説明

超高純度窒素ガスの製造方法及び製造装置

【課題】空気液化分離方法で得られた高純度窒素ガスから、高価な吸着剤を用いず、比較的簡単な設備を用いて、半導体製造プロセスに適した超高純度窒素ガスを多量に製造すること。
【解決手段】空気液化分離方法で得られた窒素ガスを、ニッケル触媒を用い、常温にて酸素、一酸化炭素、水素を吸着除去した後、ナトリウム結合活性アルミナを用い、常温にて二酸化炭素を吸着除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気液化分離装置から得られた窒素ガスから超高純度窒素ガスを製造する方法および製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノンあるいは窒素等の不活性ガスが、エレクトロニクス産業において広く使用されている。このようなエレクトロニクス分野で使用される不活性ガスは、半導体製造の各プロセスで使用するものと、各プロセス間のパージガス、あるいは希釈用のガスとして使用する一般用途のものがあり、それぞれで必要とされる純度のレベルは大きく異なる。とりわけ、半導体製造プロセスに使用する場合は純度に対する要求が特に厳しく、各不純物濃度がそれぞれ1ppb以下という超高純度が要求される。
【0003】
半導体製造プロセスで使用されるガス中の不純物として除去すべきとされるガスは、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、水等である。
これらの不純物ガスを除去し、精製ガスを得るための一つの方法として、高活性なゲッター剤との化学反応を利用したゲッター方式が挙げられる。この方式は各種の不純物ガスを纏めて1ppb以下にまで除去できる点で優れているものの、再生ができないために、寿命になると交換が必要であることからランニングコストが高く、ユースポイントでの精製に用途が限られる。
【0004】
再生可能な精製方法としては、(1)ガス中に含まれる酸素、一酸化炭素および水素をニッケルや銅などの触媒によって補足し、次いで水分、二酸化炭素を合成ゼオライトなどの吸着剤で吸着除去する方法、(2)酸素、一酸化炭素および水素を触媒反応により二酸化炭素に転換し、次にニッケル触媒により余剰の酸素を補足、酸化亜鉛により二酸化炭素を吸着除去し、最後に水分を合成ゼオライトで吸着除去する方法(特開平2-120212)、(3)二酸化炭素吸着能力の高い酸化亜鉛を主成分とする吸着剤で二酸化炭素を初めに吸着除去し、次にニッケルまたは銅を有効成分とする触媒により酸素、一酸化炭素、水素および微量残った二酸化炭素を除去、最後に水分を吸着除去する方法(特開平8-173748)などがある。
【0005】
ニッケル触媒の二酸化炭素吸着能力を向上させる方法も鋭意検討されており、(4)ニッケル触媒に炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を担持する方法(特開2005-319345)や、(5)活性炭にニッケル化合物とともにアルカリ金属化合物を担持する方法(特開2005-324155)などがある。
【0006】
一方、空気液化分離装置の前処理においては、空気中の二酸化炭素の除去には一般的にゼオライトが使用されているが、活性アルミナの二酸化炭素吸着量を向上させて、これを使用する方法も提案されている。活性アルミナの二酸化炭素吸着性能向上の方法として、活性アルミナに塩基性溶液を含侵させる方法(特開平11-518)や0.001から7.25%のアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物を含む方法(特開2001-104737)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−120212号公報
【特許文献2】特開平8−173748号公報
【特許文献3】特開2005−319345号公報
【特許文献4】特開2005−324155号公報
【特許文献5】特開平11-518号公報
【特許文献6】特開2001−104737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近の半導体工場では生産規模の拡大により、空気分離装置で製造される窒素ガスの全量を精製するというニーズが増えており、求められる処理量は拡大する一方である。一方、従来の精製装置は上述の通り、高価な吸着剤を多量に必要とすることから、特に大流量を処理する大型の装置においては全体コストに占める剤価格の割合が相対的に高く、そのためイニシャルコストが高いという課題があり、改善が求められている。
【0009】
(1)の方法は、ニッケル触媒の二酸化炭素吸着量はわずかであり、また合成ゼオライトでは二酸化炭素濃度を求められる純度まで除去できないという課題があった。
そのため、(2)および(3)の方法が考案された。しかし、(2)の方法は高価なPtやPd等の酸化触媒が必要であり、また反応促進のために常時加熱する必要があるなどの課題があり、イニシャルコストおよびランニングコストが高いという課題があった。
(3)の方法は、酸化亜鉛では二酸化炭素を求められる純度まで十分に除去できないことから、酸化亜鉛の後段にニッケル触媒を配置して二酸化炭素を除去する必要があった。ニッケル触媒の二酸化炭素吸着量はわずかであることから、高価なニッケル触媒を大量に必要とすることになり、イニシャルコストが高いという課題は残ったままであった。
(4)および(5)の方法では、いずれもアルカリ金属化合物の形で単体上に担持されているために、担持されたアルカリ金属化合物の剥離などによる汚染の懸念が捨てきれない。半導体工場では特にこれらのアルカリ金属を嫌うことから、担持とは異なる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、空気液化分離方法で得られた窒素ガスから超高純度窒素ガスを製造する方法であって、前記窒素ガスをニッケル触媒により常温で酸素、一酸化炭素、水素を吸着除去した後、ナトリウム結合活性アルミナを用いて常温で二酸化炭素を吸着除去する超高純度窒素ガスの製造方法である。
【0011】
請求項2にかかる発明は、ニッケル触媒と、その後段にナトリウム結合活性アルミナを充填した吸着筒とを備えている超高純度窒素ガス製造装置である。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の方法及び装置によれば、高価なニッケル触媒の使用量を大幅に削減することができ、特にイニシャルコストを低減して空気液化分離方法によって得られた窒素から超高純度窒素ガスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ナトリウム結合活性アルミナ4種類の0.1ppmにおける破過吸着量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般的に二酸化炭素吸着量が多いと言われている吸着剤としては合成ゼオライトが挙げられる。一方、水分除去などに使われる活性アルミナは、二酸化炭素を若干吸着するものの、その吸着量は他の吸着剤と比較して特段多くないため、一般的には二酸化炭素の吸着剤として注目されることはなかった。
【0015】
空気液化分離装置で製造される窒素ガスは、含まれる不純物成分のうち、二酸化炭素濃度が100ppb程度と比較的少ない。例えば空気液化分離装置の前処理装置で使用される場合に求められるような高濃度(分圧にして数百Pa)での吸着量よりも、低濃度(分圧にして0.1Pa以下)における吸着量が重要となる。これまで、このような極低濃度において二酸化酸素を有効に吸着する物質は知られていなかった。
【0016】
発明者らは鋭意検討を行った結果、表面にナトリウムを結合させた活性アルミナが、常温において極低濃度の二酸化炭素を特異的に吸着することを見出した。
【0017】
本発明では、空気液化分離法によって製造された窒素ガスを、常温においてニッケル触媒に通し、予め、酸素、一酸化炭素、水素を吸着除去する。このとき、窒素ガス中に含まれる酸素は一酸化炭素と反応し、一部は二酸化炭素となって下流側に流出する。そのため、下流側にナトリウム結合活性アルミナを設置することが望ましい。常温においてナトリウム結合活性アルミナで二酸化炭素を吸着除去することで、超高純度窒素ガスを製造するものである。
【0018】
ナトリウム結合活性アルミナは、約200℃の再生ガス(製品高純度窒素ガスの一部を使っても良い)により再生することで、繰り返し使用することができる。
このような方法により、超高純度窒素ガスを製造するための装置は、ニッケル触媒とナトリウム結合活性アルミナとを充填した吸着筒とからなり、この吸着筒には、ナトリウム結合活性アルミナを再生するための再生ガスを加温するための加熱器を有している。
【0019】
このような超高純度窒素ガスの製造方法および製造装置によって、空気液化分離装置で製造した窒素ガス中の各不純物物濃度を1ppb以下にすることが可能となり、半導体製造プロセスに使用可能な超高純度窒素ガスを得ることができる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
ナトリウム結合活性アルミナ4種類(ナトリウムの含有量が1.5%、6.0%、8.0%、10.2%)の25℃における二酸化炭素の吸着量を定容法により測定した。濃度1ppmに相当する圧力1Paにおける二酸化炭素の吸着量を表1に示す。
次に、ナトリウム結合活性アルミナを100mm充填した内径28.4mmの吸着筒に、不純物として二酸化炭素を0.1ppm添加した精製窒素ガスを2.4Nm3/h流通させ、破過までの時間を測定した。
破過までの時間は、API-MSを用いて出口ガスを分析することで求めた。
ナトリウム含有量が異なる4種類のナトリウム結合活性アルミナについて、それぞれ破過吸着量を求めた。結果を表1および図1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
(比較例1)
合成ゼオライトの中から、Caイオンを含み、一般に二酸化炭素の吸着量が高いと言われているCa-A型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、市販の活性アルミナ2種およびニッケル触媒を選び、実施例1と同様に、25℃における二酸化炭素吸着量を定容法により測定した。濃度1ppmに相当する圧力1Paにおける二酸化炭素の吸着量を表1に示す。
また実施例1と同様に、Ca-A型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、市販の活性アルミナ2種およびニッケル触媒を用いて破過吸着量を求めた。結果を表1に示す。
【0023】
表1から、1Paにおける二酸化炭素の吸着量は、活性アルミナが比較的高いにもかかわらず、動的性能を示す破過吸着量は極端に低下していることが分かる。ゼオライトも同様の傾向が見られ、いずれも低濃度の二酸化炭素の吸着には適していないことが分かる。この原因として、吸着剤内部でのガスの拡散が律速になっていること、すなわち、結晶構造(細孔構造)が影響していると推測される。
【0024】
一方、これまで低濃度の二酸化炭素吸着に使用していたニッケル触媒は、1Paにおける吸着量は劣るものの、0.1ppmにおける破過吸着量の低下が少なく、実用に供することができるレベルにある。表1を見ると、ナトリウム結合活性アルミナの1Paにおける二酸化炭素吸着量は、活性アルミナと比較して増加しているが、更に破過吸着量が大幅に増大しており、動的な吸着特性が改善されていることが分かる。
【0025】
表1では、ナトリウム含有量が増大するに従って二酸化炭素吸着量は増加傾向にあることがわかるが、図1を見ると、動的特性に関してはナトリウム含有量には最適な値があり、その量が多すぎると効果が低下することが分かる。
【0026】
(実施例2)
内径28.4mmの吸着筒の入口側にニッケル触媒を200mm充填し、その後段にナトリウム結合活性アルミナを150mm充填した。この吸着筒に、不純物として一酸化炭素1.0ppm、水素1.0ppm、二酸化炭素0.5ppmを添加した窒素ガスを2.4Nm3/hで流通し、吸着筒出口のガスを分析した。分析はAPI-MSとGC-FIDを用いた。最初に破過したのは二酸化炭素で破過時間は約48時間であった。
【0027】
(比較例2)
内径28.4mmの吸着筒にニッケル触媒を350mm充填した。この吸着筒に、不純物として一酸化炭素1.0ppm、水素1.0ppm、二酸化炭素0.5ppmを添加した精製窒素ガスを2.4Nm3/h流通し、出口の精製ガスの分析を行った。分析はGC-FID(島津製作所製)を用いて測定した。最初に破過したのは二酸化炭素で、破過時間は約21時間であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気液化分離方法で得られた窒素ガスから超高純度窒素ガスを製造する方法であって、前記窒素ガスをニッケル触媒により常温で酸素、一酸化炭素、水素を吸着除去した後、ナトリウム結合活性アルミナを用いて常温で二酸化炭素を吸着除去する超高純度窒素ガスの製造方法。
【請求項2】
ニッケル触媒と、その後段にナトリウム結合活性アルミナを充填した吸着筒とを備えている超高純度窒素ガス製造装置。


【図1】
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