説明

農園芸用殺菌剤組成物及び植物病害の防除方法

【課題】 改良された農園芸用殺菌剤組成物及びその組成物を植物に施用して植物病害を防除する方法を提供する。
【解決手段】 式(I):
【化1】


(式中、RはC1-6アルキル基またはC1-6アルコキシ基であり、nは1〜5の整数である)で表されるイミダゾール系化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩とを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物及びその組成物を植物に施用して植物病害を防除する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害防除効果、特に植物病害を予防及び/又は治療する効果を格段に向上させた農園芸用殺菌剤組成物及びその組成物を用いる植物病害の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーロッパ公開特許公報第298196号には、本発明の農園芸用殺菌剤組成物の有効成分であるイミダゾール系化合物が有害生物防除剤として有用であることが記載され、必要に応じて他の殺菌剤との混用・併用が可能であるとの記載がある。また、前記イミダゾール系化合物を有効成分として含む混合有害生物防除用組成物としては、WO98/48628に記載されたものが挙げられる。さらに、プロパモカルブ塩酸塩(propamocarb hydrochloride)は、THE Pesticide Manual Thirteenth Edition第814−816頁に記載の化合物である。
【0003】
【特許文献1】ヨーロッパ公開特許公報第298196号
【特許文献2】国際公開公報WO98/48628
【非特許文献1】THE Pesticide Manual Thirteenth Edition
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後記式(I)で表されるイミダゾール系化合物は各々その植物病害防除効果において、特定の植物病害に対してその効果が十分でなかったり、残効性が比較的短かったりして、ある施用場面では、植物病害に対し実用上、不十分な防除効果しか示さないこともある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前述の問題点を解決すべく研究した結果、後記式(I)で表されるイミダゾール系化合物に対し、プロパモカルブ塩酸塩を混合使用することにより、各化合物を単独で使用した場合に比して予想することができないような、さらに優れた植物病害防除効果が得られることの知見を得、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、RはC1-6アルキル基又はC1-6アルコキシ基であり、nは1〜5の整数である)で表されるイミダゾール系化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩とを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物に関する。また、本発明は前記農園芸用殺菌剤組成物を植物に施用することを特徴とする植物病害の防除方法に関する。
【0009】
式(I)のイミダゾール系化合物中、Rで定義されたC1-6アルキル基又はC1-6アルコキシ基のアルキル部分としては、炭素数1〜6のアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルが挙げられ、それらは直鎖又は枝分かれ鎖であってもよい。また、nが2以上の場合、Rは同種であっても異種であってもよい。
【0010】
式(I)のイミダゾール系化合物には、例えば次の化合物が含まれる。
・4−クロロ−2−シアノ−1−ジメチルスルファモイル−5−(4−メチルフェニル)イミダゾール(化合物No.1)
・4−クロロ−2−シアノ−1−ジメチルスルファモイル−5−(4−メトキシフェニル)イミダゾール(化合物No.2)
・4−クロロ−2−シアノ−1−ジメチルスルファモイル−5−(4−エチルフェニル)イミダゾール(化合物No.3)
・4−クロロ−2−シアノ−1−ジメチルスルファモイル−5−(3−メチル−4−メトキシフェニル)イミダゾール(化合物No.4)
なお、前記一般式(I)のイミダゾール系化合物は、ヨーロッパ特許公開公報第298196号及びヨーロッパ公開特許公報第705823号などに記載された方法によって製造することができる。
【0011】
前記式(I)のイミダゾール系化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩とを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物は、有害病菌に感染している或いはその恐れのある栽培作物、例えばキュウリ、トマト、ナスなどの蔬菜類、イネ、麦類などの禾穀類、マメ類、リンゴ、ナシ、ブドウ、柑橘などの果樹類、バレイショなどに適用することにより優れた殺菌作用を呈し、例えばうどんこ病、べと病、炭そ病、灰色かび病、みどりかび病、黒星病、斑点落葉病、斑点細菌病、黒斑病、黒点病、晩腐病、疫病、輪紋病、いもち病、紋枯病、苗立枯病、白絹病などの病害の防除に好適であり、また、フザリウム菌、リゾクトニア菌、バーティシリウム菌、プラズモディオホーラ属菌、ピシウム菌などの植物病原菌によって引き起こされる土壌病害に対しても優れた防除効果を示す。本発明の農園芸用殺菌剤組成物は残効性が長く、浸透移行性が優れ、予防効果及び/又は治療効果を有するが、特に予防効果が優れている。
【0012】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、具体的にはイネいもち病;イネ紋枯病;キュウリ炭そ病;キュウリ、メロン、キャベツ、ハクサイ、タマネギ、カボチャ、ブドウのべと病;小麦、大麦、キュウリうどんこ病;バレイショ、トウガラシ、ピーマン、スイカ、カボチャ、タバコ、トマトの疫病;小麦のセプトリア病;トマト輪紋病;柑橘類の黒点病;柑橘類のみどりかび病;ナシ黒星病;リンゴ斑点落葉病;タマネギの白色疫病;スイカの褐色腐敗病;各種の灰色かび病、菌核病、さび病、斑点細菌病などの病害;フザリウム菌、ピシウム菌、リゾクトニア菌、バーティシリウム菌などの植物病原菌によって引き起こされる各種土壌病害などの藻菌類による病害に対して優れた防除効果を示す。また、プラズモディオホーラ属菌による病害に対しても優れた防除効果を示す。該組成物は、さらに具体的にはバレイショ、トウガラシ、ピーマン、スイカ、カボチャ、タバコ、トマトの疫病;キュウリ、メロン、キャベツ、ハクサイ、タマネギ、カボチャ、ブドウのべと病などによる病害に対して特に優れた防除効果を示す。
【0013】
本発明における農園芸用殺菌剤組成物を構成する複数の有効成分は従来の農薬製剤の場合と同様に、各種補助剤と配合し、乳剤、粉剤、水和剤、液剤、粒剤、懸濁製剤などの種々の形態に製剤することができる。その際、前記式(I)の化合物と他の特定の化合物とを一緒に混合・製剤してもよいし、あるいは別々に製剤してそれらを混合してもよい。これら製剤品の実際の使用に際しては、そのまま使用するか、又は水等の希釈剤で所定濃度に希釈して使用することができる。ここにいう補助剤としては、担体、乳化剤、懸濁剤、増粘剤、安定剤、分散剤、展着剤、湿潤剤、浸透剤、凍結防止剤、消泡剤などが挙げられ、必要により適宜添加すればよい。担体としては、固体担体と液体担体に分けられ、固体担体としては、澱粉、砂糖、セルロース粉、シクロデキストリン、活性炭、大豆粉、小麦粉、もみがら粉、木粉、魚粉、粉乳などの動植物性粉末;タルク、カオリン、ベントナイト、有機ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、ゼオライト、ケイソウ土、ホワイトカーボン、クレー、アルミナ、シリカ、硫黄粉末、消石灰などの鉱物性粉末などが挙げられ、液体担体としては、水;大豆油、綿実油などの植物油;牛脂、鯨油などの動物油;エチルアルコール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロンなどのケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ケロシン、灯油、流動パラフィン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ソルベントナフサなどの芳香族炭化水素類;クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類;酢酸エチルエステル、脂肪酸のグリセリンエステルなどのエステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類、或いはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。展着剤としては、アルキル硫酸ソーダ、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0014】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物において、式(I)の化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩との適当な混合重量比は、一般に1: 150000〜1000:1、望ましくは1: 10000〜1000:1、さらに望ましくは1:200〜200:1であり、最も望ましい混合重量比は、1:100〜1:1である。
【0015】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物を植物に施用する植物病害の防除方法も本発明に含まれる。本発明農園芸用殺菌剤組成物の有効成分の使用濃度は、対象作物、使用方法、製剤形態、施用量、施用時期、有害病菌の種類などの条件などの違いによって異なり、一概に規定できないが、茎葉処理の場合、有効成分濃度で、通常、前記一般式(I)で表される化合物が0.01〜1,000ppm、望ましくは0.3〜500ppmであり、プロパモカルブ塩酸塩が0.1〜10,000ppm、望ましくは0.5〜5000ppmである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、植物病害に感染した栽培作物に対する安定した高い防除効果を有するものであり、この組成物を用いて植物病害を防除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の農園芸用殺菌剤組成物の望ましい実施形態のいくつかを例示するが、これらは本発明を限定するものではない。
(1)式(I)の化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩とを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物。
(2) 式(I)の化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩との重量比が1:10000〜1000:1である(1)の農園芸用殺菌剤組成物。
(3)式(I)の化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩との重量比が1:200〜200:1である(1)の農園芸用殺菌剤組成物。
(4)式(I)の化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩との重量比が1:100〜1:1である(1)の農園芸用殺菌剤組成物。
【実施例】
【0018】
次に本発明に係わる試験例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0019】
試験例1
キュウリべと病予防効果試験
直径7.5cmのポリ鉢でキュウリ(品種:四葉)を栽培し、2葉期に達した時に、各供試化合物を所定濃度に調整した薬液をスプレーガンを用い十分量(20ml)散布した。散布液が乾いた後にキュウリべと病胞子懸濁液を噴霧接種し、20℃で4時間湿室に保った。その後20℃の恒温室内に7日間保った後、第1葉の病斑面積率を調査し、下記計算式によって防除価を求めた。その結果を表1に示した。なお、試験は2連制で行なった。
無処理区の病斑面積は、薬液に代えて水をスプレーガンにて散布したこと以外は処理区と同様の操作を行なうことによって求められた。
防除価=(b−a)/b×100
a:処理区の病斑面積率 b:無処理区の病斑面積率
また、コルビーの式により、理論値を計算することができる。実験値がコルビーの式による理論値よりも高い場合に、本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、植物病害の防除に関し相乗効果を有する。こういった場合におけるコルビーの式による理論値を表1の( )内に併せ示した。
【0020】
【表1】

無処理区の病斑面積率は100
【0021】
試験例2
キュウリべと病治療効果試験
直径7.5cmのポリ鉢でキュウリ(品種:四葉)を栽培し、2葉期に達した時に、キュウリべと病胞子懸濁液を噴霧接種し、20℃で4時間湿室に保った。その後作物を乾かしてから、各供試化合物を所定濃度に調整した薬液をスプレーガンを用い十分量(20ml)散布した。散布液が乾いた後に20℃の恒温室内に7日間保った後、第1葉の病斑面積率を調査し、下記計算式によって防除価を求めた。その結果を表2に示した。なお、試験は2連制で行なった。
無処理区の病斑面積は、薬液に代えて水をスプレーガンにて散布したこと以外は処理区と同様の操作を行なうことによって求められた。
防除価=(b−a)/b×100
a:処理区の病斑面積率 b:無処理区の病斑面積率
また、コルビーの式により、理論値を計算することができる。実験値がコルビーの式による理論値よりも高い場合に、本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、植物病害の防除に関し相乗効果を有する。こういった場合におけるコルビーの式による理論値を表2の( )内に併せ示した。
【0022】
【表2】

無処理区の病斑面積率は100
【0023】
試験例3
トマト疫病予防効果試験直径7.5cmのポリ鉢でトマト(品種:ポンデローザ)を栽培し、4葉期に達した時に、各供試化合物を所定濃度に調整した薬液をスプレーガンを用いて十分量(20ml)散布した。散布液が乾いた後にトマト疫病菌の遊走子嚢懸濁液を噴霧接種し、20℃で6時間湿室に保った。その後に20℃の恒温室内に3日間保った後、下記のような各葉位の発病指数を調査し、下記計算式によって発病度を求めた。
発病指数0:病斑を認めない。
1:病斑面積が葉面積の10%未満。
2:病斑面積が葉面積の10%から25%未満。
3:病斑面積が葉面積の25%から50%未満。
4:病斑面積が葉面積の50%以上。
また、発病度を用い下記式によって防除価を求め、その結果を表3に示した。なお、試験は2連制で行なった。
無処理区の発病度は、薬液に代えて水をスプレーガンにて散布したこと以外は処理区と同様の操作を行なうことによって求められた。
発病度=[(0×A+1×B+2×C+3×D+4×E)/{4×(A+B+C+D+E)}]×100
A:発病指数0の葉数、B:発病指数1の葉数、C:発病指数2の葉数、D:発病指数3の葉数、E:発病指数4の葉数
防除価=(b'−a')/b'×100
a':処理区の発病度、b':無処理区の発病度
また、コルビーの式により、理論値を計算することができる。実験値がコルビーの式による理論値よりも高い場合に、本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、植物病害の防除に関し相乗効果を有する。こういった場合におけるコルビーの式による理論値を表3の( )内に併せ示した。
【0024】
【表3】

無処理区の発病度は100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、RはC1-6アルキル基またはC1-6アルコキシ基であり、nは1〜5の整数である)で表されるイミダゾール系化合物の少なくとも1種と、プロパモカルブ塩酸塩とを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物。
【請求項2】
イミダゾール系化合物と、プロパモカルブ塩酸塩との混合重量比が1:150000〜1000:1である請求項1記載の農園芸用殺菌剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の農園芸用殺菌剤組成物を植物に施用することを特徴とする植物病害の防除方法。


【公開番号】特開2006−52215(P2006−52215A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206458(P2005−206458)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】