説明

農業用ハウスの保温システム

【課題】ハウス内の温熱を二重フィルからなるマットに効果的に取り込んで十分な保温性を維持するとともに、マットの開閉操作性にすぐれる保温システムを提供する。
【解決手段】室内に滞留する温気体を、ブロワーを用いて二重フィルムからなる扁平状のマットの上部に取り込み、気体で膨隆状となったマットにより天井・側壁が遮蔽されて外側に温熱が逃げない農業用ハウスの保温システム。二重フィルムにおける外側が孔無しフィルムで内側が有孔フィルムであり、重ね合わせた両フィルムに多数の結付手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の温熱を利用する農業用ハウスの保温システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用ハウスで栽培する植物を良好な環境のもとに育成するにはハウス内の温度調整が重要な条件となる。そのために所定の温度が保たれるようにハウスの天井等に二重の上下フィルムからなる気体層を形成し、該気体層に空気を送り込んで膨らませることで保温を必要とするときに室内の温度が妄りに逃げないように考慮した装置が種々提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開昭51−45033号公報
【特許文献2】特開2004−141017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
周囲をヒートシールした二重構造のフィルムを用いて屋根や壁面側に設置する技術が特許文献1に示されている。すなわち図6に示すように上下のフィルム51・52から成る二重フィルム50には気体が内包されていてこの気体層53によってハウス内を保温することを主旨としている。二重フィルム50にはポリエチレン、塩化ビニールなどからなる単体を二枚重ね合わせ、注入口54より気体を送り込んで全体を膨らませるというものである。この技術は一枚若しく扁平な二枚構造のものと異なり、内部に注入した気体の圧力で上下二枚のフィルム51・52間に間隔が生じて二重壁が構成される点ではそれなりの保温性も維持できると考えられるが、当然ながら気体を入れたことにより中央部分の膨らみが大きくなるので大型ハウスに実施するには不向きであり、また膨らみが大きくなる個所の空気圧が大となって衝撃などが加わると風船のように切破しやすいといった問題、及びフィルムを開方向に動かして収縮する場合にバランス良く折り畳みできないという欠点がある。
【0004】
而してフィルムの内部に空気を送り込んで全体を膨らませる点では特許文献2に記載の技術も上記特許文献1と共通する。この技術はフィルム被覆作業が容易で送風弁取り付けに足場を組んだり厄介な作業を必要とすることなく従来のハウスに取り付けできるという作業面での良好な効果が得られることを所期したものであり、フィルム自体の構造は従来品と特に変わった点はない。そしてこの技術も張設状態から収縮させるときの動き、なかんずく空気抜きをすると、内部に生起した水分によって二枚のフィルムが密着しスムースな動きができず整然とした折り畳みが難しいといった不具合の生ずることが憂慮される。
【0005】
本発明は上記従来品とは異なる二重フィルムを用いてマットを形成するとともに、ハウス内の温熱を効果的にマットに取り込んで必要時に十分な保温性を維持でき、開閉時にマットの作動が手際よくできて操作性にもすぐれる農業用ハウスの保温システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、室内に滞留する温気体を、ブロワーを用いて二重フィルムからなる扁平状のマットの上部に取り込み、気体で膨隆状となったマットにより天井・側壁が遮蔽されて外側に温熱が逃げない農業用ハウスの保温システムであって、前記二重フィルムにおける外側が孔無しフィルムで内側が有孔フィルムであり、重ね合わせた両フィルムに多数の結付手段を備え、マット膨隆時に結付手段を施した個所が窪み部となることを特徴とする農業用ハウスの保温システムを主旨としている。
【0007】
前記ブロワーを天井側中央に取り付けて、マット上部から取り込んた気体を左右のマット下方へと送り込むことを特徴とする。
【0008】
ブロワーをハウス側壁に取り付け、吸込口を天井側に向けたダクトをブロワーに接続しブロワーから送気管を介して気体をマットに送り込むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
ブロワーによりマット上部に取り込まれた気体は室内に滞留した温熱を含み、温気体がマット左右の下方へと均等に送り込まれることで、マットが遮蔽物となってハウス内の温度が所定に維持でき、結果ハウス内の植物の育成に程よい環境が確保できる。就中二重フィルムからなるマットは多数の結付手段を備えた個所が膨隆時に窪み部となるので中央部のみが膨隆する形にはならず全体の膨らみが均一になる。そしてマットを開方向に操作してマット全体を収縮するときに窪み部が形成されていることでこの部分が折り目のような働きをして全体がアコーデオン状に折り畳まれるとともに有孔フィルムの小孔から空気が抜けて広がっていたマットがスムースに収縮する。また従来であると内部に溜まった水分により二枚のフィルム同士が密着して折り畳みに支障を生じるおそれがあるが、本発明では有孔フィルムに小孔があるため通気性機能が働いて水分が滞溜することがなく、二枚のフィルムが貼り付いて剥がれないといった問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明を実施したハウス1の概略を示したもので、天井2が山形状で左右側壁3・3により全体が左右均等に形成された建物であることは従来周知の温室構造であるから詳細については省略する。10は天井2と側壁3・3に沿って配置したマットであり、該マット10は農業用フィルムからなる後記の二重フィルム11a、11bで構成され周縁はヒートシールされて密閉状となっている。そして天井2側中央にブロワー20が取り付けられていて、該ブロワー20が吸い込んた温熱を含む気体(矢指)をマット10に送り込む仕組みである。マット10にはブロワー20と接続する空気注入口(不図示)等が形成されていて室内の気体を確実に導入できる。なおマット20は場合により天井2側だけに設置することもあるが、側壁側に設置する図のような場合はサブとしてのブロワー20′を設けることが好ましい。
【0011】
マット20は気体導入前は扁平形であるが、気体を取り込むことにより図示のように膨隆状となる。そして天井2と側壁3・3は内面側に配置されたマット10が遮蔽物となるので外側に温熱が逃げず、ハウス1内の温度は適温に保たれて室内の植物4の育成に程よい環境が維持される。
【0012】
図2は前記二重フィルム11a・11bの概略を示したもので、外側(天井2・左右側壁3・3寄り)が孔無しのフィルム11aであり、内側(室内側)に位置するものが無数の小孔12を形成した有孔のフィルム11bである。小孔12は直径が2mm程度で縦横方向に10cmほどの間隔で形成されている。
【0013】
図3(a)は重ね合わせた孔無しのフィルム11aと有孔のフィルム11bを結付手段13で連繋してマット10としたものであり、結付手段13は両フィルム11a・11bの縦横方向に50cm程度の間隔で設けられている。結付手段13は(b)のように合成樹脂製の針状体14の両端に掛止片15が形成され、この掛止片15が両フィルム11a・11bの各外面に貼着した合成樹脂の補強片16の外面に位置することで構成される。針状体14の長さは5cm程度、補強片16は厚みが0.5cm、直径が2cm程度のメタル形部材からなっている。上記(b)の扁平マット10に気体を送り込むと(c)のようにマット10は膨隆状となる。両フィルムは空気圧により膨らむが、結付手段13の個所は窪み部17が両面に形成される。窪み部17の厚み(縦間隔)は針状体14の長さに応じて決まるので、本実施形態では5cm弱になるとともに窪み部17相互の間隔は結付手段の間隔でもある50cmほどとなり、また窪み部17以外はマット10の膨隆時厚みは10cm程度となっている。
【0014】
図4はブロワー20をハウス1の側壁3側に取り付けた例を示す。ブロワー20は場合により図示のように天井2以外の個所に設けることも可能であり、この場合、吸込口を天井2側に向けて配置したダクト21をブロワー20に接続するとともに、ブロワー20とマット10間に送気管22を設け該送気管22からマット20に気体を送り込むようにすることができる。天井側に設けることが不具合な場合にこのようなブロワーの設置の仕方もできる。
【0015】
本発明によると、マット10はブロワー20によってハウス1の室内上部に溜まる温気体を確実に吸収するので外部への気体の流出を抑えて室内温度を保つことができる。その際有孔のフィルム11bからは少しく気体排出が行われるため下方に向け適度な温熱の発生が認められるもののその量はわずかなためブロワー20からマット10に送られる気体にはいささかも影響はなくマット10の膨隆状態に変化は生じない。マット10が冷えてもフィルムの片方は有孔のため空気流通がり、水分の滞留は避けられて二重フィルム11a・11bが近接しても水分によって両フィルムが密着して離間しがたいという事態も生じない。
【0016】
図5はマット10を開方向に折り畳んだ概略を示している。すなわちブロワー20の稼働を停止して送風を止めるとそれまで膨隆していたマット10は空気が抜けて平坦状となり、ハウス1内の所定位置に収縮状態とすることができる。マット10には窪み部16が存在してあるのでこの部分が屈曲個所となり、全体が恰もアコーデオンのように具合良く収縮するのでマット10は開閉いずれの動作もスムースになされる。
【0017】
上記実施形態では小孔12、窪み部17、マット10の膨隆時の厚みなどにつき具体的な数値を示したが、これらは一例であって任意な変更が可能であり、また結付手段13などの構成、ブロワー20の配置位置なども本発明の目的効果を奏する範囲における変更が可能であること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を実施したハウスの概略を示す説明図である。
【図2】二重フィルムを示す説明図である。
【図3】(a)はマットの外観、(b)は結付手段、(c)は膨隆時のマットを示す各説明図である。
【図4】ブロワーを側壁に取り付けた他の例を示す説明図である。
【図5】マットを開方向に収縮したハウスの概略を示す説明図である。
【図6】従来の二重フィルムマットを示す説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ハウス
2 天井
3 側壁
10 マット
11a孔無しのフィルム
11b有孔のフィルム
13 結付手段
17 窪み部
20 ブロワー
20′ブロワー
21 ダクト
22 送気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内に滞留する温気体を、ブロワーを用いて二重フィルムからなる扁平状のマットの上部に取り込み、気体で膨隆状となったマットにより天井・側壁が遮蔽されて外側に温熱が逃げない農業用ハウスの保温システムであって、前記二重フィルムにおける外側が孔無しフィルムで内側が有孔フィルムであり、重ね合わせた両フィルムに多数の結付手段を備え、マット膨隆時に結付手段を施した個所が窪み部となることを特徴とする農業用ハウスの保温システム。
【請求項2】
前記ブロワーを天井側中央に取り付けて、マット上部から取り込んだ気体を左右のマット下方へと送り込むことを特徴とする請求項1記載の農業用ハウスの保温システム。
【請求項3】
ブロワーをハウス側壁に取り付け、吸込口を天井側に向けたダクトをブロワーに接続しブロワーから送気管を介して気体をマットに送り込むことを特徴とする請求項1記載の農業用ハウスの保温システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate