説明

軽金属射出成形機の射出装置

【課題】軽金属材料のビレットを融解ユニット内で溶融し、その溶湯を射出ユニットで計量して金型に射出する軽金属射出成形機では、ビレットのさらなる融解効率の向上と、溶湯の射出シリンダでの漏れ出し及び固化の防止が求められる。
【解決手段】軽金属射出成形機の射出装置は、融解シリンダ内で融解された溶湯の容積を増減する容量調整手段を備える。容量調整手段は、融解シリンダ孔内部に向かって進退する押し込みピンとその押し込みピンを前後に移動させる駆動装置とからなり、その押し込みピンの後退動作によって、射出シリンダの連通孔中の溶湯液面レベルを低下させる。また、押し込みピンの後退動作とビレットの前進動作とを同期的に行って、冷却工程にもビレットの前進を可能にして、ビレットの融解効率を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円柱短棒形状のビレットに予め成形した軽金属材料、特にマグネシウム材料を融解ユニットの融解シリンダに挿入して溶融し、その溶湯を射出ユニットで計量してから金型に射出充填して成形する軽金属射出成形機の射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱短棒形状に成形した軽金属材料、特にマグネシウム材料(以下、ビレットと言う。)を、加熱された融解ユニットの融解シリンダ中に供給して融解し、融解された溶湯を加熱された射出ユニットの射出シリンダ中で計量して、その溶湯を金型に射出充填する射出成形機がある。そのような射出成形機の射出装置は、大容量であって比較的単純な形状の成形品を成形する射出装置と、薄物や複雑形状の成形品を精密に成形する射出装置とに大別される。そして、その違いはその射出装置と金型の組み合わせ態様に端的に現れる。すなわち、前者では、射出シリンダと固定側金型とが一体的に構成されてそのシリンダ孔と金型キャビティとが直接的に連通する一方、後者では、その射出シリンダと固定側金型とが細径のノズルを介して離接可能に接続する。
【0003】
前者の態様の射出装置は、たとえば、本願の出願人による特開2004−167499号公報(特許文献1)で開示されている。また、他に、特開2000−158115号公報(特許文献2)で開示されている。すなわち、特許文献1では、本出願で開示される射出装置の基本的な構成が開示されている。また特許文献2では、プランジャヘッドが前進した後に生じるプランジャとシリンダの隙間にガス圧力を掛けて、溶湯進入を防止する構成が開示されている。
【0004】
一方、後者の射出装置は、たとえば、本願の出願人による特許4119892号公報(特許文献3)で開示されている。また、他にも、特開2000−254764号公報(特許文献4)の射出装置で開示されている。すなわち、特許文献3では、本出願で開示される融解ユニットのシール機構が開示されている。また、特許文献4では、融解ユニットから射出ユニットへの接続が射出ユニットの下側であると推察できる構成が開示されている。
【0005】
本出願の射出装置は、前者の特許文献1と特許文献2に属し、後者の特許文献3と特許文献4とは上記のように若干異なる装置である。したがって、後者の文献は参考とされるべき装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−167499号公報
【特許文献2】特開2000−158115号公報
【特許文献3】特許4119892号公報
【特許文献4】特開2000−254764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願の発明人は、大容量の成形品を成形する前者の特許文献1の射出装置には、融解効率の向上という課題においてなお改良の可能性を認識した。その可能性は、冷却中にビレットを前進させることができればビレットをより多く融解できるということである。このことは、従来、つぎの固定観念に縛られて全く考慮されることがなかった。それは、成形品の冷却中に射出シリンダに溶湯を送らないように、その間融解シリンダ中のビレットを前進させることは当然できないという固定観念である。
【0008】
また、その射出装置によって小容量の成形を行う場合に、計量された溶湯が固化しやすいという別の問題がある。それは、その溶湯の熱容量が小さいために、型閉じ後計量と射出とを迅速にしないと溶湯が固化することである。また、射出シリンダに溶湯を落下させると溶湯がシリンダ中で飛散して、その溶湯が酸化しやすいという問題もある。その場合、不活性ガス又はSF6等をシリンダ内に封入してエアパージする対策を欠かせない。
【0009】
また特許文献2の射出装置では、溶湯が下方から供給されることによって上記酸化等の問題が解決されたが、別の問題が懸念される。それは、不活性ガス等のガス圧力を利用して湯面を下げるためにシリンダ後端のガスシールを要するところ、そのシールがプランジャヘッド背後に漏れ出した漏出材料の排出を阻害するのではないかという懸念である。また、不活性ガスが高温でないと溶湯表面が固化する虞もある。
【0010】
一方、後者の射出装置である特許文献4で開示されている、融解ユニットから射出ユニットへの接続が下側に位置している構成については、本発明に属する前者の射出装置にそのまま採用できない。なぜなら、プランジャが前進した後にプランジャヘッドと溶融材料とが接触したままであると、その材料が固化する虞があるからである。
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決する射出装置を提案するものであり、融解シリンダ中でのビレットの融解効率を向上した射出装置を提案する。また、本発明は、射出のためにプランジャが前進した後に溶湯が連通孔からプランジャシャフト周りに漏れ出すことを防止して、結果その連通孔中の溶湯の固化も防止する射出装置を提案する。そして、本発明は、小容量の成形を行う場合に型閉じ完了後計量へ移行することを迅速にできる射出装置を提案する。また、本発明は、射出シリンダを不活性ガス等でエアパージする必要がない射出装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の軽金属射出成形機の射出装置は、上記課題を解決するために、融解ユニットと射出ユニットとそれらの融解シリンダと射出シリンダとを連結する連通部材とを備え、その融解ユニットが、円柱短棒形状のビレットをその融解シリンダの中にプッシャによって挿入してそのビレットを先端側から溶湯に融解し、その射出ユニットが、その溶湯を射出シリンダで計量してプランジャによって射出する軽金属材料の射出装置において、(a)前期連通部材が、前記融解ユニットと前記射出ユニットとをそれぞれの側方位置に配置した状態で連結し、(b)前期連通部材の透孔が、前記融解シリンダ側ではその先端側上面に形成された連通孔と連通し、前記射出シリンダ側ではその先端からある程度後方にずれた下面であって前記プランジャが後退したときにそのプランジャヘッド前方で開口する位置に形成された連通孔と連通して、(c)その融解ユニットの融解シリンダに、その溶湯が存在する容積を増減する容量調整手段を備えた装置に構成される。
【0013】
また、本発明の前記容量調整手段が、前記融解シリンダ孔内部に向かって進退する押し込みピンとその押し込みピンを進退させる駆動装置とからなる装置であっても良い。
【0014】
また、本発明の前記容量調整手段の押し込みピンと前記プッシャとが、充填直後からつぎの計量開始までの冷却工程中に、その押し込みピンの後退によって拡張する溶湯容量とそのプッシャの前進によって押し退ける溶湯容量とを同量になるように協調して移動することによって、射出シリンダの連通孔中の溶湯液面レベルを低下させたままで前記ビレットを前進させる装置であっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の射出装置によれば、融解ユニットが融解シリンダ中の溶湯の存在する容積(以下単に溶湯容積という)を増減する容量調整手段を備えるので、ビレットを前進させて融解するだけの融解ユニットであっても、ビレット前方の溶湯容積を増減することができる。それで、射出シリンダ側の連通孔が射出シリンダ孔壁面とプランジャシャフトの隙間に向かって開口している冷却工程中においても、融解シリンダ内の溶湯容積を増加させて溶湯を融解シリンダ側に引き戻すことによって、その連通孔中の溶湯液面高さを低下させることができ、結果溶湯の漏れ出しと固化とを防止することができる。また、容量調整手段による溶湯容積の増加に加えてビレットの前進を協働して行うことによって、上記溶湯液面低下を維持したままでビレットを前進させることが可能となり、冷却工程においてもビレットを前進させてその分より多く融解させて、結果として、ビレットの融解効率を向上することができる。
【0016】
また、本発明の容量調整手段が、前記融解シリンダ内に向かって進退する押し込みピンとその押し込みピンの駆動装置とからなるコンパクトな装置に構成することができるので、冷却後計量に移行することを迅速にでき、特に小容量の成形を行う場合に有利である。
【0017】
また、本発明の容量調整手段の押し込みピンと前記プッシャとが、充填直後からつぎの計量開始までの間に、その押し込みピンの後退によって拡張する溶湯容量と、そのビレット前進によって減少する溶湯容量とを同量になるように制御することによって、連通孔中の溶湯の液面レベルを低下させたままで前記ビレットを前進させることができる。それで、冷却工程中でも溶湯を射出シリンダ内に漏らすことなくビレットを前進させて、そのビレットの融解効率向上を簡単な装置で確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の射出装置の構成を断面で示す平面図であり、(a)図が(b)図のX−X矢視断面図、(b)図が射出装置全体の平面図である。
【図2】本発明の融解ユニットの構成を断面で示す立面図である。
【図3】本発明の射出ユニットの構成を断面で示す立面図である。
【図4】融解ユニットにおける融解シリンダシリンダ孔とビレットの隙間のシール機構を例示する立面断面図である。
【図5】射出ユニットにおける射出シリンダシリンダ孔とプランジャヘッドの隙間のシール機構を例示する立面断面図である。
【図6】本発明の射出装置の成形サイクルを工程順に示し、(a)図が型閉じ直後であって計量開始直前の状態を、(b)図が計量完了直後の状態を、(c)図が充填開始直前状態を、(d)図が充填直後の状態を、(e)図が冷却開始の直後の状態を、そして(f)図が冷却完了後型開きされた状態を示す断面図である。
【図7】融解ユニットにおけるビレットの供給装置の構成を例示する立面図であって、図2のY−Y矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の軽金属射出成形機の射出装置は、供給されたビレットをプッシャによってもっぱら前進させるだけで融解する融解ユニットと、融解された溶湯を連通部材から射出シリンダ内に計量して金型に射出充填する射出ユニットとで構成された射出装置であって、その融解ユニットの融解シリンダに、つぎに説明する容量調整手段を含むことに特徴がある。その容量調整手段は、融解したビレットの溶湯の存在する容積(溶湯容積)を増減する装置である。より具体的には、融解シリンダ内に向かって進退する押し込みピンを備えた装置である。そのような射出装置は、その容量調整手段によって融解シリンダ内の溶湯容積を増減できるので、以下の実施例で説明されるような作用効果を奏する。
【実施例】
【0020】
本発明の軽金属射出成形機の射出装置1は、それぞれの側方に配置された融解ユニット10と射出ユニット20、及び、それらユニットの各シリンダ孔を連通する連通部材30を主要な構成要素とする(図1)。融解ユニット10に成形材料として供給されるビレットBは、数ショット分の成形材料を含む円柱短棒形状に予め形成されたものであり、その外径が融解ユニット10の融解シリンダ11の内径に略等しい。
【0021】
融解ユニット10は、図1、図2、図4、図7に示されるように、複数個のヒータ12によって外周を加熱される融解シリンダ11と、その融解シリンダの後方上方に位置して複数本のビレットを貯留するホッパ13と、そのホッパからビレットBを順次落下させるシャッタ装置14と、落下したビレットをガイドして受け止めるガイド板15と、そのガイド板15に沿って落下したビレットBの中心をその前方の融解シリンダ11の中心に心合わせするチャックホルダ16と、そのチャックホルダ中のビレットBをシリンダ11の中に挿入するプッシャ17と、そしてそのプッシャを移動させる駆動装置18と、を含む。複数個のヒータ12は、特に先端側がビレットの融解温度を超える高温に加熱される。シャッタ装置14は、たとえば、ホッパ13の落下口を開閉するシャッタ板14aと、それを移動する流体シリンダ14bとからなる。チャックホルダ16は、たとえば、固定部材16aと可動部材16bとからなり、流体シリンダ16cによって可動部材16bを閉じたときにビレットをホールドして、その中心を融解シリンダ中心に一致させる。しかして、シャッタ板14aと可動部材16bとが交互に開閉することによって、ビレットBは1個ずつガイド板15上に落下してチャックホルダ16に収容される。そして、ホッパ13からチャックホルダ16に供給されたビレットBが、プッシャ17に押されて融解シリンダ11中で前進して行くうちに先端側から溶湯Fとなる。
【0022】
融解シリンダ11のシリンダ孔11aとビレットBの隙間からの溶湯Fの漏れ出しについては、融解シリンダ11後端側の小容量部材41中の環状溝41aで生成された環状溝シールSがその漏れ出しを防止する(図4)。その環状溝シールSは、その環状溝41aに入り込んだ溶湯Fが軟化状態を残して固化した半固化物である。このため、小容量部材41が冷却配管43によって巻回されて融解シリンダ11とは独立に冷却される。もちろん、このようなシール機構は一例であり、これに限定されるものではない。
【0023】
射出ユニット20は、図1、図3に示されるように、ヒータ22によって加熱される射出シリンダ21と、そのシリンダ孔21aの中で進退移動するプランジャ23と、プランジャを前後に駆動する射出シリンダ後方の駆動装置24と、を含む。プランジャ23は、図5に示されるように、その先端側の射出シリンダ孔21aの孔径より僅かに小さい外径のプランジャヘッド23aとそれより基端側の僅かに小径のプランジャシャフト23bとからなり、複数個のピストンリング25をヘッド23bに嵌着している(図5)。このようなシール機構は、従来公知のものと同じであり、シリンダ孔21a内壁との摺接をそのピストンリングだけに限定してプランジャフト23bとシリンダ孔21a内壁とのかじりを防止している。
【0024】
このシール機構では、ピストンリング25とシリンダ孔21a内壁の隙間から漏れ出した溶湯が固化物になって成長することを皆無にできない。そこで、そのような固化物がそのシリンダ後端から良好に排出されるように、プランジャシャフト23bとシリンダ孔21aの隙間が後端側にストレートに開口している。なお、排出される材料がマグネシウムのような材料であってもその固化物が発火することはない。その材料が最終的にシリンダ後端から排出されるときにその温度が低下しているからである。
【0025】
金型50は、図3に示されるように、射出シリンダ21先端と一体化された固定金型50aと、型締装置(図示省略)によって開閉される可動金型50bとからなり、それらの間にキャビティ50cを画成する。そして、シリンダ孔21aがキャビティ50cに対して直接に連通するように構成される。それで、溶湯Fはキャビティ50cの中へ下から押し上げられるように充填される。
【0026】
以上のような構成に加えて、本発明の射出装置は、以下のような特徴ある構成をさらに備える。
【0027】
連通部材30は、融解シリンダ11の先端側上面と、射出シリンダ21の先端からある程度後方にずれた下面とを結合する(図1、図2、図3)。そして、連通部材30中の透孔30aが、融解シリンダ11側ではその上面の連通孔11bと連通し、射出シリンダ21側ではその中程下面の連通孔21bと連通する。それで、連通部材30は、略2箇所で略直角に曲がった中空部材として形成され、溶湯Fを固化させないようにヒータ31で加熱される(図1(a))。
【0028】
融解シリンダ11の連通孔11bがシリンダ上方に位置している構成は、シリンダ中に溜まることがあるガスを確実に排出するためである。そのガスは、主としてビレットBとシリンダ孔11aの隙間に存在した空気がビレットの前進に伴って溶湯中に混入したものである。この構成によって、融解シリンダ11中のガスは溶湯Fとともに射出シリンダ21側に移動する。なお、連通孔11bや21bがシリンダ11や21の側面で貫通する構造が強度的に問題になることはない。計量や射出の際に発生する溶湯圧力がプラスチック樹脂の射出装置のように高圧にならないからである。
【0029】
射出シリンダ21の連通孔21bが形成される位置は、プランジャ23が計量のために所定距離後退したときにその連通孔21bがそのプランジャヘッド23aの前方で開口する位置である。そして、その所定距離後退した位置は、そのプランジャヘッド23a前方に1ショット分の計量溶湯が確保される位置でもある。一方、プランジャヘッド23aが計量のために前進した後には、射出シリンダ21の連通孔21bがプランジャシャフト23b側面に向かって開口する。それで、シリンダ孔21aとプランジャシャフト23bの隙間に溶湯が進入し得る状態になる。
【0030】
本発明では、そのシリンダ孔とプランジャシャフトの隙間に溶湯が進入することが、容量調整手段60によって防止される。その容量調整手段60は、図2に示されるように、融解シリンダ11の内部に向かって進退する押し込みピン61とそのピンの駆動装置62とで構成される。より具体的には、押し込みピン61は、たとえば融解シリンダ11の前端を塞ぐフランジ部材19の中心に明けた透孔に挿通されて、そのシリンダ11の中に向かって出没する。また、駆動装置62は、その押し込みピンを移動する流体シリンダからなる。押し込みピン61とプラグ部材19の隙間のシール構造については、図示省略されているが、記述した環状溝シールと同様に構成されても、また、従来のようなピストン等のシール部材であっても良い。押し込みピン61の外径は、シール機構と組み合わせるためにシリンダ孔11aの内径より小さいが、できるだけその内径に近くなるように形成されるほうが良い。このような構成によって、その押し込みピン61がシリンダ11内に前進するときに溶湯Fの存在する容積が減少し、そのピン61が後退するときにその溶湯容積が増加する。また、容量調整手段60がコンパクトに構成されるので、押し込みピン61の前進後退動作を高速化できる。このことは、後に説明されるように小容量の成形品の成形に都合が良い。
【0031】
溶湯容積の増減は、成形サイクル中の計量工程、充填工程(射出工程と同じ)の初期、そして、冷却工程中において図6のように行われる。なお、図6は、1成形サイクル中の各工程の状態を示すもので、後に再度詳しく説明される。
【0032】
まず、容量調整手段60は、計量完了直後の図6(b)に示されるように、押し込みピン61をその前進限度位置まで距離L1前進させて、後に説明する距離L2と距離L3の後退を可能にする。つぎに、容量調整手段60は、充填を開始する直前(図6(c))にプランジャヘッド23aが連通孔21bを塞いだタイミングで押し込みピン61を距離L2迅速に後退させて、そのピンが押し退けていた融解シリンダ11中の溶湯容積を増加させる。それで、射出シリンダ21の連通孔21b中の溶湯Fが融解シリンダ11側に引き戻されてその液面高さがH1低下する。つぎに、成形品Pの冷却中に(図6(e))、押し込みピン61が距離L3後退するとともにプッシャ17がビレットBを距離M2前進させて、連通孔21b中での溶湯Fの液面高さを維持したまま、溶湯Fの存在する容積の増加と減少が同期的に行われる。その結果、冷却中にもビレットBが前進して、より高温に加熱されて融解が促進される。こうして、ビレットBは、つぎの計量開始直前(図6(a))までに、通常融解する長さM1分の溶湯より長さM2分多い、長さM4(M4=M2+M1)融解する(図6(f))。そして、その長さM2余分に融解された溶湯が、つぎの計量の際にビレットBの距離M1の前進と押し込みピン61の距離L1の前進によって射出シリンダ中に供給される。この長さM2の前進分に相当する溶湯は、計量の際に押し込みピン61が距離L1の前進する内の、距離L3の前進分となる。なお、距離M1は、計量完了後つぎの計量が開始されるまでの間に、従来の装置でも融解されるビレットFの長さである。
【0033】
以上のように容量調整手段60が連通孔21b中の溶湯Fの液面を低下することによって、プランジャ23が前進した直後にあっても溶湯Fがプランジャシャフト23bとシリンダ孔21a内壁の隙間に漏れ出すことはなく、したがって、溶湯Fがプランジャ23に接近した状態でそれに熱を奪われて固化することも防止される。また、押し込みピン61の後退とプッシャ17の前進とを同期的に行うことによって、溶湯液面の低下状態を維持しながらビレットBを先端側へ前進させて、冷却工程中においてもビレットBの融解を強化して融解効率を向上することができる。なお、この後退と前進の同期的な制御では、押し込みピン61の直径とビレットBの直径の違いが押し込みピン61の後退速度とビレットBの前進速度に反映されて、押し込みピン61の後退速度とビレットBの前進速度の比が押し込みピン61の断面積とビレットBの断面積の比に反比例するように制御される。
【0034】
以上の構成の射出装置1によって最初に準備運転が行われ、射出装置1の射出シリンダ21で溶湯Fが仮計量された後に金型50に仮充填されて、融解ユニット10や射出ユニット20の温度の安定化が行われる。つぎに、製品成形のために成形条件出しの予備成形が行われて、本番の製品成形が行われる。以下、まず、準備運転のアウトラインが説明され、つぎに本番の製品成形が説明される。なお、準備運転は、製品成形で行われる運転と基本的に同じであるから概略的に説明される。
【0035】
まず、射出装置1は、シャッタ装置14のシャッタ板14aとチャックホルダ16の可動部材16bを交互に開いてホッパ13中のビレットBを1本ガイド板15上に落下させる。そして、プッシャ17を前進させてチャックホルダ16中のビレットを融解シリンダ11に挿入する。その後同様にしてビレットBを融解シリンダ11中に順次押し込んで、融解シリンダ11をビレットBで満杯にする。このとき、融解シリンダ11のヒータ12の温度が成形材料に合わせて設定された融解温度に加熱されているので、ビレットBがその先端側から先に融解する。また、射出シリンダ21のヒータ22や連通部材30の4ヒータ31がその中の溶湯Fを固化させない温度に制御されて、溶湯の固化が防止されている。
【0036】
つぎに、可動側金型50bが閉じられて、射出シリンダ21の先が連通するキャビティ50cが閉空間となる。そして、プランジャ23がそのヘッド23a前方に連通孔21bを開口させるまで後退して、融解シリンダ11と射出シリンダ21とを連通部材30を介して連通する(図6(a))。
【0037】
つぎに、プッシャ17が前進してビレットBを前進させて、融解シリンダ11中の溶湯Fを連通部材30から射出シリンダ21中に移動して計量する(図6(b))。このとき計量される溶湯容積は、1回の成形に必要な成形品の容積と、その成形品にその溶湯Fを供給する湯道(プラスチック成形でのランナやスプールに相当)の容量とを合計した量に調整される。ただし、準備運転であることから、この計量が適宜に簡略化されることがある。このとき、プッシャ17や押し込みピン61も前進するが、その前進距離M1やL1については後に説明される。
【0038】
つぎに、プランジャ23がゆっくり前進して、プランジャヘッド23aがその前方の連通孔21bを塞いだ後さらに前進する。それで、その射出シリンダ孔21a中の溶湯F液面が上昇してシリンダ孔21a全体が溶湯Fで充満される(図6(c))。つぎにプランジャ23が一気に前進して、溶湯Fが金型のキャビティ50cに充填される(図6(d))。充填された溶湯Fは金型50の中で冷却されて固化物P(仮の成形品)となり(図6(e))、最後に可動側金型50bが開いてその固化物Pが取り出される(図6(f))。このとき、射出装置はプッシャ17や押し込みピン61を進退させて後に説明されるように融解効率を向上させることができるが、準備成形においてはこの動作を省略しても良い。
【0039】
その後、再び型閉じされて上記の計量、充填、冷却、そして仮成形品の取り出しが繰り返される。そして、この成形の繰り返しによって各構成部材の温度が一定温度に安定する。その後、製品成形のための各種成形条件を調整する予備成形が行われる。この予備成形運転は、概ね上記運転と同じである。それで、その説明は省略される。
【0040】
なお、成形材料の補充はつぎのように行われる。成形が繰り返されてプッシャ17がビレット1本分前進すると、成形が中断されてプッシャ17が後退限度位置まで後退する。そして、シャッタ板14aと可動部材16bが交互に開いてビレットBがチャックホルダ16中に供給される。つぎに、プッシャ17がそのビレットを融解シリンダ11中に挿入して、先に挿入してあるビレットBに当接させる。そして、補充したビレットが先のビレットと一体になって融解シリンダ11の先端側に向かって前進して、そのビレットの先端側がシリンダ11周りのヒータ12によって加熱されて融解する。
【0041】
本番の製品成形は、概ね上記運転と同じように行われる(図6)。まず、金型50が閉じられるとともに、プランジャ23がその前方に連通孔21bを開口するまで後退する(図6(a))。つぎにプッシャ17がビレットBを前進させるとともに押し込みピン61が前進して、融解シリンダ11中の溶湯Fが射出シリンダ21中に移動して1ショット分の溶湯が計量される(図6(b))。このとき、容量調整手段60の押し込みピン61が距離L1前進して、後続して行われる距離L2とL3の後退代を確保する。また、プッシャ17がビレットBをゆっくり距離M1前進させて、記述したように溶湯Fを射出シリンダ21内に下側から静かに供給する。それで、溶湯Fの液面が波立つこと、すなわち、溶湯Fが連通孔21bの上で噴き上がったり飛散したりすることが抑えられて、溶湯Fの酸化が最小限に抑えられる。このような計量は、成形材料がマグネシウムである場合に特に有利である。溶融した材料が注入の際に飛散しないので発火が確実に回避されるからである。また、シリンダ中に不活性ガス等を封入する装置を必要としないからである。
【0042】
つぎに、プランジャ23がゆっくり前進して射出シリンダ中の連通孔21bがプランジャヘッド23aによって塞がれるとともにシリンダ孔21aが溶湯Fで充満される(図6(c))。そしてプランジャ23が予め調整された所定の速度で高速に前進して、溶湯Fが金型のキャビティ50cの中に充填される(図6(d))。
【0043】
この充填の際に、プランジャヘッド23aの前進によって連通孔21bがプランジャシャフト23bとシリンダ孔21a壁面の隙間に開口することになるが、容量調整手段60が押し込みピン61を距離L2後退させて連通孔21b中の溶湯Fの液面を高さH1迅速に下降させる。それで、溶湯Fの上記隙間への漏れ出しとその溶湯Fの固化が直ちに防止されて、結局、冷却工程後に計量する工程を迅速に開始できる。このとき、連通孔21b中の溶湯Fの表面が固化しないために、溶湯F中に固化物が紛れ込むことを回避するための、融解待ちの時間を割く必要がないからである。また、プランジャ23の後退後に連通孔21bが射出シリンダ孔21a内に開口した直後から、ビレットBの前進に先駆けて押し込みピン61を直ちに前進させて、計量を迅速に開始できるからである。この迅速さは、特に容量調整手段60がコンパクトであることによるものであり、小容量の成形品の成形に都合が良い。
【0044】
その後キャビティ50c内の溶湯Fが製品Pに冷却される(図6(e))。このとき、押し込みピン61の距離L3の後退とビレットBの距離M2の前進とを上記のように同期的に行って、連通孔21b中の溶湯F液面を低下させた状態を維持しながら、ビレットBを距離M2前進させる。その後、この冷却期間中にビレットBが距離M2余分に融解して、結局、従来以上の長さM4(M4=M2+M1)のビレットBが融解することになる。なお、距離M1は、記述したように、従来の装置であっても融解される量である。
【0045】
つぎに可動側金型50bが開いて(図6(f))その製品Pが取り出される。そして、再び金型50bが閉じられて計量が上記のように行われ、その後、同様に充填、冷却、そして製品の取り出しが繰り返される。
【0046】
以上のように、ビレットBを前進するだけの射出装置1において、容積調整手段60が融解シリンダ11中の溶湯F容積の増減を可能にすることは、特に重要な作用効果を奏する。それは、第一には、押し込みピン61を後退して溶湯Fを融解ユニット20側に引き戻すことによって、連通孔21b中の溶湯Fの液面を低下させることであり、結果、溶湯Fの漏れ出しと溶湯Fの固化とが防止されることである。また、第二には、成形品の冷却中にも連通孔21b中の溶湯Fの液面を上記のように低下させたままでビレットを前進させることが可能になって、ビレットの融解効率が向上することである。
【符号の説明】
【0047】
1 軽金属材料の射出装置
10 融解ユニット
11 融解シリンダ
11b 連通孔(融解シリンダの連通孔)
17 プッシャ
20 射出ユニット
21 射出シリンダ
21b 連通孔(射出シリンダの連通孔)
23 プランジャ
23a プランジャヘッド
30 連通部材
30a 透孔
B ビレット
F 溶湯
60 容量調整手段。
61 押し込みピン
62 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解ユニットと射出ユニットとそれらの融解シリンダと射出シリンダとを連結する連通部材とを備え、その融解ユニットが、円柱短棒形状のビレットをその融解シリンダの中にプッシャによって挿入してそのビレットを先端側から溶湯に融解し、その射出ユニットが、その溶湯をその射出シリンダで計量してプランジャによって射出する軽金属材料の射出装置において、
(a)前期連通部材が、前記融解ユニットと前記射出ユニットとをそれぞれの側方位置に配置した状態で連結し、
(b)前期連通部材の透孔が、前記融解シリンダ側ではその先端側上面に形成された連通孔と連通し、前記射出シリンダ側ではその先端からある程度後方にずれた下面であって前記プランジャが後退したときにそのプランジャヘッド前方で開口する位置に形成された連通孔と連通して、
(c)その融解ユニットの融解シリンダに、その溶湯が存在する容積を増減する容量調整手段を備えたことを特徴とする軽金属射出成形機の射出装置。
【請求項2】
前記容量調整手段が、前記融解シリンダ孔内部に向かって進退する押し込みピンとその押し込みピンを進退させる駆動装置とからなることを特徴とする請求項1記載の軽金属射出成形機の射出装置。
【請求項3】
前記容量調整手段の押し込みピンと前記プッシャとが、充填直後からつぎの計量開始までの冷却工程中に、その押し込みピンの後退によって拡張する溶湯容量とそのプッシャの前進によって押し退ける溶湯容量とを同量になるように協調して移動することによって、射出シリンダの連通孔中の溶湯液面レベルを低下させたままで前記ビレットを前進させることを特徴とする、請求項2記載の軽金属射出成形機の射出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188409(P2010−188409A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38062(P2009−38062)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(301056270)株式会社ソディックプラステック (35)