説明

転造平ダイス

【課題】耐久性を向上させると共に、転造による素材の偏りや傷の発生を抑制できる転造平ダイスを提供すること。
【解決手段】第1平ダイス10の転造歯形面12は、一端面14側から連設される第1食付き部12a、仕上げ部12b及び第2食付き部12cと、第2食付き部12cの他端面15側に連設されると共に加工歯13の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される山払い部12dとを備えている。これにより、一端面14側からブランクを導入して転造し、山払い部12dでブランクを停止させた後、ダイス間の間隔を狭め、再び一端面14側に向けてブランクを転造する場合、山払い部12dではブランクの歯面が抵抗とならずにダイス間の間隔を目標値どおりに精度良く狭めることができる。その結果、ダイスの耐久性を向上させると共に、転造による素材の偏りを修復することができ、さらに山の頂に傷が発生することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造平ダイスに関し、特に、耐久性を向上させると共に、転造による素材の偏りや傷の発生を抑制できる転造平ダイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
転造平ダイスは、軸心に回転自在に支持された円柱状の被加工部材(ブランク)を挟んで対向配置し、加工歯をブランクに押圧しつつ平行に相対移動させることによりブランクの外周面に転造加工を行う工具であり、スプライン、ねじ、ウォーム等を短時間で大量に生産できることから多方面で使用されている。この転造平ダイスを用いた転造加工では、ブランクが転動する間に平ダイスの加工歯でブランクが圧下され、これによって移動した素材が次第に盛り上げられてブランクの外周面に山が形成されていく。このため、ブランクの回転方向が一方向だけであると、素材の移動方向に偏りが生じ、転造された素材がブランクの軸線に対して偏る現象が生じていた。この偏りのため、転造された山の頂に溝状の傷が生じることがあった。溝状の傷は、チッピングや欠損の起点となり易く、また噛合する歯車を損傷させる原因となっていた。
【0003】
そこで、支持面と略平行に形成された仕上げ部5と、その仕上げ部5の両側に端面に向かって山の高さが漸次低くなるように形成された調整部6a,6bと、それら調整部6a,6bに連設されると共に調整部6a,6bの勾配より急勾配に形成された逃げ部7a,7bとを備えた転造平ダイス1を有する転造盤において、逃げ部7a,7bは、転造加工後の被加工部材15(ブランク)と噛み合い可能に、かつ、転造加工同期時には歯面隙間14があるように形成される技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、対面配置した転造平ダイス1,1の一方の逃げ部7b(又は7a)から被加工部材15を導入して転造し、他方の逃げ部7a(又は7b)で停止させた後、転造平ダイス1,1の対面方向の間隔を狭め、再び一方の逃げ部7b(又は7a)に向けて転造する。このように一対の転造平ダイス1,1の間隔を狭めながら往復あるいは複数回転造することで、転造の作用を左右同一化して安定させ、転造された素材の偏りや傷の発生を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3746855号公報(図1、図3など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、被加工部材15に転造形成された歯面と逃げ部7a,7bの歯面との間にできる歯面隙間14が狭いため(特許文献1の図3参照)、被加工部材15のスプリングバック等により、逃げ部7a,7bで停止させた被加工部材15の歯面には、逃げ部7a,7bの歯面と接触する部位が存在していた。このため、被加工部材15を逃げ部7a,7bで停止させた後、転造平ダイス1,1の対面方向の間隔を狭めようとしても、逃げ部7a,7bの歯面に接触する被加工部材15の歯面が抵抗となって、転造平ダイス1,1の間隔を目標値どおりに精度良く狭めることができなかった。その結果、被加工部材15を往復あるいは複数回転造しても、素材の偏りを修復したり山の頂にできる溝状の傷を塞いだりできないという問題点があった。
【0006】
また、逃げ部7a,7bの歯面に被加工部材15の歯面が接触した状態で転造平ダイス1,1の対面方向の間隔を無理に狭めると、転造平ダイス1,1に大きな負荷が加わるため、転造平ダイス1,1の工具寿命が低下するという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、耐久性を向上させると共に、転造による素材の偏りや山の頂に傷が発生することを防止できる転造平ダイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の転造平ダイスは、複数の加工歯が設けられると共に転造方向と平行に形成される仕上げ部を有する転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被加工部材であるブランクの外周面に食い込ませて、前記ブランクの外周面に山形を転造する第1平ダイス及び第2平ダイスを備えるものであり、前記第1平ダイス及び前記第2平ダイスの少なくとも一方の転造歯形面は、前記仕上げ部に連設され前記ブランクの入り側の一端面に向かって下降傾斜する第1食付き部と、前記仕上げ部の反対側に連設され他端面に向かって下降傾斜する第2食付き部とを備え、前記第1平ダイス又は前記第2平ダイスは、前記第2食付き部の前記他端面側に連設され若しくは前記他端面側の前記第2食付き部に対設されると共に前記加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される山払い部を備え、その山払い部を備える前記第1平ダイス又は前記第2平ダイスの他方は、前記山払い部に対設される前記加工歯の前記仕上げ部の終端からの落ち量が、前記仕上げ部の加工歯のアデンダム未満に設定されている。
【0009】
請求項2記載の転造平ダイスは、請求項1記載の転造平ダイスにおいて、前記第1食付き部の傾斜角は、前記第2食付き部の傾斜角よりも大きく設定されている。
【0010】
請求項3記載の転造平ダイスは、請求項2記載の転造平ダイスにおいて、前記第1食付き部の長さは、前記第2食付き部の長さよりも長く設定されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の転造平ダイスによれば、第1平ダイス及び第2平ダイスの少なくとも一方の転造歯形面は、仕上げ部に連設されブランクの入り側の一端面に向かって下降傾斜する第1食付き部と、仕上げ部の反対側に連設され他端面に向かって下降傾斜する第2食付き部とを備え、第1平ダイス又は第2平ダイスは、第2食付き部の他端面側に連設され若しくは他端面側の第2食付き部に対設されると共に加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される山払い部を備えているので、転造平ダイスの一端面側からブランクを導入して転造し、他端面側の山払い部でブランクを停止させた後、第1平ダイス及び第2平ダイスの転造歯形面の間隔を狭め、再び一端面側に向けてブランクを転造する場合、第1平ダイス及び第2平ダイスの転造歯形面の間隔を狭める際に、山払い部ではブランクの歯面が抵抗とならずに、第1平ダイスと第2平ダイスとの間隔を目標値どおりに精度良く狭めることができる。その結果、ブランクを往復あるいは複数回転造することにより、転造によるブランクの素材の偏りを修復することができると共に、山の頂に傷が発生することを防止できる効果がある。
【0012】
また、山払い部は加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成されているので、第1平ダイス及び第2平ダイスとの間隔を狭める際に、ブランクの転造された歯面に加工歯の歯面が無理に押し付けられることを防止できる。これにより、第1平ダイス及び第2平ダイスの加工歯に大きな負荷が加わることを防ぎ、転造平ダイスの耐久性を向上できる効果がある。
【0013】
さらに、山払い部を備える第1平ダイス又は第2平ダイスの他方は、山払い部に対設される加工歯の仕上げ部の終端からの落ち量が、仕上げ部の加工歯のアデンダム未満に設定されているので、第1平ダイス又は第2平ダイスの山払い部において、他方の第1平ダイス又は第2平ダイスの加工歯の山の頂が、ブランクに転造された山形のフランク間に位置する。その結果、山払い部において、ブランクの軸方向の移動が加工歯の山の頂で規制される。そのため、山払い部において、ブランクに位相ずれが生じることを防止できる。よって、ブランクを往復あるいは複数回転造する際に位相ずれが生じることなく、加工精度が低下することを防止できる効果がある。
【0014】
請求項2記載の転造平ダイスによれば、請求項1記載の転造平ダイスの奏する効果に加え、第1食付き部の傾斜角は、第2食付き部の傾斜角よりも大きく設定されているので、塑性変形量が大きな転造初期のブランクの粗加工が、傾斜角の大きな第1食付き部で行われ易い。このため、第1平ダイス及び第2平ダイス間に円柱状のブランクを各ダイスの一端面から導入すると、第1食付き部から仕上げ部に至るまでにブランクの素材を大きく変形させて山形を隆起させることができる。また、山払い部でブランクを停止させた後、第1平ダイス及び第2平ダイスの転造歯形面の間隔を狭め、再び一端面側に向けてブランクを転造すると、第1食付き部の傾斜角より小さな傾斜角に設定された第2食付き部で、隆起された山形の素材の偏りを修復すると共に山の頂の傷を塞ぐことができる。
【0015】
このように、第1食付き部の傾斜角を第2食付き部の傾斜角より大きく設定することにより、傾斜角の相対的に大きな第1食付き部で、転造初期のブランクを大きく変形させて山形を形成し、傾斜角の相対的に小さな第2食付き部で、山払い部に達した後のブランクの山形の素材の偏り等を修正することができる。その結果、転造が比較的困難な歯たけの高い山形であっても、精度良く転造できると共に、転造による素材の偏りや傷の発生を抑制できる効果がある。
【0016】
請求項3記載の転造平ダイスによれば、請求項2記載の転造平ダイスの奏する効果に加え、第1食付き部の長さは第2食付き部の長さよりも長く設定されているので、第1食付き部の傾斜角が第2食付き部の傾斜角より大きく設定されていても、第1食付き部の加工歯をブランクに徐々に圧下させて山形を形成できる。これにより、ブランクの素材が少しずつ移動して山形ができるので、塑性変形量が大きな転造初期においてブランクの素材の偏りを小さくすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は本発明の第1実施の形態における転造平ダイスの第1平ダイスの平面図であり、(b)は転造平ダイスの第1平ダイスの側面図である。
【図2】(a)は転造平ダイスの第2平ダイスの平面図であり、(b)は転造平ダイスの第2平ダイスの側面図である。
【図3】転造平ダイスを使用した転造方法を説明する転造平ダイスの側面図であり、(a)は転造開始前の転造平ダイスの側面図であり、(b)はブランクを山払い部で停止させた転造平ダイスの側面図であり、(c)は間隔を狭めた転造平ダイスの側面図であり、(d)は反対方向に転造を開始する転造平ダイスの側面図である。
【図4】図2のIV−IV線における第2平ダイス及びブランクの断面図である。
【図5】転造されたブランクBの山形の模式図であり、(a)は転造歯形面を一方向に転動させて山払い部で停止させたブランクの山形の模式図であり、(b)は転造歯形面を反対方向に転動中のブランクの山形の模式図であり、(c)は転造を終えたブランクの山形の模式図である。
【図6】本発明の第2実施の形態における転造平ダイスの山払い部の側面図である。
【図7】本発明の第3実施の形態における転造平ダイスの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1(a)は本発明の第1実施の形態における転造平ダイス1の第1平ダイス10の平面図であり、図1(b)は転造平ダイス1の第1平ダイス10の側面図である。また、図2(a)は転造平ダイス1の第2平ダイス20の平面図であり、図2(b)は転造平ダイス1の第2平ダイス20の側面図である。
【0019】
まず、転造平ダイス1(図3参照)の全体構成について説明する。転造平ダイス1は、被加工部材である円柱状のブランク(図3参照)の外周面を塑性変形させて、スプライン、ねじ、ウォーム等を転造するための部材であり、第1平ダイス10(図1参照)及び第2平ダイス20(図2参照)を備えて構成されている。次に、図1を参照して、第1平ダイス10について説明する。
【0020】
第1平ダイス10は、合金工具鋼や高速度工具鋼等の金属材料で略直方体状に形成され、支持面11の反対の面に、複数の加工歯13が設けられた転造歯形面12を備えている。転造歯形面12には、転造方向始端側(図1右側)の一端面14から他端面15へ向けて、第1食付き部12a、仕上げ部12b、第2食付き部12c、山払い部12dが順に連続して設けられている。
【0021】
仕上げ部12bは、ブランクB(図3参照)に転造された山形を最終的に仕上げる部位であり、転造方向(図1右側から左側)に対して平行に形成されており、本実施の形態においては、支持面11に対して略平行に形成されており、ブランクB(図3参照)の1〜1.5回転分の長さに設定されている。
【0022】
第1食付き部12aは、仕上げ部12bに連設されブランクB(図3参照)の入り側(転造方向始端側)の一端面14に向かって下降傾斜する部位である。第1食付き部12aと一端面14とが交わる角部に面取り12eが形成されている。本実施の形態においては、第1食付き部12aの一端面14からの長さは、仕上げ部12bの長さの9〜14倍に設定されている。
【0023】
第2食付き部12cは、仕上げ部12bの反対側に連設され他端面15に向かって下降傾斜する部位である。本実施の形態においては、後述する山払い部12dからの第2食付き部12cの長さは、第1食付き部12aの長さの1/2〜2/3に設定されている。即ち、第1食付き部12aの長さは、第2食付き部12cの長さより長く設定されている。また、第1食付き部12aの傾斜角k1は、第2食付き部12cの傾斜角k2より大きく設定されている。
【0024】
山払い部12dは、第2食付き部12cの他端面15側に連設されると共に加工歯13の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される部位である。本実施の形態においては、山払い部12dでは加工歯13の山は全て取り払われている。山払い部12dの長さは、平行移動する第1平ダイスや第2平ダイスの停止精度に応じて、転造完了後のブランクB(図3参照)の外径よりも大きな値に適宜設定される。
【0025】
次に、図2を参照して、第2平ダイス20について説明する。第2平ダイス20は、合金工具鋼や高速度工具鋼等の金属材料で略直方体状に形成され、支持面21の反対の面に、複数の加工歯23が設けられた転造歯形面22を備えている。転造歯形面22には、転造方向始端側(図2右側)の一端面24から他端面25へ向けて、第1食付き部22a、仕上げ部22b、第2食付き部22cが順に連続して設けられている。第1食付き部22aと一端面24とが交わる角部に面取り22eが形成され、第2食付き部22cと他端面25とが交わる角部に面取り22fが形成されている。第2平ダイス20は、山払い部12d(図1参照)が省略されている以外は、第1平ダイス10と同様に構成されているので、詳細な説明を省略する。なお、第2平ダイス20は、第2食付き部22cの落ち量が、仕上げ部22bに設けられた加工歯23のアデンダム未満に設定されている。
【0026】
次に、以上のように構成された第1実施の形態における転造平ダイス1を用いたブランクBの転造方法について、図3を参照しながら説明する。図3はブランクBの転造方法を説明する転造平ダイス1の側面図であり、図3(a)は転造開始前の転造平ダイス1の側面図であり、図3(b)はブランクBを山払い部12dで停止させた転造平ダイス1の側面図であり、図3(c)は間隔を狭めた転造平ダイス1の側面図であり、図3(d)は反対方向に転造を開始する転造平ダイス1の側面図である。また、図4は、図2のIV−IV線における第2平ダイス20及びブランクBの断面図である。
【0027】
まず、ブランクBは転造による外径の増加を考慮して円柱状に前加工されており、その円柱状の軸心を中心に回転自在に固定される。第1平ダイス10及び第2平ダイス20は、仕上げ部12b,22b(図1及び図2参照)の加工歯13,23の間隔がブランクBの外径より小さな値(例えば、第1平ダイスと第2平ダイスとの最終的な間隔の1.2〜1.5倍)になるように設定され、図示しない駆動手段に固定される。そして、第1平ダイス10及び第2平ダイス20は、ブランクBの軸心を中心にして、図示しない同期機構によって、互いに平行かつ反対方向に等速度で移動される。
【0028】
図3(a)に示す状態から図3(b)の矢印方向に、ブランクBの軸心を中心にして、第1平ダイス10及び第2平ダイス20を平行かつ反対方向に等速度で移動させると、ブランクBは第1平ダイス10及び第2平ダイス20の一端面14,24側から導入され、転造歯形面12,22の第1食付き部12a,22a(図1及び図2参照)に食付き、第1平ダイス10及び第2平ダイス20間に挟持され転造される。仕上げ部12b,22b(図1及び図2参照)でブランクBに不完全な山形が形成され、次いで、第2食付き部12c,22c(図1及び図2参照)で転造による負荷が徐々に開放されて、図3(b)に示すように、ブランクBは山払い部12dに到達する。この状態で第1平ダイス10及び第2平ダイス20の平行方向の移動を停止する。
【0029】
ここで、第1平ダイス10の山払い部12dにブランクBを介して対設する第2平ダイス20の第2食付き部22c(図2参照)は、図4に示すように、仕上げ部22b(図2参照)の終端からの落ち量Sが仕上げ部22bの加工歯23(図4に波線で示す)のアデンダム(ピッチ線Pから山の頂までの加工歯23の高さA)未満に設定されている。その結果、第1平ダイス10の山払い部12dにおいて、第2平ダイス20の第2食付き部22cの加工歯23の山の頂が、ブランクBに転造された山形のフランクF間に位置する。そのため、第1平ダイス10の山払い部12dと第2平ダイス20の第2食付き部22cとの間に位置するブランクBは、山払い部12dでは移動が全く規制されないが、第2食付き部22cの山の頂で軸方向の移動が規制される。これにより、山払い部12dにおいて、ブランクBに位相ずれが生じることを防止できる。その結果、第1平ダイス10及び第2平ダイス20を用いてブランクBを往復あるいは複数回転造する際に、位相ずれが生じて加工精度が低下することを防止できる。
【0030】
図3に戻って説明する。図3(b)に示すように、ブランクBが山払い部12dに到達した後、転造歯形面11,22(図1及び図2参照)と直交方向に、第1平ダイス10と第2平ダイス20との間隔を狭め、図3(c)に示す状態にする。なお、本実施の形態においては、第1平ダイス10と第2平ダイス20との間隔を、製品を仕上げる最終的な間隔に設定する。山払い部12dは加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成されているので、第1平ダイス10及び第2平ダイス20との間隔を狭める際に、ブランクBに転造された山形の歯面に加工歯13,23(図1及び図2参照)の歯面が無理に押し付けられることを防止できる。これにより、第1平ダイス10及び第2平ダイス20の加工歯13,23に大きな負荷が加わることを防ぎ、転造平ダイス1の耐久性を向上できる。
【0031】
第1平ダイス10と第2平ダイス20との間隔を狭めた後、再びブランクBの軸心を中心にして、第1平ダイス10及び第2平ダイス20を平行かつ反対方向(図3(d)の矢印方向)に等速度で移動させる。ブランクBは第1平ダイス10及び第2平ダイス20の第2食付き部12c,22c(図1及び図2参照)に食付き、転造加工され、仕上げ部12b,22bで完全転造されて、第1食付き部12a,22aで転造による負荷が開放される。第1平ダイス10及び第2平ダイス20を加工開始位置(図3(a)参照)まで戻し、転造加工を完了させる。
【0032】
次に、第1実施の形態における転造平ダイス1を用いて転造加工されたブランクBの状態を、図面を参照しながら説明する。図5は転造されたブランクBの山形の模式図であり、図5(a)は転造歯形面11,22を一方向に転動させて山払い部12dで停止させたブランクBの山形の模式図であり、図5(b)は転造歯形面11,22を反対方向に転動中のブランクBの山形の模式図であり、図5(c)は転造を終えたブランクBの山形の模式図である。なお、図5に示す矢印は、素材の流れる方向を示している。
【0033】
転造平ダイス1の第1食付き部12a,22a(図1及び図2参照)の傾斜角k1は、第2食付き部12c,22cの傾斜角k2より大きく設定されているので、塑性変形量が大きな転造初期のブランクBの粗加工が、傾斜角の大きな第1食付き部12a,22aで行われ易い。このため、第1平ダイス10及び第2平ダイス20間にブランクBを導入すると、第1食付き部12a,22aから仕上げ部12b,22bに至るまでに加工歯13,23でブランクBの外表面を圧下し、素材を大きく変形させて加工歯13,23の両側に山形を隆起させることができる。その際に、図5(a)に示すように、ブランクBの素材の流れに偏りが生じる。また、ブランクBの素材は加工歯13,23の両側に隆起するので、山形に開口する合わせ面Cが形成される。
【0034】
次に、転造歯形面11,22を一方向に転動させてブランクを山払い部で停止させた後、第1平ダイス10及び第2平ダイス20の転造歯形面11,22の間隔を狭め、再び一端面14,24側に向けてブランクBを転造する。その結果、第1食付き部12a,22aの傾斜角k1より小さな傾斜角k2に設定された第2食付き部12c,22cで、図5(b)に示すように、隆起された山形の素材の偏りが修復される。同時にブランクBの素材が流動され、合わせ面Cが閉じられていく。最終的に、図5(c)に示すように、合わせ面Cが塞がれ、山の頂の傷が塞がれる。これにより、転造された山がチッピングや欠損を生じ難くなり、噛合する歯車を損傷させることも防止できる。
【0035】
このように、第1食付き部12a,22aの傾斜角k1を第2食付き部12c,22cの傾斜角k2より大きく設定することにより、傾斜角の相対的に大きな第1食付き部12a,22aで、転造初期のブランクBを大きく変形させて山形を形成し、傾斜角の相対的に小さな第2食付き部12c,22cで、山払い部12dに達した後のブランクBの山形の素材の偏り等を修正することができる。その結果、転造が比較的困難な歯たけの高い山形であっても、精度良く転造できると共に、転造による素材の偏りや傷の発生を抑制できる効果がある。
【0036】
また、転造平ダイス1の第1平ダイス10と第2平ダイス20とは、第1食付き部12a,22aの長さ及び傾斜角k1、仕上げ部12b,22bの長さ、第2食付き部12c,22cの傾斜角k2が同一なので、第1平ダイス10及び第2平ダイス20の転造歯形面12,22でブランクBを均等に転造できるため、転造による素材の流動ばらつきを小さくすることができる。
【0037】
さらに、転造平ダイス1は、第1食付き部12a,22aの長さが第2食付き部12c,22cの長さよりも長く設定されているので、第1食付き部12a,22aの傾斜角k1が第2食付き部12c,22cの傾斜角k2より大きく設定されていても、第1食付き部12a,22aの加工歯13,23をブランクBに徐々に圧下させて山形を形成できる。これにより、ブランクBの素材が少しずつ移動して山形ができるので、塑性変形量が大きな転造初期において、ブランクBの素材の偏りを小さくすることができる。また、歯たけの高い歯形など転造が困難な形状の山型であっても、精度良く転造できる。
【0038】
以上のように構成された転造平ダイス1によれば、第1平ダイス10及び第2平ダイス20の転造歯形面12,22は、仕上げ部12b,22bに連設されブランクBの入り側の一端面14,24に向かって下降傾斜する第1食付き部12a,22aと、仕上げ部12b,22bの反対側に連設され他端面15,25に向かって下降傾斜する第2食付き部12c,22cとを備え、第1平ダイス10は、第2食付き部12cの他端面15側に連設されると共に加工歯13の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される山払い部12dを備えている。これにより、転造平ダイス1の一端面14,24側からブランクBを導入して転造し、他端面15,25側の山払い部12dでブランクBを停止させた後、第1平ダイス10及び第2平ダイス20の転造歯形面12,22の間隔を狭め、再び一端面14,24側に向けてブランクBを転造する場合、第1平ダイス10及び第2平ダイス20の転造歯形面12,22の間隔を狭める際に、山払い部12dではブランクBの歯面が抵抗とならずに、第1平ダイス10と第2平ダイス20との間隔を目標値どおりに精度良く狭めることができる。その結果、ブランクBを往復転造することにより、転造によるブランクBの素材の偏りを修復することができると共に、山の頂に傷が発生することを防止できる。
【0039】
次に、図6を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態においては、山払い部12dが加工歯13の山を全て取り払って形成された場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、山払い部112dが加工歯の山の高さ方向の一部を払った部位を備えている場合について説明する。
【0040】
図6は、本発明の第2実施の形態における転造平ダイスの第1平ダイス110の山払い部112dの側面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。また、第2実施の形態における転造平ダイスを用いたブランクBの転造方法は、第1実施の形態で説明した転造方法と同様なので、説明を省略する。
【0041】
本実施の形態においては、図6に示すように、山払い部112dは、第1平ダイス110の転造歯形面112の第2食付き部112cの他端面15側に連設されると共に、加工歯の山の高さ方向の一部を払って、第2食付き部112cから他端面15側へ向けて直線状に下降傾斜して形成された傾斜部112eを備えて構成されている。第1平ダイス110は山払い部112dに傾斜部112eを備えており、傾斜部112eは第2食付き部112cに連設されているので、第2食付き部112cの加工歯のチッピング等による損傷を防止でき、第1平ダイス110(転造平ダイス)の耐久性を向上できる。
【0042】
次に、図7を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態においては、第2平ダイス20は山払い部が省略されている以外は、第1平ダイス10と同様に構成されている場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、第2平ダイス210は転造歯形面212に、転造方向と平行に形成された仕上げ部212aは備えているが、第1食付き部及び第2食付き部を備えていない場合について説明する。
【0043】
図7は、本発明の第3実施の形態における転造平ダイス200の側面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。転造平ダイス200は、第1平ダイス210及び第2平ダイス20(図2参照)を備えて構成されている。第1平ダイス210は、合金工具鋼や高速度工具鋼等の金属材料で略直方体状に形成され、複数の加工歯が設けられた転造歯形面212に、転造方向始端側(図7右側)の一端面14から他端面15へ向けて、仕上げ部212a、山払い部212bが順に連続して設けられている。仕上げ部212aは、転造方向に対して平行(支持面11に対して略平行)に形成されている。
【0044】
山払い部212bは、仕上げ部212aの他端面15側に連設される部位である。また、山払い部212bは、第2平ダイス20の他端面24寄りの第2食付き部22cにブランクBを介して対設されると共に、加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される部位である。なお、第3実施の形態における転造平ダイス200を用いたブランクBの転造方法は、第1実施の形態で説明した転造方法と同様なので、説明を省略する。
【0045】
以上のように構成された第2実施の形態における転造平ダイス200によれば、第2平ダイス20の転造歯形面22は、仕上げ部22bに連設されブランクBの入り側の一端面24に向かって下降傾斜する第1食付き部22aと、仕上げ部22bの反対側に連設され他端面25に向かって下降傾斜する第2食付き部22cとを備え、第1平ダイス210は、他端面25側の第2食付き部22cにブランクBを介して対設されると共に加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される山払い部212bを備えているので、転造平ダイス200の一端面14,24側からブランクBを導入して転造し、他端面15,25側の山払い部212bでブランクBを停止させた後、第1平ダイス210及び第2平ダイス20の転造歯形面22,212の間隔を狭め、再び一端面14,24側に向けてブランクBを転造する場合、第1平ダイス210及び第2平ダイス20の転造歯形面22,212の間隔を狭める際に、山払い部212bではブランクBの歯面が抵抗とならずに、第1平ダイス20と第2平ダイス210との間隔を目標値どおりに精度良く狭めることができる。その結果、ブランクBを往復あるいは複数回転造することにより、転造によるブランクBの素材の偏りを修復することができると共に、山の頂に傷が発生することを防止できる。
【0046】
また、山払い部212bは加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成されているので、第1平ダイス210及び第2平ダイス20との間隔を狭める際に、ブランクBの転造された歯面に加工歯の歯面が無理に押し付けられることを防止できる。これにより、第1平ダイス210及び第2平ダイス20の加工歯に大きな負荷が加わることを防ぎ、転造平ダイス200の耐久性を向上できる。
【0047】
さらに、第2平ダイス20は、第2食付き部22cの落ち量が、仕上げ部22bに設けられた加工歯23のアデンダム未満に設定されているので、第1平ダイス210の山払い部212bにおいて、図4に示すように、第2平ダイス20の加工歯23の山の頂が、ブランクBに転造された山形のフランクF間に位置する。その結果、山払い部212bにおいて、ブランクBの軸方向の移動が加工歯23の山の頂で規制される。そのため、山払い部212bにおいて、ブランクBに位相ずれが生じることを防止できる。よって、ブランクBを往復あるいは複数回転造する際に位相ずれが生じることなく、加工精度が低下することを防止できる。
【0048】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0049】
上記第1実施の形態および上記第3実施の形態では、山払い部12d,212bが、加工歯の山を取り払った場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、加工歯の山の高さ方向の一部を払っても良い。この場合も、第1平ダイス10,210及び第2平ダイス20の転造歯形面の間隔を狭める際に、ブランクBの歯面が抵抗となることなく、第1平ダイス10,210と第2平ダイス20との間隔を精度良く狭めることができる。
【0050】
上記第2実施の形態では、山払い部112dの傾斜部112eが、第2食付き部112cから他端面15側へ向けて直線状に下降傾斜して形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、第2食付き部112cから他端面15側へ向けて曲線状に下降傾斜するように構成しても良い。この場合も、第2食付き部112cの加工歯にチッピング等が生じることを抑制でき、転造平ダイスの耐久性を向上できる。
【0051】
上記各実施の形態においては、ブランクBを転造平ダイス1,200の一端面14,24側から導入して、山払い部12d,112d,212bに到達させた後、再び転造平ダイス1,200の一端面14,24側に転動させて転造加工品を取り出す場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、山払い部12d,112d,212bに到達させたブランクBを第1食付き部12a,22aまで転動させた後、第1平ダイス及び第2平ダイスとの間隔を狭め、再度、転造平ダイス1,200の他端面15,25側に転動させる場合もある。さらに、これを複数回繰り返す場合もある。これらの場合も、転造によるブランクBの素材の偏りを修復することができると共に、山の頂に傷が発生することを防止できる。
【符号の説明】
【0052】
1,200 転造平ダイス
10 第1平ダイス
12,22 転造歯形面
12a,22a 第1食付き部
12b,22b 仕上げ部
12c,22c 第2食付き部
12d,112d,212b 山払い部
13,23 加工歯
14,24 一端面
15,25 他端面
20 第2平ダイス
A アデンダム
B ブランク
k1,k2 傾斜角
S 落ち量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工歯が設けられると共に転造方向と平行に形成される仕上げ部を有する転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被加工部材であるブランクの外周面に食い込ませて前記ブランクの外周面に山形を転造する第1平ダイス及び第2平ダイスを備える転造平ダイスにおいて、
前記第1平ダイス及び前記第2平ダイスの少なくとも一方の転造歯形面は、前記仕上げ部に連設され前記ブランクの入り側の一端面に向かって下降傾斜する第1食付き部と、前記仕上げ部の反対側に連設され他端面に向かって下降傾斜する第2食付き部とを備え、
前記第1平ダイス又は前記第2平ダイスは、前記第2食付き部の前記他端面側に連設され若しくは前記他端面側の前記第2食付き部に対設されると共に前記加工歯の山の高さ方向の少なくとも一部を払って形成される山払い部を備え、
その山払い部を備える前記第1平ダイス又は前記第2平ダイスの他方は、前記山払い部に対設される前記加工歯の前記仕上げ部の終端からの落ち量が、前記仕上げ部の加工歯のアデンダム未満に設定されていることを特徴とする転造平ダイス。
【請求項2】
前記第1食付き部の傾斜角は、前記第2食付き部の傾斜角よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1記載の転造平ダイス。
【請求項3】
前記第1食付き部の長さは、前記第2食付き部の長さよりも長く設定されていることを特徴とする請求項2記載の転造平ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−45910(P2011−45910A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197274(P2009−197274)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)