説明

近赤外線遮蔽体及び近赤外線遮蔽構造体

【課題】
本発明は、無色で可視光線透過率と透明性が高く、太陽光線の中の熱線である近赤外線や、近赤外線レーザーなどの電磁波を効率よく遮蔽でき、さらに傷付き防止性を付与した近赤外線遮蔽体及びそれを用いた近赤外線遮蔽構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】
単位面積当たり、アンチモンドープ酸化錫を1.0〜3.5g/m、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を0.01〜0.1g/m含有してなる近赤外線遮蔽体としたことであり、近赤外線遮蔽体を塗工により形成したことであり)、表面に、傷防止層を設ける近赤外線遮蔽体としたことであり、近赤外線遮蔽体を基材上に設ける近赤外線遮蔽構造体としたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明であって近赤外線遮蔽性能に優れる近赤外線遮蔽体及びそれを用いた近赤外線遮蔽体構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の目は、可視光線といわれる400〜750nmの波長の電磁波を視認し、明るさや色として感知している。一方、着色物の退色や皮膚等の炎症等を引き起こすと云われる200〜400nmの波長の電磁波である紫外線や、赤外線通信や赤外線レーザーに使用されたり、太陽光線の中で熱線と言われる750〜2500nmの波長の電磁波である近赤外線は視認できない。
近年、人間の目には視認できない近赤外線領域の波長を使用した通信機器が増加していることにより、各装置から発せられる近赤外線が混信することによる装置の誤作動や、特定の建物内での通信データの他の建物内へ漏洩などの問題から、近赤外線を有功に遮蔽する技術が求められている。
また、一方では地球温暖化による、特に夏場の室内温度の上昇による住環境の悪化、それに伴う冷房エネルギーの増加による資源の枯渇が問題とされ、建物や乗物においては、室内の明るさを保つために可視光線は取り入れて、熱線と言われる近赤外線を遮蔽することで、暑さを軽減させるとともに、冷房費を削減する技術の向上、また、冷蔵、冷凍ショーケースなどにおいては、ショーケース内部を窓から視認でき、しかも内部の温度上昇を避けることで、商品のディスプレーを維持し、冷蔵(冷凍)エネルギーを削減できる技術の向上が望まれている。
【0003】
可視光線を透過し、近赤外線を遮蔽する技術としては、例えば、透明フィルム等基材の表面に、Al、Ag、Au等の金属薄膜をスパッタリングや蒸着により形成してなる近赤外線反射フィルム(特許文献1、特許文献2)が開示されている。しかしながら、上記金属のスパッタリング薄膜や蒸着膜は近赤外線とともに可視光線も反射するため透明性が良いとは言えず、また、テレビやラジオの電波まで反射するため電波障害を引き起こし、問題となっている。さらに製造コストも高いものであった。
【0004】
アミノ系化合物やフタロシアニン系化合物などの有機系の近赤外線吸収剤をコーティングして近赤外線吸収層を形成する方法(特許文献3、特許文献4)では、アミノ系化合物やフタロシアニン系化合物などの有機系の近赤外線吸収剤は耐候性が劣るため、長期間の使用で近赤外線遮蔽性能が著しく低下するという問題点や、フタロシアニン系化合物においては可視光線の波長領域に吸収を有するため組成物やフィルムが着色すると言う欠点があった。
【0005】
錫ドープ酸化インジウム(以下、ITOと略記)微粒子、またはアンチモンドープ酸化錫(以下、ATOと略記)微粒子等の半導体を透明フィルム等の基材の表面に塗布した近赤外線吸収フィルムを窓ガラスに貼着する方法(特許文献5)については、ITOの場合、希少金属であるインジウムの高騰によりITO微粒子の価格も高く材料コストが嵩む上に、近赤外線の中でも特に1300nm以上の電磁波しか吸収しないため、近赤外線遮蔽性能が十分とはいえない。ATO微粒子を塗布した近赤外線吸収フィルムについては、ITO微粒子よりコスト的に有利だが、近赤外線の中でも1500nm以上の電磁波しか吸収しないため、近赤外線遮蔽性能に劣るという欠点がある。
【0006】
また、ITOやATO等の半導体と有機系の近赤外線吸収剤を併用することで、広い波長領域の近赤外線を遮蔽する組成物やフィルムについても開示されている(特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9)。しかし、これらの文献に記載されている有機系の近赤外線吸収剤は耐候性が劣るため、長期間の使用で近赤外線遮蔽性能が著しく低下するという問題点や、有機系の近赤外線吸収剤の中には可視光線の波長領域に吸収を有するため組成物やフィルムが着色すると言う欠点があった。
【0007】
一方、非特許文献1には、耐熱性、耐候性の優れたペリレン系化合物やクァテリレン系化合物が近赤外線の波長域に吸収を有することが示され、特許文献10〜15等にはペリレン系化合物やクァテリレン系化合物の製造方法並びに、これらペリレン系化合物やクァテリレン系化合物を近赤外線吸収剤として使用することが開示されているが、これら化合物は近赤外線の中でも比較的可視光線に近い波長領域のみに吸収を有するため、太陽光線のような広い波長領域の近赤外線を遮蔽することが不可能なこと、さらには、遮蔽性能を高めるために配合量を多くした場合に組成物やフィルムが着色すると言う問題点がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭57−59748
【特許文献2】特開昭57−59749
【特許文献3】特開平4−160037
【特許文献4】特開平10−077360
【特許文献5】特開平8−281860
【特許文献6】特開平7−100996
【特許文献7】特開平9−310031
【特許文献8】特表2004−526840号
【特許文献9】特開平9−316363
【特許文献10】特表2004−533422号
【特許文献11】特表2004−518805号
【特許文献12】特表2004−518738号
【特許文献13】特表平11−502546号
【特許文献14】特表平11−502545号
【特許文献15】特開平06−263994号
【0009】
【非特許文献1】J.ファビアン(Fabian)、H.ナカズミ(Nakazumi)、H.マツオカ(Matsuoka)、ケム・レブ(Chem.Rev.)、92、p.1197(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、無色で可視光線透過率と透明性が高く、太陽光線の中の熱線である近赤外線や、近赤外線レーザーなどの電磁波を効率よく遮蔽でき、さらに傷付き防止性を付与した近赤外線遮蔽体及びそれを用いた近赤外線遮蔽構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は、単位面積当たり、アンチモンドープ酸化錫を1.0〜3.5g/m、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を0.01〜0.1g/m含有してなる近赤外線遮蔽体としたことであり(請求項1)、近赤外線遮蔽体を塗工により形成したことであり(請求項2)、表面に、傷防止層を設ける近赤外線遮蔽体としたことであり(請求項3)、近赤外線遮蔽体を基材上に設ける近赤外線遮蔽構造体としたことである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、近赤外線遮蔽体中のアンチモンドープ酸化錫含有量を1.0〜3.5g/mとし、近赤外線遮蔽体中の770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物含有量を0.01〜0.1g/mとすることにより、透明性を損なうことなく、無色で高い近赤外線遮蔽性能を有する近赤外線遮蔽体を得ることができる。また、近赤外線遮蔽体を塗工により形成することにより、アンチモンドープ酸化錫及び770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物の良好な分散、凝集防止の効果が得られ、近赤外線遮蔽体の形成が容易となり経済的にも有利となる。さらに、表面に傷防止層を設けることで、近赤外線遮蔽体の長期に亘る近赤外線遮蔽性能の維持及び傷付き防止が図れる。さらに、近赤外線遮蔽体をガラス、プラスチックフィルム基材上に設けることで装置や建物の窓等に容易に施工可能な近赤外線遮蔽構造体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。
本発明は、近赤外線遮蔽体が所定量のアンチモンドープ酸化錫(以下、ATO)およびペリレン系化合物を含有してなることを特徴としている。
【0014】
本発明で使用するATOは、酸化アンチモンをドープした酸化錫で、酸化錫と酸化アンチモンとの重量比が95:5〜50:50の範囲のものである。なお、この酸化錫と酸化アンチモンとの固溶体は、導電性を有する導電性酸化錫となる。
ATOは例えば特開昭58−117228号公報、特開平6−262717号公報、特開平2−105875公報等に記載された公知の方法によって製造することができる。
【0015】
次にペリレン系化合物について述べる。本発明で言うペリレン系化合物とは、一般にペリレン−3,4:9,10−テトラカルボン酸ジイミドのN,N’置換体、または、ペリレン、テリレン、クァテリレン、ペンタリレン、ヘキサリレン骨格を有するテトラカルボン酸ジイミド誘導体のことであり、これらの化合物は耐熱性が300℃以上と高く、可視域および近赤外域に極大吸収波長を有している化合物である。
ただ、本発明で使用するペリレン系化合物は、極大吸収波長が770〜1500nmである必要がある。好ましくは極大吸収波長が780〜1500nmである。極大吸収波長が770nm未満である場合には、着色が著しいことに加え、透明性も劣り、ATOと組み合わせて高い近赤外線遮蔽性能を有する近赤外線遮蔽体を得ることができない。また、極大吸収波長が1500nmを超える場合にも同様に、ATOと組み合わせて高い近赤外線遮蔽性能を有する近赤外線遮蔽体を得ることができない。
【0016】
極大吸収波長を770〜1500nmに有するペリレン系化合物の具体例として、例えば、特表2004−533422号、特表2004−518805号、特表2004−518738号、特表平11−502546号、特表平11−502545号、特開平06−263994号等に製造方法が開示されている化合物を挙げることができる。
これらの極大吸収波長を770〜1500nmに有するペリレン系化合物は単独もしくは混合して使用することが可能である。
【0017】
本発明によれば、ATOを単位面積あたり1.0〜3.5g/mにし、且つ770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を単位面積当たり0.01〜0.1g/mにすることにより、無色で、透明であり、可視光線の透過率が高く、近赤外線の遮蔽性能に優れた近赤外線遮蔽体を得ることができる。
ATOの単位面積当たりの含有量が1.0g/m未満または、3.5g/mを超えた場合には、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物をいかなる量でATOと組み合わせても、ATO若しくは770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物をそれぞれ単独で用いた時の近赤外線遮蔽能と同等以上の性能は得られない。また、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物の単位面積当たりの含有量が0.01g/m未満の場合には、ATOをいかなる量で770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物と組み合わせても、同様にATO若しくは770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物をそれぞれ単独で用いた時の近赤外線遮蔽能と同等以上の性能は得られず、0.1g/mを超えた場合には、ATOをいかなる量で770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物と組み合わせても、ATO若しくは770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物をそれぞれ単独で用いた時の近赤外線遮蔽能と同等以上の性能は得られない上に、近赤外線遮蔽体の着色が著しいと言う問題が生じる。
近赤外遮蔽体の色相を、より無色とするためには、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物の含有量を0.01〜0.05g/mとすることがより好ましい。
【0018】
上記ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を用いて、透明で且つ、可視光透過率が高く、近赤外線遮蔽性能に優れた近赤外線遮蔽体とするためには、ATO並びに極大吸収波長が770〜1500nmに有しているペリレン系化合物を超微粒子化若しくは溶解する必要がある。
超微粒子化する方法としては、ジェットミル、ロールミル、ボールミル、ハンマーミル、ジョークラッシャー、インパクトミル、ウイレーミル、ポットミル、グラインドミル、ディスクミル、ホモナイザー、超音波分散機、ペイントシェイカー、ビーズミルなどの、乾式及び湿式の粉砕方法を挙げることができる。さらに、得られた微粒子を篩や風力などの分級装置によって分級し、目的とする粒子径のATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を得ることもできる。
【0019】
また、熱可塑性樹脂にATOや770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を所定量配合して、ニーダや押出機等の混練装置を用いて剪断を加えることにより、熱可塑性樹脂中に微粒子化されたATOや770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を分散させることもできる。
ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物の粒子径としては、0.5μm以下、好ましくは0.1μm以下である。粒子径が0.5μmを超えた場合には、近赤外線遮蔽性能には影響されないが、近赤外線遮蔽体の透明性や可視光線透過率が悪化する恐れがある。
【0020】
770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物については、前述の方法で超微粒子化する以外に、有機溶剤に溶解させて使用することもできる。有機溶剤としては、極大吸収波長が770〜1500nmに有しているペリレン系化合物の溶解度が高いものが好ましく、たとえば、クロロホルム、塩化メチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジオキソラン等の単独または混合溶媒を挙げることができる。
【0021】
ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を所定量含有する近赤外線遮蔽体は、ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を合成樹脂に配合して成形体とする方法や、ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を含有する塗料を塗工する方法が挙げられる。
ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を合成樹脂に配合して成形体とする場合の合成樹脂には熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂があり、熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、エチレンおよび/またはプロピレンとα−オレフィンとの共重合樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合樹脂、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体との共重合樹脂、スチレン−オレフィンブロック共重合樹脂(SBS:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合樹脂、SIS:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合樹脂など)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエステル、熱可塑性エラストマー(スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等)、ブチルゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリル−スチレンゴム等の合成ゴムや天然ゴムおよびその水素添加物等、ポリ塩化ビニル系樹脂[ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル共重合体(塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体等)]、塩素化ポリエチレン、エチレン−塩化ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン、プロピレン−塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられ、これらを1種単独でも2種以上を組み合わせても使用できる。
熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらを1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。
【0022】
ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を含有する塗料を塗工することにより近赤外線遮蔽体が得られる。上記塗料の塗工の場合、通常は基材に塗工して近赤外線遮蔽構造体として使用することが多いが、もちろん、近赤外線遮蔽体単体としても使用できる。上記塗料から近赤外線遮蔽体単体を得るには何らかのベースに上記塗料を塗工してベースから剥離すればよい。
本発明で用いられる基材には特に制限がなく、ガラス、セラミックス、金属、プラスチックなどを挙げることができる。この中で、ガラスや他のプラスチック基材に貼り付けて使用する用途においては、運搬や施工の容易さから基材としてプラスチックフィルムを用いることが好ましい。
プラスチックフィルム基材としては特に制限はなく、様々な透明プラスチックフィルムの中から、用途、機能など状況に応じて用いることができる。具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、エチレン/ビニルアルコール樹脂等のプラスチックフィルムを使用することができ、好ましくは耐熱性や強度、施工性の点からポリエステル樹脂、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。これらプラスチックフィルム基材の厚みは10〜250μmのものが用いられ、用途に応じて着色を施してもよい。
【0023】
ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を含有する塗料を塗工する場合には、事前にATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を含有する塗料を作製し、それを塗工する方法が挙げられる。
上記塗料に用いるバインダー樹脂としては、透明性や可視光透過率が損なわれない限り、特に制限は無いが、耐候性および透明性の点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ウレタン、エポキシ樹脂等が好ましい。
また、基材としてポリエステル樹脂を使用する場合には、基材との良好な密着性から、塗料中のバインダー樹脂成分についてもポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
塗料の調製に用いられる溶媒としては、ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物およびバインダー樹脂を溶解または分散し得るものであればよく、例えば水、メタノール、エタノール、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジオキソラン等の単独または混合溶媒を挙げることができる。
【0024】
上記塗料を使用し近赤外線遮蔽体となる塗膜の形成方法は、ハケ塗り、スプレー塗装、ディップコート、ロール塗装、スピンコート、バーコート、スクリーン印刷等が挙げられる。
塗工の際にはATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を含有する塗料をそれぞれ調製し、単位面積当たりに所定量となるようATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物の塗料を個別に塗工する方法が挙げられる。また、本発明に用いられるペリレン系化合物は化学的安定性が高いことからATO等の無機粒子存在下でも変質しないため、予めATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物が所定の比率で配合された塗料を調製し、これを塗工する方法も取ることができる。
【0025】
本発明の近赤外線遮蔽体の上に、傷防止層を形成させるか、又は、傷防止層を形成するための塗料中にATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を含有させることで、耐傷性に優れた近赤外線遮蔽構造体を得ることができる。
【0026】
傷防止層は、ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物からなる近赤外線遮蔽体の長期間に亘る近赤外線遮蔽性能の維持および、傷付き防止目的で設けられ、膜硬度の高い皮膜で形成される。
【0027】
傷防止層としては、例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルムや二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリルフィルムなどの硬質のフィルムを積層する方法や、アクリル、ウレタン、シリコン、アクリル/シリコン、アクリル/ウレタン等の熱、紫外線や電子線または空気中の湿気等で硬化し、硬度の高い膜を形成する塗料を塗布する方法等が挙げられる。
この内、得られる塗膜の表面硬度の点から熱、紫外線や電子線または空気中の湿気等で硬化し、硬度の高い膜を形成する塗料を塗布する方法が好ましく、さらに、耐摩耗性、密着性、硬化した際の収縮性等から、中でもアクリル/シリコン系塗料が好ましい。アクリル/シリコン系塗料の中でも、耐傷付き防止の点から、重合性不飽和基を有する有機化合物を結合させた反応性シリカ粒子を有する紫外線硬化型有機無機ハイブリッド塗料を用いるのが特に好ましい。
【0028】
傷防止層の厚さは、用いる傷防止層の材質や、近赤外線遮蔽体、近赤外線遮蔽構造体の用途等に応じて適宜選択できるが、長期間に亘って使用した際の遮熱性能の低下を防止するため、1〜100μm程度が好ましい。
紫外線や電子線または空気中の湿気等で硬化する塗料で傷防止層を形成する方法としては、例えば、ハケ塗り、スプレー塗装、ディップコート、ロール塗装、スピンコート、バーコート、スクリーン印刷等により塗料を塗布した後、熱や紫外線、電子線などで乾燥若しくは硬化させる方法が挙げられる。
【0029】
本発明の近赤外線遮蔽体の片面或いは、近赤外線遮蔽構造体の基材の裏面(ATO並びに770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物からなる近赤外線遮蔽体が形成されている面と反対の面)に粘着層及び離型基材を設けることで、ガラスや他のプラスチック基材に貼り付けて使用する用途において、近赤外線遮蔽体、近赤外線遮蔽構造体を容易に施工できるようになる。
【0030】
粘着層は透明樹脂製粘着剤を用いて形成でき、例えば、アクリル、ポリビニルエーテル、ポリイソブチル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール等の樹脂等が挙げられる。粘着層の厚さは、5〜100μm程度である。
離型基材としてはフィルムまたは紙等のベース上にフッ素またはシリコン等を塗布した離型基材を挙げることができる。離型基材は、ガラスや他のプラスチック基材に貼り付ける場合に剥離して使用する。
【0031】
また、本発明の近赤外線遮蔽体、近赤外線遮蔽構造体においては、紫外線の遮蔽性能付与や、基材や近赤外線遮蔽体等の劣化防止の目的で、紫外線吸収剤を含有させることもできる。紫外線吸収剤は、近赤外線遮蔽体、近赤外線遮蔽構造体に紫外線が照射される面側のできるだけ最外面層に含有させることが好ましく、すなわち、傷防止層側から紫外線が照射される場合には傷防止層に、粘着層側から紫外線が照射される場合には粘着層が好ましい。紫外線透過率を5%以下とすることが好ましく、1%以下とすることが更に好ましい。
【0032】
紫外線吸収剤としては、[酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等]の無機系紫外線吸収剤、[フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等]のサリチル酸系、[2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等]のベンゾフェノン系、[2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]のベンゾトリアゾール系、[2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等]のシアノアクリレート系の有機系紫外線吸収剤を用いることができる。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
<塗料Aの調製>
攪拌器を備えた容器に、ポリエステル樹脂バイロン280(東洋紡績(株)製)9.0gをシクロヘキサノン16.7gおよびメチルエチルケトン24.3g中に溶解し、その溶液中に撹拌しながら平均粒径0.1μm以下に微分散されたアンチモンドープ酸化錫(ATO)を30.5重量%含むメチルエチルケトン溶液50g(石原産業(株)製SNS−10M)を少量ずつ添加し均質な固形分濃度24.3重量%の塗料Aを調整した。
【0035】
<塗料Bの調製>
ペリレン系化合物a(BASFジャパン(株)製Lumogen IR−788:極大吸収波長788nm)0.5gをトルエン13.5gおよびメチルエチルケトン77.0g中に溶解させ、その溶液中にアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製アクリル樹脂ダイヤナールBR−80(ガラス転移点 105℃))9.0gを溶解させ、固形分濃度9.5重量%の塗料Bを調整した。
【0036】
<塗料Cの調製>
ペリレン系化合物b(BASFジャパン(株)製Lumogen IR−765:極大吸収波長765nm)0.5gをトルエン13.5gおよびメチルエチルケトン77.0g中に溶解させ、その溶液中にアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製アクリル樹脂ダイヤナールBR−80(ガラス転移点 105℃))9.0gを溶解させ、固形分濃度9.5重量%の塗料Cを調整した。
【0037】
<実施例1>
厚さ50μmの透明ポリエステルフィルム(東洋紡績(株)製、コスモシャインA−4300)に単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が1.8g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して乾燥し、可視光透過率が83%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.02g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表1に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は以下の方法で評価した。
【0038】
[可視光透過率の評価]
紫外・可視・近赤外分光光度計(日本分光(株)製VR−570)を使用し、JIS R3160に準拠して測定し、本規格記載の重価係数を用いて可視光透過率を求めた。
[日射遮蔽率の評価]
紫外・可視・近赤外分光光度計(日本分光(株)製VR−570)を使用し、JIS R3160に準拠して測定し、本規格記載の重価係数を用いて日射反射率及び日射吸収率を求めた。求めた日射反射率及び日射吸収率の値を用いて、下式により日射遮蔽率を算出した。
日射遮蔽率=日射反射率+日射吸収率
[ヘイズの評価]
直読ヘイズコンピューター(スガ試験機(株)製HGM−2D)を使用し、JIS K7105に準拠して測定した。
[PETフィルムとの色差の評価]
カラーコンピューター(スガ試験機(株)製SM−4)を使用し、PETフィルム(東洋紡績(株)製、コスモシャインA−4300)及び、作製したフィルムのL*、a*、b*を透過法にて測定し、その値の差から色差(ΔE)を求めた(測定方法はJIS Z8730に準拠)。
【0039】
<比較例1>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに塗料Aのみを塗工して乾燥させ、可視光透過率が83%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時の単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量は3.4g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表1に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0040】
<比較例2>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに塗料Bのみを塗工して乾燥させ、可視線透過率が83%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時の単位面積当たりのペリレン系化合物aの含有量は0.12g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表1に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0041】
<比較例3>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が1.8g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Cを塗工して乾燥し、可視光透過率が83%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物bの単位面積当たりの含有量は0.01g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表1に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0042】
<比較例4>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が0.8g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Cを塗工して乾燥し、可視光透過率が83%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物bの単位面積当たりの含有量は0.06g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表1に示す。なお、なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0043】
<実施例2>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が1.2g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して乾燥し、可視光透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.09g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0044】
<実施例3>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が1.6g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して乾燥し、可視光透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.07g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0045】
<実施例4>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が2.2g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して乾燥し、可視光透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.05g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0046】
<実施例5>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が2.5g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して乾燥し、可視光透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.03g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0047】
<実施例6>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が3.3g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して乾燥し、可視光透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.02g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0048】
<比較例5>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに塗料Aのみを塗工して乾燥させ、可視光透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時の単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量は5.0g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率は及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0049】
<比較例6>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに塗料Bのみを塗工して乾燥させ、可視光線透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時の単位面積当たりのペリレン系化合物aの含有量は0.16g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0050】
<比較例7>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が2.2g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Cを塗工して乾燥し、可視光線透過率が80%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物bの単位面積当たりの含有量は0.02g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0051】
<実施例7>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が2.5g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗工して、可視光透過率が76%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.08g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表3に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0052】
<比較例8>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに塗料Aのみを塗工して乾燥させ、可視光透過率が76%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時の単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量は7.0g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表3に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0053】
<比較例9>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに塗料Bのみを塗工して乾燥させ、可視光線透過率が76%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時の単位面積当たりのペリレン系化合物aの含有量は0.22g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表3に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0054】
<比較例10>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が2.5g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Cを塗工して乾燥し、可視光線透過率76%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物bの単位面積当たりの含有量は0.04g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表3に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0055】
<比較例11>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルム)に単位面積当たりのアンチモンドープ酸化錫の含有量が5.0g/mになるように塗料Aを塗工して乾燥させ、さらにその上から塗料Bを塗布して乾燥し、可視光透過率が76%の近赤外線遮蔽構造体を作製した。この時のペリレン系化合物aの単位面積当たりの含有量は0.05g/mであった。作製した近赤外線遮蔽構造体の日射遮蔽率及びヘイズの測定結果を表2に示す。なお、可視光透過率、日射遮蔽率、ヘイズ及びPETフィルムとの色差は実施例1と同様の方法で評価した。
【0056】
<実施例8>
実施例4で作製した近赤外線遮蔽構造体にアクリル/ウレタン系紫外線硬化型ハードコート塗料(十条ケミカル(株)製TPH−24)を単位面積当たりの塗布量が10g/mになるように塗工し、乾燥させた。続いて、高圧水銀灯により1.0mJ/cmの紫外線を照射して塗膜を硬化させ、近赤外線遮蔽構造体の上に傷防止層を形成した。傷防止層の硬化後の厚みは4.8μmであった。
形成した傷防止層面の耐傷性を評価した結果を表4に示す。なお、耐傷性の指標とした鉛筆硬度及びテーバー摩耗試験前後でのヘイズの変化(Δヘイズ)は以下の方法で評価した。
【0057】
[鉛筆硬度の評価]
JIS K 5400に従い、鉛筆引っかき試験機を用いて、上記試験片の鉛筆硬度を測定した。
[テーバー摩耗試験の前後でのヘイズの変化(Δヘイズ)の評価]
テーバー摩耗試験機を用いて、上記試験片のテーバー試験(摩耗輪CS−17、荷重500g、50回転)前後のヘイズ値を測定し、ヘイズの変化(Δヘイズ)を算出した。
【0058】
<実施例9>
実施例4で作製した近赤外線遮蔽構造体に、アクリル/ウレタン系紫外線硬化型ハードコート塗料の代わりに有機無機ハイブリッド型紫外線硬化型ハードコート塗料(JSR(株)製Z−7501)を用いた以外は、実施例8と同様に近赤外線遮蔽構造体の上に傷防止層を形成し、実施例8と同様の方法で評価した。評価結果を表4に示す。なお、傷防止層の硬化後の厚みは4.8μmであった。
【0059】
<参考例1>
実施例4で作製した近赤外線遮蔽構造体を用いて、実施例8と同様の方法で評価を行った。評価結果を参考例として表4に示す。
【0060】
<参考例2>
実施例1と同じ透明ポリエステルフィルムに、下記の塗料Gを塗料中の顔料が単位面積当たり0.06g/mになるように塗工して乾燥させた。次いで、実施例8と同様な方法でアクリル/ウレタン系紫外線硬化型ハードコート塗料を単位面積当たりの塗布量が10g/mになるように塗布し、乾燥させた後、高圧水銀灯により1.0mJ/cmの紫外線を照射して塗膜を硬化させた。作製した傷防止層の硬化後の厚みは4.8μmであった。作製した近赤外線遮蔽構造体は、紫外線を照射する前後で著しく変色したため、傷防止層面の耐傷性の評価は行わなかった。
【0061】
<塗料Gの調製>
ジイモニウム系化合物(日本カーリット(株)製CIR−1085:極大吸収波長1080nm)0.5gをトルエン13.5gおよびメチルエチルケトン77.0g中に溶解させ、その溶液中にアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製アクリル樹脂ダイヤナールBR−80(ガラス転移点 105℃))9.0gを溶解させ、固形分濃度9.5重量%の塗料Gを調整した。
【0062】
<実施例10>
アクリル系粘着剤(綜研化学(株)製SKダイン1328F)100gにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(綜研化学(株)製TU−50)を15g添加してディスパーを用いて混合後、これを厚さ25μmのシリコン系離型フィルム(東洋紡績(株)製シリコンコートフィルムE7006)にウエット状態の厚みが25μmになるように塗布して乾燥させ、粘着層/離型基材からなるフィルムを作製した。
続いて、実施例8で作製した近赤外線遮蔽構造体(実施例4作成の近赤外線遮蔽構造体を使用)の傷防止層と逆の面に、粘着層が透明ポリエステルフィルムの面と接するようにラミネートすることによって、傷防止層/近赤外線遮蔽体/基材/粘着層/離型基材からなる近赤外線遮蔽構造体を作製し、実施例1と同様の方法で可視光透過率、日射遮蔽率及びヘイズを測定した。
次に、作製した傷防止層/近赤外線遮蔽体/基材/粘着層/離型基材からなる近赤外線遮蔽構造体を、フェードメータ(スガ試験機製 UA48AU)を用いて1000時間暴露し、曝露後の可視光透過率、日射遮蔽率及びヘイズを実施例1と同様の方法で評価した。さらに、曝露後の近赤外線遮蔽構造体のテーバー摩耗試験の前後でのヘイズの変化(Δヘイズ)の評価を実施例7と同様の方法で行なった。結果を表5に示す。
【0063】
<実施例11>
実施例9作製の近赤外線遮蔽構造体を使用すること以外は、実施例10と同様の方法で傷防止層/近赤外線遮蔽体/基材/粘着層/離型基材からなる近赤外線遮蔽構造体を作製し、実施例10と同様に評価した。評価結果を表5に示す。
【0064】
<実施例12>
実施例10で作製した傷防止層/近赤外線遮蔽体/基材/粘着層/離型基材からなる近赤外線遮蔽構造体から離型基材を剥がし、厚さ3mmのガラスに貼り付け、実施例1と同様の方法で可視光透過率、日射遮蔽率を評価し、カラーコンピューター(スガ試験機(株)製SM−4)を使用して、透過法にてL*、a*、b*を測定した。
次いで、ガラスに貼り付けた試験体を、サンシャインウエザーメーター(スガ試験機(株)製WEL−SUN−HC−B)を用いて2000時間曝露(曝露方法はJIS A5759に準拠)し、曝露後のガラスに貼り付けた試験体の可視光透過率、日射遮蔽率及び、L*、a*、b*を測定した。評価結果を表6に示す。なお、表6に示した耐候試験前後での色差はJIS Z8730に準拠して求めた。
【0065】
<実施例13>
実施例11で作製した傷防止層/近赤外線遮蔽体/基材/粘着層/離型基材からなる近赤外線遮蔽構造体から離型基材を剥がし、厚さ3mmのガラスに貼り付け、実施例12と同様の方法で評価した。評価結果を表6に示す。








【0066】
【表1】

【0067】
【表2】



【0068】
【表3】


【0069】
【表4】






【0070】
【表5】


【0071】
【表6】







【0072】
以上の実施例、比較例から明らかなように、アンチモンドープ酸化錫と770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を、それぞれ特定の範囲で単位面積当たりに含有させることによって、透明性が高く、着色が少なく、高い近赤外線遮蔽性能を有する構造体を得ることができる。アンチモンドープ酸化錫のみや、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物のみ、または、アンチモンドープ酸化錫と770〜1500nmに極大吸収波長を有しないペリレン系化合物の組み合わせでは、透明性が高く、着色が少なく、高い近赤外線遮蔽性能を有する構造体は得られないこと、さらに、アンチモンドープ酸化錫と組み合わせる770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物の量を0.01〜0.05g/mとすることで、着色がさらに低減された構造体となることがわかる。
一方、比較例4、11のように、アンチモンドープ酸化錫もしくは770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を単位面積当たりに特定の範囲を超えて含有させた場合には近赤外線遮蔽性能の劣り、着色のある構造体となることがわかる。
また、比較例3、7、10のように、アンチモンドープ酸化錫と770〜1500nmに極大吸収波長を有しないペリレン系化合物を用いた場合にも、着色があり、近赤外線遮蔽性能の劣る構造体となるばかりか、透明性に劣ることがわかる。
【0073】
実施例8、9と参考例1の比較から明らかなように、近赤外線遮蔽体の上に傷防止層を付与することで耐傷性の優れた近赤外遮蔽構造体を得ることができ、中でも実施例9のように、有機無機ハイブリッド型紫外線硬化型ハードコート塗料を傷防止層に用いることで、耐傷性が著しく向上された近赤外線遮蔽構造体になることがわかる。
【0074】
さらに、実施例10〜13から明らかなように本発明の近赤外線遮蔽体若しくは近赤外線遮蔽構造体は、促進曝露前後での可視光透過率、日射遮蔽率、色相、耐傷性の変化が小さく、耐候性、耐久性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の近赤外線遮蔽体及び近赤外線遮蔽構造体は、無色で、可視光線透過率と透明性が高く、近赤外線を効率よく遮蔽できることから、装置や建物の窓などに用い、近赤外線レーザーや無線通信用などの近赤外線電磁派の遮蔽用途や、太陽光線の中の熱線である近赤外線を遮蔽する用途などに広く利用することができる。















【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位面積当たり、アンチモンドープ酸化錫を1.0〜3.5g/m、770〜1500nmに極大吸収波長を有するペリレン系化合物を0.01〜0.1g/m含有してなること特徴とする近赤外線遮蔽体。
【請求項2】
塗工により形成することを特徴とする請求項1に記載の近赤外線遮蔽体。
【請求項3】
表面に、傷防止層を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線遮蔽体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽体を基材上に設けることを特徴とする近赤外線遮蔽構造体。

【公開番号】特開2008−40041(P2008−40041A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212837(P2006−212837)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】