説明

軟質フッ素樹脂

【目的】 軟質フッ素樹脂の幹ポリマーの製造において必須の原料である不飽和ペルオキシドの希釈溶媒を提供し、安全な製造方法により得られる軟質フッ素樹脂を提供する。
【構成】 含フッ素単量体と第3ブチルアルコールのカルボン酸エステルに溶解した不飽和ペルオキシドを共重合させ、分子内にペルオキシ結合を含有し、且つ融点が130℃以上である含フッ素共重合体に、水性乳濁液または分散溶媒中で、ガラス転移温度が室温以下である重合体を与える、少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体を、グラフト共重合させた軟質フッ素樹脂。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は改良された製造方法による軟質フッ素樹脂に関し、より詳しくは分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体の安全な取扱方法により製造された軟質フッ素樹脂に関する。
【0002】
【従来技術】フッ素樹脂は耐候性、耐薬品性、耐熱性等に優れた機能性樹脂として、先端技術分野にはかかせない材料となっている。
【0003】従来からフッ素樹脂には、数多くのものが知られており、それぞれの特徴を活かして広い分野で使用されているが、特に柔軟性を要求される分野にはフッ素ゴムが一般に使用され、ホース、ガスケット、各種シール材、電線被覆材、ロール被覆材等の用途に向けられている。しかしながらフッ素ゴムにおいては、その十分な力学的性質を発現させるために、一般的には架橋剤、充填材、安定剤等を生ゴムに加えて混練、成形した後、所定の温度を与えて架橋処理を行なうことが必要であり、そのために加工工程が煩雑になる、あるいは製造する成形品の形状に制約がある、さらには架橋処理後のゴムの再溶融加工が困難である等の問題点が指摘されている。かかる現状に鑑み、フッ素系プラスチックの溶融加工性および再溶融加工性を有した柔軟性のあるフッ素樹脂の開発が望まれている。
【0004】このような溶融加工性と柔軟性を合せ持つフッ素樹脂は共重合あるいは樹脂ブレンド等の方法により得られるが、モノマーの組合せによる単純な共重合では柔軟化させるとともに樹脂の融点が低下し、使用可能温度が低温側に移行する、あるいは機械的特性が損なわれる等の欠点がある。また可塑剤、柔軟性を有する高分子化合物などをブレンドする方法では、フッ素樹脂に相溶性の良い可塑剤、柔軟高分子化合物で知られているものは少なく、相溶性が良好と言われているものでも、ブレンドした場合には、フッ素樹脂本来の性質が損なわれる場合が多い。
【0005】特殊な共重合の例として、フッ素ゴムセグメントと含フッ素結晶性樹脂セグメントをグラフト共重合した含フッ素グラフト共重合体が、本発明者らにより特開昭58−206615号公報に開示されているが、この製造方法によれば熱溶融加工性を有する柔軟性のフッ素樹脂が得られることが記載されている。
【0006】
【発明の解決しようとする課題】特開昭58−206615号に開示されている柔軟性を有するフッ素樹脂の製造方法では、少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体と分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体(以下、「不飽和ペルオキシド」という。)とをラジカル共重合せしめて幹ポリマーとなる含フッ素弾性共重合体を製造することを第一段階としているが、この方法の実際の適用にあたっては、不飽和ペルオキシドの共重合溶媒への分散性ならびに取り扱い時の安全性の観点から、不飽和ペルオキシドを可溶な溶媒に溶解して使用することが望ましい。その例としては、特開昭3−269008号公報に1,1,2−トリクロロトリフルオロエタンにt−ブチルペルオキシアリルカーボネートを溶解して使用することが記載されている。
【0007】一般にかかるペルオキシドの溶媒としては、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタンなどの著しく不活性な溶媒またはトルエン、イソパラフィン等の炭化水素系化合物が用いられるが、幹ポリマーの共重合に炭化水素系の溶剤に溶かした不飽和ペルオキシドを使用すると、開始剤ラジカルあるいはモノマーラジカルが溶媒に連鎖移動することにより、共重合反応が初期で停止する結果、共重合体の収率あるいは分子量が極端に低下する等の不具合を生じることがある。一方、好ましいとされる前記1,1,2−トリクロロトリフルオロエタンは、特定フロンとしてその使用が規制されつつあるので、それに代わる溶媒が求められている。
【0008】そこで、本発明は、軟質フッ素樹脂の幹ポリマーの製造において必須の原料である不飽和ペルオキシドの稀釈溶媒を提供し、具体的には安全な軟質フッ素樹脂の幹ポリマーの製造方法を提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体と不飽和ペルオキシドを共重合させて軟質フッ素樹脂の幹ポリマーとなる含フッ素共重合体を製造する際に、取扱の安全性、重合溶媒への分散性を確保するために使用する不飽和ペルオキシドの溶媒について、不飽和ペルオキシドの溶解度および保存安定性ならびに共重合に与える影響の面から種々検討を加えた結果、第3ブチルアルコール(t−ブチルアルコール、t−ブタノール)のカルボン酸エステルがその何れの条件をも満足し得ることを見出し本発明を完成した。
【0010】一般にカルボン酸エステルは本発明に使用する不飽和ペルオキシドの溶解性が高く、共重合溶媒への分散性、溶解性も良好であるが、第3ブチルアルコールのカルボン酸エステル以外は比較的加水分解を起こしやすく共重合反応の進行中に分解生成物が生じ、あるいはカルボン酸エステルの種類によっては溶媒への連鎖移動が起こりラジカル反応が停止したり、あるいは重合速度が著しく低下する等の問題を生じる場合がある。
【0011】ところが、意外にも、第3ブチルアルコールのカルボン酸エステルは、加水分解ならびに連鎖移動が全く起こらないか、もしくは事実上問題とならない程度に過ぎないという特異性を見出したものである。
【0012】本発明に使用する不飽和ペルオキシドを溶解する溶媒である第3ブチルアルコールのカルボン酸エステルとしては、ギ酸t−ブチル、酢酸t−ブチル、クロロ酢酸t−ブチル、クロロギ酸t−ブチル、トリフルオロ酢酸t−ブチルなどを例示することができ、酢酸t−ブチルが最も好ましい。これらの溶媒は2種以上を併せて使用することもできる。また、これらの溶媒の性質を変えることのない範囲で他の溶媒を添加することも可能である。そのような溶剤としては、ラジカル反応において連鎖移動の比較的小さなものが好ましく使用でき、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタンなどの塩素系溶媒、パーフルオロポリエーテル類、大略─30℃〜使用温度で液体である炭素数2〜5の塩素不含有のフッ素化アルカン類などを挙げることができる。
【0013】本発明において共重合に使用する際の不飽和ペルオキシド/溶媒比は重量比で95/5〜5/95の範囲であり、80/20〜50/50がより好ましい。この溶媒は、本来重合反応においては不必要なものであるので反応系への添加量は可能な限り少ない方が好ましく、不飽和ペルオキシドの濃度は安定に溶解可能な最大の濃度であることが望ましい。不飽和ペルオキシド/溶媒比の重量比が95/5より大きいと稀釈効果が得られず、他方、不飽和ペルオキシド/溶媒比の重量比が5/95より小さいと重合反応に影響を与える場合があるので好ましくない。
【0014】本発明において含フッ素単量体と共重合させる不飽和ペルオキシドは、特に限定されないが、具体的に例示すれば、不飽和ペルオキシエステルとしては、t−ブチルペルオキシメタクリレート、ジ(t−ブチルペオキシ)フマレート、t−ブチルペルオキシクロトネートなどが挙げられ、不飽和ペルオキシカーボネートとしては、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタリルカーボネート、p−メンタンペルオキシアリルカーボネート、p−メンタンペルオキシメタリルカーボネート等が例示できる。これらのうち、t−ブチルペルオキシアリルカーボネートを最も好ましいものとして挙げることができる。また、これらは一種以上を併せて使用することもできる。
【0015】本発明でいう含フッ素単量体は、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、かつ重合性の二重結合を持つ化合物であればよいが、特にエチレン、プロピレンまたはブテンの水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された化合物が好ましい。この様な化合物を例示すると、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。
【0016】この様な含フッ素単量体から得られる融点が130℃以上である結晶性重合体を与える含フッ素単量体またはその組成物は、とくに限定する必要はないが、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン−エチレン混合物、クロロトリフルオロエチレン−エチレン混合物、テトラフルオロエチレン−含フッ素ビニルエーテル混合物、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン混合物、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン混合物、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン混合物、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン混合物、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン混合物、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン混合物などをあげることができる。
【0017】本発明の含フッ素共重合体は、その分子内にペルオキシ結合を有し、且つその融点が130℃以上である結晶性重合体であることを特徴する。本発明においては、含フッ素単量体と共重合させる不飽和ペルオキシドの量は、当該単量体に対して0.05〜20重量部の範囲が好ましく、この範囲以下の場合には、第2段階において効率的に枝ポリマーが生成しないし、多くなると幹ポリマーが具備している性質を発揮できなくなる等の不都合を生じる。
【0018】本発明の含フッ素共重合体の製造方法は特に限定されず、高分子重合反応の分野で通常行なわれているラジカル重合開始剤を使用する乳化重合、懸濁重合、溶液重合のいずれの形態も採用することができる。
【0019】ラジカル重合開始剤としては、不飽和ペルオキシドの分解温度よりも低い温度でラジカルを発生する必要があるので、不飽和ペルオキシドの選択により異なるが、例えば、分解の活性化エネルギーが26〜33kcal/molの過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、次亜硝酸t−ブチル、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど、また、同15〜26kcal/molの過酸化水素−鉄(II)塩、過硫酸塩−亜硫酸水素ナトリウム、クメンヒドロペルオキシド−鉄(II)塩、過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリンなど、ジイソプロピルペルオキシジカーボナート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボナートなど、同15kcal/molの過酸化物(過酸化水素、ヒドロペルオキシドなど)−金属アルキル(トリエチルアルミニウム、トリエチルホウ素、ジエチル亜鉛など)、酸素−金属アルキルなどを非制限的に挙げることができる。
【0020】重合溶媒としては、乳化重合、懸濁重合の場合、水またはアルコール類などの水溶性溶剤を含む水を主とする媒体を使用するが、溶液重合では連鎖移動の起こり難い溶媒が選択される。
【0021】重合温度、重合時間はおもに開始剤の種類に依存し、0〜90℃の範囲で1〜50時間程度である。一方重合圧力は重合方法、原料の供給方法、単量体の種類に依存するが、常圧から100Kgf/cm2程度である。
【0022】重合終了後の反応液を、開始剤、溶媒、未反応単量体などを除くための塩析、洗浄、乾燥などの処理に付し精製された含フッ素共重合体を得ることができる。本発明の軟質フッ素樹脂に必須の枝ポリマーを与える含フッ素単量体の共単量体は、特に限定されず、エチレン、プロピレン、ブテンなどの炭化水素系オレフィン、ブタジエンなどの炭化水素系の共役ジエン、含フッ素ビニルエーテルなどを例示することができる。
【0023】具体的に、本発明において好ましいフッ素ゴムの特性を有する共重合体を与える組み合わせを例示すれば、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−プロピレン、テトラフルオロエチレン−含フッ素ビニルエーテル、炭化水素系の共役ジエン−含フッ素単量体などを挙げることができる。これらの組成比は目的とする含フッ素共重合体の機械的特性、特に柔軟性に基づいて当該分野の知識を基に適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレンの場合、フッ化ビニリデンが50〜85モル%をゴム弾性を呈する好ましい範囲として示すことができる。
【0024】本発明の含フッ素共重合体の枝ポリマーの幹ポリマーへの重量比は目的に応じて適宜選択するが20/100〜100/100であり、40/100〜80/100が好ましい。これらの成分比は限定的なものではなく軟質フッ素樹脂が目的とする物性により適宜変更できるが機械的強度と柔軟性のバランスから上記範囲が多く採用される。
【0025】幹ポリマーへのグラフト共重合の方法は、幹ポリマーの有するペルオキシ基を開始基とするため別に開始剤を添加しない点を除けば通常のグラフト重合法と同様である。例えば、含フッ素共重合体をホモジナイザーなどの微粒化装置を用いて重合反応器へ反応媒体とともに導入し、単量体およびその他の副資材を添加した後、攪拌しながら温度を調節して反応を開始し所定時間継続する。重合形態としては、水系媒体もしくは有機溶媒からなる水性乳濁液または分散溶媒中での反応である。水系溶媒としては、水を主成分として10重量%未満の水溶性溶剤を添加したものが使用される。この水溶性溶媒としては特に限定されないがアルコール類、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールなど、ケトン類、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などを挙げるとができる。また、その他の副資材、例えば、連鎖移動剤、開始剤の分解促進剤、乳化剤、分散安定剤などを目的に応じて使用することもできる。
【0026】有機溶媒としては、幹ポリマーを程よく膨潤させ、攪拌により幹ポリマーのある程度の微細化が図れ、しかもグラフト共重合により生成したグラフト共重合体は膨潤しないで濾別し易いものが好ましい。このような有機溶媒としては、フロン系溶媒として知られるものが好ましく、具体的には1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、1,1−ジクロロテトラフルオロエタンなどが挙げられる。しかしながら、かかるフロン系溶媒は特定フロンとして規制されているので、それに代わるものとして、所謂代替フロン類の使用も可能である。代替フロンとしては多様な種類のものがあるが沸点が0〜100℃程度のものが良く、例えば、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンなどを例示できるがこれらに限られない。その他の有機溶媒として好ましいものを挙げれば、t−ブタノール−酢酸エチル、t−ブタノール−1,1,1−トリクロロエタン、t−ブタノール−酢酸エチル−水、t−ブタノール−1,1,1−トリクロロエタン−水などの混合溶媒系を例示することができる。
【0027】重合温度、重合時間はおもに不飽和ペルオキシドの種類に依存し、50〜120℃の範囲で1〜50時間程度となるように調整することが好ましい。一方重合圧力は重合方法、原料の供給方法、単量体の種類に依存するが、通常、常圧から100Kgf/cm2程度である。
【0028】重合終了後の反応液を、開始剤、溶媒、未反応単量体などを除くための塩析、洗浄、乾燥などの処理に付し精製された軟質フッ素樹脂を得ることができる。
【0029】
【実施例】以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0030】実施例150気圧に耐える2L容量のステンレス製オートクレーブに1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン1000g、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート 3gおよび不飽和ペルオキシドとしてt−ブチルペルオキシアリルカーボネートの酢酸t−ブチル溶液(t−ブチルペルオキシアリルカーボネートの濃度:70重量%)7.1gを加え、排気後クロロトリフルオロエチレンモノマー500gを仕込み攪拌しながら40℃の温度で20時間重合反応を行なった。生成物を溶媒から分離した後洗浄、乾燥して白色粉末の共重合体328gを得た。共重合体の収率は65.0%であった。
【0031】この共重合体のDSC曲線はペルオキシ基の分解に基づく発熱ピークを160〜180℃に有しており、共重合体の融点は198℃と測定された。またヨウ素滴定法により共重合体の活性酸素量は0.094%と測定された。
【0032】次の段階で前記共重合体150gと1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン500gを50気圧に耐える1L容量のステンレス製オートクレーブに加え、排気後フッ化ビニリデンモノマー59gおよびヘキサフルオロプロピレンモノマー41gを仕込み、95℃の温度で24時間重合を行なった。生成したポリマーを溶媒から分離した後乾燥して、250gの白色粉末を得た。DSC測定の結果2段階目の重合で生成した樹脂のガラス転移温度Tgは−19℃であった。また得られたポリマーを4インチ2本ロール(ロール温度190℃)で混練し、その後プレス成形(プレス機温度210℃)して1mm厚のシートを作成したところ白色の柔軟性のあるものが得られた。
【0033】このシートの23℃における破断強度、破断伸び率、引張弾性率、硬度ならびに220℃、100Kgf/cm2の圧力下で測定した溶融粘度を測定し表1に示した。
〔物性測定方法〕
1)破断強度、破断伸び率の測定JIS K6301に規定された方法に準じ、1mm厚のシートから打ち抜いた3号ダンベル型のテストピースを引張試験機(島津製作所(株)製オートグラフ)にて23℃で200mm/分の引張速度で測定した。
2)引張弾性率1mm厚のシートから10mm×125mmの短冊状試験片を切出し、チャック間距離が100mmになるように引張試験機に取り付け、23℃で10mm/分の引張速度で伸びと応力の関係を表す曲線を得た。この曲線の初期の立上がり勾配から引張弾性率(応力/伸び率)を算出した。この値は小さいほうが柔軟性は高い。
3)硬度(ショアーD硬度)
1mmシートを4枚重ね、ASTMD2240に準じて測定した。
4)溶融粘度島津製作所(株)製高化式フローテスターを用い、グラフト共重合樹脂を200℃に加熱されたシリンダーに充填し、5分間予熱した後、100Kgf/cm2の圧力で1mmφ×10mmLのオリフィスから押出した時の流量から溶融粘度を算出した。
【0034】
【表1】


【0035】実施例250気圧に耐える2L容量のステンレス製オートクレーブに純水560g、t−ブタノール240g、四ホウ酸ナトリウム 2g、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート 1.7gおよび 不飽和ペルオキシドとしてt−ブチルペルオキシアリルカーボネートの酢酸t−ブチル溶液(t−ブチルペルオキシアリルカーボネートの濃度:70重量%)3.4gを加え、排気後クロロトリフルオロエチレンモノマー233g、フッ化ビニリデンモノマー 5.5gを仕込み、40℃の温度で20時間重合を行なった。生成物を溶媒から分離した後洗浄、乾燥して白色粉末の共重合体162gを得た。共重合体の収率は67.1%であった。
【0036】この共重合体のDSC曲線はペルオキシ基の分解に基づく発熱ピークを160〜180℃に有しており、共重合体の融点は193℃と測定された。またヨウ素滴定法により共重合体の活性酸素量は0.082%と測定された。
【0037】次の段階で前記共重合体150gと1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン500gを50気圧に耐える1L容量のステンレス製オートクレーブに加え、排気後フッ化ビニリデンモノマー50gとクロロトリフルオロエチレンモノマー30.5gを仕込み、95℃の温度で24時間重合を行なった。生成したポリマーを溶媒から分離した後乾燥して、205gの白色粉末を得た。DSC測定の結果2段階目の重合で生成した樹脂のガラス転移温度Tgは−24℃であった。また得られたポリマーを4インチ2本ロール(ロール温度190℃)で混練し、その後プレス成形(プレス機温度210℃)して1mm厚のシートを作成したところ白色の柔軟性のあるものが得られた。
【0038】このシートの23℃における破断強度、破断伸び率、引張弾性率、硬度ならびに220℃、100Kgf/cm2の圧力下で測定した溶融粘度を測定し表1に示した。
【0039】参考例1実施例1の第一段階の重合で使用する不飽和ペルオキシドとして酢酸t−ブチル溶液の代わりにt−ブチルペルオキシアリルカーボネートの純品(純度:98% 残りはt−ブタノールおよびアリルアルコール)を使用した他は実施例1と同様に軟質フッ素樹脂を製造した。
【0040】第一段階で製造した共重合体の収量は313g、共重合体の活性酸素量は0.093%,融点は198℃と測定された。また第2段階でのポリマー収量は257g、ガラス転移温度は−23℃と測定された。第一段階の共重合体収率(62.0%)および軟質フッ素樹脂の物性を表1に示した。
【0041】比較例1実施例2の第一段階の重合で使用する不飽和ペルオキシドとしてt−ブチルペルオキシアリルカーボネートのトルエン溶液(t−ブチルペルオキシアリルカーボネートの濃度:70%)を同量使用した他は実施例1と同様に第一段階の重合を実施したが、共重合体の収率が8.2%と極端に低く、第2段階の重合は行なわなかった。
【0042】
【発明の効果】本発明の含フッ素共重合体を製造する方法によると、単体では取扱の困難な不飽和ペルオキシドを溶液の形態で保存でき、軟質フッ素樹脂の幹ポリマーとなる含フッ素共重合体の合成において、不飽和ペルオキシドの分散性がよく、しかも、重合収率、共重合性、分子量などに悪影響を及ぼすことがないため、単体同様の効果を発揮しながら安全に重合反応を行なえるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体と、第3ブチルアルコールのカルボン酸エステルに溶解した分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体とをラジカル共重合せしめて得られる共重合体であって、その分子内にペルオキシ結合を含有し、且つ融点が130℃以上である含フッ素共重合体。
【請求項2】少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン−エチレン混合物、クロロトリフルオロエチレン−エチレン混合物、テトラフルオロエチレン−含フッ素ビニルエーテル混合物、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン混合物、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン混合物、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン混合物、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン混合物、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン混合物またはフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン混合物であることを特徴とする請求項1記載の含フッ素共重合体。
【請求項3】第3ブチルアルコールのカルボン酸エステルがギ酸t−ブチル、酢酸t−ブチル、クロロ酢酸t−ブチル、クロロギ酸t−ブチル、トリフルオロ酢酸t−ブチルから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1記載の含フッ素共重合体。
【請求項4】分子内に二重結合とペルオキシ結合を同時に有する単量体がt−ブチルペルオキシメタクリレート、ジ(t−ブチルペオキシ)フマレート、t−ブチルペルオキシクロトネート、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタリルカーボネート、p−メンタンペルオキシアリルカーボネート、p−メンタンペルオキシメタリルカーボネートから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1記載の含フッ素共重合体。
【請求項5】水性乳濁液または分散溶媒中で、請求項1〜4記載の含フッ素共重合体にガラス転移温度が室温以下である重合体を与える、少なくとも一種の含フッ素単量体を含む一種以上の単量体を、グラフト共重合させた軟質フッ素樹脂。
【請求項6】ガラス転移温度が室温以下である重合体が、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−含フッ素ビニルエーテル共重合体または炭化水素系の共役ジエン−含フッ素単量体の共重合体から選ばれた重合体であることを特徴とする請求項5記載の軟質フッ素樹脂。

【公開番号】特開平8−67717
【公開日】平成8年(1996)3月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−204722
【出願日】平成6年(1994)8月30日
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)