説明

超音波洗浄装置

【課題】電源容量を大きくすることなく、また被洗浄物の洗浄が停止することなく、安定して洗浄を行うことができる超音波洗浄装置を提供する。
【解決手段】振動子5の駆動周波数をスイープする機能を有する超音波洗浄装置1では、スイープ周波数がある値を越えると過大な電流が流れる。そこで、振動子5に供給される電流値を検出し、DSP21により特定の値以上に電流値が流れないようにスイープ幅を制御する。スイープする際には、振動子5に急激にエネルギーが付与されないように、徐々に電力を増加させるソフトスタートを行う。また、被洗浄物の位置や量、洗浄液の温度等の環境によって振動子5の共振周波数が変化するため、DSP21を用いて一定時間毎に共振周波数を追尾制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動子から発生した超音波により洗浄液中の被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品やプリント基板等の洗浄に超音波洗浄装置が用いられている。図1は、シングル運転時及びスイープ運転時に振動子に供給する信号の波形図である。従来の超音波洗浄装置には、図1(A)に示すように、振動子の駆動周波数を固定して洗浄する運転(シングル運転と称する。)や、図1(B)に示すように、振動子の駆動周波数を一定周期で変動させる周波数変調運転(スイープ運転と称する。)を行うものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−314872
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超音波洗浄装置では、被洗浄物を洗浄中に洗浄液の温度が変化したり被洗浄物の量が変化したりすると、振動子の共振周波数が変化し、これに伴い振動子に流れる電流(電力)が変化する。また、超音波洗浄装置では、洗浄槽の対面からの反射や洗浄液の種類によっても、振動子の共振周波数が変化し、これに伴い振動子に流れる電流(電力)が変化する。そのため、従来の超音波洗浄装置では、以下のような不具合が生じていた。
【0004】
図2は、振動子の共振周波数と振動子に流れる電流との関係の測定結果を示すグラフである。図2には、超音波洗浄装置の電力設定値が20%、25%、30%、及び35%の場合を示している。スイープ運転時に振動子の共振周波数の中心値25kHzに設定した場合、図2から、振動子に流れる電流がほぼ中心周波数で最小値となり、中心周波数から周波数を変化させるのに伴い、振動子に流れる電流が放物線状に変化することがわかる。また、電力設定値を大きくするほど、放物線の傾きが大きくなることがわかる。さらに、振動子に供給する信号の周波数と中心周波数の差が一定値以上になると、振動子に流れる電流が放物線状とは異なる形状で変化することがわかる。
【0005】
振動子の共振周波数−電流特性はこのようであり、従来の超音波洗浄装置では、洗浄液の温度変化等により振動子の共振周波数が変化すると、スイープ運転時には振動子に供給する信号の中心周波数はその変化した周波数となるが、信号の周波数の変動幅(スイープ幅)は一定なので、スイープ1周期の電流の最大値が大きくなる。そのため、超音波洗浄装置の起動時や運転中に、予め設定している制限電流を超える電流が流れてしまい、被洗浄物の洗浄中に超音波洗浄装置が停止したり、振動子が故障したりすることがあった。また、従来の超音波洗浄装置において、被洗浄物の洗浄中に超音波洗浄装置が停止しないようにするためには、電源容量を非常に大きくしなければ、制限電流値を大きくすることができなかった。
【0006】
そこで、この発明は、電源容量を大きくすることなく、また被洗浄物の洗浄が停止することなく、安定して洗浄を行うことができる超音波洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)洗浄液を貯留する洗浄槽に設置され、超音波振動してその振動を前記洗浄液に与える超音波発生手段と、
前記超音波発生手段を超音波振動させる高周波信号を供給する信号発生手段と、
前記超音波発生手段の電流及び電圧を検出する電流・電圧検出手段と、
前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を規則的に変化させるスイープ処理時における電流制限値を記憶する記憶手段と、
前記高周波信号の電力設定値を固定値に設定する操作を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が電力設定値を固定値に設定する操作を受け付けると、前記スイープ処理時に、前記電流・電圧検出手段が検出した一定期間毎の電流の最大値と、前記記憶手段から読み出した電流制限値と、を比較し、その結果に応じて前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を変更する制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
超音波洗浄装置では、被洗浄物を洗浄中に洗浄液の温度が変化したり被洗浄物の位置や量が変化したりすると、超音波発生手段の共振周波数が変化し、これに伴い超音波発生手段に流れる電流が変化する。また、超音波洗浄装置では、洗浄槽の対面からの反射や洗浄液の種類によっても、超音波発生手段の共振周波数が変化し、これに伴い超音波発生手段に流れる電流が変化する。超音波洗浄装置では、上記のように超音波発生手段に流れる電流が変化して電流制限値を越えると洗浄動作を停止してしまう。この構成においては、超音波洗浄装置は、スイープ処理時に電力設定値を固定されると、電流・電圧検出手段が検出した電流に基づいて、超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を変更して超音波発生手段に流れる電流の最大値を電流制限値以下にする。したがって、スイープ処理時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えることがなくなり、従来の超音波洗浄装置のように洗浄動作が停止するのを防止できる。
【0009】
(2)洗浄液を貯留する洗浄槽に設置され、超音波振動してその振動を前記洗浄液に与える超音波発生手段と、
前記超音波発生手段を超音波振動させる高周波信号を供給する信号発生手段と、
前記超音波発生手段の電流及び電圧を検出する電流・電圧検出手段と、
前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を規則的に変化させるスイープ処理時において、前記高周波信号の周波数の変化幅であるスイープ幅に対する電力設定値の上限値を記憶する記憶手段と、
前記スイープ幅を固定値に設定する操作を受け付ける操作手段と、
前記操作手段がスイープ幅を固定値に設定する操作を受け付けると、前記スイープ処理時に、前記電流・電圧検出手段が検出した電流及び電圧から算出した電力の最大値と、前記記憶手段から読み出した設定されたスイープ幅に対する電力設定値と、を比較し、その結果に応じて前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の電力設定値を変更する制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
超音波洗浄装置では、被洗浄物を洗浄中に洗浄液の温度が変化したり被洗浄物の量が変化したりすると、超音波発生手段の共振周波数が変化し、これに伴い超音波発生手段に流れる電流が変化する。また、超音波洗浄装置では、洗浄槽の対面からの反射や洗浄液の種類によっても、超音波発生手段の駆動周波数が変化し、これに伴い超音波発生手段に流れる電流が変化する。そのため、超音波発生手段に供給する高周波信号の電力が変化する。超音波洗浄装置では、上記のように電力が変化して電力設定値を越えると洗浄動作を停止してしまう。この構成においては、超音波洗浄装置は、スイープ幅を固定された場合は、電流・電圧検出手段が検出した電流と電圧から電力値を算出し、この電力値に基づいて、超音波発生手段に供給する高周波信号の電力設定値を変更して、スイープ幅に対する電力設定値の上限値以下にする。したがって、スイープ処理時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に供給する高周波信号の電力が電力設定値を超えることがなくなり、洗浄動作が停止するのを防止できる。
【0011】
(3)前記制御手段は、前記スイープ処理の開始時に、前記高周波信号の周波数を規則的に変化させる周波数幅であるスイープ幅を最小値に設定し、前記スイープ幅の設定値まで前記スイープ幅を一定量ずつ増加させることを特徴とする。
【0012】
スイープ処理の開始時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件により超音波発生手段の共振周波数が変化して超音波発生手段に流れる電流や超音波発生手段の電力が変化した状態で、スイープ幅を設定値にしてスイープ処理を開始すると、超音波発生手段に流れる電流が制限値を超えたり、電力が設定値を越えたりして、洗浄動作が停止する可能性がある。この構成においては、スイープ処理の開始時に、スイープ幅を最小値からスイープ幅の設定値までスイープ幅を一定量ずつ増加させる。したがって、スイープ処理の開始時に、超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えたり、超音波発生手段に供給する電力が電力設定値を超えたりすることがなく、洗浄動作が停止するのを防止できる。
【0013】
(4)前記制御手段は、前記スイープ処理の開始前に、前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を一定量ずつ変更させて、前記電流・電圧検出手段が検出した電流値が最小値になる周波数を検出し、前記スイープ処理には、この周波数を中心周波数として高周波信号の周波数を規則的に変化させることを特徴とする。
【0014】
スイープ処理の開始時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件により超音波発生手段の共振周波数が変化して超音波発生手段に流れる電流が変化した状態でスイープ処理を開始すると、スイープ幅の中心がずれているために超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えたり、超音波発生手段に供給する電力が電力設定値を超えたりして、洗浄動作が停止する可能性がある。この構成においては、超音波洗浄装置は、スイープ処理の開始前に超音波発生手段に流れる電流値が最小値になる周波数を検出し、この周波数を中心周波数としてスイープ処理を行う。したがって、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件により超音波発生手段の共振周波数が変化し、超音波発生手段に流れる電流が変化しても、スイープ処理の開始前に中心周波数を最小値に調整するので、スイープ処理時に超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えたり、超音波発生手段に供給する電力が電力設定値を超えたりすることがなく、洗浄動作が停止するのを防止できる。
【0015】
(5)前記制御手段は、前記スイープ処理を一定時間行う毎に、前記スイープ処理を中断して、前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の一定量ずつ周波数を変更させて、前記電流・電圧検出手段が検出した電流値が最小値になる周波数を検出し、この周波数を中心周波数に再設定して前記スイープ処理を再開することを特徴とする。
【0016】
この構成においては、超音波洗浄装置は、電流・電圧検出手段が検出した電流に基づいて、超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を変更して超音波発生手段に流れる電流を最小値に制御する。したがって、スイープ処理中に洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に流れる電流が最小になる周波数にスイープ処理の中心周波数を再設定するので、超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えたり、超音波発生手段に供給する電力が電力設定値を超えたりすることがなく、洗浄動作の停止を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、スイープ処理時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えたり、超音波発生手段に供給する高周波信号の電力が電力設定値を超えたりすることがなくなり、従来の超音波洗浄装置のように洗浄動作が停止するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図3は、この発明の実施形態に係る超音波洗浄装置の概略構成を示すブロック図である。図3に示すように、超音波洗浄装置1は、発振器3と振動子5から構成される。発振器3は、全波整流回路11、平滑コンデンサ13、インバータ回路15、整合回路17、V・I検出回路19、DSPモジュール(以下、DSPと称する。)21、記憶部23、表示部25、及び操作部27を備えている。また、振動子5は、洗浄液43が貯留された(貯められた)洗浄槽41の底部に設置されており、発振器3の整合回路17に接続されている。
【0019】
全波整流回路11は、交流電源31から供給された交流電圧を整流する。
【0020】
平滑コンデンサ13は、全波整流回路11で整流された電圧を平滑化する。
【0021】
インバータ回路15は、DSPモジュール21から出力された制御信号に応じて、スイッチングのタイミングを切り替えて、直流電圧を高周波交流電圧に変換する。
【0022】
整合回路17は、トランスTと、整合用インピーダンス素子であるコイルLmとコンデンサCmとから成り、インバータ回路15と振動子5との間にトランスTを介して接続され両者のインピーダンスの整合をとり、トランスTからの信号を振動子5に供給する。
【0023】
振動子5は、整合回路17から供給された信号(高周波信号)に応じて振動し、超音波を発生する。洗浄液43は、振動子5が発した超音波により振動して、不図示の被洗浄物を洗浄する。
【0024】
V・I検出回路19は、整合回路17から振動子5に供給する信号の電流及び電圧を検出する。また、V・I検出回路19は、整合回路17から振動子5に供給する信号の電流と電圧の位相差を検出する。
【0025】
DSP21は、V・I検出回路19が検出した電流及び電圧に基づいて、インバータ回路15の不図示のスイッチング素子に対して、スイッチング制御を行うための制御信号を出力する。また、DSP21は、V・I検出回路19が検出した、整合回路17から振動子5に供給する信号の電流及び電圧、電流と電圧の位相差に基づいて、定電力制御を行う。
【0026】
記憶部23は、スイープ電流の制限値や、スイープ幅に対する電力設定値等のデータを記憶する。
【0027】
表示部25は、超音波洗浄装置1の状態等、ユーザに伝達する事項を表示する。
【0028】
操作部27は、複数のスイッチを備え、ユーザの操作を受け付ける。
【0029】
超音波洗浄装置1は以上のような構成であり、ユーザは超音波洗浄装置1を動作させて、洗浄槽41の洗浄液43中に被洗浄物を投入(浸漬)することで、被洗浄物を洗浄できる。
【0030】
次に、超音波洗浄装置1の動作について説明する。超音波洗浄装置1は、ソフトスタートモード、追尾モード、及びスイープモードの3つのモードのいずれかで動作する。図4は、超音波洗浄装置の各モードの関係を示す図、及びソフトスタートモードの動作を示すタイムチャートである。
【0031】
超音波洗浄装置1は、ユーザの設定に応じて振動子に供給する信号の周波数を変動させないシングル運転、または振動子に供給する信号の周波数を一定周期で変動させるスイープ運転を行う。また、詳細な説明は割愛するが、洗浄槽中の空気を脱気するために振動子を断続的に振動させるショット運転を行うように設定することも可能である。
【0032】
図4(A)に示すように、シングル運転時には、超音波洗浄装置1はソフトスタートモード、追尾モードの順にモードを切り替える。
【0033】
スイープ運転時には、超音波洗浄装置1は、ソフトスタートモード、追尾モード、スイープモードの順にモードを切り替える。また、超音波洗浄装置1は、スイープモードを一定時間行うと、追尾モードに切り替えて設定時間(例えば1秒間)経過すると、再度スイープモードを行う。
【0034】
また、超音波洗浄装置1は、追尾モード及びスイープモードにおいてユーザにより電力設定値が変更されると、ソフトスタートモードに切り替える。そして、ソフトスタートモードが完了すると、追尾モードやスイープモードに切り替える。
【0035】
1.ソフトスタートモード
このモードでは、超音波洗浄装置1の始動時や電力設定の変更時に、電力設定値(出力設定値)を徐々に大きくする。このモードを行うことで、従来のように、起動時に急に装置が停止することを防止でき、確実に装置を動作させることができる。
【0036】
超音波洗浄装置1の電力設定値の調整範囲は、一例として25%〜100%である。図4(B)には、ユーザが電力設定値を35%に設定した場合を示している。
【0037】
超音波洗浄装置1のDSP21は、操作部27で運転指示を受け付けたことを検出すると、まず電力設定値を調整範囲の最小値である25%に設定する。そして、制御待ち時間(図では50ms)が経過後に、追尾制御を一定時間(図では150ms)行う。ここで、電力設定値の変更直後は電流が不安定なので、ソフトスタートモードでは電流が安定するまでの時間として制御待ち時間を設定している。追尾制御とは、振動子5に供給する信号の周波数を少しずつ変更して振動子5に流れる電流を最小値にする制御である。
【0038】
図2に基づいて説明したように、振動子5の周波数−電流特性は放物線状であり、デフォルトの周波数(以下、初期値と称する。)近傍の値が最小値になることが実験によりわかっている。そこで、ソフトスタートモードの追尾制御では、まず振動子5に供給する信号の周波数を初期値(例えば、25kHz)とし、信号の周波数を0.1kHz上げたとき(例えば25.1kHz)の電流値と、信号の周波数を0.1kHz下げたとき(例えば24.9kHz)の電流値と、を比較して、両電流値の差に応じて周波数を変更する。すなわち、両電流値の差が0の場合には、周波数を変更せずに初期値に設定する。また、両電流値の差が正数か負数かに応じて周波数を上げ下げする。また、差が小さいほど周波数の変更量を小さくし、差が大きいほど周波数の変更量を大きくする。この処理を行う際には、1つまたは複数の閾値を予め設定しておき、両電流値の差の値と閾値とを比較する。
【0039】
信号周波数を変更した場合には、続いてその信号周波数を0.1kHz上げたときの電流値と0.1kHz下げたときの電流値とを比較して、上記のように差の値に応じて周波数を変更する。このような処理を繰り返して振動子5に供給する信号の電流を最小値にする。
【0040】
なお、追尾制御において、電流最小値を得る前に設定時間(例えば150ms)が経過した場合には、その時点でこの処理を停止し、その時点で得られた電流値を最小値とする。
【0041】
得られた電流値(最小値)が予め設定されている制限電流値未満の場合には、電力設定値を5%ずつ上昇させて、同様の処理を行う。
【0042】
一方、追尾制御の際に、振動子5の電流値が制限電流値以上の場合には、ユーザの設定に応じて、DSP21は、表示部25にエラーである旨を表示させてユーザに電力設定値の変更を促すか、または表示部25にエラー表示をさせずに電力設定値を振動子5の電流値が制限電流値未満である最大値に設定する。
【0043】
2.追尾モード
このモードでは、振動子に流れる電流を監視して、この電流が最小値になるように、上記の追尾制御を常時行う。このモードを行うことで、振動子に流れる電流が制限電流値を超えることがなくなり、洗浄動作の停止を防止できる。また、スイープ運転時には、振動子の周波数を最適な共振周波数に調整することができる。
【0044】
シングル運転時には、ソフトスタートが終了後に、振動子に流れる電流を常時監視して、この電流が最小値になるように追尾制御を常時行う。
【0045】
また、スイープ運転時には、ソフトスタートモードが完了してスイープモードを開始する前と、スイープモードを一定時間(例えば10分間)行う毎に、追尾モードを設定時間(例えば1秒間)行って、振動子5に流れる電流が最小値となる中心周波数に調整する。
【0046】
なお、超音波洗浄装置1は、追尾モード中に電力設定値の変更を受け付けた場合には、ソフトスタートモードに移行する。
【0047】
3.スイープモード
このモードでは、図1(B)に示したように、振動子に供給する信号の周波数を一定周期で変動させる制御を行う。
【0048】
ユーザは、スイープモードを設定する際に、スイープ幅優先処理と電力設定優先処理のいずれかを選択することが可能である。また、超音波洗浄装置1は、スイープ幅優先処理と電力設定優先処理のいずれが選択されても、スイープモードの開始時にスイープ幅ソフトスタート処理を行う。
【0049】
図5は、スイープ周期とスイープ幅の関係を示すグラフ、スイープ幅と電力設定値の関係を示すグラフ、及び振動子に供給する高周波信号の周波数と電流の関係を示すグラフである。
【0050】
図5(A)に示すグラフに示すように、超音波洗浄装置1では、スイープ周期とスイープ幅を設定可能である。例えば、スイープ周期を5ms〜50msの範囲で、スイープ幅を0.5kHz〜3.5kHzの範囲で設定できる。
【0051】
超音波洗浄装置1では、図5(B)に示すように、スイープ幅と電力設定値(出力設定値)の関係が設定されており、スイープ幅優先処理が選択されてスイープ幅が例えば2.0kHzに設定された場合には、スイープ幅ソフトスタート処理により、スイープ幅を2.0kHzまで0.1kHzずつ大きくしていく。
【0052】
a.スイープ幅ソフトスタート処理
超音波洗浄装置1のDSP21は、ソフトスタートモード、追尾モードに続いてスイープモードを開始する。スイープモードの開始時には、上記のようにスイープ幅ソフトスタート処理を行う。スイープ幅ソフトスタート処理は、スイープ幅を設定値まで一定量ずつ(例えば0.1kHzずつ)増加させていく処理である。
【0053】
b.電力設定優先処理
超音波洗浄装置1は、電力設定優先処理が設定された場合には、電力設定値をユーザにより設定された値に固定し、振動子5に供給する信号の周波数のスイープ幅(変化幅)を変更する。これにより、スイープ処理時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に供給する高周波信号の電力が電力設定値を超えることがなくなり、洗浄動作が停止するのを防止できる。
【0054】
超音波洗浄装置1では、電力設定優先処理が選択されて電力設定値が例えば65%に設定された場合には、スイープ幅ソフトスタート処理により、スイープ幅を0.1kHzずつ大きくしていく。ここで、図5(B)に示したグラフでは、電力設定値が65%のときには、スイープ幅は2.0kHzであるが、前記のように、洗浄液の種類や液温等の諸条件によりスイープ幅の上限が変化する。そのため、超音波洗浄装置1では、電力設定優先処理が選択された場合は、振動子5に供給する信号の電流及び電圧を監視して、電力設定値を65%となるように定電力制御を行いながら、スイープ幅ソフトスタート処理により図5(C)に示すようなスイープ幅を0.1kHzずつ大きくして、電力設定値が65%を越えないようにスイープ幅を調整する。
【0055】
次に、電力設定優先処理が設定された場合に、運転可能なスイープ幅を求める処理について、フローチャートに基づいて説明する。図6は、電力設定優先処理の動作を説明するためのフローチャートである。この処理の際には、超音波洗浄装置1は、電力設定値がユーザにより設定された値になるように定電力制御を行う。
【0056】
超音波洗浄装置1のDSP21は、スイープモードを開始すると、スイープ周期1周期におけるピーク値Isを検出して、この値と予め設定されたスイープ電流の制限値Isrとを比較する(s1)。ここで、スイープ幅fdの初期値を0とし、スイープ幅の増分または減分aを0.1kHzとする。
【0057】
DSP21は、ピーク値Isが制限値Isr以下の場合には(s1:N)、スイープ幅fdを0.1kHz増加させる(s2)。そして、スイープ幅fdとスイープ幅の設定値Δfとを比較する(s3)。
【0058】
DSP21は、スイープ幅fdが設定値Δfよりも大きい場合には(s3:Y)、スイープ幅fdを設定値Δfに設定する(s4)。そして、ステップs1以降の処理を行う。
【0059】
一方、ステップs3においてスイープ幅fdが設定値Δf以下の場合には、スイープ幅fdを変更せずに、続いてステップs1以降の処理を行う。
【0060】
また、ステップs1において、ピーク値Isが制限値Isrを越える場合には(s1:Y)、スイープ幅fdを0.1kHz減少させる(s5)。そして、ステップs1以降の処理を行う。
【0061】
c.スイープ幅優先処理
超音波洗浄装置1は、スイープ幅優先処理が設定された場合には、スイープ幅をユーザにより設定された値に固定し、振動子5に供給する高周波信号の電力設定値を変更する。これにより、スイープ処理時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に供給する高周波信号のスイープ幅を固定しても、振動子5に流れる電流が電流制限値を超えることがなくなり、洗浄動作が停止するのを防止できる。
【0062】
超音波洗浄装置1では、スイープ幅優先処理が選択されてスイープ幅が例えば2.0kHzに設定された場合には、スイープ幅ソフトスタート処理により、スイープ幅を0.1kHzずつ大きくしていく。ここで、図5(B)に示したグラフでは、スイープ幅が2.0kHzのときには、電力設定値が65%であるが、前記のように、洗浄液の種類や液温等の諸条件により電力設定値の上限が変化する。そのため、超音波洗浄装置1では、スイープ幅優先処理が選択された場合は、スイープ幅が設定値(例えば2.0kHz)になると、電力設定値を変更させて、スイープ幅を設定値に保つ。また、超音波洗浄装置1は、変更した電力設定値となるように、定電力制御を行う。
【0063】
次に、スイープ幅優先処理が設定された場合に、運転可能なスイープ幅を求める処理について、フローチャートに基づいて説明する。図7は、スイープ幅優先処理の動作を説明するためのフローチャートである。
【0064】
超音波洗浄装置1のDSP21は、スイープモードを開始すると、スイープ周期1周期におけるピーク値Isを検出して、この値と予め設定されたスイープ電流の制限値Isrとを比較する(s11)。ここで、スイープ幅fdの初期値を0とし、スイープ幅の増分を0.1kHzとする。
【0065】
DSP21は、ピーク値Isが制限値Isr以下の場合には(s11:N)、スイープ幅fdを0.1kHz増加させる(s12)。そして、スイープ幅fdとスイープ幅の設定値Δfとを比較する(s13)。
【0066】
DSP21は、スイープ幅fdが設定値Δfよりも大きい場合には(s13:Y)、スイープ幅fdを設定値Δfに設定する(s14)。そして、ステップs21以降の処理を行う。
【0067】
一方、ステップs13においてスイープ幅fdが設定値Δf以下の場合には、スイープ幅fdを変更せずに、続いてステップs11以降の処理を行う。
【0068】
また、ステップs1において、ピーク値Isが制限値Isrを越える場合には(s11:Y)、スイープ幅fdを0.1kHz減少させる(s15)。そして、ステップs11以降の処理を行う。
【0069】
DSP21は、ステップs14に引き続いて、スイープ周期1周期におけるピーク値Isを検出して、この値と予め設定されたスイープ電流の制限値Isrとを比較する(s21)。ここで、電力設定値の増分を0.1kHzとする。
【0070】
DSP21は、ピーク値Isが制限値Isr以下の場合には(s21:N)、電力設定値を1%増加させると、設定されたスイープ幅に対する電力設定値を越えるか否かを判断する(s22)。電力設定値を1%増加させると、設定されたスイープ幅に対する電力設定値を越える場合には(s22:Y)、電力設定値を変更せずにそのまま値に保持する(s23)。そして、ステップs21以降の処理を再度行う。
【0071】
一方、電力設定値を1%増加させても、設定されたスイープ幅に対する電力設定値を越えない場合には(s22:N)、電力設定値を1%増加させる。そして、ステップs21以降の処理を再度行う(s24)。
【0072】
また、ステップs21において、ピーク値Isが制限値Isrを越える場合には(s21:Y)、電力設定値を1%減少させる(s25)。そして、ステップs21以降の処理を再度行う。
【0073】
なお、超音波洗浄装置1は、スイープモード中に電力設定値の変更を受け付けた場合には、ソフトスタートモードに移行する。
【0074】
以上のように本発明の超音波洗浄装置では、スイープ処理時に、洗浄液の温度や被洗浄物の量等の条件が変化しても、超音波発生手段に流れる電流が制限電流値を超えたり、超音波発生手段に供給する高周波信号の電力が電力設定値を超えたりすることがなくなり、従来の超音波洗浄装置のように洗浄動作が停止するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】シングル運転時及びスイープ運転時に振動子に供給する信号の波形図である。
【図2】振動子の共振周波数と振動子に流れる電流との関係の測定結果を示すグラフである。
【図3】この発明の実施形態に係る超音波洗浄装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】超音波洗浄装置の各モードの関係を示す図、及びソフトスタートモードの動作を示すタイムチャートである。
【図5】スイープ周期とスイープ幅の関係を示すグラフ、スイープ幅と電力設定値の関係を示すグラフ、及び振動子に供給する高周波信号の周波数と電流の関係を示すグラフである。
【図6】電力設定優先処理の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】スイープ幅優先処理の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1…超音波洗浄装置 3…発振器 5…振動子 11…全波整流回路 13…平滑コンデンサ 15…インバータ回路 17…整合回路 19…V・I検出回路 21…DSPモジュール 23…記憶部 25…表示部 27…操作部 31…交流電源 41…洗浄槽 43…洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を貯留する洗浄槽に設置され、超音波振動してその振動を前記洗浄液に与える超音波発生手段と、
前記超音波発生手段を超音波振動させる高周波信号を供給する信号発生手段と、
前記超音波発生手段の電流及び電圧を検出する電流・電圧検出手段と、
前記高周波信号の電力設定値を固定値に設定する操作を受け付ける操作手段と、
前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を規則的に変化させるスイープ処理時における電流制限値を記憶する記憶手段と、
前記操作手段が電力設定値を固定値に設定する操作を受け付けると、前記スイープ処理時に、前記電流・電圧検出手段が検出した一定期間毎の電流の最大値と、前記記憶手段から読み出した電流制限値と、を比較し、その結果に応じて前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を変更する制御手段と、
を備えた超音波洗浄装置。
【請求項2】
洗浄液を貯留する洗浄槽に設置され、超音波振動してその振動を前記洗浄液に与える超音波発生手段と、
前記超音波発生手段を超音波振動させる高周波信号を供給する信号発生手段と、
前記超音波発生手段の電流及び電圧を検出する電流・電圧検出手段と、
前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を規則的に変化させるスイープ処理時において、前記高周波信号の周波数の変化幅であるスイープ幅に対する電力設定値の上限値を記憶する記憶手段と、
前記スイープ幅を固定値に設定する操作を受け付ける操作手段と、
前記操作手段がスイープ幅を固定値に設定する操作を受け付けると、前記スイープ処理時に、前記電流・電圧検出手段が検出した電流及び電圧から算出した電力の最大値と、前記記憶手段から読み出した設定されたスイープ幅に対する電力設定値と、を比較し、その結果に応じて前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の電力設定値を変更する制御手段と、
を備えた超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記スイープ処理の開始時に、前記高周波信号の周波数を規則的に変化させる周波数幅であるスイープ幅を最小値に設定し、前記スイープ幅の設定値まで前記スイープ幅を一定量ずつ増加させる請求項1または2に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記スイープ処理の開始前に、前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の周波数を一定量ずつ変更させて、前記電流・電圧検出手段が検出した電流値が最小値になる周波数を検出し、前記スイープ処理には、この周波数を中心周波数として高周波信号の周波数を規則的に変化させる請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記スイープ処理を一定時間行う毎に、前記スイープ処理を中断して、前記信号発生手段が前記超音波発生手段に供給する高周波信号の一定量ずつ周波数を変更させて、前記電流・電圧検出手段が検出した電流値が最小値になる周波数を検出し、この周波数を中心周波数に再設定して前記スイープ処理を再開する請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−165947(P2009−165947A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6116(P2008−6116)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】