輻射センサ用光ファイバ及び光ファイバ型輻射計
【課題】 高い電磁ノイズ耐性を有していて、電気信号の影響が大きい場所での使用に適し、遠隔モニタリングを行うことができ、さらに給電設備が不要な応答速度が速くかつ感度も高い高精度の輻射測定が可能な輻射センサ用光ファイバ及び光ファイバ型輻射計の提供。
【解決手段】 輻射センサ用光ファイバ11はコア12にFBG13が書き込まれており、クラッド14の周囲には金属層15が被覆されている。また、本発明の光ファイバ型輻射計は筐体21内にピグテイルファイバ22、23と接続された輻射センサ用光ファイバ11を流体供給管25から供給された流体中に保持している。また筐体21には輻射透過窓27を設ける。
【解決手段】 輻射センサ用光ファイバ11はコア12にFBG13が書き込まれており、クラッド14の周囲には金属層15が被覆されている。また、本発明の光ファイバ型輻射計は筐体21内にピグテイルファイバ22、23と接続された輻射センサ用光ファイバ11を流体供給管25から供給された流体中に保持している。また筐体21には輻射透過窓27を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱を検出するのに適した光ファイバ及びその光ファイバを用いた輻射計に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、焼却炉、溶鉱炉等のプラント用計器、火災検知器、気象観測機器、理化学用計測機器等において、熱源からの輻射熱を測定することは、日常的に行われている。
【0003】
熱源からの輻射熱の測定には、電気式あるいは電子式のセンサがよく用いられている。例えば、熱線を複数の焦電センサで検知して熱源の位置と強さを検出する焦電アレイセンサ及びそれを用いた温度分布測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、赤外線の入射による温度変化を、電気抵抗の変化として捕らえる、赤外線検知素子を用いた赤外線検知器なども知られている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。さらに、サーモパイル素子を用いて赤外線を検出する赤外線センサも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
一方、最近では、光ファイバを用いて温度を測定する方式も用いられるようになってきている。例えば、光ファイバを金属製の収納管に挿入し、この収納管表面を輻射熱が吸収されやすいように黒色にする温度センサが開発されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
その他にも熱発生源からの輻射熱に対する感度の異なる第1の光ファイバセンサと第2の光ファイバセンサを用いて火災の判断を行うシステムや(例えば、特許文献6参照)、光ファイバセンサの一部を通気性容器に収納し、これを輻射率の高い物体と輻射率の低い物体に固定して道路の日射量を測定するシステムなども提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0007】
このような光ファイバを用いた温度センサには、コアにファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下、FBG)を書き込んだ光ファイバ型温度センサも知られている(例えば、特許文献8参照)。
【特許文献1】特開平6−273228号公報
【特許文献2】特開平8−101062号公報
【特許文献3】特開2000−292253号公報
【特許文献4】特開2003−344156号公報
【特許文献5】実開平5−11035号公報
【特許文献6】特開平7−272156号公報
【特許文献7】特開平10−104363号公報
【特許文献8】特開平2003−255151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
【0009】
従来技術で記述した特許文献1〜特許文献4に開示されているような電気式センサあるいは電子式センサは、電磁ノイズに弱いという問題があった。その他に、センサ部まで給電しなければならないという装置構成上の問題もあった。また、センサの設置場所から遠く離れた場所で監視を行う場合に、アナログ電気信号は減衰・劣化しやすいから、遠隔モニタリングが困難であるという問題もあった。
【0010】
一方、光ファイバを用いたセンサの場合には、確かに電気・電子式のセンサの問題点は解消される。しかし、特許文献5〜特許文献7にあるような光ファイバセンサを用いて、高精度に輻射熱を測定する場合には、種々の難点が存在していた。即ち、特許文献5に開示されているような、光ファイバを金属管に挿入する方式や、特許文献6に開示されているような、輻射熱に対する感度の異なる光ファイバを備える方式、さらに特許文献7に開示されているような、光ファイバセンサの一部を通気性容器に収納し、これを輻射率の高い物体と輻射率の低い物体に固定する方式では、装置上の構成がどうしても複雑になるという問題点があった。
【0011】
一方、特許文献8に開示されているような、コアにFBGを書き込んだ光ファイバセンサは、測定精度は上記した方式に比べて向上するが、輻射熱の変化に対する応答速度が遅いという問題があった。
【0012】
本発明は以上の点に着目してなされたもので、簡易な構成で極めて高精度に輻射熱を測定することが可能で、しかも、輻射熱の変化に対する応答速度が速い、輻射センサ用光ファイバ及びこのセンサを用いた測定精度の安定した光ファイバ型輻射計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以上の点を解決するために次の構成を採用する。
【0014】
〈構成1〉
屈折率の高いコアと、このコアの周囲に配置され、当該コアよりも屈折率の低いクラッドとからなる光ファイバの、前記コアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた光ファイバセンサであって、前記クラッドの周囲に金属層が被覆されていることを特徴とする輻射センサ用光ファイバ。
【0015】
クラッドの周囲に金属層が被覆されていると、金属層が輻射熱を吸収して温度が上昇し、この結果FBGの温度も上昇する。同時に、金属層の熱膨張に伴って光ファイバの長手方向に伸び歪みが加わる。ファイバ・ブラッグ・グレーティングは、温度の上昇と伸び歪みに応答した特性を示す。故に、輻射熱量を応答速度が速くかつ高精度に測定することができる。
【0016】
〈構成2〉
前記金属層は単層または多層に被覆されていることを特徴とする構成1記載の輻射センサ用光ファイバ。
【0017】
吸収した熱を速やかにFBGまで伝えることができるように目的に応じた様々な金属層の形態を選択することができる。
【0018】
〈構成3〉
前記金属層は内層から外層に向かって、Ti(チタン)/Ni(ニッケル)/Au(金)3層、Ni/Au2層、Ti/Ni2層の多層若しくはTi単層またはNi単層のいずれかの層により被覆されたものであることを特徴とする構成2記載の輻射センサ用光ファイバ。
【0019】
本構成のような金属層を選択すれば公知の方法で金属層を設けることができ、かつ確実な輻射熱量の測定を行うことができる。
【0020】
〈構成4〉
前記金属層の厚さは100〜5000nmであることを特徴とする構成1から構成3までのいずれかの構成に記載の輻射センサ用光ファイバ。
【0021】
本構成のような金属層の厚さの範囲においては、応答速度と感度が最適になるように金属層の厚さを選択することが可能となる。
【0022】
〈構成5〉
構成1記載の輻射センサ用光ファイバを、筐体内であって、輻射吸収の少ない流体中に保持したことを特徴とする光ファイバ型輻射計。
【0023】
本構成では、輻射センサ用光ファイバを流体中に保持するので金属層における輻射吸収によって発生する熱の蓄積を防止することができる。
【0024】
〈構成6〉
前記流体は一定温度に調整されていることを特徴とする構成5記載の光ファイバ型輻射計。
【0025】
本構成のようにするとFBGのBragg波長は温度依存性を有するので計測時において輻射熱量とは関係ない蓄熱による温度上昇が測定誤差の要因となることを防止することができる。
【0026】
〈構成7〉
前記流体は不活性ガスからなることを特徴とする構成5または構成6記載の光ファイバ型輻射計。
【0027】
不活性ガスは金属層を腐食させずかつ輻射吸収が少ないので本発明に用いる流体として望ましい。
【0028】
〈構成8〉
前記流体は窒素ガスからなることを特徴とする構成7記載の光ファイバ型輻射計。
【0029】
窒素ガスは取り扱い性やコストの点からも好適である。
【0030】
〈構成9〉
前記筐体には輻射吸収の少ない材質により形成された輻射透過窓が設けられていることを特徴とする構成5から構成8までのいずれかの構成に記載の光ファイバ型輻射計。
【0031】
このような構成にすると、輻射熱が効率よく輻射センサ用光ファイバに到達できるので正確な測定を行うことができる。
【0032】
〈構成10〉
前記輻射透過窓の材質は石英ガラスからなることを特徴とする構成9記載の光ファイバ型輻射計。
【0033】
石英ガラスは輻射吸収が少なくかつ耐熱性、難燃性があるので輻射透過窓の材質として特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について具体例を用いて説明する。
【0035】
図1は、本発明の輻射センサ用光ファイバの一実施の形態を説明する斜視図である。図1において、本発明の輻射センサ用光ファイバ11は、コア12の長手方向の一部に、FBG13が書き込まれている。コア12の周囲には、コア12よりも屈折率の低いクラッド14が被覆されている。さらに、クラッド14の周囲には、金属層15が被覆されている。金属層15の周囲には、適宜プラスチック材料等からなる外被16が被覆されている。本図においては、本発明の輻射センサ用光ファイバ11の構成を説明しやすいようにコア12、クラッド14、金属層15、外被16を段剥ぎした状態を示している。
【0036】
FBGは、シングルモードファイバのコアの、長手方向の一部に、周期的な屈折率変化部分を形成したファイバ型屈折率回折格子であり、基本モードの光信号を逆方向の基底モードに変換する機能を有している。Bragg波長(反射波長)λはλ=2nΛで与えられる。ここで、nはFBG部分における基本モードの実効屈折率、Λは格子間隔である。格子間隔というのは、屈折率変化の周期に相当する。FBGの光学特性の一例としては、所定の基準温度において、中心波長1550nmの光信号に対して、反射半値全幅0.2mm、反射率97%となる。
【0037】
ここで、図の実施例のように、クラッド14の外周に金属層15を設けると、金属層15が輻射熱を吸収して温度が上昇する。この結果、FBG13の温度も上昇するとともに、金属層15の熱膨張に伴って、光ファイバ11を長手方向に伸び歪みが加わることになる。FBG13のBragg波長は、温度及び伸び歪みの双方に対して線形に応答するから、FBG13は、吸収した輻射熱量に比例した応答を示すことになる。即ち、輻射熱量がBragg波長の変化として観測されることになるので、Bragg波長の変化を公知の方法で測定すれば輻射熱量を求めることができる。なお、金属層15は光ファイバ11の長手方向の全長に亘って被覆してもよいが、例えば、FBGが書き込まれた部分だけを被覆しても、本発明の目的が達成される。
【0038】
通信用波長λとしては、一般的ないわゆるCバンド(1530nm〜1565nm帯域)が適している。ASE(Amplified Spontaneouse Emission)光源等の通信用機器・部品が豊富に市販されているから、システム構築が容易にかつ安価にできるという効果がある。また光信号を波長多重化し、1本の光ファイバに多数のセンサを接続して温度観測をしたい場合には、Lバンド(1565nm〜1625nm帯域)、Sバンド(1460nm〜1530nm帯域)、Oバンド(1280nm〜1320nm帯域)などを使用することも差し支えない。
【0039】
Bragg波長の設定条件は、用いるシングルモードファイバにおいてシングルモード伝送が保証され、かつ伝送損失が十分に小さければ、特に限定されるものではない。また反射半値全幅や反射率は、用いる計測器の特性やシステム設計に適するように設定すればよいが、一般的に反射半値全幅0.1〜0.3mm、反射率90%以上が望ましい。
【0040】
金属層の被覆方法としては、スパッタ法や無電解金属メッキ法などが挙げられるが、本発明の目的に適う方法ならば特に限定されるものではない。ここで、金属層は単層でも多層でも差し支えない。例示すれば、クラッドの直上にTi、その外周にNi、さらにその外周にAuを被覆したTi/Ni/Au3層構造や、クラッドの直上にNi、その外周にAuを被覆したNi/Au2層構造が適している。その他最外層のAuを除いたTi/Ni2層構造やNiの単層構造でも差し支えない。
【0041】
また、金属層の厚さについては、応答速度を上げる場合には厚さを薄くして熱容量を小さくし、感度を上げる場合には厚さを厚くして金属層の熱膨張の寄与を大きくするとよい。本発明では100nm〜5000nmが望ましい。上記したように100nm未満では応答速度は速くなるが感度が低下し過ぎてしまい、一方5000nmを超えると感度は上昇するが応答速度が遅くなり過ぎてしまうからである。
【0042】
次に本発明の輻射センサ用光ファイバを用いた光ファイバ型輻射計について説明する。図2は本発明の光ファイバ型輻射計の一実施の形態を表した概略図である。図2において、筐体21内に輻射センサ用光ファイバ11がピグテイルファイバ22、23と接続されて配置されている。輻射センサ用光ファイバ11はFBG13の部分の外被16が剥ぎ取られ、金属層15が露出された状態になっている。そしてピグテイルファイバ22の一端は光端子24を介して外部の図示しない光源や測定機器等と接続されている。従って、光源からの光信号は光端子24を介してピグテイルファイバ22を通過して輻射センサ用光ファイバ11に入射する。その入射光は、輻射センサ用光ファイバ11のコアに書き込まれたFBGにより反射されて再びピグテイルファイバ22を通過し、光端子24を介して測定機器に伝送されるようになっている。なお、光端子24と反対側のピグテイルファイバ23は輻射センサ用光ファイバ11の位置が安定するように公知の手段で固定すればよい。この場合、固定点間の熱膨張等による変位の影響を少なくするために輻射センサ用光ファイバ11には弛みを与えておくとよい。また、ピグテイルファイバ23の輻射センサ用光ファイバ11と接続されていない方の端部は開放端として差し支えない。
【0043】
筐体21には流体供給管25及び流体排出管26が備えられており、図示しない流体供給部からの流体が流体供給管25から筐体21内部に供給され、筐体内部が流体により充満すると流体排出管26から排出されるようになっている。このように輻射センサ用光ファイバを流体中に保持するのは金属層における輻射吸収によって発生する熱の蓄積を防止するためである。即ち、FBGのBragg波長は温度依存性を有するので計測時において輻射熱量とは関係ない蓄熱による温度上昇が測定誤差の要因となり得るためである。従って、流体は一定温度に調整されていることが望ましい。
【0044】
また、流体の種類としては金属層を腐食させずかつ輻射吸収の少ないものが望ましい。このような流体としては不活性ガスが挙げられるが特に窒素ガスは取り扱い性やコストの点からも好適である。
【0045】
さらに、筐体には十分な開口の輻射透過窓27を設けることが望ましい。即ち、このように輻射透過窓を設けると輻射熱が効率よく輻射センサ用光ファイバに到達できるので正確な測定を行うことができる。この透過窓27は輻射吸収が少なくかつ耐熱性、難燃性がある材質を用いるとよい。このような材質としては石英ガラスが好適である。
【0046】
上記したような本発明の輻射センサ用光ファイバおよびこの光ファイバを用いた光ファイバ型輻射計は高い電磁ノイズ耐性を有しているので発電所やプラント等の電磁波の影響が大きい場所での使用に適している。また、長距離の信号伝送が可能なので遠隔モニタリングを行うことができる。さらに、センサ部(FBGが書き込まれた部分)が光学的機能部なので給電設備が不要である。そして、金属層を被覆しているために応答速度が速くかつ感度も高いので高精度の輻射測定が可能である。このような輻射センサ用光ファイバはその用途に応じて多段に直列接続して用いることも一向に差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の輻射センサ用光ファイバの一実施の形態を説明する斜視図である。
【図2】本発明の光ファイバ型輻射計の一実施の形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
11 輻射センサ用光ファイバ
12 コア
13 FBG
14 クラッド
15 金属層
16 外被
21 筐体
22 ピグテイルファイバ
23 ピグテイルファイバ
24 光端子
25 流体供給管
26 流体排出管
27 輻射透過窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱を検出するのに適した光ファイバ及びその光ファイバを用いた輻射計に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、焼却炉、溶鉱炉等のプラント用計器、火災検知器、気象観測機器、理化学用計測機器等において、熱源からの輻射熱を測定することは、日常的に行われている。
【0003】
熱源からの輻射熱の測定には、電気式あるいは電子式のセンサがよく用いられている。例えば、熱線を複数の焦電センサで検知して熱源の位置と強さを検出する焦電アレイセンサ及びそれを用いた温度分布測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、赤外線の入射による温度変化を、電気抵抗の変化として捕らえる、赤外線検知素子を用いた赤外線検知器なども知られている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。さらに、サーモパイル素子を用いて赤外線を検出する赤外線センサも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
一方、最近では、光ファイバを用いて温度を測定する方式も用いられるようになってきている。例えば、光ファイバを金属製の収納管に挿入し、この収納管表面を輻射熱が吸収されやすいように黒色にする温度センサが開発されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
その他にも熱発生源からの輻射熱に対する感度の異なる第1の光ファイバセンサと第2の光ファイバセンサを用いて火災の判断を行うシステムや(例えば、特許文献6参照)、光ファイバセンサの一部を通気性容器に収納し、これを輻射率の高い物体と輻射率の低い物体に固定して道路の日射量を測定するシステムなども提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0007】
このような光ファイバを用いた温度センサには、コアにファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下、FBG)を書き込んだ光ファイバ型温度センサも知られている(例えば、特許文献8参照)。
【特許文献1】特開平6−273228号公報
【特許文献2】特開平8−101062号公報
【特許文献3】特開2000−292253号公報
【特許文献4】特開2003−344156号公報
【特許文献5】実開平5−11035号公報
【特許文献6】特開平7−272156号公報
【特許文献7】特開平10−104363号公報
【特許文献8】特開平2003−255151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
【0009】
従来技術で記述した特許文献1〜特許文献4に開示されているような電気式センサあるいは電子式センサは、電磁ノイズに弱いという問題があった。その他に、センサ部まで給電しなければならないという装置構成上の問題もあった。また、センサの設置場所から遠く離れた場所で監視を行う場合に、アナログ電気信号は減衰・劣化しやすいから、遠隔モニタリングが困難であるという問題もあった。
【0010】
一方、光ファイバを用いたセンサの場合には、確かに電気・電子式のセンサの問題点は解消される。しかし、特許文献5〜特許文献7にあるような光ファイバセンサを用いて、高精度に輻射熱を測定する場合には、種々の難点が存在していた。即ち、特許文献5に開示されているような、光ファイバを金属管に挿入する方式や、特許文献6に開示されているような、輻射熱に対する感度の異なる光ファイバを備える方式、さらに特許文献7に開示されているような、光ファイバセンサの一部を通気性容器に収納し、これを輻射率の高い物体と輻射率の低い物体に固定する方式では、装置上の構成がどうしても複雑になるという問題点があった。
【0011】
一方、特許文献8に開示されているような、コアにFBGを書き込んだ光ファイバセンサは、測定精度は上記した方式に比べて向上するが、輻射熱の変化に対する応答速度が遅いという問題があった。
【0012】
本発明は以上の点に着目してなされたもので、簡易な構成で極めて高精度に輻射熱を測定することが可能で、しかも、輻射熱の変化に対する応答速度が速い、輻射センサ用光ファイバ及びこのセンサを用いた測定精度の安定した光ファイバ型輻射計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以上の点を解決するために次の構成を採用する。
【0014】
〈構成1〉
屈折率の高いコアと、このコアの周囲に配置され、当該コアよりも屈折率の低いクラッドとからなる光ファイバの、前記コアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた光ファイバセンサであって、前記クラッドの周囲に金属層が被覆されていることを特徴とする輻射センサ用光ファイバ。
【0015】
クラッドの周囲に金属層が被覆されていると、金属層が輻射熱を吸収して温度が上昇し、この結果FBGの温度も上昇する。同時に、金属層の熱膨張に伴って光ファイバの長手方向に伸び歪みが加わる。ファイバ・ブラッグ・グレーティングは、温度の上昇と伸び歪みに応答した特性を示す。故に、輻射熱量を応答速度が速くかつ高精度に測定することができる。
【0016】
〈構成2〉
前記金属層は単層または多層に被覆されていることを特徴とする構成1記載の輻射センサ用光ファイバ。
【0017】
吸収した熱を速やかにFBGまで伝えることができるように目的に応じた様々な金属層の形態を選択することができる。
【0018】
〈構成3〉
前記金属層は内層から外層に向かって、Ti(チタン)/Ni(ニッケル)/Au(金)3層、Ni/Au2層、Ti/Ni2層の多層若しくはTi単層またはNi単層のいずれかの層により被覆されたものであることを特徴とする構成2記載の輻射センサ用光ファイバ。
【0019】
本構成のような金属層を選択すれば公知の方法で金属層を設けることができ、かつ確実な輻射熱量の測定を行うことができる。
【0020】
〈構成4〉
前記金属層の厚さは100〜5000nmであることを特徴とする構成1から構成3までのいずれかの構成に記載の輻射センサ用光ファイバ。
【0021】
本構成のような金属層の厚さの範囲においては、応答速度と感度が最適になるように金属層の厚さを選択することが可能となる。
【0022】
〈構成5〉
構成1記載の輻射センサ用光ファイバを、筐体内であって、輻射吸収の少ない流体中に保持したことを特徴とする光ファイバ型輻射計。
【0023】
本構成では、輻射センサ用光ファイバを流体中に保持するので金属層における輻射吸収によって発生する熱の蓄積を防止することができる。
【0024】
〈構成6〉
前記流体は一定温度に調整されていることを特徴とする構成5記載の光ファイバ型輻射計。
【0025】
本構成のようにするとFBGのBragg波長は温度依存性を有するので計測時において輻射熱量とは関係ない蓄熱による温度上昇が測定誤差の要因となることを防止することができる。
【0026】
〈構成7〉
前記流体は不活性ガスからなることを特徴とする構成5または構成6記載の光ファイバ型輻射計。
【0027】
不活性ガスは金属層を腐食させずかつ輻射吸収が少ないので本発明に用いる流体として望ましい。
【0028】
〈構成8〉
前記流体は窒素ガスからなることを特徴とする構成7記載の光ファイバ型輻射計。
【0029】
窒素ガスは取り扱い性やコストの点からも好適である。
【0030】
〈構成9〉
前記筐体には輻射吸収の少ない材質により形成された輻射透過窓が設けられていることを特徴とする構成5から構成8までのいずれかの構成に記載の光ファイバ型輻射計。
【0031】
このような構成にすると、輻射熱が効率よく輻射センサ用光ファイバに到達できるので正確な測定を行うことができる。
【0032】
〈構成10〉
前記輻射透過窓の材質は石英ガラスからなることを特徴とする構成9記載の光ファイバ型輻射計。
【0033】
石英ガラスは輻射吸収が少なくかつ耐熱性、難燃性があるので輻射透過窓の材質として特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について具体例を用いて説明する。
【0035】
図1は、本発明の輻射センサ用光ファイバの一実施の形態を説明する斜視図である。図1において、本発明の輻射センサ用光ファイバ11は、コア12の長手方向の一部に、FBG13が書き込まれている。コア12の周囲には、コア12よりも屈折率の低いクラッド14が被覆されている。さらに、クラッド14の周囲には、金属層15が被覆されている。金属層15の周囲には、適宜プラスチック材料等からなる外被16が被覆されている。本図においては、本発明の輻射センサ用光ファイバ11の構成を説明しやすいようにコア12、クラッド14、金属層15、外被16を段剥ぎした状態を示している。
【0036】
FBGは、シングルモードファイバのコアの、長手方向の一部に、周期的な屈折率変化部分を形成したファイバ型屈折率回折格子であり、基本モードの光信号を逆方向の基底モードに変換する機能を有している。Bragg波長(反射波長)λはλ=2nΛで与えられる。ここで、nはFBG部分における基本モードの実効屈折率、Λは格子間隔である。格子間隔というのは、屈折率変化の周期に相当する。FBGの光学特性の一例としては、所定の基準温度において、中心波長1550nmの光信号に対して、反射半値全幅0.2mm、反射率97%となる。
【0037】
ここで、図の実施例のように、クラッド14の外周に金属層15を設けると、金属層15が輻射熱を吸収して温度が上昇する。この結果、FBG13の温度も上昇するとともに、金属層15の熱膨張に伴って、光ファイバ11を長手方向に伸び歪みが加わることになる。FBG13のBragg波長は、温度及び伸び歪みの双方に対して線形に応答するから、FBG13は、吸収した輻射熱量に比例した応答を示すことになる。即ち、輻射熱量がBragg波長の変化として観測されることになるので、Bragg波長の変化を公知の方法で測定すれば輻射熱量を求めることができる。なお、金属層15は光ファイバ11の長手方向の全長に亘って被覆してもよいが、例えば、FBGが書き込まれた部分だけを被覆しても、本発明の目的が達成される。
【0038】
通信用波長λとしては、一般的ないわゆるCバンド(1530nm〜1565nm帯域)が適している。ASE(Amplified Spontaneouse Emission)光源等の通信用機器・部品が豊富に市販されているから、システム構築が容易にかつ安価にできるという効果がある。また光信号を波長多重化し、1本の光ファイバに多数のセンサを接続して温度観測をしたい場合には、Lバンド(1565nm〜1625nm帯域)、Sバンド(1460nm〜1530nm帯域)、Oバンド(1280nm〜1320nm帯域)などを使用することも差し支えない。
【0039】
Bragg波長の設定条件は、用いるシングルモードファイバにおいてシングルモード伝送が保証され、かつ伝送損失が十分に小さければ、特に限定されるものではない。また反射半値全幅や反射率は、用いる計測器の特性やシステム設計に適するように設定すればよいが、一般的に反射半値全幅0.1〜0.3mm、反射率90%以上が望ましい。
【0040】
金属層の被覆方法としては、スパッタ法や無電解金属メッキ法などが挙げられるが、本発明の目的に適う方法ならば特に限定されるものではない。ここで、金属層は単層でも多層でも差し支えない。例示すれば、クラッドの直上にTi、その外周にNi、さらにその外周にAuを被覆したTi/Ni/Au3層構造や、クラッドの直上にNi、その外周にAuを被覆したNi/Au2層構造が適している。その他最外層のAuを除いたTi/Ni2層構造やNiの単層構造でも差し支えない。
【0041】
また、金属層の厚さについては、応答速度を上げる場合には厚さを薄くして熱容量を小さくし、感度を上げる場合には厚さを厚くして金属層の熱膨張の寄与を大きくするとよい。本発明では100nm〜5000nmが望ましい。上記したように100nm未満では応答速度は速くなるが感度が低下し過ぎてしまい、一方5000nmを超えると感度は上昇するが応答速度が遅くなり過ぎてしまうからである。
【0042】
次に本発明の輻射センサ用光ファイバを用いた光ファイバ型輻射計について説明する。図2は本発明の光ファイバ型輻射計の一実施の形態を表した概略図である。図2において、筐体21内に輻射センサ用光ファイバ11がピグテイルファイバ22、23と接続されて配置されている。輻射センサ用光ファイバ11はFBG13の部分の外被16が剥ぎ取られ、金属層15が露出された状態になっている。そしてピグテイルファイバ22の一端は光端子24を介して外部の図示しない光源や測定機器等と接続されている。従って、光源からの光信号は光端子24を介してピグテイルファイバ22を通過して輻射センサ用光ファイバ11に入射する。その入射光は、輻射センサ用光ファイバ11のコアに書き込まれたFBGにより反射されて再びピグテイルファイバ22を通過し、光端子24を介して測定機器に伝送されるようになっている。なお、光端子24と反対側のピグテイルファイバ23は輻射センサ用光ファイバ11の位置が安定するように公知の手段で固定すればよい。この場合、固定点間の熱膨張等による変位の影響を少なくするために輻射センサ用光ファイバ11には弛みを与えておくとよい。また、ピグテイルファイバ23の輻射センサ用光ファイバ11と接続されていない方の端部は開放端として差し支えない。
【0043】
筐体21には流体供給管25及び流体排出管26が備えられており、図示しない流体供給部からの流体が流体供給管25から筐体21内部に供給され、筐体内部が流体により充満すると流体排出管26から排出されるようになっている。このように輻射センサ用光ファイバを流体中に保持するのは金属層における輻射吸収によって発生する熱の蓄積を防止するためである。即ち、FBGのBragg波長は温度依存性を有するので計測時において輻射熱量とは関係ない蓄熱による温度上昇が測定誤差の要因となり得るためである。従って、流体は一定温度に調整されていることが望ましい。
【0044】
また、流体の種類としては金属層を腐食させずかつ輻射吸収の少ないものが望ましい。このような流体としては不活性ガスが挙げられるが特に窒素ガスは取り扱い性やコストの点からも好適である。
【0045】
さらに、筐体には十分な開口の輻射透過窓27を設けることが望ましい。即ち、このように輻射透過窓を設けると輻射熱が効率よく輻射センサ用光ファイバに到達できるので正確な測定を行うことができる。この透過窓27は輻射吸収が少なくかつ耐熱性、難燃性がある材質を用いるとよい。このような材質としては石英ガラスが好適である。
【0046】
上記したような本発明の輻射センサ用光ファイバおよびこの光ファイバを用いた光ファイバ型輻射計は高い電磁ノイズ耐性を有しているので発電所やプラント等の電磁波の影響が大きい場所での使用に適している。また、長距離の信号伝送が可能なので遠隔モニタリングを行うことができる。さらに、センサ部(FBGが書き込まれた部分)が光学的機能部なので給電設備が不要である。そして、金属層を被覆しているために応答速度が速くかつ感度も高いので高精度の輻射測定が可能である。このような輻射センサ用光ファイバはその用途に応じて多段に直列接続して用いることも一向に差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の輻射センサ用光ファイバの一実施の形態を説明する斜視図である。
【図2】本発明の光ファイバ型輻射計の一実施の形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
11 輻射センサ用光ファイバ
12 コア
13 FBG
14 クラッド
15 金属層
16 外被
21 筐体
22 ピグテイルファイバ
23 ピグテイルファイバ
24 光端子
25 流体供給管
26 流体排出管
27 輻射透過窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の高いコアと、このコアの周囲に配置され、当該コアよりも屈折率の低いクラッドとからなる光ファイバの、前記コアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた光ファイバセンサであって、前記クラッドの周囲に金属層が被覆されていることを特徴とする輻射センサ用光ファイバ。
【請求項2】
前記金属層は、単層または多層に被覆されていることを特徴とする請求項1記載の輻射センサ用光ファイバ。
【請求項3】
前記金属層は、内層から外層に向かって、Ti/Ni/Au3層、Ni/Au2層、Ti/Ni2層の多層若しくはTi単層またはNi単層のいずれかの層により被覆されたものであることを特徴とする請求項2記載の輻射センサ用光ファイバ。
【請求項4】
前記金属層の厚さは100〜5000nmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の輻射センサ用光ファイバ。
【請求項5】
請求項1記載の輻射センサ用光ファイバを、筐体内であって、輻射吸収の少ない流体中に保持したことを特徴とする光ファイバ型輻射計。
【請求項6】
前記流体は一定温度に調整されていることを特徴とする請求項5記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項7】
前記流体は不活性ガスからなることを特徴とする請求項5または請求項6記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項8】
前記流体は窒素ガスからなることを特徴とする請求項7記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項9】
前記筐体には輻射吸収の少ない材質により形成された輻射透過窓が設けられていることを特徴とする請求項5から請求項8までのいずれかの請求項に記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項10】
前記輻射透過窓の材質は石英ガラスからなることを特徴とする請求項9記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項1】
屈折率の高いコアと、このコアの周囲に配置され、当該コアよりも屈折率の低いクラッドとからなる光ファイバの、前記コアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた光ファイバセンサであって、前記クラッドの周囲に金属層が被覆されていることを特徴とする輻射センサ用光ファイバ。
【請求項2】
前記金属層は、単層または多層に被覆されていることを特徴とする請求項1記載の輻射センサ用光ファイバ。
【請求項3】
前記金属層は、内層から外層に向かって、Ti/Ni/Au3層、Ni/Au2層、Ti/Ni2層の多層若しくはTi単層またはNi単層のいずれかの層により被覆されたものであることを特徴とする請求項2記載の輻射センサ用光ファイバ。
【請求項4】
前記金属層の厚さは100〜5000nmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の輻射センサ用光ファイバ。
【請求項5】
請求項1記載の輻射センサ用光ファイバを、筐体内であって、輻射吸収の少ない流体中に保持したことを特徴とする光ファイバ型輻射計。
【請求項6】
前記流体は一定温度に調整されていることを特徴とする請求項5記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項7】
前記流体は不活性ガスからなることを特徴とする請求項5または請求項6記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項8】
前記流体は窒素ガスからなることを特徴とする請求項7記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項9】
前記筐体には輻射吸収の少ない材質により形成された輻射透過窓が設けられていることを特徴とする請求項5から請求項8までのいずれかの請求項に記載の光ファイバ型輻射計。
【請求項10】
前記輻射透過窓の材質は石英ガラスからなることを特徴とする請求項9記載の光ファイバ型輻射計。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2006−29878(P2006−29878A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206675(P2004−206675)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]