説明

車両用灯具

【目的】 従来の車両用灯具においては電球により加熱されている灯室内と外気とに温度差が甚だしいときには、前面レンズの内壁面に結露する水分が水滴状となり曇りを生じ、これにより照度、配光特性の劣化などを生ずると共に使用者に違和感を生じさせるものとなっていた。
【構成】 前面レンズ2の内壁面に樹脂系の防曇性皮膜7を形成した車両用灯具1としたことで、前面レンズ2の内外面に著しい温度差を生じ内壁面側に結露を生ずる状態においても、この内壁面に付着する水分を防曇性皮膜7の親水性により均一な厚さの水膜状に拡散させ、曇りの発生を防止して照度低下、配光不良など車両用灯具1に性能低下を生ずることをなくすると共に、使用者に違和感を与えることもなくして課題を解決する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は前照灯或いは尾灯など車両用灯具に関するものであり、詳細には前記車両用灯具の防曇性能の向上に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の車両用灯具を前照灯90の例で示すものが図3であり、この前照灯90は、夫々が樹脂で形成されたハウジング91と前面レンズ92とで略密閉状態に灯室93が形成され、前記灯室93の内部に反射鏡94、ハロゲン電球95などが収納されているものである。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した従来の前照灯90においては前記ハロゲン電球95の点灯により灯室93内の空気は温度上昇をして、この灯室93内の水分を蒸発させ夏季、冬季など外気温の状態に係わらず比較的に高湿の状態となる。このときにもしも冬季であり外気温が低い環境下において走行を行えば前記前面レンズ92は走行風により冷却され、この結果前面レンズ92の内壁面には水滴状の結露を生じて曇るものとなり、配光特性の崩れ、照度の低下など性能上の問題点を生ずると共に、使用者に違和感を与えて商品性も低下すると云う問題点を生じ、これらの点の解決が課題とされるものとなっていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本考案は前記した従来の課題を解決するための具体的手段として、前面レンズが合成樹脂で形成された車両用灯具において、前記前面レンズの内壁面には合成樹脂系の防曇性皮膜が形成されていることを特徴とする車両用灯具を提供することで、前記した前面レンズ内壁側に曇りを生じないものとして、従来の課題を解決するものである。
【0005】
【実施例】
つぎに、本考案を図に示す一実施例に基づいて詳細に説明する。
図1に符号1で示すものは本考案に係る車両用灯具であり、この実施例においては具体的な形状として前照灯の例で示してある。ここで、前記車両用灯具1は夫々が樹脂で形成された前面レンズ2とハウジング3とで略密閉状態となるように灯室4が構成され、該灯室4内には反射鏡5などと共に発熱源である電球6が配設されるものである点は従来例のものと同様である。
【0006】
しかしながら、本考案により前記前面レンズ2の内壁面、即ち、灯室4側の面には樹脂系部材による防曇性皮膜7が形成され、この防曇性皮膜7により前記内壁面への結露の発生を防止して曇りを生ずることのないものとされている。
【0007】
以下に、前記防曇性皮膜7について更に詳細に説明を行えば、この防曇性皮膜7は前記前面レンズ2が形成された部材との密着性などを考慮されて形成されることが耐久性の面などから好ましく、具体的な例として前記前面レンズ2がアクリル樹脂で形成されているときには、前記防曇性皮膜7としては、親水基を有するアクリル系モノマーと疎水基を有するモノマーとをクラフト重合したクラフト重合体が好ましい。
【0008】
前記クラフト重合体を用いて防曇性皮膜7を形成させるときには、前記クラフト重合体をメチルセルソルブ、エチルセルソルブなどの溶剤に溶解して溶液となし、スプレー法、フローコート法など適宜な手段により前記前面レンズ2の内壁面に塗布し、50〜100℃の雰囲気中で10〜40分間ほど加熱乾燥を行うことで前記防曇性皮膜7が得られるものとなる。尚、この際にカルボキシル基を有するエポキシ樹脂、又はシリカ化合物を添加しても良い。
【0009】
また、前記前面レンズ2がポリカーボネート樹脂で形成されているときには、前記防曇性皮膜7としては、ポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとから成る架橋型ポリウレタン、及びポリアルキレンポリアミンと二塩基性カルボン酸との縮合生成物の混合物により生成することが好ましく、前記架橋型ポリウレタンと縮合生成物との配合比は重量比で1:1〜2:1の範囲が好ましい。
【0010】
前記架橋型ポリウレタンと縮合生成物との混合物により防曇性皮膜7を形成させるときには、前記架橋型ポリウレタンの水分散液中に前記縮合生成物を上記の重量比と成るように混合し、スプレー法、フローコート法など適宜な手段により前記前面レンズ2の内壁面に塗布し、100〜140℃の雰囲気中で10〜30分間ほど加熱乾燥を行うことで前記防曇性皮膜7が得られるものとなる。
【0011】
次いで、上記の構成とした本考案の車両用灯具1の作用及び効果について説明を行えば、前記前面レンズ2の内壁面に防曇性皮膜7を形成したことで、例えば寒冷時における電球6の点灯など前記前面レンズ2の内外面に大きな温度差を生ずるときには、灯室4内部の加熱により比較的に高湿となる空気は前記前面レンズ2の内壁面側、即ち、防曇性皮膜7に触れ結露を生ずるものとなるが、このときに図2に示すように付着した水分は前記防曇性皮膜7の有する親水性により水膜8状に拡散され、従来例のように水滴状となることはない。
【0012】
従って、上記の状態で前面レンズ2面を観視するときには、所謂曇りは認められないものとなり、更に前記した親水性により拡散されることで生じる水膜8の厚さも薄く且つ均一なものとなり、観視者に水膜8を生じたことも認識させないものとなり、同時に照度、配光特性などにも実質上に影響を及ぼさないものとなる。
【0013】
尚、上記の実施例においては前面レンズ2がアクリル系樹脂で形成されるときにはクラフト重合体、ポリカーボネート樹脂で形成されるときには架橋型ポリウレタンと縮合生成物との混合物で防曇性皮膜7を形成する例で説明したが、本考案を成すための考案者による検討の結果ではアクリル系樹脂の前面レンズ2に架橋型ポリウレタンと縮合生成物との混合物の防曇性皮膜7を組合せた場合にも、或いはポリカーボネート樹脂の前面レンズ2にクラフト重合体の防曇性皮膜7を組合せた場合にも、夫々に実用性に不足のない効果が得られることが確認されている。
【0014】
【考案の効果】
以上に説明したように本考案により、前面レンズの内壁面に樹脂系の防曇性皮膜を形成した車両用灯具としたことで、前記前面レンズの内外面に著しい温度差を生じ内壁面側に結露を生ずる状態においても、この内壁面に付着する水分を前記防曇性皮膜の親水性により均一な厚さの水膜状に拡散させるものとなり、曇りの発生を防止して照度低下、配光不良など車両用灯具に性能低下を生ずることをなくすると共に、使用者に違和感を与えることもなくし、この種の車両用灯具の品質向上と商品性の向上に極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本考案に係る車両用灯具の一実施例を示す断面図である。
【図2】 同じ実施例の作用を示す要部の断面図である。
【図3】 従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
1……車両用灯具
2……前面レンズ
3……ハウジング
4……灯室
5……反射鏡
6……電球
7……防曇性皮膜
8……水膜

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 前面レンズが合成樹脂で形成された車両用灯具において、前記前面レンズはアクリル系樹脂で形成され、該前面レンズの内壁面には親水基を有するアクリル系モノマーに疎水基を有するモノマーをクラフト重合したクラフト重合体から成る防曇性皮膜が形成されていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】 前記防曇性皮膜はポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとから成る架橋型ポリウレタン、及びポリアルキレンポリアミンと二塩基性カルボン酸との縮合生成物の混合物で成ることを特徴とする請求項1記載の車両用灯具。
【請求項3】 前面レンズが合成樹脂で形成された車両用灯具において、前記前面レンズはポリカーボネート系樹脂で形成され、該前面レンズの内壁面にはポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとから成る架橋型ポリウレタン、及びポリアルキレンポリアミンと二塩基性カルボン酸との縮合生成物の混合物で成る防曇性皮膜が形成されていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項4】 前記防曇性皮膜は親水基を有するアクリル系モノマーに疎水基を有するモノマーをクラフト重合したクラフト重合体から成ることを特徴とする請求項3記載の車両用灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】実開平5−68006
【公開日】平成5年(1993)9月10日
【考案の名称】車両用灯具
【国際特許分類】
【出願番号】実願平4−16481
【出願日】平成4年(1992)2月21日
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【出願人】(591113356)サンヨ−工業株式会社 (1)