説明

農業用フィルム

【課題】 ハウス栽培や、トンネル栽培などの内張り又は外張り用に用いられる、防曇性及び防滴性に優れた農業用フィルムを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を含む両最外層及び親水性樹脂を含む中間層とを含む多層構成の基体フィルムと、その少なくとも片面の最表面に親水性塗膜層とを有する積層フィルムであって、該積層フィルムが棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする農業用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス栽培や、トンネル栽培などに用いられる農業用フィルム、特に好ましくは水滴ボタ落ち防止性及び防曇性、透湿性に優れた内張り用農業用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より農作物を促成栽培する方法として、塩化ビニル系樹脂フィルムやオレフィン系樹脂フィルムなどの農業用フィルム被覆下、植物を栽培する、いわゆるハウス栽培やトンネル栽培が盛んに行われている。
【0003】
このようなハウス栽培、トンネル栽培等において、ハウス又はトンネル内の温度、湿度等は作物の成長に大きな影響を与えるため、気候に応じた調整が必要である。
【0004】
特に近年大型化したハウス栽培では、ハウス骨組みに固定展張する外張り用農業フィルムのほかに、ハウス内に、いわゆるカーテン材として、又は作物を更に被覆する形のベタがけ材として、内張り用農業フィルムを用いる方法が行われてきている。
【0005】
特にこの内張り用農業フィルムにおいては、透湿性(通気性)が低いと、暖かい空気中の水蒸気がフィルム内にこもり、作物に多湿障害を与える恐れがある。また、水蒸気はフィルム内面に付着して水滴を形成し、その結果フィルムの透明性が低下する。更に成長した水滴がボタ落ちし、植物障害を引き起こす現象も大きな課題であり、透湿性や防曇性と同等以上に水滴ボタ落ち性が必要とされている。
【0006】
従来、内張り用農業フィルムにおいて、通気性を有する農業用資材としては、不織布が使用されている。しかしながら不織布は通気性に優れる反面、白色の不透明な素材であって、光線透過率が低いという欠点があり、成長に際して日光照射を十分に必要とする作物に対しては、この素材を使用できないという問題があった。一方、吸水性の高いポリビニルアルコール系樹脂割布を用いたものも使われているが、透明性に劣り、乾湿繰り返し使用後、端部の湾曲や寸法収縮が起こり、その取り扱いに苦慮しているのが実情である。
【0007】
一方、合成樹脂フィルムからなる無孔フィルムに通気孔や通水孔を設けた農業フィルムもいくつか提案されている。たとえば特許文献1には、直径が1.5mm以下の通気孔を、通気孔の総面積がフィルム表面積の10〜60%となるよう設けた農業用フィルムが開示されている。また、特許文献2では、内張りカーテン上に外張り被覆材内面に凝縮した水滴が落下して水溜りを形成する、いわゆる金魚鉢現象を解消するために、水抜きの孔として、合成樹脂フィルムに直径1mm以上4mm以下の透孔を面積1m当たり少なくとも1個以上設けた内張りカーテン用の農業用有孔フィルムを開示している。そして、その孔空け方法の一つとして、針で孔をあけるニードルパンチング法も提案されている。
【0008】
しかしながら、従来の孔あけフィルムでは、防水及び保温性を図るためには孔の大きさを小さくする必要があるが、その反面十分な通気が行われないという欠点があり、通気性を確保するために通気孔の大きさを大きくすると、今度は防水防虫効果や、保温効果が低下するという矛盾した問題があった。
【0009】
【特許文献1】実開平5−74249号公報
【0010】
【特許文献2】実公平5−10598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかして、本発明の目的は、透明性を低下することなく、透湿性(通気性)、防曇性、水滴ボタ落ちしにくい所謂防滴付着性に優れた、寸法変化の無い、かつ保温性や防水防虫効果を有する農業用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、熱可塑性樹脂フィルムに、特殊な形状のニードルで孔空け加工を行った微細孔を複数有する有孔樹脂フィルムを用いると、透湿性、防曇性、防滴付着性に有効であることを見出した(特願2005−103837)。通常の栽培環境状況では、問題なく使用できるものの、栽培種に依っては多湿環境で使用せざるを得ないが、多湿状況によっては、当該微細有孔品においても部分的に水滴が生成成長し、ボタ落ちに至る場合がある。
そこで、更に、防滴付着性につき検討を行い、防滴付着性とフィルムの凝縮水付着量を検討した結果、凝縮水が流体膜(水膜)を形成せしめ、その流体膜厚を大にせしめることが防滴付着性に有効であることを見出した。即ち防滴付着性はフィルムの内部保水量と表面での水膜状態での凝縮水保水量の総量の多少で優劣の順位付けが可能であることを見出した。
即ち、撥水性表面では水滴核形成から水膜を形成することなく核成長が進みそのまま水滴となる。従って、水平部は勿論、傾斜部でも水滴となり滴落ちが生じる。
一方、親水性表面では、水滴核形成から、水滴成長する前に水膜形成が始まり、傾斜部では、滴落ちすることなく、水膜となって流下する。水平部では水膜厚みが増加し、最終的には水滴が形成される。水膜厚みが飽和する前に、水膜拡張し、流下すれば滴落ちは発生しない。地面からの水蒸気蒸散量が過大であれば、水膜流下より、水膜増加が大きくなり結果として滴落ちに至る。水膜厚みに関しては平坦な親水性表面に形成される凝縮水膜は40μm程度であるが、刺状突起を設けることで、突起高さに応じた毛管作用により水膜厚みが増加することを見出し、更に、基材フィルムの中間層に親水性樹脂層を設けることにより微細有孔部断面より吸水し、保水量を増加せしめることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明の要旨は、
(1)熱可塑性樹脂を含む両最外層及び親水性樹脂を含む中間層とを含む多層構成の基体フィルムと、その少なくとも片面の最表面に親水性塗膜層を有し、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする農業用積層フィルム、
(2)該微細孔の形状が棘部を有する有棘形状であることを特徴とする(1)記載の農業用積層フィルム、
(3)積層フィルムの一方の面の表面粗さRa1と、積層フィルムの親水性塗膜層側となる他方の面の表面粗さRa2が、Ra1<Ra2であり、Ra2の面が、ハウス又はトンネル展張時に地面に向う面となることを特徴とする(1)又は(2)記載の農業用積層フィルム、
(4)積層フィルムの両面側から、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする(1)又は(2)記載の農業用積層フィルム、
(5)積層フィルムの両面に微小突起を有することを特徴とする(4)記載の農業用積層フィルム、
(6)555nmにおける全光線透過率が70%以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1に記載の農業用積層フィルム。
(7)前記熱可塑性樹脂が、塩化ビニル系樹脂又はオレフィン系樹脂であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1に記載の農業用積層フィルム、及び
(8)親水性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であり、基体フィルムが三層以上の層を含む(1)〜(7)のいずれか1に記載の農業用積層フィルム、を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、透明性を低下することなく、透湿性(通気性)、防曇性、防滴付着性があり、かつ保温性や防水防虫効果を有する農業用フィルムを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の農業用フィルム(透湿性フィルム、防曇性フィルム)は、両最外層と中間層を含む多層構成の基体フィルムとその少なくとも片面の最表面に形成された親水性塗膜層を有する積層フィルムに微細な孔を複数設けた有孔樹脂フィルムである。
【0017】
基体フィルムの最外層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、フッ素樹脂及びこれらの組合わせなどの、従来農業用フィルム、透湿性フィルム、防曇性フィルムの材料として知られている任意の公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。好ましくは、軟質である、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系の単独重合体、α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体、α−オレフィンと共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等との共重合体などがあげられ、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は単独でも組合わせて使用することもできる。これらのうち、密度が0.910〜0.935の低密度ポリエチレンやエチレン−α−オレフィン共重合体および酢酸ビニル含有量が30重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体が、透明性や耐候性および価格の点から農業用フィルムとして好ましい。
【0019】
本発明の好ましい態様の一つとしては、強度を必要とする使用部位や、使用年数に応じて、微細な孔を複数設けても強度が高く維持される農業用フィルムが挙げられる。該強度が高い農業用フィルムとしては、熱可塑性樹脂の少なくとも一成分として、メタロセン系ポリエチレン樹脂、即ちメタロセン触媒で共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂を使用することが好ましい。これは、通常、メタロセンポリエチレンといわれているものであり、エチレンとブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテンなどのα−オレフィンとの共重合体であり、公知の製法により得られる。
【0020】
メタロセン系ポリエチレン樹脂としては、更に以下の物性を示すものを用いるのが好ましい。JIS−K7210により測定されたMFRが0.01〜10g/10分、好ましくは0.1〜5g/10分の値を示し、JIS−K7112により測定された密度が0.880〜0.930g/cm、好ましくは0.880〜0.920g/cmの値を示し、ゲルパーミュレーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.5〜3.5、好ましくは1.5〜3.0の値を示すメタロセン系ポリエチレン樹脂。
【0021】
本発明の多層構成の基体フィルムの中間層に含まれる親水性樹脂としてはポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては特に限定されず、公知のビニルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化して得られたものである。かかるビニルエステル系化合物としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニルプロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。重合度500〜1800、ケン価度80%以上のポリビニルアルコール系樹脂が好適に使用される。また、ポリビニルアルコール系樹脂を使用した場合の中間層の厚みは15μm〜50μmが望ましい。
また、ポリビニルアルコール系樹脂は他の樹脂とブレンドして使用することもでき、好ましくはポリオレフィン系樹脂とブレンドして使用される。ポリオレフィン系樹脂とのブレンド系樹脂としてはポリビニルアルコール樹脂10重量部〜80重量部、ポリオレフィン系樹脂90重量部〜20重量部が含有されてなるブレンド樹脂が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては上記ポリビニルアルコール系樹脂で、ポリオレフィン系樹脂としては直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体や上述のポリオレフィン系樹脂又はその単量体にアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸やそのエステルを共重合や付加反応、グラフト反応等により化学的に結合して得られたカルボキシル基を有する酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0022】
本発明の基体フィルムの両最外層及び/又は中間層には、添加剤を含有させてもよい。
【0023】
また、本発明における基体フィルムは、両最外層と中間層の他に別の層を有していてもよい。
【0024】
本発明における多層構成の基体フィルムは、予め最外層、中間層に相当するフィルムを単独に成型し、得られたフィルムをドライラミネート法により積層するか、共押し出し法又はインフレーション法により同時に多層構成のフィルムとして成形しても良い。層構成は、使用形態により適宜選択されるが、最外層は15μm〜100μm望ましくは25μm〜50μmで、中間層は15μm〜100μmの範囲から選択される。両最外層のポリオレフィン系樹脂層は、フィルムの平坦性から同一樹脂であることが望ましい。
【0025】
本発明における多層構成の基体フィルムの少なくとも片面の最表面には、親水性塗膜を形成することが必要である。ここで、親水性塗膜は、基体フィルムの最外層の上に直接形成させてもよく、また、最外層と親水性塗膜との間にバインダー塗膜等の別の層を形成させ当該層の上に形成させてもよい。また、基体フィルムの最外層の表面にコロナ処理、アンカーコート処理等の処理を施してから親水性塗膜を形成させてもよい。
親水性塗膜としては、特に制限はなく、市販の親水性塗料を使用しても良いが、耐用年数等を勘案すると、特公平6−47668の如き疎水性アクリル樹脂バインダーに親水性コロイダルシリカを分散せしめた塗膜が好適である。また、その他として、親水性アクリル樹脂塗料(ST−6400−F:三菱化学)も好適に使用することができる。
塗布方法はグラビアコート法、スプレーコート法等の通常のコート法によればよい。塗膜厚みは0.5μm〜5μm、特に0.7μm〜2μmが望ましい。
【0026】
また、本発明においては、あらかじめ基体フィルムに後述するニードルによる孔空け加工を施し、微細孔を有する基体フィルムにスプレーコート法等により親水性塗膜を形成させてもよい。この態様の非限定的な例として、微細孔を有する基体フィルムをハウスに展張後スプレー処理を施す場合が挙げられる。
【0027】
本発明を適用する農業用フィルムとしては、ハウス栽培又はトンネル栽培における内張り用又は外張り用フィルム、植物にそのまま被覆するベタがけフィルム、その他マルチフィルム等が挙げられるが、特に内張り用又は外張り用フィルムが好ましくあげられる。
【0028】
本発明は、前記多層構成の基体フィルムとその少なくとも片面の最表面に親水性塗膜層とを有する積層フィルムに特殊な微細孔が設けられていることを特徴とする。この特殊な微細孔は、具体的には、主に不織布や織物、人工皮革の風合い加工用として使用される機械であるニードルプリッカー加工法を応用した、特殊な針による穿孔法により得られるものである。
【0029】
具体的には、図1に概略図を示すように、ニードル(針)の外周部に1以上の微少な棘1cを有する特殊形状のニードル1を積層フィルムに突き刺すことにより得られる。
【0030】
図1は、ニードル1の拡大図であり、図1aは正面図、図1bは側面図を示す。ニードル1は、基部1aから先端部に向けて、尖っており、その先端部には微少幅(W)の切刃1bがある。この先端部の微少幅は、樹脂フィルムに形成される孔の基本部分の大きさに関係するため、好ましくは、10μm〜300μm、更に好ましくは30μm〜150μmであると良い。
【0031】
また、本発明に用いる特殊なニードル1は、先端近くのニードル外周の一部に、微少な棘1cを1以上、好ましくは2以上設けている。棘は、ニードルの軸に対し略直角の方向に突き出しており、棘の形状も基から先端に向けて尖った形をしていればよく、棘1cは、例えばニードルの先端部から300〜1000μmの位置に一つと、800〜2000μmの位置に設けられることが好ましい。棘1c自体の長さは、1μm〜300μmの範囲が好ましい。
【0032】
これらの棘を有するニードル1は、図2に示すように、好ましくはロール体2に複数取付けられたニードルロール2を形成し、平面上若しくは、他のロール体に巻きつけられた被加工用の積層フィルム(又は基体フィルム;以下、積層フィルムに孔空け加工を行う場合を説明するが、基体フィルムにも同様の方法で当該加工を施すことができる)3に対し、そのニードルロールを押付け回転することにより、複数の微細孔を積層フィルムに形成することが可能となる。なお、必要な微細孔の数や間隔に応じて、積層フィルム3に対して複数のニードルロールによる加工を行ったり、樹脂フィルムを複数回ニードルロールに押し当て加工する方法を採用してもよい。なお、本発明の好ましい態様の1つとしては、後述するように、積層フィルムに対して、両面側から孔空け加工を行う方法が、フィルムのカール性を軽減する上で好ましく挙げられる。この場合、両面加工は同時に行ってもよいが、通常、片方の面ごとに孔空け加工を行う方法の方が簡便である。
【0033】
図3はこのような特殊な形状のニードルにより、積層フィルムに設けられた個々の微細孔の形状の概略図を示すものである。微細孔の形状は、顕微鏡等の拡大手段により確認可能である。本発明のフィルムに形成された微細孔4の形状は、棘1cの存在により、通常のニードルにより形成される円形の孔形状ではなく、図3の概略図に示すように、略円形の基本孔4a周囲に微少の棘状切欠き部4bを1以上有する略星形のものとなる。該棘状切欠き部は1以上、好ましくは2以上形成され、使用したニードル1に設けられた棘1cの数と同じ又は棘1cの数以上となる場合が多い。
【0034】
理論に拘束されるつもりはないが、本発明の優れた防滴落ち効果や防曇効果は、(1)毛管長以下の微小間隙を有する多数の棘状切欠き部が連結して形成された形状を有する親水性表面の毛管作用により通常の平坦表面に比べて形成する水膜厚みが増大すること、(2)更に、中間層に親水性樹脂を使用することにより、微細孔を通しての水分吸収、移動、内部拡散する機能がより向上したことによるものと推定される。
【0035】
該微細孔の直径は、基本孔4aの最大直径が少なくとも500μm以下、好ましくは200μm以下、また最小直径が10μm以上、好ましくは20μm以上であることが好ましい。更に棘状切欠き部4bの長さは好ましくは50μm以下〜0.05μm以上、更に好ましくは20μm以下〜0.1μm以上であるとよい。
【0036】
図5には、本願発明の微細孔を複数設けたフィルムの概念図を示す。
【0037】
また、棘を有するニードルは、積層フィルムに突き刺し引き抜く際に、棘が切欠き部の周りの片を引っ掛けて、突き刺した方向へ棘状切欠き部4bの周りの切片4cを突き出す作用も有する。従って、本発明による特殊なニードル穿孔法により得られる微細孔を複数有するフィルムは、そのフィルム断面を見た場合に特殊な形状を有する。
【0038】
すなわち、本発明のフィルムに設けられた微細孔の横断面図の概略イメージ図を図4に示すが、樹脂フィルム3のうち、微細孔の棘状切欠き部4bの周囲の一部切片4cは、ニードル1を突き刺した方向に若干突出した形状を有する。
【0039】
その結果、本発明の微細孔を有するフィルムは、ニードルを突き刺した側のフィルム表面(図4中P)の表面粗さRa1が、反対側のフィルム表面(図4中Q)粗さRa2に比べて、Ra1<Ra2という関係を有する。この場合Ra1は、元のフィルムに由来する表面粗さに近い。また、表面粗さRa2は、フィルム厚さによっても異なるが、フィルム厚さ(Ha)に対し、ニードルを突き刺した方向へのフィルム表面の突出高さ(Hc)が、Hc/Ha=0.4〜2、好ましくは0.5〜1程度となる程度の表面粗さである。
【0040】
本発明の農業用フィルムを用いる際に、基本的にはこのフィルムのどちらの面を内側にして利用してもよいが、好ましい使用方法としては、防曇性を有する面側、又は多湿側に、表面粗さが粗い面(Ra2)を配すると好ましい効果が得られる。
【0041】
他方、本発明の農業用フィルムの他の好ましい態様としては、積層フィルムに対して、両面側から、ニードルの突き刺し加工を行った両面孔空け加工フィルムを用いることが挙げられる。両面側から孔空け加工を行うことにより、フィルムが一方方向に丸まってしまうカール性を低減することができる。また、両面からの孔空け加工は、同じ条件であってもよいし、異なる条件(孔の大きさ、密度)を採用してもよい。
【0042】
本発明の積層フィルムに設けられる複数の微細孔の単位面積当たりの数としては、設ける孔の面積にもより異なるが、好ましい防曇性及び透湿性を示しかつ他の物性を満たすために、1平方インチ(6.45cm)あたり800〜8000個(即ち、1cmあたり125〜1250個)の範囲、更に好ましくは1平方インチあたり1500〜6000個(1cmあたり230〜930個)設けることが好ましい。
【0043】
更に本発明の特殊な形状の微細孔を設けた熱可塑性樹脂フィルムは、農業用フィルムとして用いるために、更に透明性を有することが好ましい。具体的には、微細孔を複数有するフィルムの555nmにおける全光線透過率が70%以上、好ましくは75%以上であることが好ましい。この値は周知の測定法により測定することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の
例に限定されるものではない。
(1)積層フィルムの調製
【0045】
最外層として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE;品番:KF−270、メーカー:日本ポリエチレン)と低密度ポリエチレン(LDPE;品番:YF−30、メーカー:日本ポリエチレン)のブレンドペレットを使用してインフレーション成型法により50μm厚みのフィルムを作製した。得られたフィルム2枚を外側に配置し、25μm厚みのポリビニルアルコールフィルム(ボブロン#205、メーカー:日本合成化学)をその間に配置し、熱硬化型ポリウレタン系接着剤(主剤A−310/架橋剤A−3(メーカー:武田薬品工業)=9/1の比率で混合し酢酸エチルにより固形分濃度を25重量%に調整したもの)を用いて、溶剤乾燥後の接着剤塗膜厚みが3μmとなるように、ドライラミネート法(乾燥温度:75℃×1分、ラミネート温度:70℃、ラミネート圧力:2kg/cm)によりポリビニルアルコールフィルムが中間層となる3層構成の基体フィルム1を作製した。
当該多層フィルムの片面に親水性コロイダルシリカ含有アクリル系樹脂塗料(固形分濃度10重量%)をグラビアコート法により乾燥後の塗膜厚みが1μmとなるように塗布し、80℃×1分熱風乾燥することにより、表面に防曇処理を施した。このサンプルを積層フィルム1とした。
【0046】
酢酸ビニル含有量15%のエチレンー酢酸ビニル共重合体80部、ケン化度92モル%で平均重合度650のポリビニルアルコール25部、及び無水マレイン酸変性エチレンー酢酸ビニル共重合体10部をブレンドしたペレット樹脂を中間層、基体フィルム1作製時に使用したポリエチレン系ペレット樹脂が外層となるようインフレーション成型法により、三層フィルムを作製した。層比は1:3:1で総厚は100μmとした。当該フィルムを積層フィルム1と同様に防曇処理したものを積層フィルム2とした。
【0047】
(2)ニードル加工方法
上記積層フィルム1、2に対し、図2に示すようなロール上に複数付けられた図1に示す形状のニードルプリッカー針による穿孔法により1平方インチ当たり6190本の孔を形成せしめた。基体フィルム1に穿孔処理を施したサンプル(実施例1)、基体フィルム2に穿孔処理を施したサンプル(実施例2)を評価した。
比較例として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)ブレンドペレットをインフレーション成型法により100μmフィルムを作製し、片面に無滴塗膜層を形成したサンプル(比較例1)、無滴塗膜層を形成させず実施例1と同様に穿孔処理を施したサンプル(比較例2)、内張り用途として市販されている不織布スーパーラブシート(ユニチカ)、親水性樹脂割布ベルキュウスイ(鐘紡(株))を比較例3、4として評価した。
【0048】
(3)評価方法
得られた各フィルムについて、次のような評価試験を行った。その結果を表1に示す。
凝縮水保水量測定試験
恒温水槽に腐葉土と水を混ぜた状態で80℃に加温し、水蒸気を蒸散させ、上部に11cm角の窓に10cm角のサンプルを挿入し、サンプル下片面に蒸散水蒸気凝縮させ、水滴ボタ落ちした時点でのサンプルの保水重量(g/10cm)を測定した。
形状・寸法変化測定試験
凝縮水保水量試験前後のサンプルのMD,TD長さをノギスで測定し、変化率(%)(=(試験後のサンプル長−試験前のサンプル長)/(試験前のサンプル長))を算出した。
透明性試験
各サンプルの555ミリミクロンにおける全光線透過率を分光光度計(日立製作所U−2000型)によって測定した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかな通り、本発明の農業用積層フィルムは、基体フィルムに無滴塗膜層のみを形成させた場合(比較例1)及び基体フィルムに穿孔処理のみを施した場合(比較例2)に比較して凝縮水付着量が格段に高く、市販の不織布のレベルにあり、かつ全光線透過率も非常に高いレベルにある。従って、本願発明は、水滴ボタ落ち防止性及び防曇性、透湿性に優れた内張り用農業用フィルムを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1a】本発明の微細孔を形成するための棘状突起を有するニードルの正面図を示す図
【図1b】本発明の微細孔を形成するための棘状突起を有するニードルの側面図を示す図
【図2】本発明の微細孔を形成するためのニードルによるフィルム加工の概念図
【図3】本発明の熱可塑性樹脂フィルムに形成された微細孔の孔形状を示す概念図
【図4】本発明の熱可塑性樹脂フィルムに形成された微細孔の孔形状の横断面を示す概念図
【図5】本発明の、棘部を有する有棘形状の微細孔を複数有する熱可塑性樹脂フィルムを示す概念図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む両最外層及び親水性樹脂を含む中間層とを含む多層構成の基体フィルムと、その少なくとも片面の最表面に親水性塗膜層を有し、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする農業用積層フィルム。
【請求項2】
該微細孔の形状が棘部を有する有棘形状であることを特徴とする請求項1記載の農業用積層フィルム。
【請求項3】
積層フィルムの一方の面の表面粗さRa1と、積層フィルムの親水性塗膜層側となる他方の面の表面粗さRa2が、Ra1<Ra2であり、Ra2の面が、ハウス又はトンネル展張時に地面に向う面となることを特徴とする請求項1又は2記載の農業用積層フィルム。
【請求項4】
積層フィルムの両面側から、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする請求項1又は2記載の農業用積層フィルム。
【請求項5】
積層フィルムの両面に微小突起を有することを特徴とする請求項4記載の農業用積層フィルム。
【請求項6】
555nmにおける全光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の農業用積層フィルム。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、塩化ビニル系樹脂又はオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の農業用積層フィルム。
【請求項8】
親水性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であり、基体フィルムが三層以上の層を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の農業用積層フィルム。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−39056(P2009−39056A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208839(P2007−208839)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【Fターム(参考)】