、プランジャピストンと超磁歪素子の間に別体の伝達部材を介在させることによって、プランジャピストンの素材として選択する部材の可能性が広がり、例えば、アルミ等などより装置の軽量化が可能な材質を選択でき、これは装置の大容量化を容易にすると言う利点もある。また、プランジャピストンだけでなくハウジングを非磁性体材料製とすれば、装置をさらに軽量化でき、これもまた装置の大容量化を容易にする。
【0021】
さらに、従来は装置周辺の油圧回路中に設けられている吸い込み用チェックバルブをプランジャピストン自体に複数個設けることによっても、装置の全体構成を簡略化できる。
【0022】
以上のような、従来に比べて軽量・小型化と効率化が図れる本願発明の超磁歪式油圧発生装置を各種アクチュエータ等の出力機構に対する油圧ポンプとして用い、電磁切換弁を接続し、制御機構によって該油圧発生装置および電磁切換弁を駆動制御する構成とすれば、従来にない小型で効率的な超磁歪式油圧ポンプシステムを構築することができる。
【実施例】
【0023】
本発明の一実施例による超磁歪式油圧発生装置を図1の側断面図に示す。本超磁歪式油圧発生装置1は、アクチュエータ20へ油圧を供給するものであり、電磁切換弁19が接続され、制御機構18により駆動制御されることによって油圧ポンプシステムが構築されている。
【0024】
本実施例による超磁歪式油圧発生装置1は、非磁性体材料である、例えばアルミニウム材から構成された同一ハウジング15内に、超磁歪駆動部とポンプ部とリザーブとが配置されるものである。即ち、超磁歪駆動部は、ハウジング15内に固定された略筒状ヨーク6内で、ボビン4の外周に巻回され制御機構18からの駆動制御で通電されることによって磁力を発生する駆動コイル5と、ボビン4内に伸縮可能に挿通された超磁歪素子2とが配置されてなるものである。
【0025】
この超磁歪素子2のハウジング内側端部には、ヨーク6を貫通状態で突出する磁性材料、例えば純鉄製の伝達部材3が、非磁性体素材であるアルミニウム製のプランジャピストン12との間に介在する。このプランジャピストン12が、ハウジング15内に形成されてシリンダ14内を往復摺動することによって本装置のポンプ部が構成される。このプランジャピストン12の駆動は、駆動コイル5への通電および通電解除によって磁力の発生、消滅に応じて体積変化する超磁歪素子2の伸縮運動が伝達部材3を介して伝わって行われる。
【0026】
また、ヨーク6の外周領域には、ハウジング15の内壁面とヨーク6の外表面に沿って摺動可能に設けられた壁部材9とで囲まれてなる加圧リザーバ室8が設けられている。この加圧リザーバ室8は、反対側からスプリング10によって付勢される壁部材9によって加圧状態であり、このスプリング10の付勢力に抗して壁部材9が摺動することによって室内容積が増大するものである。
【0027】
また、ヨーク6には、リザーバ室8との連通構造として、二つの貫通孔7が形成されており、一方の貫通孔7からヨーク6内に導入されたリザーバ油は、他方の貫通孔7からリザーバ室8へ戻る流れを作り、駆動コイル5を浸漬状態で冷却する冷却システムを形成している。さらに、ボビン4と超磁歪素子2側との間をシールするリング部材11には一部切欠き(不図示)が形成されており、これによってヨーク6内に導入されたリザーバ油は、駆動コイル5だけでなく、超磁歪素子2および伝達部材3をも浸漬状態として発熱体周辺を全体的に冷却することができる。
【0028】
また、プランジャピストン12自身には、アクチュエータ20側からの戻り圧油に対して逆止となる複数個(本図1中では3個)の吸い込み用チェックバルブ13がリザーバ室8に連通する流路の端部開口に設けられている。
【0029】
以上の構成を備えた超磁歪式油圧発生装置1の作動は以下の通りである。まず駆動コイル5への通電がなく磁力が発生していない状態では、超磁歪素子2はボビン4内で軸方向に縮小しており、これによってプランジャピストン12は伝達部材3を介してコイル側(図中紙面向かって右方)へ引き寄せられている。従ってシリンダ14内ではプランジャピストン12の左側の空間容積が拡大されており、この左側空間にリザーバ室8からリザーバ油がプランジャピストン12内の流路を介して各チェックバルブ13を通って吸い込まれている。
【0030】
次に制御機構18による駆動制御で駆動コイル5に通電し磁力を発生させると、超磁歪素子2はボビン4内で軸方向に伸長し、この体積変化に伴って伝達部材3はプランジャピストン12を反対側(図中紙面向かって左方)へ押し出し、この左方へ移動するプランジャピストン12はシリンダ14内左側空間に吸い込まれていたリザーバ油をアクチュエータ20へ吐出する。以上のような駆動コイル5への通電、通電解除を繰り返すことによって、プランジャポンプ12はシリンダ14内を往復摺動して油圧ポンプとして作動する。この間、発熱体である駆動コイル5および超磁歪素子2、伝達部材3はヨーク6の貫通孔7を介してリザーバ室8から流入してくるリザーバ油に浸漬状態で冷却されている。
【0031】
超磁歪式油圧ポンプシステムとしては、制御機構18からの駆動制御で電磁切換弁19を切り換えることによってアクチュエータの作動を停止する。即ち、アクチュエータ20からの戻り油は、電磁切換弁19を介してシリンダ14内のプランジャピストン12の右側空間に流れ、リザーバ室8へ導入される。リザーバ室8は、戻り油の圧によってスプリング10に抗して壁部材9が摺動することによって容積を拡大していくことができる。
【0032】
以上のように本実施例による超磁歪式油圧発生装置1は、リザーバ室も発熱体冷却システムも同一ハウジング内にコンパクトに設けられ、装置全体の軽量・小型化および効率化が実現できたものである。この油圧発生装置1を用いれば、簡便な設計で容易に超磁歪式油圧ポンプシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例による超磁歪式油圧発生装置の概略構成を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1:超磁歪式油圧発生装置
2:超磁歪素子
3:伝達部材
4:ボビン
5:駆動コイル
6:ヨーク
7:貫通孔
8:リザーバ室
9:壁部材
10:スプリング
11:リング部材
12:プランジャピストン
13:チェックバルブ
14:シリンダ
15:ハウジング
18:制御機構
19:電磁切換弁
20:アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁力により体積変化する超磁歪素子と、通電により磁力を発生して前記超磁歪素子を体積変化させる駆動コイルとを有する超磁歪駆動部と、前記超磁歪素子の体積変化に伴ってシリンダ内を往復駆動して加圧リザーバからの作動圧油を吐出するプランジャピストンを有するポンプ部と、を備えた超磁歪式油圧発生装置において、
前記超磁歪駆動部とポンプ部とが配置された同一ハウジング内の前記超磁歪駆動部の外周領域に加圧リザーバ室が設けられ、
該加圧リザーバ室と前記超磁歪駆動部との間に少なくとも前記駆動コイルを前記加圧リザーバ室からの油に浸漬状態とするための連通構造を備えていることを特徴とする超磁歪式油圧発生装置。
【請求項2】
前記超磁歪素子と前記プランジャピストンとの間に、該超磁歪素子の体積変化による駆動を該プランジャピストンに伝達する両者とは別体の伝達部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の超磁歪式油圧発生装置。
【請求項3】
前記プランジャピストンは、複数個の吸い込み用チェックバルブを備えていることを特徴とする請求項1に記載の超磁歪式油圧発生装置。
【請求項4】
前記プランジャピストンおよびハウジングが非磁性体材料製であることを特徴とする請求項1に記載の超磁歪式油圧発生装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4の何れかに記載の超磁歪式油圧発生装置と、該発生装置に接続された電磁弁と出力機構と、前記発生装置および電磁弁を駆動制御する制御機構と、を備えたことを特徴とする超磁歪式油圧ポンプシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−336497(P2006−336497A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159426(P2005−159426)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000246251)油研工業株式会社 (28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】