説明

軟質フッ素樹脂の製造方法

【目的】軟質フッ素樹脂の本来有する柔軟性を損なわず、熱安定性を向上させた軟質フッ素樹脂の製造法。
【構成】含フッ素モノマーを含む一種以上のモノマーと、分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有するモノマーとを共重合させ、ガラス転移温度が室温以下のフッ素ポリマーを製造、該ポリマーにフッ化ビニリデンモノマーをグラフト重合した、軟質フッ素樹脂を100〜160℃の温度で熱処理あるいは水熱処理を行う。
【効果】本発明方法により得られた樹脂は、熱安定性に優れ押出成形時の環境改善および機器の腐食を防止し、長時間の押出成形を可能にすると共に樹脂の着色防止、微妙な着色の色調調整を容易にまた、鮮明な着色等に寄与する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は押出成形時の酸発生臭や熱安定性を改良した軟質フッ素樹脂の製造法に関するものである。
【0002】フッ素樹脂は含有するC−F結合に由来する優れた特性、例えば耐熱性、耐油脂性、耐薬品性および耐候性など幅広い分野で使用されており、年々その使用量も増加している。
【0003】中でも柔軟性と成形加工性を併せ持った軟質フッ素樹脂はチューブ、シール材、フイルムなどの形で幅広い用途に使用されている。
【0004】
【従来技術とその問題点】柔軟性と成形性を併せもつた軟質フッ素樹脂としては、本発明者らが特公昭62−34324号に開示しているが、フッ素ゴム組成の幹ポリマーに結晶性フッ素樹脂をグラフト重合して得られる樹脂が挙げられる。
【0005】このうちフッ素ゴム組成の幹ポリマーにフッ化ビニリデン(VDF)モノマーをグラフト重合して得られる樹脂は、フッ素樹脂の範疇では比較的低温での溶融成形が可能であり、チューブ、シート等の押出成形品、パッキン、ダイヤフラム等の射出成形品の形で使用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする問題点】本発明は少なくとも一種以上の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体と、分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体とを共重合せしめて、そのガラス転移温度が室温以下である含フッ素弾性共重合体(幹ポリマー)を製造し、この幹ポリマー100重量部に対してフッ化ビニリデン単量体を20〜80重量部グラフト重合せしめた軟質フッ素樹脂(以下VDF系軟質フッ素樹脂と言う)であり、該樹脂は押出、射出成形性に優れた樹脂であるが、場合によりペレット化時や押出成形品作成時での酸性ガスの発生ならびに熱安定性にやや欠点を有する。
【0007】このことは、特にペレット製品開封時の臭気ならびに成形加工時の微妙な色調調整に不都合を生じ作業環境上更には製造プロセス上好ましくない。かかる観点からVDF系軟質フッ素樹脂の成形時の熱安定性を改善する方法の一つとして本発明者等は種々の安定剤を検討検索したが、充分な改良方法には到らなかった。
【0008】
【問題点を解決するための手段】本発明者らはVDF系軟質フッ素樹脂の上記問題点を解決するために、各製造工程における後処理について種々検討した結果、熱処理あるいは水熱処理する後処理を加えることにより、本来VDF系フッ素樹脂の有する性質を損なわずに、上記問題の解決方法を見出した。
【0009】即ち、本発明は、少なくとも一種以上の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体を含む一種以上の単量体と、分子内に炭素−炭素二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体とを)共重合せしめて、そのガラス転移温度が室温以下である含フッ素弾性共重合体(幹ポリマー)を製造する第1段階と、第1段階で得られた共重合体の水性乳懸濁液または分散溶媒中でその融点が130℃以上である結晶性重合体を与える、少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体を、グラフト共重合させて得られた軟質フッ素樹脂を熱処理あるいは水熱処理するこにより、上記目的に合致する軟質フッ素樹脂の製造方法を見出した。
【0010】ここで使用する分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体としては、t−ブチルペルオキシメタクリレート、t−ブチルペルオキシクロトネート等の不飽和ペルオキシエステル類、およびt−ブチルペルオキシアリルカーボネート、p−メンタンペルオキシアリルカーボネート等の不飽和ペルオキシカーボネート類が例示できる。
【0011】また、 含フッ素単弾性共重合体の組成としては、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロペン(HFP)の二元系、VDFとHFPとテトラフルオロエチレン(TFE)との三元系、およびVDFとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)の二元系などの単量体組成が例示できるが、特にこれら組成を限定するものではない。
【0012】本発明おけるおける軟質フッ素樹脂の熱処理法としては生成した軟質フッ素樹脂ポリマーの乾燥品の熱処理あるいは、ポリマースラリーにBa塩を添加したのち水熱処理を行う。
【0013】ここで、Ba塩の添加は処理中に発生する酸成分の捕捉中和に供するものであり、他の中和剤の使用では効果が乏しく場合によっては逆の結果を招く場合がある。
【0014】これら熱処理温度は100〜160℃で、処理時間30分〜30時間の範囲内で処理する。処理温度がこの範囲以下では効果が乏しく、反面それ以上では若干樹脂の分解が起こり始めるため熱安定性が低下する。
【0015】また、処理時間がこの範囲以下では効果が乏しく、それ以上でもそれ相応の効果は望めない。したがって好適には120〜150℃で3〜24時間処理される。
【0016】一方、水熱処理に関しては、Ba塩を対グラフトポリマーに対し0.001〜0.1重量部の範囲で添加し処理温度100〜160℃、処理時間30分〜24時間の範囲内で処理する。処理温度がこの範囲以下では上記熱処理と同様に効果が乏しく、それ以上では樹脂の分解が起こり熱安定性が低下するため、通常120〜150℃で1〜6時間の範囲で処理される。
【0017】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0018】実施例1(A)軟質フッ素樹脂の製造100L容量のステンレス製オートクレーブに純水50.0Kg、過硫酸カリウム100g、パーフルオロオクタン酸アンモニウム150gおよびt−ブチルペルオキシアリルカーボネート100gを加え、排気後フッ化ビニリデンモノマー12.5Kg、クロロトリフルオロエチレンモノマー7.55Kgを仕込み攪拌しながら50℃の温度で20時間重合反応を行った。生成物は白色ラテックス状態で得られ、これを塩析してゴム状の粒子を得た。水洗、真空乾燥の後、n−ヘキサンで洗浄し未反応のt−ブチルペルオキシアリルカーボネートを除去して再度真空乾燥し、白色粉末の弾性共重合体(幹ボリマー)16.0Kgを得た。 この共重合体のDSC曲線はペルオキシ基の分解に基ずく発熱ピークを160〜180℃に有しており、また、ヨウ素滴定法による共重合体の活性酸素量は0.042%と測定された。
【0019】次いで、前記白色粉末の共重合体12.0KgとフロンR−113の75.0Kgを100L容量のステンレス製オートクレーブに加え、排気後フッ化ビニリデンモノマー6.0Kgを仕込み95℃で24時間重合を行いポリマースラリー87.4Kgを得た。
【0020】(B)軟質フッ素樹脂の乾燥前記(A)で得たポリマースラリーを濾過分離および洗浄後80℃で乾燥して白色粉末の軟質フッ素樹脂16.6Kgを得た。収量から計算してこの軟質フッ素樹脂は含フッ素弾性体100重量部に対してフッ化ビニリデンモノマー38.3重量部がグラフト重合したものである。
【0021】(C)軟質フッ素樹脂の熱処理前記(B)で得た軟質フッ素樹脂の乾燥品(以下未処理品と言う)をギャーオープンにおいて、表1に示した条件下(150℃および110℃で5時間および24時間)で熱処理を行った。
【0022】(D)軟質フッ素樹脂ペレットの製造前記(C)で得た軟質フッ素樹脂の熱処理品を30mm口径の押出成形機(L/D=22))を用いて、180〜200℃の温度でペレット化を行った。
【0023】(E)ペレットの色調測定(色調観察)
前記(C)で得たペレットの色調を肉眼観察により判断した、その結果を表1に示す。
【0024】(F)臭気(酸発生臭気有無)の測定前記(D)のペレット化時における、ダイス先端から発生するガスの臭気有無を人的臭覚およびガス検知管により測定した。その結果を表1に示す。
【0025】(G)酸発生量の測定前記(D)のペレット化時における、ダイス先端から発生するガスを吸引操作により純水トラップに30分間バブリングを行い酸成分を吸収させたのち、中和滴定およびイオンクロマトグラフ分析により測定、その結果を表1に示す。
【0026】実施例2(H)軟質フッ素樹脂の水熱処理方法前記(A)で得たポリマースラリー30.0Kgと純水12、0Kgを50L容量のステンレス製オートクレーブに加え、フラッシュ蒸留しフロンR−113を留出させ回収したのち、オートクレーブ内に残存する水系ポリマースラリーにBa(OH)2 ・8H2 O水溶液を加え、表1に示す水熱処理条件下で処理した。その結果を表1に示す。
【0027】水熱処理したスラリーは前記(B)に記したものと同様に濾過、分離、乾燥した後、前記(D)に記載したものと同様の方法でペレット化し、同様に(E)〜(G)の各項目について測定を行った。その結果を表1に示す。
【0028】参考例1実施例1(B)で得た、軟質フッ素樹脂の未処理品について前記(D)に記したものと同様の方法でペレット化し、(E)〜(G)の各項目について測定を行い、その結果を表1に示す。
【0029】比較例1実施例1(B)で得た、軟質フッ素樹脂の未処理品について前記(C)に記した熱処理品の温度範囲以下の条件下で行った後、(D)〜(G)の各項目について実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0030】表1からも判るように、酸性ガスの発生およびペレットの色調改善の効果は認められなかった。
比較例2前記(C)に記した熱処理をその温度範囲の上限(160℃)以上で行った他は比較例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0031】表1からも判るように、ペレットの色調改善には効果が乏しく、むしろ逆に悪くなることが認められた。
比較例3前記(H)に記した水熱処理をBa(OH)2 ・8H2 O無添加系、150℃の条件下で行った他は実施例2と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0032】表1からも判るように、ペレットの色調改善には効果が乏しく、むしろ逆に悪くなることが認められた。
比較例4前記(H)に記した水熱処理をBa(OH)2 ・8H2 O添加系において、熱処理をその温度範囲の下限(100)以下で行った以外は、実施例2と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0033】表1からも判るように、酸性ガスの発生およびペレットの色調改善には効果は認められなかった。
比較例5前記(H)に記した水熱処理をBa(OH)2 ・8H2 O添加系において、熱処理をその温度範囲の上限(160℃)以上で行った以外は、実施例2と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0034】表1からも判るように、ペレットの色調改善には効果が乏しく、むしろ逆に悪くなることが認められた。
【0035】
【表1】


【0036】
【発明の効果】本発明方法により得られた軟質フッ素樹脂は、熱安定性に優れ押出成形時の作業環境改善および機器の腐食を防止し、長時間の連続押出成形を可能にするため生産量の増加に寄与し、加えて樹脂の着色防止、色調調整を容易にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一種以上の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体と、分子内に炭素−炭素二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体とを共重合せしめて、そのガラス転移温度が室温以下である含フッ素弾性共重合体(幹ポリマー)を製造する第1段階と、第1段階で得られた共重合体の水性乳懸濁液または分散溶媒中でその融点が130℃以上である結晶性重合体を与える、少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体を、グラフト共重合させて得られた軟質フッ素樹脂を熱処理あるいは水酸化バリウムを添加し水熱処理することを特徴とする軟質フッ素樹脂の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の軟質フッ素樹脂を加温下熱処理することを特徴とする軟質フッ素樹脂の製造方法。
【請求項3】 請求項1記載のグラフト重合により得られた軟質フッ素樹脂のスラリーに水を添加し、蒸留して分散溶媒を除去したスラリーに、水酸化バリウムを添加し水熱処理することを特徴とする軟質フッ素樹脂の製造方法。