説明

転がり軸受用保持器及び転がり軸受

【課題】材料歩留まりを向上させることができる転がり軸受用保持器及び転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受用保持器5は、外輪2と内輪3との間に転動可能に配置された複数の円錐ころ4を周方向に所定間隔毎に保持する複数のポケット5aを有する。また、転がり軸受用保持器5は、ポケット5aを少なくとも1つ有するとともに周方向に分割された複数の分割片11と、周方向に隣接する2つの分割片11の周方向端部同士を連結する連結部12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用保持器及び転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に転がり軸受は、外軌道面を有する外輪と、外軌道面の内周側に対向する内軌道面を有する内輪と、外軌道面及び内軌道面の間に転動可能に配置された複数の転動体と、複数の転動体を周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された保持器は、鋼板をプレス加工することによって一体成形されている。具体的には、円盤状の鋼板からカップ状に成形されたワーク(特許文献1の図8)の外周に転動体を収容するポケットを成形する(特許文献1の図10)。その後、ワークの底部を打ち抜く工程(特許文献1の図11)及び旋削工程を経て、環状の保持器(特許文献1の図13)が成形されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−50281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記プレス加工によって一体成形される保持器にあっては、カップ状のワークの底部を打ち抜くことによって成形されるため、材料を廃棄する部分が多く、材料歩留まりが悪いという問題があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、材料歩留まりを向上させることができる転がり軸受用保持器及び転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の転がり軸受用保持器は、内外輪の間に転動可能に配置された複数の転動体を周方向に所定間隔毎に保持する複数のポケットを有する環状の転がり軸受用保持器であって、前記ポケットを少なくとも1つ有するとともに、周方向に分割された複数の分割片と、周方向に隣接する2つの前記分割片の周方向端部同士を連結する連結部と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
本発明によれば、周方向に分割された複数の分割片を連結部により連結することによって環状の転がり軸受用保持器を形成することができる。これにより、転がり軸受用保持器を製造する際に、従来のように環状の保持器を成形するためにワークの底部を打ち抜く工程が不要になる。この結果、材料を廃棄する部分が少なくなり、材料歩留まりを向上させることができる。
【0008】
(2)前記転がり軸受用保持器において、前記連結部は、前記周方向端部同士のうちの一方の周方向端部に一体形成された第1係合部と、他方の周方向端部に一体形成され前記第1係合部に係合可能な第2係合部とからなることが好ましい。
この場合、隣接する分割片同士を連結する連結部の第1係合部及び第2係合部が、それぞれ分割片に一体形成されているため、転がり軸受用保持器を分割形成することに伴う部品点数の増加を抑制することができる。
【0009】
(3)他の観点からみた本発明の転がり軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪に形成された外軌道面及び前記内輪に形成された内軌道面を転動する複数の転動体と、上記(1)及び(2)に記載の転がり軸受用保持器とを備えていることを特徴とする。本発明によれば、上述した転がり軸受用保持器と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受用保持器によれば、材料歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受用保持器を備えた転がり軸受を示す断面図である。
【図2】上記転がり軸受用保持器を示す斜視図である。
【図3】上記転がり軸受用保持器の分割片を示す正面図である。
【図4】上記転がり軸受用保持器の連結部を示す平面図である。
【図5】上記連結部による分割片同士の連結方法を示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受用保持器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る転がり軸受用保持器を備えた転がり軸受を示す断面図である。図1において、転がり軸受1は、円錐ころ軸受からなり、外輪2と、外輪2と同一軸心上に配置された内輪3と、外輪2と内輪3との間に転動可能に配置された複数の円錐ころ(転動体)4と、各円錐ころ4を周方向に所定間隔毎に保持する複数のポケット5aを有する環状の保持器(転がり軸受用保持器)5とから構成されている。
【0013】
外輪2の内周には、軸方向一方側から軸方向他方側に向かって漸次拡径するテーパ状の外軌道面2aが形成されている。内輪3の外周には、軸方向一方側から軸方向他方側に向かって漸次拡径するテーパ状の内軌道面3aが外輪2の外軌道面2aに対向して形成されている。外軌道面2aと内軌道面3aとの間には、円錐ころ4が転動可能に配置されている。また、内輪3の軸方向一方側及び軸方向他方側にはそれぞれ、円錐ころ4の軸方向への移動を規制する小径鍔部3b及び大径鍔部3cが形成されている。
【0014】
図2は、転がり軸受1の保持器5を示す斜視図である。図2において、保持器5は、軸方向一方側(図2の下側)から軸方向他方向側(図2の上側)に向かって漸次拡径するように、全体として円錐筒状に形成されている。また、保持器5は、周方向に分割された複数の分割片11と、周方向に隣接する2つの分割片11の周方向端部同士を連結する複数の連結部12とによって構成されている。
【0015】
図3は、保持器5の分割片11を示す正面図である。図2及び図3において、各分割片11は、円弧状に形成された大径円弧部11a及び小径円弧部11bと、両円弧部11a,11bの周方向端部同士を連結する一対の柱部11cとによって正面視台形状に形成されている。また、分割片11は、両円弧部11a,11bと一対の柱部11cとにより囲まれた1つのポケット5aを有している。
【0016】
図4は、保持器5の連結部12を示す平面図である。図2及び図4において、連結部12は、周方向に隣接する2つの分割片11の周方向端部同士のうちの一方の周方向端部に一体形成された第1係合部12aと、他方の周方向端部に一体形成され第1係合部12aに係合可能な第2係合部12bとからなる。
【0017】
第1係合部12aは、前記一方の分割片11の周方向端部である柱部11cの長手方向全長に亘って断面C字状に形成されている。第2係合部12bは、前記他方の分割片11の周方向端部である柱部11cの長手方向全長に亘って、第1係合部12aと逆向きの断面C字状に形成されている。
【0018】
図5は、連結部12による分割片11同士の連結方法を示す斜視図である。図5において、周方向に隣接する分割片11同士を連結する場合、まず、一方の分割片11の第1係合部12aを、他方の分割片11の第2係合部12bの軸方向一方側(図5の上側)にずらして配置する。この状態から第1係合部12aを軸方向他方側(図5の下側)に向かって矢印A方向に移動させて、第2係合部12bに差し込む。これにより、第1係合部12a及び第2係合部12bが図4に示すように互いに係合し合い、周方向に隣接する分割片11同士を連結することができる。
【0019】
上記のように構成された本実施形態の保持器5及び転がり軸受1によれば、周方向に分割された複数の分割片11を連結部12により連結することによって環状の保持器5を形成することができる。これにより、保持器5を製造する際に、従来のように環状の保持器を成形するためにワークの底部を打ち抜く工程が不要になる。この結果、材料を廃棄する部分が少なくなり、材料歩留まりを向上させることができる。
【0020】
また、隣接する分割片11同士を連結する連結部12の第1係合部12a及び第2係合部12bが、それぞれ分割片11に一体形成されているため、保持器5を分割形成することに伴う部品点数の増加を抑制することができる。
【0021】
図6は、本発明の他の実施形態に係る転がり軸受用保持器を示す斜視図である。本実施形態と上記実施形態とが相違する点は、保持器5の分割片11の周方向端部の形状が異なる点と、連結部12が分割片11と別部材で構成されている点である。図6において、本実施形態の分割片11は、周方向一端側の柱部11cの軸方向中央部において周方向に突出するように形成された凸部11dと、周方向他端側の柱部11cの軸方向中央部において周方向に窪むように形成された凹部11eとを有している。周方向に隣接する2つの分割片11のうちの一方の分割片11の凸部11dは、他方の分割片11の凹部11eに嵌合可能に形成されている。
【0022】
周方向一端側の柱部11cの凸部11dには、軸方向に貫通する第1挿通孔11fが形成されている。また、周方向他端側の柱部11cの軸方向両端部には、軸方向に貫通する第2挿通孔11g及び第3挿通孔11hがそれぞれ形成されている。第2及び第3挿通孔11g,11hの孔径はいずれも同一径からなり、第1挿通孔11fの孔径は第2及び第3挿通孔11g,11hの孔径よりも少し大径に形成されている。また、第1〜第3挿通孔11f〜11gは、周方向に隣接する凸部11dと凹部11eとを嵌合した状態で、同軸心上に配置されるようになっている。
【0023】
連結部12は、第1〜第3挿通孔11f〜11gにそれぞれ挿通可能なピン部材からなり、分割片11の軸方向長さと略同一長さに形成されている。これにより、周方向に隣接する凸部11dと凹部11eとを嵌合した状態で、連結部12を例えば軸方向一方側(図6の上側)から第2挿通孔11g、第1挿通孔11f及び第3挿通孔11hの順に挿通することにより、周方向に隣接する分割片11同士を連結することができる。
【0024】
以上、本実施形態においても、周方向に分割された複数の分割片11を連結部12により連結することによって環状の保持器5を形成することができる。これにより、保持器5を製造する際に材料を廃棄する部分が少なくなり、材料歩留まりを向上させることができる。
また、第1挿通孔11fの孔径は第2及び第3挿通孔11g,11hの孔径よりも大径に形成されているため、連結部12は第1挿通孔11fに対して径方向に隙間をあけた状態で挿通することができる。これにより、前記隙間の分だけ凸部11dが凹部11eに対してがたつくのを許容することができる。したがって、凸部11d及び凹部11eの寸法精度を低く抑えることができ、各分割片11を容易に製造することができる。
【0025】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、転がり軸受1として円錐ころ軸受を使用しているが、円筒ころ軸受や玉軸受にも適用することも可能である。
また、上記実施形態における分割片11は、1つのポケット5aを有しているが、複数のポケット5aを有していてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1:転がり軸受、2:外輪、2a:外軌道面、3:内輪、3a:内軌道面、4:円錐ころ(転動体)、5:保持器(転がり軸受用保持器)、5a:ポケット、11:分割片、12:連結部、12a:第1係合部、12b:第2係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪の間に転動可能に配置された複数の転動体を周方向に所定間隔毎に保持する複数のポケットを有する環状の転がり軸受用保持器であって、
前記ポケットを少なくとも1つ有するとともに、周方向に分割された複数の分割片と、
周方向に隣接する2つの前記分割片の周方向端部同士を連結する連結部と、を備えていることを特徴とする転がり軸受用保持器。
【請求項2】
前記連結部は、前記周方向端部同士のうちの一方の周方向端部に一体形成された第1係合部と、他方の周方向端部に一体形成され前記第1係合部に係合可能な第2係合部とからなる請求項1に記載の転がり軸受用保持器。
【請求項3】
外輪と、内輪と、前記外輪に形成された外軌道面及び前記内輪に形成された内軌道面を転動する複数の転動体と、請求項1又は2に記載の転がり軸受用保持器とを備えていることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−100886(P2013−100886A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245754(P2011−245754)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】