説明

車両用アルミニウム合金ホイール

【課題】ボルト孔に鋼製ブッシュを嵌装したアルミニウム合金製の車両用ホイールにおいて、局部電流腐食が生じることのない車両用アルミニウム合金ホイールを提供することを目的とする。
【解決手段】本願第1の発明の車両用アルミニウム合金ホイール1は、環状のフランジ部1aと該フランジ部の中心に形成されるボス部1bと前記フランジ部と前記ボス部とを連結するスポーク部1cとを有し、前記ボス部1bに車輪ボルトを挿通させるためのボルト孔1baと該ボルト穴に嵌装されナット座面部を形成する鋼製ブッシュ2とを備える車両用アルミニウム合金ホイールであって、前記鋼製ブッシュにはアルミニウムめっき皮膜が形成されているという、技術的手段を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト孔に鋼製ブッシュを嵌装したアルミニウム合金製の車両用ホイールおよびフランジ部に鋼製バランスウェイトを備えるアルミニウム合金製の車両用ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ディスクホイールは、従来からスチールで形成されており、一部の高級車などではアルミニウム合金製のホイール(以下、単にアルミホイールともいう)が採用されていた。近年、車両の軽量化及び外観や意匠性の向上を目的として、アルミホイールを装着する割合が益々増大している。このアルミホイールは、環状のフランジ部、フランジ部の中心に形成されるボス部およびフランジ部とボス部とを連結するスポーク部からなり、Siを6〜13重量%程度含むAl−Si系合金を用いて、低圧鋳造、ダイカスト又はスクイズキャスティングなどの手段により製作されている。
【0003】
アルミホイールを車両に装着するために上記ボス部には、車輪用ボルトを挿通させるための複数のボルト孔が形成される。上記ボルトおよびこれに螺嵌されるナットとしては強度を確保するために鋼製のものを使用するのが通常である。アルミホイールを車両に装着する場合には、ボルトに螺嵌された鋼製ナットが回りながらアルミホイールのナット座面を強く押圧する。車両に装着した車両用ホイールはタイヤローテーションや夏用タイヤと冬用タイヤの交換などのために車両から取り外して再び装着することを繰り返す。車両への着脱を繰り返すことにより鋼製ナットに比べて軟かいアルミホイールはナット座面で徐々に摩耗する。そこでこのような不具合を防ぐために、アルミホイールのボルト孔のナット座面部に鋼製ブッシュを嵌装することが行われる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−266143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミニウム合金(アルミホイール)と鉄鋼(ブッシュ)とでは水や海水等の電解質溶液中での自然電位が異なる。これらの金属が互いに直接接触した場合にはアルミホイールとブッシュとの間に電位差が発生して電流が流れることにより局部電流腐食が生じる。この際、一般的には鉄鋼よりも自然電位の低いアルミニウム合金側が腐食する。従って、アルミホイールに鋼製ブッシュを嵌装した場合には、鋼製ブッシュ周辺においてアルミホイール側に局部電流腐食が生じやすかった。局部電流腐食によるアルミホイールの腐食は長い期間をかけて徐々に進行するため、アルミホイールの強度や安全性に影響を及ぼすことはないが、著しい腐食はアルミホイールの外観を大きく損なうため好ましくない。
【0006】
また、アルミホイール及びタイヤの回転バランスを調整する部品にバランスウェイトがある。バランスウェイトはアルミホイールのアウターフランジ部に取り付けられることが多い。この場合、バランスウェイトはアルミホイールの外観の一部をなすため、できるだけ小さい方が好ましく比重の大きい鋼製バランスウェイトが使用される場合が多い。ところが、鋼製バランスウェイトも鋼製ブッシュと同様にアルミホイールと直接接触した場合には、アルミホイールに局部電流腐食を生じさせるという問題があった。
【0007】
本発明は以上のような問題点に鑑みてなされたもので、ボルト孔に鋼製ブッシュを嵌装したアルミニウム合金製の車両用ホイール、またはフランジ部に鋼製バランスウェイトを備えるアルミニウム合金製の車両用ホイールにおいて、局部電流腐食が生じることのない車両用アルミニウム合金ホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1の発明の車両用アルミニウム合金ホイールは、上記目的を達成するために、環状のフランジ部と該フランジ部の中心に形成されるボス部と前記フランジ部と前記ボス部とを連結するスポーク部とを有し、前記ボス部に車輪ボルトを挿通させるためのボルト孔と該ボルト穴に嵌装されナット座面部を形成する鋼製ブッシュとを備える車両用アルミニウム合金ホイールであって、前記鋼製ブッシュにはアルミニウムめっき皮膜が形成されているという、技術的手段を採用した。
【0009】
本願第2の発明の車両用アルミニウム合金ホイールは、上記目的を達成するために、環状のフランジ部と該フランジ部の中心に形成されるボス部と前記フランジ部と前記ボス部とを連結するスポーク部とを有し、前記フランジ部に鋼製バランスウェイトを備える車両用アルミニウム合金ホイールであって、前記鋼製バランスウェイトにはアルミニウムめっき皮膜が形成されているという、技術的手段を採用した。
【0010】
本願第1の発明および第2の発明において、前記アルミニウムめっき皮膜の少なくとも表面を含む一部をアルミニウムの陽極酸化皮膜とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本願発明に係る車両用アルミニウム合金ホイールによれば、アルミホイールと鋼製ブッシュ、鋼製バランスウェイトとは同種の金属同士の接触になり電位差が無くなるため電流が流れず局部電流腐食は生じにくい。また、ブッシュはアルミホイールに嵌装したままであり、車両へのアルミホイールの着脱を繰り返してもアルミホイールと鋼製ブッシュとの接触面は摩耗することはないからブッシュのアルミニウムめっき皮膜は安定的に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の車両用アルミニウム合金ホイールの一部である。
【図2】図1のA−A断面拡大図で、ブッシュを嵌装したアルミホイールのボルト孔の断面図である。
【図3】アルミニウムめっき皮膜を形成した鋼製ブッシュまたは鋼製バランスウェイトの一部断面図である。
【図4】アルミニウムめっき皮膜を形成し、表面を含む一部をアルミニウムの陽極酸化皮膜とした鋼製ブッシュまたは鋼製バランスウェイトの一部断面図である。
【図5】アルミニウムめっき皮膜を形成し、その全てをアルミニウムの陽極酸化皮膜とした鋼製ブッシュまたは鋼製バランスウェイトの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例により本発明を説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0014】
本発明に使用するアルミホイール、鋼製ブッシュの材質、形状は、一般に用いられるそれらの材質、形状と同一である。従って、その材質、形状についての説明は省略する。また、以下は鋼製ブッシュについて説明するが、鋼製バランスウェイトについても同様であり、製法などは省略する。
【0015】
図1は本発明の車両用アルミニウム合金ホイールの一部である。アルミホイール1は、環状のフランジ部1a、フランジ部の中心に形成されるボス部1bおよびフランジ部とボス部とを連結するスポーク部1cからなる。アルミホイール1を車両に装着するためにボス部1bには、図示しない車輪用ボルトを挿通させるための複数のボルト孔1baが形成される。アルミホイール1の外周部をなすフランジ部1aの外周面にはタイヤ4が装着される。タイヤ4が装着された状態で全体の回転バランスをとるためにフランジ部1aの外側端部(アウターフランジ部)に鋼製バランスウェイト3が装着される。図2は図1のA−A断面を拡大した図である。ボス部1bのボルト孔1baのナット座面部1bbに鋼製ブッシュ2を嵌装する。ブッシュ2に下から図示しないボルトを挿通し、このボルトに図示しないナットを螺嵌して締め込むことでアルミホイールを車両に装着する。
【0016】
先ず、アルミニウムめっき工程について説明する。この工程においては、鋼製ブッシュ(以下、単にブッシュともいう)上にアルミニウムを主成分としためっき層を形成する。このめっきとしては、電解めっきが好ましく用いられる。例えば、これに用いる液としては、ジメチルスルホン(DMSO)を溶媒とし、無水塩化アルミニウム(III)(AlCl)を溶質としたものを用いる。そのモル比はDMSO:AlClで5:1とする。これを容器内で混合し、50℃及び80℃で2時間ずつ加熱した後に110℃まで昇温することによりめっき液を作製する。その後、アルミニウム板を陽極とし、上記のブッシュをこのめっき液の中に浸漬し、陰極側として通電することによってアルミニウムめっき層を形成する。このときの温度は110℃程度とし、ブッシュの表面積で規格化した電流密度は10A/dm程度とすることが好ましい。アルミニウムめっき層の厚さは通電時間の長さを調整することにより変えることができる。なお、ブッシュのような小型のものにアルミニウムめっきを行うためには、バレルめっきが特に好ましく用いられる。この場合、多数のブッシュに対して同時にめっきを行うことが可能である。これにより鋼製ブッシュ2にアルミニウムめっき皮膜2cを一様に形成することができる(図3)。アルミニウムめっき皮膜の厚さは圧入時の剥離のし難さと密着性の良さから10〜25μmの範囲とすることが好ましい。アルミニウムめっき皮膜はブッシュ全面に形成されるが、重要なのはアルミホイールと接触するブッシュの先端部の外周面と拡径部の外周面である。これらの面は下地金属が露出することなくアルミニウムめっき皮膜で被覆されなければならない。
【0017】
このブッシュ2を、アルミホイール1のボルト穴1baに嵌装する。ブッシュ2の先端部2aがボルト穴1baに圧入され、拡径部2bがボルト穴1baのナット座面部1bbに突き当たったところでブッシュ2の嵌装が完了する。この状態でアルミホイール1(ボス部1b)と鋼製ブッシュ2とは同種の金属同士の接触になり電位差が無くなるため電流が流れにくくなり、局部電流腐食は生じにくくなる。
【0018】
次に、必要に応じて処理されるアルミニウムめっき皮膜を酸化する工程(陽極酸化工程)につき説明する。この工程は、例えば、硫酸と硫酸アルミニウムからなる溶液中で、前記のアルミニウムめっきの場合と同様に、このブッシュを陽極として通電することにより行われる。このときの温度は25℃、電流密度は0.2A/dm程度が好ましい。通電時間によって、形成される酸化アルミニウムの膜厚を調整できる。この工程も、前記のアルミニウムめっきと同様にバレルめっき装置を用いて行うことができる。ただし、アルミニウムめっきの場合にはブッシュを陰極側としていたのに対し、この場合には陽極側とする必要がある。
【0019】
このとき、先に形成されたアルミニウムめっき皮膜が酸化されることによって酸化アルミニウム層(陽極酸化皮膜)2dが形成される(図4)。陽極酸化皮膜は、アルミニウムめっき層の表面から形成されるため、表面を含むアルミニウムめっき層の一部を酸化させて形成することができる。酸化されずに残るアルミニウム層2cは鋼製ブッシュ2との接合界面を形成する(図4)。陽極酸化皮膜の厚さは酸化が進むに従って厚くなるため、最終的にはアルミニウムめっき皮膜の全ての厚さにわたって陽極酸化皮膜2dとすることも可能である(図5)。陽極酸化皮膜の厚さは絶縁性と密着性の良さから1〜25μmの範囲とすることが好ましい。
【0020】
表面に酸化アルミニウム層を形成したブッシュをアルミホイールのボルト穴に嵌装する場合、酸化アルミニウム層は絶縁性であるためブッシュとアルミホイールとの接触面においては局部電流が流れにくい。よって、より確実に局部電流腐食を防止できる。また、ブッシュはアルミホイールのボルト孔に圧入して嵌装される際に強い摩擦力を受けるが、酸化アルミニウム層は高硬度かつ下地との密着性も高いため剥離しにくい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例について述べる。
【0022】
(実施例1)
鋼製ブッシュにアルミニウムめっき皮膜を施した。このアルミニウムめっき皮膜は、電解めっき法により形成した。めっき用電解液としては、ジメチルスルホン(DMSO)を溶媒とし、無水塩化アルミニウム(III)(AlCl)を溶質としたものを用いた。そのモル比はDMSO:AlClで5:1とした。これを容器内で混合し、50℃及び80℃で2時間ずつ加熱した後に110℃まで昇温することによりめっき液を作成した。その後、アルミニウム板を陽極とし、上記のブッシュをこのめっき液の中に浸漬し、陰極側として通電することによってアルミニウムめっき層を形成した。このときの温度は110℃とし、ブッシュの表面積で規格化した電流密度を10A/dmとし、めっき時間によってアルミニウムめっき層の厚さを調整した。これにより、厚さ20μmのアルミニウムめっき皮膜をブッシュに形成した。なお、以上の工程は、バレルめっき装置において、多数のブッシュについて同時に行った。
【0023】
このブッシュを、アルミホイールの全てのボルト穴に嵌装してボルトおよびナットにより車両に装着した。JIS Z 2371で規定される塩水噴霧試験を360時間行ったところアルミホイールのボルト穴の周辺および内周面に腐食は認められなかった。
【0024】
(実施例2)
実施例1と同様にして鋼製ブッシュに厚さ20μmのアルミニウムめっき皮膜を形成した。更に、陽極酸化工程を、硫酸と硫酸アルミニウムからなる溶液中で、前記のアルミニウムめっきの場合と同様に、このブッシュを陽極として同様のバレルめっき装置を用いて行った。このときの温度は25℃、電流密度は0.2A/dmとした。通電時間によって、形成される酸化アルミニウムの膜厚を調整した。その結果、前記の厚さ20μmのアルミニウムめっき皮膜のうち、表面から厚さ10μmを陽極酸化皮膜とすることができた。
【0025】
このブッシュを実施例1と同様にして評価したところアルミホイールのボルト穴の周辺および内周面に腐食は認められなかった。
【0026】
(実施例3)
実施例1と同様にして鋼製バランスウェイトにアルミニウムめっきを施し、厚さ20μmのアルミニウムめっき皮膜を形成した。
【0027】
このバランスウェイトをアルミホイールのアウターフランジ部に取り付けた後に、実施例1と同様にして評価した。その結果、バランスウェイトを取り付けた箇所およびその周辺においてアルミホイールに腐食は認められなかった。
【0028】
(実施例4)
実施例1と同様にして鋼製バランスウェイトに厚さ20μmのアルミニウムめっき皮膜を形成した。更に、実施例2と同様にしてアルミニウムめっき皮膜の一部を陽極酸化した。その結果、前記の厚さ20μmのアルミニウムめっき皮膜のうち、表面から厚さ10μmを陽極酸化皮膜とすることができた。
【0029】
このバランスウェイトを実施例3と同様にして評価したところバランスウェイトを取り付けた箇所およびその周辺においてアルミホイールに腐食は認められなかった。
【符号の説明】
【0030】
1:アルミホイール
1a:環状のフランジ部
1b:ボス部
1ba:ボルト孔
1bb:ナット座面部
1c:スポーク部
2:鋼製ブッシュ
2a:先端部
2b:拡径部
2c:アルミニウムめっき皮膜
2d:酸化アルミニウム層(陽極酸化皮膜)
3:鋼製バランスウェイト
4:タイヤ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のフランジ部と該フランジ部の中心に形成されるボス部と前記フランジ部と前記ボス部とを連結するスポーク部とを有し、前記ボス部に車輪ボルトを挿通させるためのボルト孔と該ボルト穴に嵌装されナット座面部を形成する鋼製ブッシュとを備える車両用アルミニウム合金ホイールであって、前記鋼製ブッシュにはアルミニウムめっき皮膜が形成されていることを特徴とする車両用アルミニウム合金ホイール。
【請求項2】
前記アルミニウムめっき皮膜の少なくとも表面を含む一部をアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜とする請求項1に記載の車両用アルミニウム合金ホイール。
【請求項3】
環状のフランジ部と該フランジ部の中心に形成されるボス部と前記フランジ部と前記ボス部とを連結するスポーク部とを有し、前記フランジ部に鋼製バランスウェイトを備える車両用アルミニウム合金ホイールであって、前記鋼製バランスウェイトにはアルミニウムめっき皮膜が形成されたていることを特徴とする車両用アルミニウム合金ホイール。
【請求項4】
前記アルミニウムめっき皮膜の少なくとも表面を含む一部をアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜とする請求項3に記載の車両用アルミニウム合金ホイール。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71720(P2013−71720A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214600(P2011−214600)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)