説明

農作業機

【課題】オフセット機構部の揺動時にガススプリングを効率的に利用し、ガススプリングの農作業機への搭載時に、重量の増大や装着作業の増大を抑制可能な農作業機を提供する。
【解決手段】農作業機の一例である畦塗り機1は、走行機体の後部に装着されるヒッチフレーム6と、このフレームの進行方向に対して左右方向に揺動自在に連結されるオフセットフレーム11及びリンク部材13と、このフレーム及びリンク部材13の移動端側に連結される回動支持アーム15とを有して平行リンク機構を構成し、回動支持アーム15に作業部60を回動自在に支持する。ヒッチフレーム6及びオフセットフレーム11間に接続されたガススプリング20は、作業部60が前進作業位置又は後進作業位置から格納位置への移動時に伸長し、作業部が格納位置から前進作業位置又は後進作業位置への移動時に縮小し、作業部が格納位置に移動すると略伸びきった状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の後部に装着される前フレームにオフセット機構部が進行方向に対して左右方向に揺動自在に設けられ、オフセット機構部の移動端側に作業部が回動自在に支持された農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような農作業機には、特許文献1に示すように、作業部が、オフセット機構部(文献では連結アーム体4)の揺動に伴って、走行機体の一方側に配置されて該走行機体の前進走行にともなって作業が可能な前進作業位置と、走行機体の他方側に配置されて該走行機体の後進走行にともなって作業が可能な後進作業位置と、走行機体の後方位置に格納される格納位置に移動可能に構成されたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
この農作業機は、作業部の移動時に、作業部の移動を容易にするため、走行機体に設けられた3点リンク連結機構を介して上方へ持ち上げ支持される。このため、農作業機は後側が前側に対して上方になるように傾いた状態となり、この状態でオフセット機構部を揺動させると、格納位置が前進作業位置及び後進作業位置よりも高い位置になる。
【0004】
従って、作業部を格納位置から前進作業位置又は後進作業位置に移動させる場合は、作業部は斜め下方に向けて落ちながら移動する。一方、作業部を前進作業位置又は後進作業位置から格納位置に移動させる場合には、作業部は斜め上方に向けて持ち上げ支持されながら移動させる必要がある。このため、従来の農作業機には、走行機体に連結される前フレーム(文献では固定機枠)と前フレームの移動端側に設けられて作業部と一体化された可動機枠との間に接続されたガススプリングが設けられ、このガススプリングにより作業部の移動をサポートしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4059791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この従来の農作業機に設けられたガススプリングは、作業部が格納位置と前進作業位置との間の移動時にサポートするガススプリングと、作業部が格納位置と後進作業位置との間の移動時にサポートするガススプリングの2本のガススプリングを備えている。このため、従来の農作業機は、重量の増大や、ガススプリングの装着作業の増大を招いている。
【0007】
また、2本のガススプリングは一方が伸縮時に他方が非作動状態に維持されるので、従来の農作業機は2本のガススプリングを効率的に利用しているものではない。
【0008】
また、ガススプリングは、固定機枠と可動機枠との間に連結されるとともに、オフセット機構部の揺動時に、オフセット機構部の延びる方向と交差する方向に延びる。このため、作業部の移動時のオフセット機構部の揺動方向に対してガススプリングの反発力の方向がずれて、オフセット機構部を揺動させる際に反発力を効率的に利用することができない。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、オフセット機構部の揺動時にガススプリングを効率的に利用することができ、また農作業機にガススプリングを搭載する際に、重量の増大や、ガススプリングの装着作業の増大を抑えることができる農作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の農作業機は、走行機体の後部に装着される前フレームと、該前フレームの進行方向に対して左右方向に揺動自在に連結される複数のリンク部材(実施の形態におけるオフセットフレーム11,リンク部材13)と、これらのリンク部材の移動端側に連結される後フレーム(実施の形態における回動支持アーム15)とを有して平行リンク機構を構成し、平行リンク機構の後フレームに作業部が回動自在に支持され、作業部は、平行リンク機構の揺動に伴って、走行機体の一方側に配置されて該走行機体の前進走行にともなって作業が可能な前進作業位置と、走行機体の他方側に配置されて該走行機体の後進走行にともなって作業が可能な後進作業位置と、走行機体の後方に配置される格納位置に移動自在であり、作業部の移動時に、格納位置は前進作業位置及び後進作業位置よりも高い位置になる農作業機(実施の形態における畦塗り機1)であって、作業部の移動時に、該作業部の上方への移動を補助し、作業部の下方への移動速度を減少させるガススプリングを備え、複数のリンク部材のうち平面視において左右方向に間隔を有して配置された一対のリンク部材(実施の形態におけるオフセットフレーム11、リンク部材13)のうちの一方のリンク部材(実施の形態におけるリンク部材13)には、該リンク部材と同一平面上に延びる支持部材(実施の形態における支持板13a)が設けられ、ガススプリングは、その一端部が支持部材の先端部に回動自在に支持され、ガススプリングの他端部が一対のリンク部材のうちの他方のリンク部材(実施の形態におけるオフセットフレーム11)に接続され、作業部が前進作業位置又は後進作業位置から格納位置への移動時にこの移動に応じて伸長し、作業部が格納位置から前進作業位置又は後進作業位置への移動時にこの移動に応じて縮小し、作業部が格納位置に移動すると略伸びきった状態となることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
また、本発明の一対のリンク部材は、略同一平面上に配設されていることを特徴とする(請求項2)。
【0012】
また、本発明は、ガススプリングの一端部の支持部材に対する接続位置と支持部材が設けられたリンク部材の前フレームに対する回動中心との間の距離は、ガススプリングの他端部のリンク部材に対する接続位置と該リンク部材の前フレームに対する回動中心との間の距離よりも大きいことを特徴とする(請求項3)。
【0013】
また、本発明のガススプリングは、作業部が格納位置に移動すると、接続されている一対のリンク部材に対して略直交する方向に延びるように配置されていることを特徴とする(請求項4)。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる農作業機によれば、上記特徴を有することで、オフセット機構部の揺動時にガススプリングを効率的に利用することができ、また農作業機にガススプリングを搭載する際に、重量の増大や、ガススプリングの装着作業の増大を抑えることができる農作業機を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の一部省略の平面図を示す。
【図2】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の側面図を示す。
【図3】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機を示し、同図(a)は作業部を格納位置に移動させた畦塗り機の左側斜め後方斜視図であり、同図(b)はこの畦塗り機の右側斜め後方斜視図である。
【図4】畦塗り機の部分拡大模式説明図である。
【図5】畦塗り機のガススプリングの作動を説明するためのオフセット機構部の平面図を示し、同図(a)は作業部が前進作業位置に移動時のオフセット機構部の平面図であり、同図(b)は作業部が格納位置に移動時のオフセット機構部の平面図であり、同図(c)は作業部が後進作業位置に移動時のオフセット機構部の平面図である。
【図6】ガススプリングを説明するための図を示し、同図(a)はガススプリングの側面図であり、同図(b)はガススプリングの反発力特性を概念的に表したグラフである。
【図7】ガススプリングが設けられたオフセット機構部の作動を説明するためのオフセット機構部の平面視における模式図を示す。
【図8】畦塗り機のガススプリングの作動を説明するためのオフセット機構部の平面図を示し、同図(a)は作業部が右側中間位置に移動時のオフセット機構部の平面図であり、同図(b)は作業部が左側中間位置に移動時のオフセット機構部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の農作業機の一例である畦塗り機の好ましい実施の形態について、先ず、図1(一部省略の平面図)及び図2(側面図)を参照しながら、畦塗り機の全体的な概要を説明する。なお、説明の参考として、本発明に係る畦塗り機の斜視図(図3(a)、図3(b))も参照する。
【0017】
畦塗り機1は、図1及び図2に示すように、走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構91に連結されて、走行機体90の前進走行及び後進走行に応じて畦塗り作業を行うものである。この畦塗り機1は、走行機体90に装着されて走行機体90からの動力が入力される入力軸8aを備えた装着部5と、装着部5に設けられ進行方向に対して左右方向に回動可能に支持されたオフセット機構部10と、オフセット機構部10の先端側に旋回自在に配設されて入力軸8aから伝達される動力によって作業を行なう作業部60を有して構成される。
【0018】
装着部5は、機体幅方向に延びるヒッチフレーム6(前フレーム)と、ヒッチフレーム6の前方に設けられて走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構91に連結される連結フレーム7を有して構成される。ヒッチフレーム6の幅方向の中央下部にはギアボックス8が設けられ、このギアボックス8には前述した入力軸8aが設けられている。
【0019】
オフセット機構部10は、その基端側をヒッチフレーム6に回動自在に連結されて後方側へ延びるオフセットフレーム11と、オフセットフレーム11の幅方向一方側(図面では左側)に沿って並設されて基端側がヒッチフレーム6の一方側端に回動自在に連結されてオフセットフレーム11と略同一平面上に配置されたリンク部材13と、オフセットフレーム11の先端側とリンク部材13の先端側との間に回動自在に連結された回動支持アーム15(後フレーム)とを有して構成される。
【0020】
オフセットフレーム11は、内部が中空状に形成された箱状部材であり、オフセットフレーム11の先端側とヒッチフレーム6の一方側端部との間に接続された揺動シリンダ17の伸縮により、オフセットフレーム11は進行方向に対して左右方向に揺動可能である。オフセットフレーム11内には図示しない動力伝達機構が設けられ、この動力伝達機構によって、走行機体90から入力軸8aに伝達された動力がオフセットフレーム11の先端側に回転自在に配設された従動軸12に伝達可能に構成されている。
【0021】
リンク部材13の先端部は、オフセットフレーム11の先端部に回動自在に設けられた回動支持アーム15の左側端に回動自在に取り付けられている。回動支持アーム15は進行方向に対して左右方向に延び、その右側端部がオフセットフレーム11の先端側下部に回動自在に取り付けられている。このように構成されたオフセット機構部10は、オフセットフレーム11、リンク部材13、ヒッチフレーム6及び回動支持アーム15によって平行リンク機構を形成している。
【0022】
なお、揺動シリンダ17は、電動式油圧シリンダであり、図示しない制御装置からの制御信号に応じて伸縮するようになっている。
【0023】
また、図4(部分拡大模式説明図)に示すように、オフセットフレーム11の先端部に設けられた従動軸12の下部には、従動軸12と同軸上に配置されて下方へ延びる動力伝達軸14が連結されて、動力伝達軸14は従動軸12の回転に伴って回転する。またオフセットフレーム11の先端下部には、動力伝達軸14と同軸上に配置された円筒状の連結部18がオフセットフレーム11に対して回動自在に取り付けられている。この連結部18は動力伝達軸14と非結合状態にあり、動力伝達軸14を回動中心として回動自在である。この連結部18の下部に作業部60の一部である伝動支持ケース61の基端部が接続され、連結部18の上部に作業部60の一部である伝動支持フレーム65が接続されている。このため、作業部60はオフセット機構部10に設けられた動力伝達軸14の中心軸線を回動支点Oとして回動可能である。
【0024】
伝動支持ケース61の先端側には、図3(a)、図3(b)に示すように、圃場の周辺に沿って形成された旧畦の上部を切り崩す天場処理部62と、切り崩した土の土盛りを行なう前処理部64が配設され、伝動支持ケース61の基端側には盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部66が配設されている。伝動支持ケース61内には図示しない動力伝達機構が内蔵され、この動力伝達機構は、従動軸12からの動力を受けて天場処理部62、前処理部64、整畦部66に動力伝達可能に構成されている。
【0025】
なお、本実施形態においては、畦塗り機1の構成のうち、回動支点Oを回動の中心軸として回動可能な部位であって、伝動支持ケース61及び伝動支持フレーム65を含み、その先端部側に配設される天場処理部62、前処理部64、整畦部66の構成を、作業部60と記す。
【0026】
天場処理部62は、回転自在な天場処理ロータ62a(図3(b)参照)を備える。天場処理ロータ62aは天場動力伝達ケース63を介して上下方向に回動可能に、伝動支持ケース61に連結された前処理部64の先端部に連結されるとともに、伝動支持フレーム65を介して支持されている。天場動力伝達ケース63内には図示しない動力伝達機構が内蔵され、この動力伝達機構を介して伝動支持ケース61の動力伝達機構に伝達された動力が天場処理ロータ62aに伝達されるようになっている。
【0027】
前処理部64は、複数の耕耘爪64bが装着されて回転自在な前処理ロータ64a(図2参照)を備える。前処理部64は伝動支持フレーム65を介して支持され、伝動支持ケース61に連結されている。前処理部64の前処理ロータ64aは伝動支持ケース61内の動力伝達機構を介して動力が伝達可能に構成されている。
【0028】
整畦部66は、伝動支持ケース61に回転自在に支持された多面体ドラム66aと、多面体ドラム66aの右側端部に取り付けられて横方向に延びる円筒部66bとを有してなる。整畦部66は伝動支持ケース61内の動力伝達機構を介して動力が伝達されるように構成され、伝動支持ケース61に支持されている。このため、作業部60は図4に示す連結部18を介してオフセット機構部10の先端側に設けられた動力伝達軸14の中心軸線を回動支点Oとして回動可能である。
【0029】
次に、図5を参照しながら、オフセットフレーム11、リンク部材13、ヒッチフレーム6及び回動支持アーム15によって平行リンク機構を構成するオフセット機構部10に、本発明の特徴であるガススプリング20を装着した構成を説明する。このオフセット機構部10には、前述したように、揺動シリンダ17(図5においては図示省略)が備えられており、オフセット機構部10にガススプリング20をさらに設けることで、揺動シリンダ17にかかる負担を補助することになる。
【0030】
なお、図5(a)は、作業部(図5においては図示省略)を前進作業位置Pfに移動したときのオフセット機構部10の状態を示す平面図であり、図5(b)は、作業部を走行機体の真後ろ側に移動して格納位置Pkに配置した状態を示し、図5(c)は、作業部を後進作業位置Pbに移動したときのオフセット機構部10の状態を示している。
【0031】
ガススプリング20は、そのロッド側端部がオフセットフレーム11の下面に回動自在に接続され、ボトム側端部がリンク部材13に突設された支持板13a(図5参照)の下面の先端部に回動自在に接続されている。支持板13aはリンク部材13のオフセットフレーム11側と反対側に突設されている。このため、ガススプリング20は、オフセット機構部10の揺動に伴って移動するとともに伸縮し、オフセット機構部10の揺動を附勢して、揺動シリンダ17にかかる負担を補助する。ガススプリング20の附勢の詳細については後述する。
【0032】
ここで、図6を参照しながら、ガススプリング20の構造及び反発力の特性について説明する。なお、図6(b)は、ガススプリング20のストロークと反発力との関係を概念的に示したものであり、実際のガススプリング20の特性を示すものではない。ガススプリング20は、シリンダチューブ20aの一端側にシリンダロッド20bが突出入自在に挿入され、シリンダチューブ20a内には圧縮ガスが気密に充填されて、シリンダチューブ20aに対するシリンダロッド20bの突出量(ストロークS)に拘わらずに常に伸長方向に反発力Pが発生するように構成されている。
【0033】
ガススプリング20の反発力Pは、ガススプリング20の全伸長(Lmax)時の反発力Prに対して全縮小(Lmin)時の反発力Psが大きく、ガススプリング20のストロークSが小さくなるに従って大きくなる。
【0034】
次に、ガススプリング20が設けられたオフセット機構部10の揺動によるガススプリング20の作用について、図7を参照しながら説明する。図7は、作業部を格納位置Pkから進行方向に対して右側にオフセット移動させる場合を示している。
【0035】
作業部が格納位置Pkに配置されているときには、図5(b)に示すように、ガススプリング20の延伸方向がオフセットフレーム11及びリンク部材13に対して左右方向に略直交するとともに全伸長状態になるように、ガススプリング20は配設されている。したがって、この状態においては、ガススプリング20の全長Lは、最大長さLmaxである。また、このときの全長Lは、リンク部材13のヒッチフレーム6に対する回動中心Qとオフセットフレーム11のヒッチフレーム6に対する回動中心Tとの距離(換言すれば、平行リンク部の幅)Wと、ガススプリング20の一端部側の接続位置P1のリンク部材13に対する離間距離Xとの和(W+X)に等しい。ここで、接続位置P1のリンク部材13に対する離間距離Xは、リンク部材13のヒッチフレーム6に対する回動中心Qとリンク部材13の回動支持アーム(後フレーム)15に対する回動中心Uとを結ぶ直線に対して、接続位置P1から下ろした垂線の長さに相当する距離である。なお、回動中心Qと回動中心Uとを結ぶ直線と、接続位置P1から下ろした垂線との交点をP0で示す。
【0036】
次に、オフセット機構部10を右方向に角度θ揺動した状態のとき、ガススプリング20の全長Lθは、ガススプリング20の一端部側の接続位置P1θとガススプリング20の他端側の接続位置P2θとの間の距離である。一方、交点P0θと接続位置P2θとの間の距離は平行リンク機構の幅であり、オフセット機構部10の揺動によって変化しない一定値Wである。したがって、三角形の3辺の関係(「三角形の2辺の和は、残りの辺よりも大きい」)より、このときのガススプリングの全長LθはW+Xよりも短くなる。
【0037】
すなわち、オフセット機構部10の揺動量θが増大するに従ってガススプリング20が縮小し、反発力Pが増大する方向に働き、全縮小時には最大反発力Psとなる。また、オフセット機構部10の揺動量θが減少するに従ってガススプリング20は伸長し、反発力Pが減少する方向に働き、全伸長時には最小反発力Prとなる。
【0038】
なお、上記説明は、オフセット機構部10を右方向に揺動させた状態のときについてのものであるが、オフセット機構部10を左方向に揺動させた状態のときにも同様である。
【0039】
なお、ガススプリング20は、前述したように、その一端部がリンク部材13に設けられた支持板13aの先端部に回動自在に接続され、他端部がオフセットフレーム11に回動自在に接続されている。ここで、ガススプリング20の一端部のリンク部材13に対する接続位置P1とリンク部材13のヒッチフレーム6に対する回動中心Qとの間の距離mがガススプリング20の他端部のオフセットフレーム11に対する接続位置P2とオフセットフレーム11のヒッチフレーム6に対する回動中心Tとの間の距離nよりも大きくなるように、ガススプリング20はオフセット機構部10に配設されている。これにより、Lθ<(W+X)の関係を構成することができる。
【0040】
次に、ヒッチフレーム6に対してオフセット機構部10が揺動することにより、ガススプリング20が伸縮する動作について、図5を参照しながら説明する。
【0041】
本実施態様においては、図5(b)に示すように、作業部60を揺動し、格納位置Pkに移動したとき、ガススプリング20の延伸方向がオフセットフレーム11及びリンク部材13に対して左右方向に略直交するとともに、全伸長状態になるようにガススプリング20は、配設されている。このため、オフセット機構部10が格納位置Pkに移動した状態では、オフセット機構部10に対するガススプリング20からの附勢力は作用しない状態になるが、オフセット機構部10が格納位置Pkから左右方向に揺動すると、ガススプリング20に反発力Prが発生し、この反発力Prによってオフセット機構部10の揺動が規制される。このため、作業部は格納位置Pkに安定した状態に維持される。
【0042】
次に、オフセット機構部10を揺動させて前進作業位置Pfに作業部を移動させると、図5(a)に示すように、ガススプリング20は全伸長状態から縮小して反発力Prよりも大きな反発力Pが発生する状態になる。この前進作業位置Pfから格納位置Pk側に向けてオフセット機構部10を矢印A方向に揺動させる場合には、作業部60を持ち上げ支持しながら斜め上方へオフセット機構部10を揺動させる必要があるので、オフセット機構部10の揺動時には、ガススプリング20には縮小方向の力Fを受ける。これに対してガススプリング20は伸長方向の反発力Pが生じ、この反発力Pは支持板13aのガススプリング20との接続位置P1に作用する。このため、この反発力Pのうちリンク部材13側の回動方向成分Pxが右回りのモーメントMとしてオフセット機構部10に作用して、オフセット機構部10の揺動をサポートする。このため、この回動方向成分Pxによって、既設の揺動シリンダ17にかかる負担を補助することができる。
【0043】
ここで、作業部(図5(a)においては図示省略)が前進作業位置Pfに移動すると、ガススプリング20は、オフセットフレーム11に対して角度α(図面ではα=約60°)を有して傾く。このため、オフセット機構部10が前進作業位置Pfから格納位置Pk側へ揺動する際には、ガススプリング20の反発力Pのうちの揺動方向成分Pxの大きさは、Pの大きさを100とすると、約85になる。
【0044】
図8(a)に示すように、前進作業位置Pfと格納位置Pkとの間の位置(以下、「右側中間位置Pfm」と記す。)において、オフセット機構部10の前進作業位置Pfから格納位置Pk側(矢印A方向側)への揺動時には、揺動角度θはオフセット機構部10の格納位置Pk側への揺動に伴って漸次小さくなり、ガススプリング20は、オフセット機構部10の格納位置Pk側への揺動に伴って漸次伸長する。
【0045】
また、オフセット機構部10の前進作業位置Pfから格納位置Pk側への揺動時には、作業部は重力によって前進作業位置Pf側に向かって斜め下方へ落下しようとするので、ガススプリング20には縮小方向の力Ffが作用する。これに対して、ガススプリング20は、縮小方向と反対方向に向いた反発力Pを常時有しており、この反発力Pが作業部の重力による落下方向への力Ffを打ち消す方向に働く。すなわち、オフセット機構部10が前進作業位置Pfから格納位置Pk側への揺動の際には、反発力Pのうちの揺動方向成分Pxの力がオフセット機構部10に作用し、この揺動方向成分Pxの力はオフセット機構部10を格納位置側へ回動させるモーメントMfとして作用する。このため、このモーメントMfによって既設の揺動シリンダ17にかかる負担を補助することができる。
【0046】
一方、右側中間位置において、オフセット機構部10の格納位置Pkから前進作業位置Pf側(矢印B方向側)へ揺動時には、作業部が斜め下方へ落下しようとする力が働くが、この力はガススプリング20を縮小する方向の力Ffとして作用する。これに対して、ガススプリング20は、伸長方向へ働く反発力Pを常時有しているので、前記作業部が落下しようとする力Ffを打ち消すような方向の力Pを発生させることができる。なお、ガススプリング20の反発力Pは、オフセット機構部10の前進作業位置Pf側への揺動に伴って漸次大きくなり、全縮小時の反発力Psの大きさに近づく。従って、オフセット機構部10が格納位置Pkから前進作業位置Pf側への揺動の際には、作業部の重力により落下する力Ffに抗する大きな反発力Pが作用し、モーメントMfがオフセット機構部10に作用する。このため、重力による作業部の落下力に起因する揺動シリンダ17に負担がかかる制動力の増大を抑えることができ、作業部の急激な移動を防止することができる。
【0047】
また、図5(b)に示すように、格納位置に作業部を配置した状態においては、持ち上げる高さ位置にもよるが、常用高さ位置に配置した状態で、重力により作業部が落下しようとする力よりも若干大きい程度の反発力をガススプリング20の全伸長時に有しておれば、安定した保持が可能である。
【0048】
次に、オフセット機構部10を揺動させて後進作業位置Pbに作業部を移動させると、図5(c)に示すように、ガススプリング20は全伸長状態から縮小して反発力Prよりも大きな反発力Pが発生する状態になる。この後進作業位置Pbから格納位置Pk側に向けてオフセット機構部10を矢印B方向に揺動させる場合には、作業部60を持ち上げ支持しながら斜め上方へオフセット機構部10を揺動させる必要があるので、オフセット機構部10の揺動時には、ガススプリング20には縮小方向の力Fを受ける。これに対して、ガススプリング20は伸長方向の反発力Pが生じ、この反発力Pはオフセットフレーム11のガススプリング20との接続位置P2に作用する。このため、この反発力Pのうちオフセットフレーム11に直交する側の回動方向成分Pxが左回りのモーメントMとしてオフセット機構部10に作用して、オフセット機構部10の揺動をサポートする。このため、この回動方向成分Pxによって、既設の揺動シリンダ17にかかる負担を補助することができる。
【0049】
ここで、作業部(図5(c)においては図示省略)が後進作業位置Pbに移動すると、ガススプリング20は、オフセットフレーム11に対して角度α(図面ではα=約60°)を有して傾く。このため、オフセット機構部10が後進作業位置Pbから格納位置Pk側へ揺動する際には、ガススプリング20の反発力Pのうちの揺動方向成分Pxの大きさは、Pの大きさを100とすると、約85になる。
【0050】
図8(b)に示すように、後進作業位置Pbと格納位置Pkとの間の位置(以下、「左側中間位置Pbm」と記す。)において、オフセット機構部10の後進作業位置Pbから格納位置Pk側(矢印A方向側)への揺動時には、揺動角度θはオフセット機構部10の格納位置Pk側への揺動に伴って漸次小さくなり、ガススプリング20は、オフセット機構部10の格納位置Pk側への揺動に伴って漸次伸長する。
【0051】
また、オフセット機構部10の後進作業位置Pbから格納位置Pk側への揺動時には、作業部は重力によって後進作業位置Pb側に向かって斜め下方へ落下しようとするので、ガススプリング20には縮小方向の力Fbが作用する。これに対して、ガススプリング20は、縮小方向と反対方向に向いた反発力Pを常時有しており、この反発力Pが作業部の重力による落下方向への力Fbを打ち消す方向に働く。すなわち、オフセット機構部10が後進作業位置Pbから格納位置Pk側への揺動の際には、反発力Pのうちの揺動方向成分Pxの力がオフセット機構部10に作用し、この揺動方向成分Pxの力はオフセット機構部10を格納位置側へ回動させるモーメントMbとして作用する。このため、このモーメントMbによって既設の揺動シリンダ17にかかる負担を補助することができる。
【0052】
一方、左側中間位置において、オフセット機構部10の格納位置Pkから後進作業位置Pb側(矢印B方向側)へ揺動時には、作業部が斜め下方へ落下しようとする力が働くが、この力はガススプリング20を縮小する方向の力Fbとして作用する。これに対して、ガススプリング20は、伸長方向へ働く反発力Pを常時有しているので、前記作業部が落下しようとする力Fbを打ち消すような方向の力Pを発生させることができる。なお、ガススプリング20の反発力Pは、オフセット機構部10の後進作業位置Pb側への揺動に伴って漸次大きくなり、全縮小時の反発力Psの大きさに近づく。従って、オフセット機構部10が格納位置Pkから後進作業位置Pb側への揺動の際には、作業部の重力により落下する力Fbに抗する大きな反発力Pが作用し、モーメントMbがオフセット機構部10に作用する。このため、重力による作業部の落下力に起因する揺動シリンダ17に負担がかかる制動力の増大を抑えることができ、作業部の急激な移動を防止することができる。
【0053】
なお、前述した実施形態では、ガススプリング20の一端部をリンク部材に垂直方向に突設された板状の支持部材13aに接続された例を示したが、支持部材13aの形状は板状に限るものではなく、任意であってもよい。また支持部材13aの突出方向も垂直に限定されるものではなく、支持部材13aに対して斜め方向でもよい。
【0054】
このように、本発明に係わる畦塗り機1は、オフセット機構部10に1本のガススプリング20を装着して構成されているので、複数本のガススプリングをオフセット機構部に装着する場合と比較して、畦塗り機1の重量の増大を抑えることができる。また、このガススプリング20は、オフセット機構部10のオフセットフレーム11とリンク部材13との間に接続され、これらオフセットフレーム11及びリンク部材13は畦塗り機1の上部外側に配置されているので、ガススプリング20のオフセット機構部10への装着作業は容易である。このため、ガススプリング20のオフセット機構部10への装着作業が増大する虞もない。
【0055】
なお、前述した実施形態では、ガススプリング20はオフセット機構部10のヒッチフレーム6側に配設した場合を示したが、オフセット機構部10の揺動時にガススプリング20が他の装備品に接触しなければ、ガススプリング20はオフセットフレーム11の移動端側に設けてもよい。
【0056】
また、前述した実施形態では、畦塗り機1の作業部の格納位置Pkは、オフセットフレーム11がヒッチフレーム6に対して前後方向に略直交する方向に延びる位置となる場合を示したが、オフセットフレーム11がヒッチフレーム6に対して左右方向に傾いた位置を格納位置としてもよい(図1参照)。このようにすると、作業部60を走行機体側により接近させた状態で作業部60を格納することができ、走行機体90とのマッチングバランスをより向上させることができる。
【0057】
また、前述した実施例の畦塗り機では、オフセット機構部10を揺動シリンダ17の伸縮によって揺動させる場合を示したが、揺動シリンダ17を取り外して手動で揺動させるものでもよい。
【0058】
また、前述した実施形態では、農作業機の一例として畦塗り機1を示したが、圃場に溝を連続的に形成可能な溝掘り機でもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 畦塗り機(農作業機)
6 ヒッチフレーム(前フレーム)
11 オフセットフレーム(リンク部材)
13 リンク部材
13a 支持板(支持部材)
15 回動支持アーム(後フレーム)
20 ガススプリング
60 作業部
90 走行機体
Pb 後進作業位置
Pf 前進作業位置
Pk 格納位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に装着される前フレームと、該前フレームの進行方向に対して左右方向に揺動自在に連結される複数のリンク部材と、これらのリンク部材の移動端側に連結される後フレームとを有して平行リンク機構を構成し、前記平行リンク機構の前記後フレームに作業部が回動自在に支持され、前記作業部は、前記平行リンク機構の揺動に伴って、前記走行機体の一方側に配置されて該走行機体の前進走行にともなって作業が可能な前進作業位置と、前記走行機体の他方側に配置されて該走行機体の後進走行にともなって作業が可能な後進作業位置と、前記走行機体の後方に配置される格納位置に移動自在であり、前記作業部の移動時に、前記格納位置は前記前進作業位置及び前記後進作業位置よりも高い位置になる農作業機であって、
前記作業部の移動時に、該作業部の上方への移動を補助し、前記作業部の下方への移動速度を減少させるガススプリングを備え、
前記複数のリンク部材のうち平面視において左右方向に間隔を有して配置された一対のリンク部材のうちの一方のリンク部材には、該リンク部材と同一平面上に延びる支持部材が設けられ、
前記ガススプリングは、その一端部が前記支持部材の先端部に回動自在に支持され、前記ガススプリングの他端部が前記一対のリンク部材のうちの他方のリンク部材に接続され、
前記作業部が前記前進作業位置又は前記後進作業位置から前記格納位置への移動時にこの移動に応じて伸長し、前記作業部が前記格納位置から前記前進作業位置又は前記後進作業位置への移動時にこの移動に応じて縮小し、前記作業部が格納位置に移動すると略伸びきった状態となる
ことを特徴とする農作業機。
【請求項2】
前記一対のリンク部材は、略同一平面上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
前記ガススプリングの一端部の前記支持部材に対する接続位置と該支持部材が設けられたリンク部材の前記前フレームに対する回動中心との間の距離は、前記ガススプリングの他端部のリンク部材に対する接続位置と該リンク部材の前フレームに対する回動中心との間の距離よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の農作業機。
【請求項4】
前記ガススプリングは、前記作業部が前記格納位置に移動すると、接続されている一対のリンク部材に対して略直交する方向に延びるように配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の農作業機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−21954(P2013−21954A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158598(P2011−158598)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(390010836)小橋工業株式会社 (198)
【Fターム(参考)】