説明

車両用空調装置

【課題】圧縮機停止時にも冷房が可能でありながら、装置の負荷を軽減可能な車両用空調装置を提供すること。
【解決手段】冷媒通路10に圧縮機20、凝縮器30、減圧器40、蒸発器50を備えた冷凍サイクル60と、蒸発器50の出口側に設けられて冷媒を貯留可能なアキュームレータ70と、を備え、冷媒通路10の冷媒を前記アキュームレータ70へ導く蒸発器バイパス通路11と、減圧器40の下流の第1冷媒遮断弁81と、蒸発器バイパス通路11に設けた第2冷媒遮断弁82と、車両の走行状態を検出する走行状態検出部90の検出に基づいてアイドリングストップを実行する直前の状態であるか否かを判定する直前判定部と、を備え、空調制御回路100は、直前判定部が、直前の状態と判定した際に蒸発器バイパス通路11を介して液冷媒をアキュームレータ70へ導くよう両冷媒遮断弁81,82を作動させることを特徴とする車両用空調装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置として、アイドリングストップ時によりエンジンが停止して圧縮機の作動が停止しても冷房を続行可能としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来の車両用空調装置は、蒸発器と圧縮機との間の冷媒通路に、蓄冷材を備えたアキュームレータを配置し、走行中(圧縮機の作動中)にアキュームレータ内に液冷媒を蓄えるとともに蓄冷する。そして、停車時(圧縮機の停止中)に、蓄冷材に蓄えた冷力で低圧側の冷媒圧力を低く保ちながら、アキュームレータの液冷媒をポンプにより蒸発器の入口側に移送して、蒸発器による空調空気の冷却を継続できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−320842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、アキュームレータに、常時、液状の冷媒を貯留するため、このようなアキュームレータを設けないものと比較して冷媒流量が増し、その分、装置の負荷が増し、エネルギー消費量の増加、燃費の悪化を招いていた。
【0006】
本発明は、上述の従来の問題に着目して成されたもので、圧縮機停止時にも冷房が可能でありながら、装置の負荷を軽減可能な車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために請求項1に係る発明は、冷媒通路に圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を備えた冷凍サイクルと、前記冷媒通路の前記蒸発器の出口側に設けられて液冷媒を貯留可能なアキュームレータと、車両停止時に動力源を停止させるアイドリングストップ時に、前記アキュームレータに貯留した前記液冷媒を用いて前記蒸発器による冷却継続処理を行う制御部と、を備えた車両用空調装置であって、前記冷媒通路の液冷媒を前記アキュームレータへ導くガイド装置と、前記アイドリングストップを実行する直前の状態であるか否かを判定する直前判定部と、を備え、前記制御部は、前記直前判定部が、前記直前の状態と判定した際に、前記液冷媒を前記アキュームレータへ導くよう前記ガイド装置を作動させることを特徴とする車両用空調装置とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用空調装置では、直前判定部がアイドリングストップを実行する直前の状態と判定すると、制御部がガイド装置を制御して、液冷媒をアキュームレータへ導く。
したがって、アイドリングストップ時に、アキュームレータに貯留された冷媒を用いて蒸発器による冷却継続を行うことができる。
本発明では、このように、アイドリングストップの直前状態と判定した時点で、低温低圧で乾き度の低い冷媒をアキュームレータに導いて貯留するため、アキュームレータに、常時、冷媒を貯留する必要が無くなり、その分、装置の負荷を軽減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は実施例1の車両用空調装置を示す回路図である。
【図2】図2は実施例1の車両用空調装置に用いたアキュームレータ70を示す断面である。
【図3】図3は実施例1の車両用空調装置における走行モード判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は実施例1の車両用空調装置における冷却継続処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は実施例1の車両用空調装置における冷媒の流れの説明図であり、(a)は車両停止移行状態検出時の冷媒の流れを示し、(b)は冷却継続時の冷媒の流れを示している。
【図6】図6は実施例2の車両用空調装置を示す回路図である。
【図7】図7は実施例3の車両用空調装置を示す回路図である。
【図8】図8は実施例3の車両用空調装置における冷媒の流れの説明図であり、(a)は車両停止移行状態検出時の冷媒の流れを示し、(b)は冷却継続時の冷媒の流れを示している。
【図9】図9は実施例4の車両用空調装置を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の実施の形態の車両用空調装置は、冷媒通路(10)に圧縮機(20)、凝縮器(30)、減圧器(40)、蒸発器(50)を備えた冷凍サイクル(60)と、冷媒通路(10)の蒸発器(50)の出口側に設けられて液冷媒を貯留可能なアキュームレータ(70)と、車両停止時に動力源を停止させるアイドリングストップ時に、アキュームレータ(70)に貯留した液冷媒を用いて蒸発器(50)による冷却継続処理を行う制御部(100)と、を備えた車両用空調装置であって、冷媒通路(10)の液冷媒をアキュームレータ(70)へ導くガイド装置(11,310,81,82,381,382,440)と、アイドリングストップを実行する直前の状態であるか否かを判定する直前判定部(90,100)と、を備え、制御部(100)は、直前判定部(90,100)が、直前の状態と判定した際に、液冷媒をアキュームレータ(70)へ導くようガイド装置(11,310,81,82,381,382,440)を作動させることを特徴とする車両用空調装置である。
【実施例1】
【0011】
以下に、図1〜図5に基づいて、実施例1の車両用空調装置について説明する。
(構成)
まず、実施例1の車両用空調装置の構成について説明する。
実施例1の車両用空調装置は、図1に示すように、冷媒通路10に、圧縮機20、凝縮器30、減圧器40、蒸発器50を順に配置した冷凍サイクル60を備えている。
さらに、冷媒通路10において前記蒸発器50の出口側に冷媒を貯留可能なアキュームレータ70が設けられている。
【0012】
圧縮機20は、車両のエンジンルーム(図示省略)に配置されてエンジン(図示省略)により駆動され、冷媒を高温高圧に圧縮して吐出する。
凝縮器30は、エンジンルーム(図示省略)に配置されて、圧縮機20により高温高圧に圧縮された冷媒を、外気との熱交換により冷却して液化する。なお、凝縮器30には、リキッドタンク30aが設けられ、内部には、冷媒を濾過するフィルタ(図示省略)が設けられている。
【0013】
減圧器40は、本実施例1では、蒸発器50の出口側の冷媒温度に感応して変位するセンサ部41と、このセンサ部41の変位に基づいて蒸発器50の出口側の冷媒の過熱度を調節するように弁開度を調節する膨張弁42と、を備えている。したがって、膨張弁42では、センサ部41で検出される蒸発器50の出口側の冷媒温度に応じ、蒸発器50の出口側の冷媒の過熱度を所定値(例えば、5〜10℃)とするように、その開度が調節されて、凝縮器30から送られる高圧の液状冷媒の減圧と流量制御を行い、低温・低圧の液状冷媒とする。
【0014】
蒸発器50は、車室内に配置された空調ユニット(図示省略)内に配置され、空調ユニット内を流れる車室空気と熱交換を行うことで、低温・低圧の液状冷媒を蒸発させて、低温・低圧のガス冷媒とするものであり、これにより車室空気を冷却して車室の冷房を行う。
【0015】
アキュームレータ70は、蒸発器50の入口側と蒸発器バイパス通路11により接続されており、かつ、その内部にはアキュームレータ70に貯留された冷媒を蒸発器バイパス通路11に吐出する冷媒ポンプ80が設けられている。
【0016】
ここで、アキュームレータ70の構成を図2に基づいて簡単に説明する。
このアキュームレータ70は、冷媒を貯留可能な筒状のタンク部71と、このタンク部71の外周に設けられ、タンク部71に貯留された冷媒と熱交換可能な蓄冷材72とを備えている。なお、蓄冷材72としては、水と高吸水性樹脂(ポリアクリル酸ナトリウム)を含むものや、パラフィンなど周知のものを用いる。
また、図示のように、蒸発器50の出口側に接続されて冷媒通路10の一部を形成する管12がタンク部71の上部に開口され、一方、圧縮機20の吸入側に接続されて冷媒通路10の一部を形成する管13が、タンク部71の上部に開口されている。なお、管13は、タンク部71の底部で湾曲されてタンク部71の上部から外部に導出され、湾曲部分には、液状の冷媒を吸い込むための吸入孔13aが穿設されている。
【0017】
タンク部71の底部には、冷媒ポンプ80が設けられている。この冷媒ポンプ80に前述の蒸発器バイパス通路11が接続されて、冷媒通路10の減圧器40と蒸発器50との間に接続されている。
【0018】
図1に戻り、冷媒通路10において減圧器40と蒸発器50との間で、蒸発器バイパス通路11の接続位置よりも上流位置に、通常は開弁された第1冷媒遮断弁81が設けられ、蒸発器バイパス通路11に通常は閉弁している第2冷媒遮断弁82が設けられている。また、圧縮機20の入口側に、冷媒の流れをアキュームレータ70側から圧縮機20側への方向のみに制限する逆止弁83が設けられている。
【0019】
これら両冷媒遮断弁81,82の開閉の切り換えおよび冷媒ポンプ80の作動は、車両用空調装置の作動を制御する空調制御回路(制御部)100により制御される。
この空調制御回路100は、車両用空調装置の制御に必要な車室温度に関連した検出値が各種センサ(図示省略)から入力されて送風温度などを制御する周知の制御に加え、いわゆるアイドリングストップにより図外のエンジンが停止して圧縮機20が停止された状態で、アキュームレータ70に貯留した液冷媒を用いて蒸発器50における冷却を継続させる冷却継続処理を実行する。
【0020】
なお、アイドリングストップは、駐停車や信号待ちを行っている間にエンジン停止を行うものであり、一時的な停車を検知してエンジン停止を行い、発進操作を検知してエンジン(図示省略)の再始動を行う周知の制御である。また、本実施例1では、このアイドリングストップを実行する制御部は、アイドリングストップを実行している間、空調制御回路100に向けてアイドリングストップ信号astを出力しているものとする。
【0021】
また、空調制御回路100は、上述のアイドリングストップが実行される際に、その実行直前であることを判定するために、走行状態検出部90から走行状態に関する信号が入力される。この走行状態検出部90として、本実施例1では車速に応じた車速信号を出力する車速センサ91と、制動操作が行われたことを示す信号を出力するブレーキスイッチ92を備えている。
【0022】
空調制御回路100は、上述の冷却継続処理を実行するのにあたり、図3の走行モード判定処理を実行し、走行モードの判定を行った後、図4に示す冷却継続処理を実行する。
【0023】
ここで、走行モード判定処理は、アイドリングストップが実行される直前かどうかの判定として、アイドリングストップが実行される停車状態への移行中か否かを判定するもので、停車状態への移行中と判定した場合は、アイドリングストップ移行フラグをONにセットし、それ以外では、アイドリングストップ移行フラグをOFFにセットする。
【0024】
以下、この走行モード判定処理を図3のフローチャートに基づいて説明する。なお、この走行モード判定処理は、走行開始時点から実行され、初期設定時にはアイドリングストップ移行フラグはOFFにセットされている。
まず、最初のステップS11では、車速センサ91から車速信号、ブレーキスイッチ92からのブレーキ信号、アイドリングストップを実行する制御部からのアイドリングストップ信号を読み込み、ステップS12に進む。
【0025】
ステップS12では、ブレーキスイッチ92(ブレーキ信号)がON、すなわち制動操作が行われたか否か判定し、ONの場合はステップS13に進み、OFFの場合はステップS18に進む。
ブレーキスイッチ92がONの場合に進むステップS13では、車速信号に基づいて車速と減速度とを演算し、ステップS14に進む。
【0026】
ステップS14では、ステップS13で演算した減速度(−G)があらかじめ設定された減速度判定値(−Ga)以上(絶対値が以上)であるか否か判定し、減速度判定値(−Ga)以上の場合はステップS15に進み、減速度判定値(−Ga)未満の場合はステップS18に進む。
【0027】
減速度(−G)が減速度判定値(−Ga)以上の場合に進むステップS15では、車速Vがあらかじめ設定された車速判定値Va以下であるか否か判定し、車速判定値Va以下の場合はステップS16に進み、車速Vが車速判定値Vaよりも大きい場合はステップS18に進む。
【0028】
これら、ステップS13〜ステップS15では、車両が間もなく停車する状態であること、すなわち、アイドリングストップが実行される直前であることを判定しているものであり、前述の減速度判定値−Gaおよび車速判定値Vaは、運転者が高い確率で間もなく停車させようとしていると判断できる値に設定されている。
【0029】
車速Vが車速判定値Va以下の場合に進むステップS16では、アイドリングストップ移行フラグをONにセットした後、ステップS17に進む。すなわち、アイドリングストップ移行フラグは、間もなく停車する走行状態でONにセットされる。
【0030】
アイドリングストップ移行フラグをONにセットした後に進むステップS17では、アイドリングストップ信号astがONとなったか否か、すなわち、アイドリングストップによってエンジン(図示省略)およびこれに駆動される圧縮機20が停止されたか否か判定し、ast=ONでの場合はステップS18に進み、ast=OFFの場合は、ステップS15に戻る。
アイドリングストップ信号astがONとなった場合に進むステップS18では、アイドリングストップ移行フラグをOFFにセットする。
【0031】
次に、図4のフローチャートに基づいて、冷却継続処理の流れを説明する。なお、この冷却継続処理は、走行開始時からスタートし、初期設定では、第1冷媒遮断弁81は開弁状態であり、第2冷媒遮断弁82は閉弁状態であり、冷媒ポンプ80は停止状態である。
ステップS21では、アイドリングストップ移行フラグとアイドリングストップ信号を読み込み、ステップS22に進む。
【0032】
ステップS22では、アイドリングストップ移行フラグがONであるか否か判定し、アイドリングストップフラグ=ONの場合はステップS23に進み、アイドリングストップフラグ=OFFの場合はステップS28に進む。
【0033】
アイドリングストップフラグ=ONの場合に進むステップS23では、第1冷媒遮断弁81は開弁状態に保ち、第2冷媒遮断弁82を開弁し、冷媒ポンプ80は停止状態(OFF)を保ってステップS24に進む。
【0034】
ステップS24では、アイドリングストップ信号astがONとなったか否か(アイドリングストップが開始されたか否か)判定し、アイドリングストップ信号astの入力時にはステップS25に進み、アイドリングストップ信号=OFFの場合はステップS23からの処理を繰り返す。
【0035】
ステップS24においてアイドリングストップ信号=ONと判定された場合に進むステップS25では、第1冷媒遮断弁81を閉弁させ、第2冷媒遮断弁82は開弁状態に保ち、冷媒ポンプ80をONとしてアキュームレータ70に貯留された冷媒を蒸発器バイパス通路11から蒸発器50に移送させる駆動を実行させた後、ステップS26に進む。
【0036】
冷媒ポンプ80の駆動後に進むステップS26では、アイドリングストップ信号astがOFFとなったか否か判定し、ast=OFFでステップS28に進み、ast=ONでステップS27に進む。
【0037】
冷媒ポンプ80の駆動後にast=ONで進むステップS27では、冷却継続処理を終了する判定を行うための終了条件が成立したか否か判定し、終了条件が成立した場合は、ステップS28に進み、終了条件が成立しない場合はステップS25に戻る。なお、冷却継続処理は、アイドリングストップが終了した場合も終了されるが、このステップS27における終了条件は、冷却の継続が困難であることを示す終了条件であって、例えば、あらかじめ設定された時間(例えば、1分、あるいは1〜数分程度の時間)が経過した場合や、蒸発器50における冷媒温度や冷媒圧力を検出し、冷媒温度や冷媒圧力が冷却継続不能となったことを示す値となった場合に終了と判定することができる。
【0038】
ステップS26においてアイドリングストップ信号=OFFであるか、ステップS27においてタイマのカウント値が設定時間を超えた場合に進むステップS28は、冷却継続処理を終了して初期設定に戻す。すなわち、第1冷媒遮断弁81を開弁状態とし、第2冷媒遮断弁82を閉弁状態とし、冷媒ポンプ80を停止(OFF)とする。
【0039】
(作用)
次に、実施例1の作用を説明する。
<通常走行時(非アイドリングストップ時)>
通常走行時には、第1冷媒遮断弁81は開弁状態、第2冷媒遮断弁82は閉弁状態、冷媒ポンプ80は停止状態となっている。これは、アイドリングストップ移行フラグ=OFFの初期設定に基づき、図4のステップS21→S22→S28の処理が実行されて、各冷媒遮断弁81,82および冷媒ポンプ80が初期設定状態に保たれることによる。
【0040】
このような制御状態では、車両用空調装置では、一般的な冷却作動が行われ、冷媒は、冷媒通路10を図1の矢印に示す経路で循環される。
すなわち、圧縮機20は、冷媒を高温高圧に圧縮して吐出する。この高温高圧の冷媒は、凝縮器30において外気と熱交換(冷却)されて液化して、減圧器40に送られる。減圧器40では、冷媒が減圧されて低温・低圧の液状となり、さらに、冷媒は、蒸発器50において、車室内の空気と熱交換され、車室内空気を冷却するとともに、蒸発して低温・低圧のガス冷媒となり、アキュームレータ70を通って圧縮機20に吸引される。
【0041】
また、アキュームレータ70では、蒸発器50において蒸発して低温・低圧のガス状となった冷媒は、アキュームレータ70を通過する際に、蓄冷材72から吸熱して蓄冷材72を冷却する。
【0042】
さらに、本実施例1では、減圧器40として、冷媒温度感応型の膨張弁42を備え、その開度を、蒸発器50の出口側の冷媒温度に応じて調整しているため、蒸発器50の出口側が気相にコントロールされ、その分、装置の負荷が軽減される。このため、アキュームレータ70には、液状の冷媒は殆ど貯留されない。
【0043】
<アイドリングストップ移行時>
アイドリングストップ移行時、すなわち、運転者が制動操作を行って、車両が間もなく停車する状態になり、車両の減速度および車速が所定以下となったときには、走行モード判定処理では、図3のステップS12→S13→S14→S15→S16の流れとなって、アイドリングストップ移行フラグがONに設定され、アイドリングストップに移行中であると判定される。
【0044】
このアイドリングストップ移行フラグがONとなることにより、冷却継続処理では、図4のステップS22→S23の処理が実行され、第2冷媒遮断弁82が開弁され、かつ、第1冷媒遮断弁81は開弁状態に維持されるとともに、冷媒ポンプ80は停止状態に維持される。
【0045】
したがって、減圧器40を通過した液冷媒は、図5(a)において矢印で示すように蒸発器50を迂回することで流路抵抗の少ない蒸発器バイパス通路11を通ってアキュームレータ70へ短時間に供給されて貯留される。
【0046】
<アイドリングストップ時>
その後、車両が停止状態となってアイドリングストップが実行されると、図4のステップS24→S25の処理に基づいて、第1冷媒遮断弁81が閉弁され、第2冷媒遮断弁82は開弁状態に維持され、冷媒ポンプ80が駆動される。
したがって、アキュームレータ70に溜められた液冷媒は、図5(b)において矢印で示すように、冷媒ポンプ80により蒸発器50に移送され、蒸発器50における液冷媒の蒸発による冷却が継続される。
このとき、圧縮機20の入口側に逆止弁83が設けられ、かつ、第1冷媒遮断弁81が閉弁されていることから、圧縮機20および凝縮器30側の高圧の冷媒と、蒸発器50およびアキュームレータ70側の低圧の冷媒とは、圧力差による冷媒の移動が規制され、蒸発器50側では低圧に維持される。
また、アキュームレータ70では、蒸発器50で気化した冷媒が流入するが、蓄冷材72により吸熱して凝縮させるため、低圧冷媒の圧力上昇を抑えることができ、これによっても、蒸発器50における冷却力を、より長く維持することができる。
【0047】
その後、車両の発進操作が実行されてアイドリングストップが終了するか、あらかじめ設定された終了条件が成立すると、両冷媒遮断弁81,82および冷媒ポンプ80は、初期状態に戻って、アキュームレータ70の冷媒による冷却は停止される。
【0048】
(実施例1の効果)
以上説明した実施例1の車両用空調装置は、以下に列挙する効果を奏する。
a)エンジンおよびこれにより駆動する圧縮機20が停止するアイドリングストップ時に蒸発器50による冷却継続を行う場合、これに先立ち、車両が間もなく停車しアイドリングストップに移行すると判定した時点で、第2冷媒遮断弁82を開弁し、減圧器40を通過した低温低圧の冷媒をアキュームレータ70に導くようにした。このため、アキュームレータ70に、常時、冷媒を貯留する必要が無くなり、その分、減圧器40により冷媒流量をコントロールして装置の負荷を軽減できる。
【0049】
b)蒸発器バイパス通路11は、蒸発器50と並列に設けたため、蒸発器バイパス通路11を用いてアキュームレータ70に液冷媒を導く際の抵抗を低く抑えて、短時間に効率良く冷媒をアキュームレータ70に移送させることができる。
【0050】
c)蒸発器50の入口側の蒸発器バイパス通路11の接続位置の上流に第1冷媒遮断弁81を設けるとともに、蒸発器バイパス通路11に第2冷媒遮断弁82を設けたため、アイドリングストップ移行時に、両冷媒遮断弁81,82を開弁状態として、冷媒を確実かつ効率的にアキュームレータ70へ導くことができる。また、圧縮機20の停止時に、アキュームレータ70に貯留した冷媒を用いて冷却を継続させる際には、第1冷媒遮断弁81を閉弁させて、減圧器40の上流の冷媒が流入して高圧になるのを抑制し、冷却継続時間の延長を図ることができる。
【0051】
d)空調制御回路100は、車速センサ91およびブレーキスイッチ92からの信号に基づいて、車両が間もなく停止する状態(すなわち、アイドルストップ実行の直前)を判定するようにした。このため、アイドリングストップの実行直前には、確実に冷媒をアキュームレータ70に移送することができる。
【0052】
e)アキュームレータ70には、蓄冷材72を設けたため、蓄冷材72を設けていないものと比較して、圧縮機20の停止時の冷却継続時間の延長を図ることが可能となる。
【0053】
(他の実施例)
以下に、他の実施例について説明するが、これら他の実施例は、実施例1の変形例であるため、その相違点についてのみ説明し、実施例1あるいは他の実施例と共通する構成については同じ符号を付けることで説明を省略するとともに、作用効果についても実施例1と共通する説明は省略する。
【実施例2】
【0054】
次に、図6に示す実施例2の車両用空調装置について説明する。
この実施例2は、アキュームレータ70の配置が実施例1とは異なり、蒸発器50の出口側でアキュームレータ70に接続される管12は、減圧器40のセンサ部41の下流に配置された構造となっている。したがって、通常走行時には、アキュームレータ70には、液冷媒が貯留されにくく、いっそう装置の負荷軽減を図ることが可能である。
なお、他の構成、およびその作用効果については、実施例1と同様であるので説明を省略する。
したがって、実施例2にあっても、実施例1と同様のa)〜e)の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0055】
次に、図7および図8に基づいて実施例3の車両用空調装置について説明する。
実施例3は、減圧器340として、実施例1と同様に、蒸発器50の出口側の冷媒温度に感応して変位するセンサ部341と、このセンサ部341の変位に基づいて蒸発器50の出口側の冷媒の過熱度を調節するように弁開度を調節する膨張弁342と、を備えた冷媒温度感応型のものを用いている。
【0056】
さらに、実施例3では、アキュームレータ70に冷媒を導くバイパス通路として、冷媒通路10に対し減圧器340に並列に減圧器バイパス通路310が設けられている。なお、実施例3では、蒸発器バイパス通路11は、アキュームレータ70に貯留された液冷媒を蒸発器50の入口側に移送するのに使用され、蒸発器バイパス通路11には、冷媒の流れる方向をアキュームレータ70側から蒸発器50側のみに制限する逆止弁384が設けられている。
【0057】
そして、実施例3では、ガイド装置として、冷媒通路10の減圧器340と蒸発器50との間に設けられた第1冷媒遮断弁381と、減圧器バイパス通路310に直列に配置された開度固定型の第2減圧器320および第2冷媒遮断弁382を備えている。
【0058】
また、空調制御回路300は、通常走行状態(実施例1のステップS28が実行される状態)では、第1冷媒遮断弁381を開弁させるとともに、第2冷媒遮断弁382を閉弁させ、アイドリングストップ移行状態(実施例1のステップS23が実行される状態)では、第1冷媒遮断弁381の開弁状態を保ちながら第2冷媒遮断弁382を開弁させ、アイドリングストップ状態(実施例1のステップS25が実行される状態)では、第1冷媒遮断弁381および第2冷媒遮断弁382を閉弁させる。
【0059】
したがって、通常走行時は、実施例1と同様に、以下のように冷媒が移送されて、蒸発器50による冷却が行われる。
すなわち、圧縮機20が駆動している場合の冷却時には、冷媒は、図7の矢印に示すように、圧縮機20から凝縮器30を経て、減圧器340において膨張弁342を通過し、さらに、第1冷媒遮断弁381から蒸発器50を通り、さらに、アキュームレータ70を通り圧縮機20に吸入される。このとき、膨張弁342により冷媒の流量がコントロールされて、アキュームレータ70への液冷媒の貯留が制限され、装置の負荷を軽減することが可能である。
【0060】
また、アイドリングストップ移行時(間もなく車両停止する)と判定された場合(ステップS22→S23の処理)、両冷媒遮断弁381,382が開弁される。この場合、図8(a)に示すように、膨張弁342に加えて減圧器バイパス通路310を通って通常よりも増量された冷媒が蒸発器50を介してアキュームレータ70に移送され、アキュームレータ70にて液化されて貯留される。したがって、冷媒温度感応型の膨張弁342を備えていても、減圧器バイパス通路310を介して、短時間にアキュームレータ70へ液化した冷媒を供給可能である。
【0061】
その後、アイドリングストップが実行されると(実施例1においてステップS25の処理が実行される状態)、両冷媒遮断弁381,382が閉弁されるとともに、冷媒ポンプ80が駆動され、蒸発器50による冷却の継続が行われる。
加えて、実施例3にあっても、上記実施例1のa)d)e)効果を得ることができる。
【実施例4】
【0062】
次に、実施例4の車両用空調装置を図9に基づいて説明する。
この実施例4は、ガイド装置として、センサ部441における蒸発器50の出口側の冷媒温度に応じて開度を制御可能であるとともに、空調制御回路400の制御信号によっても開度を制御可能とした膨張弁442を備えた減圧器440を用いている。
【0063】
また、空調制御回路400は、減圧器440を以下のように制御する。
すなわち、通常走行時(実施例1においてステップS28の処理を実行する状態)では、膨張弁442の開度を、センサ部441の感応状態に応じた開度として、制御信号は出力しない。この場合、実施例3の図7と同様に、蒸発器50は通常の冷却を行い、また、アキュームレータ70では蓄冷材72に蓄冷されるとともに、液冷媒の貯留は制限される。
アイドリングストップ移行状態(間もなく停車する状態であって実施例1においてステップS23の処理を実行する状態)では、膨張弁442の開度をセンサ部441の感応状態にかかわらずあらかじめ設定された開度とする。この場合、膨張弁442が、アキュームレータ70へ液冷媒を導くバイパス通路として機能し、アキュームレータ70へ通常よりも大量の液冷媒が蒸発器50を介して供給されて貯留される。
【0064】
車両が停止してアイドルストップが実行された場合は、センサ部441における冷媒温度にかかわらず、膨張弁442を全閉として、冷媒ポンプ80を駆動させる。この場合、実施例3の図8(b)で示す状態と同様に、アキュームレータ70に貯留された液冷媒が蒸発器50に供給されて、冷却の継続が行われる。
【0065】
この実施例4にあっても、実施例3と同様の作用効果が得られ、さらに、弁の数やバイパス通路の数を削減して、構造のコンパクト化を図ることができる。
【0066】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態および実施例1〜実施例4について詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態および実施例1〜実施例4に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0067】
例えば、圧縮機の動力源は、エンジンに限らず、電動機などの他の動力源を用いてもよい。例えば、電動車両などにおいても、圧縮機を停止させた状態で冷房を行なうことができる。
【0068】
また、実施例1では、アキュームレータにおいて、蓄冷材をタンク部の外側に設けた例を示したが、蓄冷材は、タンク部の内部に設けてもよい。さらには、アキュームレータには、蓄冷材を設けなくてもよい。この場合でも、アキュームレータに、アイドリングストップを行なっている間、冷房を行うことができる冷媒量を確保することで、冷房を維持できる。
【0069】
また、実施例1では、ステップS25において第1冷媒遮断弁を閉じる判定を、アイドルストップ信号がONか否かで判定するようにしたが、これと並列に、あらかじめ設定された閉弁条件が成立したか否かで、第1冷媒遮断弁を閉じるようにしてもよい。この閉弁条件としては、アキュームレータ70に冷却継続に必要量の冷媒が貯留された判定できた場合としても良く、例えば、アキュームレータに貯留冷媒量を検出する冷媒センサを設置し、その検出量が必要量を超えた場合や、第2冷媒遮断弁を開弁してから、必要量が流れるのに必要な時間が経過した場合や、蒸発器バイパス通路11に流量を検出する流量センサを設け、その検出値が必要量を検出した場合などとすることができる。
【0070】
また、実施例では、アイドリングストップの直前の状態の判定として、車両が間もなく停止する状態を検出するようにしたが、これに限定されるものではなく、車両停止直後を直前の状態と判定するようにしてもよい。なお、この場合、車両停止の検出により冷媒をアキュームレータへの移送を開始し、液冷媒がアキュームレータに貯留後、アイドリングストップを実行するようにする。また、この場合、アイドリングストップの開始タイミングは、従来と同様のタイミングであってもよいし、従来よりも僅かに開始タイミングを遅らせてもよい。あるいは、アイドリングストップの直前の状態の判定には、いわゆるVICSと呼ばれる外部からの交通情報や、ナビゲーション装置や車両前方を撮影する装置などから得られる情報を利用してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 冷媒通路
11 蒸発器バイパス通路(ガイド装置)
20 圧縮機
30 凝縮器
40 減圧器
50 蒸発器
60 冷凍サイクル
70 アキュームレータ
80 冷媒ポンプ
81 第1冷媒遮断弁(ガイド装置)
82 第2冷媒遮断弁(ガイド装置)
90 走行状態検出部(直前判定部)
100 空調制御回路(直前判定部:制御部)
300 空調制御回路(直前判定部:制御部)
310 減圧器バイパス通路(ガイド装置)
320 第2減圧器
340 減圧器
381 第1冷媒遮断弁(ガイド装置)
382 第2冷媒遮断弁(ガイド装置)
400 空調制御回路(直前判定部:制御部)
440 減圧器(ガイド装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒通路に圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を備えた冷凍サイクルと、
前記冷媒通路の前記蒸発器の出口側に設けられて液冷媒を貯留可能なアキュームレータと、
車両停止時に動力源を停止させるアイドリングストップ時に、前記アキュームレータに貯留した前記液冷媒を用いて前記蒸発器による冷却継続処理を行う制御部と、
を備えた車両用空調装置であって、
前記冷媒通路の前記液冷媒を前記アキュームレータへ導くガイド装置と、
前記アイドリングスップを実行する直前の状態であるか否かを判定する直前判定部と、
を備え、
前記制御部は、前記直前判定部が、前記直前の状態と判定した際に、前記液冷媒を前記アキュームレータへ導くよう前記ガイド装置を作動させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記直前判定部は、車両の走行状態を検出する走行状態検出部からの入力に基づいて、車両停止への移行状態から車両停止直後までの範囲内のあらかじめ設定された車両状態を検出した際に、前記直前の状態と判定することを特徴とする請求項1に記載の前車両用空調装置。
【請求項3】
前記ガイド装置として、前記蒸発器と並列に前記冷媒通路と前記アキュームレータとを接続する蒸発器バイパス通路と、前記冷媒通路において前記蒸発器バイパス通路の接続部と前記減圧器との間に設けられた第1冷媒遮断弁と、前記蒸発器バイパス通路に設けられた第2冷媒遮断弁と、を備え、
前記制御部は、
前記走行状態検出部が通常走行状態を検出したときに、前記第1冷媒遮断弁を開弁させるとともに前記第2冷媒遮断弁を閉弁させ、
前記直前判定部が前記直前の状態と判定したときに、前記第1冷媒遮断弁の開弁状態を維持して前記第2冷媒遮断弁を開弁させ、
前記アイドリングストップ時に、前記第2冷媒遮断弁の開弁状態を維持して前記第1冷媒遮断弁を閉弁させることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記減圧器として、前記冷媒温度に応じて開度を変更する温度感応型の膨張弁を備え、
前記ガイド装置として、前記減圧器を迂回する減圧器バイパス通路と、前記冷媒通路の前記減圧器と前記蒸発器との間に設けられた第1冷媒遮断弁と、前記減圧器バイパス通路に配置された開度固定型の第2減圧器および第2遮断弁と、を備え、
前記制御部は、
前記走行状態検出部が通常走行状態を検出したときに、前記第1冷媒遮断弁を開弁させるとともに前記第2冷媒遮断弁を閉弁させ、
前記直前判定部が前記直前の状態と判定したときに、前記第1冷媒遮断弁の開弁状態を維持して前記第2冷媒遮断弁を開弁させ、
前記アイドリングストップ時に、前記第1冷媒遮断弁および前記第2冷媒遮断弁を閉弁させることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記ガイド装置として、冷媒温度に応じて開度を変更可能であるとともに、前記制御部の制御信号に応じて開度を制御可能とした膨張弁を備え、
前記制御部は、
前記走行状態検出部が通常走行状態を検出したときに、前記減圧器の開度を、冷媒温度に応じた開度とし、
前記直前判定部が前記直前の状態と判定したときに、前記減圧器の開度を、前記冷媒温度にかかわらず、前記冷媒を前記アキュームレータへ供給するためにあらかじめ設定された開度とし、
前記アイドリングストップ時に、前記冷媒温度にかかわらず、前記減圧器を全閉とすることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記アキュームレータが蓄冷機能を有していることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1124(P2013−1124A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130486(P2011−130486)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】