説明

軸受用潤滑剤組成物

【課題】広い使用可能温度範囲を有し、かつ温度変化による粘度の変化が小さい軸受用潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】軸受用潤滑剤組成物は、一般式(1)で表されるエステル化合物(α)を含有する基油を含み、流動点が−30℃以下であり、粘度指数が150以上である。
【化1】


[一般式(1)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、XおよびXの少なくとも一方は、総炭素数2〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキルエーテル基であり、アルキルエーテル基でない場合は炭素数5〜13の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家電、事務機器、電子情報機器、工業用機械、携帯端末等の電子機器における小型化、および低消費電力化は年々進歩している。また、これらの電子機器の使用可能な温度範囲も年々拡大している。それにともない、これらの電子機器に用いられるディスク駆動装置等には、流体軸受(流体動圧軸受)等を搭載したスピンドルモータが使用されるようになった。
【0003】
これらの電子機器の小型化、低消費電力化や使用可能温度範囲の拡大は、モータの性能向上によるものが大きい。モータやその搭載機器の性能向上を実現する手段の一つとしては、モータに搭載された流体軸受等の軸受の性能を高めることがあり、軸受の性能向上を図るために種々の軸受用潤滑剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/018595号パンフレット
【特許文献2】特開2008−7741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、これらの電子機器には、使用可能な温度範囲の拡大がますます求められている。特に、これらの電子機器の用途をモバイル機器等へ拡大するニーズがあり、モータやその搭載機器がより過酷な温度環境下での使用に耐え得ることが求められるようになっている。すなわち、モータやその搭載機器の使用可能温度範囲の拡大と、温度変化に対して安定して駆動できることが強く求められている。したがって、軸受用潤滑剤組成物にも、使用可能な温度範囲の拡大や、温度変化による粘度の変化が小さいことが求められている。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、広い使用可能温度範囲を有し、かつ温度変化による粘度の変化が小さい軸受用潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、軸受用潤滑剤組成物である。この軸受用潤滑剤組成物は、一般式(1)で表されるエステル化合物(α)を含有する基油を含み、流動点が−30℃以下であり、粘度指数が150以上であることを特徴とする。
【化1】

[一般式(1)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、XおよびXの少なくとも一方は、総炭素数2〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキルエーテル基であり、アルキルエーテル基でない場合は炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【0008】
この態様によれば、広い使用可能温度範囲を有し、かつ温度変化による粘度の変化が小さい軸受用潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、広い使用可能温度範囲を有し、かつ温度変化による粘度の変化が小さい軸受用潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0011】
本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物は、軸受用の潤滑油であり、特に流体軸受に好適に用いることができる潤滑油である。軸受用潤滑剤組成物は、一般式(1)で表されるエステル化合物(α)を含有する基油を含む。
【0012】
【化2】

[一般式(1)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、XおよびXの少なくとも一方は、総炭素数2〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキルエーテル基であり、アルキルエーテル基でない場合は炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【0013】
すなわち、本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物の基油は、ジオール(HO−A−OH)と、第1のカルボン酸(X−COOH)および第2のカルボン酸(X−COOH)とからなるジオールエステルを主成分とするものである。このジオールエステルは、第1のカルボン酸および第2のカルボン酸の少なくとも一方が、炭素主鎖に酸素原子を含む、すなわちエーテル結合を有する、エーテル含有ジオールエステルである。
【0014】
上記一般式(1)で表されるエステル化合物(α)としては、一般式(2)で表されるエステル化合物(α1)が挙げられる。
【0015】
【化3】

[一般式(2)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、BおよびBは同一でも異なってもよく、それぞれ炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なってもよく、それぞれ炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【0016】
エステル化合物(α1)は、一般式(1)において、XおよびXがともにエーテル結合を含むアルキルエーテル基である化合物に相当する。すなわち、エステル化合物(α1)は、ジオール(HO−A−OH)と、アルキレン基Bおよびアルキル基Rがエーテル結合により結合し、アルキレン基Bにカルボキシル基(−COOH)が結合した第1のカルボン酸(R−O−B−COOH)と、アルキレン基Bおよびアルキル基Rがエーテル結合により結合し、アルキレン基Bにカルボキシル基(−COOH)が結合した第2のカルボン酸(R−O−B−COOH)とからなるエーテル含有ジオールエステルである。
【0017】
また、上記一般式(1)で表されるエステル化合物(α)としては、一般式(3)で表されるエステル化合物(α2)が挙げられる。
【0018】
【化4】

[一般式(3)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、Bは炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、Rは炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、Rは炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【0019】
エステル化合物(α2)は、一般式(1)において、Xがエーテル結合を含むアルキルエーテル基であり、Xがエーテル結合を含まないアルキル基である化合物に相当する。すなわち、エステル化合物(α2)は、ジオール(HO−A−OH)と、アルキル基Rにカルボキシル基(−COOH)が結合した第1のカルボン酸(R−COOH)と、アルキレン基Bおよびアルキル基Rがエーテル結合により結合し、アルキレン基Bにカルボキシル基(−COOH)が結合した第2のカルボン酸(R−O−B−COOH)とからなるエーテル含有ジオールエステルである。
【0020】
ジオール(HO−A−OH)のアルキレン基Aは、炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である。アルキレン基Aの炭素数を3以上とすることで、ジオールの蒸発を防ぐことができ、アルキレン基Aの炭素数を8以下とすることで、軸受用潤滑剤組成物の粘度増大や流動点上昇を抑制することができる。ジオール(HO−A−OH)としては、例えば1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができ、なかでも3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールが好ましく、3−メチル−1,5−ペンタンジオールがより好ましい。
【0021】
エステル化合物(α1)におけるアルキレン基B,Bと、エステル化合物(α2)におけるアルキレン基Bは、それぞれ炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、好ましくは炭素数3〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である。アルキレン基B,B,Bの炭素数を10以下とすることで、軸受用潤滑剤組成物の粘度増大および流動点上昇を抑制することができる。アルキレン基B,B,Bの好ましい例としてはエチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基等が挙げられ、より好ましい例としてはn−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基が挙げられ、さらに好ましい例としてはn−ペンチレン基が挙げられる。
【0022】
また、エステル化合物(α1)におけるアルキル基R,Rと、エステル化合物(α2)におけるアルキル基Rは、それぞれ炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。アルキル基R,R,Rの炭素数を10以下とすることで、軸受用潤滑剤組成物の粘度増大による流動点の上昇を抑制することができる。アルキル基R,R,Rの好ましい例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
【0023】
エステル化合物(α2)におけるアルキル基Rは、炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。アルキル基Rの好ましい例としては、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
【0024】
エステル化合物(α)およびエステル化合物(α1)において、第1のカルボン酸および第2のカルボン酸は、同一でも異なってもよい。また、エステル化合物(α)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、基油は、エステル化合物(α1)のみ、またはエステル化合物(α2)のみを含有してもよく、エステル化合物(α1)およびエステル化合物(α2)を含有してもよい。エステル化合物(α1)およびエステル化合物(α2)を組み合わせて用いる場合、エステル化合物(α1)およびエステル化合物(α2)のジオールは、同一でも異なってもよい。また、エステル化合物(α1)およびエステル化合物(α2)のエーテル結合を有するカルボン酸は、同一でも異なってもよい。なお、上記一般式(1)で表されるエステル化合物(α)としては、後述する温度特性向上効果の得られやすさの点から、エステル化合物(α1)が好ましい。
【0025】
一般に、基油の分子量を小さくして軸受用潤滑剤組成物の流動点を低下させた場合、軸受用潤滑剤組成物の粘度指数が低下してしまう。逆に、粘度指数を高めると、流動点が上昇してしまう。これに対し、本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物では、基油を構成するジオールエステルをエーテル結合含有ジオールエステルとした。すなわち、ジオールの少なくとも一方のヒドロキシ基(−OH)に、主鎖の炭素が酸素で置換されたカルボン酸をエステル結合させてジオールエステルを形成した。このように基油にエーテル結合含有ジオールエステルを用いることで、粘度指数を維持しながら、流動点を低下させることができる。これは、エーテル結合の酸素原子同士の相互作用によって、ジオールエステル同士の結合が阻害され、その結果、軸受用潤滑剤組成物の流動点が低下するためであると考えられる。
【0026】
本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物は、流動点が−30℃以下であり、粘度指数が150以上である。したがって、本実施の形態の軸受用潤滑剤組成物は、エーテル結合を含まないエステル化合物のみからなる基油を含む従来の軸受用潤滑剤組成物に比べて、広い使用可能温度範囲を有し、かつ温度変化による粘度変化が小さい。流動点は、好ましくは−40℃以下であり、より好ましくは−50℃以下である。
【0027】
また、軸受用潤滑剤組成物は、40℃における動粘度が好ましくは7〜20mm/sであり、より好ましくは8〜13mm/sである。軸受用潤滑剤組成物の40℃における動粘度を7〜20mm/sとすることで、流体軸受等の軸受に好適に用いることができる。例えば、軸受用潤滑剤組成物を低粘度とすることで、軸受を搭載したモータの低消費電力化が可能となり、このモータを搭載した電子機器の使用時間の増大を図ることができる。
【0028】
本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物の基油は、一般式(4)で表されるエステル化合物(β)をさらに含有してもよい。
【0029】
【化5】

[一般式(4)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なってもよく、それぞれ炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【0030】
エステル化合物(β)は、ジオール(HO−A−OH)と、主鎖に酸素原子を含まない、すなわちエーテル結合を含まない第3のカルボン酸(R−COOH)および第4のカルボン酸(R−COOH)がエステル結合したジオールエステルである。アルキレン基Aは、上述したアルキレン基Aと同様である。また、アルキル基R,Rは、上述したアルキル基Rと同様である。なお、アルキレン基Aとアルキレン基Aとは、同一でも異なってもよく、アルキル基R、アルキル基Rおよびアルキル基Rは、同一でも異なってもよい。
【0031】
このような、エーテル結合を含まないエステル化合物(β)に、エーテル結合を有するエステル化合物(α1)およびエステル化合物(α2)の少なくとも一方を含有させることで、流動点の低下と粘度指数の増大とを図ることができる。
【0032】
基油の含有量は、軸受用潤滑剤組成物の全質量に対して例えば90〜99質量%であり、好ましくは95〜99質量%である。また、エステル化合物(α)の含有量は、基油の全質量に対して例えば5〜100質量%である。エステル化合物(α)の含有量を基油の全質量に対して5質量%以上とすることで、軸受用潤滑剤組成物の温度特性向上効果をより確実に得ることができる。また、エステル化合物(α1)とエステル化合物(β)とを混合する場合、混合時のエステル化合物(α1)とエステル化合物(β)の質量比を(α1):(β)=100:0〜5:95の範囲とすることが好ましい。さらに、エステル化合物(α1)、(α2)および(β)を混合する場合、混合時の各エステル化合物の質量比を(α1):{(α2)+(β)}=100:0〜5:95の範囲とすることが好ましい。
【0033】
なお、エステル化合物(α1)とエステル化合物(β)とを混合した基油では、エステル交換反応により、エステル化合物(α1)とエステル化合物(β)のカルボン酸部分が交換されて、エステル化合物(α2)が生成され得る。この場合、得られるエステル化合物(α2)は、ジオール由来のアルキレン基がAのものとAのものとを含む。例えば、エステル化合物(α1)とエステル化合物(β)とを1:1で混合した場合、最終的なエステル化合物(α1)、(α2)および(β)の質量比は、例えば(α1):(α2):(β)=1:1:1、あるいは(α1):(α2):(β)=3:4:3となる。
【0034】
基油は、以下の(a)〜(e)からなる群より選択される1種類以上の他の化合物(γ)をさらに含有してもよい。他の化合物(γ)の含有量は、基油の全質量に対して0〜95質量%とすることができる。また、エステル化合物(α)と他の化合物(γ)の質量比を、例えば5:95〜100:0としてもよい。
【0035】
(a)アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸およびセバシン酸からなる群より選択される1種類以上のジカルボン酸と、炭素数6〜12のアルコールとのジエステル
このようなジエステルの好ましい例としては、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、アジピン酸ジイソドデシル、スベリン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)等を挙げることができる。
【0036】
(b)炭素数8〜20の飽和または不飽和カルボン酸と、炭素数6〜20のアルコールとのモノエステル
このようなモノエステルの好ましい例としては、2−エチルヘキサン酸ステアリル、2−エチルヘキサン酸パルミチル、2−エチルヘキサン酸パルミチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸2−エチルヘキシル等を挙げることができる。
【0037】
(c)炭素数3〜10の飽和または不飽和カルボン酸と、トリメチロールプロパンとのトリエステル
このようなトリエステルの好ましい例としては、n−ペンタン酸(n−ペンチル)、n−ヘキサン酸(n−ヘキシル)、n−ヘプタン酸(n−ヘプチル)、n−オクタン酸(n−オクチル)、n−ノナン酸(n−ノニル)、およびn−デカン酸(n−デシル)の1種類以上とトリメチロールプロパンとのトリエステル等を挙げることができる。
【0038】
(d)炭素数3〜10の飽和または不飽和カルボン酸と、ペンタエリスリトールとのテトラエステル
このようなテトラエステルの好ましい例としては、n−ペンタン酸(n−ペンチル)、n−ヘキサン酸(n−ヘキシル)、n−ヘプタン酸(n−ヘプチル)、n−オクタン酸(n−オクチル)、n−ノナン酸(n−ノニル)、およびn−デカン酸(n−デシル)の1種類以上とペンタエリスリトールとのテトラエステル等を挙げることができる。
【0039】
(e)鉱物油または合成炭化水素油
このような鉱物油および合成炭化水素油としては、従来公知のものを用いることができる。
【0040】
軸受用潤滑剤組成物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびヒンダードアミン系酸化防止剤の少なくとも一方を含んでもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびヒンダードアミン系酸化防止剤の少なくとも一方を含む酸化防止剤を含有することで、軸受用潤滑剤組成物の酸化を防止して、軸受用潤滑剤組成物の長寿命化を図ることができる。これらの酸化防止剤の含有量は、軸受用潤滑剤組成物の全質量に対して0.1質量%以上、10.0質量%以下であることが好ましい。
【0041】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のジフェノール系、または、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ構造を3つ以上有するフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は、単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えばジアルキル化ジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、または、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。これらのアミン系酸化防止剤は単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物は、上記一般式(1)で表されるエーテル結合含有ジオールエステルを含有する基油を含み、流動点が−30℃以下であり、粘度指数が150以上である。そのため、広い使用可能温度範囲を有するとともに、温度変化による粘度の変化が小さい軸受用潤滑剤組成物を得ることができる。すなわち、低流動点と高粘度指数との両立を図ることができる。また、流動点降下を目的とした基油の分子量低減を回避しているため、軸受用潤滑剤組成物の蒸発損失の増大を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る軸受用潤滑剤組成物を流体軸受等の軸受に用いた場合には、回転体と軸受との間の抵抗をより長期間、またより低温の環境下において小さくすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0045】
実施例1〜5および比較例1〜5に係る軸受用潤滑剤組成物を用意した。軸受用潤滑剤組成物は、従来公知の方法により調製することができる。各軸受用潤滑剤組成物の組成は、下記表1に示すとおりである。なお、各実施例および各比較例の軸受用潤滑剤組成物には、軸受用潤滑剤組成物の全質量を100質量%としたときに、酸化防止剤0.5質量%、極圧剤0.5質量%、金属不活性化剤0.1質量%を添加剤として使用した。また、軸受用潤滑剤組成物100質量%から添加剤の質量%を差し引いた残部の量を、全て基油の含有量とした。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例4では、エステル化合物(α1)とエステル化合物(β)とを質量比1:1で混合して基油を調製した。比較例3の基油であるノナン酸エステルは、ネオペンチルグリコール ジ−n−ノナン酸エステルである。比較例4の基油であるDOSは、ジ(2−エチルヘキシル)セバケートである。比較例5の基油であるモノエステルは、メチルペプタデシル酸2−エチルヘキシルである。
【0048】
(粘度測定、粘度指数算出)
各実施例および各比較例の軸受用潤滑剤組成物について、0℃、40℃、100℃における動粘度(mm/s)を測定した。動粘度は、JIS K 2283に準じて、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて測定した。また、JIS K 2283に準じて、40℃および100℃の動粘度から粘度指数を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
(蒸発量測定)
各実施例および各比較例の軸受用潤滑剤組成物について、120時間および500時間経過時の蒸発量(質量%)を測定した。SUS304製の容器に各軸受用潤滑剤組成物を入れて温度120℃で放置し、120時間および500時間経過時の質量減少量を蒸発量とした。結果を表1に示す。
【0050】
(摩擦係数測定)
各実施例および各比較例の軸受用潤滑剤組成物について、曽田式振子型試験機により摩擦係数を測定した。この試験は、振子支点の摩擦部分に各軸受用潤滑剤組成物を与え、振子を振動させ、振動の減衰から摩擦係数を求めるものである。摩擦係数の測定は室温で行った。結果を表1に示す。
【0051】
(流動点測定)
各実施例および各比較例の軸受用潤滑剤組成物について、JIS K2269に準じて流動点を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
表1に示すように、実施例1〜5の軸受用潤滑剤組成物では、流動点が−30℃以下であり、粘度指数が150以上であった。これに対し、比較例1,2では、粘度指数は150以上であったが、流動点が−30℃を上回った。また、比較例3では、流動点が−30℃を上回り、粘度指数が150未満であった。比較例4,5では、流動点は−30℃以下であったが、粘度指数が150未満であった。これらのことから、実施例1〜5の軸受用潤滑剤組成物では、良好な流動点と粘度指数との両立が可能であることが示された。
【0053】
また、実施例1と同じエステル化合物(α1)と、比較例1と同じエステル化合物(β)とを混合した基油を含む実施例4の軸受用潤滑剤組成物の結果から、従来の基油であるエステル化合物(β)にエステル化合物(α1)を混合することで、比較例1の軸受用潤滑剤組成物の問題点であった流動点を改善することができ、かつ良好な粘度指数を維持可能であることが示された。
【0054】
また、実施例1〜5では、40℃における動粘度が7〜20mm/sの範囲内であった。また、蒸発量が低く、したがって良好な耐熱性を備えていた。さらに、摩擦係数が低く、したがって良好な潤滑性を備えていた。したがって、本実施の形態に係る軸受用潤滑剤組成物は、低温における流動性能に優れ、温度変化に対する安定性を有し、小型モータ等に搭載される軸受に要求される低粘度、耐熱性、潤滑性等の性能を具備している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるエステル化合物(α)を含有する基油を含み、
流動点が−30℃以下であり、粘度指数が150以上であることを特徴とする軸受用潤滑剤組成物。
【化1】

[一般式(1)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、XおよびXの少なくとも一方は、総炭素数2〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキルエーテル基であり、アルキルエーテル基でない場合は炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【請求項2】
前記エステル化合物(α)は、一般式(2)で表されるエステル化合物(α1)を含む請求項1に記載の軸受用潤滑剤組成物。
【化2】

[一般式(2)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、BおよびBは同一でも異なってもよく、それぞれ炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なってもよく、それぞれ炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【請求項3】
前記基油は、一般式(4)で表されるエステル化合物(β)をさらに含有する請求項1または2に記載の軸受用潤滑剤組成物。
【化3】

[一般式(4)中、Aは炭素数3〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なってもよく、それぞれ炭素数5〜13で不飽和結合を有してもよい直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。]
【請求項4】
前記基油は、
(a)アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸およびセバシン酸からなる群より選択される1種類以上のジカルボン酸と、炭素数6〜12のアルコールとのジエステル
(b)炭素数8〜20の飽和または不飽和カルボン酸と、炭素数6〜20のアルコールとのモノエステル
(c)炭素数3〜10の飽和または不飽和カルボン酸と、トリメチロールプロパンとのトリエステル
(d)炭素数3〜10の飽和または不飽和カルボン酸と、ペンタエリスリトールとのテトラエステル
(e)鉱物油または合成炭化水素油
からなる群より選択される1種類以上の他の化合物(γ)をさらに含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の軸受用潤滑剤組成物。
【請求項5】
40℃における動粘度が7〜20mm/sである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の軸受用潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2013−82900(P2013−82900A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−207168(P2012−207168)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(501358002)株式会社バルビス (6)
【出願人】(398050043)佐藤特殊製油株式会社 (3)
【出願人】(598041795)神戸天然物化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】