説明

農園芸用殺虫組成物

【課題】安全性の高い農園芸用殺虫組成物を提供する。
【解決手段】ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺虫組成物。ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを含有する組成物は農業害虫であるアブラムシに対して相乗的殺虫効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農園芸用殺虫組成物に関する。さらに詳しく言えば、ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンの混合物からなり、農業害虫であるアブラムシに対し相乗的な殺虫活性を示す安全性の高い農園芸用殺虫組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、農作物の害虫防除剤(殺虫剤)の代表例としては、有機リン系、カーバメート系、合成ピレスロイド系などの合成農薬が挙げられる。これらは的確に防除効果が得られるため、長年広く利用されてきた。しかし、長年の使用や同一系統の農薬の連続散布により、薬剤抵抗性害虫の出現が深刻な問題になってきている。また、近年環境問題の高まりから、環境を汚染しない安全性の高い殺虫剤の要望が高まり、そのため、人体に対して有害な副作用を与えず、安心して使用でき、優れた殺虫活性を示す薬剤が強く求められるようになってきた。
【0003】
薬剤抵抗性害虫が出現し難く、かつ人体に対して安全性の高い殺虫剤としては、天然物由来のソルビタン脂肪酸エステルとレシチンが知られている(ソルビタン脂肪酸エステル:特公昭61−23161号(特許文献1)及び特公昭62−43968号(特許文献2)、レシチン:特開昭56−140910号公報(特許文献3))。
【0004】
ソルビタン脂肪酸エステルは食品用や化粧品用乳化剤として広く使用されている。ソルビタン脂肪酸エステルを有効成分とした農薬は既にフマキラー株式会社から商品名:カダンセーフとして販売されており、アブラムシやハダニに対し殺虫効果を示す。レシチンはグリセロリン脂質の一種であり、自然界の動植物においてすべての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分である。レシチン(大豆レシチン)については、実際に、昭和51年9月から平成3年11月までうどんこ病を対象とする殺菌剤として農薬登録され使用された実績があるが、現在は農薬登録(使用)されていない。
【0005】
ソルビタン脂肪酸エステルは既にアブラムシやハダニに対し、殺虫効果を示すことは確認されているが、ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを混合することでアブラムシに対し相乗的殺虫効果が得られたことを報告した文献はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−23161号公報
【特許文献2】特公昭62−43968号公報
【特許文献3】特開昭56−140910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安全性が高く、薬剤抵抗性害虫が出現し難いソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを有効成分とする相乗的な殺虫活性を示す農園芸用殺虫組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを混合すると、これらを単独で使用する場合に比べて農業害虫であるアブラムシに対し殺虫活性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は下記1〜6の農園芸用殺虫組成物を提供する。
1.ソルビタン脂肪酸エステル及びレシチンを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺虫組成物。
2.前記ソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が炭素数8〜18の飽和または不飽和脂肪酸である前記1に記載の農園芸用殺虫組成物。
3.ソルビタン脂肪酸エステルを0.05〜0.3質量%及びレシチンを0.1〜0.5質量%含有する前記1または2に記載の農園芸用殺虫組成物。
4.ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンモノカプリレートから選択される1種以上である前記2に記載の農園芸用殺虫組成物。
5.レシチンが、大豆レシチン及び/または卵黄レシチンである前記1〜4のいずれかに記載の農園芸用殺虫組成物。
6.殺アブラムシ用である前記1〜5のいずれかに記載の農園芸用殺虫組成物。
【発明の効果】
【0010】
ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを混合すると農業害虫であるアブラムシに対し相乗的な殺虫活性を示すので、ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンの両者を有効成分として含有する組成物は安全性の高い農園芸用殺虫組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る農園芸用殺虫組成物の有効成分はソルビタン脂肪酸エステル及びレシチンであるが、本発明の組成物には所望により界面活性剤、凍結防止剤、防腐剤、酸化防止剤及び増粘剤等を添加することが出来る。
【0012】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノ、ジ、トリエステルいずれも使用でき、構成する脂肪酸は炭素数8〜22の飽和または不飽和脂肪酸である。例えば、エステルを構成する脂肪酸はカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸などが挙げられ、特にソルビタン脂肪酸エステルとしてはソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンモノカプリレートが好ましい。添加濃度は0.05〜0.3質量%、特に0.07〜0.14質量%が望ましい。0.05質量%未満では効果が認められず、0.3質量%を超えると薬害(葉の褐変など)が認められる。
【0013】
本発明で使用するレシチンの具体例としては、大豆レシチン、卵黄レシチンなどが挙げられるが、低価格品である大豆レシチンが望ましい。添加濃度は0.1〜0.5質量%、特に0.125〜0.25質量%が望ましい。0.1質量%未満では効果が認められず、0.5質量%を超えると薬害(葉の褐変など)が認められる。
【0014】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤等を用いることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンカスターオイルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0015】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウムまたはアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ−またはジ−アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸またはポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミン塩の各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンモノ−またはジ−アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテルホスフェートまたはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウムまたはカルシウム塩などの各塩が挙げられる。
【0016】
凍結防止剤としては、例えば、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルカルビトール、3−メチル−メトキシブタノール等が挙げられる。
【0017】
防腐剤としては、例えば、プリベントールD2(化学名:ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル)、PROXEL GXL(S)(化学名:1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン,20%)、バイオホープ及びバイオホープL(化学名:有機窒素硫黄系複合物、有機臭素系化合物)、ベストサイド−750(化学名:イソチアゾリン系化合物、2.5〜6.0%)、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラクロロメタキシレノール、2,6−ジメチルフェノール等が挙げられる。
【0018】
酸化防止剤としては、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(トミノックスTT,(株)エーピーアイコーポレーション,商品名/IRGANOX1010又はIRGANOX1010EDS,チバ・ジャパン(株),商品名)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、及びビタミンE、混合トコフェロール、α−トコフェロール、エトキシキン及びアスコルビン酸等が挙げられる。
【0019】
増粘剤としてはPVP K−15(化学名:ポリビニルピロリドン)、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。なお、下記の例中、部は質量部を表わす。 実施例及び比較例の処方で用いた成分は以下の通りである。
(1)ニューカルゲンD−935:竹本油脂(株)製、純度100%(ソルビタンモノオレート)、
(2)ニューカルゲンD−931:竹本油脂(株)製、純度100%(ソルビタンモノラウレート)、
(3)リケマールC−250:理研ビタミン(株)製、純度100%(ソルビタンモノカプリレート)、
(4)ベイシスLP−20:日清オイリオグループ(株)製、純度95%(大豆レシチン)、
(5)一般アルコール99度合成無変性:日本アルコール販売(株)製、純度99.9容量%(エタノール)
【0021】
実施例1:
ニューカルゲンD−935(0.14部)と一般アルコール99度合成無変性(2.0部)を混合し、撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(10.0部)を徐々に滴下し、乳濁液を得た。また、ベイシスLP−20(0.263部)をイオン交換水(87.597部)で溶解し、乳濁液を得た。両乳濁液を混合し、100部の乳濁液を得た。
【0022】
実施例2:
ニューカルゲンD−931(0.14部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(10.0部)を徐々に滴下し、乳濁液を得た。また、ベイシスLP−20(0.263部)をイオン交換水(89.597部)で溶解し、乳濁液を得た。両乳濁液を混合し、100部の乳濁液を得た。
【0023】
実施例3:
リケマールC−250(0.14部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(10.0部)を徐々に滴下し、乳濁液を得た。また、ベイシスLP−20(0.263部)をイオン交換水(89.597部)で溶解し、乳濁液を得た。両乳濁液を混合し、100部の乳濁液を得た。
【0024】
実施例4:
ニューカルゲンD−931(0.07部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(10.0部)を徐々に滴下し、乳濁液を得た。また、ベイシスLP−20(0.132部)をイオン交換水(89.798部)で溶解し、乳濁液を得た。両乳濁液を混合し、100部の乳濁液を得た。
【0025】
実施例5:
リケマールC−250(0.07部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(10.0部)を徐々に滴下し、乳濁液を得た。また、ベイシスLP−20(0.132部)をイオン交換水(89.798部)で溶解し、乳濁液を得た。両乳濁液を混合し、100部の乳濁液を得た。
【0026】
比較例1:
ベイシスLP−20(0.263部)をイオン交換水(99.737部)で溶解し、100部の乳濁液を得た。
【0027】
比較例2:
ニューカルゲンD−935(0.14部)と一般アルコール99度合成無変性(2.0部)を混合し、撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(97.86部)を徐々に滴下し、100部の乳濁液を得た。
【0028】
比較例3:
ニューカルゲンD−931(0.14部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(99.86部)を徐々に滴下し、100部の乳濁液を得た。
【0029】
比較例4:
リケマールC−250(0.14部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(99.86部)を徐々に滴下し、100部の乳濁液を得た。
【0030】
比較例5:
ベイシスLP−20(0.132部)をイオン交換水(99.868部)で溶解し、100部の乳濁液を得た。
【0031】
比較例6:
ニューカルゲンD−931(0.07部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(99.93部)を徐々に滴下し、100部の乳濁液を得た。
【0032】
比較例7:
リケマールC−250(0.07部)を撹拌子で撹拌しながらイオン交換水(99.93部)を徐々に滴下し、100部の乳濁液を得た。
【0033】
比較例8:
一般アルコール99度合成無変性(5.0部)とイオン交換水(95.0部)を混合し、100部の溶液を得た。
【0034】
試験例:
ワタアブラムシが自然発生した草丈20cm程度のキュウリ(品種:北進)に実施例1〜5、比較例1〜8の薬剤を十分量散布した(1区4株2反復)。薬剤処理1日後に生存虫数を調査し、補正密度指数から防除率を算出した。
【数1】

【0035】
また、実施例1〜5について、各有効成分間の相乗効果を評価するため、下記に示すコルビーの式を用いて理論値を算出した。
【数2】

防除率がコルビー法による理論値より高い場合、防除効果において相乗効果を有することを意味する。結果を表1に示した。
【0036】
【表1】


表1中の防除率(%)及び理論値(%)欄のカッコ内は後述の表2の判定を示す。
【0037】
実施例1〜5の防除率は、コルビー法による理論値を超えており、相乗効果が確認された。一般に、アブラムシの効果判定は表2に示す通り、A、B、C、Dの4段階で判定される(新農薬実用化試験実施の手引き,薬効薬害圃場試験編,59頁,平成13年1月,(社)日本植物防疫協会)。
【0038】
【表2】

実施例1〜5においては、混合による理論値はC及びDであったが、防除率ではすべて1ランクもしくは2ランク上がったBとなり、相乗効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
ソルビタン脂肪酸エステルとレシチンを含む組成物は、優れた殺虫活性を示すので、安全性が高く、かつ薬剤抵抗性害虫が出現し難い農園芸用殺虫組成物として産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビタン脂肪酸エステル及びレシチンを有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺虫組成物。
【請求項2】
前記ソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が炭素数8〜18の飽和または不飽和脂肪酸である請求項1に記載の農園芸用殺虫組成物。
【請求項3】
ソルビタン脂肪酸エステルを0.05〜0.3質量%及びレシチンを0.1〜0.5質量%含有する請求項1または2に記載の農園芸用殺虫組成物。
【請求項4】
ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンモノカプリレートから選択される1種以上である請求項2に記載の農園芸用殺虫組成物。
【請求項5】
レシチンが、大豆レシチン及び/または卵黄レシチンである請求項1〜4のいずれかに記載の農園芸用殺虫組成物。
【請求項6】
殺アブラムシ用である請求項1〜5のいずれかに記載の農園芸用殺虫組成物。

【公開番号】特開2012−246250(P2012−246250A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119167(P2011−119167)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(390006596)住友化学園芸株式会社 (10)
【Fターム(参考)】