転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置
【課題】レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生と、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させる。
【解決手段】転がり軸受5Bの内輪2内面2aをシャフト6の外面に嵌合し、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって溶接し、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成する転がり軸受装置1の製造方法を提供する。
【解決手段】転がり軸受5Bの内輪2内面2aをシャフト6の外面に嵌合し、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって溶接し、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成する転がり軸受装置1の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の転がり軸受と、該転がり軸受の内輪に嵌合する回転軸と、転がり軸受の外輪を嵌合させるハウジングとを備える転がり軸受装置の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に記載された製造方法では、転がり軸受の内輪を回転軸に対して圧入し、圧入された内輪に所定の予圧を付与した状態で内輪と回転軸の外周面とを接着剤を用いた接着力によって固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−182543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着剤は一般に硬化時間が長くかかるため、転がり軸受に予圧をかけた状態で固定するには、接着剤が完全に硬化するまでの間、予圧をかける装置あるいは予圧をかけた状態に維持する治具に取り付けたままの状態に維持する必要があり、生産性が悪いという不都合がある。また、特に、嫌気性の接着剤の場合には、接着剤から発生するガス(アウトガス)により転がり軸受装置を備える装置(例えば、ハードディスク装置)が損傷する可能性がある。
そこで、接着剤を用いて接合する代わりにレーザ光を照射して溶接することで、接着剤を用いた場合の不具合を解消することができる。
【0005】
しかしながら、レーザ光を照射して溶接する場合、レーザ光の照射により金属が溶融凝固した部分(ナゲット部)の周辺に錆が発生しやすくなるという問題がある。この錆は、レーザ光の照射による熱影響を受ける部分(熱影響部:ナゲット部の周辺で金属が溶融凝固していない部分)で炭素とクロムが結合してしまい、金属中のクロムの含有量が減少することにより発生しやすくなる。従って、近接した箇所に連続的にレーザ光を照射する場合には、レーザ光の照射による熱影響が同位置に累積的に及んでしまい、特に錆が発生しやすくなるという問題がある。
【0006】
また、近接した箇所に連続的にレーザ光を照射する場合、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまい、回転軸に対する転がり軸受の位置ずれが発生しやすくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光を照射して転がり軸受を溶接する場合に、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生と、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材の外面に嵌合する嵌合工程と、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材と嵌合し、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合することで、複数箇所にレーザ光が照射された転がり軸受装置が製造される。そして、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するので、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。
【0010】
従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。また、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる。
【0011】
上記態様においては、前記溶接工程が、レーザ光の照射部と前記第1部材とを該第1部材の軸線回りに相対的に回転させながら前記全ての溶接部を形成する構成であってもよい。
このようにすることで、1つのレーザ光の照射部を用いて周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射することができる。
【0012】
また、上記構成においては、前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔をあけて1周分の溶接部を形成する第1工程と、前記角度間隔より小さい角度だけ溶接開始位置をずらす第2工程とを繰り返して前記全ての溶接部を形成してもよい。
このようにすることで、連続する周回で同位置にレーザ光が照射されないようにし、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を減少させることができる。
【0013】
また、上記構成においては、前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔をあけて前記全ての溶接部を形成してもよい。
このようにすることで、連続する周回で同位置にレーザ照射が行われないようにし、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を減少させることができる。
【0014】
また、上記構成においては、前記溶接工程が、連続した順序で形成される前記溶接部どうしが離間する前記角度間隔をあけて前記全ての溶接部を形成してもよい。
このようにすることで、連続した順序で形成される溶接部に含まれる熱影響部が同位置にて重複することを防止して、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を更に減少させることができる。
【0015】
また、上記態様においては、前記溶接工程が、互いに隣接する前記溶接部に含まれるナゲット部の少なくとも一部が重複するように前記全ての溶接部を形成する構成であってもよい。
このようにすることで、互いに隣接する溶接部に含まれるナゲット部が重複することとなり、溶接による接合力を強固なものとすることができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1転がり軸受の内輪端面が第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで嵌合する第1嵌合工程と、前記第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において、第2転がり軸受の内輪内面を前記第1部材の外面に嵌合する第2嵌合工程と、前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で前記第1転がり軸受及び前記第2転がり軸受の内輪どうしを、軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、第1転がり軸受の内輪端面が第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで嵌合し、第1の転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において第2転がり軸受の内輪内面を第1部材の外面に嵌合し、第1転がり軸受と第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で第1転がり軸受及び第2転がり軸受の内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧し、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合することで、適正な予圧を維持して複数の溶接部が形成された転がり軸受装置が製造される。
【0018】
そして、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するので、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。
【0019】
また、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様に係る製造方法により製造された転がり軸受装置を提供する。
本発明の第4の態様は、第3の態様に係る転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置を提供する。
【0021】
本発明の第5の態様は、転がり軸受の内輪内面が軸状の第1部材の外面に嵌合した転がり軸受装置の製造装置であって、周方向の複数箇所に対して順次レーザを照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合するレーザ光照射部と、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成するよう前記レーザ光照射部を制御する制御部とを備える転がり軸受装置の製造装置を提供する。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合することで、複数箇所にレーザ光が照射された転がり軸受装置が製造される。そして、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するので、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。
【0023】
従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。また、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーザ光を照射して転がり軸受を溶接する場合に、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生と、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置およびその製造装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の転がり軸受装置を示す分解縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の製造装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図1の転がり軸受装置の一方の転がり軸受のシャフトへの圧入工程を説明する(a)圧入前、(b)圧入後の縦断面図である。
【図5】図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受のスリーブへの圧入工程を説明する(a)圧入前、(b)圧入後の縦断面図である。
【図6】図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受のシャフトへの圧入工程を説明する縦断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の製造方法の溶接工程を示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の製造方法の溶接工程を示すフローチャートである。
【図17】転がり軸受装置を高温高湿環境に放置して錆の発生を試験した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置1の製造装置および転がり軸受装置1の製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造装置30は、転がり軸受5Aの内輪2内面2aがシャフト6の外面に嵌合した転がり軸受装置1を製造するものである。そして、本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造装置30は、周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射し転がり軸受の内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって接合するレーザ光照射部16と、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するようレーザ光照射部16を制御するCPU31とを備える。
【0027】
本実施形態に係る製造装置30により製造される転がり軸受装置1は、図1および図2に示されるように、円環状の内輪2と外輪3との間に複数個のボール4を配置した2つの転がり軸受5A,5Bと、これら2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aに嵌合させるシャフト(第1部材)6と、2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有するスリーブ(第2部材)8とを備えている。
【0028】
シャフト6は、図2に示されるように、そのほぼ全長にわたって、転がり軸受5A,5Bの内輪2の内径より若干小さい第1の外形寸法d1の外周面を有する略円柱状の部材である。シャフト6には、2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aを嵌合させる2箇所の嵌合部9,10と、一方の転がり軸受5Aの内輪2aの端面が突き当てられる鍔部11とが設けられている。
【0029】
嵌合部9と嵌合部10は、シャフト6の軸方向に間隔を空けて配置されている。嵌合部9には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた突条(凸嵌合部)9aが設けられている。また、嵌合部10には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた突条(凸嵌合部)10aが設けられている。
【0030】
突条9aの最外径寸法は、転がり軸受5Aの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外形寸法d2に設定されている。これにより、突条9aを転がり軸受5Aの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合するようになっている。また、突条10aの最外径寸法は、転がり軸受5Bの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外形寸法d2に設定されている。これにより、突条10aを転がり軸受5Bの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合するようになっている。
【0031】
シャフト6の端部から挿入された一方の転がり軸受5Aの内輪2は、図1に示されるように、鍔部11に突き当たる位置まで挿入され、その位置で、一方の嵌合部9に嵌合する。嵌合部9には突条9aが設けられているので、軸受5Aの内輪2は突条9aに圧入状態に嵌合される。また、シャフト6の端部から挿入された他方の転がり軸受5Bの内輪2は、図1に示されるように、突条10aに圧入状態に嵌合する。
【0032】
スリーブ8は、内面に転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有する略円筒状の部材である。嵌合孔7の内面には、スリーブ8の軸方向の略中央位置に配置された転がり軸受5A,5Bの外輪3外径3aより十分に小さい内径寸法を有する段部13と、該段部13を挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる2箇所の嵌合部14,15とが設けられている。
【0033】
段部13の軸方向の両端面は、両嵌合部14,15に嵌合された2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3の端面をそれぞれ突き当てる突き当て面13aを構成している。各嵌合部14,15は、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干大きな第1の内径寸法の底面を有する凹部(凹嵌合部)14a,15aと、該凹部14a,15aを挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さい第2の内径寸法を有する突条(凸嵌合部)14b,15bをそれぞれ備えている。
【0034】
突条14bの内径寸法が転がり軸受5Aの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さいので、突条14bと転がり軸受5Aの外輪3外面3aは、圧入状態に嵌合するようになっている。同様に、突条15bの内径寸法が転がり軸受5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さいので、突条15bと転がり軸受5Bの外輪3外面3aは、圧入状態に嵌合するようになっている。
【0035】
転がり軸受5Bの内輪2内面2aは、溶接箇所Wにて、シャフト6の突条10aに溶接されている。この場合において、転がり軸受5Bの内輪2内面2aはシャフト6の突条10aに圧入状態に嵌合しており、転がり軸受5Bの外輪3外面3aはスリーブ8の突条15bに圧入状態に嵌合している。レーザ光照射部16から複数の溶接箇所Wに対してレーザ光を照射することにより、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部と、シャフト6の外面である突条10aとが溶接される。
【0036】
溶接箇所Wは、転がり軸受装置1を回転台19の上に設置してシャフト6の軸を中心に一定の回転速度にて回転させながら、固定して配置されたレーザ光照射部16から各々一定の照射時間(例えば、0.5msec)のレーザ光が順次照射されて溶接される。転がり軸受装置1の回転台19への設置は、シャフト6の鍔部11の外面11aを回転台19の内面19aに突き当て、不図示の固定具により外面11aと内面19aが突き当てられた状態を維持することにより行われる。なお、鍔部11の外径は、回転台19の内面19aの内径よりも少しだけ短い径とされている。
【0037】
回転機構18は、回転台19と、モータ21と、モータ駆動軸20とを備える。回転機構18は、転がり軸受装置1が回転台19に設置された状態で、モータ21の駆動力を、モータ駆動軸20を介して回転体19に伝達し、転がり軸受装置1をシャフト6の軸を中心に回転させる。レーザ光照射部16は固定して配置されているので、転がり軸受装置1が回転することにより、レーザ光照射部16とシャフト6とがシャフト6の軸を中心に相対的に回転する。
【0038】
レーザ光照射部16とモータ21は、図3に示される転がり軸受装置1の製造装置30に含まれるCPU(制御部)31により制御される。CPU31は、ROM(Read Only Memory)33に記憶された制御プログラムを、RAM(Random Access Memory)32に読み出して、制御プログラムを実行する。制御プログラムには、モータ21の回転を制御するプログラムと、レーザ光照射部16によるレーザ光の照射を制御するプログラムが含まれている。CPU31は、制御プログラムを実行し、制御バス34を介してモータ21およびレーザ光照射部16が照射するレーザ光を制御するレーザ光制御部35に制御コマンドを伝達することにより、モータ21およびレーザ光照射部16によるレーザ光の照射を制御する。
【0039】
なお、レーザ光制御部35は光ファイバ(不図示)を介してレーザ光照射部16に導光されるレーザ光源(不図示)を備えている。CPU31がレーザ光制御部35のレーザ光源の照射を制御することにより、レーザ光照射部16によるレーザ光の照射が制御される。
【0040】
以上のように、本発明の実施形態にかかる転がり軸受装置1の製造装置30は、レーザ光照射部16と回転機構18を備え、更に、それらを制御するCPU31を備える。CPU31は、レーザ光制御部35およびモータ21を制御することにより、転がり軸受装置1を製造する。
【0041】
次に、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法について説明する。本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法は、転がり軸受5Bの内輪2内面2aをシャフト6の外面に嵌合する嵌合工程と、周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射し、転がり軸受5Aの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成する。
【0042】
第1嵌合工程(嵌合工程)は、図4(a)に示されるように、転がり軸受5Aの内輪2をシャフト6の先端側から嵌合させていく。転がり軸受5Aが先端側の嵌合部10を通過し、内輪2の端面が鍔部11に突き当たるまで挿入すると、図4(b)に示されるように、嵌合部9において内輪2内面2aがシャフト6の外面に設けられた突条9aに圧入状態で嵌合される。
【0043】
次に、図5(a)に示されるように、凹部15aが配されている嵌合部15側の端部から他方の転がり軸受5Bの外輪3をスリーブ8の嵌合孔7に嵌合させていく。転がり軸受5Bの外輪3の外径は、嵌合部15の突条15bの内径より大きいので、外輪3は突条15bによって半径方向内方に圧縮されながら挿入されて、図5(b)に示される状態となる。
【0044】
この後に、第2の嵌合工程において、図4(b)のサブ組立体と、図5(b)のサブ組立体とを組み付ける。図6に示されるように、矢印の位置に治具により押圧力を作用させて転がり軸受5Bの内輪2内面2aとシャフト6の嵌合部10との嵌合および転がり軸受5Aの外輪3外面3aとスリーブ8の嵌合孔7の嵌合部14との嵌合を同時に行う。
【0045】
これにより、転がり軸受5Bの内輪2内面2aがシャフト6の嵌合部10に設けられた突条10aに圧入状態に嵌合される。同時に、転がり軸受5Aの外輪3外面3aがスリーブ8の嵌合孔7内面に設けられた突条14bに圧入状態に嵌合される。
【0046】
この後に、予圧工程において、図示しない治具により2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2どうしを近接させる方向に押圧して、転がり軸受5A,5Bに予圧をかける。2つの転がり軸受5A,5Bは、シャフト6に圧入状態に嵌合されているので、予圧工程により付与された押圧力は、転がり軸受装置1から治具を外した後であっても、しばらくの間、圧入状態の内輪とシャフト6とによって予圧がかけられた状態が維持される。そして、圧入状態の内輪とシャフト6とによって予圧がかけられた状態が維持されたまま、溶接工程において、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部の少なくとも一部とシャフト6の外面とが溶接される。
【0047】
溶接工程は、予圧工程によって予圧がかけられた状態が維持された転がり軸受装置1の溶接箇所Wに対して、図1に示されるレーザ光照射部16からレーザ光を照射する。レーザ光が照射されることにより、照射された位置の金属が溶解して溶接部が形成される。溶接部は、レーザ光の照射により金属が溶融凝固したナゲット部と、レーザ光の照射による熱影響を受ける熱影響部を含むものである。
【0048】
溶接箇所Wは、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを接合する箇所である。溶接箇所Wは、シャフト6の軸を中心としシャフト6の外面の突条10aが設けられた位置を半径とする円周の周方向に複数箇所設けられる。図7(a)は図1に示される転がり軸受装置1の上面図であり、30°の等しい角度間隔をあけて12箇所の溶接箇所Wが設けられている。
【0049】
ここで、溶接工程において本実施形態に係る転がり軸受装置の製造装置30が実行する具体的処理について、図7〜図10を用いて説明する。
図10のステップS1001において、CPU31は、制御バス34を介してモータ21に制御コマンドを送信し、モータ21の回転を開始する。モータ21の回転が開始されることにより、シャフト6は図7(a)に示される矢印の方向にシャフト6の軸を中心として回転する。モータ21の回転が開始されてモータ21が一定の回転速度に達すると、ステップS1002において、CPU31が制御バス34を介してレーザ光制御部35に制御コマンドを送信し、レーザ光照射部16から溶接箇所Wに対して一定の照射時間(例えば、0.5msec)でレーザ光を照射する。
【0050】
レーザ光は図7(a)に示される位置Sに対して照射される。シャフト6がシャフト6の軸線回りに回転して位置Sに対して溶接箇所Wが相対的に移動することにより、全ての溶接箇所Wに対するレーザ光の照射が可能となる。なお、図7(a)における点線は、レーザ光が照射されることにより溶接部となる溶接箇所Wを示すものである。また、レーザ光の照射が開始されてからレーザ光の照射が終了するまで、CPU31は、シャフト6が一定の回転速度で回転するようモータ21を制御する。
【0051】
ステップS1003において、CPU31は、S1002にてレーザ光が照射された溶接箇所Wが周方向に120°の角度間隔をあけて回転したかどうかを判定し、120°の回転が行われた場合はステップS1004へ処理を進める。ステップS1004では、S1002にてレーザ光が照射された溶接箇所Wが周方向に360°の角度間隔を回転したかどうか(すなわち、1周分回転したかどうか)を判定し、360°の回転が行われた場合はステップS1005へ処理を進める。
【0052】
ステップS1004にてNOと判定された場合、CPU31は、ステップS1002とステップS1003の処理を繰り返し、再びステップS1004の処理を行う。この処理が行われることにより、1周分の溶接箇所Wに対してレーザ光が順次照射される。図7(b)は、溶接工程を開始してから、W1-1,W1-2,W1-3の順に3箇所の溶接箇所にレーザ光を照射した例を示す図である。図7(b)に示される時点で、W1-1にレーザ光が照射されてから240°回転しており、あと120°更に回転することで、360°回転することとなる。
【0053】
レーザ光の照射が開始されてから360°回転した場合、CPU31は、ステップS1005にて溶接開始位置をずらす処理を実行する。具体的には、30°の回転が行われるまで2周目についてのレーザ光の照射を遅延させることで2周目の溶接開始位置をずらす。S1006で、CPU31は、全ての溶接箇所Wに対するレーザ光の照射をしたかどうかを判定し、NOであればステップS1002へ処理を進め、YESであればステップS1007に処理を進める。
【0054】
このように、1周を等分割した角度間隔(図7に示される例では1周を3分割した120°間隔)をあけて1周分の溶接部を溶接する第1工程が実行される。そして、第1工程が実行された後に、1周を等分割した角度間隔より小さい角度(図7に示される例では120°間隔より小さい30°)だけ溶接開始位置をずらす第2工程が実行される。この第1工程と第2工程を繰り返すことにより、全ての溶接箇所Wにレーザ光が照射され、溶接部が形成される。
【0055】
図8(a)に示されるように、1周目の最初の溶接箇所W1-1が位置Sを通過してから30°更に回転した後に2周目の最初の溶接箇所W2-1に対してレーザ光が照射される。そして、図8(b)に示されるように、2周目の最初の溶接箇所W2-1る。更に、2周目の最初の溶接箇所W2-1が位置Sを通過してから240°回転した溶接箇所W2-3にレーザ光を照射する。図8(b)に示される時点で、W2-1にレーザ光の照射がされてから240°回転しており、あと120°更に回転することで、360°回転することとなる。
【0056】
W2-1にレーザ光の照射がされてから360°回転してから更に30°回転した後に3周目の1箇所目の溶接位置W3-1に対してレーザ光が照射される。ステップS1002からS1004の第1工程と、ステップS1005の第2工程を繰り返すことにより、3周目の溶接箇所(図9(a)に示されるW3-1,W3-2,W3-3)と4周目の溶接箇所(図9(b)に示されるW4-1,W4-2,W4-3)に対してレーザ光が照射される。そして、12箇所の全ての溶接箇所Wに対してレーザ光を照射して全ての溶接部を形成すると(ステップS1006でYES)、CPU31はモータ21に制御コマンドを送信してモータ21の回転を停止し、溶接工程を終了する。
【0057】
以上説明したように、本実施形態においては、溶接工程で、CPU31が、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成する。具体的には、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wが30°の角度間隔をあけて配置されている場合に、120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する。
【0058】
本実施形態によれば、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。また、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受5Aの位置ずれの発生を減少させることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、溶接工程が、レーザ光照射部16とシャフト6とをシャフト6の軸線回りに相対的に回転させながら全ての溶接部を形成する。このようにすることで、1つのレーザ光照射部16を用いて周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射することができる。
【0060】
また、本実施形態においては、溶接工程が、1周を等分割した角度間隔をあけて1周分の溶接部を形成する第1工程(ステップS1002〜S1004)と、等分割した角度間隔より小さい角度だけ溶接開始位置をずらす第2工程(ステップS1005)とを繰り返して全ての溶接部を形成する。
このようにすることで、連続する周回で同位置にレーザ光が照射されないようにし、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を減少させることができる。
【0061】
また、本実施形態においては、溶接工程が、連続した順序で形成される溶接部どうしが離間する角度間隔(例えば、120°)をあけて全ての溶接部を形成する。
このようにすることで、連続した順序で形成される溶接部に含まれる熱影響部が同位置にて重複することを防止して、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を更に減少させることができる。
【0062】
また、本実施形態においては、転がり軸受5Bの内輪2端面がシャフト6に設けられた鍔部11に突き当たるまで嵌合し、転がり軸受5Bから軸方向に間隔をあけた位置において転がり軸受5Aの内輪2内面2aをシャフト6の外面に嵌合し、転がり軸受5Bと転がり軸受5Aの外輪間にスリーブ8を挟んだ状態で第1転がり軸受5A及び転がり軸受5Bの内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧する。そして、周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射して転がり軸受5Aの内輪における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって接合することで、適正な予圧を維持して複数の溶接部が形成された転がり軸受装置1が製造される。
【0063】
なお、本実施形態においては、30°の等しい角度間隔をあけて12箇所の溶接箇所Wが設け、120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法を採用したが、他の態様であってもよい。例えば、図11(a)に示されるように7.5°の等しい角度間隔をあけて48箇所の溶接箇所Wを設け、図11(b)に示されるように120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法であってもよい。この場合にCPU31が実行する処理は、ステップS1005において遅延せる時間が異なる点を除いて、図10に示されるものと同様である。
【0064】
図12(a)に示されるように、2周目の1箇所目の溶接箇所W2-1は1周目の1箇所目の溶接箇所W1-1に隣接した溶接箇所となる。また、図12(b)に示されるように、2周目の2箇所目の溶接箇所W2-2は1周目の2箇所目の溶接箇所W1-2に隣接した溶接箇所となり、2周目の3箇所目の溶接箇所W2-3は1周目の3箇所目の溶接箇所W1-3に隣接した溶接箇所となる。しかしながら、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wは、連続した順序で溶接されない。そして、全ての溶接部が形成された転がり軸受装置1は、図13に示されるものとなる。
【0065】
図12および図13に示される例では、互いに隣接する溶接部(W1-1とW2-1、W1-2とW2-2、W1-3とW2-3)に含まれるナゲット部の少なくとも一部が重複するように全ての溶接部が形成される。図12および図13では、隣接する溶接部が重複する状態が示されているが、溶接部に含まれるナゲット部も重複しているものとする。
このようにすることで、互いに隣接する溶接部に含まれるナゲット部が重複することとなり、溶接による接合力を強固なものとすることができる。
【0066】
なお、本実施形態においては、30°の等しい角度間隔をあけて12箇所の溶接箇所Wが設け、120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法を採用したが、他の態様であってもよい。例えば、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔をあけて全ての溶接部を形成する方法を採用してもよい。図14及び図15は、7.5°の等しい角度間隔をあけて48箇所の溶接箇所Wを設け、127.5度の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法を示すものである。この場合にCPU31が実行する処理は、図10に示されるものとは異なり、図16に示されるものとなる。
【0067】
図16のステップS1601、S1602、S1604、S1605における処理は、図10のステップS1001、S1002、S1006、S1007における処理と同様であるので説明を省略する。図16では、図10におけるステップS1004およびS1005に対応する処理がない。図10のステップS1003では120°の角度間隔をあけて回転したかどうかを判定していたが、図16のステップS1603では127.5°の角度間隔をあけて回転したかどうかを判定する。127.5°の角度間隔は、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔である。
【0068】
図14(a)はいずれの溶接箇所Wに対してもレーザ光が照射されていない転がり軸受装置1を示すものであり、互いに隣接する溶接箇所Wが7.5°の角度間隔をあけて配置されている。そして、図14(b)には127.5°の角度間隔をあけてW1,W2,W3の順に3箇所の溶接箇所Wに対してレーザ光が照射された転がり軸受装置1が示されている。図15(a)に示されるように、4箇所目の溶接箇所W4この位置に1箇所目の溶接箇所W1とは隣接しない溶接部が形成される。この例では、127.5°の角度間隔をあけてレーザ光を照射する動作が繰り返される(ステップS1602〜S1604)。全ての溶接箇所Wに対してレーザ光が照射されると、図15(b)に示される状態となる。
【0069】
図15(b)には、転がり軸受装置1に形成される溶接部の状態が図示されており、図中に示されるW32〜W48の17箇所の溶接部が、隣接する溶接部よりも後にレーザ光が照射されることが示されている。
【0070】
なお、本実施形態においては、レーザ光照射部16が1箇所の溶接部を形成するためにレーザ光を照射する時間を、転がり軸受装置1の転がり軸受5Aや突条部10aの直径d2に適した任意の時間を設定すればよい。図17には、突条部10aの直径d2を4mm、5mm、6.35mmと3種類のいずれかとし、レーザ光照射部16が溶接箇所Wに形成するレーザ光のスポット径を150μmとし、レーザ光を駆動するパワーを0.4W〜2kWで可変させて溶接した転がり軸受装置1を試験した結果が示されている。
【0071】
図17に示される試験では、転がり軸受装置1を高温高湿環境に、24時間、50時間、75時間、100時間放置した際に、複数の転がり軸受装置1に錆が発生する割合がどの程度となるかを試験した。なお、レーザ光を照射する時間は、図17に示される0.2msec〜20msecで変化させて試験した。その結果、照射時間を0.5msec以下とした場合には、いずれの試験時間(高温高湿環境へ放置した時間)であっても、錆の発生が認められなかった。従って、レーザ光照射部16によるレーザ光の照射時間を0.5msec以下とするのが望ましい。
【0072】
なお、本実施形態においては、回転機構18が、転がり軸受装置1が回転台19に設置された状態で、転がり軸受装置1をシャフト6の軸を中心に回転させる方法を採用したが、他の態様であってもよい。具体的には、転がり軸受装置1を固定して配置し、レーザ光照射部16をシャフト6の軸を中心に相対的に回転してもよい。
【0073】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1は、ハードディスク装置(図示略)のスイングアームを揺動可能に支持するために使用することが好ましい。なお、スイングアームの先端にはハードディスク装置が備える磁気ディスク(記憶媒体)に対してデータを読み書きするためのピックアップが設けられる。前述したように、転がり軸受5Bの内輪2の周縁部側の軸方向端面2bにパーティクルが付着することによる不具合や、シャフト6にパーティクルが付着することによる不具合を減少させることができるので、ハードディスク装置の動作不良を防止することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 転がり軸受装置
6 シャフト
16 レーザ光照射部
18 回転機構
19 回転台
21 モータ
30 転がり軸受装置の製造装置
31 CPU
32 RAM
33 ROM
34 制御バス
35 レーザ光制御部
W 溶接箇所
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の転がり軸受と、該転がり軸受の内輪に嵌合する回転軸と、転がり軸受の外輪を嵌合させるハウジングとを備える転がり軸受装置の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に記載された製造方法では、転がり軸受の内輪を回転軸に対して圧入し、圧入された内輪に所定の予圧を付与した状態で内輪と回転軸の外周面とを接着剤を用いた接着力によって固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−182543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着剤は一般に硬化時間が長くかかるため、転がり軸受に予圧をかけた状態で固定するには、接着剤が完全に硬化するまでの間、予圧をかける装置あるいは予圧をかけた状態に維持する治具に取り付けたままの状態に維持する必要があり、生産性が悪いという不都合がある。また、特に、嫌気性の接着剤の場合には、接着剤から発生するガス(アウトガス)により転がり軸受装置を備える装置(例えば、ハードディスク装置)が損傷する可能性がある。
そこで、接着剤を用いて接合する代わりにレーザ光を照射して溶接することで、接着剤を用いた場合の不具合を解消することができる。
【0005】
しかしながら、レーザ光を照射して溶接する場合、レーザ光の照射により金属が溶融凝固した部分(ナゲット部)の周辺に錆が発生しやすくなるという問題がある。この錆は、レーザ光の照射による熱影響を受ける部分(熱影響部:ナゲット部の周辺で金属が溶融凝固していない部分)で炭素とクロムが結合してしまい、金属中のクロムの含有量が減少することにより発生しやすくなる。従って、近接した箇所に連続的にレーザ光を照射する場合には、レーザ光の照射による熱影響が同位置に累積的に及んでしまい、特に錆が発生しやすくなるという問題がある。
【0006】
また、近接した箇所に連続的にレーザ光を照射する場合、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまい、回転軸に対する転がり軸受の位置ずれが発生しやすくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光を照射して転がり軸受を溶接する場合に、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生と、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材の外面に嵌合する嵌合工程と、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材と嵌合し、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合することで、複数箇所にレーザ光が照射された転がり軸受装置が製造される。そして、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するので、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。
【0010】
従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。また、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる。
【0011】
上記態様においては、前記溶接工程が、レーザ光の照射部と前記第1部材とを該第1部材の軸線回りに相対的に回転させながら前記全ての溶接部を形成する構成であってもよい。
このようにすることで、1つのレーザ光の照射部を用いて周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射することができる。
【0012】
また、上記構成においては、前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔をあけて1周分の溶接部を形成する第1工程と、前記角度間隔より小さい角度だけ溶接開始位置をずらす第2工程とを繰り返して前記全ての溶接部を形成してもよい。
このようにすることで、連続する周回で同位置にレーザ光が照射されないようにし、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を減少させることができる。
【0013】
また、上記構成においては、前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔をあけて前記全ての溶接部を形成してもよい。
このようにすることで、連続する周回で同位置にレーザ照射が行われないようにし、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を減少させることができる。
【0014】
また、上記構成においては、前記溶接工程が、連続した順序で形成される前記溶接部どうしが離間する前記角度間隔をあけて前記全ての溶接部を形成してもよい。
このようにすることで、連続した順序で形成される溶接部に含まれる熱影響部が同位置にて重複することを防止して、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を更に減少させることができる。
【0015】
また、上記態様においては、前記溶接工程が、互いに隣接する前記溶接部に含まれるナゲット部の少なくとも一部が重複するように前記全ての溶接部を形成する構成であってもよい。
このようにすることで、互いに隣接する溶接部に含まれるナゲット部が重複することとなり、溶接による接合力を強固なものとすることができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1転がり軸受の内輪端面が第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで嵌合する第1嵌合工程と、前記第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において、第2転がり軸受の内輪内面を前記第1部材の外面に嵌合する第2嵌合工程と、前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で前記第1転がり軸受及び前記第2転がり軸受の内輪どうしを、軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、第1転がり軸受の内輪端面が第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで嵌合し、第1の転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において第2転がり軸受の内輪内面を第1部材の外面に嵌合し、第1転がり軸受と第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で第1転がり軸受及び第2転がり軸受の内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧し、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合することで、適正な予圧を維持して複数の溶接部が形成された転がり軸受装置が製造される。
【0018】
そして、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するので、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。
【0019】
また、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様に係る製造方法により製造された転がり軸受装置を提供する。
本発明の第4の態様は、第3の態様に係る転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置を提供する。
【0021】
本発明の第5の態様は、転がり軸受の内輪内面が軸状の第1部材の外面に嵌合した転がり軸受装置の製造装置であって、周方向の複数箇所に対して順次レーザを照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合するレーザ光照射部と、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成するよう前記レーザ光照射部を制御する制御部とを備える転がり軸受装置の製造装置を提供する。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射して転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合することで、複数箇所にレーザ光が照射された転がり軸受装置が製造される。そして、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するので、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。
【0023】
従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。また、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーザ光を照射して転がり軸受を溶接する場合に、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生と、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受の位置ずれの発生を減少させることができる転がり軸受装置およびその製造方法、転がり軸受の製造装置、並びにハードディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置およびその製造装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の転がり軸受装置を示す分解縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の製造装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図1の転がり軸受装置の一方の転がり軸受のシャフトへの圧入工程を説明する(a)圧入前、(b)圧入後の縦断面図である。
【図5】図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受のスリーブへの圧入工程を説明する(a)圧入前、(b)圧入後の縦断面図である。
【図6】図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受のシャフトへの圧入工程を説明する縦断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の製造方法の溶接工程を示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の溶接箇所を示す上面図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の製造方法の溶接工程を示すフローチャートである。
【図17】転がり軸受装置を高温高湿環境に放置して錆の発生を試験した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置1の製造装置および転がり軸受装置1の製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造装置30は、転がり軸受5Aの内輪2内面2aがシャフト6の外面に嵌合した転がり軸受装置1を製造するものである。そして、本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造装置30は、周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射し転がり軸受の内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって接合するレーザ光照射部16と、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成するようレーザ光照射部16を制御するCPU31とを備える。
【0027】
本実施形態に係る製造装置30により製造される転がり軸受装置1は、図1および図2に示されるように、円環状の内輪2と外輪3との間に複数個のボール4を配置した2つの転がり軸受5A,5Bと、これら2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aに嵌合させるシャフト(第1部材)6と、2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有するスリーブ(第2部材)8とを備えている。
【0028】
シャフト6は、図2に示されるように、そのほぼ全長にわたって、転がり軸受5A,5Bの内輪2の内径より若干小さい第1の外形寸法d1の外周面を有する略円柱状の部材である。シャフト6には、2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aを嵌合させる2箇所の嵌合部9,10と、一方の転がり軸受5Aの内輪2aの端面が突き当てられる鍔部11とが設けられている。
【0029】
嵌合部9と嵌合部10は、シャフト6の軸方向に間隔を空けて配置されている。嵌合部9には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた突条(凸嵌合部)9aが設けられている。また、嵌合部10には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた突条(凸嵌合部)10aが設けられている。
【0030】
突条9aの最外径寸法は、転がり軸受5Aの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外形寸法d2に設定されている。これにより、突条9aを転がり軸受5Aの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合するようになっている。また、突条10aの最外径寸法は、転がり軸受5Bの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外形寸法d2に設定されている。これにより、突条10aを転がり軸受5Bの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合するようになっている。
【0031】
シャフト6の端部から挿入された一方の転がり軸受5Aの内輪2は、図1に示されるように、鍔部11に突き当たる位置まで挿入され、その位置で、一方の嵌合部9に嵌合する。嵌合部9には突条9aが設けられているので、軸受5Aの内輪2は突条9aに圧入状態に嵌合される。また、シャフト6の端部から挿入された他方の転がり軸受5Bの内輪2は、図1に示されるように、突条10aに圧入状態に嵌合する。
【0032】
スリーブ8は、内面に転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有する略円筒状の部材である。嵌合孔7の内面には、スリーブ8の軸方向の略中央位置に配置された転がり軸受5A,5Bの外輪3外径3aより十分に小さい内径寸法を有する段部13と、該段部13を挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる2箇所の嵌合部14,15とが設けられている。
【0033】
段部13の軸方向の両端面は、両嵌合部14,15に嵌合された2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3の端面をそれぞれ突き当てる突き当て面13aを構成している。各嵌合部14,15は、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干大きな第1の内径寸法の底面を有する凹部(凹嵌合部)14a,15aと、該凹部14a,15aを挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さい第2の内径寸法を有する突条(凸嵌合部)14b,15bをそれぞれ備えている。
【0034】
突条14bの内径寸法が転がり軸受5Aの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さいので、突条14bと転がり軸受5Aの外輪3外面3aは、圧入状態に嵌合するようになっている。同様に、突条15bの内径寸法が転がり軸受5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さいので、突条15bと転がり軸受5Bの外輪3外面3aは、圧入状態に嵌合するようになっている。
【0035】
転がり軸受5Bの内輪2内面2aは、溶接箇所Wにて、シャフト6の突条10aに溶接されている。この場合において、転がり軸受5Bの内輪2内面2aはシャフト6の突条10aに圧入状態に嵌合しており、転がり軸受5Bの外輪3外面3aはスリーブ8の突条15bに圧入状態に嵌合している。レーザ光照射部16から複数の溶接箇所Wに対してレーザ光を照射することにより、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部と、シャフト6の外面である突条10aとが溶接される。
【0036】
溶接箇所Wは、転がり軸受装置1を回転台19の上に設置してシャフト6の軸を中心に一定の回転速度にて回転させながら、固定して配置されたレーザ光照射部16から各々一定の照射時間(例えば、0.5msec)のレーザ光が順次照射されて溶接される。転がり軸受装置1の回転台19への設置は、シャフト6の鍔部11の外面11aを回転台19の内面19aに突き当て、不図示の固定具により外面11aと内面19aが突き当てられた状態を維持することにより行われる。なお、鍔部11の外径は、回転台19の内面19aの内径よりも少しだけ短い径とされている。
【0037】
回転機構18は、回転台19と、モータ21と、モータ駆動軸20とを備える。回転機構18は、転がり軸受装置1が回転台19に設置された状態で、モータ21の駆動力を、モータ駆動軸20を介して回転体19に伝達し、転がり軸受装置1をシャフト6の軸を中心に回転させる。レーザ光照射部16は固定して配置されているので、転がり軸受装置1が回転することにより、レーザ光照射部16とシャフト6とがシャフト6の軸を中心に相対的に回転する。
【0038】
レーザ光照射部16とモータ21は、図3に示される転がり軸受装置1の製造装置30に含まれるCPU(制御部)31により制御される。CPU31は、ROM(Read Only Memory)33に記憶された制御プログラムを、RAM(Random Access Memory)32に読み出して、制御プログラムを実行する。制御プログラムには、モータ21の回転を制御するプログラムと、レーザ光照射部16によるレーザ光の照射を制御するプログラムが含まれている。CPU31は、制御プログラムを実行し、制御バス34を介してモータ21およびレーザ光照射部16が照射するレーザ光を制御するレーザ光制御部35に制御コマンドを伝達することにより、モータ21およびレーザ光照射部16によるレーザ光の照射を制御する。
【0039】
なお、レーザ光制御部35は光ファイバ(不図示)を介してレーザ光照射部16に導光されるレーザ光源(不図示)を備えている。CPU31がレーザ光制御部35のレーザ光源の照射を制御することにより、レーザ光照射部16によるレーザ光の照射が制御される。
【0040】
以上のように、本発明の実施形態にかかる転がり軸受装置1の製造装置30は、レーザ光照射部16と回転機構18を備え、更に、それらを制御するCPU31を備える。CPU31は、レーザ光制御部35およびモータ21を制御することにより、転がり軸受装置1を製造する。
【0041】
次に、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法について説明する。本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法は、転がり軸受5Bの内輪2内面2aをシャフト6の外面に嵌合する嵌合工程と、周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射し、転がり軸受5Aの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成する。
【0042】
第1嵌合工程(嵌合工程)は、図4(a)に示されるように、転がり軸受5Aの内輪2をシャフト6の先端側から嵌合させていく。転がり軸受5Aが先端側の嵌合部10を通過し、内輪2の端面が鍔部11に突き当たるまで挿入すると、図4(b)に示されるように、嵌合部9において内輪2内面2aがシャフト6の外面に設けられた突条9aに圧入状態で嵌合される。
【0043】
次に、図5(a)に示されるように、凹部15aが配されている嵌合部15側の端部から他方の転がり軸受5Bの外輪3をスリーブ8の嵌合孔7に嵌合させていく。転がり軸受5Bの外輪3の外径は、嵌合部15の突条15bの内径より大きいので、外輪3は突条15bによって半径方向内方に圧縮されながら挿入されて、図5(b)に示される状態となる。
【0044】
この後に、第2の嵌合工程において、図4(b)のサブ組立体と、図5(b)のサブ組立体とを組み付ける。図6に示されるように、矢印の位置に治具により押圧力を作用させて転がり軸受5Bの内輪2内面2aとシャフト6の嵌合部10との嵌合および転がり軸受5Aの外輪3外面3aとスリーブ8の嵌合孔7の嵌合部14との嵌合を同時に行う。
【0045】
これにより、転がり軸受5Bの内輪2内面2aがシャフト6の嵌合部10に設けられた突条10aに圧入状態に嵌合される。同時に、転がり軸受5Aの外輪3外面3aがスリーブ8の嵌合孔7内面に設けられた突条14bに圧入状態に嵌合される。
【0046】
この後に、予圧工程において、図示しない治具により2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2どうしを近接させる方向に押圧して、転がり軸受5A,5Bに予圧をかける。2つの転がり軸受5A,5Bは、シャフト6に圧入状態に嵌合されているので、予圧工程により付与された押圧力は、転がり軸受装置1から治具を外した後であっても、しばらくの間、圧入状態の内輪とシャフト6とによって予圧がかけられた状態が維持される。そして、圧入状態の内輪とシャフト6とによって予圧がかけられた状態が維持されたまま、溶接工程において、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部の少なくとも一部とシャフト6の外面とが溶接される。
【0047】
溶接工程は、予圧工程によって予圧がかけられた状態が維持された転がり軸受装置1の溶接箇所Wに対して、図1に示されるレーザ光照射部16からレーザ光を照射する。レーザ光が照射されることにより、照射された位置の金属が溶解して溶接部が形成される。溶接部は、レーザ光の照射により金属が溶融凝固したナゲット部と、レーザ光の照射による熱影響を受ける熱影響部を含むものである。
【0048】
溶接箇所Wは、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを接合する箇所である。溶接箇所Wは、シャフト6の軸を中心としシャフト6の外面の突条10aが設けられた位置を半径とする円周の周方向に複数箇所設けられる。図7(a)は図1に示される転がり軸受装置1の上面図であり、30°の等しい角度間隔をあけて12箇所の溶接箇所Wが設けられている。
【0049】
ここで、溶接工程において本実施形態に係る転がり軸受装置の製造装置30が実行する具体的処理について、図7〜図10を用いて説明する。
図10のステップS1001において、CPU31は、制御バス34を介してモータ21に制御コマンドを送信し、モータ21の回転を開始する。モータ21の回転が開始されることにより、シャフト6は図7(a)に示される矢印の方向にシャフト6の軸を中心として回転する。モータ21の回転が開始されてモータ21が一定の回転速度に達すると、ステップS1002において、CPU31が制御バス34を介してレーザ光制御部35に制御コマンドを送信し、レーザ光照射部16から溶接箇所Wに対して一定の照射時間(例えば、0.5msec)でレーザ光を照射する。
【0050】
レーザ光は図7(a)に示される位置Sに対して照射される。シャフト6がシャフト6の軸線回りに回転して位置Sに対して溶接箇所Wが相対的に移動することにより、全ての溶接箇所Wに対するレーザ光の照射が可能となる。なお、図7(a)における点線は、レーザ光が照射されることにより溶接部となる溶接箇所Wを示すものである。また、レーザ光の照射が開始されてからレーザ光の照射が終了するまで、CPU31は、シャフト6が一定の回転速度で回転するようモータ21を制御する。
【0051】
ステップS1003において、CPU31は、S1002にてレーザ光が照射された溶接箇所Wが周方向に120°の角度間隔をあけて回転したかどうかを判定し、120°の回転が行われた場合はステップS1004へ処理を進める。ステップS1004では、S1002にてレーザ光が照射された溶接箇所Wが周方向に360°の角度間隔を回転したかどうか(すなわち、1周分回転したかどうか)を判定し、360°の回転が行われた場合はステップS1005へ処理を進める。
【0052】
ステップS1004にてNOと判定された場合、CPU31は、ステップS1002とステップS1003の処理を繰り返し、再びステップS1004の処理を行う。この処理が行われることにより、1周分の溶接箇所Wに対してレーザ光が順次照射される。図7(b)は、溶接工程を開始してから、W1-1,W1-2,W1-3の順に3箇所の溶接箇所にレーザ光を照射した例を示す図である。図7(b)に示される時点で、W1-1にレーザ光が照射されてから240°回転しており、あと120°更に回転することで、360°回転することとなる。
【0053】
レーザ光の照射が開始されてから360°回転した場合、CPU31は、ステップS1005にて溶接開始位置をずらす処理を実行する。具体的には、30°の回転が行われるまで2周目についてのレーザ光の照射を遅延させることで2周目の溶接開始位置をずらす。S1006で、CPU31は、全ての溶接箇所Wに対するレーザ光の照射をしたかどうかを判定し、NOであればステップS1002へ処理を進め、YESであればステップS1007に処理を進める。
【0054】
このように、1周を等分割した角度間隔(図7に示される例では1周を3分割した120°間隔)をあけて1周分の溶接部を溶接する第1工程が実行される。そして、第1工程が実行された後に、1周を等分割した角度間隔より小さい角度(図7に示される例では120°間隔より小さい30°)だけ溶接開始位置をずらす第2工程が実行される。この第1工程と第2工程を繰り返すことにより、全ての溶接箇所Wにレーザ光が照射され、溶接部が形成される。
【0055】
図8(a)に示されるように、1周目の最初の溶接箇所W1-1が位置Sを通過してから30°更に回転した後に2周目の最初の溶接箇所W2-1に対してレーザ光が照射される。そして、図8(b)に示されるように、2周目の最初の溶接箇所W2-1る。更に、2周目の最初の溶接箇所W2-1が位置Sを通過してから240°回転した溶接箇所W2-3にレーザ光を照射する。図8(b)に示される時点で、W2-1にレーザ光の照射がされてから240°回転しており、あと120°更に回転することで、360°回転することとなる。
【0056】
W2-1にレーザ光の照射がされてから360°回転してから更に30°回転した後に3周目の1箇所目の溶接位置W3-1に対してレーザ光が照射される。ステップS1002からS1004の第1工程と、ステップS1005の第2工程を繰り返すことにより、3周目の溶接箇所(図9(a)に示されるW3-1,W3-2,W3-3)と4周目の溶接箇所(図9(b)に示されるW4-1,W4-2,W4-3)に対してレーザ光が照射される。そして、12箇所の全ての溶接箇所Wに対してレーザ光を照射して全ての溶接部を形成すると(ステップS1006でYES)、CPU31はモータ21に制御コマンドを送信してモータ21の回転を停止し、溶接工程を終了する。
【0057】
以上説明したように、本実施形態においては、溶接工程で、CPU31が、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接することなく全ての溶接部を形成する。具体的には、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wが30°の角度間隔をあけて配置されている場合に、120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する。
【0058】
本実施形態によれば、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接する場合に比べて、同一箇所に熱影響が累積的に及んでしまうという不具合が減少する。従って、レーザ光の照射による熱影響を原因とする錆の発生を減少させることができる。また、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wを連続する順序で溶接する場合に比べて、レーザ光の照射により溶融した金属が硬化収縮することによる影響が局所に集中してしまう不具合が減少する。従って、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮を原因とする転がり軸受5Aの位置ずれの発生を減少させることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、溶接工程が、レーザ光照射部16とシャフト6とをシャフト6の軸線回りに相対的に回転させながら全ての溶接部を形成する。このようにすることで、1つのレーザ光照射部16を用いて周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射することができる。
【0060】
また、本実施形態においては、溶接工程が、1周を等分割した角度間隔をあけて1周分の溶接部を形成する第1工程(ステップS1002〜S1004)と、等分割した角度間隔より小さい角度だけ溶接開始位置をずらす第2工程(ステップS1005)とを繰り返して全ての溶接部を形成する。
このようにすることで、連続する周回で同位置にレーザ光が照射されないようにし、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を減少させることができる。
【0061】
また、本実施形態においては、溶接工程が、連続した順序で形成される溶接部どうしが離間する角度間隔(例えば、120°)をあけて全ての溶接部を形成する。
このようにすることで、連続した順序で形成される溶接部に含まれる熱影響部が同位置にて重複することを防止して、熱影響を原因とする錆の発生および溶融した金属の硬化収縮を原因とする位置ずれの発生を更に減少させることができる。
【0062】
また、本実施形態においては、転がり軸受5Bの内輪2端面がシャフト6に設けられた鍔部11に突き当たるまで嵌合し、転がり軸受5Bから軸方向に間隔をあけた位置において転がり軸受5Aの内輪2内面2aをシャフト6の外面に嵌合し、転がり軸受5Bと転がり軸受5Aの外輪間にスリーブ8を挟んだ状態で第1転がり軸受5A及び転がり軸受5Bの内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧する。そして、周方向の複数の溶接箇所Wに対して順次レーザ光を照射して転がり軸受5Aの内輪における軸方向の周縁部とシャフト6の外面とを複数の溶接部によって接合することで、適正な予圧を維持して複数の溶接部が形成された転がり軸受装置1が製造される。
【0063】
なお、本実施形態においては、30°の等しい角度間隔をあけて12箇所の溶接箇所Wが設け、120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法を採用したが、他の態様であってもよい。例えば、図11(a)に示されるように7.5°の等しい角度間隔をあけて48箇所の溶接箇所Wを設け、図11(b)に示されるように120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法であってもよい。この場合にCPU31が実行する処理は、ステップS1005において遅延せる時間が異なる点を除いて、図10に示されるものと同様である。
【0064】
図12(a)に示されるように、2周目の1箇所目の溶接箇所W2-1は1周目の1箇所目の溶接箇所W1-1に隣接した溶接箇所となる。また、図12(b)に示されるように、2周目の2箇所目の溶接箇所W2-2は1周目の2箇所目の溶接箇所W1-2に隣接した溶接箇所となり、2周目の3箇所目の溶接箇所W2-3は1周目の3箇所目の溶接箇所W1-3に隣接した溶接箇所となる。しかしながら、互いに隣接する溶接部となる溶接箇所Wは、連続した順序で溶接されない。そして、全ての溶接部が形成された転がり軸受装置1は、図13に示されるものとなる。
【0065】
図12および図13に示される例では、互いに隣接する溶接部(W1-1とW2-1、W1-2とW2-2、W1-3とW2-3)に含まれるナゲット部の少なくとも一部が重複するように全ての溶接部が形成される。図12および図13では、隣接する溶接部が重複する状態が示されているが、溶接部に含まれるナゲット部も重複しているものとする。
このようにすることで、互いに隣接する溶接部に含まれるナゲット部が重複することとなり、溶接による接合力を強固なものとすることができる。
【0066】
なお、本実施形態においては、30°の等しい角度間隔をあけて12箇所の溶接箇所Wが設け、120°の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法を採用したが、他の態様であってもよい。例えば、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔をあけて全ての溶接部を形成する方法を採用してもよい。図14及び図15は、7.5°の等しい角度間隔をあけて48箇所の溶接箇所Wを設け、127.5度の角度間隔をあけた溶接箇所Wを連続する順序で溶接する方法を示すものである。この場合にCPU31が実行する処理は、図10に示されるものとは異なり、図16に示されるものとなる。
【0067】
図16のステップS1601、S1602、S1604、S1605における処理は、図10のステップS1001、S1002、S1006、S1007における処理と同様であるので説明を省略する。図16では、図10におけるステップS1004およびS1005に対応する処理がない。図10のステップS1003では120°の角度間隔をあけて回転したかどうかを判定していたが、図16のステップS1603では127.5°の角度間隔をあけて回転したかどうかを判定する。127.5°の角度間隔は、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔である。
【0068】
図14(a)はいずれの溶接箇所Wに対してもレーザ光が照射されていない転がり軸受装置1を示すものであり、互いに隣接する溶接箇所Wが7.5°の角度間隔をあけて配置されている。そして、図14(b)には127.5°の角度間隔をあけてW1,W2,W3の順に3箇所の溶接箇所Wに対してレーザ光が照射された転がり軸受装置1が示されている。図15(a)に示されるように、4箇所目の溶接箇所W4この位置に1箇所目の溶接箇所W1とは隣接しない溶接部が形成される。この例では、127.5°の角度間隔をあけてレーザ光を照射する動作が繰り返される(ステップS1602〜S1604)。全ての溶接箇所Wに対してレーザ光が照射されると、図15(b)に示される状態となる。
【0069】
図15(b)には、転がり軸受装置1に形成される溶接部の状態が図示されており、図中に示されるW32〜W48の17箇所の溶接部が、隣接する溶接部よりも後にレーザ光が照射されることが示されている。
【0070】
なお、本実施形態においては、レーザ光照射部16が1箇所の溶接部を形成するためにレーザ光を照射する時間を、転がり軸受装置1の転がり軸受5Aや突条部10aの直径d2に適した任意の時間を設定すればよい。図17には、突条部10aの直径d2を4mm、5mm、6.35mmと3種類のいずれかとし、レーザ光照射部16が溶接箇所Wに形成するレーザ光のスポット径を150μmとし、レーザ光を駆動するパワーを0.4W〜2kWで可変させて溶接した転がり軸受装置1を試験した結果が示されている。
【0071】
図17に示される試験では、転がり軸受装置1を高温高湿環境に、24時間、50時間、75時間、100時間放置した際に、複数の転がり軸受装置1に錆が発生する割合がどの程度となるかを試験した。なお、レーザ光を照射する時間は、図17に示される0.2msec〜20msecで変化させて試験した。その結果、照射時間を0.5msec以下とした場合には、いずれの試験時間(高温高湿環境へ放置した時間)であっても、錆の発生が認められなかった。従って、レーザ光照射部16によるレーザ光の照射時間を0.5msec以下とするのが望ましい。
【0072】
なお、本実施形態においては、回転機構18が、転がり軸受装置1が回転台19に設置された状態で、転がり軸受装置1をシャフト6の軸を中心に回転させる方法を採用したが、他の態様であってもよい。具体的には、転がり軸受装置1を固定して配置し、レーザ光照射部16をシャフト6の軸を中心に相対的に回転してもよい。
【0073】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1は、ハードディスク装置(図示略)のスイングアームを揺動可能に支持するために使用することが好ましい。なお、スイングアームの先端にはハードディスク装置が備える磁気ディスク(記憶媒体)に対してデータを読み書きするためのピックアップが設けられる。前述したように、転がり軸受5Bの内輪2の周縁部側の軸方向端面2bにパーティクルが付着することによる不具合や、シャフト6にパーティクルが付着することによる不具合を減少させることができるので、ハードディスク装置の動作不良を防止することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 転がり軸受装置
6 シャフト
16 レーザ光照射部
18 回転機構
19 回転台
21 モータ
30 転がり軸受装置の製造装置
31 CPU
32 RAM
33 ROM
34 制御バス
35 レーザ光制御部
W 溶接箇所
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材の外面に嵌合する嵌合工程と、
周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、
該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程が、レーザ光の照射部と前記第1部材とを該第1部材の軸線回りに相対的に回転させながら前記全ての溶接部を形成する請求項1に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項3】
前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔をあけて1周分の溶接部を形成する第1工程と、前記角度間隔より小さい角度だけ溶接開始位置をずらす第2工程とを繰り返して前記全ての溶接部を形成する請求項2に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔をあけて前記全ての溶接部を形成する請求項2に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項5】
前記溶接工程が、連続した順序で形成される前記溶接部どうしが離間する前記角度間隔をあけて前記全ての溶接部を形成する請求項3または請求項4に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項6】
前記溶接工程が、互いに隣接する前記溶接部に含まれるナゲット部の少なくとも一部が重複するように前記全ての溶接部を形成する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項7】
第1の転がり軸受の内輪端面が第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで嵌合する第1嵌合工程と、
前記第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において、第2転がり軸受の内輪内面を前記第1部材の外面に嵌合する第2嵌合工程と、
前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で前記第1転がり軸受及び前記第2転がり軸受の内輪どうしを、軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、
周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、
該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の製造方法により製造される転がり軸受装置。
【請求項9】
請求項8に記載の転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置。
【請求項10】
転がり軸受の内輪内面が軸状の第1部材の外面に嵌合した転がり軸受装置の製造装置であって、
周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合するレーザ光照射部と、
互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成するよう前記レーザ光照射部を制御する制御部とを備える転がり軸受装置の製造装置。
【請求項1】
転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材の外面に嵌合する嵌合工程と、
周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、
該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程が、レーザ光の照射部と前記第1部材とを該第1部材の軸線回りに相対的に回転させながら前記全ての溶接部を形成する請求項1に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項3】
前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔をあけて1周分の溶接部を形成する第1工程と、前記角度間隔より小さい角度だけ溶接開始位置をずらす第2工程とを繰り返して前記全ての溶接部を形成する請求項2に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程が、1周を等分割した角度間隔とは異なる間隔をあけて前記全ての溶接部を形成する請求項2に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項5】
前記溶接工程が、連続した順序で形成される前記溶接部どうしが離間する前記角度間隔をあけて前記全ての溶接部を形成する請求項3または請求項4に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項6】
前記溶接工程が、互いに隣接する前記溶接部に含まれるナゲット部の少なくとも一部が重複するように前記全ての溶接部を形成する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項7】
第1の転がり軸受の内輪端面が第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで嵌合する第1嵌合工程と、
前記第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において、第2転がり軸受の内輪内面を前記第1部材の外面に嵌合する第2嵌合工程と、
前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で前記第1転がり軸受及び前記第2転がり軸受の内輪どうしを、軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、
周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合する溶接工程と、を含み、
該溶接工程が、互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成する転がり軸受装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の製造方法により製造される転がり軸受装置。
【請求項9】
請求項8に記載の転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置。
【請求項10】
転がり軸受の内輪内面が軸状の第1部材の外面に嵌合した転がり軸受装置の製造装置であって、
周方向の複数箇所に対して順次レーザ光を照射し、前記転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部と前記第1部材の外面とを複数の溶接部によって接合するレーザ光照射部と、
互いに隣接する溶接部となる箇所を連続する順序で溶接することなく全ての前記溶接部を形成するよう前記レーザ光照射部を制御する制御部とを備える転がり軸受装置の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−76453(P2013−76453A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218233(P2011−218233)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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