説明

近赤外線遮蔽剤及びそれを含む樹脂組成物

【課題】近赤外線遮蔽能に優れ、しかも隠ペイ性にも優れ、顔料としても用いることができる白色系の近赤外線遮蔽剤を提供すること。
【解決手段】単一粒子の平均長軸径が1.5〜6μmの範囲にあり、平均短軸径が0.2〜0.8μmの範囲にある棒状二酸化チタンを有効成分として含有する近赤外線遮蔽剤である。上記の棒状二酸化チタンは、棒状二酸化チタン核晶の存在下で液相中で加水分解性チタン化合物を加水分解し加水分解生成物を得た後、アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤の存在下で加水分解生成物を900〜1200℃の範囲の温度で加熱焼成することで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状二酸化チタンを有効成分として含有する近赤外線遮蔽剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化等の環境面から、また資源の有効利用の面からも、省エネルギー、特に消費電力の削減が強く求められている。日本では、夏季の冷房機、冷却機、冷凍機等の使用が、消費電力を増大させる要因となっている。このため、建造物の外壁を近赤外線遮蔽剤を含む塗料で塗装することで太陽光に含まれる近赤外線(熱線)の吸収を抑え、建造物内の温度上昇を抑制する技術が提案されている。このような近赤外線遮蔽剤として、近赤外線反射性及び/又は透過性色素で白色顔料を被覆・着色した近赤外線反射性複合顔料(特許文献1参照)が知られている。また、近赤外線遮蔽能に優れた白色顔料としては、平均粒子径が0.4〜1.5μmの大粒子径二酸化チタン(非特許文献1参照)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−249676号公報(第2頁)
【非特許文献1】山本健司、“近赤外線遮蔽用酸化チタンの開発”、コンバーテック、加工技術研究協会、2004年7月、No.376 P95−97
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1記載の二酸化チタンは、近赤外線を反射するのに適した上記範囲の平均粒子径に設定されているため、近赤外線遮蔽能に優れたものである。しかしながら、可視光域の反射率は通常の顔料級酸化チタン(平均粒子径が0.2〜0.4μm)と較べると低く、そのため高い隠ペイ性を要求される用途に用いるには困難である。本発明は、近赤外線遮蔽能に優れ、しかも隠ペイ性にも優れ、顔料としても用いることができる白色系の近赤外線遮蔽剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化チタン粒子の形状を特定の範囲の平均長軸径と平均短軸径とを有する棒状とすることで、近赤外線遮蔽能と隠ペイ性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、単一粒子の平均長軸径が1.5〜6μmの範囲にあり、平均短軸径が0.2〜0.8μmの範囲にある棒状二酸化チタンを有効成分として含有する近赤外線遮蔽剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の近赤外線遮蔽剤は、優れた近赤外線遮蔽能と隠ペイ性とを有しており、これを配合した樹脂組成物は、近赤外線遮蔽材料として、近赤外線からの基材の保護、あるいは構造物内の温度上昇の抑制等の用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、近赤外線遮蔽剤であって、単一粒子の平均長軸径が1.5〜6μmの範囲にあり、平均短軸径が0.2〜0.8μmの範囲にある棒状二酸化チタンを有効成分として含有することを特徴とする。棒状二酸化チタンにおいて、近赤外線遮蔽能は長軸径の、可視光の散乱は短軸径の影響を強く受けていると推測される。このため、本発明では、棒状二酸化チタンの長軸径を近赤外線遮蔽能に最適の前記範囲に、短軸径を可視光の散乱にとって最適の前記範囲とすることで、近赤外線遮蔽能と隠ペイ性とを高いレベルで両立させている。より好ましい平均長軸径の範囲は、1.5〜4μmであり、平均短軸径の範囲は0.2〜0.5である。特に、軸比が3〜15の範囲にあるものが、近赤外線遮蔽能と隠ペイ性とのバランスが優れているので好ましく、5〜10の範囲がより好ましい。
【0009】
本発明で用いる棒状二酸化チタンの結晶形には特に制限はなく、ルチル型、アナターゼ型のいずれを用いることもできる。しかし、ルチル型は長波長の光の反射率が高く、また、樹脂組成物用として耐候性、耐光性に優れているので好ましい。
【0010】
棒状二酸化チタンの表面には、公知の無機化合物または有機化合物の被覆層を有していてもよく、あるいはそれらを組合せて被覆してもよい。一般的に、無機化合物の被覆には生産性や耐候性を向上させる効果が、有機化合物の被覆には樹脂成分との親和性を向上させる効果が知られている。無機化合物の被覆量は、用途によって異なるが、塗料組成物に用いる場合は0.1〜10重量%、プラスチックス組成物の場合は0.05〜5重量%の範囲が好ましい。有機化合物の好ましい被覆量は、通常、0.01〜5重量%の範囲であり、更に好ましい範囲は0.05〜2重量%である。
【0011】
表面被覆に用いることのできる無機化合物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の酸化物、水酸化物、水和酸化物、リン酸塩が挙げられ、これらを1種被覆することも、2種以上の被覆を積層したり、2種以上の無機化合物を混合して被覆する等して、組み合せて用いることもできる。無機化合物の被覆層は、多孔層であっても、緻密層であってもよく、特に制限されない。
【0012】
表面被覆に用いることのできる有機化合物としては、多価アルコール、アルカノールアミンまたはその誘導体、有機ケイ素化合物、高級脂肪酸またはその金属塩、有機金属化合物等が挙げられる。具体的には、例えば、(1)多価アルコールとしては、トリメチロールエタン、トリプロパノールエタン、ペンタエリスリトール等が、(2)アルカノールアミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等が、誘導体としてはそれらの有機酸塩等が、(3)有機ケイ素化合物としては、(a)ポリシロキサン類(ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等)、(b)オルガノシラン類(アルキルシラン、フェニルシラン等の非反応性シラン類、及び、アミノシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等のシランカップリング剤等)等が、(4)高級脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリン酸等が、それらの金属塩としてはマグネシウム塩、亜鉛塩等が、(5)有機金属化合物としては、チタニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは1種被覆することも、2種以上を組合せて被覆することもできる。
【0013】
次に、本発明は、棒状二酸化チタンの製造方法であって、棒状二酸化チタン核晶の存在下で液相中で加水分解性チタン化合物を加水分解し加水分解生成物を得た後、アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤の存在下で加水分解生成物を900〜1200℃の範囲の温度で加熱焼成することを特徴とする。本発明の棒状二酸化チタンは、公知の方法、例えば、特公平6−24977号公報に開示される棒状二酸化チタン核晶の存在下、チタン源、アルカリ金属塩、オキシリン化合物の混合物を加熱焼成する方法によっても得ることができる。しかし、特公平6−24977号公報に記載の方法では長軸が短軸に比べて成長し易く、短軸を大きくすると、長軸が更に大きくなるので、近赤外線遮蔽用に求められる棒状粒子が得られ難い。一方、本発明の方法では、長軸が短軸に比べて成長し難く、このため、単一粒子の平均長軸径が1.5〜6μmの範囲にあり、平均短軸径が0.2〜0.8μmの範囲にある所望の棒状粒子が、特に、軸比が3〜15の範囲に、好ましくは5〜10の範囲にあるものが得られ易いので好ましい。前記加水分解生成物は、加水分解性チタン化合物の加水分解により生成した含水酸化チタン(または水酸化チタン)が、該核晶の表面に沈着したものと考えられる。
【0014】
先ず、加水分解性チタン化合物の溶液に棒状二酸化チタン核晶を添加するか、棒状二酸化チタン核晶のスラリー中に加水分解性チタン化合物の溶液を添加する等した後、液相中で加水分解性チタン化合物を加水分解し、加水分解生成物を生成させる。加水分解には、加熱加水分解、中和加水分解等を用いることができるが、中和剤を要さないので、工業的には加熱加水分解が好ましい。加熱加水分解は、50℃以上の温度で行うと加水分解が進み易いので好ましく、80℃以上であれば更に好ましい。加熱加水分解の温度には特に上限は無いが、100℃未満の温度であれば、常圧下で加水分解を行うことができるので好ましい。中和加水分解は、pHを5.5〜9の範囲とすると加水分解が進み易いので好ましく、6〜8の範囲とするのがより好ましい。中和剤には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム化合物等を用いることができる。
【0015】
用いる棒状二酸化チタン核晶は、目的とする近赤外線遮蔽剤に用いる棒状二酸化チタンの長軸径、短軸径に応じてそれぞれの大きさを選択する。棒状二酸化チタン核晶の短軸径は目標より小さいものを選択するが、本発明の製造方法では、加熱焼成後に長軸に収縮が認められるので、該核晶の長軸径は目標より若干大きくてもよい。例えば、核晶として単一粒子の平均長軸径が1〜10μmの範囲にあり、平均短軸径が0.05〜0.6μmの範囲にあり、好ましくは軸比が8〜25の範囲にあるものの中から適宜選択することができる。棒状二酸化チタン核晶を得るには、公知の方法、例えば、チタン源、アルカリ金属塩、オキシリン化合物の混合物を加熱焼成する方法を用いることができる。あるいは、市販の棒状二酸化チタン、例えば、FTL−100、FTL−200、FTL−300(何れも石原産業(株)製)等を用いることもできる。棒状二酸化チタン核晶は、加水分解性チタン化合物に対し0.5〜30重量%の範囲で用いると、所望の棒状粒子が得られ易いので好ましく、1〜15重量%の範囲がより好ましい。
【0016】
加水分解性チタン化合物としては、例えば、硫酸チタニル(TiOSO)、四塩化チタン、チタンアルコキシド等を用いることができ、コストの点で硫酸チタニル、四塩化チタンを用いるのが好ましい。硫酸チタニルは、例えば、所謂硫酸法と呼ばれる二酸化チタン顔料の製造工程において、イルミナイト鉱、チタンスラグ等のチタン含有鉱石を、硫酸で溶解させながらチタン成分と硫酸とを反応させることで得られる。また、四塩化チタンは、所謂塩素法の工程において、コークス等の還元剤の存在下、チタン含有鉱石と塩素ガスとを1000℃程度の温度下で反応させることで得られる。
【0017】
アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤は、加熱焼成時に二酸化チタンの棒状化を促進する作用を有する。アルカリ金属化合物としてはナトリウム化合物、カリウム化合物、リチウム化合物等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができ、中でもナトリウム化合物とカリウム化合物を併用すると、棒状化促進の効果が高く好ましい。ナトリウム化合物としては水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を、カリウム化合物としては水酸化カリウム、塩化カリウム等を、リチウム化合物としては水酸化リチウム、塩化リチウム等を用いることができる。その使用量は、加水分解生成物に含まれるTiOに換算した総チタン量に対し、それぞれ、NaO換算で0.1〜1.5重量%の範囲、KO換算で0.1〜1.5重量%の範囲、LiO換算で0.1〜1.5重量%の範囲が好ましい。より好ましい範囲は、NaO換算で0.1〜1重量%、KO換算で0.2〜1.2重量%、LiO換算で0.2〜1.2重量%の範囲である。
【0018】
ルチル型の棒状二酸化チタンを製造するには、好ましくは棒状二酸化チタン核晶としてルチル型の結晶構造を有するものを用い、更に、アルミニウム化合物及び/またはリン化合物が前記焼成処理剤に含まれていると、安定してルチル型結晶を生成させることができるので好ましい。アルミニウム化合物としては酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等が、リン化合物としてはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸及びそれらの塩等が挙げられる。アルミニウム化合物、リン化合物の使用量は、加水分解生成物に含まれるTiOに換算した総チタン量に対し、Al換算で0.1〜1.5重量%の範囲が、P換算で0.1〜1.5重量%の範囲が好ましく、Al換算で0.2〜1.2重量%の範囲が、P換算で0.2〜1.2重量%の範囲がより好ましい。また、ルチル型結晶を安定化させる化合物としては、アルミニウム化合物、リン化合物以外にも、例えば、マグネシウム化合物、亜鉛化合物等を用いることもできる。好ましい使用量は化合物によって異なるが、マグネシウム化合物であれば、前記のTiO換算値に対し、MgOとして0.005〜0.1重量%の範囲であり、より好ましい範囲は0.01〜0.05重量%である。マグネシウム化合物としては塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。
【0019】
加水分解生成物を、前記焼成処理剤の存在下で加熱焼成する方法には特に制限は無いが、加水分解生成物のスラリーに前記焼成処理剤を添加、混合すると、均一に混合できるので好ましい。スラリーにこれらの化合物を混合した後、必要に応じて脱水し、次の加熱焼成工程に供する。
【0020】
ルチル型の棒状二酸化チタンを得る場合には、より一層ルチル型結晶が安定化するので、加水分解生成物の加熱焼成を、更にルチル型微粒状核晶の存在下で行ってもよい。その方法としては、加水分解性チタン化合物の溶液に棒状二酸化チタン核晶に加えて、さらにルチル型微粒状核晶を添加して加水分解を行うか、または、加水分解生成物のスラリー中にルチル型微粒状核晶を添加、混合することで、加水分解生成物にルチル型微粒状核晶を含ませるのが好ましい。ルチル型微粒状核晶は、公知の方法、例えば、硫酸チタニルを炭酸ナトリウムで中和する方法、含水酸化チタンを水酸化ナトリウムと反応させた後、塩酸で処理する方法等で調製することができる。
【0021】
アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤の存在下で加水分解生成物を900〜1200℃の範囲の温度で加熱焼成して本発明の棒状二酸化チタンを得る。加熱焼成温度は前記範囲より低いと、粒子が所望の形状に棒状化せず、前記範囲より高くしても更なる効果は得られず、長期的には加熱焼成炉の耐久性を低下させることにもなるので、950〜1150℃で焼成するのが経済的でより好ましい。加熱焼成炉にはロータリーキルン、トンネルキルン等公知の機器を用いることができる。
【0022】
棒状二酸化チタンに無機化合物の被覆を行う場合は、得られた棒状粒子を水等の媒液に分散させスラリーにした後、好ましくは更に湿式粉砕した後、目的とする無機化合物の塩の溶液を添加し、酸性化合物または塩基性化合物を添加したり、無機化合物の塩と酸性化合物または塩基性化合物とを同時に添加する等して中和反応させて無機化合物を粒子表面に沈着させることにより行える。有機化合物の被覆は、通常、得られた棒状二酸化チタンを乾式粉砕後にヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速攪拌機を用いて有機化合物と混合して被覆したり、あるいは、乾式粉砕機中に棒状二酸化チタンと有機化合物を添加して、粉砕と混合・被覆処理を同時に行う、所謂乾式処理を適用する。オルガノシラン類のように、二酸化チタンの表面と反応し強く結合する有機化合物を被覆する場合は、湿式粉砕後あるいは無機化合物の被覆処理後のスラリーに、有機化合物を添加し被覆する、所謂湿式処理を適用することもできる。
【0023】
所定の棒状二酸化チタンが得られた後は、公知の方法により、湿式粉砕、脱水・洗浄、乾燥、乾式粉砕してもよい。湿式粉砕には縦型サンドミル、横型サンドミル等が、乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター等が、乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等の摩砕粉砕機、ジェットミル、スネイルミル等の気流粉砕機、噴霧乾燥機等の機器を用いることができる。
【0024】
更に、本発明は、前記近赤外線遮蔽剤と樹脂成分とを含むことを特徴とする樹脂組成物である。樹脂成分には、特に制限はなく、塗料、インキ、プラスチックス、紙等の公知の樹脂成分を適宜選択できる。本発明の樹脂組成物は、優れた隠ペイ性を有しているので、通常の塗料、インキ、プラスチックス、紙等の樹脂組成物と同様に適用することができる。同時に、優れた近赤外線遮蔽能を有しているので、例えば、本発明の塗料組成物、インキ組成物を塗布、または、本発明のプラスチックス組成物、紙組成物を貼付することで、基材の表面に保護膜を形成し、基材を近赤外線から保護することができる。あるいは、構造物の表面にこのような保護膜を形成したり、本発明のプラスチックス組成物を構造物の基材に用いる等して、構造物の内部温度の上昇を低減させることができる。樹脂組成物中の近赤外線遮蔽剤の配合量は、用途によって異なるが、例えば、塗料用樹脂組成物やインキ用樹脂組成物であれば、樹脂成分1重量部に対し近赤外線遮蔽剤0.5〜10重量部が、プラスチックス用樹脂組成物であれば、樹脂成分1重量部に対し近赤外線遮蔽剤0.05〜2重量部が好ましい。
【0025】
塗料用樹脂組成物であれば、用いる樹脂成分としては、例えば、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、フッ素系樹脂、変成シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられ、適宜選択できる。これらの塗料用樹脂成分は、有機溶剤溶解型、水溶型、エマルジョン型等特に制限は無く、硬化方式も加熱硬化型、常温硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型等制限は受けない。本発明の塗料用脂組成物には、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等の有機溶剤、水またはそれらの混合溶剤が、溶媒として含まれていてもよく、溶媒は樹脂成分との適性に応じて選択する。その他にも、目的に応じて有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、増量剤、界面活性剤、可塑剤、硬化助剤、ドライヤー、消泡剤、増粘剤、乳化剤、フロー調整剤、皮張り防止剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤、防カビ剤等の各種添加剤、充填剤等が含まれていてもよい。あるいは、硬化剤、硬化助剤、硬化性樹脂成分を別に硬化液とし、塗装時に塗料に混合して用いる二液性塗料とすることもできる。
【0026】
プラスチックス樹脂組成物に用いる樹脂成分としては、例えば、汎用プラスチックス、エンジニアリングプラスチックス等の熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂等を用いることができ、これらの1種を用いることも、2種以上をアーロイ化して用いることもできる。具体的には、汎用プラスチックスとしては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂等が、エンジニアリングプラスチックスとしては、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、フッ素樹脂等が、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。用途に応じて当業者に公知のガラス繊維等の補強材や、安定剤、分散剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤等の種々の添加剤を加えてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0028】
実施例1
(1)棒状二酸化チタン粒子の調製
硫酸チタニル溶液に、市販のルチル型棒状二酸化チタン(FTL−100:石原産業(株)製、平均長軸径1.68μm、平均短軸径0.13μm)を核晶として硫酸チタニルに対し5重量%添加、混合し、99℃の温度で4時間加熱して、硫酸チタニルを加水分解し加水分解生成物を生成させた。加水分解生成物に含まれるTiOに換算した総チタン量は、1000gであった。加水分解生成物のスラリーに前記の総チタン量に対し、Al換算で0.2重量%に相当する硫酸アルミニウム、NaO換算で0.5重量%に相当する炭酸ナトリウム、KO換算で0.5重量%に相当する水酸化カリウム、P換算で0.2重量%に相当するオルトリン酸を添加、混合し、脱水した。得られた脱水ケーキを、電気炉を用いて1050℃で加熱焼成して、ルチル型の棒状二酸化チタン粒子を得た。得られた棒状二酸化チタン粒子をTiO濃度が300g/リットルの水性スラリーとし、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを11.0として分散させた後、サンドミルで粉砕し、篩(目開き45μm)で分級を行った。
【0029】
(2)表面被覆
分級後のスラリー1000ミリリットルの温度を60℃に保持し、攪拌下で、硫酸を添加してpHを9に調整した後、アルミン酸ナトリウム水溶液(Alとして300g/リットル)20ミリリットルを硫酸でpHを8〜9に調整しながら20分間かけて添加した。次いで、pHを7に調整してから30分間熟成し、Alとして2重量%の酸化アルミニウム水和物を被覆した。その後、吸引濾過器で濾過、水洗し、120℃で20時間乾燥してから、ジェットミルで粉砕して本発明の近赤外線遮蔽剤を得た。(試料A)
【0030】
比較例1
TiOとして1000gに相当する含水酸化チタンに、含水酸化チタン中のTiOに対し、Al換算で0.05重量%に相当する硫酸アルミニウム、NaO換算で0.2重量%に相当する炭酸ナトリウム、KO換算で0.15重量%に相当する水酸化カリウム、P換算で0.2重量%に相当するオルトリン酸を添加し、電気炉を用いて1100℃で加熱焼成し、ルチル型二酸化チタンの球状粒子を得た。湿式粉砕、表面被覆、分級、固液分離、洗浄、乾燥、乾式粉砕は実施例1と同様に行って比較試料を得た。(試料B)
【0031】
比較例2
市販の顔料級ルチル型二酸化チタン(CR−50:石原産業(株)製)を、比較例2とする。(試料C)
【0032】
評価1:平均粒子径の評価
実施例1及び比較例1、2で得られた試料(A〜C)について、パーティクルアナライザー(カール・ツァイス社製)を用いて、平均長軸径、平均短軸径、軸比及び平均粒子径を電子顕微鏡法により測定した。尚、平均長軸径、平均短軸径は、酸化チタンの一次粒子1個について長軸径、短軸径から円柱相当体積を算出し、それら約1000個分の50%累積値から算出したものである。また、軸比とは、平均長軸径/平均短軸径を意味する。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
評価2:隠ペイ性の評価
実施例1及び比較例1、2で得られた試料(A〜C)を用い、表2に示す処方1の各成分とガラスビーズ80gとを容量225ccのガラス製容器に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)を用いて20分間分散して分散液を調整した後、表3に示す処方2にて、樹脂成分1重量部に対し二酸化チタン顔料1重量部、固形分体積濃度46%の塗料とした。次いで、#30バーコーターを用いて白黒チャート紙上に塗布し、110℃で40分間焼きつけ、塗膜化した。白黒チャート紙上に塗布した塗膜の黒地上の反射率(Y値)、白地上の反射率(Y値)を、カラーコンピューター(SM−7型:スガ試験機製)を用いて計測した。隠蔽率(C値)は、下式1に従って算出した。結果を表4に示す。C値の高いものが隠ペイ性に優れている。本発明の近赤外線遮蔽剤は、従来の顔料級二酸化チタンとほぼ同等の隠ペイ性を有している。
式1:隠蔽率(C)=(Y/Y)×100(%)
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
評価3:近赤外線遮蔽能の評価
評価2で用いた実施例1、比較例1、2の塗料を、#60バーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、110℃で40分間焼きつけ、塗膜化した。塗膜の反射率を、分光光度計(V−570型:日本分光(株)製)を用いて波長が500〜2000nmの範囲で測定した。結果を表5に示す。本発明の近赤外線遮蔽剤は、近赤外域(波長が800〜3000nmの範囲)での反射率が高く、優れた近赤外線遮蔽能を有していることが判る。また、参考までに、前記の塗料をキシレンとn−ブタノールの混合溶剤(重量比4:1)で希釈して、固形分体積濃度を21.2%とし、#30バーコーターで塗布し、同様に塗膜化した後、この塗膜の反射率を、分光光度計で波長が500〜2500nmの範囲で測定した。結果を表6に示す。本発明の近赤外線遮蔽剤は、近赤外域での透過率が低いことからも、優れた近赤外線遮蔽能を有していることが判る。
【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、近赤外線遮蔽剤として有用である。また、本発明の製造方法で得られる棒状二酸化チタンは、触媒、補強材、導電材の基体等としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】試料Aの粒子形状を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】試料Bの粒子形状を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一粒子の平均長軸径が1.5〜6μmの範囲に、平均短軸径が0.2〜0.8μmの範囲にある棒状二酸化チタンを有効成分として含有する近赤外線遮蔽剤。
【請求項2】
棒状二酸化チタンの平均軸比が3〜15の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の近赤外線遮蔽剤。
【請求項3】
棒状二酸化チタンの結晶形がルチル型であることを特徴とする請求項1記載の近赤外線遮蔽剤。
【請求項4】
棒状二酸化チタン核晶の存在下で、液相中で加水分解性チタン化合物を加水分解し加水分解生成物を得た後、アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤の存在下で加水分解生成物を900〜1200℃の範囲の温度で加熱焼成することを特徴とする棒状二酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
加水分解性チタン化合物が硫酸チタニル、四塩化チタンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載の棒状二酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属化合物がナトリウム化合物及びカリウム化合物であることを特徴とする請求項4記載の棒状二酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
焼成処理剤として、さらにアルミニウム化合物及び/またはリン化合物を含むことを特徴とする請求項4記載の棒状二酸化チタンの製造方法。
【請求項8】
棒状二酸化チタン核晶の結晶形がルチル型であることを特徴とする請求項4記載の棒状二酸化チタンの製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の近紫外線遮蔽剤と樹脂成分とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂成分が塗料用樹脂またはプラスチックス樹脂であることを特徴とする請求項9記載の樹脂組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−126468(P2006−126468A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314133(P2004−314133)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】