説明

車両前部構造

【課題】プレス加工されるルーフパネルを余分な工程を省いて成形することができ、製造コスト削減を図り得る車両前部構造を提供する。
【解決手段】ルーフパネル2の縦壁部2aの折り曲げの基点より先端側が、ルーフパネル2のプレス加工方向を基準として少なくともルーフパネル2の内面側へ入り込まないよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前部には、図2に示される如く、ドライバの視界を確保しつつ車室内と外部とを仕切るフロントウインドシールドガラス1が設けられているが、従来の場合、図3に示される如く、ルーフパネル2の前端縁部に、内面側へ折り曲げられる縦壁部2aと、該縦壁部2aの先端側から前方へ延出される接着片部2bとを形成し、該ルーフパネル2の接着片部2bに、前記フロントウインドシールドガラス1の上端縁部を接着剤3で接着し、該フロントウインドシールドガラス1の上端縁部外表面をウインドシールドモール4で覆うようにしている。
【0003】
尚、前記ルーフパネル2の接着片部2bとフロントウインドシールドガラス1の上端縁部との間には、前記接着剤3がフロントウインドシールドガラス1の内面側へ漏洩することを堰き止めるダム5が設けられており、又、前記ルーフパネル2の前部内面側には、箱断面を形成してルーフパネル2を補強するフロントルーフパネルリインフォースメント6が設けられ、その車室内側は内装天井材7によって覆われている。
【0004】
尚、図3に示されるような車両前部構造と関連する一般的技術水準を開示するものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開平7−215241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述の如き従来の車両前部構造の場合、ルーフパネル2のプレス加工方向は、一般に図3に示される如く、鉛直方向となっているが、ルーフパネル2の縦壁部2aの先端側は、前記ルーフパネル2のプレス加工方向を基準として、折り曲げの基点よりルーフパネル2の内面側へ入り込む形となっており、いわゆるアンダーカット的な形状となっていることから、ルーフパネル2をプレス加工した後、縦壁部2aをカム等を用いて更に成形加工しなければならず、工数が増加して製造コストが嵩むという欠点を有していた。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、プレス加工されるルーフパネルを余分な工程を省いて成形することができ、製造コスト削減を図り得る車両前部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ルーフパネル前端縁部に、内面側へ折り曲げられる縦壁部と、該縦壁部の先端側から前方へ延出され且つフロントウインドシールドガラスの上端縁部が接着される接着片部とを形成し、フロントウインドシールドガラスの上端縁部外表面をウインドシールドモールで覆うようにした車両前部構造において、
ルーフパネルの縦壁部の折り曲げの基点より先端側が、ルーフパネルのプレス加工方向を基準として少なくともルーフパネルの内面側へ入り込まないよう構成したことを特徴とする車両前部構造にかかるものである。
【0008】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0009】
前述の如く、ルーフパネルの縦壁部の折り曲げの基点より先端側が、ルーフパネルのプレス加工方向を基準として少なくともルーフパネルの内面側へ入り込まないよう構成すると、ルーフパネルの前端縁部にアンダーカット的な形状となる部分が存在しなくなるため、ルーフパネルをプレス加工した後、縦壁部をカム等を用いて更に成形加工しなくて済み、工数が増加せず製造コストを削減可能となる。
【0010】
前記車両前部構造においては、ウインドシールドモールのルーフパネル側の端縁が、ルーフパネルの接着片部より後方に位置するよう構成することができ、このようにすると、ウインドシールドモールとルーフパネルとの境界が従来に比べて後方へずれる形となるため、風切り音が抑えられると共に、見栄えも良くなり、更に、ルーフパネル側からの雨垂れがフロントウインドシールドガラスの表面に伝わりにくくすることが可能となる。
【0011】
又、前記車両前部構造においては、ルーフパネルの縦壁部と接着片部との間に、ウインドシールドモールを固定するためのモール取付平面部を形成することもでき、このようにすると、ウインドシールドモールが大型のものであってもそれを確実に保持することが可能となり、更に、前記モール取付平面部を形成したことに伴い、ルーフパネルの前端縁部において折れ曲がる箇所が、縦壁部の先端側とモール取付平面部の基端側との間、並びにモール取付平面部の先端側と接着片部の基端側との間に、合わせて二つ形成されることから、ルーフパネルの剛性アップにもつながることとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1記載の車両前部構造によれば、プレス加工されるルーフパネルを余分な工程を省いて成形することができ、製造コスト削減を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【0013】
本発明の請求項2記載の車両前部構造によれば、上記効果に加え更に、風切り音の抑制と見栄え向上とを図ることができると共に、ルーフパネル側からフロントウインドシールドガラスの表面への雨垂れ防止を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【0014】
本発明の請求項3記載の車両前部構造によれば、上記効果に加え更に、ウインドシールドモールの大型化にも対応し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図2及び図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、ルーフパネル2の縦壁部2aの折り曲げの基点より先端側が、ルーフパネル2のプレス加工方向を基準として少なくともルーフパネル2の内面側へ入り込まないよう構成したものである。
【0017】
本図示例の場合、大型のウインドシールドモール4を採用し、該ウインドシールドモール4のルーフパネル2側の端縁が、ルーフパネル2の接着片部2bより後方に位置するよう構成すると共に、ルーフパネル2の縦壁部2aと接着片部2bとの間に、ウインドシールドモール4を固定するためのモール取付平面部2cを形成してある。
【0018】
ここで、前記ウインドシールドモール4は、車両の幅方向(図1の紙面と直交する方向)へ延びる薄肉の帯板状の部材を、図1に示す如く、その断面が緩やかな湾曲形状となり且つ上下端部が内面側へそれぞれU字状に折り返されるよう、成形してなり、その内面側には、前記車両の幅方向における所要箇所に配置されるようリテーナ8を嵌着してある。
【0019】
そして、前記モール取付平面部2cは、前記湾曲させたウインドシールドモール4の上部と略平行に配設すると共に、該モール取付平面部2cの前記車両の幅方向における所要箇所には、前記リテーナ8のクリップ片8aを嵌め込み可能な嵌合孔9を穿設してある。尚、前記モール取付平面部2cをルーフパネル2の縦壁部2aと接着片部2bとの間に形成したことに伴って、フロントルーフパネルリインフォースメント6の対応箇所にも、モール取付平面部2cに倣う平面部6cを形成すると共に、該平面部6cに嵌合孔10を穿設してある。
【0020】
これにより、前記ウインドシールドモール4は、その内面側に嵌着したリテーナ8のクリップ片8aを前記嵌合孔9,10に嵌め込むことによって、フロントルーフパネルリインフォースメント6で補強されたルーフパネル2の前端縁部に対して固定するようにしてある。
【0021】
又、前記ウインドシールドモール4の上端におけるU字状の折り返し部とルーフパネル2の縦壁部2aとの間に隙間を設けると共に、該ウインドシールドモール4の上端におけるU字状の折り返し部には、先端部がルーフパネル2の縦壁部2aに密着するウェザストリップ11を固着してあり、これにより、ルーフパネル2側からの雨垂れを受けて車両の幅端へ導くための雨樋部12を形成してある。
【0022】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0023】
前述の如く、ルーフパネル2の縦壁部2aの折り曲げの基点より先端側が、ルーフパネル2のプレス加工方向を基準として少なくともルーフパネル2の内面側へ入り込まないよう構成すると、ルーフパネル2の前端縁部にアンダーカット的な形状となる部分が存在しなくなるため、ルーフパネル2をプレス加工した後、縦壁部2aをカム等を用いて更に成形加工しなくて済み、工数が増加せず製造コストを削減可能となる。
【0024】
本図示例の場合、ウインドシールドモール4のルーフパネル2側の端縁が、ルーフパネル2の接着片部2bより後方に位置するよう構成してあるため、ウインドシールドモール4とルーフパネル2との境界が従来に比べて後方へずれる形となり、風切り音が抑えられると共に、見栄えも良くなり、更に、ルーフパネル2側からの雨垂れがフロントウインドシールドガラス1の表面に伝わりにくくすることが可能となる。
【0025】
しかも、前記ウインドシールドモール4の上端におけるU字状の折り返し部とルーフパネル2の縦壁部2aとの間に隙間を設けると共に、該ウインドシールドモール4の上端におけるU字状の折り返し部に、先端部がルーフパネル2の縦壁部2aに密着するウェザストリップ11を固着することにより、雨樋部12を形成してあるため、ルーフパネル2側からの雨垂れは、雨樋部12に集められて車両の幅端へ導かれる形となり、前記雨垂れをフロントウインドシールドガラス1の表面に伝わりにくくすることがより確実に行われるようになっている。
【0026】
又、本図示例の場合、ルーフパネル2の縦壁部2aと接着片部2bとの間に、ウインドシールドモール4を固定するためのモール取付平面部2cを形成してあるため、ウインドシールドモール4が大型のものであってもそれを確実に保持することが可能となる。
【0027】
しかも、前記モール取付平面部2cを形成したことに伴い、ルーフパネル2の前端縁部において折れ曲がる箇所が、縦壁部2aの先端側とモール取付平面部2cの基端側との間、並びにモール取付平面部2cの先端側と接着片部2bの基端側との間に、合わせて二つ形成されることから、ルーフパネル2の剛性アップにもつながることとなる。
【0028】
そして、前記モール取付平面部2cは、前記湾曲させたウインドシールドモール4の上部と略平行に配設してあるため、仮にモール取付平面部2cに穿設される嵌合孔9の位置が若干ずれたとしても、ウインドシールドモール4の上面がルーフパネル2の上面に対して極端に出っ張ったり凹んだりすることがなく、見栄えが悪くなることを回避する上で有効となっている。
【0029】
こうして、プレス加工されるルーフパネル2を余分な工程を省いて成形することができ、製造コスト削減を図り得る。
【0030】
又、風切り音の抑制と見栄え向上とを図ることができると共に、ルーフパネル2側からフロントウインドシールドガラス1の表面への雨垂れ防止を図り得る。
【0031】
更に又、ウインドシールドモール4の大型化にも対応し得る。
【0032】
尚、本発明の車両前部構造は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す側断面図である。
【図2】車両の一例を示す斜視図である。
【図3】従来例を示す側断面図であって、図2のIII−III断面相当図である。
【符号の説明】
【0034】
1 フロントウインドシールドガラス
2 ルーフパネル
2a 縦壁部
2b 接着片部
2c モール取付平面部
4 ウインドシールドモール
6 フロントルーフパネルリインフォースメント
8 リテーナ
8a クリップ片
9 嵌合孔
10 嵌合孔
11 ウェザストリップ
12 雨樋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフパネル前端縁部に、内面側へ折り曲げられる縦壁部と、該縦壁部の先端側から前方へ延出され且つフロントウインドシールドガラスの上端縁部が接着される接着片部とを形成し、フロントウインドシールドガラスの上端縁部外表面をウインドシールドモールで覆うようにした車両前部構造において、
ルーフパネルの縦壁部の折り曲げの基点より先端側が、ルーフパネルのプレス加工方向を基準として少なくともルーフパネルの内面側へ入り込まないよう構成したことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
ウインドシールドモールのルーフパネル側の端縁が、ルーフパネルの接着片部より後方に位置するよう構成した請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
ルーフパネルの縦壁部と接着片部との間に、ウインドシールドモールを固定するためのモール取付平面部を形成した請求項1記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−168654(P2007−168654A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370389(P2005−370389)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】