説明

車両の相対位置判定方法

【課題】地図情報がなくとも対象車両が自車両と同一道路上を走行していることが判定できる車両の相対位置判定方法を提供する。
【解決手段】後行車両23の現在位置座標が先行車両22の走行軌跡から所定距離以内で、かつ、後行車両23の現在方位が先行車両22の走行軌跡の方位から所定角度以内であれば、後行車両23は先行車両22が通過した同一道路を走行していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地図情報がなくとも対象車両が自車両と同一道路上を走行していることが判定できる車両の相対位置判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された測位装置と車車間通信装置を利用した車両の相対位置判定方法では、自車両と対象車両がそれぞれ測位装置で測位した位置座標を互いに車車間通信装置で送り合い、これら位置座標に基づいて自車両と対象車両の遭遇の危険度を判定して運転者に知らせている。
【0003】
カーナビゲーション装置のための地図情報を保持している車両における車両の相対位置判定方法では、地図情報に含まれている道路の情報を利用して、自車両から自車両と同一道路上を走行している対象車両までの相対距離を道のりで表した距離(道に沿った距離;以下、沿道距離)として正確に測定することができる。しかし、地図情報を保持していない車両における車両の相対位置判定方法では、道路の情報を利用することができず、車両間の沿道距離を測定することができない。そこで、地図情報を保持していない車両における車両の相対位置判定方法では、自車両から対象車両までの直線距離を両車両間の相対距離としている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−90663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地図情報を保持していない車両における車両の相対位置判定方法では、車車間通信により位置座標を交換しても、対象車両が自車両と同一道路上を走行しているかどうか判別ができない。このため、隣接した別の道路を走行している車両が自車両と遭遇する危険があるという間違った情報を運転者に知らせてしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、地図情報がなくとも対象車両が自車両と同一道路上を走行していることが判定できる車両の相対位置判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、自車両位置座標の測位と車車間通信による対象車両位置座標の取得とを継続して行い、これら自車両位置座標と対象車両位置座標を時系列として記憶し、少なくとも一方の車両について上記時系列を基に仮想平面上に走行軌跡を作成し、上記一方の車両の走行軌跡と他方の車両の現在位置座標とから、上記一方の車両の走行軌跡と上記他方の車両の現在位置座標との距離を測定し、上記一方の車両の走行軌跡の一部が上記他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にある場合に、該他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にある上記一方の車両の走行軌跡の一部における上記一方の車両の方位(以下、走行軌跡の方位という)を計算し、該一方の車両の走行軌跡の方位と上記他方の車両の現在方位との差を測定し、該方位差が所定角度以内である場合に、上記一方の車両が既に走行した道路を上記他方の車両が現在走行していると判定するものである。
【0008】
上記一方の車両の走行軌跡に沿って上記一方の車両の現在位置座標から上記他方の車両の現在位置座標までの距離を測定して両車両間の沿道距離とし、該沿道距離とそれぞれの車両の速度とから衝突余裕時間を計算してもよい。
【0009】
上記一方の車両が対象車両、上記他方の車両が自車両であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0011】
(1)地図情報がなくとも対象車両が自車両と同一道路上を走行していることが判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0013】
図1に示されるように、本発明の車両の相対位置判定方法を実施する相対位置判定システム1においては、車両(図示せず)に自車両位置座標を測位するための測位装置2を搭載すると共に、車車間通信装置3を搭載する。車車間通信を行う相手である対象車両も測位装置と車車間通信装置を搭載する。これにより、車両は自車両位置座標の測位と対象車両位置座標の取得とを時間的に継続して(例えば、一定時間きざみごとに)行うことができる。
【0014】
相対位置判定システム1は、これら自車両位置座標と対象車両位置座標を時系列として記憶するための時系列記憶部4と、その時系列を基に仮想平面上に車両の走行軌跡を作成する走行軌跡作成部5と、一方の車両の走行軌跡と他方の車両の現在位置座標とから、一方の車両の走行軌跡と他方の車両の現在位置座標との距離を測定する対軌跡距離測定部6と、一方の車両の走行軌跡の一部が他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にあるかどうかを判定する軌跡近接判定部7と、他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にある一方の車両の走行軌跡の一部における走行軌跡の方位を計算する軌跡方位計算部8と、一方の車両の走行軌跡の方位と他方の車両の現在方位との差を角度として測定する方位差測定部9と、その方位差が所定角度以内であるかどうか判定する方位差近似判定部10と、一方の車両の走行軌跡の一部が他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にあって、かつ、一方の車両の走行軌跡の一部における走行軌跡の方位と他方の車両の現在方位との差が所定角度以内の場合に、一方の車両が既に走行した道路を他方の車両が現在走行していると判定する同一道路走行判定部11とを車両に搭載する。
【0015】
さらに、相対位置判定システム1は、一方の車両の走行軌跡に沿って一方の車両の現在位置座標から他方の車両の現在位置座標までの距離を測定して両車両間の沿道距離とする車間沿道距離測定部12と、その沿道距離とそれぞれの車両の速度とから衝突余裕時間(Time To Collision;以下、TTCと言う)を計算するTTC計算部13と、両車両間の沿道距離やTTCを表示する相対位置表示部14と、TTCが所定の警告限界値以下になると警告音源や警告灯を起動することにより遭遇の危険度を運転者に知らせる遭遇警告部15とを車両に搭載する。
【0016】
なお、車両は、前述した本発明の相対位置判定システム1のほかに、従来より知られている車両装備をすべて備えているものとする。
【0017】
測位装置2は、絶対座標系(地球座標系)上の定点に置かれた局との交信に基づいて測位を行うGPS測位装置等の公知のものであり、緯度経度で表した現在位置座標を出力するようになっている。測位装置2が車両の方位、車速を出力してもよい。車車間通信装置3は、公知のものであり、1対1あるいは1対多の車両間で現在の位置座標、方位、車速を交換することができる。また、測位装置2又は車車間通信装置3から得られた自車両・対象車両の位置座標は時系列記憶部4に時系列として記憶されるので、この時系列から現在あるいは任意の過去時点の車両の方位、車速が計算できる。
【0018】
次に、本発明の車両の相対位置判定方法の基本原理を従来の相対位置判定方法と対比しつつ説明する。
【0019】
図2(a)に示されるように、仮想平面21上に二台の車両(どちらか一台は自車両、もう一台は対象車両であるが、どちらであるかは問わない)22,23が存在し、それぞれ任意の方位に走行しているものとする。図示例では、一台の車両22が仮想平面21の左上部を矢印のように右上の方位に向けて走行しており、その車速は矢印の長さで示されている。もう一台の車両23は仮想平面21の中央部をほぼ左の方位に向けて走行しており、その車速は前述の車両22よりも顕著に速い。
【0020】
従来の相対位置判定方法では、二台の車両22,23は、それぞれ自車両と対象車両の位置情報のみを利用して相対位置を判定するので、両者間を直線で結んで測定される直線距離でしか相対位置を評価できない。この直線距離の情報に車両22,23の方位と車速の情報を加味したとしても、二台の車両22,23が遭遇するかどうかの判定は不可能である。
【0021】
図2(b)に示されるように、仮想平面21上を図2(a)と全く同じ配置かつ同じ方位、車速で二台の車両22,23が走行しているものとする。一台の車両22の走行軌跡は、破線で示されるように、仮想平面21の下辺中央部から右上方向に行き、右辺中央部で左折してほぼ左方向に行き、左辺中央部に至る前に右折して右上方向に行っている。もう一台の車両23の走行軌跡は、一点鎖線で示されるように、仮想平面21の下辺中央部から右上方向に行き、右辺中央部で左折してほぼ左方向に行き始めている。
【0022】
二台の車両22,23の走行軌跡は、位置や曲がり方など視覚的に大変類似しており、現時点まで、先行車両22の走行軌跡を後行車両23が走行していることは確実である。したがって、例えば、二台の車両22,23がS字状の同一道路を走行している可能性が高いと推察できる。もしそうであると、先行車両22の車速より後行車両23の車速が著しく速いので、このまま後行車両23が同一道路を走行して右折をすると、短時間で先行車両22に後方から遭遇することになる。また、仮に複数の道路が縦横斜めなどに交錯しているとしても、後行車両23が現時点以降も先行車両22の走行軌跡の通りに走行可能であることは確認できる。
【0023】
以上のように、図2(a)では有用な判断は何もできなかったが、図2(b)によれば、二台の車両22,23が同一道路上を走行しているという判断が可能である。
【0024】
そこで、本発明の相対位置判定方法では、図2(b)で示される基本原理に基づき、先行車両22が走行した道路を後行車両23が現在走行していると判定するためのアルゴリズムを以下のように構築した。
【0025】
まず、少なくとも一方の車両について位置座標の時系列を基に仮想平面21上に走行軌跡を作成する。図2(b)では、二台の車両22,23の走行軌跡を示したが、必要なのは先行車両22の走行軌跡である。後行車両23は現在位置座標があればよく、後行車両23の走行軌跡は特に必要ない。
【0026】
次に、先行車両22の走行軌跡と後行車両23の現在位置座標とから、先行車両22の走行軌跡と後行車両23の現在位置座標との距離を測定する。仮想平面21上では、後行車両23の現在位置座標から最寄りの先行車両22の走行軌跡に下ろした垂線の長さを求めることに相当する。具体的には、先行車両22の位置座標の時系列の中から後行車両23の現在位置座標に最も近い位置座標を探し、その位置座標から補間により最近点を求め、その最近点から後行車両23の現在位置座標までの距離を求めることになる。
【0027】
このようにして求めた距離があらかじめ設定した所定距離以内であれば、次のステップに進む。先行車両22の走行軌跡と後行車両23の現在位置座標との距離が所定距離よりも大きければ、二台の車両22,23が同一道路を走行している可能性は低いので、判定処理は終了する。
【0028】
先行車両22の走行軌跡の一部(前述の最近点)が後行車両23の現在位置座標から所定距離以内にある場合には、その最近点における走行軌跡の方位を計算する。先行車両22の走行軌跡の方位と後行車両23の現在方位との差を測定する。この方位差があらかじめ設定した所定角度以内である場合には、先行車両22が既に走行した道路を後行車両23が現在走行していると判定し、次のステップに進む。方位差が所定角度よりも大きければ、二台の車両22,23が同一道路を走行している可能性は低いので、判定処理は終了する。
【0029】
次に、先行車両22の走行軌跡に沿って先行車両22の現在位置座標から後行車両23の現在位置座標(前述の最近点で近似)までの距離を測定して両車両間の沿道距離とする。この沿道距離と先行車両22の車速と後行車両23の車速とから衝突余裕時間TTCが計算できる。TTCがあらかじめ設定した所定の警告限界値以下であれば、警告音源や警告灯を起動することにより遭遇の危険度を運転者に知らせる。
【0030】
図1の相対位置判定システム1は、前述のアルゴリズムを図3のように実行する。なお、ここでは、先行車両22が対象車両、後行車両23が自車両であるものとして説明する。
【0031】
まず、相対位置判定システム1は、測位装置2により後行車両23である自車両の位置座標を測位する。車車間通信を行う相手としての先行車両22である対象車両も同様に両位置座標を測位しているので、車車間通信装置3が情報交換することにより、対象車両の位置座標を取得する。自車両位置座標の測位と対象車両位置座標の取得とを時間的に継続して行い、時系列記憶部4がこれら自車両位置座標と対象車両位置座標をそれぞれ時系列として記憶する。
【0032】
相対位置判定システム1は、走行軌跡作成部5において、時系列を基に仮想平面21上に先行車両22である対象車両の走行軌跡を作成する。
【0033】
次いで、相対位置判定システム1は、対軌跡距離測定部6において、先行車両22の走行軌跡と後行車両23の現在位置座標とから、先行車両22の走行軌跡と後行車両23の現在位置座標との距離を測定する。軌跡近接判定部7では、先行車両22の走行軌跡が後行車両23の現在位置座標から所定距離以内にあるかどうかを判定する。さらに、軌跡方位計算部8では、先行車両22の走行軌跡の方位を計算する。方位差測定部9では、先行車両22の走行軌跡の方位と後行車両23の現在方位との差を角度として測定する。方位差近似判定部10では、方位差が所定角度以内であるかどうか判定する。そして、同一道路走行判定部11では、前述の二つの判定を総合し、先行車両22の走行軌跡の一部が後行車両23の現在位置座標から所定距離以内にあって、かつ、先行車両22の走行軌跡の方位と後行車両23の現在方位との差が所定角度以内であれば、先行車両22が既に走行した道路を後行車両23が現在走行していると判定する。
【0034】
相対位置判定システム1は、車間沿道距離測定部12において、先行車両22の走行軌跡に沿って先行車両22の現在位置座標から後行車両23の現在位置座標までの距離を測定して両車両間の沿道距離とする。
【0035】
TTC計算部13では、両車両間の沿道距離と先行車両22の車速と後行車両23の車速とからTTCを計算し、相対位置表示部14に両車両間の沿道距離やTTCを表示する。TTCが所定の警告限界値以下になると遭遇警告部15が警告音源や警告灯を起動することにより遭遇の危険度を運転者に知らせる。
【0036】
この実施形態では、先行車両22が対象車両、後行車両23が自車両としたが、先行車両22が自車両、後行車両23が対象車両であっても、アルゴリズムは同じであり、図3とほぼ同様のフローを実行することで、先行車両22である自車両が既に走行した道路を後行車両23である対象車両が現在走行しており、対象車両が自車両の後方から遭遇する可能性を判定できることになる。
【0037】
このようにして、地図情報を持たない車両においても、本発明の相対位置判定システム1によって対象車両が自車両と同一道路を走行しているか否かが判定できる。よって、車車間通信によって複数台の車両が比較的近隣に存在することが認識されている場合などに、異なる道路を走行している車両を遭遇可能性推定の対象から除外して、同一道路を走行している車両についての遭遇可能性推定の精度を高めるなど、運転者に対する支援情報提供の信頼性を向上させることができる。
【0038】
本発明の相対位置判定システム1は、両車両間の相対的な距離として、走行軌跡に基づいて、沿道距離を測定するので、道路が複雑に曲がっている場合でも、正確な両車両間の距離が求まり、TTCも正確に求めることができる。これにより、遭遇の警告も適切な時期に行うことができ、よりよい運転支援が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態を示す相対位置判定システムの構成図である。
【図2】(a)は従来の相対位置判定方法を説明するための仮想平面図、(b)は本発明の相対位置判定方法を説明するための仮想平面図である。
【図3】図1の相対位置判定システムが実行するフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1 相対位置判定システム
2 測位装置
3 車車間通信装置
4 時系列記憶部
5 走行軌跡作成部
6 対軌跡距離測定部
7 軌跡近接判定部
8 軌跡方位計算部
9 方位差測定部
10 方位差近似判定部
11 同一道路走行判定部
12 車間沿道距離測定部
13 TTC計算部
14 相対位置表示部
15 遭遇警告部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両位置座標の測位と車車間通信による対象車両位置座標の取得とを継続して行い、 これら自車両位置座標と対象車両位置座標を時系列として記憶し、
少なくとも一方の車両について上記時系列を基に仮想平面上に走行軌跡を作成し、
上記一方の車両の走行軌跡と他方の車両の現在位置座標とから、上記一方の車両の走行軌跡と上記他方の車両の現在位置座標との距離を測定し、
上記一方の車両の走行軌跡の一部が上記他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にある場合に、
該他方の車両の現在位置座標から所定距離以内にある上記一方の車両の走行軌跡の一部における上記一方の車両の方位(以下、走行軌跡の方位という)を計算し、
該一方の車両の走行軌跡の方位と上記他方の車両の現在方位との差を測定し、
該方位差が所定角度以内である場合に、
上記一方の車両が既に走行した道路を上記他方の車両が現在走行していると判定することを特徴とする車両の相対位置判定方法。
【請求項2】
上記一方の車両の走行軌跡に沿って上記一方の車両の現在位置座標から上記他方の車両の現在位置座標までの距離を測定して両車両間の沿道距離とし、
該沿道距離とそれぞれの車両の速度とから衝突余裕時間を計算することを特徴とする請求項1記載の車両の相対位置判定方法。
【請求項3】
上記一方の車両が対象車両、上記他方の車両が自車両であることを特徴とする請求項1又は2記載の車両の相対位置判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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