説明

転てつ機

【課題】従来よりも長期にわたって適正な転てつ動作が確実になされる転てつ機を提供すること。
【解決手段】駆動機構部の動力で駆動される部分ピニオンギア144と動作桿102に設けられたラック150とが噛み合って当該動作桿を動かすことで転換動作する転てつ機に、部分ピニオンギア144と同軸回転し、転換動作の終了の際に、動作桿102に設けられたローラ部(第1ローラ154又は第2ローラ156)に当接して当該動作桿を転換動作方向へ押し動かすカム部(付勢カム148)を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の分岐器を定位/反位に転換させる転てつ機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の転てつ機として、動作桿の一部に歯列を設けることで形成されたラックと、歯列の一部を欠いた部分ピニオンギアとで、動作桿を転換動作方向に直動させるラック&ピニオン機構を構成した転てつ機が知られるところである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この転てつ機では、部分ピニオンギアと同軸に固定された第1係合部材と、動作桿に設けられた第2係合部とが、ラックと部分ピニオンギアとの噛み合いが解除される直前に当接可能な相対値に配置され動作桿が逆方向に移動するのを規制する。
具体的には、特許文献1の図2に符号13を用いて示されるように、第1係合部材は、部分ピニオンギアと同軸に設けられた部分異径板であって、部分ピニオンギアの歯の欠けた側には歯先円よりも大径な部分を構成し、部分ピニオンギアの歯が有る部分では歯先円よりも小径の部分を構成する。前者の大径部分の外周側面が、符合22が付された第2係合部と当接する係合面として機能する。後者の小径部分では径が不足して第2係合部には達せずに係合不能部となる。ラックと部分ピニオンギアとの噛み合いが解除される直前から、第1係合部材の係合面が第2係合部と摺接し、噛合いが解除されても当接状態が維持される。よって、動作桿が逆方向に移動しようとしても、第1係合部材の大径部分と第2係合面とが当接しその移動を規制する。
こうした転てつ機は、動作桿がエスケープクランクを介して分岐器の転てつ棒に連繋されて、動作桿の転換方向がレールの方向に沿うような形態で使用できる。
【0004】
尚、転てつ機と分岐器との配置レイアウト及び連繋構成としては、動作桿が直接転てつ棒に接続され、動作桿の転換動作の方向がレールと略直交する形態でも使用できる(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−157448号公報
【特許文献2】特開2001−163221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の転てつ機を、その動作桿がレールと直交するように配置して使用した場合、次のような課題があることがわかった。
【0007】
図12及び図13は、課題を説明するための図であって、これらの図に限って特許文献1の図面を元に符合を付与し、以下説明では括弧付きで表記する。
図12に示すように、特許文献1記載の転てつ機は、鎖錠体(13)の規制面(13a)が動作桿(20)の被規制部(22aまたは22b)に当接することで動作桿(20)の移動を規制する構造となっている。ピニオン(12)の回転時には、鎖錠体(13)の規制面(13a)と動作桿(20)の被規制部(22aまたは22b)とが摺接するため、この摺接部には摩耗が生じる。
【0008】
そして、転てつ機の使用が長期に及ぶと、上記摺接部の摩耗の増大によって、ラック(21)とピニオン(12)との噛合が解除されて鎖錠体(13)の規制面(13a)と動作桿(20)の被規制部(22aまたは22b)とが当接すべきときに、両者の間に隙間Gpが生じる場合がある。このような隙間Gpが生じても、図12に示す状態において、動作桿(20)に対して、ピニオン(12)との噛合方向(矢印X1の方向)への外力が作用せず、動作桿(20)がその外力によって矢印X1の方向へ移動しなければ、問題は生じない。その後、ピニオン(12)がラック(21)との噛合方向(矢印RR方向)へ回転すれば、規制面(13a)による被規制部(22aまたは22b)に対する規制が解除されると同時にピニオン(12)とラック(21)とが適切に噛み合って、動作桿(20)が矢印X1方向へ移動することとなる。
【0009】
特許文献1の図5に見られるように、転てつ機を、その動作桿がレール(R1,R2)と平行になるように配置し、動作桿がエスケープクランクを介して分岐器を転換させるようにして使用した場合、分岐器(100)上を列車が通過する際に、可動レール(T1,T2)に列車横圧が加わっても、エスケープクランクに横圧が加わるだけでその力は動作桿(20)に対する上記移動方向(矢印X1方向)への外力としては作用しないか、或いは極めて作用しにくい。従って、転てつ機を、その動作桿(20)がレールと平行となるように配置し、エスケープクランクを介して分岐器を転換させる場合には問題は生じにくい。
【0010】
しかし、特許文献1記載の転てつ機を、その動作桿(20)がレール(R1,R2)と直交するように配置して使用した場合には、分岐器(100)上を列車が通過する際に、可動レール(T1,T2)に列車横圧が加わると、その力は動作桿(20)に対する上記移動方向(矢印X1方向)への外力として作用するか、或いは極めて作用し易い状況となる。
【0011】
そして、図12に示した隙間Gpが生じている状態において動作桿(20)に対してピニオン(12)との噛合方向(矢印X1方向)への外力が作用し、その外力によって上記隙間Gpを埋めるように動作桿(20)が矢印X1方向へ移動した後、図13に示すようにピニオン(12)がラック(21)との噛合方向(矢印RR方向)へ回転すると、上記隙間Gpの分だけピニオン(12)とラック(21)との噛合開始位置がずれているため、ピニオン(12)の歯(12a)とラック(ラックの歯21)とが不適切に接触し、両方の歯を不適切に摩耗ないし削ることとなる。このようにしてラック(ラックの歯21)が不適切に摩耗したり或いは削られたりした部位を図13において破線(22)で誇張して描いてある。
【0012】
このような不適切な摩耗等による歯形の変形は、その後の転てつ動作時にピニオン(12)が矢印RL方向へ回転して動作桿(20)を矢印方向X2方向へ移動させる際、動作桿(20)の移動量の減少をもたらすから、鎖錠体(13)の規制面(13a)と動作桿(20)の被規制部(22aまたは22b)との摺接力の増大を招き、その摺接部の摩耗を助長させる。
【0013】
以上のような現象が繰り返されると、最終的には、適正な転てつ動作がなされなくなるおそれが生じる。
【0014】
本発明の目的は、上記課題を解決し、従来よりも長期にわたって適正な転てつ動作が確実になされる転てつ機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための第1の形態は、駆動機構部の動力で駆動される部分ピニオンギアと動作桿に設けられたラックとが噛み合って当該動作桿を動かすことで転換動作する転てつ機であって、前記部分ピニオンギアと同軸回転し、前記転換動作の終了の際に、前記動作桿に設けられたローラ部(例えば、図2の第1ローラ154,第2ローラ156)に当接して当該動作桿を転換動作方向へ押し動かすカム部(例えば、図2の付勢カム148)を備えた転てつ機である。
【0016】
より好適には、第2の形態として、前記カム部が、前記部分ピニオンギアと前記ラックとの噛み合いが外れる直前に前記ローラを押し始め、前記部分ピニオンギアの終端の歯を前記ラックから離間させる動径を有する第1の形態の転てつ機を構成することができる。
【0017】
更により好適には、第3の形態として、前記カム部が、前記転換動作の終了後において前記部分ピニオンギアの終端の歯を前記ラックから離間させた状態で維持する動径を有する第1又は第2の形態の転てつ機を構成することができる。
【0018】
また、第4の形態として、前記部分ピニオンギアと同軸回転し、前記転換動作の後に前記動作桿に設けられた鎖錠固定板(例えば、図2の被鎖錠体152)と係合することで前記動作桿を鎖錠する鎖錠回転板(例えば、図2の鎖錠体146)を更に備えた第1〜第3の何れかの形態の転てつ機を構成することができる。
【0019】
更には、第5の形態として、前記カム部が、前記部分ピニオンギアの同軸回転によって前記鎖錠回転板が前記鎖錠固定板に係合するより先に前記ローラ部に当接して前記動作桿を押し動かす動径を有する第4の形態の転てつ機を構成することができる。
【0020】
また更には、第6の形態として、前記カム部が、前記動作桿の解錠の際に、前記部分ピニオンギアの同軸回転によって前記鎖錠回転板と前記鎖錠固定板との係合が解除された後に、前記ローラ部から離間する動径を有する第4又は第5の形態の転てつ機を構成することができる。
【0021】
また更には、第7の形態として、前記カム部が、前記ローラ部に当接して前記動作桿を押し動かす量を、前記動作桿の解錠の際に、前記部分ピニオンギアの同軸回転によって前記部分ピニオンギアの始端の歯が前記ラックの第1歯と噛み合うまでの間に前記ラックの第2歯と接触しない範囲に規定する動径を有する第1〜第6の何れかの形態の転てつ機を構成とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の形態によれば、転換動作の終了の際に、部分ピニオンギアとラックの噛合いが解除される直前に、部分ピニオンギアと同軸回転するカム部を、動作桿に設けられたローラ部に当接させて動作桿を転換動作方向へ押し動かすことができる。よって、最後に噛み合っている部分ピニオンギアの歯とラックの歯とを離間させることによって逆方向に回転させる際に歯のカジリや、それらの歯の摩耗を抑制することができる。そして、カム部の動径を適切に設定することにより、それら最後に噛み合っている歯同士を離間させる際に不適切に摩耗するのを防ぐことができる。
従って、従来よりも長期にわたって適正な転てつ動作が確実になされる転てつ機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態における電気転てつ機の使用形態を説明するための鉄道線路用ポイントの周辺を示す平面図。
【図2】実施形態における転換機構部を選択的に示す拡大図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図5】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図6】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図7】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図8】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図9】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図10】転換動作の開始から完了までの転換機構部の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図。
【図11】転換機構部の変形例を示す図。
【図12】転換機構部にラック&ピニオン機構を用いた従来の転てつ機において、鎖錠部分が摩耗した状態を示す図。
【図13】図12の状態から転換動作を開始した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本実施形態における電気転てつ機の使用形態を説明するための鉄道線路用ポイントの周辺を示す平面図である。尚、電気転てつ機のケースの上蓋を一部カットして、ケース内部が見えるように表している。
【0025】
本実施形態における電気転てつ機100は、鉄道用線路のポイント2の分岐器4に対して所定位置に固定され、分岐器4に接続して使用される。
分岐器4は、連結板8により一体に連結された可動レール10を、基本レール6の間で、枕木12に固定した床板14の上で枕木長手方向に横スライド自在に支持している。可動レール10の先端部付近の枕木は、通常の枕木12よりも長尺な転てつ機用枕木12Bとされ、基本レール6の外側に延びた部分には床板14に連結された鉄製の敷板18が設置されている。電気転てつ機100は、この敷板18に固定される。そして、動作桿102には、転てつ棒16を介して連結板8が連結され、鎖錠桿104には接続桿20を介して可動レール10の先端部が連結される。
【0026】
電気転てつ機100は、開閉式のケース101内に、回路制御器110と、制御リレー112と、外部端子板114と、減速機構部120と、転換機構部140と、鎖錠機構部(不図示)との各機構部を内蔵する。そして、ケース101の側部には、ブレーキ260、モータ250、クラッチ部210の3つを一体化した駆動機構部200を備える。
【0027】
電源や外部装置(例えば連動装置等)との信号に必要なケーブル類は外部端子板114に集約されたのちケーブル束109としてケース101から纏めて引き出される。
連動装置から転換指令信号を受信すると、制御リレー112からモータ250に電力が供給され、モータ250の回転力がクラッチ部210、減速機構部120、転換機構部140へと伝わり、転換機構部140によって電気転てつ機100の解錠、転換、鎖錠の一連動作が行われる。そして、転換終了時に回路制御器110がモータ電源を遮断すると共に鎖錠機構部の鎖錠状態を確認し、転換完了信号を連動装置に送信する。
【0028】
図2は、本実施形態における転換機構部140を選択的に示す拡大図である。図3は、図2におけるA−A断面図である。
転換機構部140は、減速機構部120で減速された回転動力を、動作桿102の直動運動に変換する。例えば、転換機構部140は、転換ギア132と同軸の回転軸142に固定された、部分ピニオンギア144と、鎖錠体146と、付勢カム148とを含んで構成される。これらは、転換ギア132側(図3で言うところの左側)から、部分ピニオンギア144、鎖錠体146、付勢カム148の順に隣接して同軸固定されている。
【0029】
また、転換機構部140は、(1)動作桿102に設けられた歯列で成るラック150と、(2)当該ラックの横に固定された被鎖錠体152と、(3)当該被鎖錠体よりも外側(図3で言うところの右側)に突設されたローラ部である2つの第1ローラ154及び第2ローラ156と、(4)動作桿102に突設された第1ストッパー158及び第2ストッパー160の対と、を含んで構成される。
特許文献1の構成と比較すると、鎖錠体146が特許文献1の第1係合部材に相当し、被鎖錠体152が特許文献1の第2係合部に相当する。
【0030】
一般的なピニオンギアが全周に歯を有するのに対して、部分ピニオンギア144は約半周分の歯を欠いた歯車である。歯の欠いた部分は、歯底円よりも小径とされる。そして、部分ピニオンギア144は、動作桿102のラック150と噛み合い可能に配置されている。
【0031】
鎖錠体146は、円板を部分的に小径にした部分異径板であって、部分ピニオンギア144の歯先円よりも大径な略半月状の大径部146aと、部分ピニオンギア144の歯底円よりも小径な小径部146bとを有する。大径部146aは、部分ピニオンギア144の歯欠け部分に跨り、その両端は部分ピニオンギア144の両端の歯(始端の歯144a〜終端の歯144b)にかかる。
【0032】
付勢カム148は、鎖錠体146の大径部146aよりも大径の円板から略半月状部分を残し、残余を部分的に小径化した部分異径板であって、残された略半月状部分をカム部148aと呼ぶ。すなわち、略半月状部分の径の変化がカム機構におけるカムの動径(いわゆるカムプロフィール)を形成する。
【0033】
被鎖錠体152は、鎖錠体146と同じか、やや薄い板厚の板部材であって、左右の隅に、鎖錠体146の大径部146aの径と同じ曲率の第1凹曲面152a及び第2凹曲面152bを備える。そして、第1凹曲面152a及び第2凹曲面152bが、ラック150の歯列に沿うようにして、動作桿102に対して図2で言うところの手前側に固定されている。
【0034】
より具体的には、第1凹曲面152a及び第2凹曲面152bは、それぞれラック150の左端から2本目の左端第2歯150aと、右端から2本目の右端第2歯150bとの間に沿うようにして配置されている。すなわち、被鎖錠体152は、鎖錠体146の回転面とほぼ同じ面に配置されており、両者が接近すると、(1)ラック150が回転軸142に対して相対的に右にある場合には、大径部146aの外周側面が第1凹曲面152aと摺接し、(2)ラック150が回転軸142に対して相対的に左にある場合には、大径部146aの外周側面が第2凹曲面152bと摺接することができる。
【0035】
第1ローラ154と第2ローラ156は、付勢カム148の外周に当接して付勢・押動される部分でありカムの受面に相当する。第1ローラ154と第2ローラ156は、例えば、軸周りに円環部を枢支した構造により実現され、図2に向かって、円環部が被鎖錠体152よりも更に手前側に突出するように設けられている。
【0036】
付勢カム148が回転軸142を中心に回動すると、(1)ラック150が回転軸142に対して相対的に右にある場合には、カム部148aの外周側面が第1ローラ154と接触し、(2)ラック150が回転軸142に対して相対的に左にある場合には、カム部148aの外周側面が第2ローラ156と接触することができる。尚、本実施形態では、付勢カム148に付勢・押動される部分を第1ローラ154と第2ローラ156の2つのローラで構成しているが、カム部148aの径をより大径とし、図2における第1ローラ154と第2ローラ156の左右中央位置に1つのローラを設けることで実現しても良い。
【0037】
[動作の説明]
次に、本実施形態における電気転てつ機100の転換機構部140周りの動作について詳細に説明する。図4〜図10は、動作桿102をX1方向(図の左方向)へ動かす転換動作の開始から完了までの転換機構部140の様子を説明するための部分拡大図及びその一部詳細図であって、時系列順に図番が付けられている。
【0038】
図4は、転換動作開始の状態を示している。開始時点の状態では、部分ピニオンギア144とラック150は噛み合っていない。このとき、鎖錠体146の大径部146aの外周側面が被鎖錠体152の第1凹曲面152aに当接している。尚、B部の詳細図では、鎖錠体146と被鎖錠体152の係合関係が明確になるように付勢カム148を透視表記している。
【0039】
動作桿102は、その左右がケース101の挿通孔101aにより挿通・案内されている。仮に、動作桿102がX1方向へ移動しようとしても、大径部146aによって第1凹曲面152aが止められるため、動作桿102はX1方向へ動かない(鎖錠状態)。加えて、付勢カム148のカム部148aの外周側面に第1ローラ154が接触している。この接触によっても、動作桿102がX1方向へ移動するのを制限することができる。
【0040】
すなわち、従来のように鎖錠体146と被鎖錠体152との接触面に摩耗が生じて隙間Gp(図12参照)が生じたとしても、付勢カム148と第1ローラ154との接触による規制により、鎖錠状態が維持される。
【0041】
尚、仮に、付勢カム148と第1ローラ154との間に隙間が生じた場合には、こうした移動規制の作用も発揮されなくなるが、そもそも付勢カム148と第1ローラ154とは転がり接触であるため、摩耗による隙間は極めて発生し難い。
【0042】
さて、図4の状態から回転軸142が時計回りに駆動されると、図5に示すように、鎖錠体146の大径部146aの外周側面と、被鎖錠体152の第1凹曲面152aとの当接が解除される。つまり、鎖錠体146と被鎖錠体152とによる鎖錠が解錠されたことになる。一方、この段階でも、付勢カム148のカム部148aの外周側面は第1ローラ154に接触した状態を維持している。このとき、部分ピニオンギア144の始端の歯144aは、ラック150の何れの歯とも接触していない。
【0043】
更に回転軸142が時計回りに回転すると、図6(D部の詳細図では、鎖錠体146、付勢カム148、被鎖錠体152を透視表記)に示すように、先ず付勢カム148のカム部148aの外周側面と第1ローラ154との接触が解除される。次いで、始端の歯144aがラック150の図6で言うところの左端から1番目の左端第1歯150cと最初に接触し、回転軸142の回転力が動作桿102の直動力へ変換され始める。
【0044】
図7は、更に回転軸142が時計回りに回転したときの転換動作途中の様子を示している。部分ピニオンギア144とラック150の噛合いにより、動作桿102がX1方向へ移動される。
【0045】
更に回転軸142が時計回りに回転し、ラック150が相対的に回転軸142の左側に到達すると、図8に示すように、部分ピニオンギア144とラック150の噛合いが解除される。そして、噛合いが解除される直前、より具体的には、ラック150の右端から2番目の右端第2歯150bと、部分ピニオンギア144の終端の歯144bとの接触位置が右端第2歯150bの歯先に至るより先に、付勢カム148のカム部148aが第2ローラ156に接触し、当該ローラをX1方向へ付勢・押し動かす。E部詳細図における一点破線は、付勢カム148が第2ローラ156に「接触しない」と仮定した場合の右端第2歯150bの位置を示している。すなわち、付勢カム148が第2ローラ156を付勢し、僅かに転換動作方向へ押し動かすことにより、部分ピニオンギア144の終端の歯144bと、ラック150の右端第2歯150bとの接触圧を軽減し摩耗を抑制することができる。
【0046】
従って、付勢カム148のカム部148aの動径は次のように規定されているとも言える。すなわち、カム部148aの動径は、部分ピニオンギア144とラック150との噛み合いが外れる直前に第2ローラ156を押し始め、部分ピニオンギア144の終端の歯144bをラック150から離間させるようにしている。
より具体的には、右端第2歯150bが終端の歯144bからX1方向へ離間し、回転軸142が更に時計回りへ回転しても離間状態が維持されるように付勢カム148の動径を決定している。
【0047】
部分ピニオンギア144とラック150との噛み合いが解除され、且つ付勢カム148のカム部148aが第2ローラ156に当接すると、実質的に今回の転換動作における動作桿102の動作が終了したことになる。
そこから更に回転軸142が時計回りに回転すると、図9(F部の詳細図では、付勢カム148を透視表記)に示すように、鎖錠体146の大径部146aの外周側面が、被鎖錠体152の右上端部に設けられている第2凹曲面152bに近接或いは摺接し鎖錠状態となる。つまり、動作桿102がX2方向へ逆行しようとしても、鎖錠体146と被鎖錠体152とにより規制され動けない。加えて、付勢カム148のカム部148aの動径は、部分ピニオンギア144の終端の歯144bをラック150から離間させた状態で維持するように設定されており、付勢カム148と第2ローラ156もまた接触状態を維持している。よって、これらによる動作桿102の逆行制限も有効となる。
【0048】
部分ピニオンギア144とラック150の噛合いが解除され、且つ、鎖錠体146と被鎖錠体152とによる鎖錠が確実に完了したとみなす所定角度まで回転軸142を回転させたならば、モータ250は回転を止めるように制御され、図10(G部の詳細図では、付勢カム148を透視表記)のように、動作桿102をX1方向へ移動させる転換動作完了となる。
【0049】
動作桿102をX2方向へ移動させる転換動作については、これまでの動作の説明の逆順(図10〜図4へ図番降順)に動作を行うことで実現される。
【0050】
以上、本実施形態によれば、転換動作の終了の際に、部分ピニオンギア144とラック150の噛合いが解除される直前に、部分ピニオンギア144と同軸回転する付勢カム148を、動作桿102に設けられた第1ローラ154又は第2ローラ156に当接させて当該動作桿を転換動作方向へ押し動かすことができる。よって、最後に噛み合っている部分ピニオンギア144の歯と、ラック150の歯とを離間させることによって逆方向に転換させる際に歯のカジリや、それらの歯の摩耗を抑制することができる。
【0051】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明の適用形態はこれらに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない限りにおいて適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0052】
例えば、付勢カム148の動径は、適宜変更することができる。図11に示すように、付勢カム148の動径が、転換動作開始及び終了時点で、カム部148aが第1ローラ154又は第2ローラ156と当接状態を維持するように設定されているならば、鎖錠状態を維持できるといえるため、鎖錠体146と被鎖錠体152を省略することもできる。
【符号の説明】
【0053】
2 ポイント
4 分岐器
16 転てつ棒
100 電気転てつ機
102 動作桿
140 転換機構部
142 回転軸
144 部分ピニオンギア
146 鎖錠体
146a 大径部
146b 小径部
148 付勢カム
148a カム部
150 ラック
152 被鎖錠体
152a 第1凹曲面
152b 第2凹曲面
154 第1ローラ
156 第2ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機構部の動力で駆動される部分ピニオンギアと動作桿に設けられたラックとが噛み合って当該動作桿を動かすことで転換動作する転てつ機であって、
前記部分ピニオンギアと同軸回転し、前記転換動作の終了の際に、前記動作桿に設けられたローラ部に当接して当該動作桿を転換動作方向へ押し動かすカム部を備えた
転てつ機。
【請求項2】
前記カム部は、前記部分ピニオンギアと前記ラックとの噛み合いが外れる直前に前記ローラを押し始め、前記部分ピニオンギアの終端の歯を前記ラックから離間させる動径を有する
請求項1に記載の転てつ機。
【請求項3】
前記カム部は、前記転換動作の終了後において前記部分ピニオンギアの終端の歯を前記ラックから離間させた状態で維持する動径を有する
請求項1又は2に記載の転てつ機。
【請求項4】
前記部分ピニオンギアと同軸回転し、前記転換動作の後に前記動作桿に設けられた鎖錠固定板と係合することで前記動作桿を鎖錠する鎖錠回転板を更に備えた、
請求項1〜3の何れか一項に記載の転てつ機。
【請求項5】
前記カム部は、前記部分ピニオンギアの同軸回転によって前記鎖錠回転板が前記鎖錠固定板に係合するより先に前記ローラ部に当接して前記動作桿を押し動かす動径を有する
請求項4に記載の転てつ機。
【請求項6】
前記カム部は、前記動作桿の解錠の際に、前記部分ピニオンギアの同軸回転によって前記鎖錠回転板と前記鎖錠固定板との係合が解除された後に、前記ローラ部から離間する動径を有する
請求項4又は5に記載の転てつ機。
【請求項7】
前記カム部は、前記ローラ部に当接して前記動作桿を押し動かす量を、前記動作桿の解錠の際に、前記部分ピニオンギアの同軸回転によって前記部分ピニオンギアの始端の歯が前記ラックの第1歯と噛み合うまでの間に前記ラックの第2歯と接触しない範囲に規定する動径を有する
請求項1〜6の何れか一項に記載の転てつ機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−112115(P2012−112115A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260033(P2010−260033)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】