説明

超薄板多重モード圧電フィルタ素子

【課題】 従来の通常の超薄板多重モードフィルタでは、イメージ周波数(f0−910kHz)近傍で大きな減衰量を実現することは極めて難しかった。本発明は従来の前記フィルタ素子の欠点を除去するためになされたものであって、所望の周波数において高減衰量を得ることができる構造の超薄板多重モードフィルタ素子を提供することを目的とする
【解決手段】 上記の目的を達成するため本発明は、薄肉の振動部と該振動部の周囲を支持する厚肉の環状囲繞部とを圧電基板で一体的に形成した超薄板多重モード圧電フィルタ素子に於いて、ボンディング用電極を近接させて所定の間隔とし、入出力電極間に橋絡容量を形成することによって、所望の周波数近傍に減衰極を設けて高減衰量を得るものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する分野】本発明は、携帯型無線機に多く用いられる圧電フィルタに関し、特にイメージ周波数近傍において高減衰量を得られるように構成した超薄板多重モード圧電フィルタ素子の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】無線通信、特に携帯電話等の移動体通信の分野では、機器の小型化の要望に応えて各部品の小型化が図られてきた。上記携帯電話に用いられるフィルタについても例外ではなく、SMDタイプの多重モード圧電フィルタ(MCF)や表面波圧電フィルタ(SAW)等が開発されてきた。上記MCFフィルタは水晶等の圧電基板の2つの主表面に相対向する電極を付着し、該電極の一方あるいは双方を所定の間隙を介して分割することにより、当該分割電極上に励起される振動モード相互間の音響結合の結果、前記電極上に二つの振動モードが強勢に励起される。前記二つの振動モードのうち、周波数の低いモードを対称モード、周波数の高いモードを反対称モードと称し、それぞれのモードの周波数をfs 、faで表す。これら二つの周波数fs及びfaの振動モードを利用し、中心周波数がほぼfaで、通過帯域幅がほぼ2・(fa−fs)である、所謂多重(二重)モード圧電フィルタ素子が構成されることは周知の通りである。該多重モード圧電フィルタ素子はコイル等を必要としないことから、小型化に適しており携帯電話等の移動体通信の分野で広く用いられている。(本発明では圧電基板を用いた多重モードフィルタについて記述しており、以下圧電の文字は省略して記述する。)
【0003】国内の携帯電話等では、受信周波数を二段のミクサを用いて二度周波数変換し、復調器でベースバンド信号(音声信号等)を得るダブルスーパーヘテロダイン方式が多く用いられている。第一ミクサの後段の第一IFフィルタは通常高周波で10.7MHzから130MHz帯のMCFフィルタやSAWフィルタが用いられ、第二ミクサの後段の第二IFフィルタは455kHzのセラミックフィルタが一般的に用いられている。前記第一IFフィルタについて更に詳しく説明すると、10.7MHzから50MHz乃至70MHzまでは基本波MCFフィルタが用いられ、概略70MHz以上の高周波では、3倍オーバートンの通常MCFフィルタ、基板の中央部の振動部分近傍をエッチング手法で超薄板化した基本波MCFフィルタ所謂、超薄板水晶多重モードフィルタあるいは各種のSAWフィルタが用いられている。
【0004】ここ数年来、800MHzから1.5GHzの周波数を用いる携帯電話では、第一IFフィルタとして70MHz以上のMCFフィルタあるいはSAWフィルタが主流となってきている。これらの第一IFフィルタにとっては、第二IFフィルタの周波数の2倍の周波数、所謂イメージ周波数(f0±910kHz 、ここでf0は第一IFフィルタの中心周波数である)における減衰量が特に重要なファクタになる。+、−の符号の選び方は設計方針によるが、一般的には負(−)号を採用する場合が多い。従来の超薄板水晶多重モードフィルタ素子の平面図を図6に示す。超薄板の振動部12とその周辺に該振動部12を保持する厚肉の環状囲繞部13を一体的に形成した圧電基板11の平面側に所定の間隙を置いて電極14、14を配置し、凹陥部側全面に電極を蒸着等で付着する。電極14、14からは周辺の厚肉端部に向けリード電極16、16が延在し、凹陥部側は全面電極がリード電極も兼ねている。従来の超薄板水晶多重モードフィルタ素子に適当に終端を施した場合の減衰特性を図7に示すが、同図より明らかな如く所望のイメージ周波数(f0−910kHz)近傍で所望値70dBに対し、約63dB程度と所望値を満たしていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した如き従来の通常の超薄板多重モードフィルタに於いて、所定の通過帯域幅(約±10kHz/3dB)と、通過帯域外のイメージ周波数(f0−910kHz)近傍で約70dBの減衰量とを同時に実現することは極めて難しい問題があった。従って、一般的には通過帯域外で高減衰量を得るために、上記の超薄板多重モードフィルタ素子を複数個多段縦続接続したフィルタを構成し、所望の特性を満たしていた。しかし、この構成手段では複数個のフィルタ素子を使用するため低価格化や小型化の点で問題があった。本発明は上述した如き従来の超薄板多重モードフィルタ素子の欠点を除去するためになされたものであって、製造が容易で且つ、所望の周波数において高減衰量を得ることができる構造の超薄板多重モードフィルタ素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため本発明に係る超薄板多重モードフィルタ素子は、請求項1では、薄肉の振動部と該振動部の周囲を支持する厚肉の環状囲繞部とを圧電基板で一体的に形成し、前記振動部の相対向する面のそれぞれに電極を設けその一方或いは両方の電極を分割電極として構成した超薄板多重モード圧電フィルタ素子に於いて、パッケージの外部端子と電気的に接続するためのボンディング用電極を所定の間隔とし入出力電極間に所定の橋絡容量(MCFフィルタの入出量間にブリッジ状に入る微小容量)を創出し、所望の周波数近傍に減衰極を設けて高減衰量を得るものである。更に、請求項2では、橋絡容量を創出するために所定の間隔を有する専用の電極パッドを設けた超薄板多重モード圧電フィルタ素子である。更に、請求項3では、橋絡容量を創出するために各々の分割電極とボンディング電極を結ぶためのリード電極を所定の間隔に近接させた超薄板多重モード圧電フィルタ素子である。更に、請求項4では、圧電素板としてATカット水晶素板を用いた超薄板多重モード圧電フィルタ素子である。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図面に示した実施の一形態に基づいて詳細に説明する。はじめに、本発明の理解を容易にするために橋絡容量よる多重モード圧電フィルタ(超薄板多重モードフィルタも多重モード圧電フィルタの一種である)の有極構成について少しく説明する。圧電基板の二つの主面に相対向して配設した電極の一方の電極を所定の間隙に分割し、該分割した電極の一方を入力、他方を出力とし、分割しない電極を接地する構成が多く用いられている。この様なタイプの多重モードフィルタ素子に於いて、入出力電極間に橋絡容量を挿入すると、電気等価回路の反対称モード側の並列容量のみを増すこととなり、中心周波数を挟んで両側に減衰極を構成することができることは周知のことである。この橋絡容量値をパラメータとしてフィルタの減衰特性を計算することで、所望の周波数において所望の減衰量が実現できるかどうかシミュレーションすることが可能である。
【0008】一例として、国内のディジタル携帯電話に使用されている130MHz帯の第一IFフィルタの規格を例にとり、水晶超薄板多重モードフィルタ素子の入出力間に挿入する橋絡容量をパラメータとして、該フィルタ素子の濾波特性を計算した結果を図8に示す。図8では橋絡容量(Cp)が、0.001pF、0.0025pFおよび0.005pFの場合について図示しているが、同図より明らかなように橋絡容量値が大きくなるにつれ、二つの減衰極の周波数(ポール周波数)が共に中心周波数に近づき、その近傍では高減衰量が得られるが、保証減衰量は減少することが分かる。従って、高減衰量を必要とする所望周波数近傍に上記ポール周波数を設けることが出来れば、所望の周波数における減衰量を高められることが理解されよう。具体的数値例として、本例の場合は橋絡容量値を0.001pFとすると、イメージ周波数(f0−910kHz)近傍で減衰量が所望値を越えて、約80dB以上得られることが分かる。しかしながら、0.001pF等の極めて小さな容量を有するコンデンサは入手できず、橋絡容量を入出力間に挿入することにより前記減衰特性を実現すことは不可能である。
【0009】そこで、上記目的を達成するために、超薄板多重モードフィルタ素子に於いて、パッケージ端子と導通をとるために形成された、超薄板多重モードフィルタ素子上のボンディング用電極を近接させ、入出力電極間に橋絡容量を構成させることを考案した。即ち、図1に示す如く水晶基板1上に超薄板振動部2と該振動部の周囲を支持する厚肉の環状囲繞部3とを一体的に形成し、超薄板振動部2に相対向する電極を付着し且つ、該電極の一方あるいは双方を所定の間隙を介して分割し、分割電極4、4と対向電極5を形成する。分割電極4、4よりリード電極6、6を介してボンディング用電極7,7とを電気的に接続する。該ボンディング用電極7、7を近接配置し、微小静電容量を形成するのである。上記電極4、4、リード電極6、6及びボンディング用電極7,7はフォトリソグラフィ技術によって一体的に形成される。
【0010】入出力のボンディング用電極7、7の間隔をパラメーターにしてポール周波数と減衰特性を実側した結果を図2に示す。実験では電極間隔を20μm〜80μmまで20μmのステップで変化させた。電極間隔20μm、40μm、60μm及び80μmの場合の濾波特性がそれぞれ曲線a、b、c及びd相当する。図2を参照して明らかなように電極間隔が約80μmの場合に所望の周波数(f0−910kHz)近傍に減衰極を出現させることができ、約75dBの減衰量が得られ、前記計算の橋絡容量値0.001pFに相当していると思われる。中心周波数より高い周波数において減衰極が判然としないのは、基本波周波数より高い側に多く発生するインハーモニック・オーバートン(スプリアス)のため、中心周波数より高い側の減衰極が相殺されているのが原因である。このように、入出力のボンディング用電極の大きさ及び幾何学的配置が一定ならば、その間隔を決めるだけで容易に特定の容量値を有する橋絡容量を実現することが出来、所望の周波数近傍に減衰極を出現させ、高減衰量を得ることが可能となった。
【0011】その結果、本発明に係る入出力のボンディング用電極を約80μmと近接して形成した超薄板水晶多重モードフィルタ素子の減衰特性は図3に示す如く通過帯域外の所望の周波数(f0−910kHz)近傍で減衰極が生じ所望値の70dBを十分満たす約75dBの減衰量が得られた。図4は、本発明に係わる超薄板多重モードフィルタ素子の他の実施例の構成を示す平面図である。即ち、図4は橋絡容量を構成するための専用電極8、8を設けたものであり、図5は分割電極とボンディング用電極10、10を結ぶ入力出用それぞれのリード電極6、6を橋絡容量が発生する様に近接させたものである。
【0012】従って、橋絡容量を発生させるための図1の電極7、7あるいは図4の8、8又は図5の6、6は製造工程を変えることなく分割電極を形成するためのマスクパターンの変更のみで形成することができるのみならず、周知の如くフォトリソグラフィ技術においては本質的に電極間隔の寸法精度や位置精度が極めて良好なため、特性のばらつきも減少される。上述した如く分割電極4、4とともに橋絡容量を構成するための電極7、7あるいは8、8又は6、6が一体的に形成でき、従来と同様の製造工程で超薄板水晶多重モード圧電フィルタ素子を構成できる。以上、ATカット水晶基板を用いた超薄板多重モード圧電フィルタ素子を実施例に本発明を説明してきたが、本発明はこれのみに限定される必要はなくエッチングが可能な圧電基板、例えばランガサイト(La3Ga5SiO14)或いは四ホウ酸リチウム(Li247)の如き圧電材料を用いてもよいこと自明である。
【0013】
【発明の効果】本発明は、以上説明した如く構成するものであるから、超薄板状の振動部上に形成する分割電極と振動部の周囲を支持する厚肉の環状囲じょう部に所定の間隔でボンディング用電極又は橋絡容量形成用電極を形成するだけで、他の余分な工程を必要とせず従来の製造工程をなんら変更することなく所望の周波数近傍に減衰極を出現させ高減衰量が確保できる。所定の通過帯域幅とイメージ周波数に於ける減衰量を同時に満たす超薄板多重モードフィルタを量産する上で著しい効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)及び(b)は本発明に係わる超薄板多重モード圧電フィルタ素子の一実施例を示す平面図及び断面図である。
【図2】橋絡容量値をパラメータとした減衰特性図(実験値)である。
【図3】本発明に係わる超薄板多重モード圧電フィルタ素子の減衰特性を示す図である。
【図4】本発明に係わる超薄板多重モード圧電フィルタ素子の他の実施例を示す平面図である。
【図5】本発明に係わる超薄板多重モード圧電フィルタ素子の他の実施例を示す平面図である。
【図6】従来の超薄板多重モード圧電フィルタ素子を示す平面図である。
【図7】従来の超薄板多重モード圧電フィルタ素子の減衰特性特性を示す図である。
【図8】橋絡容量値に対する減衰特性図(計算値)を示す図である。
【符号の説明】
1・・水晶基板、 2・・振動部、 3・・環状囲繞部、4・・分割電極、 5・・裏面全面電極、 6・・リード電極、7・・橋絡容量兼ボンディング用電極、 8・・橋絡容量電極、9、10・・ボンディング用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 薄肉の振動部と該振動部の周囲を支持する厚肉の環状囲繞部とを圧電基板で一体的に形成し、前記振動部の相対向する面のそれぞれに電極を設けその一方或いは両方の電極を分割電極として構成した超薄板多重モード圧電フィルタ素子に於いて、パッケージの外部端子と電気的に接続するためのボンディング用電極を所定の間隔とし入出力電極間に所定の橋絡容量を創出し、所望の周波数近傍に減衰極を設けて減衰量を高めたことを特徴とする超薄板多重モード圧電フィルタ素子。
【請求項2】 前記橋絡容量を創出するために所定の間隔を有する専用の電極パッドを設けたことを特徴とする請求項1記載の超薄板多重モード圧電フィルタ素子。
【請求項3】 前記橋絡容量を創出するために各々の分割電極とボンディング電極を結ぶためのリード電極を所定の間隔に近接させたことを特徴とする請求項1記載の超薄板多重モード圧電フィルタ素子。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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